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2021.2.8~15 経済から見た日本の医療・介護制度は、重荷ではなく成長産業である (2021年2月18、19、20、22、24、27日、3月1、4、5日に追加あり)
 
2019.12.21毎日新聞 2020.4.8 2020.5.27時事   2021.1.29北海道新聞 

(図の説明:1番左の図のように、2020年度の本予算は102兆6,580億円で、消費税を増税したのに、9兆2,047億円は債務純増だった。さらに、左から2番目の図のように、新型コロナ対策として第1次補正予算が16兆8,057億円組まれたが、そのうち9兆5,000億円あまりは国民に自粛を求めたため成り立たなくなった企業の救済資金だった。また、右から2番目の図のように、第2次補正予算が31兆9,114億円組まれ、そのすべてが自粛による倒産危機に備える支出だった。さらに、一番右の図のように、19兆1,761億円の第3次補正予算が組まれて、2020年度の支出合計は170兆5,512億円になった。しかし、しっかり検査と隔離をし、新型コロナ関係の機器・治療薬・ワクチンの開発をした方が、少ない支出でその後の経済効果が大きかっただろう)

  
  2020.12.21時事      2020.12.21毎日新聞   2020.12.21毎日新聞

(図の説明:現在、審議中の2021年度予算案は、左図のように、5兆円の新型コロナ対策予備費を計上して、総額106兆6,097億円となっており、このうち43兆5,970億円を新規国債発行で賄っている。また、中央の図は、2020年度第3次補正予算と合わせて、もう少し詳しく使途と財源を記載したグラフだが、より詳しい内訳があった方が本当の姿が見えやすい。しかし、これらの歳出の結果、右図のように、2020年度は歳出と国債残高が跳ね上がり、2021年度の財政も赤字続きになりそうである)


    FeelJapan         2021.2.1時事      2019.10.16みんなの介護   

(図の説明:左図のように、日本の名目経済成長率の大きな流れは、低賃金を武器に加工貿易で欧米先進国に輸出しながら戦後の荒廃した国土を復興していた第1期の9.1%から、オイルショックを境に第2期の4.2%に下落し、バブル崩壊を境に第2期の4.2%から第3期の1.0%に下落したことがわかる。これは、まずエネルギー価格が日本経済の大きな弱点であり、バブルで膨らませていた名目経済成長率もバブルが消えると1.0%前後になったということを示す。それに加え、中央のように、消費税増税による物価上昇や非正規化・高齢化による低所得者割合の増加があり、近年の実質経済成長率は0%近傍だった。しかし、右図のように、実質所得が減少しているのは日本だけで他の先進国は大きく増加しており、その理由は、日々、製品の高付加価値化や本物の生産性向上に取り組んでいるからである)

(1)医療崩壊の理由は、政治・行政・メディアの不勉強と無知にあること
1)2021年度当初予算の肥大と税収源
 現在、予算委員会で議論している2021年度当初予算案は、*1-1のように、2020年度補正予算と連動し、歳入の40・9%を新規国債発行(借金)に依存しながら肥大化している。これは、新型コロナ禍で歳出拡大圧力が強まり続けたせいとのことだが、コロナ対策として強制的に休業させ損害を出させた上に税収を落とし、日本経済の起爆剤などとして生産年齢人口に対するばら撒きを続けるのはあまりに愚かだ。

 また、「日本における財政事情の悪化は、高齢化に対する社会保障費の伸びによる歳出拡大の影響が大きい」などと必ず言われるが、これは予測可能で現在の高齢者が保険料を支払っていた期間に引当金を積んでおくべきだったのに、国は現金主義会計を変更せずにひたすら浪費してきたために起こった国の責任なのである。そのため、政治・行政・メディアが、まるで高齢者に責任があるかのようなことを言うのは、いっさい止めるべきだ。

 さらに、日本経済が低迷して税収が回復しないのは生産年齢人口の生産性の低さによるのであり、そうなった理由は、①エネルギー ②資源 ③賃金 等の高コスト構造をいつまでも変えずに現状維持に汲々としていたことが原因だ。私は、①②については、1990年代から解決策を提示していたが、外国だけが2000年代から本気で始めて日本を追い抜いた事実があるのだ。

 なお、③の賃金は、イ)付加価値を上げるか ロ)生産性を上げるか ハ)賃金を下げるか しか選択肢はないので、例えば新型コロナを例にとれば、イ)については、役に立つ期間内に検査法・治療薬・ワクチンを開発・実用化・販売する方法があるが、先進諸外国はそうしているのに日本は大学への立入を禁止して試験研究を行えなくしたという政治・行政の愚かさがある。

 ロ)についても、新型コロナを例にとると、米国の地方大学が唾液を使った検査法の開発を行い、唾液の方がウイルスを多く含むという結果を出したにもかかわらず、いつまでも唾液では結果が疑わしいかのような非科学的な報道をメディアが行い、日本における検査の生産性を低いままにしておく世論形成を行ったのは生産性の向上に逆行していた。

 ハ)については、日本では物価を上げて実質賃金を下げており、このようにして実質賃金を下げている国は日本だけなのだが、これは政治・行政の失敗を国民に皺寄せしているということだ。このような事情があるため、消費が減って法人税・所得税の税収が減るのは当然で、それをカバーするために消費税で薄く広く課税すれば所得に反比例して課税することになって、さらに消費が減る。従って、私は、消費税増税のような筋の悪い法案に賛成したことは一度もない。

2)新型コロナの影響による税収大幅減
 1)で述べた通り、日本の新型コロナ対策は問題を解決するための努力をせず、時短や休業を進める宣伝ばかりをこぞって行ったため、*1-2のように、所得が減少したのに応じて各税収が大きく減少し、2020年度は63・5兆円見込んでいた税収が50兆円台前半に落ち込むそうだ。

 しかし、それだけではなく、国の愚策によって国民に人為的にもたらされた減収は、全額を国が負担して還付すべきで、2020年度の法人税や2020年の所得税申告書とそれ以前(前年又は過去3年分で既にある)の申告書、同期間に受けた支援金額をまとめた書類を準備すれば、要還付額の計算は正確で容易なのである。

 また、減収分の全額が還付されることが明らかになれば、銀行から借り入れを行うこともでき、「GoToキャンペーン」などで不公平に特定の業種だけを支援する必要はなくなる。そして、そのくらいのことを要求しなければ、国の不作為とその結果の国民への皺寄せは、今後も続くと思われるのだ。

3)医療崩壊は、なぜ起こったのか
 新型コロナ感染拡大の第3波で医療提供体制逼迫・医療崩壊の危機という声が、*1-3はじめ知事会やメディアで大きかったが、医療提供体制逼迫・医療崩壊の危機が本当に新型コロナ感染拡大によって起こったのかと言えば、そうではない。

 具体的には、*1-3に、①緊急事態宣言が出された都府県でコロナ用病床の使用率が高止まり ②重症者の多い東京都で入院先や療養先が決まらない人が多い ③救急患者の搬送困難事案が多発 ④コロナ患者受け入れに伴って通常医療の入院・手術を減らした医療機関も ⑤日本の人口当たり病床数は世界のトップ水準でコロナ患者数は欧米に比べて圧倒的に少ないのに医療崩壊が危惧される原因の1つは、コロナ患者の受け入れが公立・公的病院に偏っている ⑥民間病院は中小規模が多く感染症対応が難しいという事情あり ⑦中小民間が回復期の患者を引き受けるといった役割分担に積極的に取り組んでほしい ⑧軽症・無症状者は自宅や宿泊施設で療養するが、容体が悪化し死亡する事例が昨年末から増え、自宅療養中だった男性の容体が急変して死亡した と書かれている。

 このうち①②③④は、軽症者・無症状者の隔離に病院を使っていることが原因であり、⑧の軽症者・無症状者は医師・看護師の関与の下、宿泊施設で隔離・療養させる必要があるのだ。また、家庭の事情があって軽症以上でも自宅療養する場合には、その人は患者であって(電話の繋がらない)保健所への連絡や家事は負担になるため、訪問介護(家事支援)・訪問看護・往診などのサポートを受けることができなくてはならないのである。

 また、⑤⑥⑦については、(文科省管轄の)大学病院は大規模でエリア分けが可能であるため、中小の民間病院より先に大学病院で中等症・重症の患者を受け入れるようにすべきで、そうした方が研修医の経験にも資する。さらに、疾病は新型コロナだけではないため、「病院に入院したら新型コロナに感染した」という状態では困るのであり、病院の得意分野に応じて役割分担すべきなのだ。

 なお、感染症は新型コロナだけではないのに、病気になると大部屋で空気や共同トイレから感染しやすい入院施設に入らなければならないのでは、免疫力の強い人しか入院できない。しかし、病気になると誰でも免疫力が落ちるため、入院施設はすべて陰圧の個室にし、酸素吸入機器等の必要な設備をつけておけば、新型コロナでもこれほど大騒ぎする必要はなかった筈である。

 つまり、⑤の「日本の人口当たり病床数は世界のトップ水準で、コロナ患者数は欧米に比べて圧倒的に少ないのに、医療崩壊が危惧された」というのは、異なる診療科なので感染症に対応できなかったり、病室が粗末でスタッフも少ないため感染力の強い感染症患者を受け入れられなかったりしたということで、普段からやっておくべき地域医療計画ができておらず、いざという時の入院施設がお粗末だったということなのである。

4)本来やるべきだった新型コロナ対策と検査
 広島県の湯崎知事は、1月29日、*1-4-3のように、広島市中心部4区の全住民と就業者合わせて最大80万人を対象とする新型コロナウイルスの無料PCR検査を実施すれば死者や重症者の発生が減り、結果として11~19億円の医療費を節約できるとの試算を発表されたそうだが、私もそのとおりだと思う。

 この検査は、無症状者・軽症者が対象で任意だが、少なからぬ死者・重症者・中等症者の発生を予防でき、「プール方式」を利用すれば比較的迅速かつ安価で検査を行うことができる。他の地域も、同様に検査を行って無症状の陽性者に一定期間の自宅待機を要請すれば、早めに感染拡大の芽を摘み取り、経済的な損失を最小限に抑えることができると、私も考える。

 そのような中、*1-4-1のように、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・理学療法士等の国家資格を持つ国会議員が参加する自民党新型コロナ対策医療系議員団の本部長を務めておられる冨岡衆議院議員が、「①コロナによる医療体制の逼迫は、東京はじめ3大都市圏はパンク状態で限界」「②人工心肺装置(ECMO)をつけると必要な人手が倍になる」「③過重労働で人手が足りず、勤務日程が組めない事態が危惧される」「④感染拡大状況は地域によってバラツキがある」「⑤全体を見渡して空いているところに素早く患者さんを搬送するシステムが必要」「⑥全国各地の自衛隊病院を専門病棟として活用する工夫も必要」「⑦経済状況の悪化に伴う自殺者の増加も起きる可能性がある」「⑧LAMP法(*1-4-2参照)などの短時間検査を導入し、検査数を増やして無症状の若年感染者の発見に全力をあげるべき」「⑨オゾン・紫外線・高機能フィルターなどで汚染された空気の除菌をすべき」等と言っておられる。

 しかし、⑧の導入も含め、早急になるべく簡便で早く結果の出る検査を充実していれば、①②③④⑤⑥⑦の状態は防げた筈なので、「まだこんなことを言っているのか」と私は思った。また、⑨は世界で需要があるのに、日本にはこれを作れる会社がないのだろうか? そして、②のECMOや酸素吸入は対症療法でしかないため、抗体医薬を含む治療薬を素早く承認すれば治療期間が短くなり、ECMOを使わなければならない患者は増えず、助かる人が増えて、病院の負担は減った筈である。

 さらに、⑤の空いているところに素早く患者さんを搬送するシステムは、私が衆議院議員だった2005~2009年に、夫(脊椎・脊髄外科医)のアドバイスを受けて全国にドクターヘリのシステムを導入したため、既にある。従って、搬送時の工夫さえすれば、都会・離島・山間部を問わず④⑤はすぐできる筈で、⑥の自衛隊病院も使えばよいため、何故、迅速にそういう対応をしなかったのか不思議なくらいだ。

5)物質を介する感染と変異株
 島津製作所が、*1-5のように、ノロウイルス向けの検査キット技術を応用して物質の表面に付着した新型コロナウイルスを検出する試薬キットを発売し、PCR検査法により100分でパソコン・ドアノブ・水道の蛇口などを調べて衛生管理に役立てられるそうでよいことだ。

 ウイルスの変異株はウイルスが存在する限り常に発生しており、多くの人がマスクをして混雑を避けていれば、空気感染は減少するので物質に付着して長く生存する能力がウイルスの感染力になり、その方向に変異した株が増えることになるだろう。そのため、物質の表面に付着した新型コロナウイルスを検出する試薬キットはより重要になると思われる。

 また、私は、外国に行った時は、その国の人の生活を感じられる市場やデパートに必ず行くのだが、欧米で日本よりも新型コロナの感染者が多い理由の1つに、食品の売り方があると思う。例えば、果物などを沢山積み誰もが触って選べる売り方は普段なら豊かな感じがするが、ここに新型コロナウイルスが付着して感染する確率は高い。その点、日本のスーパーはパッケージに包装して販売しているため、洗剤で洗えない食品にウイルスが付着する機会が少ないのである。

(2)社会保障は無駄遣いではなく、他に多額の無駄遣いをしながら社会保障給付を抑制することこそ愚策である
1)国の会計処理について
 国立社会保障人口問題研究所は、*2-1-1のように、2018年度の社会保障給付費(社会保険料と税金を主財源とした医療・年金・介護等の給付合計)が121兆5408億円で過去最高を更新したと発表したそうだ。

 しかし、まず、2020年10月16日に書かれた記事に利用できる財務情報が2019年度のものではなく2018年度のものだという事実が、国民が支払った金に対する政府のAccoutability(説明責任ではなく受託責任)と使途に関する開示が如何に軽視されているかを示しているのである。

 一般企業の決算なら、各国に多数の子会社を持つ多国籍企業でも、2019年度(2019年4月~2020年3月)の決算なら3カ月以内の2019年6月末までに終了して株主総会まで終わっていなければならない。また、法人税申告書の提出期限は決算日から2カ月後の5月末で、延長可能な期間は最大でも4カ月であるため、遅くとも9月末が提出期限になる。

 また、内訳を細かく書かずに単に総額が増えた減ったと言っているにすぎないため、①当然増えるべくして増えた金額 ②政策の誤りによって支出した金額 ③運用時に無駄遣いをして支出した金額 の区別がつかない。これは、為政者にとっては責任逃れに都合がよいが、国民にとってはいくら負担しても「足りない」と言われる不都合な状態を作っており、一般企業なら、財務管理ができずに必要な支出と放漫経営による支出を混同しながら倒産していくケースだ。

2)年金について
 年金については、*2-1-2のように、0.8%増の55兆2581億円などと増えたこと自体を問題視し、高齢者への給付削減という「痛み」を伴う改革への踏み込みの甘いのが大きな課題とするメディアの論調が多い。

