■CALENDAR■
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30     
<<前月 2024年04月 次月>>
■NEW ENTRIES■
■CATEGORIES■
■ARCHIVES■
■OTHER■
左のCATEGORIES欄の該当部分をクリックすると、カテゴリー毎に、広津もと子の見解を見ることができます。また、ARCHIVESの見たい月をクリックすると、その月のカレンダーが一番上に出てきますので、その日付をクリックすると、見たい日の記録が出てきます。ただし、投稿のなかった日付は、クリックすることができないようになっています。

2022.1.2~9 2022年度の予算案・税制改正大綱・物価など (2022年1月10、14、15、16、24、25日に追加あり)
(1)2022年度予算案について


2021.12.24時事  2021.12.24中日新聞  2021.12.25日経新聞  2020.12.21時事

(図の説明:左3つの図のように、2022年度予算案107兆5,964億円の34.3%は国債発行で賄われており、税収で賄われているのは60.6%で、税外収入も5.1%しかない。しかし、1番右の図のように、2021年度予算案も106兆6,097億もある)


 2020.6.10日経新聞  2021.12.26日経新聞       人口動態の推移

(図の説明:1番左の図のように、地方自治体の歳入も、地方税で賄われているのは40.2%で、地方交付税《19.1%》、国庫補助金《14.7%》などとして33.8%を国に依存しており、税外収入は少ない。その結果、中央の図のように、日本の債務比率は世界でも群を抜いて高くなっているため、このようなことが起こる原因究明と解決が最も重要なのである。なお、右図のように、ある年の出生数はその年の年末にはわかるものなので、少子高齢化は突然の出来事ではなく、人口動態はずっと前からわかっていたことだ)

 政府は、2021年12月24日、一般会計総額が過去最大の107兆5964億円となる2022年度予算案を決定した。

 このうち社会保障費は、36兆2735億円で最大ではあるが、契約に基づいて国民から社会保険料を徴収し、サービスの提供時に国が支払うものであるため、*1-1のように、社会保障費を国債の「元本返済分+支払利子」である国債費と合計し、「固定費」と考えること自体が会計の基礎的な考え方を全く理解していない。

 社会保障費は、人口の多い団塊の世代の医療費が膨らむ頃に支出が自然増しても、契約に従って支払っている限り予測可能だったのであり、支出規模が大きいからといって勝手に減らすことは契約違反であると同時に、それを生活の糧としている人々の生活を脅かす。ただ、社会保障費も細かく見れば、子ども医療費の無償化(無償はよくない)などの無駄遣いもあるが、生産年齢人口へのバラマキ的な補助金こそ、かえって産業を衰退させ無駄遣いにもなるのである。

 なお、「新型コロナ禍対策で積み上がった債務の返済」と記載されているものも、私がこれまで指摘してきたとおり、必要なことはせずに不必要なことばかりして無駄遣いが多すぎ、全体として全く納得できないものになっている。

 それらの結果として、2022年度末の建設国債と赤字国債などの残高合計は1026.5兆円、償還と利払いに充てる国債費は24兆3393億円になる見通しで、*1-2に書かれているように、日本の政府債務は2021年にGDP比256.9%と比較可能な187カ国で最大となり、続く2位以下には209.9%のスーダンなどの発展途上国が並び、現在の日本の状況は、戦費の調達などで財政が悪化した第2次世界大戦当時並みなのだそうだ。

 なお、消費税の価格転嫁やインフレ目標は、実質賃金(2025年、20~64歳の生産年齢人口は全体の54%)や実質年金(2025年、65歳以上の高齢者は全体の30%)を密かに下げる手段になっているため、消費は喚起されるわけがなく、このようなことを30年以上も続けてきた結果、「経済成長」とは程遠い環境になった。そのため、この失政の責任を誰がとるのかは、最も重要なポイントである。 

 そのような地域で、異次元の金融緩和をしたり、分配政策として賃上げ税制を盛り込んだりしても、消費(企業から見れば「売上」)は乏しく、地代・賃金・光熱費などのコスト(企業から見れば「原価」)は高いため、投資後に回収可能な企業は少なくなり、余剰資金があっても国内で投資せずに海外で投資することになる。そして、これが、日本における産業空洞化の原因だ。

 なお、先端技術開発や国際競争力の強化など成長戦略に充てる予算は必要だが、日本で最初に始めたため補助金などとっくにいらなくなっている筈の再エネやEV技術も、未だに「世界に周回遅れ」などと言っている始末だ。そのため、こういうことが起こった理由を徹底的に追及し、それを無くさなければ、同じことを何度も繰り返すことになる。

 私は、日本政府が賢い支出の割合を増やし、財政健全化を達成するためには、世界で導入されている公会計制度を導入し、資産・負債・純資産・収支を正確に把握して、お手盛りにならないように外部監査人の監査を受け、国会議員や国民に速やかに開示して議論する「Plan Do Check Action」のシステムを作る必要があると考えている。

(2)2022年度税制改正大綱について

  
  2021.12.11    2021.12.11          財務省
  西日本新聞     毎日新聞

(図の説明:左図は、2022年度税制改正の主な項目で、中央の図は、賃上げ税制強化のイメージだ。しかし、右図のように、国の歳出は歳入を大きく上まわり、差額が国債残高純増となっているのである)


     E plan       2019.11.2Eco Jornal     2019.7.26毎日新聞

(図の説明:左図は、主な炭素税導入国の制度概要で日本も2012年に導入されているが、税率が低い。中央の図は、主要国の実効炭素価格《炭素排出費用》で日本は低い方だ。右図は、現行の地球温暖化対策税で、CO₂排出1tあたり289円が原油・ガス・石炭にかかっている)

1)賃上げ企業への優遇税制について
 自民・公明両党は、2021年12月10日、*2-1のように、岸田首相が掲げる分配政策として賃上げ企業への優遇税制の拡充を柱とする2022年度の与党税制改正大綱を決めた。

 その内容は、①2022年度から大企業は4%以上の賃上げ等の実施で最大30%、中小は2.5%以上の賃上げ等で最大40%まで控除率を引き上げる ②給与総額の計算方法も大企業は前年度から継続して雇う人の給与総額から判断し、中小は新規雇用者の分も含める とのことである。

 民間税調は、*2-2のように、③赤字法人が6割あるため賃上げ税制だけでは不十分 ④産業別労組が団体交渉してその産業で働く労働者の最低労働価格を決めるのが解決への道 ⑤その賃金を払えない企業が低価格で商品・サービスを販売することを不可能にし、それなりの高価格での商品・サービスを消費者に受け入れさせるべき ⑥企業の内部留保が増えるのは賃下げも一因 ⑦日本は企業の内部留保に課税しない 等としている。

 しかし、①②については、賃金を上げればその分は損金算入(無税)できるので、それ以上に税額控除するのは至れり尽くせりすぎると思う。また、③の赤字法人は、賃上げすれば倒産するような企業であるため、雇用を失うか、低賃金で働くかの選択になっているのである。

 さらに、④⑤については、そういう産業があってもよいが、原価と販売単価が上がれば、当然のことながら、それだけ消費が減ることを考慮しておくべきである。なお、⑥⑦のように、内部留保を目の敵にする記述が多いが、どういう意味の内部留保かによって企業にとっての必要性が異なるため、「内部留保は吐き出すことがよいことだ」という論調に、私は与しない。

 それより重要なことは、日本の賃金上昇を妨げている一番の要因である終身雇用の原則をやめることである。日本で中途退社した人は、あたかも、イ)同僚より能力がなかった ロ)同僚より忍耐が足りなかった 等々として、同じ会社に勤め続けた人よりも不利な給与体系に置かれたり、負け組のような言われ方をしたりするから、転職できないのである。そのため、労働市場でそのようなことを徹底してなくすことが、労働移動を容易にするKeyになるのだ。 

2)金融所得への課税強化について
 株式の配当・売買益にかかる金融所得課税について、与党税制改正大綱は、*2-1のように、現行の金融所得の税率20%を引き上げることを念頭に「税負担の公平性を確保する観点から、課税のあり方について検討する必要がある」と記載しつつ見送り、将来の実施時期も明示しなかったそうだ。

 私も、金融所得は総合課税されず税率も低いため、国民間では不公平・不公正だと思うが、外国もそうである以上、国際間で揃えておかなければ日本国内への投資が減るため、「一般投資家が投資しやすい環境を損なわないよう配慮する」としたのは理解できる。

 その理由は、これから著しく経済成長する国で投資の回収率が高ければ、税率が高くても投資が行われるが、そうではない国の税率が高ければ、最も他国へ逃げ易いのが投資(=金融資産)だからである。

3)住宅ローン減税について
 住宅ローン減税は2025年まで4年間延長する一方、*2-1のように、ローン残高に応じて所得税・住民税を差し引く割合を1%から0.7%に縮小し、ローンの借入限度額は新築・省エネ性能に優れた住宅を優遇するそうだ。

 しかし、省エネ性能に優れた住宅を優遇するのはよいが、人口が減少し始めて空き家が目立つ時代に、新築住宅を優遇し続けて優良農地を際限なく住宅地にしていくのは時代錯誤だと考える。それよりも、街の再生をしたり、空き家を改築したりした人に税制優遇した方がよいのではないか?

4)環境税について
 上の下の段の図のように、日本も2012年に地球温暖化対策税として、CO₂排出1tあたり289円の炭素税が原油・ガス・石炭にかかっているが、主要国の実効炭素価格《炭素を排出する費用》と比べると、税率が低い。

 私は、これを世界でヨーロッパに合わせて環境税として徴収し、世界の森林・田園・藻場の維持・管理費用に充てるのがよいと考える。その理由は、そうすることによって国間の不公平をなくし、同時に、地球温暖化対策の財源にすることができるからである。

(3)日本の所得格差について

 
                 2021.10.16日経新聞   

(図の説明:左図のように、日本の年収水準だけが上がっていない。また、中央の図のように、米英は所得の偏在が大きく、日本は小さい。さらに、2010年代に日本の所得格差は縮小しており、みんなで貧しくなって平等に近づいた感があるが、これでいいのだろうか? そのため、何故、こうなったのかについての正確な原因分析が必要である)

 自民党総裁選で、*3-1のように、金融所得への課税強化が焦点の一つになり、推進派は格差是正の狙いを訴え、慎重派は株式市場への影響を懸念したそうだ。(2)の2)に書いたとおり、不平等の解消効果はあっても、金融資金の海外逃避による株価の下落は明らかである。

 また、「貯蓄から投資へ」という声もよく聞くが、金融資産は高収益と安全性が対立するため、安全性を保ちつつ収益性を高めるには、分散投資するのが普通だ。また、為替差損益を含めた安全性が高く、利率も高い国の金融資産を選ぶことにもなるため、国内の安定性や公平性だけを見て政策を決めていると、日本経済に金融面からも打撃を与えることになる。

 なお、社会における収入格差の程度を計測するための指標であるジニ係数は、*3-2のように、日本は2010年に0.336で、社会が不安定化する恐れがあると言われる0.4以下だが、2020~2021年に新型コロナで経済を停止したため、2021年末時点では0.4を超えているかもしれない。しかし、日本のデータは2010年が最新だそうで、このように、日本はデータの迅速性・正確性が乏しく、データに基づく政策形成ができていないことも重要な問題なのである。

(4)補助金を減らして税収・税外収入を増やす方法

  
                        農水省          農水省

(図の説明:1番左の図のように、輸入農産物を国内生産するには、現在の2.5倍の耕地面積が必要と言われているが、左から2番目の図のように、耕作放棄地が耕作地と同じくらいの面積に達している。耕作放棄されるのは、その土地で農業を続けても収入が低いからであるため、農業を続けていれば再エネ発電で電力収入も得られるよう、右図のように、農林漁業地帯で計画的に発電機設置に補助すれば、再エネ発電が増えて耕作放棄地は減るだろう)

1)再エネの普及と送電網の整備
 (電気事業者の関連機関の試算では投資は総額2兆円超になるため)日本政府が、*4-1のように、再エネ普及のため2兆円超を投資し、都市部の大消費地に再エネ由来の電力を送る大容量次世代送電網をつくることを決定し、岸田首相が2022年6月に策定するクリーンエネルギー戦略で示すよう指示して、政権をあげて取り組むことを明示されたのはよかった。

 これに先立ち、安倍首相時代に(私の提案で)電力自由化が行われ、2016年4月1日以降は電力小売への参入が全面的に自由化されたため、全ての電力消費者が電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになっている。そのため、地域間の電力を融通する「連系線」が充実すれば、大手電力を含むすべての電力会社が再エネ由来の電力を販売しあうことができるようになるだろうし、そうならければならない。

 しかし、①2030年度を目標に北海道と本州を数百キロメートルの海底送電線で繋ぐ ②北海道から東京までを4倍の同400万キロワットにする ③九州から中国は倍増の同560万キロワットにする ④送電網を火力発電が優先的に使う規制を見直し、再エネへの割り当てを増やす ⑤「交流」より遠くまで無駄なく送電できるため、送電方式は欧州が採用する「直流」を検討する ⑥岸田首相は夏の参院選前に看板政策として発表し政権公約にする ⑦主に送配電網の利用業者が負担し、必要額は維持・運用の費用に利益分を加えて算定する とされているのは、無駄が多くて大手電力会社優遇にもなっている。

 具体的には、①②③については、既存の鉄道・道路の敷地を使って送電線を敷設すれば、網の目のように送電線を敷設することが可能で、これなら、*4-7の粘菌の輸送ネットワークの合理性が道路・鉄道・インターネットだけでなく送電線にも応用できるため、経済合理性がある上にセキュリティーでも優れている。

 また、鉄道会社が遠距離送電網を所有すれば送電料が鉄道会社に入るため、送電会社は電力会社間では中立になると同時に、過疎地の鉄道維持がしやすくなる。さらに、④⑦のように、送電網を火力発電や原子力発電に優先的に使わせて大手電力に利益を落とすような経産省による非科学的で意図的な規制を排除することができるのである。

 その上、⑤についても、直流で動く機器が多いため、送電も直流で行うのは合理的であるし、⑥のように、夏の参院選の看板政策にしようとすれば、そこまで徹底して行うべきだ。

 環境省は、*4-2のように、2022年1月25日から脱炭素に集中的に取り組む自治体を募集し、電力消費に伴うCO₂排出量を実質0にする先行地域を2030年度までに20~30カ所選んで国が再エネ設備の導入等を支援し、環境配慮の街づくりの成功モデルを育てるそうだ。自治体は、上下水道・ダム・市道・県道などを所有しているため、地域内で発電したり、電線を地中化したりするのに役立ちそうで、複数の自治体による応募や企業・大学との共同提案も認めれば、面白いモデルが出てきそうである。

 さらに、*4-3のように、農水省は、環境に配慮する農家や食品事業者への支援策を拡充して化学農薬を低減できる農業機械を導入する生産者の所得税・法人税を軽減したり、食品事業者等の中小企業が建物を整備する場合も対象としたりするそうだ。

 しかし、農林漁業地帯に生産に支障のない形で再エネ設備を置いて機器を電動化すれば、光熱費無料で、エネルギーを販売しながら食品生産を行うことができるため、農業の利益率が上がり、農業補助金が不要になるため、まず、それを可能にすることが重要である。

2)原発は必要か
 EUの欧州委員会が、2022年1月1日、*4-5のように、「原子力と天然ガスは、一定の条件下なら持続可能」とし、脱炭素に貢献するエネルギーと位置づける方針を発表したそうだ。しかし、EUの炭素税や個人情報保護規制には賛成だが、原発依存度の高いフランスや石炭に頼る東欧諸国が「原発やガスは脱炭素に資する」と認めるよう訴えても、CO₂は排出しないが有害な放射性物質や放射性廃棄物を出す原発やCO₂を出す天然ガスをいつまでも持続可能とするのは無理がある。

 そのため、脱原発を決めたドイツが科学的かつ先進的であり、とりわけ地震・火山国である日本に原発という選択肢はない。それよりも、農林漁業地帯で再エネ発電をした方が、よほどクリーンで国や地方自治体の財政に資するのである。

3)EVについて
 再エネで電力を自給することによって光熱費を下げ、国富の海外流出を防ぎ、日本が資源大国になって財政を健全化するには、EVやFCVを積極的に導入する必要がある。そのためには、*4-4のように、日本通運・ヤマト運輸・日本郵便・佐川急便などの商用車を迅速にEV・FCVにする必要があり、米カリフォルニア州の「州内で販売する全てのトラックを2045年までにEV・FCVにする規制」が参考になる。

 また、EVの発展と普及に伴って、*4-6のように、より高いエネルギー密度と安全性・長寿命を期待できる全固体電池の研究開発が活発化し、現在では、商用化に近づいているそうだ。そのため、次は、他の機械への幅広い応用が望まれるわけである。