 そして、その帰結として、政府は、*2-3-2のように、「マクロ経済スライド」と称する年金支給額の伸びを物価や賃金の伸びより抑制する仕組みを作り、実額年金額を国民に気付かれないように次第に目減りさせるという悪知恵を働かせて、*2-3-1のように、厚労省が現役世代の賃金水準を年金受給額に反映させるルールを適用し、2021年度の公的年金受給額を20年度比で0.1%引き下げると発表したのだ。

 さらに、その理由を「日本の公的年金は現役世代の保険料を高齢者の給付に充てる仕送り方式で、少子高齢化が進むと現役世代の負担が増えるから」などとしているが、定年年齢は55歳だったころから60歳・65歳へと上昇しているため、その高齢者が働いていた間に引当金を積んでいれば寿命が10年くらい伸びても全く問題はなかった筈だ。にもかかわらず、いつまでも賦課課税方式を改めず、付加価値や生産性を上げる努力もせずに、大きな無駄遣いをしながら、働かないことを推奨してきた政府の責任は重く、その結果を高齢者に皺寄せしようなどというのは筋違いも甚だしいのである。

 なお、*2-1-2に、「2018年度に121.3兆円だった年金・医療・介護等の社会保障給付費は、団塊世代が全員75歳以上になる25年度には140兆円を超え、2040年度には190兆円近くまで膨らむ見通しだ」などと書かれているが、ある年の出生数はその年が終ればわかるため、これらは、今初めてわかることではない。

 だからこそ、現役世代が支払った保険料を引退世代の給付に充てる賦課課税方式ではなく、自分のために積み立てる積立方式に変更しておかなければならないと私は1990年代から言っており、民間企業は退職給付会計を導入して積立不足額の積み立てもとっくに終わっているのだが、日本政府は賦課課税方式を維持して無駄遣いを続けつつ現在に至り、「高齢者への給付と負担を見直さなければ現役世代の負担が重くなる」などと未だに言っているのだ。ちなみに、米国で退職給付会計が導入されたのは1980年代であり、国際会計基準もすぐに採用している。

 そして、高齢者に皺寄せする現在の日本のやり方は、高齢者に低所得者の割合を増やすため、高齢者割合が増すにつれて、生産年齢人口で賃上げしても日本経済の需要が減ることになる。そのため、悪知恵に基づく変な変更をせずに、真の需要であり今後は世界でも需要が増える高齢者向けのサービスを充実すべきだったのだ。

 また、少子化がよく理由に挙げられるが、年金等の高齢者への支出が削られれば、子どもを増やせば自分たちの老後の準備ができず、ますます惨めな老後を過ごさなければならないことになる。そのため、高齢者に対する社会保障の減額という老後不安は、生涯所得と生涯支出を考えれば出生数を減らすことになり、女性はそこまで考えて行動しているのである。

3)医療費について
 *2-1-1に書かれているとおり、2018年度は医療費が0.8%増の39兆7445億円だったが、診療報酬をマイナス改定して伸びを抑えたために医療機関はゆとりがなくなり、消費税増税分はすべて医療機関の負担になっていた。さらに、合理的な地域医療計画もできていない地域が多かったためか、欧米と比べてほんの少しの感染者数で医療が逼迫し、緊急事態宣言を発して国民に迷惑をかける事態となった。これらは全て政治・行政の責任であり、一方で厚労省が定める薬価が国際価格より高すぎたり、よりよい治療法への変更が行われていなかったりなど、官製市場に起因する無駄遣いも多い。そのため、保険診療と自由診療との併用は不可欠なのである。

 なお、*2-2-1のように、(生活保護給付程度の)200万円以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担は2割に引き上げることになり、これに加えて資産の多い(具体的にいくらを言うのか不明)高齢者にも一定の負担を求める案が出ている。しかし、一つの課税所得に対して何重もの負担を課すのは不公平で非常識な政策で、そのためにマイナンバーカードを使おうというのだから、マイナンバーカードは危険なのである。

4)介護について
 *2-1-1によれば、介護を含む「福祉その他」が2.3%増の26兆5382億円だったそうだが、金額だけが大きくても介護サービスは未だ必要な人に十分に届いているわけではなく、例えば新型コロナで自宅療養する人に介護の手は届かなかった。そして、家事を担う人(主に女性)に過重労働の負担をかけながら、40歳未満の人は介護保険制度に加入不要などという変則的な制度にしているが、これこそ全世代型社会保障にして働く人全員で負担すべきなのである。

 また、医療保険・介護保険等の社会保険料から補填される部分は、税金から支出される社会保障給付費とは区別して考えなければならないが、これも故意か過失か、ごっちゃになっている。

 なお、*2-2-2には、「当事者・事業者・研究者、識者3人に聞く」として、「①家族支える視点を大切に」「②現場の魅力を高めて人材確保(=賃金を上げる必要性)」「③サービスと負担の議論必要」「④65歳以上の保険料の全国平均は月5,869円。2040年度には9,200円に達するという推計」「⑤2015年度に一律1割だった利用料が一定円以上の所得のある人は2割、2018年度からは特に所得の高い層は3割に上がった」と書かれている。

 ここで大きく抜けているのは、「介護の当事者は被介護者であって被介護者がQOL(Quality of life)を下げずに療養できなければならない」という介護の理念だ。しかし、①は「家族を支えるべき」とするに留まり、②は「介護スタッフの賃金を上げるべき」としか言っておらず、③は④⑤のように、これまで「介護サービスの削減と高齢者の負担増」ばかりを言ってきており、介護の理念からほど遠いものだったのである。

 しかし、(あなたを含めて)誰もが被介護者になる可能性があり、高齢になって驚くほど少ない年金から毎月5~9千円も取られた上、少ない所得を高所得と言われてサービスの値段を上げたり、サービスの内容を制限されたりしたら、あなたならどう思うだろうか。その時の被介護者の驚きと落胆を、相手の身になって思いやるべきだ。

(3)中途半端で妥協したため、金ばかり使って意味のない政策になった事例
1)東日本大震災のかさ上げ造成について
 2011年の東日本大震災で、岩手県大槌町の中心部は、*3-1のように、10mを超す津波にのまれて壊滅状態となったが、町は161億円かけて2.2mかさ上げした。しかし、町が土地取得や住宅建設に200万円以上の補助金を出しても空き地が埋まらないそうで、当然のことである。

 何故なら、10mを超す津波に襲われた地域での2.2mのかさ上げは、次の津波の備えにならず、就労先となる産業や住宅を作れないからで、岩手・宮城・福島3県のかさ上げ地域は総事業費が2020年6月時点で4,627億円に上り、ほぼ全額が復興交付金等の国費で賄われたにもかかわらず、活用不能で未活用となってしまったのだそうだ。

 しかし、このように安全対策が不十分で住めないような場所なら、震災後に内陸部に移った地権者の多くが戻らないのは当たり前であり、「右肩上がりの時代に確立された復興のあり方が、現状にそぐわない」のではなく、安全対策が不完全なら日本人だけでなく難民を誘致することすらできないのである。

 そのため、2013年~2037年までの25年間にわたり、納税者が「復興のためなら」と黙って所得税の2.1%を納税した復興特別所得税の多くを無駄遣いにしてしまったわけだが、このように不完全な造成工事を、同調して進めてしまうのは男性の発想ではないのか? 

 私は、東日本大震災後、被災地で話をするのは男性ばかりで女性は後ろにいて意見を言わず、東北はジェンダー平等に遅れていることに気がついていたのだが・・。

2)エネルギーの選択について
イ)原発について
 東日本大震災後、納税者が黙って支払っている復興特別所得税や電気料金に含まれる原発関連費用は、*3-2に書かれている原発事故の後処理にも使われている。

 しかし、根拠もなく30~40年で完了するとされた廃炉作業は限界に近づいており、屋根を解放したまま800~900tもそのままにしている燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しすらできないとは呆れる。国と東電が2011年12月に廃炉工程表を掲げてから工程が遅れを重ねているのは、新型コロナよりも過度な楽観主義に基づく非科学的な対応に原因があるだろう。

 このように、散々無駄遣いしながら懸命につなぎとめてきたという目標について、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名理事長は、「1年の遅れは、全体の遅れに比べたらたいしたことはない」「今の時点で『40年は無理』なんてとても言えない」「40年を目指して全力でやること自体が、難しい仕事を進める一つの原動力」などと述べているが、そこまで何もできないのに原子力発電などよく始められたものだ。

 その上、再稼働・新型原子炉などと言っているのだから、生活や安全を軽視して遊びのようなことばかりしている男性の極楽とんぼには、呆れ果てる。

ロ)発電用アンモニアについて
 それに加えて、東電ホールディングスと中部電力が出資するJERAが、*3-3-1のように、「CO2を出さない」という理由でアンモニアを発電燃料とするのも、不合理で筋が悪い。

 何故なら、排気ガス公害はCO2だけではないのに、「CO2排出量の削減だけが課題で、2050年までにCO2排出量さえ実質0にすればよい」などと公害を小さく考え、*3-3-2のように、着火しにくく、燃焼速度も遅く、燃焼時にNOxを出すアンモニアを、わざわざ海外から輸入して発電燃料にしようとしているからである。

 日本は再エネが豊富な国であるため、この試みは、エネルギーの自給率を下げて環境だけでなく安全保障の役にも立たず、もちろん地方創成の役には立たず、事故原発の後処理と同じように無駄が多く、後ろ向きで馬鹿なガラ系の寄り道にしかならない。

3)森林環境税について

   春の森   森林育成会社もあるが・・         2月の梅林


  水仙の咲く森      北アルプスの春     わさび田の春    所沢ゆり園

 2019年3月に成立・公布された「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」により、*3-4のように、日本の森林の保護・保全・活用に必要な財源を確保するためとして、年額1000円/納税者が各市町村を窓口として国税として2024年から徴収され、一旦国へ納められた後、国から都道府県・市町村に「森林環境譲与税」として交付されるのだそうだ。

 その「森林環境譲与税」は、2019年度から都道府県を経由して市町村に既に交付されており、①人口比率 ②木材使用施設・公園などの木材利用率 で交付額が決められるため、実際に森林の維持管理を生業にしている市町村に少なく、人口の多い都市部の市町村に多く支払われるというおかしな結果となっている。

 しかし、私は2005~2009年の衆議院議員時代に、国で環境税を導入するように提唱したが国では導入できず、最初に森林環境税が日本の資源でCO₂吸収源でもある森林の手入れをするために地方自治体で創られたのであり、これは木材の利用促進のために創られたものではない。

 そして、木材利用の推進は、森林の手入れを促すために副次的に行っているのであり、森林を手入れすることもない人口の多い都市部に多額の「森林環境譲与税」が支払われるのは、はげ山を増やすだけなので本末転倒である。

 さらに、森林の間伐のみを目的としてそれに費用をかけ、間伐した木材を打ち捨てておくなどというのは、あまりにもったいなく、その傲慢さは山の神様の怒りを買うだろう。そのため、間伐材を有効利用したり、植林の際に苗を詰め過ぎて植えないようにしたりして、間伐費用そのものは削減を考えるべきだ。

 もちろん林業活性化は重要だが、森林の育成・維持管理には、ボランティアではなくプロの森林・林業専門家が関わる必要がある。また、地方が森林環境税を新たな財源として森林の育成・維持管理以外の目的に目的外使用をしないようにしなければ、森林環境税の本来の目的が達せられないため、国民は一人当たり年額1000円の森林環境税を支払う理由がないのだ。

 つまり、遊びや無駄遣いではなく、まじめに森林の育成・維持管理という本来の目的に合った使い方をしないのであれば、国民が森林環境税を払う理由はなくなるので、これを絶対に忘れず使途を開示してもらいたいわけである。

(4)女性差別の政策への悪影響
1)オリ・パラ関連団体と五輪33競技中央競技団体の女性理事割合と日本社会
 「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」とした森氏の女性蔑視発言を受け、毎日新聞が、国内のオリ・パラ関連団体と五輪で開催される33競技の各中央競技団体における女性理事の比率を調べたところ、*4-1-1のように、五輪選手の5割前後が女性であるにもかかわらず、競技団体の全理事に占める女性割合は、3割超えはテコンドーのみで、女性理事ゼロの団体もあり、女性が会長を務めるのは日本バスケットボール連盟のみであり、全体の平均は16.6%だったそうだ。

 また、日本オリンピック委員会(JOC)と森氏が会長を務めるオリ・パラ組織委員会には女性理事が20%いるものの、森氏の差別発言があったJOC評議員会には3.2%しかいなかった。

 そして、そういう状況を変えるために、2019年6月にスポーツ庁が、中央競技団体向けの運営指針で各組織の女性理事割合を40%以上と設定し、女性評議員の目標割合を設定することなども提示していた中、女性の発言機会を制限するような森氏の女性蔑視発言「女性を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制を促しておかないとなかなか終わらないので困る」が飛び出したのだそうだ。

2)森氏の女性蔑視発言に対する周囲の反応
イ)スポーツ界トップの空気
 東京オリ・パラ組織委員会の森氏の女性蔑視発言に周囲から笑いが起こり、それを報じると、*4-1-2のように、複数のスポーツ関係者が「森会長の冗談じゃないか」と言ったそうだ。

 しかし、冗談なら面白くなければならないが、この発言は誰にとって面白いのか? 答えは明らかで、同じような女性蔑視の価値観を持つ人(多くは男性だが、女性にもいる)にとっては面白いが、事実でもないのに批判された人は侮辱を感じつつ笑ってごまかしていただけだ。そのため、そんなことも推測できないような人に調整役ができていたのは、一重に日本女性の忍耐の賜物なのである。

ロ)組織委の対応
 国際オリンピック委員会(IOC)は、最初、「森会長は発言について謝罪した。これで、IOCはこの問題は終了と考えている」と言っておられたが、*4-2-2のボランティアの大量辞退・*4-2-3の小池東京都知事の対応・協賛する企業からの苦言を受けて、*4-1-1のように「東京大会組織委員会も会長の発言を不適切と認め、ジェンダー平等に向かう決意を再確認した」という公式声明を発表し、森氏は2月12日の組織委の臨時会合で辞任を表明した。

 しかし、*4-3のように、IOCのバッハ会長は森会長に対し、森会長と並ぶ女性の共同会長を置く案を提案しておられたのだそうで、森氏の辞任後は、川淵氏が東京オリ・パラ組織委員会の新会長に就任する見通しと伝えられたが、さすがに、これはなくなった。

 私は、森氏の女性蔑視発言がきっかけで会長が変わる以上、会長は女性でなければならないと思う。しかし、政治家が会長になると、東京オリ・パラが政争の具にされて失敗する可能性が高くなるので、会長は政治と無関係な人がよい。

 そのため、既に大枠は決まっており、副会長などの補佐が複数いれば具体的な活動は可能であるため、雅子妃殿下に会長になっていただき、東京オリ・パラでは日本語だけでなく英語等の外国語を交えて、オリ・パラ精神にのっとった今後の世界を見渡す挨拶をしてもらってはどうかと思う。雅子妃殿下なら、世界の人が見たいと思っている顔である上、先輩のおじさま方も協力して支えることができるのではないだろうか。

ハ)自民党政治家の反応
 自民党政治家の反応は、萩生田文科相が、「『反省していないのではないか』という意見もあるが、森氏は最も反省しているときにああいう態度を取るのではないかという思いもある」と言って森氏をかばったが、苦しい弁解だった。