・・参考資料・・
<2022年度予算案>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211225&ng=DGKKZO78786120V21C21A2MM8000 (日経新聞 2021.12.25) 107兆円予算案、減らせぬ費用多く 社会保障・国債費60兆円超、新規事業1%未満、成長に回らず
 政府は24日、一般会計総額が過去最大の107兆5964億円となる2022年度予算案を決定した。高齢化で膨らむ社会保障費と、巨額借金の返済でかさむ国債費の合計は初めて60兆円を超えた。なかなか減らせない「固定費」ともいえる社保・国債費が予算全体に占める比率は6割に迫り、予算の硬直化が進む。新規事業は全予算の1%に満たず、成長分野に予算が回っていない。項目別にみて最も支出規模が大きいのが歳出総額の3割を占める社会保障費だ。36兆2735億円と21年度当初予算に比べて4393億円(1.2%)増えた。22年からは人口の多い団塊の世代が医療費が膨らむ75歳以上になり始め、高齢化で支出が自然に増えていく圧力が強まっている。薬の公定価格(薬価)の引き下げや繰り返し利用できる処方箋による通院抑制で自然増を2000億円程度抑えたが、膨張は止まらない。新型コロナウイルス禍対策で積み上がった債務の返済が歳出規模を押し上げる構図も鮮明だ。22年度末の建設国債と赤字国債などの残高は計1026.5兆円と過去最高になる見通し。償還や利払いに充てる国債費は24兆3393億円と5808億円(2.4%)増え、2年連続で過去最高を更新した。社会保障費と国債費の合計は60.6兆円に達する。20年で7割増え、総額の56%を占める。ほかの政策に予算を振り向ける余力が狭まっている。国の政策に使う一般歳出のうち社会保障費以外は計26兆1011億円。この10年の伸びは1割に満たず、伸びた要因も防衛費の影響が大きい。岸田文雄政権は22年度予算案を「成長と分配の好循環」に向けた予算案と位置づける。ただ目玉政策には新味に欠けるメニューが並ぶ。例えば分配政策として盛り込んだ経済産業省の「下請けGメン」。企業の下請け取引の適正化に向けたヒアリング調査員を248人に倍増する。実態は消費増税の価格転嫁が大企業などに向けて適切に実行されているかを調べる「転嫁Gメン」の減員(約240人減)とワンセット。目新しさは乏しく、予算額も全体でみれば減額だ。成長戦略への配分の余地も限られている。主要省庁の予算資料で「新規事業」として計上された主な事業を集計すると、全体で4300億円程度。歳出総額に占める割合は1%に満たない。ただ菅義偉前首相が決めた不妊治療の保険適用拡大(計174億円)など社会保障費もこの中に含まれる。先端技術の開発や国際競争力の強化など成長戦略に充てる予算は、約4300億円の積み上げベースの数値よりも小さい可能性がある。政府は22年1月召集の通常国会に予算案を提出する。22年度予算案は20日に成立した21年度補正予算と一体で編成した。双方を合わせて「16カ月予算」と位置づける。予算編成では本予算の膨張を抑えるため、本来は緊急性の高い支出に絞る補正予算で、各省庁の予算要求に応える手法が常態になっている。財務省も本丸の本予算を守るために容認してきた。今回は21年度の補正予算が最大に膨らんだのに22年度の当初予算案も最大を更新。本予算も伸びを抑えられなかった。本予算には構造的な支出で歳出に足かせがはまる一方、補正予算は甘い査定でバラマキともとれる政策が積み上がる。「賢い支出」につなげるには、使い道の精査やメリハリある配分への取り組みが欠かせない。

*1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211226&ng=DGKKZO78790520V21C21A2EA3000 (日経新聞 2021.12.26) 107兆円予算、財政膨張どこまで 市場の警戒感は薄く
 政府が24日に閣議決定した2022年度予算案は一般会計が過去最大の107兆円に膨らんだ。政府債務は国内総生産(GDP)比で世界最大。異次元の金融緩和による低金利の環境が財政拡張を支える構図がある。財政の信認は円の信認にもかかわる。微妙な均衡はどこまで保てるのか。今回の予算案で新規国債の発行は減った。市場での発行額は198.6兆円と21年度から13.6兆円減る。税収増による財源確保を見込むためだ。それでも国債残高は1000兆円に達し、財政の悪化に歯止めはかからない。国際通貨基金(IMF)の試算で、日本の政府債務は21年にGDP比256.9%と比較可能な187カ国で最大だ。続く2位以下には209.9%のスーダンなど途上国が主に並ぶ。現状は戦費の調達などで財政が悪化した第2次世界大戦当時並みともいえる。この数字だけみれば「円離れ」が起きてもおかしくない。実際には、急な金利上昇(債券価格の下落)が起きるとの見方は少ない。債券市場の落ち着きは複雑なバランスで成り立っている。ひとつは10%以下で推移する外国人保有比率の低さだ。世界銀行の20年リポートによると、国債は海外民間投資家の保有比率が20%を超えると価格急落(金利急上昇)の懸念が高まる。この水準はまだ遠い。債務国ではない余裕もある。対外純債権は20年末時点で356.9兆円と30年連続で世界最大だった。さらに日銀が長期金利をゼロ%に誘導する長短金利操作を続けている。日銀が買い支える安心感から、金融機関などがゼロ金利でも国債を保有する。国債が安定的に消化され、利払い費も増えないので、財政拡大の抵抗感が薄まる。財政支出はどこまで拡大できるのか。近年注目された現代貨幣理論(MMT)によれば、自国通貨建てで資金調達できる政府は過度なインフレが起きない限り、債務の増大を懸念する必要はない。インフレを制御できるかは誰も証明できていない。足元では米欧の高インフレの波が日本に及ぶ兆しがある。11月に企業物価は原油高などで41年ぶりの伸びとなった。水面下に沈んでいた消費者物価上昇率も3カ月連続のプラスだ。この流れが加速するようだと金融政策も緩和一辺倒ではいられなくなる。賃上げが鈍いのに物価だけが上がる難しい状況で利上げを迫られる可能性もある。予算案を決めた24日、鈴木俊一財務相は25年度の財政健全化目標を維持したいとの考えを表明した。政策経費を新たな起債に頼らずまかなえる目安となる基礎的財政収支黒字化の旗を降ろさない構えだ。今後の目標見直し論議にクギを刺したともいえる。政府は「国を実験場にする考え方は持っていない」(麻生太郎前財務相)との立場だ。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「危機のマグマがたまっている」とみる。通貨が大量に発行されている今の均衡が崩れれば金利の急騰や円安の加速を招きかねない。新型コロナウイルス対応で財政の役割が重くなったとはいえ、野放図な拡張には危うさがつきまとう。カナダやスイスなどが21年に新しい財政健全化方針を打ち出した。日本でも財政規律を保つ透明な仕組みを求める声がある。東短リサーチの加藤出社長は、政府から中立の立場で財政を監視する「独立財政機関」を持つべきだと説く。独立機関を持たない国は先進国ではもはや少数派なのが現実だ。

<2022年度税制改正大綱>
*2-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/148141 (東京新聞 2021年12月10日) 賃上げ促進税制の一方で金融所得課税強化は見送り 22年度税制改正大綱
 自民、公明両党は10日、2022年度の税制の見直し内容を示す与党税制改正大綱を決めた。岸田文雄首相が掲げる分配政策の一環として、賃上げ企業への優遇税制の拡充を柱とした。株式の配当や売買益にかかる金融所得への課税強化は「検討が必要」と記載しながら今回も見送られ、将来の実施時期を明示しなかった。現行の賃上げ優遇税制は、大企業が前年度より給与総額を増やした分の最大20%、中小企業で最大25%を控除率として法人税額から差し引く。22年度からは、大企業は4%以上の賃上げなどの実施で最大30%、中小は2・5%以上の賃上げなどで最大40%まで控除率を引き上げる。賃上げ率以外に、給与総額の計算方法も企業規模で異なる。大企業では前年度から継続して雇う人の給与総額から判断するが、中小では新規雇用者の分も含める。住宅ローン減税は25年まで4年間延長する一方で、ローン残高に応じて所得税と住民税を差し引く割合を1%から0・7%に縮小する。その上で、ローンの借入限度額は、新築で省エネ性能に優れた住宅を優遇する。新型コロナウイルス対策として設けた固定資産税の負担軽減措置は、住宅地は予定通り本年度で終了。商業地は22年度も続け、コロナ禍で売り上げが落ち込む企業に配慮する。一方、首相が自民党総裁選時に目玉政策に挙げた金融所得課税の強化は見送られ、次年度の検討事項となった。与党は大綱で、現行の金融所得の税率20%を引き上げることを念頭に「税負担の公平性を確保する観点から、課税のあり方について検討する必要がある」と記載。ただ、実施時期を明記せず、「一般投資家が投資しやすい環境を損なわないよう十分に配慮する」として慎重姿勢もにじませた。自民党税制調査会の宮沢洋一会長は10日の会見で、賃上げ優遇税制の導入で「1000億円台半ば」の国税減収を、固定資産税の負担軽減措置の一部継続で「450億円程度」の地方税減収を見込んでいると明らかにした。

*2-2:https://news.yahoo.co.jp/articles/26ccec473ee40e52b2c89f5f1475c7622289ccf7 (Yahoo 税理士ドットコム 2021/12/29) 「安い日本」を変えるのに賃上げ税制では不十分 民間税調、税制改正大綱を斬る
税法や経済学の専門家などでつくる民間税制調査会(民間税調)は12月下旬、2022年度の税制改正大綱を総点検するシンポジウムを開いた。毎年恒例のシンポジウムで、今年は大綱の柱の賃上げ税制にクローズアップし、なぜ日本の賃金が上がらないのか専門家が意見を交わした。(ライター・国分瑠衣子)
●「業界別の最低賃金設定」が話題に
 民間税調は租税法の第一人者で、前青山学院大学長の三木義一氏や経済学を専門にする大学教授などでつくる。「日本の税制にもの申す組織」として税制のおかしな点や話題になったニュースについてYouTubeやサイトで発信している。難しい上にあまり知られていない税について興味を持ってほしいという狙いだ。今回のシンポジウムでクローズアップされたのが、2022年度の税制改正大綱の柱である賃上げ税制だ。従業員の賃上げに積極的な企業は法人税の控除率を優遇する。大企業では現行の15%を最大30%、中小企業では最大40%に引き上げるのでかなり大きい優遇策だ。しかし、民間税調は賃上げ税制で恩恵を受ける企業は限定的とみる。「そもそも前提として税金を払っていないと控除は受けられない。日本はコロナ前でも赤字法人が6割もあるのに、税金というインセンティブでいいのだろうか」(青木丈・香川大学教授)。実際に賃上げが実現する策として、民間税調のメンバーで元参議院議員の峰崎直樹氏は独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎研究所長による 「情報労連リポート」の寄稿記事を紹介した。濱口氏の寄稿によると、「安い日本」から転換するには個別企業の枠を越えて、産業別に労働組合が団体交渉をして、ある産業の中で働く労働者の労働の価格の最低額を決めることが解決の筋道になると提言している。産業別に労働の価格の最低額を決めることで、その賃金が払えないような企業が低価格で商品やサービスを販売することを不可能にする。それなりの高価格での商品やサービスを消費者に受け入れてもらうという筋道だ。日本以外の先進国では産業別労働組合や産業別団体交渉は一般的だという。事業者が協定して価格を決めるのはカルテルで独禁法違反になるが、濱口氏は寄稿の中で「労働組合が『合法的なカルテル』だからこそできる」と説明する。そして政府の賃上げ要求と産業別の最低賃金制度を組み合わせて、バーチャルな産業別賃金交渉の場をつくることが方法の一つとしている。賃上げを要求する土俵を個別企業から業界全体に変え、政労使で話し合うことが求められていると結論づけている。峰崎氏は「個別企業の枠を超えて産業別の賃金闘争に引き上げないと賃上げは実現しない。安倍、菅政権で実現しなかったことを岸田政権で本気で進める必要がある」と話した。
●「企業の内部留保が増えるのは賃下げも影響している」
 なぜ日本の賃金が上がらないのか。法政大学の水野和夫教授(経済学)は、1997年から24年間にわたり賃金が下がり続けている実態を紹介した。「戦後2番目に長い景気回復のアベノミクスでも賃金や生活水準が下がり続けている。景気が回復すれば賃金が上がるという期待はとっくになくなっている」と話した。水野教授の論考では、1980年代から不動産など実物に投資する「リアルエコノミー」が伸びず、資本家が重視する企業の内部留保など「シンボルエコノミー」が拡大している。「企業の内部留保が増えるのは賃下げで労働生産性基準を無視していることも一因だ」と分析する。また、日本はリアルエコノミーである法人税や個人所得税、消費税には課税しているが、企業の内部留保や相続などシンボルエコノミーにほとんど課税せず、実態とかけ離れている税制の問題点も挙げた。明治大学公共政策大学院の田中秀明教授は「日本は、北欧のように失業しても面倒を見てくれない。だから賃金が下がってもいいから職は守ってほしいという思考になるのでは」と指摘する。その上で「アメリカやイギリスの企業も日本と同じでROE(自己資本利益率)が下がっているが、一方で賃金は上がっている。この違いは何か、日本の賃金上昇を妨げている一番の要因は何かを診断しなければいけないのでは」と問題提起した。この問いに対し水野教授は「日本は労働人口が減り、潜在成長率が低いがアメリカは人口が増えている。また、日本はROEの構成要素の1つである売上高純利益率が極端に低い。売上高純利益率が低いのは日本が製造業中心の供給の国だから。アメリカやイギリスは消費の国なのでこの差はいかんともしがたい」と説明し、潜在的な成長率が低くなっていることが主な要因とした。経済産業省が2014年にまとめた「伊藤レポート」は、日本企業のROEの目標水準を8%としたがコロナ禍で今は5%に落ちている。国際標準まではとても実現できないとして、伊藤レポートは廃止すべきと指摘した。シンポジウムでは賃上げ税制以外にも、固定資産税や金融所得課税についても意見が交わされた。また今後、民間税調が政治家との意見交換会なども視野に、政治的影響力を強めることを確認した。

<日本の格差>
*3-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15054798.html (朝日新聞 2021年9月25日) 格差是正、「1億円の壁」破るか 所得税負担率カーブの頂点、総裁選で注目
 株式配当などの金融所得への課税強化が自民党総裁選で焦点の一つになっている。推進派は格差を是正するという狙いを訴えるが、慎重派は株式市場への影響を懸念する。ただ、制度の詳細に関する言及はほとんどなく、株価への影響や格差の解消に向けた効果は見えにくい。
■金融所得への課税強化訴え
 総裁選で明確に課税強化を掲げているのは、岸田文雄前政調会長だ。中間層への分配を手厚くすることを経済政策の根幹に据える岸田氏は、政策集に「金融所得課税の見直しなど『1億円の壁』の打破」と明記している。
「1億円の壁」とは、所得税の負担率が、所得が1億円の人を境に下がっていく現状のことだ。給与所得は所得が増えるほど税率が上がる累進制で、最大45%まで税率が上がるが、株の売却益や配当にかかる税率は一律20%(所得税15%、住民税5%)。このため、所得に占める金融所得の割合が比較的高い富裕層ほど、実質的な税率が下がり、格差拡大につながっていると批判されてきた。河野太郎行政改革相は総裁選では、金融所得課税について具体的に触れていないが、政策や政治理念をまとめた自著で「税率を一定程度引き上げるといった対応を検討するべきではないか」としている。また、野党でも、消費税の減税を訴える立憲民主党は、その穴埋め財源の例として、金融所得課税の強化を挙げている。
■「貯蓄から投資、逆行」
 負担率を公平にするための金融所得課税の見直しについては、与党の税制改正大綱でも、「総合的に検討する」とされてきた。財務省が一時、安倍政権下の首相官邸に提案したが、株式市場への悪影響を懸念し、政府・与党での議論は深まらなかった。最も慎重な姿勢だったのは、当時官房長官だった菅義偉首相だったとされる。しかし、新型コロナ対策の大規模な金融緩和で世界的な株高となり、金融資産を持つ富裕層がますます豊かになるなか、米国など、海外でも金融所得課税の強化を検討する動きが出ている。財務省幹部は「コロナ禍で不公平感の問題が出ている。以前ダメだったからといって、今回も絶対ダメではないのでは」と話す。ただ、増税となれば、株式市場への影響は避けられないとの見方が強い。ある金融庁幹部は、金融所得課税の税率が10%から20%に上がった13年、個人投資家が大量の日本株を売り越したとして、「貯蓄から投資への資産形成を進めてきたのに逆行する。富裕層の国外流出にもつながりかねない」と懸念する。実際、高市早苗前総務相は著書などで、税率を30%に引き上げる案を示していたが、その後、物価上昇率2%の目標が達成されるまでは「現実的には増税は難しい」と語り、事実上、撤回している。また、税率を一律で引き上げた場合、所得が1億円未満の人にも増税になるため、格差是正の効果を疑問視する指摘もある。一定以上の金融所得がある人だけを増税対象とする場合、線引きについて議論を深める必要がある。増税の是非を判断するには、こうした制度の詳細に関する情報が欠かせないだけに、総裁選や衆院選では、より踏み込んだ議論が求められる。