 また、二階幹事長は、*4-2-1で「①森会長には周囲の期待に応えてしっかりやっていただきたい。辞任は必要ない」「②ボランティアの辞退は、即座にそういう反応もあっただろうが、お互い冷静に考えたら落ち着いた考えになっていくんじゃないか」「③どうしてもおやめになりたければ新たなボランティアを募集する」と言っておられ、さらに、*4-2-2では「④男女平等で一貫して教育を受けてきた。女性は心から尊敬している」と言っておられた。

 しかし、①は森氏の女性蔑視発言を軽く考えすぎている。また、②は「ボランティアが瞬間的に感情的な行動をとったのだから、落ち着けば変わる」という意味で、「(女性の多い)ボランティアが、軽率な行動をとったのだ」と言っているのだから、やはり女性蔑視だ。その上、③は、「ボランティアなんか、いくらでも集まる」と言っているのだから失礼だ。

 それでは、④の「女性は心から尊敬している」という言葉は、本当であれば女性の何を尊敬していると言うのか? 森氏に抗議している女性は、優しさや忍耐強さで尊敬されたいとは思っておらず、公正かつ正当に評価された上で尊敬されたいのだということを忘れてはならない。

二)政財界、メディアの遅れ
i)スポーツ・政治・メディアの遅れ 
 スポーツ・政治・メディアで意思決定層に女性が少ない理由を、*4-1-1は、①女性への家事労働負担の偏在 ②社会に根付く強固な性別役割分業意識 ③その中での女性のキャリア蓄積の困難 と記載しているが、どの分野であっても第一線にいる女性は既に①②③をクリアしているのに(そうでなければ第一線にいられない)、このようにして割り引いて考えられるから意思決定層に行けないのであり、決して日本女性に人材がいないわけではない。

 なお、*4-2-4に、クリエーティブディレクターとして社会派の広告やイベントの企画などで活躍する辻愛沙子さんの話として、「④この発言を薄めたような出来事は、社会に多い」「⑤森さんの発言は言葉のあやではなく、価値観の根底に根付いている本音だ」「⑥勝手に作られた想像上のヒエラルキーがある」「⑦いつの時代にも『わきまえない女』がいたから、今の私たちに参政権があり仕事もできる」「⑧黙っている方が楽で声を上げる人にヤジを飛ばす方が簡単だけど、連帯したいアクションに対して賛意を伝える言葉を選ぶ人が多かったのはポジティブな動きだった」と記載されており、賛成だ。

 これに付け加えれば、短期的には黙っている方が楽かもしれないが、声を上げて社会を変えなければ意思決定層に女性は増えず、そのことは長期的には自分に降りかかってくるのである。

ii)国・地方自治体における女性登用の遅れ
 沖縄タイムスは、2月10日の社説で、*4-4のように、「①市民のニーズを把握し地域の実情に応じた政策に取り組むべき地方自治体職員も管理職が男性ばかりでは女性の利益が反映されにくい」「②沖縄県内41市町村の管理職に占める女性割合は14.0%と低く、全国平均の15.8%を下回る」「③部局長・次長級は11.7%(全国10.1%)と1割程度」「④政府が掲げていた『指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度」とする』という目標からほど遠い」「⑤『幹部候補になるまで育っていない』『昇進に消極的』といった声を未だに聞くが、そもそも候補となるための経験やチャンスを男性と同じように与えていない」「⑥昇進への尻込みは、家事や育児の負担が女性だけに偏っている現状や残業を前提とした長時間労働の問題でもある」「⑦地域による登用率のばらつきもある」「⑧政治・行政分野では30%がクリティカルマスとされている」などを記載しており、心強い。

 このうち①は全くそのとおりで、保育・介護などのサービスを女性に押し付けて、女性を過重労働にしながら社会のニーズを汲み取らなかった経緯がある。また、女性が関わることの多い教育・医療・年金等の社会保障も同様で、これだけの無駄遣いをして借金を積み重ねながら改善どころか改悪してきたのであり、その責任は長く(実質的)権力の座にいた人ほど重いだろう。

 また、⑧については、政治だけでなくどこでも最低30%は必要で、その理由は、10人の会議体に女性が1人しかいないのに女性のニーズを口にすれば、残りの9人から「会議が予定どおりに進まない、変わっている」等と言われるが、女性が3人いて女性のニーズを言えば、残りの7人(それでも女性の2倍以上いる)も「そうか」ということになるからだ。しかし、30%というのは、女性が⑥の理由で仕事からドロップアウトしがちである(何を重要と考えるかの問題なので、それも自由)ため謙虚に設定した数字で、本来は50%いても不思議ではないのだ。

 そのため、②③は、女性の割合が低すぎるため沈黙する女性もいるだろうし、④のように目標を達せられずに取り下げるなどというのは論外なのである。そして、⑤は昔から言われていたため、(私が提案して)1997年に男女雇用機会均等法を改正して採用・配置・昇進・退職に関する差別を禁止し、それが1999年4月1日から施行されて20年以上も経過しているため、未だに女性の幹部候補が育っていないのなら、20年以上も法律違反をしていたことになる。

 なお、⑥については、仕事を続けている女性は解決しているケースが多いにもかかわらず、これを理由に幹部候補の道を閉ざされた上、「昇進しないのは本人の希望」とされているケースが少なくない。そして、⑦は、女性に能力がないからではなく、受け入れ体制が不備であるため意思決定する立場の女性割合が低くなっている証拠なのである。

・・参考資料・・
<医療崩壊の理由は政治・行政・メディアの無知にあること>
*1-1:https://mainichi.jp/articles/20201221/k00/00m/010/225000c (毎日新聞 2020年12月21日) 肥大予算、さらに借金依存 歳入の40.9% 財政再建目標、絶望的に
 菅義偉首相にとって初となる2021年度当初予算案は異例ずくめの編成作業をたどった。「菅カラー」の打ち出しに腐心したが、新型コロナウイルス禍で歳出拡大圧力は強まり続け、補正予算と連動した「15カ月予算」は肥大化した。時限的な政策の財源を手当てする補正と違い、当初予算は暮らしやビジネス活動に直結する国家の絵姿。コロナ後の日本経済の起爆剤となるか、それとも将来に禍根を残す結果を招くのか。新型コロナウイルス対応で借金が膨らんだ2020年度に続き、21年度当初予算案も歳入の40・9%を新規国債発行(借金)に依存する編成となったことで、日本の財政悪化は一層、厳しい状況に追い込まれた。政策経費を税収などでどれだけ賄えるかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の赤字規模は、20年度当初段階から10兆円超増えて20兆3617億円。政府は25年度にPBを黒字化させる目標を掲げているが、実現は絶望的な状況だ。日本の財政事情は、高齢化による社会保障費の伸びに伴い歳出の拡大が続く一方、経済の長期低迷で税収の回復は鈍く、歳入不足を国債で補う構図が続いてきた。10年代は税収が徐々に持ち直し、PBの赤字幅も縮小傾向にあったが、コロナ禍で状況が一変した。20年度は3回にわたる補正予算を通じ、歳出総額が175兆円に膨張。一方、歳入は税収が当初見込みより8兆円超下振れして55兆1250億円にとどまったこともあり、国債を大量発行。20年度の新規国債発行額は112兆円に達し、それまでで最悪だった09年度(52兆円)の倍以上に肥大化した。国と地方の長期債務残高は、20年度末に1200兆6703億円となる見込みで初めて1200兆円に到達。国民1人あたり960万円程度に上る危機的な状況にある。政府は「経済再生なくして財政健全化なし」として、まずは経済を回復して税収を増やし、PBの赤字幅を縮小させる従来型の財政改善策を維持する方針だ。しかし、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は「政府の方針はあまりに楽観的だ」と警告する。政府は一連の経済対策の効果も織り込み、21年度は4・0%程度の経済成長を達成し「経済をコロナ禍前の水準に戻す」としている。だが、「第3波」の拡大など経済への逆風は強まっており、民間シンクタンクの21年度予測は平均3・42%とより慎重な見方が強まっており、税収の回復には時間がかかる恐れもある。これまで積み上げてきた債務のため、21年度当初歳出の22・3%に当たる23兆7588億円は借金の利払いなど「国債費」に消えていく。借金が急増した20年度分の影響は22年度予算から反映される見通しで、国債費はさらに1兆円以上増える見通しだ。小林氏は「将来的には金利上昇のリスクもあり、債務拡大はいつか限界が来る。コロナ終息後は世界的に財政再建の流れが強まることが予想され、日本もたがを緩めず、予算の使い道をしっかりチェックしていくべきだ」と指摘している。

*1-2:https://mainichi.jp/articles/20201127/k00/00m/020/003000c (毎日新聞 2020年11月27日) 国の財政運営にコロナ直撃 税収大幅減 「緊急事態」再発令ならさらに下振れ
 新型コロナウイルスの影響で国に入ってくる税金(税収)が大きく減りそうだ。2020年度は63・5兆円の税収を見込んでいたが、民間からは50兆円台前半に落ち込むとの予測も出ている。コロナ対策で今後も歳出の拡大は避けられず、借金頼みに拍車がかかるのは確実。社会のあり方を大きく変えた新型コロナは財政運営の形も変えようとしている。現在、国に入ってくるお金は、税金が約6割、国の借金である公債金などがその他を占める。コロナ禍で経済が失速する中、政府はこれまでに2度の補正予算で計57兆円超を支出した。財源は借金で賄っており、当初予算から合わせた20年度の新規国債発行額は過去最大の90兆円超。政策経費を税収などでどれだけ賄えるかを示す「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」の赤字は当初予算段階の9兆円余から66兆円に増えている。税収は時の経済状況に大きく左右される。リーマン・ショック時は51兆円(07年度)から38・7兆円(09年度)へ、ショックの前後2年間で25%近くも下がった。企業業績や雇用情勢に左右される法人税と所得税が減少したためだ。その後は景気回復に伴い、18年度に過去最高の60・4兆円に到達したものの、19年度は米中貿易摩擦による世界経済の減速に加え、年度末になってコロナショックが深刻化。結局、税収は58・4兆円にとどまった。20年度は4~5月に緊急事態宣言が発令され、4~6月期の国内総生産(GDP)は戦後最悪の前期比28・8%減(年率換算)を記録した。その後も経済の持ち直しは緩やかで、7~9月期のGDP(速報値)は年率換算で21・4%増と大幅なプラス成長になったが、コロナ前の水準には戻っていない。第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストは、税収は50兆円台前半まで落ち込む可能性があると推計しており、「法人税の下振れが最も大きな要因。緊急事態宣言が再度発令されるようなことになれば、見通しがつかなくなる」と指摘する。国に入ってくる税収は財務省が毎月公表しており、9月末時点での20年度税収実績は、前年同期比0・3%増の16・8兆円。見かけ上は前年と同じ水準を維持しているが、これには法人税のコロナ禍の影響が反映されていない。法人税や消費税には、事業年度の途中に税金を分割前払いする中間納付制度がある。分割・前払いしておいて払い過ぎた分を後から払い戻しを受ける仕組みだ。3月期決算法人の中間納付は11月に集中するため、財務省は「影響が出始めるのはそれからだろう」とみる。税収の内訳をみると、すでにコロナ禍の影響が顕在化している税目もある。外出自粛の影響でガソリン消費が減った結果、揮発油税は10月時点で前年同月比13・6%減。航空需要が蒸発した航空機燃料税は96・2%減となった。酒税(12・4%減)とたばこ税(3・9%減)も低調に推移。消費量の低下で、ただでさえ税収減が続いていたところに、コロナ禍で嗜好(しこう)品を楽しむ機会が減ったことが追い打ちをかけた形だ。政府は「経済再生なくして財政健全化なし」の方針の下、当面は積極財政で景気の下支えを優先する構えだが、足元では感染拡大が再び進行。頼みの需要喚起策「GoToキャンペーン」も運用の見直しを迫られており、財務省幹部は「税収の見通しを立てるのが非常に難しい」と頭を抱える。星野氏は「政策の下支え効果が今後切れてくると、来年以降、所得税収の落ち込みも本格化する恐れがある」と警告する。政府は追加の経済対策のために20年度3次補正予算案を年末に編成する方針だが、税収が減る中でいつまで歳出を増やし続けるのか。厳しい財政運営を迫られている。

*1-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/685121/ (西日本新聞社説 2021/1/27) 医療崩壊の危機 病床確保に民間と連携を
 新型コロナウイルス感染拡大の第3波はピークを越えたようにも見えるが、警戒を緩めるわけにはいかない。特に医療提供体制は依然として逼迫(ひっぱく)した状況が続いている。命を救う態勢を早急に立て直す必要がある。緊急事態宣言が出された福岡県を含む11都府県の多くで、コロナ用病床の使用率は高止まりしている。深刻なのは重症者が多い東京都だ。調整が難航し、入院先や療養先が決まらない人が大勢いる。九州では病床使用率の高い水準が継続している熊本県なども心配だ。病床逼迫を背景に救急患者の搬送先がすぐに決まらない搬送困難事案が多発しており、九州も例外ではない。コロナ患者受け入れに伴い、通常医療の入院や手術を減らした医療機関もある。甚大な影響が医療全般に広がっていると考えるべきだ。日本の人口当たりの病床数は世界のトップ水準にある。一方でコロナ患者数は欧米に比べて圧倒的に少ない。なのに、なぜ医療崩壊が危惧されるのか。原因の一つに、コロナ患者受け入れが公立・公的病院に偏っていることが指摘されている。日本は民間病院は中小規模が多く、感染症対応が難しいという事情はある。だが民間の力も結集しなければ、国全体のコロナ対応は立ちゆかなくなる。厚生労働省や専門家は以前から把握していた課題のはずだ。日本医師会や日本病院会など医療関係6団体が先日、コロナ患者の病床確保に向けた対策会議を開いた。今後は公立、民間を問わず協力するという。中小民間が回復期の患者を引き受けるといった役割分担に積極的に取り組んでほしい。コロナ専門病院を指定するのも一策だ。迅速に実効性のある対策を打ち出すことが肝要だ。民間病院が患者受け入れに慎重なのは、院内感染防止の負担や風評被害などで収益の悪化が懸念されることも一因だ。政府の感染症法改正案は国などが医療機関に受け入れの協力を「勧告」できる内容だが、まずは財政支援のさらなる拡充などで受け入れを促すべきだろう。軽症者や無症状者は自宅や宿泊施設で療養する。限られた医療資源を有効活用するにはやむを得ない面もあるが、容体が悪化し死亡する事例が昨年末から増えている。福岡県でも自宅療養中だった男性の容体が急変して死亡した。自宅療養者へのケアは大きな課題だと言える。冬場の患者増は、昨年から多くの専門家が指摘してきた。にもかかわらず、医療崩壊の危機を招いた国の責任は重い。政府は現状の問題点を洗い出し、あらゆる策を尽くして患者の受け皿を増やすべきだ。