*3-2:http://tmaita77.blogspot.com/2012/05/blog-post_08.html (データエッセイ 2012年5月8日) ジニ係数の国際比較
 このブログで何回か言及しているジニ係数ですが,この係数は,社会における収入格差の程度を計測するための指標です。イタリアの統計学者ジニ(Gini)が考案したことにちなんで,ジニ係数と呼ばれます。昨年の7月11日の記事で明らかにしたところによると,2010年のわが国のジニ係数は0.336でした。一般に,ジニ係数が0.4を超えると社会が不安定化する恐れがあり,特段の事情がない限り格差の是正を要する,という危険信号と読めるそうです。現在の日本はそこまでは至っていませんが,5年後,10年後あたりはどうなっていることやら・・・。ところで,世界を見渡してみるとどうでしょう。私は,世界の旅行体験記の類を読むのが好きですが,アフリカや南米の発展途上国では,富の格差がべらぼうに大きいのだそうです。世界各国のジニ係数を出せたら面白いのになと,前から思っていました。そのためには,各国の収入分布の統計が必要になります。暇をみては,そうした統計がないものかといろいろ探査してきたのですが,ようやく見つけました。ILO(国際労働機関)が,国別の収入分布の統計を作成していることを知りました。下記サイトにて,"Distribution of household Income by Source"という統計表を国別に閲覧することができます。世帯単位の収入分布の統計です。私はこれを使って,43か国のジニ係数を明らかにしました。しかるに,結果の一覧を提示するだけというのは芸がないので,ある国を事例として計算の過程をお見せしましょう。ご覧いただくのは,南米のブラジルのケースです。旅行作家の嵐よういちさんによると,この国では,人々の貧富の差がとてつもなく大きいのだそうです。毎晩高級クラブで豪遊するごく一部の富裕層と,ファベイラと呼ばれるスラムに居住する大多数の貧困層。この国の格差の様相を,統計でもって眺めてみましょう。上表の左欄には,収入に依拠して調査対象の世帯をほぼ10等分し,それぞれの階級(class)の平均月収を出した結果が示されています。単位はレアルです。一番下の階級は182レアル,一番上の階級は6,862レアル。その差は37.7倍。すさまじい差ですね。ちなみに,わが国の『家計調査』の十分位階級でみた場合,最低の階級と最高の階級の収入差はせいぜい10倍程度です。表によると,全世帯の平均月収は1,817レアルですが,この水準を超えるのは,階級9と階級10だけです。この2階級が,全体の平均値を釣り上げています。富量の分布という点ではどうでしょう。全世帯数を100とすると,階級1が受け取った富量は182レアル×7世帯=1,274レアル,階級2は320×8=2,560レアル,・・・階級10は6,862×13=89,206レアル,と考えられます。10階級の総計値は181,689レアルなり。この富が各階級にどう配分されたかをみると,何と何と,一番上の階級がその半分をせしめています。全体の1割を占めるに過ぎない富裕層が,社会全体の富の半分を占有しているわけです。その分のしわ寄せは下にいっており,量の上では半分を占める階級1~6の世帯には,全富量のたった15%しか行き届いていません(右欄の累積相対度数を参照)。さて,ジニ係数を出すには,ローレンツ曲線を描くのでしたよね。横軸に世帯数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に,10の階級をプロットし,それらを結んでできる曲線です。この曲線の底が深いほど,世帯数と富量の分布のズレが大きいこと,すなわち収入格差が大きいことになります。上図は,ブラジルのローレンツ曲線です。比較の対象として,北欧のフィンランドのものも描いてみました。ブラジルでは,曲線の底が深くなっています。フィンランドでは,曲線に深みがほとんどなく,対角線と近接する形になっています。このことの意味はお分かりですね。ジニ係数は,対角線とローレンツ曲線で囲まれた面積を2倍した値です。上図の色つき部分を2倍することになります。計算方法の仔細は,昨年の7月11日の記事をご覧ください。算出されたジニ係数は,ブラジルは0.532,フィンランドは0.189なり。0.532といったら明らかに危険水準です。いつ暴動が起きてもおかしくない状態です。現にブラジルでは,凶悪犯罪が日常的に起きています。一方のフィンランドは,平等度がかなり高い社会です。それでは,上記のILOサイトから計算した43か国のジニ係数をご覧に入れましょう。統計の年次は国によって違いますが,ほとんどが2002~2003年近辺のものです。なお,日本のデータは使用不可となっていたので,日本は,冒頭で紹介した0.336(2010年)を用いることとします。わが国を含めた44か国のジニ係数を高い順に並べると,下図のようです。最も高いのはブラジルかと思いきや,上がいました。アフリカ南部のボツワナです。殺人や強姦の発生率が世界でトップレベルの南アフリカに隣接する国です。この国の治安も悪そうだなあ。ほか,ジニ係数が0.4(危険水準)を超える社会には,フィリピンやメキシコなどの途上国が含まれる一方で,アメリカやシンガポールといった先進国も顔をのぞかせています。ジニ係数が低いのは,旧ソ連の国(ベラルーシ,アゼルバイジャン)のほか,東欧や北欧の国であるようです。社会主義の伝統が濃い国も多く名を連ねています。わが国は,44か国中23位でちょうど真ん中です。社会内部の格差の規模は,国際的にみたら中くらいです。お隣の韓国がすぐ上に位置しています。かつてのK首相がよく口にしていたように,格差がない社会というのは考えられませんが,格差があまりに大きくなるのは,決して好ましいことではありません。ジニ係数があまりに高くなると社会が不安定化するといいますが,それを傍証するデータもあります。昨年の6月28日の記事では,世界40か国の殺人率を計算したのですが,このうち,今回ジニ係数を算出できたのは20か国です。この20か国のデータを使って,ジニ係数と殺人率の相関係数を出したら,0.622となりました。ジニ係数が高いほど,つまり社会的な格差が大きい国ほど,殺人のような凶悪犯罪の発生率が高い傾向です。日本社会のジニ係数の現在値(0.336)は,そう高いものとは判断されません。しかし,今後どうなっていくのか。前回みた大学教員社会のように,ジニ係数が高騰している小社会も見受けられます。わが国の前途に不安を抱かせる統計は,結構あるのです。

<補助金を減らして税収と税外収入を増やす方法>
*4-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220103&ng=DGKKZO78896630S2A100C2MM8000 (日経新聞 2022.1.3) 再生エネ普及へ送電網 2兆円超投資へ、新戦略明記 首相、脱炭素を柱に
 政府は再生可能エネルギーの普及のために次世代送電網を整備すると打ち出す。都市部の大消費地に再生エネを送る大容量の送電網をつくる。岸田文雄首相は2022年6月に初めて策定する「クリーンエネルギー戦略で示すよう指示した。総額2兆円超の投資計画を想定する。政権をあげて取り組むと明示して民間の参入を促す。日本は大手電力会社が各地域で独占的に事業を手掛けてきた。送配電網も地域単位で地域間の電力を融通する「連系線」と呼ぶ送電網が弱い。再生エネの主力となる洋上風力は拠点が地方に多く、発電量の変動も大きい。発電能力を増強するだけでなく消費地に大容量で送るインフラが必要だ。国境を越えた送電網を整備した欧州と比べて日本が出遅れる一因との指摘がある。(1)北海道と東北・東京を結ぶ送電網の新設(2)九州と中国の増強(3)北陸と関西・中部の増強――を優先して整備する。(1)は30年度を目標に北海道と本州を数百キロメートルの海底送電線でつなぐ。平日昼間に北海道から東北に送れる電力量はいま最大90万キロワット。北海道から東京までを4倍の同400万キロワットにする。30年時点の北海道の洋上風力発電の目標(124万~205万キロワット)の2~3倍にあたる。九州から中国は倍増の同560万キロワットにする。10~15年で整備する。送電網を火力発電が優先的に使う規制を見直し、再生エネへの割り当てを増やす。送電方式では欧州が採用する「直流」を検討する。現行の「交流」より遠くまで無駄なく送電できる。新規の技術や設備が必要になり、巨大市場が生まれる可能性がある。一方で国が本気で推進するか不透明なら企業は参入に二の足を踏む。菅義偉前首相は温暖化ガス排出量の実質ゼロ目標などを表明し、再生エネをけん引した。岸田氏も夏の参院選前に「自身が指示した看板政策」として発表し、政権の公約にする。国の後押しを約束すれば企業も投資を決断しやすい。電気事業者の関連機関の試算では投資は総額2兆円超になる。主に送配電網の利用業者が負担する。必要額は維持・運用の費用に利益分を加えて算定する。欧州と同様、コスト削減分を利益にできる制度も導入して経営努力を求めながら送電網を整える。英独やスペインは再生エネの割合が日本の倍の4割前後に上る。欧州連合(EU)は復興基金を使って送電網に投資し、米国は電力に650億ドル(7.4兆円)を投じる。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220105&ng=DGKKZO78941430U2A100C2EP0000 (日経新聞 2022.1.5) 排出ゼロへモデル地域 環境省募集、再生エネ導入支援
 環境省は25日から、脱炭素に集中的に取り組む自治体を募集する。2030年度までに電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする先行地域としてまず20~30カ所選ぶ。国が再生可能エネルギー設備の導入などを支援し、環境配慮の街づくりの成功モデルを育てる。22年度に新設する交付金を活用する。都道府県や市区町村に再生エネの導入や省エネの計画を申請してもらう。複数の自治体による応募、企業や大学との共同提案も認める。住宅街、オフィス街、農村、離島など多様な地域を想定する。それぞれの特性によって脱炭素の効果的な手法は変わる可能性がある。再生エネ事業による雇用増や住民サービスの向上といった様々な成功事例を示し、地域発の脱炭素の取り組みを全国に広げる。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220105&ng=DGKKZO78941450U2A100C2EP0000 (日経新聞 2022.1.5) 農家の環境配慮後押し 農機・建物で税負担軽減 農水省
 農林水産省は環境に配慮する農家や食品事業者への支援策を拡充する。化学農薬を低減できる農業機械を導入する生産者らの所得税や法人税の負担を軽くする。食品事業者などの中小企業が建物を整備する場合も対象とする。1月召集の通常国会に新制度の裏づけとなる新法案の提出をめざす。農水省がまとめた農業分野の環境保全指針「みどりの食料システム戦略」に基づく取り組みとなる。税の優遇を受ける生産者は都道府県から、新技術を提供する機械・資材メーカーや食品事業者は国からそれぞれ認定を受ける。環境負荷を軽減できる機械や建物について整備初年度の損金算入を増やせるようにして、所得税や法人税を軽くする。機械は32%、建物は16%の特別償却を認める。化学農薬や化学肥料を使うかわりに、たい肥を散布する機械や除草機を導入する生産者などを対象にする。化学農薬に代わる資材を生産するメーカーや、残飯をたい肥にする機械を導入する食品メーカーなども支援先として想定する。

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220105&ng=DGKKZO78939130U2A100C2TB1000 (日経新聞 2022.1.5)日通が中型EVトラック 引っ越し業務で導入
 日本通運は2022年度から中型の電気トラックを導入する。三菱ふそうトラック・バス製で最大積載量は4トン以上。まず関東や関西エリアの引っ越し業務で取り入れ、供給網全体の環境負荷を減らす。脱炭素化には小型車だけでなく、積載量が多い中型車以上の電動化が世界で課題となっている。三菱ふそう製の商用電気自動車(EV)「eキャンター」をまず10台導入する。最大積載量は4125キログラムで1回充電あたりの航続距離は100キロメートル。契約価格は明らかにしていないが、1000万円前後とみられる。現在、各社が導入している電気トラックは積載量が1~3トンの小型だ。積載量が大きい中型での導入は国内物流大手では珍しい。ヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸も17年からeキャンターを25台導入しているが、3トンタイプの小型にとどまる。まず関東や関西などの支店に導入する。航続距離は小型電気トラック(300キロメートル)よりも短いため、貨物輸送ではなく引っ越し業務で運用する。導入拠点には充電設備を設ける。物流業界ではSBSホールディングスが21年10月、協力会社と合わせて中国企業などから小型EV1万台を調達すると発表。佐川急便も保有する軽自動車7200台を30年までにEVに切り替える。日本郵便も導入を急ぐ。各社が導入するEVは最大積載量1~3トンの小型トラックの中でも1~2トン以下が中心だ。4トン以上の中型は量産できる企業が限られる。バッテリーの小型軽量化が進んでいないためだ。日通は企業向けの物流が主力で、保有するトラックの7割近くが中型のトラックや大型トレーラーのため電動化が遅れていた。eキャンターを導入し、運用コストなどを確認した上で運用台数を拡大する考え。日通は二酸化炭素(CO2)の排出量について23年度までに13年度比30%削減する目標を掲げているが、同社幹部は「EVだけではなく、あらゆる方法を検討する」と話しており、燃料電池車(FCV)の開発状況も注視する。物流業界に脱炭素を求める動きは世界で強まっている。欧州連合(EU)は30年までに商用車のCO2排出量を19年比で3割削減するよう求めている。米カリフォルニア州も州内で販売する全てのトラックを45年までにEVやFCVにする規制を導入した。国内でも政府は企業の温暖化ガス排出量の報告内容を見直す考え。従来は企業単位での公表が原則だったが、今後は企業が持つ事業所ごとや企業グループの供給網全体の排出量も任意で報告を求める意向を示している。

*4-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220103&ng=DGKKZO78896670S2A100C2MM8000 (日経新聞 2022.1.3) 原発は「脱炭素に貢献」 欧州委が認定方針 関連投資促す
 欧州連合(EU)の欧州委員会は1日、原子力と天然ガスを脱炭素に貢献するエネルギーと位置づける方針を発表した。一定の条件下なら両エネルギーを「持続可能」と分類し、マネーを呼び込みやすくする。世界の原子力政策にも影響を与える可能性がある。欧州委は環境面から持続可能性のある事業かどうか仕分ける制度「EUタクソノミー(分類法)」を設けており、これに原子力やガスを追加する。「2050年までに域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする」とのEU目標に貢献する経済活動と認めることで、資金調達をしやすくする。原子力依存度の高いフランスや石炭に頼る東欧諸国が、原子力やガスは脱炭素に資すると認めるよう訴えていた。欧州委は1月中にも案を公表する考え。加盟各国の議論や欧州議会の審議を経て成立する流れだが、脱原発を決めたドイツなどが反対する可能性もある。原子力発電は稼働中に二酸化炭素(CO2)を排出しないが、有害な放射性廃棄物が出る。天然ガスは石炭に比べクリーンだがCO2を出す。ただ欧州委は1日の発表文で未来へのエネルギー移行を促進する手段に「天然ガスと原子力の役割がある」とし、両エネルギーを持続可能と位置づける考えをにじませた。日本経済新聞が入手した原案によると、原子力は生物多様性や水資源など環境に重大な害を及ぼさないのを条件に、2045年までに建設許可が出た発電所を持続可能と分類する方針を示した。

*4-6:https://wired.jp/2021/12/31/5-most-read-stories-membership-2021/ (Wired 2021/12/31) 高まる宇宙開発への関心と、激化する全固体電池の開発競争:SZ MEMBERSHIPで最も読まれた5記事(2021年)
 『WIRED』日本版の会員サーヴィス「SZ MEMBERSHIP」では、2021年もインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を週替わりのテーマに合わせてお届けしてきた。そのなかから、国際宇宙ステーションで発見された新種のバクテリアの正体や、全固体電池の実用化を見据えたブレイクスルーなど、21年に最も読まれた5本のストーリーを紹介する。2021年は宇宙への世間の関心が一段と高まった1年だった。なかでも国際宇宙ステーション(ISS)の内部で採取された新種のバクテリアは、「未知の生命体」として取り沙汰された。しかし、新種といっても遺伝的にはメチロバクテリウムという地球にありふれた属に由来するバクテリアで、貨物や宇宙飛行士の身体に付着して入ってきたものが宇宙ステーションの環境に適応するために変異したものとみられている。それでも今後、宇宙空間や地球外の惑星で進化する契機となる可能性は十分に考えられる。こうした微生物叢は、ISSでの生活で一部の免疫反応が抑制されたクルーにとって予期せぬ体調不良の要因になりうる一方で、火星のような地球外の環境に存在するかもしれない生命体との接触を検知するために有効な手段にもなりうるという。また、メチロバクテリウムは土壌の窒素分子をアンモニアや硝酸塩、二酸化窒素といった窒素化合物に変換してくれることから、宇宙環境に適応した今回のような微生物叢は、将来的に月面や火星での食料栽培に役立つ可能性も期待できる。
●全固体電池の商用化に王手
 電気自動車(EV)の発展と普及に伴い、より高いエネルギー密度と安全性、長寿命が期待できる全固体電池の研究開発が活発化している。リチウムイオン電池を搭載したEVの共通の課題は、500kmに満たない航続距離と1時間以上を要する充電時間、そして可燃性の液体電解質がもたらす安全面のリスクだ。こうした問題に対する解決策として、電極間に固体の電解質を用いた固体電池技術の研究が進められてきたが、いまだ実用化にはいたっていない。そうしたなか、20年12月に米国のスタートアップのクアンタムスケープが公開したテスト結果は、長きにわたって実用化を阻んできた障壁を一気に打ち砕くような内容だった。ブレイクスルーの鍵を握るのが、正極と負極を隔離するセパレーターの素材である。これまでは主にポリマーかセラミックが使われてきたが、ポリマーではデンドライトの形成を防ぐことができず、セラミックでは充電サイクルにおける耐久性に難があった。クアンタムスケープが新たに開発した柔軟性に優れたセラミック素材のセパレーターは、その両方をクリアしている。一方、同社が公表したのはあくまでセル単位の性能データであり、それらを大量に積み重ねた最終的なバッテリーの性能には疑問が残るという指摘もある。いずれにせよ、クアンタムスケープが全固体電池の商用化に大きく近づいた事実が、開発競争の新たな起爆剤になったことは間違いない。(以下略)