*1-4-1:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20210201/pol/00m/010/003000c?cx_fm=mailpol&cx_ml=article&cx_mdate=20200207 (毎日新聞 2021年2月2日) コロナ社会を考える医療従事者の重い負担 医療崩壊防ぐ支援を、冨岡勉・衆院議員
 医師の経験、知識を生かし、自民党の新型コロナウイルス対策医療系議員団本部の本部長を務めている。国会議員であると同時に、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、理学療法士など国家資格を持つ専門家が参加している。2020年3月初旬にスタートし、これまで35回の研究会を行った。各種学会長、製薬・医療機器メーカーなどからヒアリングを行ってきた。政府や専門家会議と党の間をつなぐことが我々の役割だ。
●「もう限界」
 コロナによる医療体制の逼迫(ひっぱく)は、実感としては東京をはじめとする3大都市圏はパンク状態、日本医師会の先生たちの言葉を借りれば「もう限界」だと言える。病床数のような数字からは見えない部分がある。一般の人の目には入りにくい部分に相当、エネルギーの負荷がかかっている。
たとえば防護服の着用一つとっても、勤務時間の前後、あるいは休憩をとるごとに医療用帽子、マスク、手術衣、すべて着替えなければならない。汗もかくし、時間もかかるし、その上なんとしても自分が感染してはならないと思い、非常に神経を使う。通常ならば3日も耐えられないようなことが、毎日続く。
人手の部分でも、勤務日程が組めない事態が危惧されている。救急患者は昼夜問わずやってくるので、過重労働に陥ってしまう。人工心肺装置の「ECMO(エクモ)」がよく知られるようになったが、これをつけるとそれだけで必要な人手は倍にはねあがる。重症者数の増加は現場の人手不足に直結する。医療従事者が持たなくなれば医療は破綻する。手厚い支援体制が必要だ。また感染拡大の状況は地域によってかなりバラツキが出ている。私の地元の長崎では指揮系統を一本化している。通常の医療体制では重症者が周囲の病院から集まる中核病院に負担がかかってしまう。作戦会議場の地図上のランプではないが、全体を見渡して空いているところに素早く患者さんを搬送するシステムが必要だ。自衛隊からの医師や看護師の派遣は行われているが、全国各地の自衛隊病院を専門病棟として活用する工夫も必要だ。ロックダウンなどの厳しい措置をとれば感染拡大防止には有効だが、経済に深刻な影響が出ることが危惧される。経済状況の悪化に伴う自殺者の増加も起きる可能性がある。放任すれば経済は回復するかもしれないが、感染は拡大する。政治は常にこの相反する政策のバランスをいかにとるかを迫られている。重症化を防ぎ、医療崩壊を防ぐことで経済活動を止めないようにするしかない。今回の緊急事態宣言の発令は遅きに失した感は否めないが、1都3県に限定せず、大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、栃木、福岡の7府県を追加し、計11都府県に対象を広げた。現時点では第1回目の緊急事態宣言を解除した際のような急激な感染レベルの低下は見られず、さらなる延長をする必要がある。
●短時間検査の導入を
 検査体制の充実も必要だ。PCR検査は時間がかかることが問題だ。より簡易で短時間で終わる「LAMP法」などをドライブスルー方式や専門外来病棟などで導入し、検査数を増やし、無症状の若年感染者の発見に全力をあげて取り組むべきだ。検査時間が短ければ再検査も容易だ。東京オリンピック・パラリンピックでも活用できる。体操の内村航平選手の場合は、2日後に3カ所で別々に行ったPCR検査で陰性となり、大会に参加できるようになった。仮に選手が偽陽性だった場合でも、再検査や再々検査に時間がかかると試合に参加できない場合も出てくる。短時間で結果が出る検査法を用いて早く再検査できれば、影響を最小限にできる可能性がある。
●空気の除菌と「ゾーニング」に関する法改正
 手洗いをしたり、机の上を消毒したりはしているが「空気」の除菌については何もしていないのが現状だ。無症状感染者が大声を出したり、せきやくしゃみをしたりして、エアロゾル化した飛沫(ひまつ)粒子が部屋のなかに蔓延(まんえん)する。「オゾン」「紫外線」「高機能(HEPA)フィルター」。主にこの三つを使って、汚染された空気の対策もしなければならない。これまで現代都市のウイルス等感染症に対する対策は非常に脆弱(ぜいじゃく)で、無関心、手を抜いてきたと言わざるを得ない。例えば高層マンションビルの地下飲食店街でクラスターが発生した場合、以後その地下街に客は行くことを敬遠する。場合によっては地下街全体の除菌を考える必要が出てくる。

*1-4-2:http://loopamp.eiken.co.jp/lamp/index.html (栄研科学株式会社) LAMP法とは
 LAMPとはLoop-Mediated Isothermal Amplificationの略であり、栄研化学が独自に開発した、迅速、簡易、精確な遺伝子増幅法です。
標的遺伝子の6つの領域に対して4種類のプライマーを設定し、鎖置換反応を利用して一定温度で反応させることを特徴とします。サンプルとなる遺伝子、プライマー、鎖置換型DNA合成酵素、基質等を混合し、一定温度(65℃付近)で保温することによって反応が進み、検出までの工程を1ステップで行うことができます。増幅効率が高いことからDNAを15分~1時間で109~1010倍に増幅することができ、また、極めて高い特異性から増幅産物の有無で目的とする標的遺伝子配列の有無を判定することができます。
特徴
◆2本鎖から1本鎖への変性を必ずしも必要としない。
◆増幅反応はすべて等温で連続的に進行する。
◆増幅効率が高い。
◆6つの領域を含む4種類のプライマーを設定することにより標的遺伝子配列を特異的に増幅できる。
◆特別な試薬、機器を使用せず、Total コストを低減できる。
◆増幅産物は同一鎖上で互いに相補的な配列を持つ繰り返し構造である。
鋳型がRNAの場合でも、逆転写酵素を添加するだけでDNAの場合と同様にワンステップで増幅可能。

*1-4-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/627740 (佐賀新聞 2019.1.29) 医療費19億円節約と試算、広島、大規模PCR検査で
 広島県の湯崎英彦知事は29日、広島市中心部4区の全住民と就業者合わせて最大80万人を対象とする新型コロナウイルスの無料PCR検査について、実施すれば死者や重症者の発生が減り、結果として11億~19億円の医療費を節約できるとの試算を発表した。検査は原則として無症状者や軽症者が対象で、任意。県は実際に検査を受けるのは約28万人と想定している。これまでの市内の陽性率などを参考に、最大3900人の感染者が新たに判明すると推定。30~50人の死者と50~80人の重症者、110~190人の中等症者の発生を予防できると見積もった。複数の検体を同時検査する「プール方式」を利用し、2月中旬から数週間で終わらせたい考え。予算は10億3800万円と見込み、国の地方創生臨時交付金を充てる。広島市内の新規感染者数は減少傾向にあり、専門家や県議会から大規模検査を疑問視する声も上がる。湯崎氏は記者会見で「市中感染は継続している」と反論。「早めに感染拡大の芽を摘み取ることで、経済的な損失を最小限に抑えることができる」と強調した。

*1-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/631023 (佐賀新聞 2021.2.8) 島津製作所、物質表面コロナ検出、試薬キット、100分で作業完了
 島津製作所は8日、物質の表面に付着した新型コロナウイルスを検出する試薬キットを発売した。PCR検査法でパソコンやドアノブ、水道の蛇口などを調べ、衛生管理に役立てる。検出作業は100分で完了する。こうした試薬キットの発売は世界初としている。物質の表面を拭った綿棒を生理食塩水などに浸し、専用濃縮液を加えて検査装置でウイルスの有無を調べる。ノロウイルス向けの検査キットの技術を応用した。公共交通機関や商業施設、介護施設から検査を受託する事業者や、医療機関への提供を想定している。1キットで100回の検査ができ、価格は30万2500円。年間千キットの販売を目指す。島津製は唾液から新型コロナウイルスを検出する試薬キットを既に販売している。担当者は「今回の試薬キットと合わせて総合的に感染対策を提供したい」と述べた。米国立衛生研究所の実験によると、新型コロナウイルスが感染力を維持する最長時間は付着した物質によって異なる。プラスチックは72時間、ステンレスは48時間、段ボールは24時間という。

<社会保障は無駄遣いか>
*2-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65123410W0A011C2EA4000/ (日経新聞 2020/10/16) 社会保障給付費,過去最高の121兆円 2018年度
 国立社会保障・人口問題研究所は16日、2018年度の社会保障給付費が121兆5408億円だったと発表した。前年度から1.1%増えて過去最高を更新した。国内総生産(GDP)に対する比率も22.16%で最も高くなった。金額は社会保険料や税金を主な財源とした医療や年金、介護などの給付の合計。患者や利用者の自己負担は含まない。高齢化や医療の高度化に加え、子育て支援策の充実もあって増加が続く。18年度は医療が0.8%増の39兆7445億円だった。診療報酬のマイナス改定で伸びが抑えられた。年金は0.8%増の55兆2581億円。介護を含む「福祉その他」は2.3%増の26兆5382億円だった。GDPに対する社会保障給付費の比率は09年度に20%を超えた。18年度は前年度より0.21ポイント高まり22.16%になった。

*2-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63348940S0A900C2EE8000/ (日経新聞 2020/9/3) 社会保障給付の抑制進まず 賃上げ推進も将来不安
 先進国最速で進む少子高齢化にどう対処するか。第2次安倍政権は働き方改革によって働く女性や高齢者を増やし、社会保障の支え手を増やすことに注力した。ただ高齢者への給付削減という「痛み」を伴う改革への踏み込みは甘く、大きな課題を残している。若年人口の減少で日本は2010年代に入ると構造的な人手不足が強まった。こうした背景から安倍政権は就業者を増やす働き方改革を推進。残業規制の強化、仕事と育児の両立支援、女性の活躍推進などに取り組んだ。女性の就業率は19年に52.2%となり、在任中に右肩上がりで上昇した。65歳以上の就業者も増え、60歳代後半は約半数、70歳代前半でも約3分の1の人が働くようになった。12年12月の安倍政権誕生時に4.3%だった失業率は2%台まで低下。政権が産業界に賃上げを強く促す「官製賃上げ」の効果もあり、大手企業は14年から7年連続で2%台の賃上げとなった。20年5月に成立した年金改革法で、501人以上の企業で働く人に限定されていたパート労働者の厚生年金適用を50人超の企業に拡大していくことを決めた。また60~64歳で働く人に支給する在職老齢年金について、支給が停止される賃金と年金の合計額の基準を現在の月28万円から22年4月に47万円に上げる。働くことで年金が減る仕組みを見直し、より長く働きやすくする。働き手を増やして社会保障の基盤を強くする改革で一定の進展があった一方で、負担増という「痛み」を国民に求める動きは鈍かった。18年度に121.3兆円だった年金、医療、介護などの社会保障給付費は、団塊の世代が全員75歳以上になる25年度には140兆円を超える。40年度には190兆円近くまで膨らむ見通しだ。医療や年金などは現役世代が払った保険料を引退世代の給付に充てる仕送り方式が基本。高齢者への給付や負担を見直さなければ現役世代の負担はどんどん重くなる。会社員の健康保険料率(健康保険組合平均)は政権発足前の11年度に年収の8.0%(これを労使折半)だったが18年度には9.2%まで上がった。いくら賃上げが続いても保険料のアップで相殺されれば現役世代の将来不安は払拭されない。19年12月にとりまとめた全世代型社会保障検討会議の中間報告には、一定以上の所得がある75歳以上の医療費窓口負担を2割に引き上げる案を盛り込んだが、所得の線引きなど制度の具体的な設計は終わっていない。年金や介護で年収や資産の多い高齢者に一定の負担を求める案も議論を避けた。大正大の小峰隆夫教授は安倍政権下の社会保障政策について「高齢者の給付と負担の見直しが手つかずだったことが問題だ」と指摘する。現役世代の将来不安は少子化につながる。19年の出生数は最少の86万人台に落ち込んだ。結婚・出産をしない選択をする若年層が増えている。高齢者から若年層へと給付の配分を見直さなければ少子化のスパイラルは止まりそうにない。新型コロナウイルスの影響で足元の雇用情勢は悪化し始めており、今後は就業者の裾野を広げてきた改革の効果にも影を落としかねない。巨額の政府支出で財政も悪化しており、税金で社会保障の給付を支える力も弱くなることが懸念される。与野党の議論は有権者の受けの良い給付の充実に集中しやすい。日本総合研究所の西沢和彦主席研究員はポスト安倍に対し「国民に対し、社会保障全体のビジョンを自ら語り、粘り強く受益と負担の関係を説明する必要がある」と要望する。

*2-2-1:https://digital.asahi.com/articles/ASNDG5TP9NDGUTFL008.html (朝日新聞 2020年12月14日) 75歳以上の医療負担増や児童手当で結論 政府検討会議
 政府の全世代型社会保障検討会議(議長・菅義偉首相)は14日、最終報告となる「全世代型社会保障改革の方針」をまとめた。75歳以上の医療費の自己負担割合について、単身世帯は年間の年金収入200万円以上(夫婦2人世帯は計320万円以上)を対象に、2022年度後半から2割に引き上げることなどを明記した。報告は基本的考え方として「現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直す」とした。菅首相は「少子高齢化が急速に進む中にあって、現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代が安心できる社会保障制度を構築し、次の世代に引き継ぐことが我々の世代の責任だ」とあいさつした。15日にも方針を閣議決定し、必要な法案を来年の通常国会に提出する。医療費窓口負担の2割引き上げの対象は約370万人。窓口負担を増やすことで、75歳以上の医療費の4割(自己負担を除く)を負担する現役世代の負担軽減につなげる。実施後3年間は、1カ月あたりの負担増が3千円を超えない経過措置を講じる。75歳以上の自己負担額は平均すると今より3・4万円多い年間11・5万円となるが、経過措置の期間は年間10・6万円に抑えられるという。待機児童対策として21年度から4年間で約14万人の保育の受け皿を整備し、財源として児童手当の高所得者向けの特例給付を縮小する。子ども2人の専業主婦家庭の場合、いまは夫の年収が960万円以上なら月5千円の特例給付が支給されているが、22年10月分以降は年収1200万円以上だと、特例給付が支給されなくなる。一方、所得基準の算定基準を現在の「世帯で所得が最も高い人」から「世帯合算」に変更する見直しについては、世代間の公平性の観点などから「引き続き検討する」とした。22年度から不妊治療を保険適用とすることも明記し、20年度中にいまの助成制度の拡充を始める、とした。所得制限の撤廃や毎回30万円といった助成の増額を行う。男性の育児休業取得を促進するため、企業に休業制度の周知を義務化することなどを検討する。
●全世代型社会保障の方針(要旨)
・不妊治療を2022年度から保険適用。実現までの間、20年度内に今の助成制度を拡充
・待機児童解消へ21~24年度の4年間で保育の受け皿を約14万人分整備
・児童手当を22年10月から縮小し、待機児童解消策の財源に。子ども2人世帯なら年収1200万円以上の場合、特例給付の対象外に
・男性の育児休業取得へ、出生直後の休業を促す新たな枠組み導入
・22年度後半から75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に。単身世帯の場合、年金収入200万円以上が対象
・紹介状なしで大病院を受診する場合、定額負担(5千円)を2千円以上引き上げ