*4-7:https://www.jst.go.jp/pr/info/info708/index.html(科学技術振興機構報第708号 平成22年1月22日)粘菌の輸送ネットワークから都市構造の設計理論を構築―都市間を結ぶ最適な道路・鉄道網の法則確立に期待― <東京都千代田区四番町5番地3 科学技術振興機構(JST) Tel:03-5214-8404(広報ポータル部) URL https://www.jst.go.jp>
 JST目的基礎研究事業の一環として、JSTさきがけ研究者の手老 篤史 研究員らは、単細胞生物注1)の真正粘菌注2)が形成する餌の輸送ネットワークを理論的に解明し、都市を結ぶ実際の鉄道網よりも経済性の高いネットワークを形成する理論モデルの構築に成功しました。本研究の成果であるネットワーク形成に関する理論は、近年ますます複雑化するネットワーク社会において、経済性および災害リスクなどの観点から最適な都市間ネットワークを設計する手法の確立につながるものです。真正粘菌は、何億年もの長きにわたって厳しい自然淘汰を乗り越えて生存し続けています。このため、さまざまな機能をバランスよく保ち、変化する環境にも柔軟に対応することが知られています。すなわち、頻繁に使用される器官は増強され、使用されていない器官は退化しています。これは、人間が作る都市間ネットワークの思想と共通する部分が多いといえます。粘菌のこのような知的な挙動に関しては、すでに手老研究員らから発表され、2008年度のイグ・ノーベル賞を受賞しています。しかし、脳も神経もない粘菌が知的なネットワークを形成するメカニズムについては理論的な解明がなされておらず、生物学上の謎の1つとなっていました。今回、真正粘菌変形体が作る輸送ネットワークを実験・理論の両面から解析し、数理科学的にネットワークを再現する理論モデルを構築しました。これにより、粘菌の作るネットワークによる物質輸送は、実際の鉄道ネットワークより輸送効率が良いことや、アクシデントに強いことが分かりました。今後、都市間を結ぶ道路・鉄道・インターネットなどによる物流・情報ネットワークの整備にあたり、建設・維持コストや災害リスク管理など、さまざまな要件を目的に応じて重視した際に、本研究により構築した理論モデルの適応により最適なネットワークを提示する設計法則の確立が期待されます。本研究は、北海道大学電子科学研究所の中垣 俊之 准教授、広島大学 大学院理学研究科の小林 亮 教授らと共同で行われ、本研究成果は、2010年1月22日(米国東部時間)発行の米国科学雑誌「Science」に掲載されます。(以下略)

<男女平等が生む創造性>
PS(2022年1月10日追加):アイスランドは、*5-1のように、①2008年のリーマン・ショックで財政破綻の危機に陥り ②「男性中心の経営が法令順守の意識を欠如させた」と分析して ③女性を積極登用する社会に転換し ④2009年に初の女性首相が誕生し ⑤企業などにも女性役員比率を4割以上にするように求め ⑥2011年以降、新型コロナ禍前までGDP成長率は平均3.5%に高まり ⑦2009年の「ジェンダーギャップ指数」でトップになって ⑧それ以後12年連続でその地位を維持し ⑨女性の労働参加率(15~64歳)は2020年時点80.7%と高く ⑩2017年に、世界で初めて企業に男女同一賃金を証明するよう義務付け、違反には罰金を科したそうで、まさに見本となる男女平等の実現を実行している。
 私には、①②が男性特有の性格かどうかは不明だが、③のように女性を積極登用する社会に転換してすぐ、④のように「女性首相が誕生」し、⑥のように「GDP成長率が高まった」のは、もともと女性が教育や雇用の場において、日本ほど差別されずに知識や経験を積んでいたからだと思う。その結果、④⑤⑨⑩により、⑦⑧の結果が出ているのだろう。
 私も、イケアのような最終消費者と相対する企業に女性が増えると、より多くのアイデアやデザインが生まれると実感している。反対に日本のような男性中心の国の産業は、素材・部品のように、どこかで規格された中間財を生産するには支障がないが、最終財を作るにはアイデアとデザイン力が乏しく、これは他国の製品と比較すればすぐわかることである。その理由は、日本政策投資銀行の指摘のとおり、⑪女性が加わることで多様性が高まって発想が豊かになり ⑫男性も刺激を受けてより成果を出そうとし ⑬特許資産の経済効果が男女混合チームは男性だけのチームと比較いて1.54倍に上る からだろう。そして、この最終消費者向けの発想力の源となる多様性は、女性だけでなく高齢者や外国人も含む。
 それでは、「何故、最終消費者と相対する企業に女性が増えると、より多くのアイデアやデザインが生まれ、特許資産の経済効果が混合チームは男性チームの1.54倍に上るのか?」と言えば、*5-2のように、女性は男性の1.9倍の家事・育児をし、最終消費者として購買し、家族のために加工を担当しているからである(これは、同じ仕事を繰り返すよりもずっと難しく、一つ一つを計画的に解決することが必要で、やった振りをしても無意味な仕事なのだ汗)。そのため、社会を男女混合チームにすると同時に、家事労働も男女ともに行った方が、男性も発想力を増したり、生産性が上がったりするだろう。従って、男性もある程度は家庭に返す方が、女性の労働市場での活躍のみならず、男性自身の知識と経験の増加にも繋がるのである。

 
 2021.2.15時事     COICFP    2021.3.31Yahoo  2021.5.28日経新聞

(図の説明:1番左の図のように、日本の実質GDP成長率は、ものすごい歳出超過とインフレ政策にもかかわらず、長期間にわたって0近傍だ。また、左から2番目の図のように、ジェンダーギャップ指数も健康以外は超低空飛行が続いており、右から2番目の図のように、2020年時点で総合が156ヶ国中120位だ。さらに、最終需要者に高齢者の割合が増加しても高齢者を雇用から排除したがる傾向があり、1番右の図のように、外国人難民や移民にも極めて冷たい。しかし、これら多様性のなさが、経済の低迷に繋がっていることは明らかなのである)

*5-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220109&ng=DGKKZO79079580Z00C22A1MM8000 (日経新聞 2022.1.9) 成長の未来図(8)アイスランド、09年の大転換 男女平等が生む活力
 北欧の島国アイスランドは2008年、リーマン・ショックの際、危険な投資にのめり込んだツケが回り、財政が破綻する危機に陥った。なぜ危機を招いたのか。男性中心の経営がコンプライアンス(法令順守)の意識を欠如させた――。政府はこう分析し、女性を積極的に登用する社会へと転換を図った。09年に初の女性首相が誕生。企業などに女性役員比率を4割以上にするよう求めた。11年以降、新型コロナウイルス禍前までの実質国内総生産(GDP)の成長率は平均で3.5%に高まった。
●労働参加8割超
 アイスランドは09年、男女平等の度合いをランキングにした「ジェンダーギャップ指数」でトップに躍り出る。以来、12年連続でその地位を維持し、女性の労働参加率(15~64歳)も80.7%(20年時点)と高い。人口約36万人の小国は手を緩めていない。男女の賃金格差の解消だ。17年に41歳で就任したカトリン・ヤコブスドッティル首相は18年、賃金に性別で差が出ることを禁止する法律を定めた。世界で初めて企業に男女の同一賃金を証明するよう義務付け、違反があれば罰金を科す。女性活躍を後押しするビジネスも沸き立つ。「男女の賃金差をリアルタイムで把握する」。同国のスタートアップ「PayAnalytics」にイケアやボーダフォン・グループなど世界の有力企業から注文が相次ぐ。学歴や評価、役割などの項目を入力すれば人工知能(AI)が適正賃金や男女差を導き出すソフトウエアで、各企業は瞬時に「解」を得られるようになった。創業者のマーグレット・ビャルナドッティル氏は「意識だけでは変わらず、データの分析が必要だ。格差を解消できれば、優秀な人材が集まる」と強調する。顧客の電力会社は約10年前に8.4%あった男女の賃金差を0.03%に縮小させ、能力のある女性技術者の採用が増えた。日本は21年のジェンダーギャップ指数が156カ国中120位と先進国で最下位だ。賃金格差は22.5%に及び、経済協力開発機構(OECD)平均(12.5%)より大きい。児童手当や保育サービスなど家族関係の公的支出も見劣りする。女性活躍を掲げながら17年のGDP比は1.6%とOECD平均(2.1%)より低い。アイスランドは3.3%と高い。時間あたりの労働生産性とジェンダーギャップ指数を交差させると、日本は韓国とともに低さが際立つ。女性が能力を発揮できる環境が整っておらず、非正規雇用が5割以上と高いこともあってなかなか上がらない。スウェーデンのウプサラ大、奥山陽子助教授(労働経済学)は「北欧のように女性の視点をビジネスの現場に取り入れなければ、日本は再浮上できない」と訴える。特に創造性の高い研究開発分野での活躍を見込む。その見立てを裏付けるデータもある。
●発明価値1.54倍
 日本政策投資銀行は18年、国内の製造業約400社が過去25年間に得た約100万件の特許を調査。企業の時価総額や論文の引用件数などから算出した特許資産の経済効果は男女混合チームの方が男性だけの場合と比べ1.54倍に上った。同行は「女性が加わることで多様性が高まり発想力が豊かになる。男性も刺激を受けてより成果を出そうとする」と指摘する。男女平等を成長の原動力にする国が目立つ中、日本は女性を生かす社会を描けていない。賃金格差、子育て、積極的な登用などの課題に本気で向き合わなければ成長へのきっかけはつかめない。国や企業は変わる勇気を示せるか。覚悟が問われる。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20220109&be=NDSKDBDGKKZO・・ (日経新聞 2021.5.17) 男女格差解消のために 男性を家庭に返そう 東京大学教授 山口慎太郎
世界経済フォーラムが3月に発表した「ジェンダーギャップ指数」によると、経済分野における日本の男女格差はきわめて大きい。世界156カ国中の117位である。しかし、それ以上に大きいのは家庭内における男女格差だろう。経済協力開発機構(OECD)平均では、女性は男性の1.9倍の家事・育児などの無償労働をしている。日本ではこの格差が5.5倍にも上り、先進国では最大だ。これは日本において性別役割分業が非常に強いことを示している。経済・労働市場での男女格差と、家庭での男女格差は表裏一体なのだ。ワークライフバランスの問題を解決するために、育児休業や短時間勤務などが法制化されてきた。こうした制度は確かに有効だ。2019年における25~54歳の女性労働力参加率をみると日本は80%と高い。米国の76%やOECD平均の74%を上回っている。しかしこうした施策には限界もある。「子育ては母親がするもの」との固定観念がある中では、結局のところ女性が負う子育てと家事の責任や負担が減るわけではない。そのため、女性が職場で大きな責任を担うことは難しいままだ。実際、日本では管理職に占める女性の割合は15%にすぎず、米国の41%やOECD平均の33%を大きく下回る。限界を打ち破る上で有効なもののひとつは、男性を対象とした仕事と子育ての両立支援策だ。男性を家庭に返すことが、女性の労働市場での活躍につながる。その第一歩は男性の育休取得促進である。日本の育休制度は国際的な基準に照らしても充実しているが、強化の余地はある。たとえば最初の1~2カ月限定で育児休業給付金の額を引き上げ、育休中の手取りが減らないようにすべきだ。1カ月程度の育休で何が変わるのかと思うかもしれない。しかし、カナダのケベック州の育休改革を分析した研究によると、男性が5週間ほど育休を取ると、3年後の家事時間と子育て時間がいずれも2割程度増えた。育休取得をきっかけとして家族と仕事に対する価値観が変化し、そのライフスタイルの変化はその後も長く続いた。たかが1カ月。だが男性の育休は、人生を変える1カ月になりうるのだ。

<日本における再エネ出遅れの理由は、リーダーの非科学性・非合理性である>
PS(2022年1月14、15日追加): *6-1-1のように、脱炭素社会実現に向け、地熱発電所が2022年以降に続々と稼働するのはよいことだ。日本は火山国で地熱資源は世界第3位と豊富なのに、「日本は資源のない国」という“空気”や“潮流”の下、これまでは地熱開発があまり行われなかった。しかし、地球温暖化対策としての脱炭素は1990年代から指摘されており、排気ガスを出さず、安全で、変動費無料(=コストが安い)であり、日本のエネルギー自給率向上にも資するのが、再エネ発電と電動の組み合わせであることは、ずっと前から明らかだった。にもかかわらず、化石燃料と原子力にかじりついて構造改革を進めなかったのは、日本の“リーダー”の非科学性・非合理性によるものである。
 しかし、この非科学性が理系人材の能力不足ではなく、意思決定する立場に多い文系人材の能力不足であることは、*6-1-2のように、その気になれば送電損失0の超電導送電をすぐ実用化できるのに、例の如く「課題はコスト(コストは普及すれば下がる)」などとして使用しない意思決定をしてきたことで明らかだ。この優先順位に関する意思決定の誤りが、日本で多くの有用な技術を産業化できずに他国に譲ってきた理由なのである。
 また、太陽光発電も年々進歩し、現在では、*6-1-3・*6-1-4のように、無色透明な「発電ガラス」の販売が、NTTアドバンステクノロジ・日本板硝子・旭硝子などから開始されている。そのため、都会のビルやマンションも改修して無色透明や一定の色の「発電ガラス」を取り付けるように補助すれば、再エネでエネルギー自給率を高めつつ、同時に日本のこれから有望な高付加価値産業を伸ばすことができるのだ
 さらに、*6-2-1のように、全農も2030年には「持続可能な農業と食の提供のため、なくてはならない全農であり続ける」としているので、効率的に太陽光発電して作物の生育には影響を与えないか、むしろプラスになる「発電ガラス」「発電シート」「建物一体型太陽光発電」などを使うハウス・倉庫・畜舎や地域エネルギーで動く電動車・電動機械に補助して普及を促せば効果が大きいだろう。イオンモールも、*6-2-2のように、国内約160カ所全ての大型商業施設で、「非化石証書」を使わず自前の太陽光パネルとメガソーラーからの全量買い取りを組み合わせて、2040年度までに使用電力の全量を再エネに切り替えるそうなので、これも、なるべく2030年までに前倒しするとよい。そして、イオンモールの駐車場に速やかに充電できる充電施設を設ければ、販売する商品に電力を加えることも可能なのである。
 なお、VWの日本法人は、2022年1月13日、*6-4のように、2022年末時点で国内の販売店約250店舗にEVの急速充電器を設置する方針を明らかにしている。この時、①150kwの場合、販売店の設置費用は1基2千万円ほどかかる ②高いから充電器は置けない ③環境と経済は対立するものである などとしてきたのが文系意思決定権者の誤りであり、この発想がすべてを遅らせてきたのである。
 このように、民間企業の意識は高まっているのに、日本の経産省は、*6-3のように、またもや東南アジア脱炭素支援と称してアンモニア(NH₃)や水素(H₂)を活用する技術協力を進めるそうだ。再エネ電力で水を電気分解すればできるので水素はよいが、アンモニアは原料の天然ガスから製造する過程でCO₂を排出し、そのCO₂を回収・処理しなければ温暖化対策にならないため、コストが高くなる。従って最適解にならないことは明らかで、インドネシア・シンガポール・タイはしぶしぶ同意したにすぎないだろう。そのため、その国に適した再エネ技術で協力した方が喜ばれ、日本の評判を下げずにすむのだ。
 再エネ発電による電力をためる大型蓄電池の開発も(本気でやらなかったため)日本は遅れ、*6-5のように、中国ファーウェイや米国テスラの日本への参入が相次いでおり、日本勢は日本ガイシや住友電工等が大型蓄電池を製造しているが、販売価格で競争力がないそうだ。蓄電池も日本が最初に開発を始めたのにこうなってしまったのであるため、何故そうなるのかが改善すべき最も重要な問題である。

     
 2021.12.24 2021.5.21Optronics  2021.9.2家電  2021.3.23Karapaia    
  日経新聞

(図の説明:1番左と左から2番目の図のように、地熱発電は天候に左右されないという意味で安定的な電源と言えるが、他の再エネも蓄電池に貯めたり、水素にして貯めたりすることによって、安定電源にできる。また、中央と右から2番目の図のように、透明な太陽光発電機ができたことにより、ビルや住宅の窓・壁面でも発電することができるようになった。さらに、1番右の図のように、農業用ハウスに使うことによって、作物の生育に影響を与えず、むしろ生育を促しながら発電し、発電した電力を利用することも可能である)