*2-2-2:https://www.chugoku-np.co.jp/living/article/article.php?comment_id=628548&comment_sub_id=0&category_id=1124 (中国新聞 2020/3/31) 介護保険20年、増える高齢者 制度を維持するには
▽当事者・事業者・研究者、識者3人に聞く
 2000年に始まり20歳を迎えた介護保険制度は、支える高齢者の数が膨らみ続け、このままでは立ちゆかなくなりそうだ。制度を維持していくためには、どんな視点が必要なのだろう。家族、事業者、研究者として介護に向き合ってきた3人に聞いた。
▽家族支える視点を大切に NPO法人家族介護者 サポートネットワーク・はぴねす 北川朝子代表(60)=広島市安佐北区
 介護する家族としては、介護保険制度があって大変ありがたかったと感じています。要介護5の母と2人暮らしでした。最期まで自宅で一緒に過ごせたのは、通所介護や訪問介護のサービスを使えたからです。ただ制度は十分ではありません。要支援1や2では、使えるサービスが限られてしまう。要介護3以上でないと、特別養護老人ホームにも入れなくなった。この20年間、私たちが負担する保険料や利用料は増える一方で、使えるサービスは絞られる方向に進んでいるように感じます。「認定が軽ければ介護は楽」という見方は間違っています。介護は育児と違って、入学や卒業のような区切りがない。介護する側、される側は大人同士で、互いに疲弊する。社会保障費が膨らむ中、在宅介護にシフトする政策が進むのは仕方がないし、施設に入るよりも最期までわが家で過ごしたい人は多いでしょう。それならもっと、介護する家族を支える視点を大事にするべきです。その対策も社会の意識も不足しています。例えば介護離職の問題。私自身、介護のために正社員の職を手放さざるを得なかったし、復職もできなかった。介護しながら仕事を続けられる環境づくりが必要です。介護者が多様化した実態にも目を向けてほしい。介護保険ができて「お嫁さん」に負担が集中することは少なくなりました。でも、家族介護が前提なのは変わっていません。男性の介護者が増え、老老介護は当たり前。声を上げにくい人も多く、支援につながらずに高齢者の虐待や殺人に至った事例も少なくありません。一人親世帯の増加などで、10代の「ヤングケアラー」も増えています。厚生労働省が2018年にようやく家族介護者支援マニュアルを作り、条例で人材育成など支援の仕組みをつくる自治体も出てきました。この動きが広がってほしい。私たちは介護者がやり場のない思いを吐き出せるよう、安佐北区に常設のケアラーズカフェを開いています。こういった居場所が学区ごとにあるのが理想です。
▽現場の魅力高め人材確保 全国老人福祉施設協議会 平石朗会長(65)=尾道市
 介護の現場が抱える一番の問題は人材不足です。全国では、介護施設のベッドは空いているのに、職員を確保できずに入居を断ったり、人手の減った施設に職員を回すためにヘルパーステーションを閉めたりすることが起きています。職員を確保できない最も大きな理由は、働く世代の人口の減少です。介護保険がスタートしたときは、急激な人口減少社会が来るという想定が欠けていました。低賃金で重労働という仕事のイメージも拭い去れていません。でも実際は、大変さもありますが、人生終盤の生活を支える素晴らしい仕事です。経験を積めば給料も上がるようになってきました。ただ、これから人手がもっと足りなくなることを考えると、さらに賃金を上げる必要があります。介護現場の魅力を高める革新も求められています。私が理事長を務める尾道市の法人では、トヨタの元社員の指導で業務改善を進めました。介護に生産性はそぐわないと思うかもしれませんが、合理化が進むと、時間や気持ちの余裕が生まれます。職員の離職を防ぐことにつながり、利用者の満足度も高まります。介護職員がくたびれるのは夜間です。情報技術を活用した利用者の見守りがあれば安心して働けます。専門性を生かした仕事に専念するため、地域の高齢者らに食器洗いやシーツ交換などの仕事で活躍してもらうのも一つの方策です。外国人材の活用も進めるべきですが、日本人と同じように能力に応じて給料を支払うのが正しい姿でしょう。これからも高齢者は増え、介護にかかる費用はさらに膨らんでいくでしょう。放っておけば介護保険制度は破綻し、低所得や身寄りのない人の安全網でなくなってしまう。それは避けるべきです。介護ニーズの的確な把握が欠かせません。安易に「箱物」を増やすと、間違いなく将来の重荷になります。持続可能にするためには、現在の利用料の1割負担を見直し、経済力のある人には負担していただくという考えが必要ではないかと思います。
▽サービスと負担、議論必要 県立広島大 地域医療経営プロジェクト研究センター 西田在賢センター長(66)
 介護保険にかかる費用は制度開始から20年で3倍に膨らみました。これで終わりではありません。高齢者の数がピークになる2040年度にはさらに、今の2倍以上になる見通しです。平均寿命が延びて高齢者の数が増え続けているためです。ただ高齢者を支えていくためには、介護の支出が増えるのは避けられません。一方で、国の借金は昨年末の時点で1110兆円に達し、介護保険制度が始まった00年の2倍になりました。介護や医療にかかる社会保障費が国の借金を押し上げています。このまま「将来へのツケ」が際限なく増え続けていいわけがありません。サービスと負担について議論を進める必要があります。では、どうすればいいでしょうか。医療と介護を一体として考える必要があります。医療費の無駄を削減し、介護にお金を回すという発想が欠かせません。日本の病床数は今も英国の5倍、米国の3倍もあります。医療をほとんど必要としない人が、コストが掛かる病院に入院しているケースがまだ多いのです。その費用を削減し、自宅や介護施設で訪問医療を利用しながら過ごす方に、もっとお金を振り向けることが必要でしょう。医療と介護はもともと連続したものです。関連した保障として社会が理解するべきです。国も「医療と介護を切れ目なく」という政策を打ち出しています。地域ごとに異なる医療と介護の資源をどうやりくりし、高齢者を含む地域住民の生活をどう支えていくかを考えなければいけません。また、介護保険制度を維持していくためには、市民の発想の転換も重要です。サービスは費用がかかるので、あればあるほどいいというわけではありません。住み慣れた地域の中で暮らし続けるためにどんな医療や介護の保障が必要かを考えてほしい。そのために、誰がどれだけ負担をすればいいのかも意識してほしい。現在は40歳以上が介護保険料を払っていますが、医療を支える健康保険と合わせて20歳以上に広げるべきでしょう。
■財政厳しく見直し重ね 予防重視への転換/右肩上がりの保険料
 家族頼みから、社会全体で支える介護へ―。そんな理念で介護保険が誕生してから20年が経った。高齢者が増えて介護保険財政が厳しくなるにつれ、サービスの縮小や、保険料の引き上げを繰り返し、紆余曲折の道のりを進んできた。最初に制度を見直した2005年度には、健康寿命を延ばし、介護サービスに頼らなくていい期間を長くしようと「介護予防の重視」に舵を切った。食費・居住費は保険給付の対象外となった。07年度には、訪問介護大手のコムスンによる介護報酬の不正請求事件が発覚し、事業者の在り方が問われた。15年度は特別養護老人ホームの入居は原則、要介護3以上に狭まった。さらに、要支援1、2の人向けの訪問介護とデイサービスを市町村の事業とし、地域住民の協力を求めるようになった。介護の総費用が増える中で、保険料は右肩上がりを続けている。65歳以上の保険料の全国平均は月2911円から5869円と倍増。40年度には9200円に達するという推計もある。15年度には、利用者の自己負担の公平化も打ち出された。一律1割だった利用料は一定以上の所得のある人は2割に。18年度からは、特に所得の高い層は3割に上がった。

*2-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF221L30S1A120C2000000/ (日経新聞 2021/1/22) 21年度の年金0.1%減額 4年ぶりマイナス、賃金下落反映
 厚生労働省は22日、2021年度の公的年金の受給額を20年度比で0.1%引き下げると発表した。現役世代の賃金水準を受給額に反映させるルールを適用したもので、減額は4年ぶり。厚生年金を受け取る夫婦2人のモデル世帯では228円減の月額22万496円になる。4月分から適用する。自営業者らが入る国民年金は40年間保険料を納めた満額支給の場合で66円減の月額6万5075円になる。年金の受給額は物価や賃金の変動を反映させる形で毎年度見直している。物価は前年の消費者物価指数の「総合指数」が参考指標で、20年は前年と同水準だった。2~4年前の変動率を元に計算する賃金水準は0.1%のマイナスだった。21年度からは賃金変動率が物価変動率を下回って下落した場合、賃金変動率に合わせて年金額を改定する新ルールが導入される。このため、賃金に合わせて年金額が0.1%の減額となる。また人口動態を反映し、年金額の伸びを物価や賃金の伸びよりも低く抑えるマクロ経済スライドは、年金の改定率がマイナスになったため発動しない。20年度までは2年連続で発動していた。

*2-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63400350T00C20A9PPE000/ (日経新聞 2020/9/6) 年金「実質目減り」続く マクロスライドで給付抑制、人生100年お金の知恵(22)
「単純に『年金が増えた』と思っている人は少なくない」。年金セミナーで講師を務める機会が多い社会保険労務士の森本幸人氏はこう話す。セミナーで毎年度実施される年金改定を取り上げると、実額は増えても「実質目減り」になっていることを知らない人が目立つという。
■物価や賃金より伸びを抑制
 年金の実額は確かに増えている。2020年度の受給額は前年度比プラス0.2%の改定だった。厚生労働省がモデルとして示した夫婦世帯の厚生年金(夫婦2人の基礎年金を含む)は月22万724円と458円、国民年金は満額で月6万5141円と133円増えた。実額が増えても実質目減りなのは、物価や賃金の伸びより年金の支給額を抑える「マクロ経済スライド」が適用されたからだ。年金額は物価や賃金の変動率に応じて決まる。20年度の改定率は本来であればプラス0.3%だが、マクロスライドの発動で0.2%になった。森本氏の概算によると金額ベースで厚生年金は約688円、国民年金は200円増えるはずだった。日本の公的年金は現役世代の保険料を高齢者の給付に充てる「仕送り方式」だ。少子高齢化が進むと現役世代の加入者が減る一方で、年金を受け取る人は増える。物価や賃金の上昇率に合わせて年金額を引き上げていくと年金財政が行き詰まりかねないため、マクロスライドが04年の制度改革で導入された。マクロスライドは賃金や物価に基づく本来の改定率から、現役の加入者数と平均余命をもとに算出したスライド調整率を差し引く。景気拡大期などは調整率をフルに差し引くが、原則として年金の名目額を前年度より減らさないという条件がある。
■「マイナス改定でも発動」議論も
 このため物価や賃金が下落するデフレ下では実施しない。景気後退期など物価や賃金の上昇率が小さいときは年金額が前年度と同じになるように調整率を一部差し引く。未調整分は翌年度以降に繰り越し、景気回復期などに調整率に上乗せして差し引く。「キャリーオーバー制度」といい18年度に導入された。年金の専門家の間では「マイナス改定となってもマクロ経済スライドを無条件で実施できるよう制度を見直すべきだ」(大和総研の是枝俊悟主任研究員)との声は多い。デフレや低インフレが続けば年金財政が行き詰まる懸念が高まるためだ。年金受給者からの反発が予想されるためマイナス改定が導入されるかどうかは不透明だが、老後の生活設計ではマイナス改定の議論があることも頭に入れておいた方がよさそうだ。
■ここがポイント
高齢者就労、調整率抑制も
 20年度のスライド調整率は0.1%と低い水準だった。「60歳を超えても年金に加入して働く人が当初の想定を上回ったことが一因」(社労士の井戸美枝氏)という。加入者の増加は保険料収入の増加を意味する。1961年4月2日生まれ以降の男性は65歳になるまで公的年金を受け取れない。企業の雇用延長や再雇用など制度も整いつつあり、60歳以降の加入者増加は続く公算が大きい。「加入者の増え方によっては調整率が当面抑えられる可能性がある」と森本氏は指摘している。

<その他の中途半端にして意味がなくなり、無駄遣いになった事例>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210210&ng=DGKKZO68992370Q1A210C2MM8000 (日経新聞 2021.2.10) 東日本大震災10年 検証・復興事業(3) かさ上げ造成、3割空き地 まち再建、定石のその先に
「176平方メートル、795万円」「217平方メートル、990万円」――。岩手県大槌町の「空き地バンク」のサイトに載った町役場周辺の区画図に、売却・賃貸物件の赤い印が30個近く並んでいる。町は土地取得や住宅建設に200万円以上の補助金を出すが「住宅再建のニーズは一段落し、空き地はなかなか埋まらない」と担当者はこぼす。2011年の東日本大震災で町の中心部は高さ10メートルを超す津波にのまれ、壊滅状態となった。前年に過疎地域に指定されていた町は、役場周辺の地区を震災前の半分以下に集約し、161億円かけて2.2メートルかさ上げした。
●原点は関東大震災
 その間にも人口減は加速し、20年春の段階で造成地の3分の1は使う当てがないままとなっている。15年まで町長を務めた碇川豊氏は「町内に就労先となる産業が少なかったことも影響した」と話す。岩手、宮城、福島3県の津波被災地では、浸水した地域をかさ上げし、土地や道路の形を整える「土地区画整理事業」が広く行われた。対象は沿岸部の21市町村、計1890ヘクタールで東京都新宿区の面積に匹敵する。総事業費は20年6月時点で4627億円に上り、ほぼ全額が復興交付金などの国費でまかなわれた。区画整理による「復興」の原点は1923年の関東大震災に遡る。震災で旧東京市の4割強の面積が焼失した後、帝都復興院総裁に就いた後藤新平を中心に、復興事業として初めて大規模な区画整理が行われた。靖国通りや昭和通りなどの幹線道路と共に街並みが整備され、東京は10年足らずで近代都市に生まれ変わった。そのノウハウは戦後、空襲で焼けた各地の市街地整備にも生かされ、区画整理は復興事業の定石となってきた。国土交通省の2020年5月時点の調査によると、3県で区画整理が行われた65地区の宅地の32%は未活用の状態だった。未活用が5割を上回る地区も6つあり、岩手県陸前高田市の今泉地区では7割近かった。
●止まらぬ人口減
 岩手県沿岸部の12市町村の人口は、震災前年から20年までで17%減少。震災後に内陸部に移った地権者の多くは、仕事や子どもの通学を理由に戻っていない。固定資産税の負担などを懸念して土地を売りに出すケースも相次ぐ。「右肩上がりの時代に確立された復興のあり方が、現状にそぐわなくなっている」と、日本大の大沢昌玄教授(都市計画)は指摘。「将来像を複数の自治体で共有し、広域的な視点で復興事業の対象を精査すべきだ」と話す。今回も区画整理によって街の魅力が高まった例はある。宮城県名取市の閖上地区では区画整理とともに小中一貫校や保育所が重点的に整備され、宅地の分譲希望者が殺到して若い世代も増えた。震災の痛手を乗り越え、かさ上げによって安全性を高めた土地をどう生かすか。国全体が人口減に直面するなか、定石にとらわれない新しい街づくりの模索はこれからも続く。

*3-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14796615.html (朝日新聞 2021年2月11日) (東日本大震災10年 3・11の現在地)40年で廃炉、無理と言えず 前提のデブリ除去、年内の着手断念
 あと1カ月で事故発生から10年を迎える東京電力福島第一原発。敷地内の放射線量はかなり下がったが、廃炉作業は大幅に遅れ、30~40年で完了する目標はかすんできた。廃炉の最終的な姿を語らずに時期だけを掲げるこれまでのやり方は、限界に近づいている。「目標通りできないのはじくじたるものがある」。国と東京電力は昨年12月24日、福島第一原発で2021年中に予定していた溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出し着手を1年程度延期すると発表した。東電の廃炉部門トップの小野明氏は、記者会見で無念さをにじませた。直接の理由は新型コロナウイルスだった。英国で開発中の専用ロボットアームの動作試験が、工場への出勤制限などの影響で滞った。英国では変異ウイルスも猛威を振るい、日本へ運ぶめどもたたなくなった。未曽有の原発事故を受けて、国と東電が11年12月に廃炉工程表を掲げてから、工程は遅れに遅れを重ねてきたが、今回の延期には特別な意味がある。「30~40年後に廃炉完了」と並んでずっと堅持してきた「10年以内のデブリ取り出し着手」という重要目標を断念したことになるからだ。デブリは、溶けた核燃料が周りの金属などと混ざりあって固まった物質。強い放射線を放ち、ロボットすら容易に近づけない。硬さも成分も、どこにどれだけあるかも詳しくは分からない。1~3号機に残る総量は推定で約800~900トン。その取り出しは、前人未到の最難関の事業だ。当初の工程表では、取り出し前に遠隔でデブリを切断・掘削して性状を調べることも想定していた。だが、カメラ調査すら予定通り進まず、進むほどに困難さがみえてきた。国と東電は改訂にあわせ、着手時の取り出し規模を「小規模」から「試験的」へと後退させたが、「10年以内」だけは変えなかった。「30~40年」の全体シナリオを守るための一線だったからだ。今回延期された「2号機での試験的取り出し」で取るデブリの量は数グラム程度。実際の作業は、長さ約22メートル、重さ約4・6トンの特殊鋼製ロボットアームの先端に付けた金属ブラシでデブリの表面を拭ったり、小さな真空容器でチリを吸い取ったりするだけだ。懸命につなぎとめてきた目標が、コロナ禍でついに取り繕いきれなくなったのが実情だ。それでも、廃炉を技術面で率いる原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名元・理事長は「1年の遅れは、全体の遅れに比べたらたいしたことない」と話す。廃炉完了の時期を見直す気もない。「今の時点で『40年は無理』なんてとても言えない。もうちょっと調べさせて欲しい。40年を目指して全力でやる。これ自体は、難しい仕事を進める一つの原動力なんです」

*3-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ05C4L0V00C21A2000000/ (日経新聞 2021年2月8日) 発電用アンモニア自社生産 東電・中電系JERA、脱炭素へ
 東京電力ホールディングスと中部電力が出資するJERAは、二酸化炭素(CO2)を出さない発電燃料であるアンモニアの生産に乗り出す。マレーシアの国営企業と提携し、水力など再生可能エネルギーを使って製造する。2040年代にはアンモニアだけを燃料とする発電設備を稼働させる考え。CO2排出量削減が課題の電力業界で、燃料から脱炭素化する流れが広がりそうだ。JERAは国内最大の発電事業者でガスや石炭を燃料とする火力発電所を持ち、国内のCO2総排出量の1割強を占める。2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げており、発電燃料としてアンモニアに加え、水素を段階的に活用する方針だ。発電事業者が自ら脱炭素燃料の製造に乗り出すのは珍しい。このほどマレーシアの国営石油大手ペトロナスと協業に向けた覚書を締結した。生産場所や規模は今後詰める。アンモニアは天然ガスから水素を取り出して製造するが、その過程で大量のCO2が発生する。JERAはCO2排出をなくすため、再エネ由来の電力によるアンモニア製造に取り組む。将来的に水素燃料の製造も目指す。21年度には石炭とアンモニアを混ぜて燃料とする実証実験を愛知県の火力発電所で始める。知見を蓄えながら40年代にはアンモニアだけで燃焼する発電設備を実用化する計画。水素についても、ガス火力の燃料として活用することを目指す。アンモニアは需要の8割ほどが肥料向けに利用されている。CO2を出さない燃料として期待が高まっているが、発電向けの新規需要が増えると供給不足に陥る恐れもある。JERAは発電事業者として自ら燃料開発・製造を手掛けることで、必要量を確保したい考えだ。課題は採算性だ。アンモニアを発電燃料として利用すると、石炭より5割ほどコストが高くなるとみられる。アンモニアを再生エネで製造した場合はさらに割高になる可能性が高い。水素ではアンモニア以上にコストは膨らむとされる。JERAでは開発から調達、発電まで一括で担うことでコストを引き下げることを狙う。政府が50年に目標とする温暖化ガス排出量の実質ゼロに向けては、国内のCO2排出量の4割近くを占める電力分野での脱炭素化が不可欠になっている。アンモニアや水素燃料の活用は、再生エネの導入と並んでCO2排出量の削減効果が大きい。発電事業者が自ら次世代燃料を開発・製造する動きが広がれば、脱炭素化の道筋も見えてきそうだ。

*3-3-2:https://www.keyman.or.jp/kn/articles/1412/17/news169.html (キーマンズネット 2014年12月17日) CO2排出ゼロの新エネルギー「アンモニア発電」とは?
 強い刺激臭を持つアンモニアが燃料の「アンモニア発電」はエネルギーに革命を起こすのか。次世代クリーンエネルギー最先端に迫る。
今回のテーマは、CO2を排出しないアンモニアを利用した直接発電技術「アンモニア発電」だ。産業技術総合研究所(産総研)が世界で初めてアンモニアをガスタービンで燃焼させて発電に成功した。化石燃料や原子力への依存から脱却を目指す、低環境負荷の新エネルギー創出への現実的な第一歩だ。
●「アンモニア発電」とは?
 食物に含まれるタンパク質などを微生物が分解する際に発生するアンモニア。アンモニア発電とは、この強い刺激臭を持つアンモニアを燃料とする発電技術のことだ。現在は、アンモニアを直接燃焼させる発電技術と、アンモニアの熱触媒接触分解反応と燃料電池を組み合わせた発電技術とが研究される。今回紹介するのは前者のアンモニアを燃焼させる技術だ。アンモニアは着火しにくく、燃焼速度も遅く、さらに燃焼時に有害なNOx(窒素酸化物)を発生するため、発電に用いる燃料としては不向きとみなされた。しかし2014年9月、産総研 再生可能エネルギー研究センター(福島県)の水素キャリアチーム、辻村拓研究チーム長、壹岐典彦研究チーム付および東北大学との共同研究チームが、定格出力50キロワットのガスタービン発電装置を用い、灯油とアンモニアを燃料にして、約40%の出力にあたる21キロワットの発電に成功した。灯油の約30%相当をアンモニアに置き換えて燃焼させたところ、灯油だけを用いた場合とほぼ同じ出力で発電でき、しかもアンモニアを燃焼させるときに排出される有害なNOx(窒素酸化物)を、やはりアンモニアを使用する触媒(脱硝装置)により10ppm未満にまで抑制することに成功し、環境基準に照らして十分低い環境負荷でのアンモニア発電に見通しが立った。これはアンモニアを利用したガスタービン発電として世界初の成果だ。

*3-4:https://forest-journal.jp/market/23067/ (Foest Journal 2019/11/18) 2024年スタートの“森林環境税”って? 意外と知らない“森林環境譲与税”との違いとは?
 国税として2024年から徴収が決まっている森林環境税。あまり話題に上がらないこの税金の正体は何か?林野庁の発表資料を基にわかりやすくまとめてみた。
●1000円を森林のために負担?
 2019年3月に新しく成立、公布された「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」によって、日本の国土を覆う森林の保護、保全、活用に必要な財源を確保するために納税者一人ひとりから徴収されることになる。環境保護や市町村の森林活用、木材利用を促すことが目的だ。林野庁の発表によると徴収開始記事は2024年から、各市町村が窓口となり国税として納税者一人あたり年額1000円が徴収される。林野庁の発表によると、徴収した森林環境税は一旦国へ納められ、国から都道府県と各市町村に「森林環境譲与税」となり交付される。
●森林環境税の仕組みと使いみち
 実は2019年度からすでに、「森林環境譲与税」は各都道府県を経由して市町村に交付されている。人口比率や木材の使用施設、公園などの木材利用率から交付額が決められたようだが、森林を生業にする市町村に交付金割合が低く、人口の多い都市部の市町村に交付金が多く支払われるなど、まだまだ問題も多いのが現実だ。また、交付を受けた市町村はその使用目的を明確に自身のホームページに公開しなければならない。筆者の住んでいる市では森林の間伐費用や、間伐林の管理委託費などにあてられており、財源が確保されているため概ね好評であると市の土木課の担当者は話してくれた。他にも、使いみちが森林の管理、運営やボランティアへの慰労費に当てられている市町村もあるようだ。使用目的を国が定めるのではなく、市町村が独自で決められるという動きは、林業の活性化にも繋がるだろう。
●森林を身近に感じるチャンス
 交付は2019年度より始まっており、納税義務は2024年から始まる。先にも述べたが森林の管理運営だけがこの税金の目的にあらず、地方は新たな財源として地域活性化のために使うことができる。例えば森を使った生涯学習は森林そのものを学習の場としてワークショップや間伐体験を市民向けに発信する財源にあてることができる。森林管理にきちんとお金を掛けることができればレンジャー隊員を養成できて、もしもの災害に備えることもできる。新たな雇用がそこで生まれ、これまで見向きもされなかった事業に陽の光を当てることも可能だ。木材を活用して公園を新たに作ったり、鉄の遊具から木の遊具への交換の財源にしてもいい。使いみちを市町村に託すことで、アイディア次第でできる選択肢が増える。納税する我々はイベントや森林政策に「税金を払っているから参加する」ではなく、近所の森や林業とは何かを知る機会を得るチャンスだと捉えるのが良いだろう。「また増税か?」とうんざりした目で見るのではなく、その使いみちに注目してほしいと切に願う。

<女性蔑視の政策への悪影響>
*4-1-1:https://mainichi.jp/articles/20210211/k00/00m/040/081000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20210213 (毎日新聞 2021年2月13日) 声をつないで 女性理事わずか16.6% 森氏発言があぶり出す社会のいびつさ
 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)=12日に辞任表明=による女性差別発言を受けて、毎日新聞は、国内のオリ・パラ関連団体と、五輪で開催される33競技の各中央競技団体における女性理事比率を調べた。各競技団体の全理事に占める女性の割合は、平均16.6%にとどまり、女性理事ゼロの団体もあった。「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などの森氏の発言の背景に、女性が意思決定の場に参加することが難しいスポーツ界と社会全体の課題が浮かび上がる。3月8日は「国際女性デー」。この記事を皮切りに、国内外の女性が置かれた状況について幅広く考えたい。(文末に各団体の女性理事割合の一覧を掲載)【塩田彩、藤沢美由紀/統合デジタル取材センター】
●3割超えはテコンドーのみ、女性理事ゼロは……
 調査は2月6~9日、国内オリ・パラ関連の中央団体3団体と五輪開催競技の中央競技団体35団体に電話とメールで実施した。日本オリンピック委員会(JOC)の女性理事は25人中5人で20%。森氏が会長を務めるオリ・パラ組織委員会でも20%だった。一方、森氏の差別発言があったJOCの評議員会)は、女性は63人中2人で、3.2%にとどまった。中央競技団体の中で女性理事が3割を超えたのは全日本テコンドー協会のみで36.4%。次いで日本体操協会28.6%、日本バレーボール協会27.8%――だった。女性理事がゼロの団体は日本サーフィン連盟で、13人の理事全員が男性だった。女性の競技者割合が比較的高い陸上や水泳の低さも目立ち、日本陸上競技連盟は7.1%、日本水泳連盟は13.8%。リオデジャネイロ五輪で女子選手4人が金メダルを獲得したレスリングは女性理事が1人でわずか4%だった。ソフトボールは五輪競技としては女子種目しかないが、女性理事は24人中5人で20.8%にとどまった。会長職を女性が務めるのは日本バスケットボール連盟のみだった。森氏に「今までの倍時間がかかる」と名指しされた日本ラグビーフットボール協会は、女性競技者が比較的少ないものの、2019年に女性理事が5人に増え20.8%だった。ジェンダーの視点からスポーツ史を研究する中京大の來田(らいた)享子教授は、毎日新聞の調査結果について「少しずつ改善されてきてはいるが、女性の競技人口を考えると、まだまだ不十分。人材が不足し、特定の女性が複数の団体の役職を兼務する状況もある」と指摘する。
●五輪選手の5割は女性なのに
 男女共同参画白書によると、日本の五輪出場選手に占める女性の割合は、04年のアテネ大会(54.8%)で初めて半数を超え、北京大会(49.9%)、ロンドン大会(53.2%)、リオ大会(48.5%)と5割前後で推移している。にもかかわらず、なぜ女性理事の割合は、多くの中央競技団体で2割にも届かないのか。來田教授は、要因の一つとして、指導者としての経験を積む機会が男性と比べて限られることを挙げる。「女子選手を男性指導者が指導するケースは多くありますが、逆はほとんどありません。『女性には男子選手の指導はできない』という偏見がある。けれど、年配の指導者が多く存在するように、指導者には選手と同等のパフォーマンスは求められていないはずです」。中央競技団体には、指導者を経て理事となる人も多い。キャリアを積み上げる際の機会の不平等が、意思決定層に女性が少ない大きな要因となっているのだ。こうした状況の中、スポーツ庁は19年6月、中央競技団体向けの運営指針「ガバナンスコード」で、各組織の女性理事の割合を40%以上と設定し、女性評議員の目標割合を設定することなども提示した。「女性を増やしていく場合は、『発言の時間をある程度、規制を促しておかないと、なかなか終わらないので困る』と言っておられた」など、女性の発言機会を制限するような森氏の差別発言は、この目標に言及する中で飛び出した。実は、国際オリンピック委員会(IOC)はこれまでも、女性参画に向けたさまざまな提言を各国に示してきた。20年以上前の00年にはすでに、「05年までに意思決定層における女性の比率を20%にする」という目標が掲げられている。18年3月には「ジェンダー平等に関する報告書」を発表し、ジェンダー平等促進への取り組みに財源を割り当てることや、「排除のない組織文化を維持、導入すること」などの必要性を指摘した。來田教授は「組織委は報告書を受け、東京大会に向けて具体的に踏み込んだ施策を実施する必要がある。スポーツ界だけで達成できないなら、社会や政府に協力を仰ぎ、社会全体でこの問題と向き合おうと声をかけなければならなかった」と語る。一方、そのIOCも、メンバーリストを見る限り103人のうち女性は38人で36.9%。「平等」には遠いのが現状だ。
●「森会長の発言は不適切」と組織委が声明
 「多様性と調和」を掲げる東京大会の組織委の長が発した女性差別発言。謝罪記者会見を開いて以降も、国内外から批判はやまず、森氏は2月12日の組織委の臨時会合で、辞任を表明した。組織委は7日、公式サイトで「森会長の発言はオリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切なものであり、会長自身も発言を撤回し、深くお詫(わ)びと反省の意を表明致しました」とする声明を発表。その中で「『多様性と調和』は東京大会の核となるビジョンの一つ」「ジェンダーの平等は東京大会の基本的原則の一つであり、東京大会は、オリンピック大会に48.8%、パラリンピック大会では40.5%の女性アスリートが参加する、最もジェンダーバランスの良い大会となります」としていた。來田教授は「森氏の発言を『不適切』とするだけでなく、ジェンダー平等のためにどのような施策を講じてきたのか、今後さらに何が必要なのか、組織委やJOCは明示すべきです」と指摘する。「スポーツ界の意思決定層に女性を増やすことは、同質的な集団によって物事が決定される状況を変化させます。女性も男性も一枚岩ではないし、障害のある人やセクシュアルマイノリティーなど、あらゆる人を排除しないスポーツが目標とされている。男性だけの構成を変えることは、より小さな声に気づく組織の入り口になるはずです」
●政財界、メディアでも女性登用遅れ
 さらに來田教授は「スポーツ界は社会を映す鏡。社会との関係性の中で改善していく必要性がある」と指摘する。指導者になれば試合や合宿での遠征がついて回る。女性にだけ家事労働の負担が偏っていたり、強固な性別役割分業意識が社会に根付いていたりする状況のまま、女性がキャリアを積むことは難しい。これは社会全体に共通する課題だ。意思決定層に女性が少ない現状は他分野でも同様だ。国会議員に占める女性割合(20年6月時点)は、衆議院9.9%、参議院22.9%。上場企業の女性役員比率(20年7月時点)は6.2%にとどまる。森氏の発言を追及するメディア業界も取り組みが遅れている。新聞労連の調査によると、全国の新聞社38社の役員319人中、女性はたった10人(19年4月時点)。毎日新聞社の役員も女性0人。新聞労連などのメディア労組は9日、業界団体と加盟各社に対し、女性役員比率を3割以上に上げることを要請したと明らかにした。
●オリンピック・パラリンピック関連中央団体/役員(理事)・委員に占める女性比率
 日本オリンピック委員会 20%
 日本オリンピック委員会評議員会 3.2%
 東京オリ・パラ組織委員会 20%
 東京オリ・パラ組織委員会評議員会 16.7%
 日本パラリンピック委員会 18.2%
 国際オリンピック委員会 36.9%
●五輪開催競技の中央競技団体で会長以下理事職に占める女性比率
 陸上競技 7.1%
 水泳競技 13.8%
 サッカー 16.7%
 テニス 21.2%
 ボート 17.9%
 ホッケー 13%
 ボクシング 4.5%
 バレーボール 27.8%
 体操競技 28.6%
 バスケットボール 25%
 レスリング 4%
 セーリング 25%
 ウエートリフティング 13.6%
 ハンドボール 18.5%
 自転車 10%
 卓球 17.4%
 馬術 20%
 フェンシング 15%
 柔道 13.3%
 ソフトボール 20.8%
 バドミントン 10%
 射撃(ライフル) 19.2%
 射撃(クレー) 10.5%
 近代五種 5.3%
 ラグビー 20.8%
 スポーツクライミング 8.7%
 カヌー 20.8%
 アーチェリー 15.8%
 空手 13%
 野球 11.1%
 トライアスロン 27.6%
 ゴルフ 21.9%
 テコンドー 36.4%
 サーフィン 0%
 スケートボード 26.1%