*6-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC158360V11C21A2000000/ (日経新聞、日経産業新聞 2021年12月24日) 生かせるか「地熱」の潜在力 出光など22年に続々稼働
 地熱発電所が2022年以降、続々と稼働する。脱炭素社会の実現に向け、地熱が持つ潜在力が必要とされているためだ。太陽光や風力のように発電量が天候に左右されない安定性が魅力で、出光興産やINPEX、オリックスといった大手企業が大型発電所を開業する。資源量が世界3位の日本だが、現状の導入量は火力発電所1基分とわずかだ。脱炭素の潮流が、企業の地熱開発を駆り立てている。
●脱炭素で熱帯びる
 12月上旬、JR盛岡駅から高速道路を経由して1時間。細くうねる山道を抜けると、高さ46メートルの巨大な冷却塔から蒸気がもくもくと噴き出していた。雪景色と共に温泉街特有の硫黄の香りが漂う。東北電力グループが運用する松川地熱発電所(岩手県八幡平市)は最大出力2万3500キロワット。1966年に国内では初めて、世界でも4番目に稼働した今も現役の地熱発電所だ。松川発電所は8本の蒸気井と呼ぶ地下に掘った井戸から300度近い蒸気を取り出し、タービンを回して発電する。最も深い井戸は深度1600メートル。もともとは1950年代に自治体が温泉開業を狙って始めた地熱開発を、発電向けに転換したのが始まりだ。発電に使った後の蒸気は自然の風を使って冷却塔内で冷やされ、冷水は発電所内で再利用される仕組みだ。運営を担う東北自然エネルギーの加藤修所長は「昼夜ほぼ一定の出力で発電するのが地熱発電の最大の強み」と話す。世界的な脱炭素の潮流が、地熱開発を再び呼び起こした。政府の50年カーボンニュートラル宣言以降、地熱発電の開発を本格化しようとする動きが目立つ。政府は6月に改定した「グリーン成長戦略」で、地熱産業を成長分野として育成する方針を公表した。国が地熱を成長分野として位置づけたのはこれが初めてだ。国内に60カ所弱ある地熱発電施設を30年までに倍増する方針も示された。地熱発電の適地は北海道、東北、九州に分布するが、このうち国立公園が多い北海道では今まで開発が十分に進んでこなかった経緯がある。だが国の委員会で21年9月、自然公園法の行政向け通知を変更し、国立・国定公園の第2種・第3種特別地域での地熱開発を「原則認めない」とする記載を削除する方針を決定した。この規制緩和により自然への配慮は前提となるが、開発に着手しやすくなった。さらに従来は熱水を取り出す井戸ごとに申請が必要だった地熱開発のガイドラインも改定し、熱水・蒸気がある地熱貯留層を1つの事業者が管理できるようになった。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の安川香澄・特命審議役は「複数の事業者が同じ貯留層を奪い合い、開発が進まなくなる事態を防げるようになった」と語る。
●「塩漬け」に転機
 相次ぐ規制緩和の流れを受けて企業の開発意欲も高まっている。オリックスは22年、出力6500キロワットの南茅部地熱発電所(仮称)を北海道函館市で稼働させる。水より低い沸点の媒体を蒸気化してタービンを回す「バイナリー方式」と呼ばれる地熱発電方式では国内最大規模だ。出光興産とINPEX、三井石油開発も22年に秋田県湯沢市で地熱発電所を着工する。出力は1万4900キロワットで、25年にも運転を始める。INPEXはインドネシアで地熱事業に参画しており、資源開発で培った掘削のノウハウも生かして国内での開発に備える。レノバも熊本県や北海道函館市で地熱発電の開発を進めている。地熱発電の設備稼働率は7割以上を誇る。同じ再エネでも太陽光発電や風力発電の1~3割程度と比べて安定性は抜群だ。松川地熱発電所では一般家庭5万世帯分もの電気をまかなえる規模だ。それでも国内で地熱開発がなかなか進んでこなかったのは、油田と同じで掘ってみないと正確な資源量が分からないことがあった。日本の場合、掘削の成功率は3割程度とされ、1本掘削するのに5億円以上かかる井戸を何本も掘る必要がある。環境影響評価から稼働までにかかる時間も15年程度と長く、資本力がない企業では手が出ない。地熱資源量は火山地帯と重なる。日本の資源量は2340万キロワット分と見積もられ、首位の米国やインドネシアに次いで世界で3番目。ただ実際の導入量は計55万キロワット程度と10年前からほぼ横ばいだ。国際エネルギー機関(IEA)によると地熱導入量は世界で10番目にとどまる。一度は機運が高まった地熱発電は、原子力発電所の推進政策に押され、「塩漬けの20年」と呼ばれるほど勢いを失った。脱炭素の潮流が呼び水となり、再び脚光を浴びる今が普及のラストチャンスだ。
●潮目変わり再び熱帯びる
 一度は勢いを失った地熱発電だが、潮目が変わったのは11年の東京電力福島第1原発事故だ。原発の安全神話が崩れ、全基の稼働が止まった。12年の固定価格買い取り制度(FIT)の導入もあって地熱開発に向けた調査が再び増えた。19年1月にはJFEエンジニアリングなどが松尾八幡平地熱発電所(岩手県八幡平市、出力7499キロワット)を稼働した。同年5月にはJパワーなどが山葵沢(わさびざわ)地熱発電所(秋田県湯沢市、4万6199キロワット)の運転を始めて、再び地熱発電が注目された。山葵沢発電所は15年に着工し、現在の設備稼働率は9割程度と稼働状態も良好だ。Jパワー再生可能エネルギー事業戦略部の井川太・企画管理室長は「周辺は既に地熱発電所がある地域だったため、地元との調整もスムーズだった」と振り返る。地熱発電の開発には必ずと言っていいほど、観光事業者や温泉事業者からの反発が出る。これまで地熱発電によって実際に温泉の湯量や泉質に影響した事例はほぼないものの、地域の理解がなかなか得られなかった。地域の理解を醸成するため、近年は地熱発電を通じた地域貢献を進める動きも活発だ。北海道森町では北海道電力の森地熱発電所で発電に使った熱水をパイプラインで市街地に運び、野菜ハウスの暖房に使う取り組みが進む。ハウスではキュウリやトマトなどの野菜を栽培している。
●新技術で発電効率向上も
 地熱発電の拡大には技術開発も欠かせない。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが実用化を目指すのは「超臨界地熱発電」と呼ばれる技術だ。従来より地下深く、マグマに近いところに存在する「超臨界水」を用いる。超臨界水は高い圧力によって沸点が上昇。温度は500度と通常の地熱発電で使う蒸気より高く、発電効率の向上が見込める。ただ、超臨界水は強い酸性の可能性があり、普通の鋼鉄はすぐ腐食してしまう。これに耐えうる素材開発が欠かせない。通常の地熱発電の井戸が深さ1~2キロ程度なのに対し、超臨界水は地下5キロ程度の深さに存在すると考えられるため、どうやってそこまで井戸を掘削し熱水を取り出すかも課題だ。地熱発電に詳しい京都大学の松岡俊文・名誉教授は「現状の地熱開発のスピードでは国が考える地熱開発目標の達成は厳しい」と指摘する。松岡氏は海底の地熱資源に注目する。海底には多くの火山が存在する。松岡氏が長崎県沖から台湾沖にかけての「沖縄トラフ」周辺の地熱貯留層を調査したところ、約70万キロワットの発電能力があることが分かった。国内地熱導入量を上回る規模だ。海底下を掘削して熱を取り出し発電するのは従来の地熱発電と共通するが、陸上と比べて立地制約が少ないのが利点だ。また海底地熱発電は井戸1本で得られる資源量が陸上より多いとみられ、松岡氏によると海底の圧力に耐えられる設備の検証などは必要となるものの、掘削コストは陸上より安く抑えられる可能性があるという。

*6-1-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220113&ng=DGKKZO79164000T10C22A1MM8000 (日経新聞 2022.1.13) 送電損失ゼロ 実用へ、JR系、超電導低コストで 脱炭素後押し
 送電時の損失がほぼゼロの技術「超電導送電」が実用段階に入った。JR系の研究機関がコストを大幅に減らした世界最長級の送電線を開発し、鉄道会社が採用の検討を始めた。欧州や中国でも開発が進む。送電ロスを減らしエネルギーの利用効率を高められれば地球温暖化対策につながる。送電ロスは主に電線の電気抵抗により電気が熱に変わることで起こる。送電線を冷やして超電導(総合2面きょうのことば)状態にすると、電気抵抗がゼロになるため損失をほぼなくせる。課題はコストだ。かつてはセ氏マイナス269度に冷やす必要があったが、マイナス196度でも超電導の状態にできる素材の開発が進み、冷却剤を高価な液体ヘリウムから、1キログラム数百円と1割以下の液体窒素に切り替えられるようになった。超電導送電線の費用の相当部分を占める冷却コストが大きく減ったため実用化が近づいた。JR系の鉄道総合技術研究所(東京都国分寺市)は送電線を覆う形で液体窒素を流し、効率よく送電線を冷やす技術を開発。世界最長級で実用レベルの1.5キロメートルの送電線を宮崎県に設置して実証試験を始めた。鉄道に必要な電圧1500ボルト、電流数百アンペアを流せる。送電線の製造は一部を三井金属エンジニアリングに委託した。通常の送電に比べて冷却コストはかさむが「送電線1本の距離を1キロメートル以上にできれば既存設備を活用でき、送電ロスが減るメリットが費用を上回る」(鉄道総研)。複数の鉄道会社が採用に関心を示しているという。採用されれば、鉄道で超電導送電が実用化されるのは世界初となる。超電導送電はこのほか風力発電など再生可能エネルギー発電分野でも利用が期待されている。電力会社や通信会社などに広がる可能性がある。超電導送電は電圧が下がりにくいため、電圧維持のための変電所を減らせるメリットもある。変電所は都市部では3キロメートルおきに設置し、維持費は1カ所で年2000万円程度とされる。鉄道総研はより長い超電導送電線の開発にも取り組んでおり、実現すればコスト競争力がより高まる。日本エネルギー経済研究所によると国内では約4%の送電ロスが発生している。全国の鉄道会社が電車の運行に使う電力は年間約170億キロワット時。送電ロス4%は、単純計算で一般家庭約16万世帯分に相当する7億キロワット時程度になる。送電ロス削減は海外でも課題だ。鉄道以外も含む全体でインドでは17%に達する。中国では2021年11月、国有の送電会社の国家電網が上海市に1.2キロメートルの超電導送電線を設置した。ドイツでは経済・気候保護省主導で、ミュンヘン市の地下に12キロメートルの超電導送電線を敷設する「スーパーリンク」プロジェクトが20年秋に始まった。日本は超電導送電に使う送電線を昭和電線ホールディングスが手がけるなど素材に強みがある。JR東海のリニア中央新幹線も超電導を使っており、鉄道総研の技術基盤が生かされている。

*6-1-3:https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/news/1347759.html (家電 2021年9月2日) 無色透明なのに太陽光で発電できる「発電ガラス」販売開始
 NTTアドバンステクノロジは、inQsが開発した無色透明形光発電素子技術(SQPV:Solar Quartz Photovoltaic)を活用した「無色透明発電ガラス(以下:発電ガラス)」の販売を開始。東京都新宿区の学校法人海城学園に、初めて導入した。発電ガラスは無色透明で、両面からの日射に対して発電できるという。このため、既存温室の内側に設置しても採光や開放感への影響を与えることなく発電が可能。また天窓を含め、さまざまな角度からの日射でも発電できるとする。今回の発電ガラスで採用されたSQPVは、可視光を最大限透過しつつ発電する技術。一般のガラスが使える全ての用途に発電と遮熱という機能をつけて利用できるとする。SQPVを活用した発電ガラスの主な特長は以下のとおり。表面・裏面および斜めの面から入射する太陽光からも発電が可能。天井がガラス張りのガラスハウスなどでは、北面でも天井からの日射があれば発電が可能。このため、どんな場所でも、デザイン性の高い、省エネルギー発電・遮熱ガラス材料としての用途開拓が可能。レアアースなどの希少かつ高価な材料を用いない。海城学園では、新たに建築されたサイエンスセンター(理科館)屋上の温室に、室内側から取り付ける内窓として導入された。今回は、まず約28cm角の発電ガラスを9枚配置した展示学習用教材を導入。この後、11月頃までに温室の壁面に120枚の発電ガラスが、内窓として取り付けられる予定だという。なお、新たな発電ガラスの内窓取り付けに際しては、しっかりとしたガラス固定・ガラス間配線・メンテナンス性の確保などが必要となる。これらサッシ収容技術についてはYKK APが協力している。

*6-1-4:https://optronics-media.com/news/20190521/57351/ (OPTRONICS 2019年5月21日) 日板,米企業と太陽光発電窓ガラスを開発へ 
 日本板硝子は,子会社を通じて透明な太陽光発電技術を扱う米ユビキタスエナジーと,同社の透明な太陽光コーティングである「ClearView PoweTM」技術による太陽光発電が可能な建築用窓ガラスの共同開発に合意した(ニュースリリース)。ClearView Powerは,可視光を透過しながら,非可視光(紫外線と赤外線)を選択的に吸収し,視界を遮らずに周囲の光を電気に変換する。標準的なガラス製造過程で建築用窓にそのまま使用することができ,建物一体型太陽光発電(BIPV)による再生可能エネルギーの創出を可能とする。さらに,この製品は赤外線太陽熱を遮断し,建物のエネルギー効率を上げることで,ゼロエネルギー建物の実現に寄与するという。同社は,進行中の研究開発と技術サポートにより共同開発に参画している。

*6-2-1:https://www.jacom.or.jp/noukyo/news/2021/11/211117-55149.php (JAcom 2021年11月17日) 「なくてはならない全農」めざし次期中期計画-JA全農
*JA全農は11月16日の経営管理委員会で「次期中期計画策定の考え方」を了承した。2030年に向け中長期の視点に立った「全農グループのめざす姿」を描き、持続可能な農業と地域社会の実現に向けた戦略を策定する。
●環境変化を見据える
 次期中期計画は、生産と消費、JAグループを取り巻く環境変化をふまえて、2030年の姿を描き、そこからどのような取り組みを展開するか戦略を策定するというバックキャスティングという手法で策定する。
環境変化のうち、農業者人口はその減少が予想以上に進む。2020年の基幹的農業従事者数は136万人だが、2030年には57万人へと42%も減少する見込みだ。この間の日本の人口は5%減との見込みであり、農業者は大きく減少し、同時に農地の集約・大規模化が進む。消費は約10兆円となった中食市場のさらなる増加や、共働き世帯の増加にともなう簡便・即食化などの大きな変化が続くと見込まれる。共働き世帯は1219万世帯で1980年の約2倍となっている。こうした環境変化のなか全農は2030年のめざす姿として「持続可能な農業と食の提供のため"なくてはならない全農"であり続ける」を掲げる。その実現のために長期・重点的に取り組む全体戦略を策定し、それに基づき来年度から3年間の分野別事業戦略を策定する、というのが今回の考え方だ。
●JAと一体で生産振興
 全体戦略は6つの柱を設定する。1番目は生産振興。少数大規模化する生産者と、一方で家族経営で地域を支える小規模生産者への営農指導、組織体制などの課題がある。これらの課題に対して、担い手の育成、多様な労働力支援、JA出資型農業法人への出資なども実施する。また、スマート農業や新たな栽培技術、集出荷の産地インフラの整備も行う。物流機能の強化も課題であり、国内外の最適な物流の構築による安定的な資材・飼料の供給を図る。2番目は食農バリューチェーンの構築。生産、集荷から販売までの全農にしかできない一貫した体制づくりに取り組む。ターゲットを明確にした商品開発、JAタウンの事業拡大とJAファーマーズの支援強化、他企業との連携による加工、販売機能などの最適化などを進める。3番目の柱は海外事業展開。成長が期待される海外市場の開拓と、国内の農業生産基盤とのマッチングを進める。一方、世界的な穀物や資材原料の需要増への対応も課題で安定的な輸入に向けた競争力の強化も図る。
●地域循環型社会をめざす
 4番目の柱は地域共生・地域活性化。人口減少など地域の実情に応じた宅配、eコマースなど利便性の拡充や、地域のエネルギーを活用したEV(電気自動車)・シニアカーシェアリング事業の実践や、営農用への供給、遊休施設や耕作放棄地を活用した太陽光発電や農泊事業などの展開などを進める。また、「食と農の地産地消」に向けた耕畜連携の促進、ファマーズマーケットなどの事業強化も図る。5番目の柱が環境問題など社会的課題への対応。農業分野や地域のくらしにおける温室効果ガスの削減や、みどり戦略を実現するためのイノベーションの実現と普及が課題となる。そのために持続可能な農業に向け適正施肥の推進、有機農業を含む環境保全型農業の実践、環境負荷軽減に資する技術や資材、飼料の開発・普及、再生可能エネルギーに活用による電力供給の拡大などに取り組む。6番目の柱はJAグループ・全農グループの最適な事業体制の構築。全農の機能再編とJAとの機能分担が課題となる。JAも今後は営農経済担当の職員が減少するという見込みのもとで、より全農とJAが連携した事業展開を図る。県域の実態に合わせたJAとの最適な機能分担や、JAへの支援、営農指導・販売機能の強化に向けた人材育成などに取り組む。また、全農グループの機能強化に向けた子会社との新たな事業展開も図る。こうした全体戦略のもと、事業戦略は「耕種」、「畜産」、「くらし」、「海外」、「管理」の5つの事業分野で検討を進める。今後、検討を本格化させ、年明けからの総代巡回などを経て3月の臨時総代会で決める。JA全農はこれまでにない事業と取り込み事業拡大をめざす。

*6-2-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC074WJ0X00C22A1000000/ (日経新聞 2022年1月10日) イオンモール、全電力を再生エネに転換 国内160カ所
 イオンモールは国内約160カ所全ての大型商業施設で、2040年度までに使用電力の全量を再生可能エネルギーに切り替える。再生エネの環境価値を取引する「非化石証書」を使わず、自ら太陽光パネルを設置したり、メガソーラーからの全量買い取りなどを組み合わて実現する。年内にも太陽光発電の余剰電力を提供する消費者にポイントで還元する手法も導入し、脱炭素を加速する。小売業の脱炭素で施設の再生エネ導入は重要な課題だが、現状では非化石証書の活用が主流だ。イオンモールの年間電力消費量は約20億キロワット時で国内の電力消費全体の0.2%を占める。国内屈指の大口需要家が使用電力を再生エネに切り替えることで、企業の脱炭素のあり方が変わる可能性がある。運営する大型商業施設「イオンモール」で、22年から本格的に太陽光発電を導入する。自らパネルを設置するほか、メガソーラーなど発電事業者と長期契約を結び、発電した再生エネを全量買い取る「コーポレートPPA」と呼ばれる手法も使う。各施設には大型蓄電池も整備し、集めた再生エネを効率的に運用できる仕組みを整える。再生エネの地産地消を進めるため、一般家庭の太陽光発電の余剰電力を消費者が電気自動車(EV)を使ってイオンモールに提供すれば、ポイントで還元するサービスも始める予定だ。太陽光発電のほか風力発電やバイオマス発電、水素発電などからも電力を調達し、発電事業用の用地取得など関連投資も検討する。親会社のイオンはグループ全体で国内の年間消費電力量が71億キロワット時と、日本の総電力消費量の1%弱を占める。同社は国内外で電力を全て再生エネで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」に加盟し、40年度に事業活動で排出する温暖化ガスを実質ゼロにする目標を掲げる。大型商業施設の使用電力の再生エネへの全量転換と平行し、ほかのグループ会社の運営スーパーでも順次再生エネに切り替えていく。大手企業の再生エネ導入は広がりつつある。小売り大手では21年からセブン&アイ・ホールディングスがNTTの太陽光発電事業から電力供給を受けているほか、ローソンは22年に親会社の三菱商事から太陽光発電による再生エネ調達を始める計画だ。ただ、現状では日本企業が脱炭素化を進めるための施策は非化石証書が主流だ。化石燃料を使わず発電された電気が持つ「非化石価値」を証書にして売買する仕組みだが、制度が複雑でコスト負担が大きいとの指摘もある。海外では大規模なコーポレートPPAを活用した調達が主流。調査会社ブルームバーグNEFによると、世界の新規コーポレートPPAは20年に発電能力ベースで約2300万キロワットと原子力発電所23基分に達する。旺盛な需要が再生エネの投資拡大やコスト低減につながっており、日本でも今後、同様の影響が期待できる。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220114&ng=DGKKZO79204810T10C22A1EP0000 (日経新聞 2022.1.14) 東南ア脱炭素支援 高い壁、アンモニア混ぜ発電、日本が推進 「石炭の延命策」批判強く
 萩生田光一経済産業相は13日、インドネシアなど東南アジア3カ国の訪問を終えた。脱炭素に向けてアンモニアや水素を活用する技術協力を進める。再生可能エネルギーの支援を進める中国や欧米の動きをにらみ独自色を打ち出したが、「石炭火力の延命につながる」との批判は根強い。供給網を構築して日本の強みをいかせるか、前途は見通しにくい。
●3カ国と覚書
 「2030年までにアンモニアのみを燃焼させる技術の実現をめざす」。萩生田氏は10日、インドネシアとのオンラインイベントでこう表明した。アンモニアは燃やしても二酸化炭素(CO2)が出ない。今回、東南アジア3カ国と覚書を交わした。石炭火力発電所に発電量の過半を頼るインドネシアとは、アンモニア活用での技術協力で合意。シンガポールとは水素やアンモニアの供給網の構築で連携し、タイとは脱炭素工程表策定に知見を提供することになった。東南アジア各国には稼働年数の浅い石炭火力発電所が多い。発電所の廃止にまで踏み切らなくても、設備改修でアンモニアを混ぜられるようにすればCO2排出量を減らせる。その先でアンモニアのみを燃料にすれば、CO2ゼロの火力発電所の実現も見えてくる。「エネルギー転換には国際的なパートナーによる支援が必要だ」(インドネシアのアリフィン・エネルギー・鉱物資源相)。前向きな発言も目立ったことから、経産省は新技術の確立と需要創出への布石を打つことができたとみる。もっとも、実際に燃料としてのアンモニアの需要はまだほとんどない。萩生田氏が言及した「アンモニアの専焼」も本格導入は30年以降だ。それまでは石炭とまぜて燃料にする「混焼」で、どれだけ排出削減できるかが問われる。東南アジア各国を含め新興国の脱炭素化は経済成長との両立が難しく、欧米先進国と比べて取り組みは遅れたままだ。3カ国の発電量のうち、化石燃料への依存度は現状で8割から9割に達する。段階的な脱炭素への移行を前面に出す日本とは異なり、欧米や中国が太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入で攻勢を強めている。
●実質ゼロに課題
 支援の主導権を握れるか見通せない。昨秋の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、岸田文雄首相がアンモニアや水素の活用を打ち出したが、国際的な非政府組織から気候変動対策に後ろ向きだと批判された。アンモニアは原料の天然ガスから製造する過程でCO2を排出。このCO2を回収し、地下に埋めるなどして実質ゼロにしなければクリーンとは言い切れない。だからこそ欧州を中心に「石炭火力の延命策」との批判があり、逆風が強まる恐れは拭えない。中国はアジアで広域経済圏構想「一帯一路」を推し進めてきた。米国はアジア各国を巻き込む形で、デジタル貿易や供給網といった分野での協力強化を目指す「インド太平洋経済枠組み」を打ち出している。米中の綱引きがアジアでも激しくなる中、日本の存在感にも陰りが見えてきた。新型コロナウイルスの感染拡大の局面でも萩生田氏が出張したのは、日本政府の危機意識のあらわれであり、巻き返せなければ成長市場を取り込む機会を失いかねない。

*6-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15171067.html (朝日新聞 2022年1月14日) VW、販売店に充電器 日本国内の250店舗
 VWの日本法人「フォルクスワーゲングループジャパン」は13日、2022年末時点で国内の販売店約250店舗にEVの急速充電器を設置する方針を明らかにした。普及に向け充電環境を整える。日本市場には年内にVWブランドのEV「ID.」を投入予定だ。充電器はVWとアウディの販売店に置く。両ブランドの車はどちらの店でも充電可能。250店舗で充電網ができれば現時点では国内最大級という。充電性能は90キロワット~150キロワット。150キロワットの場合、販売店の設置費用は1基2千万円ほどかかる。充電器はEV普及のカギを握る。まずは店に置くことで環境を整える。充電の料金収益を得ることもめざす。マティアス・シェーパース社長はこの日の会見で「今後生き残るために必要だ」と述べた。シェーパース社長は日本のEV市場について「軽EVの話も出てきている。もう一部のお金持ちが買うものではない。みんなが乗るようになる。全世界で似たような動きがあるので、日本もそうなってくると信じている」と期待する。VWはトヨタ自動車と世界販売台数を競うライバルだ。2年連続でトヨタに軍配が上がりそうで、シェーパース社長は取材に、「明確な理由は半導体不足。トヨタは半導体のストックマネジメントがあって車がつくれた。我々にはそれがなかった」と語った。

*6-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220115&ng=DGKKZO79249610U2A110C2EA5000 (日経新聞 2022.1.15) 大型蓄電池、米中から日本参入、ファーウェイやテスラ、低価格で国内産業の脅威
 再生可能エネルギー発電施設の電力をためる大型蓄電池で、大手外資企業の日本への参入が相次いでいる。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は3月から出荷を始める。米テスラも2021年から販売している。再生エネの拡大には需給を安定させる蓄電池が欠かせない。米中勢の参入は日本の電池産業にとって脅威となる。ファーウェイは中国・寧徳時代新能源科技(CATL)など複数の蓄電池メーカーから小型の蓄電池パックを購入する。120個程度を束ね、一般的な家庭用蓄電池の約200倍の電力量をためられる2000キロワット時のコンテナサイズの蓄電池を生産する。顧客企業の需要に合わせてコンテナを組み合わせ、容量を変えられる。違うメーカーが製造したものや劣化状況が異なるものをデジタル技術で管理する。蓄電池はパソコンなどの「民生用」、電気自動車(EV)などの「車載用」、施設などに据え置く「定置用」に分かれる。ファーウェイの大型蓄電池は定置用で、再生エネ発電施設に併設する電力貯蔵の用途を狙う。日本法人のファーウェイ・ジャパン(東京・千代田)は、再生エネの適地でありながら送電網の空きが少ない北海道などを主な導入先として検討中だ。陳浩社長は日本市場の先行きを「太陽光発電技術の発展とコスト削減で急速に発展する」と見込む。定置用にはこのほか、家庭用や、商業施設などに使う業務・産業用も含まれる。ファーウェイやテスラはすでに家庭用などで日本市場に参入しており、市場拡大が見込める、より大型の定置用開拓を進める。テスラの日本法人、テスラモーターズジャパン(東京・港)は21年4月、高砂熱学工業がもつ茨城県の研究施設に大型蓄電池を納入した。研究施設内にある太陽光発電所や木質バイオマスガス化発電設備などの電力を制御する。22年夏には、送電線に直接つなぐ大型蓄電池を北海道千歳市内に納入・稼働する。新電力のグローバルエンジニアリング(福岡市)が導入する。再生エネに接続する電池の導入も検討している。ENEOSホールディングス(HD)が買収した再生エネ開発会社、ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE、東京・港)もテスラ製の蓄電池を実証実験で使うと発表した。大手電力ではJパワーが21年11月、広島県のグループ会社の施設内にテスラ製を導入した。中国の太陽光パネルメーカー大手、ジンコソーラーは21年9月に日本で大型蓄電池の受注が決まった。受注先は非公開。同社はまず小型の家庭用で知名度を上げ、その後大型蓄電池の販売を強化していく考えだ。銭晶副社長は「22年には1万台以上の家庭用蓄電池を売りたい」と話す。日本では再生エネ発電施設の電力をそのまま送電線に送ることが多く、大型蓄電池の併設は導入が十分に進んでいない。国内勢では日本ガイシや住友電工などが大型蓄電池を製造している。住友電工は国内外で数十台を納入した実績をもつ。また、車載用を束ねた大型蓄電池の実用化を目指す企業もあり、東京電力HDなどの電力会社や住友商事や丸紅といった商社などが取り組んでいる。米中勢の強みは販売価格の安さだ。三菱総合研究所の資料によると、定置用のうち業務・産業用の国内販売価格は、19年度時点で建設費を含めて1キロワット時24万円程度だ。21年10月に閣議決定された30年度時点での目標価格は同6万円とされる。テスラモーターズジャパンの再生エネ併設用は同5万円以下で販売しているとみられる。ファーウェイもテスラ製と競う価格水準を目指している。再生エネの開発などを手掛ける新電力幹部は「蓄電池を導入する場合、コストが安い企業を選ぶ」と話しており、国内勢が対抗するためにはコスト競争力が課題となる。

<日本におけるEV出遅れの理由も、リーダーの非科学性・不合理性である>
PS(2022年1月15日追加):地球温暖化対応で開発競争が激しいEVは、*7-1のように、中間層が台頭する東南アジアでも導入機運が高まっており、中国・韓国のメーカーが参入に積極的だが、新車市場で8割のシェアを握る日本メーカーの動きは目立たないそうだ。例えば、現在はインドネシアとタイで日本車のシェアは9割に達しているが、EVで話題を提供しているのは中韓勢ばかりで、日本もできない理由を並べていては東南アジアの市場を失いそうだ。
 そのような中、*7-2のように、日本の自動車メーカーもEVへの巨額投資に乗り出し、トヨタは4兆円、日産は2兆円を投じて、先行する米国・欧州・中国のメーカーに対抗するそうだ。しかし、EVも日本が最初に開発を始めたのに、米国・欧州・中国のメーカーに後れを取ったから、それに対抗する形で後追いするというのは開発途上国のメーカーの発想である。
 そのため、*7-3のように、異業種のソニーグループが、2022年春にソニーモビリティという新会社を設立してEV市場への参入を検討すると発表したのは期待が持てるが、車の価値を「移動」から「エンタメ」に変えるのをソニーに期待している人は少なく、①操作が家電並みに簡単で ②デザインがよく ③総合的に信頼できる車 をソニーには求めていると思う。

*7-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220114&ng=DGKKZO79205530U2A110C2EA1000 (日経新聞社説 2022.1.14) 日本はアジアのEV化に乗り遅れるな
 地球温暖化対応で開発競争が激しい電気自動車(EV)は、東南アジアでも導入機運が高まっている。中国や韓国のメーカーが参入に積極的な一方、いまの新車市場でシェア8割を握る日本メーカーの動きは目立たない。新型コロナウイルス禍で足踏みしているものの、人口6億6千万人を抱え、中間層が台頭する東南アジアは、今後も有望な成長市場だ。現在の市場優位を守るため前向きなEV化戦略が求められる。域内の二大市場であるインドネシアとタイに限れば、日本車のシェアは9割に達する。ところがEVに関して話題を提供しているのは中韓勢ばかりだ。インドネシアでは韓国の現代自動車がこのほど稼働させた完成車工場で、3月からEVの生産を始める。基幹部品は当面輸入に頼るが、同じ韓国の電機大手LGグループと共同で、車載用電池の量産工場の建設を進めている。タイでも中国の上海汽車集団や長城汽車がすでにEVの販売を開始した。後者は米ゼネラル・モーターズ(GM)から取得した工場で、2023年からEVの量産に乗り出す計画だ。輸出も視野に入れて生産規模を確保しようとしている中韓に比べて、日本はトヨタ自動車と三菱自動車が23年からタイでEVの現地生産を検討しているくらいで、総じて慎重姿勢が目立つ。及び腰には理由がある。東南アジアは石炭や天然ガスを使う火力発電が中心で、再生可能エネルギーの裏付けなしにEVだけを増やしても、温暖化ガスの排出は減らせないと主張する。充電設備の整備の遅れもあり、ハイブリッド車を軸とする普及戦略を描く。環境規制がより厳しく、購買力も高い欧米や中国でのEV生産を優先し、東南アジアは他の新興国向けもにらんだガソリン車やディーゼル車の生産拠点として残したいという狙いもあるようだ。だが各国政府のEV導入の要請は、環境対策だけでなく、次世代の産業創出の意味合いも大きい。中国車メーカーはタイで自ら充電設備の整備に乗り出した。できない理由を並べていては、既存事業の勝者が新しい事業への参入で後れをとる「イノベーションのジレンマ」に陥り、虎の子の市場を中韓に切り崩される恐れが拭えない。各国政府との対話を重ねつつ、EV化への協力姿勢をもっと積極的に示すべきだ。

*7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/794952 (佐賀新聞論説 2022年1月11日) 構造転換の未来図描け 電気自動車に巨額投資
 日本の自動車メーカーが電気自動車(EV)への巨額投資に乗り出す。トヨタ自動車は4兆円、日産自動車も2兆円を投じ、先行する米国、欧州、中国のメーカーに対抗する。異業種も強い関心を示しており、国内ではソニーグループが市場参入を検討し始めた。だが、EVの開発や普及はメーカーの力だけではできない。日本メーカーがEVシフトへ走りだす2022年は、自動車社会の未来図を描く1年にしなければならない。トヨタ自動車は30年を目標に、EVの販売台数を350万台に拡大する。トヨタの世界販売台数の35%をEVにすることを計画している。日産は10年12月、量産型の「リーフ」をいち早く発売した。その後、米テスラや欧州企業に追い抜かれてきたが、再びEVを経営戦略の中心に据えた。海外勢では新興の米テスラが100万台近くを量産し、先頭を走る。米アップルなどIT企業の参入もうわさされている。EVに及び腰とされてきた日本メーカーの姿勢もはっきり変化してきている。ハイブリッド車(HV)、燃料電池車も選択肢として残るが、世界の潮流を考えればEVに軸足を置くことは避けられそうにない。長距離走行の壁を破り市場で主導権を握るため、新型電池の開発にメーカー各社はしのぎを削っている。トヨタは4兆円の投資額のうち、半分は電池の開発につぎ込む。日産は走行距離を延ばす鍵になる「全固体電池」を搭載した新型車を28年度までに実用化するという。だが、技術開発の競争だけではEVの時代は見えてこない。市街地や高速道路の充電拠点が広がらなければ、安心して遠出はできない。自動車各社の販売店、ガソリンスタンド、商業施設などを利用することが想定されているが、エネルギー業界、政府、自治体などとの協調が欠かせない。電力需要も変化するだろう。国内で大量のEVが走るようになるなら、電力各社の発電能力の増強が必要になる。二酸化炭素を排出するガソリン車は減っても、化石燃料に依存した発電が増えるという見方もある。EV市場の拡大と電力需要に関する信頼できる予測と、それを前提にした電源構成の議論を求めたい。EVが自動車産業に与える影響は大きい。ガソリンなどを燃焼させるエンジンに比べると、EVのモーターは構造は単純で、部品点数も大きく減る。エンジンの部品や素材を生産してきたメーカーは、培ってきた技術を転換する必要に迫られるのではないか。国内の自動車メーカーは、EVへの転換によって部品メーカーの経営が悪化し、技術力を失うのを避けようとしている。日本勢は完成車メーカーを中心に部品や素材の会社が一体で開発に取り組むのが強みだった。しかし、いまはそれが海外のライバルほど素早く動けない要因になっている。技術転換が起きれば、雇用にも変化が生じる。自動車関連の就業者数は約550万人に上る。雇用を維持しながら、事業や技術を転換するのは簡単なことではない。脱炭素の流れを後押しするため、公的資金を使った大規模なEV支援も考える余地がある。充電拠点の整備、雇用維持など社会的に必要な対策を、官民で多面的に検討しておくべきだろう。

*7-3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK07AYC0X00C22A1000000/ (日経新聞社説 2022年1月10日) ソニーのEV参入が示す自動車の変貌
 ソニーグループが2022年春にソニーモビリティという新会社を設立し、電気自動車(EV)市場への参入を検討すると発表した。米ラスベガスの見本市「CES」では多目的スポーツ車(SUV)型の試作車を披露し、新市場にかける意気込みを示した。「SONYカー」の登場は100年に1度といわれる自動車市場の地殻変動を映すものだ。強い自動車産業は日本経済のけん引役であり、新旧のプレーヤーが競い合うことで、市場の活性化と産業基盤の強化につなげたい。ソニーグループの吉田憲一郎最高経営責任者(CEO)は「車の価値を『移動』から『エンタメ』に変える」と宣言する。車をただの走る機械ではなく、音楽や映像などを楽しむ空間と再定義し、自動運転のための画像センサーや映像・音響など自社の得意技術を詰め込む考えだろう。かつて「ウォークマン」などを世に出したソニーがどんな車をつくるのか、楽しみだ。一方で車は人の命を預かる商品であり、安全が最も重要なのは言うまでもない。電池の発火事故の防止を含め、安全性能の確保に万全を期す必要がある。EV専業の新興企業、米テスラが株式時価総額でトヨタ自動車など業界の巨人を圧倒する現状が示すように、自動車産業は変革のさなかにある。米アップルのEV参入も取り沙汰される中で、日本を代表するイノベーション企業であるソニーの挑戦に期待したい。モーター大手の日本電産も中国にEV用基幹部品の量産工場を設立し、地場メーカーへの供給を拡大しようとしている。これまで車とは縁の薄かった企業が自動車の変革をチャンスととらえ、成長のテコにする動きがさらに広がるかどうか注目される。他方でトヨタはじめ既存企業の底力も侮れない。トヨタは21年の米国市場で米ゼネラル・モーターズなどを抜いて、シェア1位になった。コロナ禍という特殊要因があったとはいえ、強靱(きょうじん)なサプライチェーンや販売店網、ブランドへの信頼など長年の経営努力が実った結果でもある。半導体はじめエレクトロニクス産業が失速し、ネットビジネスやバイオなども振るわない中で、自動車は日本に残された、強い国際競争力を持つ、数少ない産業のひとつだ。新旧企業の競争と協業でその強みを今後とも堅持したい。