*4-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP2F54QYP2FUTQP008.html?iref=comtop_7_04 (朝日新聞 2021年2月13日) 「森会長の冗談じゃないか」 スポーツ界トップの空気感
 「83歳の会長の冗談じゃないか」。東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言を報じたとき、複数のスポーツ関係者からいわれた言葉だ。今も、そう考えている人はいると思う。問題に感じたのは、一般企業の感覚と離れた「冗談」が公の場のあいさつで通用してしまうスポーツ界トップの会議の空気感だ。背景には、競技団体の意思決定に女性や若い世代が関わりづらかった構造がある。この発言があった3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会はまさに、「女性理事を40%以上にする」などの方針を確認しあう場だった。なのに、最後にあいさつをした森会長の言葉は、JOCが進める方向とは正反対だった。「これはダメだよな」。一緒に発言を聞いていた同僚記者も、私と同じ受け止めだった。JOCが女性役員を増やす方針を示したのは17年4月。スポーツ庁などと「ブライトン・プラス・ヘルシンキ宣言」に署名した。女性枠を設けた日本セーリング連盟など、一部では意識も変わったように思う。それでも、昨年11月の笹川スポーツ財団の調査では女性役員は15%にとどまる。背景はさまざまだ。
 ・出産などのライフプランを支える仕組みが確立されておらず、女性が競技から離れて
  しまう。女性指導者もまだ少ない。
 ・そもそも幹部が男性中心で、関わりづらい。
 ・子育てや企業で働く若手は休日にある会議や仕事の負担が大きい――など。
 JOCをはじめ、これまでの日本の競技団体が選んできた「スポーツを理解している人材」の定義は狭かった。JOC理事を選ぶ選考委員が「選びたいけど、女性がいない」と嘆くのを聞いたことがある。候補に並ぶのは、元金メダリストなど選手時代の肩書や「結果を出した元監督」という強化の実績。自戒を込めていえば、我々メディアも、この構造をあおってきた。もちろん、スポーツ界の「顔」は必要だ。だけど、強化や肩書を重視するあまり、「バリバリとスポーツをしてきた人、続けられる環境にある人」しか関われない世界になっていなかっただろうか。建設的な意見を言える若手や外部の人材を「経験不足」と遠ざけ、社会と離れた特殊な世界になっていなかったか。組織委は辞任を表明した森会長の後任を選ぶため、候補者検討委員会を設置した。「透明性の高いプロセス」をうたうのであれば、検討委が複数の候補者を挙げたうえで、候補者の「公開討論会」をオンラインなどで開き、見識を世に問えばいいと思う。会長を決める権限は理事会だけにある。討論会での発言や、発言に対する社会からの反応が、理事の判断の一助になればいい。「女性だから」「アスリートだから」という固定観念でくくらず、会長にふさわしい能力をもった人を選ぶべきだ。それができて、今後のスポーツ界に浸透するのであれば、今回の問題も意味がある。

*4-2-1:https://www.asahi.com/articles/ASP296F00P29UTFK01G.html?iref=comtop_ThemeLeftS_01 (朝日新聞 2021年2月9日) 森会長発言、二階氏が火に油 若手「公然と批判できず」
 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言をめぐり、批判の声が相次いでいる。政府・与党は沈静化を図るが、二階俊博幹事長が会見で森氏を擁護し、火に油を注いだ格好となった。与党内にも発言への批判はあるものの、強い影響力を持つ2人の責任を正面から問う声は出ていない。萩生田光一文部科学相は9日の閣議後の記者会見で、こう言って森氏をかばった。「『反省していないのではないか』という識者の意見もあるが、森氏の性格というか、今までの振る舞いで、最も反省しているときに逆にああいう態度を取るのではないかという思いもある」。しかし、森氏の発言が引き起こした批判の嵐を沈静化しようという政府・与党の狙いはむしろ裏目に出ている。最大派閥出身の森氏や幹事長として権勢をふるう二階氏の影響力を恐れる声もあります。自民党の二階俊博幹事長は8日の会見で、「森会長には周囲の期待に応えてしっかりやっていただきたい」と語り、辞任は必要ないと強調。さらに森氏の発言を受けたボランティア辞退の動きを「瞬間的」とし、「どうしてもおやめになりたいということだったら、また新たなボランティアを募集する、追加するということにならざるを得ない」と語った。この二階氏の発言は、SNS上などで激しい反発を浴びる。共産党の志位和夫委員長は「どこまで国民をなめたら気がすむのか」とツイッターに投稿した。それでも二階氏は9日の会見で、自らの前日の発言について「特別深い意味はない」。改めて森氏の発言は不適切か問われたが、「内閣総理大臣を務め、党の総裁であられた方のことをあれこれ申し上げることは適当ではない」と答えるにとどめた。森氏や二階氏の発言については、政府・与党内からも苦言が出ている。麻生太郎財務相は9日の衆院予算委員会で、森氏の発言について「国益に沿わないことははっきりしている」と指摘。橋本聖子五輪担当相も同じ委員会で、二階氏の発言について「不適切だった」と述べた。とはいえ、野党などから出ている森氏の辞任要求について、政府・与党内に同調する動きは見えない。世耕弘成参院幹事長は9日の会見で「五輪が直前に迫っている。森会長でなければなかなか(難しい)」と語り、森氏の続投を支持。二階氏についても「適切、不適切という立場にありません」と述べた。最大派閥出身の森氏や幹事長として権勢をふるう二階氏の影響力を恐れる声もある。ある自民党若手議員は「本当は森氏は辞任した方がいい」と漏らすものの、公に発言することは避けているという。「党内の立ち位置を考えると、自分が公然と批判するのはこわい」と明かす。閣僚経験者の一人は「森さんや二階さんにお世話になった人ばかりだから、みんな何も言えないんだろう」と話す。こうした姿勢に対し、立憲民主党の辻元清美衆院議員は9日、記者団に与党側から、進退を問う声があがらないことを批判したうえで、「政治が根っこまで腐ってきているように私には見えた」と語った。

*4-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/84974 (東京新聞 2021年2月10日) 二階氏、閣僚からの苦言「論評しない」 ボランティア大量辞退招いた森会長発言で
 自民党の二階俊博幹事長は9日の記者会見で、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言がボランティアの大量辞退を招いたことを巡り、「静かになったら、その人たちの考えも変わるだろう」と表現したことについて「特別深い意味はない」と釈明した。閣僚から苦言が相次いだことには「いちいち論評を加える必要はない」と語った。
◆性差別への意識問われ「女性は心から尊敬」
 二階氏は、ボランティア辞退への自身の発言に関して「即座にそういう反応もあっただろうが、お互い冷静に考えたら、また落ち着いた考えになっていくんじゃないかということ」だったと真意を説明。性差別への意識を問われて「男女平等で一貫して教育を受けてきた。女性は心から尊敬している」と強調した。二階氏の発言を巡り、橋本聖子五輪相は衆院予算委員会で「ボランティアの不快な思いを真摯しんしに受け止めなければいけなかった。不適切だった」と指摘。麻生太郎財務相も「ボランティアは大会に必要な大きな力。敬意を欠いているのではないか」と苦言を呈した。二階氏は8日の記者会見で、森氏の発言を受けたボランティア辞退の動きについて「そんなことですぐ辞めると瞬間には言っても、協力して(大会を)仕上げましょうとなるのでは。どうしても辞めたいなら新たなボランティアを募集、追加せざるを得ない」と話した。党はその後、「そんなこと」という表現を「そのようなこと」に訂正すると発表した。

*4-2-3:https://mainichi.jp/articles/20210210/k00/00m/050/236000c (毎日新聞 2021年2月10日) 森氏発言に4者協議欠席で「ノー」 小池劇場再び 自民は警戒
 東京オリンピック・パラリンピックの開催都市である東京都の小池百合子知事の発言が波紋を呼んでいる。国際オリンピック委員会(IOC)が提案した4者協議を欠席する意向を表明し、女性蔑視発言をした大会組織委員会の森喜朗会長の対応にノーを突き付けた。小池氏の動きに、政府や自民党、組織委関係者には動揺が走る。
●遺恨ある森氏との綱引きに「デジャブ」
 「きちんと落ち着いて進めていく方が良いのではないかと考えております」。小池氏は10日夜の退庁の際、報道陣にこう述べ、4者協議は状況が落ち着いてから開くべきだと指摘した。都幹部は「いま出席したら現在の状況を容認していると受け取られかねない」と説明する。森氏の女性蔑視発言に対する世論の反発は大きく、都幹部の間では「問題が収まらないうちは出席は見合わせた方がいい」というのが共通認識だった。国や組織委にもこうした考えを伝えていたといい、10日朝に「17日開催で調整」とのニュースが流れ、立場を明確にするために欠席の発言をしたとみられるという。女性蔑視発言に対する抗議が都庁に殺到していることも影響している。10日までに寄せられた抗議の電話やメールなどは計1690件、都市ボランティアの辞退が126件。都オリンピック・パラリンピック準備局の担当者が「まさかここまで抗議が来るとは想像以上だ。(森氏について)都に言われてもどうしようもないが、傾聴に徹するしかない」と驚くほどで、4者協議への出席はリスクが極めて高いと判断したとみられる。これまで小池氏は、森氏の会長辞任を求めるかについては「誰がふさわしいかは組織委員会の判断も必要だ」などと述べるにとどめていた。2019年に五輪のマラソン・競歩の札幌移転案が浮上した際、森氏は水面下で国内調整をし、根回しは自民党都議にまで及んだともされるが、直前まで小池氏には知らされなかったなど遺恨がある。それでも都議の一人は「小池さんにとっては、森さんがこのままの状態でいてもらった方がいい。引きずり下ろすメリットは何もない」との考えを示す。ただ、開催都市トップが森氏の発言に厳しい態度を取ったことは重く、大会関係者からは「辞任」圧力になるとの見方が出ている。組織委幹部は「辞任を求めているようなものだ」と語り、政府関係者は「森さんが辞めるしかないという雰囲気になるかもしれない」と警戒を強める。ある都議は「ここで意思を表明するのは衝撃的。知事らしいカードの切り方だ」と話した。大会関係者の間では、森氏の続投はこれまで揺るがなかった。政府や都などの各自治体、IOCとの交渉が求められる組織委の会長職には確かな政治的手腕が求められるためだ。調整や根回しを得意とする森氏が最も手を焼いたのが小池氏で、五輪競技会場の見直しや経費負担の問題では綱引きを繰り返してきたこともあり、五輪関係者の間では「またか」との思いもある。ある政府関係者は「まるでデジャブ(既視感)」と表現しつつも、こう続けた。「小池知事が表に出てきたことで、森会長も簡単に引き下がれなくなった。徹底抗戦するだろう」。(以下略)