<早すぎた選択と集中による再生医療を使った脊髄損傷治療の遅れ>
PS(2022年1月16日追加):医学は「神経細胞は再生しない」と教えるが、その理由を説明できる人はいない。そのため、私は「できない理由はないのだろう」と思っていたところ、20年以上前、夫に同伴して行った世界の学会で「脊髄を切断して半身不随にしたマウスが、その後、回復して歩けるようになった」という発表を聞いた。そのため、「マウスにできるのなら、人間にもできないわけはない」と思い、衆議院議員在職中(2005~2009年)に再生医療を提案した。その結果、*8-3のように、患者の骨髄液に含まれる幹細胞「間葉系幹細胞」を5000万~2億個に培養した後、静脈に点滴で戻して脊髄損傷患者の運動・知覚機能回復を狙うニプロの自己骨髄間葉系幹細胞ステミラック注が既に承認されているが、未だ条件・期限付のようだ(https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=66832 参照)。しかし、自己の骨髄間葉系幹細胞から作れば免疫反応も起こらないため、患者に無為な時間を過ごさせず、迅速に治療して、要介護状態から解放するには、早く条件・期限付を解除することが必要である。
 日本は、「再生医療=iPS細胞」と早く限定しすぎたため、他のより有効な治療を疎かにした面があるが、*8-1・*8-2のように、岡野教授をはじめとする慶大チームが、2021年12月、①iPS細胞から作った神経の元となる細胞をに脊髄損傷患者1人に移植し ②拒絶反応を抑えるため免疫抑制剤を使い ③経過は順調で ④転院して通常の患者と同じリハビリをしており ⑤今後は、1年間の経過を追ってリハビリのみを行った患者と比較して安全性・効果を確認するそうだ。①③④は、自己骨髄間葉系幹細胞を使用した場合と同じだが、②は他人の細胞を使うから必要なもので、⑤のうち安全性の検証はiPS細胞化しているため癌化のリスクがあるから必要なものである。ただ、自己の骨髄間葉系幹細胞が分裂しにくく5000万~2億個まで培養できない人は、他人の細胞を使わざるを得ない。そのため、若い人から入手した分裂しやすい標準細胞があれば、自己の細胞を培養する必要がなかったりはするだろう。
 しかし、神経が再生しても神経回路は学習によって形成されるものが多いため、リハビリは不可欠だ。また、損傷後の早い段階で入れることが望ましいが、損傷後の時間が長い人にも適用できるようにすべきである。なお、夫の外国の学会では、「脊髄損傷は予防できる!浅いプールに飛び込んだり、事故を起こしたりしないことだ!」という声も聞かれたことを付け加えたい。


 2018.11.21     2022.1.14     2018.11.21    川越中央クリニック
  朝日新聞      日経新聞       毎日新聞

(図の説明:1番左の図のように、自分の骨髄や脂肪に含まれる間葉系幹細胞を使った脊髄損傷の治療法もあるが、左から2番目の図のように、他人のiPS細胞を使った脊髄損傷の治療法も開発されようとしており、違いは、右から2番目の図のとおりだ。なお、1番右の図の脂肪幹細胞は、倫理的問題や発癌リスクがなく、採取の負担が小さく、コントロールもしやすいメリットがあるそうだが、いずれも素早い製品化と普及が望まれる)

*8-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S15172330.html (朝日新聞 2022年1月15日) 脊髄損傷にiPS移植 世界初、実用化には課題 慶大
 慶応大は14日、iPS細胞からつくった神経のもとになる細胞を、脊髄(せきずい)損傷の患者1人に移植したと発表した。iPS細胞を使った脊髄損傷の治療は世界で初めて。脊髄損傷を完全に回復する治療法はなく期待は大きいが、実用化に向けては課題も多い。「ヒトのiPS細胞の樹立から15年が経ち、さまざまな困難を乗り越えて1例目の手術ができて、うれしく思う」。会見でチームの岡野栄之・慶応大教授はそう話した。チームによると、移植は昨年12月。移植後の拒絶反応を抑えるため、免疫抑制剤を使っている。経過は順調で、転院して通常の患者と同じリハビリをしている。今後は1年間の経過を追い、リハビリのみの患者のデータと比較し、安全性や効果を確認する。今回の患者を含め、計4人の患者に移植する計画という。今回の臨床研究の対象は、事故などで運動や感覚の機能が失われた「完全まひ」の患者で、程度は重い。脊髄が損傷してから2~4週間後の「亜急性期」に移植する。脊髄損傷はけがや事故などが原因となり、毎年5千人が新たに診断され、国内には10万人以上の患者がいるとされる。リハビリ以外に確立した治療はないのが実情だ。脊髄損傷にくわしい、総合せき損センター(福岡県飯塚市)の前田健院長は、「私たちのからだはずっと再生していて、皮膚や骨などは入れ替わるが、神経細胞は再生しない。神経細胞となる候補を体に入れることで、細胞を再生させることができるかもしれないという点で、iPS細胞には期待できる」と話す。ただし、現時点ではチームは「主な目的は安全性の確認だ」と強調。移植する細胞の数も多くはない。効果をどう判定するのかには難しさも残る。研究に参加する患者は、通常の治療と同じように、移植後に保険診療の範囲でリハビリを続ける。チームの中村雅也・慶応大教授は、「実際に脊髄の再生が起こったとしても、リハビリをしっかり行うことによってのみ、機能的な意味を持つだろう」とリハビリの重要性を指摘する。それ故に、機能の改善がみられたときに、それがiPS細胞の効果なのか、リハビリの効果なのか、わかりにくい面はある。脊髄損傷の患者は、損傷から時間がたち、治療が難しくなった「慢性期」の人が多くを占めるが、今回の研究では対象とならない。岡野さんは、「慢性期の運動機能が残る患者に対する治験の準備も進めている」としている。iPS細胞の作製にはまだ数千万円かかるとされ、実用化に向けては、コストを下げる取り組みも必要となりそうだ。iPS細胞を使う再生医療は目の難病やパーキンソン病、軟骨などでも臨床研究が進む。昨年11月には、卵巣がんでの治験も始まった。ただ、まだ製品化されているものはなく、全体的に当初の目標からは遅れている。今回の研究も2019年2月に厚生労働省の部会で了承されたが、細胞の安全性を慎重に確かめたり、新型コロナの流行で延期になったりしたため、移植までに時間がかかった。再生医療に10年間で1100億円を投資する政府の大型予算が、22年度で終わる。世界は遺伝子治療に注目し、iPS細胞では「創薬」の分野も盛り上がりを見せている。臓器を置き換える、失った細胞を補うといった再生医療の分野がどこまで成果を出せるのか、正念場を迎えている。

*8-2:https://digital.asahi.com/articles/ASLCM5FJGLCMULBJ011.html (朝日新聞 2018年11月21日) 脊髄損傷を患者の細胞で回復、承認へ 「一定の有効性」
 厚生労働省の再生医療製品を審議する部会は21日、脊髄(せきずい)損傷の患者自身から採取した幹細胞を使い、神経の働きを回復させる治療法を了承した。早ければ年内にも厚労相に承認され、リハビリ以外に有効な治療法がない脊髄損傷で、幹細胞を使った初の細胞製剤(再生医療製品)となる。公的医療保険が適用される見通し。この製剤は札幌医科大の本望修教授らが医療機器大手ニプロと共同開発した「ステミラック注」。患者から骨髄液を採取し、骨や血管などになる能力を持つ「間葉系幹細胞(かんようけいかんさいぼう)」を取り出す。培養して細胞製剤にした5千万~2億個の間葉系幹細胞を、負傷から1~2カ月以内に、静脈から点滴で体に入れる。間葉系幹細胞が脊髄の損傷部に自然に集まり、炎症を抑えて神経の再生を促したり神経細胞に分化したりして、修復すると説明している。安全性や有効性を確認するため、本望教授らは2013年から医師主導の治験を実施。負傷から3~8週間目に細胞を注射し、リハビリをした患者13人中12人で、脊髄損傷の機能障害を示す尺度(ASIA分類)が1段階以上、改善した。運動や感覚が失われた完全まひから足が動かせるようになった人もいたという。国は根本的な治療法がない病気への画期的な新薬などを対象に本来より短期間で審査する先駆け審査指定制度を適用、安全性と一定の有効性が期待されると判断した。ただ、間葉系幹細胞の作用の詳しい仕組みはわかっていない。今回は条件付き承認で、製品化された後、全患者を対象に7年ほど、安全性や有効性などを評価する。再生医療に詳しい藤田医科大の松山晃文教授は「損傷後の早い段階で入れることで、神経の機能回復の効果を強めているのではないか。有効性を確認しながら治療を進めて欲しい」と話す。脊髄損傷は国内で毎年約5千人が新たになり、患者は10万人以上とされる。慶応大のグループはiPS細胞を使って治療する臨床研究を予定。学内の委員会で近く承認される。

*8-3:https://mainichi.jp/articles/20181122/k00/00m/040/135000c (毎日新聞 2018/11/21) 脊髄損傷治療に幹細胞 製造販売承認へ
 厚生労働省の専門部会は21日、脊髄(せきずい)損傷患者の運動や知覚の機能回復を狙う再生医療製品について、条件付きで製造販売を承認するよう厚労相に答申することを決めた。製品は患者の骨髄液から採取した幹細胞を培養し点滴で戻すもので、年内にも正式承認される。厚労省によると、脊髄損傷への再生医療製品の販売承認は世界初とみられる。製品はニプロが6月に申請した「ステミラック注」で、脊髄損傷から約2週間までの、運動や知覚の機能が全くないか一部残る患者が対象。最大50ミリリットルの骨髄液や血液を採取し、骨髄液に含まれる幹細胞「間葉系幹細胞」を約2~3週間で5000万~2億個に培養した後、静脈に点滴で戻す。(以下略)

<必要なのは受注統計か?>
PS(2022年1月24日):*9-1のように、①建設業の受注実態を表す国の基幹統計で、国交省が全国約1万2千社の建設業を抽出して受注実績の報告を毎月受け、集計・公表する受注実績データを国交省が書き換えた ②受注実績データの回収を担う都道府県に書き換えさせた ③その結果、建設業受注状況が8年前から一部「二重計上」となり過大表示された ④具体的には、業者が提出期限に間に合わず数カ月分をまとめて提出した場合に、その数カ月分合計を最新1カ月の受注実績のように書き直させていたが、毎月の集計では未提出の業者も受注実績を0にせず、同月に提出してきた業者の平均を受注したと推定して計上するルールがあり、それに加えて計上していた とのことである。
 統計はデータに手を加えると実態を示さなくなるため、①②③の根本的問題の土壌は、「事実を正確に全数調査せず、サンプル調査を用いた統計でよい」と考え、次第に「推定を含んでもよい」「二重計上してもよい」と考えるようになっていったいい加減さにある。また、経済分析に必要なデータは工事完了分に対応する支払実績であるため、業者が「工事完成基準」を採用している場合はそれに基づいて工事完成時に認識し、「工事進行基準」を採用している場合は工事の進行に基づいて報告してもらう方が正確で簡単だ。そして、大工事を「工事完成基準」でまとめて報告されると変動が大きくなりすぎて不都合であれば、業者に「工事進行基準」で毎月の実績を正確に出すよう要請すべきだったのだ。さらに、現在では、ITを使えば全数調査も容易であるため、全数調査した方が正確な上に簡単なのだ。また、受注実績が重要なのではなく、完成した工事分の支払いが行われることが経済状況の予測上重要なのであるため、④の「業者が提出期限に間に合わず数カ月分をまとめて受注実績を提出した場合、業者の平均を受注したと推定して計上した」というのでは、意味のある数値が出ない。そのため、大規模な工事を請け負う業者には、工事進行基準による実績を毎月出すよう要請すべきだったし、それは可能だった筈である。
 そもそも、大きな予算を使っているのに、驚くべきことに、国は「複式簿記を使って固定資産の数量と金額を正確に把握をする」という発想がなく、固定資産はじめ貸借対照表項目の把握が統計になっているのだ。つまり、正確なデータに基づいた維持管理や新設を行っていないということで、これが予算編成の根本的な問題なのである。そのため、「正確なデータを迅速に出す」という発想に変えれば、*9-2の「徹底解明」や*9-3の「自浄作用働く改革」も容易にできるのだ。従って、ここで充実が必要なのは、*9-4のような統計の専門家ではなく、会計の専門家とそれをITやデジタルで実現できる専門家である。

*9-1:https://digital.asahi.com/articles/ASPDG64YYPDGUTIL03X.html (朝日新聞 2021年12月15日) 国交省、基幹統計を無断書き換え 建設受注を二重計上、法違反の恐れ
 建設業の受注実態を表す国の基幹統計の調査で、国土交通省が建設業者から提出された受注実績のデータを無断で書き換えていたことがわかった。回収を担う都道府県に書き換えさせるなどし、公表した統計には同じ業者の受注実績を「二重計上」したものが含まれていた。建設業の受注状況が8年前から実態より過大になっており、統計法違反に当たる恐れがある。この統計は「建設工事受注動態統計」で、建設業者が公的機関や民間から受注した工事実績を集計したもの。2020年度は総額79兆5988億円。国内総生産(GDP)の算出に使われ、国交省の担当者は「理論上、上ぶれしていた可能性がある」としている。さらに、月例経済報告や中小企業支援などの基礎資料にもなっている。調査は、全国の業者から約1万2千社を抽出し、受注実績の報告を国交省が毎月受けて集計、公表する。国交省によると、書き換えていたのは、業者が受注実績を毎月記し、提出する調査票。都道府県が回収して同省に届ける。同省は、回収を担う都道府県の担当者に指示して書き換え作業をさせていた。具体的には、業者が提出期限に間に合わず、数カ月分をまとめて提出した場合に、この数カ月分の合計を最新1カ月の受注実績のように書き直させていた。一方、国交省による毎月の集計では、未提出の業者でも受注実績をゼロにはせず、同月に提出してきた業者の平均を受注したと推定して計上するルールがある。それに加えて計上する形になっていたため、二重計上が生じていた。複数の国交省関係者によると、書き換えは年間1万件ほど行われ、今年3月まで続いていた。二重計上は13年度から始まり、統計が過大になっていたという。同省建設経済統計調査室は取材に、書き換えの事実や二重計上により統計が過大になっていたことを認めた上で、他の経済指標への影響の度合いは「わからない」とした。4月以降にやめた理由については「適切ではなかったので」と説明。書き換えを始めた理由や正確な時期については「かなり以前からなので追えていない」と答えた。同省は、書き換えの事実や、過去の統計が過大だったことを公表していない。国の基幹統計をめぐっては、18年末に厚生労働省所管の「毎月勤労統計」が、決められた調査手法で集計されていなかったことが発覚。この問題を受けて全ての基幹統計を対象とした一斉点検が行われたが、今回の書き換え行為は明らかになっていなかった。
*基幹統計とは
 政府の統計のうち特に重要とされるもので、統計法に基づいて指定されている。政策立案や民間の経営判断、研究活動などに幅広く使われる。国の人口実態などを明らかにする「国勢統計」や経済状況を示す「国民経済計算」など53ある。正確な集計が特に求められるため、同法は調査方法を設定、変更するには総務相の承認が必要と定めている。調査対象となった個人や企業は回答する義務がある。作成従事者が真実に反する内容にすることを禁じ、罰則もある。
【視点】生データを加工 真相究明が急務
 統計は二つの工程で作られる。生データの取得と、集計作業だ。一昨年に発覚した毎月勤労統計の問題では、取得方法にルール違反があった。全数調査をせず、サンプル調査に勝手に変えていた。それでも、生データに手を加えるような行為はなかった。その意味で今回の問題はより深刻といえる。統計は政策立案の基礎となる。言い換えれば、税金の使い方を決める材料だ。だから国は予算と権限を使い調べている。その生データに手が加えられていたならば、統計は社会を映す鏡といえなくなる。書き換えは遅くとも10年ほど前から続いていたという。国交省はなぜ書き換えを始めたのか。誰も問題だと思わなかったのか。なぜ公表しなかったのか。真相究明が急務だ。

*9-2:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/898504 (沖縄タイムス社説 2022年1月22日) [建設統計書き換え] 幕引きせず徹底解明を
 政府の基幹統計の一つ「建設工事受注動態統計調査」の書き換え問題で、国土交通省幹部ら10人が処分された。長年にわたるデータの不適切な扱いには不明な点が残る。再発防止に向けた課題もある。処分で幕引きせず、問題の検証を続けてもらいたい。国交省は、毎月の提出期限を過ぎて過去の調査票が出された場合、最新月分として合算するよう、都道府県に書き換えさせていた。指示は遅くとも2000年には始まっていた。その後、国交省側が推計値を計上する処理に変更し、同一業者の受注に二重計上が生じた。国交省の第三者委員会が先週公表した報告書で浮かび上がったのは、事態を正す機会は幾度かあったにもかかわらず、事なかれ主義や問題の矮(わい)小(しょう)化によって隠(いん)蔽(ぺい)とも見える対応を重ねた組織の姿だ。報告書によると、厚生労働省の毎月勤労統計の不正を受けた19年の一斉調査では、統計室の担当係長が書き換え問題を総務省に報告するよう進言したが上司が取り合わなかった。同年6月にも課長補佐が書き換え中止を訴えたものの室長らは是正に動かなかった。11月に問題を指摘した会計検査院に対しては、合算はやむを得ない措置などと取り繕った。総務省統計委員会には別統計の推計方法見直しに便乗して報告するとした。報告書は「幹部職員に責任追及を回避したい意識があった」ことが原因だとした。ガバナンス不全は明らかだ。
■    ■
 政府の基幹統計は、行政の政策立案や学術研究などに利用される基礎資料で国民の財産だ。正確さが肝心なのは指摘するまでもない。統計を巡っては18年に厚労省の毎月勤労統計で不正が発覚し厳しい批判を浴びた。その時に再発防止対策の柱となったのが、統計担当から独立した「統計分析審査官」の新設だ。各省庁へ派遣されたが、機能していないことが今回の件で露呈した。政府の統計データへの信頼は大きく揺らいでいる。総務省は53の基幹統計を改めて点検する意向だ。今度こそうみを出し切らなければ信頼回復は遠い。第三者委の調査は約3週間と期間が短く限界がある。「大きな数字を公表する作為的な意図は認められない」と報告したが、書き換えが国内総生産(GDP)の算出に影響した可能性がある。実際はどうだったのか国会で解明すべきだ。
■    ■
 デジタル化が進み客観的データの重要性は増す一方だ。だが、統計行政は人員や予算削減の対象になりやすく重視されているとは言えない。報告書は、統計室の慢性的な業務過多や、職員が統計について十分な知識を持っていない点が問題の背景にあるとも指摘した。改善策として統計の専門家をアドバイザーに任命し、定期的に打ち合わせし相談する体制の構築を提案している。チェック機能の強化も欠かせない。抜本的な改革へ向けた議論を求めたい。

*9-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/800316 (佐賀新聞 2022年1月22日) 建設統計書き換え、自浄作用働く改革を
 建設受注統計の書き換え問題で国土交通省幹部ら10人が処分された。政府統計のまとめ役である総務省も事務次官ら7人が厳重注意などを受けた。これまでの調査で、国交省は問題に気付きながら、それを隠すような対応をしてきたことが判明している。政府が作成する統計全体の信頼を傷つけた両省の責任は重く、処分は当然だ。政府、日銀などの公的な統計は経済情勢を判断する大きな材料になり、投資家や金融市場への影響も大きい。多くの企業や個人の協力で作られる統計は国民全体の財産でもある。2018年には厚労省でも統計の不正が発覚した。間違いがあれば訂正し、公表するという当たり前のことがなぜできないのか。おざなりな反省や対策ではすまない。政府には、よく利用される基幹統計だけでも53あり、全てにミスがないとは言い切れない。今後検討される再発防止策は、間違いが見つかるのを前提とし、各省庁の統計部門や政府全体で自浄作用が働くように改革することが肝心だ。国交省の調査報告書などによると、企業が提出した調査票の書き換えは遅くとも00年には始まっており、受注推計値と合算する二重計上が13年から始まった。書き換え問題が会議で持ち出され、「触れてはならない雰囲気」になったこともあったようだ。厚労省の毎月勤労統計の不正を受けて実施された19年1月の一斉点検では、係長が総務省に問題を報告するよう進言したが、上司は取り合わなかった。同6月にも課長補佐が指摘したが、室長らは是正に動かなかった。同11月には会計検査院が受注統計の問題点を指摘し、総務省に相談するよう促したが、担当室は時間稼ぎに終始した。総務省の統計委員会には、別の統計の資料に書き換えの説明を紛れ込ませて提出し、承認を受けたように装ったという。現場に近い係長や課長補佐の意見を無視し、外部からの指摘には耳をふさぐ幹部職員の姿勢は、あきれるばかりだ。「事なかれ主義」と責任回避ばかりが際立ち、正しい数字に直していく姿勢はみじんも感じられない。統計は専門知識に基づいて設計し、正確な集計作業を日々続けねばならず、本来厳しい仕事だ。統計要員の削減や政策立案に偏った人員配置が、問題の背景にあったとも指摘されている。日常業務に追われる中で、重要統計を修正するのは重い負担になる。過去の担当者を含め、処分される可能性を感じたのかもしれない。担当幹部が正面から問題に向き合わなかった理由をはっきりさせ、再発防止策に生かす必要がある。各省庁の統計部門の強化も欠かせない。調査方法や分析の専門家が政府に十分いるわけではない。大学、シンクタンク、民間企業の人材に一時的に出向してもらい、政府統計の質を高める必要がある。統計部門の風通しをよくし、担当する公務員の士気を高めることにもつながるだろう。各省庁の統計を定期的に点検するのはもちろん、現場からの指摘を受け入れ、問題点を審査する部署を統計部門の外に設けることを考えるべきだ。各種の統計は経済動向の分析や政策立案の基礎になる。与野党は国会で統計問題の集中審議を実施し、再発を防ぐ対策を徹底的に検討してほしい。

*9-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220122&ng=DGKKZO79462930S2A120C2EA1000 (日経新聞社説 2022.1.22) 統計専門家の充実が急務だ
 国土交通省は21日、建設統計を不正に書き換えていた問題で関係する幹部を処分した。政策立案の根幹である統計への信頼を揺るがした責任は重く、処分は当然だ。今回の問題は統計を軽視する風潮が霞が関にはびこっていることを浮き彫りにした。組織の風土を改めるとともに、統計の専門家を充実させることが急務である。第三者の検証委員会によると、担当者は書き換えを問題視して見直しを進言していた。しかし、上司は見て見ぬふりで放置したり、表ざたにしないよう蓋をしたりしていた。コンプライアンスやガバナンスを欠いた組織的な隠蔽であり、言語道断だ。修正をためらう無謬(むびゅう)主義が霞が関に根強いことがうかがえる。誤りを正せば前任者らの責任を問うことになり、組織として支払うコストが大きくなるという意識が働くのだろう。物事を変える労力が大きくなりがちな組織風土は見直さねばならない。統計を重んじる組織にするには専門家を充実させ、その仕事を尊重することが必要だ。専門家の仕事ぶりを通じて幹部と一般職員も常に統計やデータを重視して政策立案にあたる姿勢を身につける。そのように職員の意識が変われば組織風土として定着しよう。官庁統計をつかさどる総務省も不正を見抜けなかったとして幹部を処分した。統計の司令塔であるべき組織にもかかわらず、専門家でない職員も配置され、役割を果たせていなかった。ここでも専門家の充実が求められる。専門家の充実と職員の意識改革が大事なのは、デジタル化も同じだ。デジタル庁を伴走役にし、全省庁でだれもがデジタルを意識するようになることが、質の高いデジタル政府への近道になる。統計とデジタル化は、データを生かした効率的で機能的な政府の両輪であり、実現には政治の役割が大きい。慢性的に業務が多く、デジタル化が進んでいない状況の改善も含め、霞が関改革に政治は指導力を発揮すべきである。

<オミクロン株とワクチンの効果、集団免疫の獲得など>
PS(2022年1月25日追加):*10-1に、オミクロン株の特徴は、①感染力はデルタ株の3~5倍 ②米国のデータで潜伏期間が約3日で、デルタ株の約4日より短く、感染者が増えやすい ③沖縄で「症状はこれまでの新型コロナよりインフルエンザに近い」と話す医師もいる ④香港大の実験で「気管支で24時間で増える速さはデルタ株などの70倍だが、肺では10分の1以下 ⑤英国で、12月下旬の段階で入院リスクがデルタ株に比べて50~70%低いとのデータも出ている ⑥重症者が少ないのは病原性が弱いためか、ワクチンや過去の流行で免疫があるためかは不明 ⑦感染者が増えれば、重症者は増える と書かれている。
 ワクチン接種済や感染・回復済などでヒトの免疫が強い場合、「ある人に感染したら、その人の免疫で死滅させられないうちに素早く増殖して次の人に感染する」という変異がウイルスが生き残る確率を上げるため、①②③④⑤の特色を持つ変異株が流行するのは尤もで、⑥は、ワクチン接種や過去の流行による免疫獲得がある集団内で生き延びるためのウイルスの変異だと思う。また、⑦も事実だろうが、*10-2の濃厚接触者となった介護職員だけでなく、*10-3のような濃厚接触者とされる一般人も、ワクチンを2回接種し、無症状で、検査を受けて陰性なら開放してよく、潜伏期間が約3日のウイルスに対して、検査もせずに10日間待機させるのは、科学的でないし、長すぎるだろう。
 WHOのハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は、*10-4のように、「ワクチンと多くの人が感染するという理由で、欧州での新型コロナのパンデミックは終わりが近いかもしれない」と語られ、英国・スペインなどはオミクロン型の重症化率が従来より下がったこと等を理由に、感染者の全件把握や隔離をやめられるか分析しているそうで、私は、こちらの方が科学に基づいた迅速な検討だと思う。なお、日本は、マスク・ワクチン・治療薬などの医療用機材を外国産に頼り、支払ばかりかさませながら利益チャンスを逃しているが、何で稼いで食べていくつもりか? これらの結果になる理由も、改善すべき重要なポイントなのである。

  
2022.1.12Afpobb  2022.1.14東京新聞   2022.1.23日経新聞  2021.12.30時事

(図の説明:1番左の図のように、新型コロナのオミクロン株は、2022年1月6日時点で、「デルタ株と比較して、感染力は強いが、重症度は低く、ワクチンを2回接種した人の感染による入院リスクは72%とされていた。そして、左から2番目の図のように、東京都の重症化率は、確かに第3波と比較して約1/6、第5波と比較して約1/4になっており、この差は、オミクロン株の特性もあるだろうが、ワクチン接種が進んでヒト側の抵抗力が高まっていることにもよると思われる。なお、右から2番目の図には、感染者が倍増した日数を示して「東京の感染ピークはこれから」と書かれているが、1番右の図のように、英国・米国の感染者数が10万人単位であるのに対して、日本の感染者数は2桁小さい1000人単位であり、感染者にはワクチンを接種していない子どもが多いため、一般の人が大騒ぎして行動制限し過ぎる必要はないと思われる)

*10-1:https://www.yomiuri.co.jp/medical/20220113-OYT1T50051/ (読売新聞 2022/1/13) オミクロン株特徴は?…変異30か所、感染力5倍に 
Q オミクロン株の特徴は。
A 東京大など国内の研究チームの分析によると、英国や南アフリカでの感染力は、日本で昨夏流行したデルタ株の3~5倍に上る。米国のデータでは潜伏期間が約3日で、デルタ株の約4日より短く、感染者が増えやすい。ウイルス表面にある突起のたんぱく質が約30か所変異し、うち半数が人間の細胞につく部位の変異だ。デルタ株より細胞に侵入しやすくなった可能性がある。
Q 症状は。
A 沖縄県で1月1日までに診断された50人の分析(複数選択あり)では、37・5度以上の熱75%、せき60%、 倦怠けんたい 感52%、のどの痛み46%、鼻水や鼻づまり38%、頭痛33%、呼吸困難8%、味覚・嗅覚障害2%などだ。沖縄では「症状はこれまでの新型コロナよりインフルエンザに近い」と話す医師もいる。
Q 重症化しにくいのか。
A 香港大の実験で、気管支で24時間で増える速さはデルタ株などの70倍だが、肺では10分の1以下だった。動物実験でも肺炎が起きにくいようだ。英国では12月下旬の段階で入院リスクがデルタ株に比べ50~70%低いとのデータも出ている。
Q 安心できるのか。
A 重症者が少ないのは病原性が弱いためか、ワクチンや過去の流行で免疫があるためかは不明で、警戒は怠れない。新型コロナは軽症でも倦怠感や息苦しさなどの後遺症が多いが、オミクロン株の後遺症は、ほとんどわかっていない。感染者が増えれば、重症者は自然に増える。3密回避、手洗い、マスクなどの基本対策を徹底する必要がある。

*10-2:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220125-OYT1T50183/ (読売新聞 2022/1/25) 濃厚接触者の介護職、「陰性」なら待機期間中も勤務へ…沖縄の特例を全国に拡大
 政府は25日、新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者となった介護職員について、毎日の陰性確認などを条件に待機期間中の勤務を特例的に認める方針を固めた。変異株「オミクロン株」の感染急拡大で、介護施設の運営が困難となる可能性があるためだ。厚生労働省は既に、感染が深刻な沖縄県でそうした特例を認めている。後藤厚労相は同日の記者会見で、「高齢者施設全体への対応を検討する必要もある」と述べ、全国への拡大を検討する必要性を強調した。沖縄では毎日の検査での陰性確認に加え、ワクチンを2回接種したことや無症状であることなどが勤務の条件となっている。待機の解除は最短で6日目。医療従事者は同様の特例が全国で認められている。

*10-3:https://digital.asahi.com/articles/ASQ1T6VDDQ1TUTFK00P.html?iref=pc_special_coronavirus_top (朝日新聞 2022年1月25日) 首相、机たたき「放置はしない」 濃厚接触者めぐる追及に反論
 新型コロナウイルス対応の「まん延防止等重点措置」の対象に18道府県が加わった25日、衆院予算委員会では政府対応をめぐり、激しい論戦がかわされた。普段は淡々と答える岸田文雄首相が、机をたたきながら反論する場面もあった。立憲民主党の山井和則氏が取り上げたのが、子育て家庭で子どもが新型コロナに感染した場合だった。感染者である子どもが原則10日間隔離され、さらに濃厚接触者となった親は、感染者である子どもと最終接触日を起算日に10日間の待機期間を求められる。そのため山井氏は「親は20日間働けない。非常に深刻な問題だ」とし、濃厚接触者の待機期間短縮を求めた。首相は「科学的な見地に基づいて確定している」と政府対応への理解を求め、期間短縮を「検討していく」と応じた。だがこの「検討」という言葉を境に論戦は過熱。山井氏は「首相の答弁は検討するが多い。検討すると言っている間に事態は逼迫(ひっぱく)する」と決断を求めると、首相は「検討する検討するばかりではないか、と言ったが、問題意識をもって努力を続けてきた」「大事なのは国民の納得、安心だ」と応戦した。山井氏が「20日間仕事をできない現状を放置するのか」とさらに追及すると、首相は右拳で机をたたきながら「放置はいたしません」と色をなして否定。山井氏は今週中の決断を促したが、首相は「国民の生命安全がかかった問題だ。期限を区切って申し上げることは控えなければいけない」と応じなかった。3回目のワクチン接種も遅れているとやり玉に挙がった。菅政権下で最も接種回数が多かった時期に比べ、岸田政権で回数が極端に減っていることを挙げ、山井氏は「1日100万回接種」を掲げた菅義偉前首相のように接種目標を定めないのか、と尋ねた。首相は「接種が本格化するのは1月、2月にかけての時期だ」と説明したが、目標については「最初から1日何人というのではなく、できるだけ多くの方に接種をしてもらう体制を作っていきたい」とし、明確にはしなかった。共産党の宮本徹氏は、不足する抗原定性検査キットについて「昨年の夏以降、確保についてどういう努力をしてきたのか」とただした。首相は「昨年までの使用は今の状況と比べるとかなり低調だった」と振り返りつつ、政府として増産の要請を行った年明けの状況を説明した。

*10-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220124&ng=DGKKZO79483730U2A120C2MM0000 (日経新聞 2022.1.24) 「欧州、感染流行終わり近い」 WHO幹部、集団免疫に言及
 世界保健機関(WHO)のハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)について「欧州での終わりは近いかもしれない」と語った。仏AFP通信の取材に答えた。今後多くの人が免疫を獲得して「集団免疫」を達成し、危機の度合いが下がる可能性に言及した。
WHO幹部がパンデミックの終わりに言及するのは異例だ。欧州では急速に変異型「オミクロン型」が感染を広げており、3月1日までに人口の6割が感染するとの試算がある。クルーゲ氏は「オミクロン型が落ち着いたら、数週間か数カ月、集団免疫の状態になるだろう。ワクチンのおかげでもあり、多くの人が感染するからでもある」と説明した。クルーゲ氏は「年末にかけてコロナ流行が再開するかもしれないが、必ずしもパンデミック(と言うほど)ではない」と続けた。ただコロナを危機の水準が下がった状態である「エンデミック」と今すぐ呼ぶことには反対した。「エンデミックというのは我々が次に何が起こるか予想できる状態だ。だが新型コロナウイルスは予想外の変化をみせてきた。警戒を続けなければいけない」と表明した。英国やスペインなどはオミクロン型の重症化率が従来より下がっていることなどを理由に、コロナをエンデミックと定義する検討を始めている。感染者の全件把握や隔離をやめられるか分析している。医療関係者の負担を下げ、隔離者の増加で社会がまひするのを防ぐ狙いがある。

| 経済・雇用::2021.4~2023.2 | 01:24 PM | comments (x) | trackback (x) |

PAGE TOP ↑