*4-2-4:https://digital.asahi.com/articles/ASP2471QPP24UTIL057.html?iref=pc_rellink_04 (朝日新聞 2021年2月5日) 女性蔑視発言、ごまかす笑いが社会の現実 辻愛沙子さん
 東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(83)による女性蔑視発言に、強い批判が集まっています。クリエーティブディレクターとして社会派の広告やイベントの企画などで活躍する辻愛沙子さん(25)は、この発言に「見覚えがある」と言います。記者は4日午後、音声型のSNS「Clubhouse(クラブハウス)」を通じ、辻さんに「公開取材」。一時は1千人を超えるリスナーがその様子を傍聴しました。辻さんが取材に語った内容は次の通り。
     ◇
 今回の発言はあまりにひどいですが、これを水で薄めたような出来事は社会にたくさんあり、思い当たる光景がいくつもあります。「これ、ちょっとやばいな」と思ってもごまかすための笑い―。記事の後半では、今回の問題が映した「社会の現実」について語ります。例えば、年上の男性ばかりの会議で女性は私だけだった時。疑問や意見を口にすると、話を途中で遮られ「若いから分からないかもしれないけど」と内容を聞く前に否定される。でも、私と同じことを別の男性が発言したら手のひらを返して称賛される。若い女性は「教える対象」で、対等な議論ができる相手とは思っていないのだと感じました。役職とはまた別に、勝手につくった想像上のヒエラルキーがあるのでしょう。森さんの発言は、ただの言葉のあやではなく価値観の根底に根付いているリアルな本音なんだろうと思います。思っていたとしてもせめて心の中でとどめるのが普通で、それを公の場で言うところに感覚のズレがある。今回の発言があった時、笑いが起こったと聞きます。いまの社会の現実だなと思いました。「これ、ちょっとやばいな」と思ってもごまかすための笑い。そもそも危機感すらないのかもしれません。森さん自身の問題でもありますが、あんな浮世離れした発言を許容してきた側近、メディア、世論も学び、変わっていかなければいけない。4日の謝罪会見で「発言を撤回する」とおっしゃいましたが、「謝罪」はできても、一度発した言葉は事実として多くの人の記憶に残りますから、本当の意味で撤回なんてできません。今回は失言や言葉の選び方のミスではなく、思想そのものから生まれた蔑視発言。もちろん一度の間違いですぐにアウト、とは思っていません。人は誰しも無自覚な偏見を持っていますから、私自身も常々、人はいつからでも気づけるし、学べると肝に銘じています。でも、謝罪会見では記者の言葉を遮ったり、笑いながら答えたり。自身の失言を謝罪する場のはずが「あの場で一番偉い人」として振る舞っていた。間違いに気づき、学び、何もアップデートする気などないんだなという印象でした。一方でツイッター上では3日夜から、森氏が組織委の女性理事について述べた「みんなわきまえておられて」という言葉を逆手に取り、「#わきまえない女」というハッシュタグが盛り上がっています。単なる言葉遊びではありません。いつの時代にも「わきまえない女」がいたから、今の私たちには参政権があり仕事もできる。それに対するリスペクトとシスターフッド(女性同士の連帯)の表れです。黙っている方が楽だし、声を上げている人にヤジを飛ばす方が簡単だけれど、人を黙らせる言葉よりも、連帯したいアクションに対して賛意を伝える言葉を選ぶ人が多かったのは、すごくポジティブな動きでした。今回の発言は、スポーツ界のジェンダーギャップを表したものであり、社会を反映した問題でもあります。スポーツ界は外から見ているととても閉鎖的。中からのアクションだけでなく、外からも変えていけるように声をあげていきたいと思います。

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/ASP2C7GYCP2CUTQP01Q.html?iref=comtop_7_02 (朝日新聞 2021年2月11日) バッハ氏が女性共同会長提案 川淵氏「森氏から聞いた」
 東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の新会長に就任する見通しとなった川淵三郎氏は11日、「森会長から聞いた話」として、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が森会長に対し、森会長と並ぶ女性の共同会長を置く案を提案していたと明らかにした。また、「菅(義偉首相)さんあたりは、もっと若い人を、女性はいないか、と言ったそうだ」とも語った。森会長はどちらの提案も受け入れず、川淵氏に就任を要請した。川淵氏は「菅さんが若い人を、というのは当然の話だと思う」とした一方で、「森さんが83(歳)、俺は84、またお年寄りかと言われるのは不愉快。年寄りだろうが、何だろうが、良い仕事ができるぞ、といいたい」と話した。

*4-4:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/705266 (沖縄タイムス社説 2021年2月10日) [市町村女性登用14%]積極的に不均衡なくせ
 市民ニーズを把握し、地域の実情に応じた政策に取り組むのが地方自治体の職員だ。管理職になると、意思決定に関わる機会が増える。その幹部が男性ばかりでは、女性の利益は反映されにくい。内閣府によると2020年4月1日現在、県内41市町村の課長相当職以上の管理職に占める女性割合は14・0%と低かった。全国平均の15・8%を下回っている。さらに部局長・次長級では11・7%(全国10・1%)と1割程度だった。政策に多様な視点を反映させる重要性が増す中、最も住民に身近な自治体で女性の登用が進んでいないことが分かる。政府が最近まで掲げていた「指導的地位に占める女性の割合を20年までに30%程度」とする目標からも、ほど遠い数字だ。なぜ女性管理職は少ないのか。「幹部候補になるまで育っていない」「昇進に消極的」といった声をいまだに聞くことが多い。もちろん女性自身が力をつけることは大事だが、「適材適所」で片づけるのは、必ずしも的を射ていない。そもそも候補となるための経験やチャンスを男性と同じように与えてきたのか。昇進に尻込みするのは、家事や育児の負担が女性だけに偏っている現状や、残業を前提とした長時間労働の問題でもある。男女共同参画社会づくりに関する県民意識調査で、職場での男女の待遇について「平等」と答えた人は約5割にとどまった。 
   ■    ■
 地域による登用率のばらつきも気になる。市町村の課長級以上の割合は南風原町の30・0%がトップで、浦添市の22・8%と続き、一方、いまだゼロが8村もあった。県レベルでは鳥取県の20・9%が最も高く、沖縄県は13・3%、全国平均は11・1%だった。南風原町の赤嶺正之町長は「実力本位で選んだら、女性が多かった」と話している。正規職員の男女比がほぼ半々というのも、女性が活躍する土台となっているのだろう。都道府県で全国一の鳥取県は、約20年前から知事が登用に積極的な姿勢を示し、その結果、女性の視点を生かして働く幹部が次々と生まれているという。不均衡是正に向けては、指導力を発揮すべき自治体トップの意識も問われてくる。
   ■    ■
 集団の中で変化をもたらすために最低限必要な数を「クリティカルマス(臨界質量)」と呼んでいる。政治・行政分野では30%が急激に影響力を及ぼす分岐点とされている。政府は第5次男女共同参画基本計画で「20年までに30%」とする女性登用目標を後退させ、「20年代の可能な限り早期」に先送りした。コロナ禍による影響は女性や子どもなど立場の弱い人たちにより深刻に表れている。行政分野での女性の視点はますます重要になっており、不均衡をなくすことが急務である。

<再エネの時代へ → 原発立地自治体へのアドバイス>
PS(2021年2月18、20、27日、3月2日追加):*5-1-2のように、運転開始から40年過ぎて停止中の関西電力高浜1、2号機と美浜3号機で、再稼働に必要な地元自治体の同意手続きが進んでいるが、耐用年数を延長して運転するのは、原子力規制委員会が承認したとしても同委員会の感覚がおかしいという証明にしかならず、原発建設当時より安全に無関心になっているということだ。核燃料サイクル政策は既に破綻し、原発敷地内に保管する使用済核燃料の中間貯蔵施設は県外に確保する約束をしていたそうだが、そもそも中間貯蔵と最終処分を分けて放射性物質を何度も移動させるのは金とリスクが二重にかかり、この費用も国民が負担しているのだ。
 佐賀新聞は、*5-1-1のように、「①原発立地23市町村で老朽化する公共施設・インフラの維持管理や建て替えに今後40年間で計約4兆円が必要になる」「②玄海町は660億円見込んでいる」「③フクイチ事故後の原発再稼働・新増設停滞で立地自治体は収入減に直面し、さらなる財政悪化の懸念がある」「④原発誘致による町づくりは転機を迎えている」としている。私は、最終処分方法を早急に決めて原発を卒業するのがBestだと思うので、原発立地自治体がどうすればよいかについて玄海町の例で説明すると、既に交通の便はよくなっているため、i)再エネ関連の産業を誘致する ii)EVやFCVの部品工場を誘致する  iii)近隣の農林漁業地帯で行った再エネ発電の電力で水素を作る iv)バイオ産業を誘致する v)西日本新聞や佐賀新聞の印刷部門を誘致する などが考えられる。しかし、それには環境整備が必要で、速やかに廃炉を終えて使用済核燃料も最終処分し、その土地の安全性に懸念のなくなることが必要条件であるため、国の協力が必要だ。また、既に建設されているインフラを有効利用するには、唐津市と合併して玄海町側の施設を使ったり、民間に売却したりするのがよいと思う。
 なお、*5-2-1のように、再エネは地域再生の旗手となり得るのであり、日本生命などの機関投資家は2021年4月からすべての投融資判断に企業の環境問題や社会貢献への取り組みなどを考慮するそうだ。そのため、再エネ利用がさらに高まることは確実で、投資家や消費者が選別する時代も近づきつつあり、経産省は「エネルギー基本計画」を早急に見直して再エネを主電源とする政策に変換すべきなのだ。ここで、温室効果ガスの排出を抑制するという名目で原発の再稼働や新増設を後押しするのは、「温暖化や公害の原因はCO₂だけである」と矮小化して考える非科学的で筋の悪い発想だ。
 さらに、所沢・飯能・狭山・入間・日高の埼玉県西部5市は、*5-2-2のように、地球温暖化防止に向けて二酸化炭素(CO2)排出を2050年までに実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を共同で宣言し、森林の活用や再エネ普及で連携し、再エネの利用・促進に関する啓発活動や豊かな森林資源を生かした環境学習などに取り組むそうだ。また、埼玉県内では、他に、さいたま市・秩父市・深谷市・小川町が「ゼロカーボンシティ」を宣言している。そして欧州では、*5-2-3のように、ダイムラーAG社のトラック部門とバス部門が2039年までに欧州・日本・北米の主要3市場で全ての新型車両をCO₂ニュートラルにする目標を発表し、「我々は大型トラックの電動化に初めて真剣に取り組み、今では顧客が使用するEVの全てでパイオニアとなっている」としているが、日本はどうか? 
 このように、*5-3-1の再エネ拡大のための送電網強化は重要で、私も電力は再生エネで100%を賄えるため、くだらないばら撒きはやめてそのためのインフラ整備を行うべきだと考える。また、*5-3-2のように、バイデン次期大統領は環境インフラに4年間で2兆ドル(2021年2月18日現在の1$≒106円で換算すれば約212兆円)投じる公約を掲げたため「ブルーウエーブ」ができているが、日本の有権者・投資家・消費者はどう考えるだろうか?
 なお、*5-4に、「⑤自動車がガソリン車からEVに切り替わると、国内部品メーカーの雇用が30万人減る」「⑥メーカー各社は新たな事業創出に向け研究開発を加速している」「⑦バッテリーや駆動用モーターなどのEV化で新たに必要となる部品もあり、各社はその開発に力を入れている」「⑧地方自治体も雇用を維持するため、中小企業のEV化対応を支援する動きが出ている」等が書かれている。⑤については、同じ機能の製品を作るなら少人数で作れる方が生産性が高く、排気ガスを出さないのでEVの方が付加価値も高い。そのため、⑥⑦は当然の方向性なのだが、⑧についても、日本にはEV・自動運転・再エネに関する特許が多く、中小企業も参入しやすいため、地方自治体が本気で支援して輸出も視野に大量生産できる体制を整えれば、ピンチに見えた情景はチャンスに替わると思う。
 再エネには、*5-5のように、佐賀市が清掃工場から出るごみ焼却熱を利用して年間約3万2千メガワット時を発電しているように、これまで廃棄していたエネルギーを電力に変えるものもある。佐賀市は、2023年度以降は7~8円/kwhになる余剰電力をどうするか考えているそうだが、九電の業務用電力は最安値でも10円以上するため、9円で市の財政に寄与する重要な産業に販売すればよいだろう。例えば、市内の企業や農業などの産業に販売すれば、電力料金が地元で廻り、産業も電力料金が安い分だけ競争上有利になる。これは、ゴミ発電だけでなく、既存ダム等の市有財産に水力発電機を設置して発電しても同じことで、送電線を水道管に沿って埋設し他の再エネ発電事業者の電力も送電すれば、送電料を徴収することも可能だ。そして、多くの市町村がこれを行えば、原発はすぐに廃止でき、化石燃料や原発由来でない確かな再エネ由来の電力を送電することで消費者も選択しやすくなる。さらに、電線の地中化も進むが、これらが電力自由化の効果であり、いつまでも電力安定供給を振りかざしてニーズにあった電力供給を行わず、エネルギー代金を高止まりさせてきた大手電力へのよい刺激になる。
 また、送電網は、現在は大手電力のものを使っており、大手電力の都合によるため、独立性も競争もない。そのため、個別の企業や住宅への配電は地方自治体が水道管の近くに電線を埋設して行うのが最も中立的でコスト削減になるだろう。また、地域間融通は、鉄道や高速道路に沿って(なるべく超電導)電線を設置するのが、最低コストになると思われる。送配電設備を持つ組織が配電料や送電料を徴収することができるのは、もちろんのことだ。
 そして、COP26の議長国である英政府は、*5-6のように、再エネやEVのインフラ投資を進めるために個人投資家と機関投資家向けに環境債を発行して脱炭素化を加速させるそうだ。環境債は右肩上がりの環境分野への資金調達に限定した債券で、比較的高い利子率に設定できるため、佐賀市のような地方自治体が公債として発行しても支持されると思う。

 
2020.10.31、2020.12.14    次世代の太陽光発電機       各種風力発電機
   日経新聞

(図の説明:左2つの日経新聞の図のように、地方では再エネ電力が余っているのに送電網が不十分で他のエリアに送電できていないが、送電網ができれば、自然エネルギー財団の見解どおり、再エネ100%で電力供給ができる。また、中央の2つの図のように、太陽光発電機器も進歩して軽さ・機能性・美しさを兼ね備えたものができている。さらに、右図のように、風力発電機も進歩して従来型の欠点を克服したものも多く出ている)


燃料電池トラック   EVトラック   燃料電池都バス   EVバス  全自動木材運搬EV


   
 燃料電池航空機   燃料電池船  燃料電池漁船   燃料電池列車   EV列車

(図の説明:上段のように、交通機関も燃料電池・EVによるトラック・バス・木材運搬機などができており、下段のように、燃料電池・EVによる航空機・船舶・列車もできた。後は、大量生産によってコストと価格を落としながらラインナップを増やすことが課題だが、作って使い始めなければ改良もない)

*5-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/631470 (佐賀新聞 2021.2.10) 原発立地23市町村、公共施設維持に4兆円 玄海町は660億円
 原発や関連施設が立地するか建設計画がある全国23市町村で、老朽化する公共施設やインフラの維持管理、建て替えに今後40年間で計約4兆円が必要になることが9日、各自治体への取材で分かった。原発関連の交付金や税収を原資に建設されたものが多く、住民1人当たりの負担額は全国平均を大きく上回る。東京電力福島第1原発事故後の原発再稼働や新増設の停滞で、立地自治体は収入減に直面している。さらに財政が悪化する懸念があり、施設の統廃合や建設抑制などで負担軽減を目指している。原発誘致による町づくりは転機を迎えている。各自治体は2015年以降、維持更新費用を試算。総額は市町村の規模により異なるため、住民1人当たりの負担額を見た。総務省がまとめた全国平均は年6万4000円。これに対し、23市町村のうち福井県おおい町が46万7000円と最も多く、17市町村は平均の2倍を超え、最も少ない茨城県東海村でも6万9000円と平均を上回った。学校や医療機関などの公共施設や道路や水道などのインフラの保有量について、19市町村は「過大」「やや過大」と回答。保有量が増えた原因として、9市町村は原発関連の収入増と関係があると答えた。松江市や鹿児島県薩摩川内市などは原発とは関係なく、市町村合併の影響を挙げた。23市町村ごとに、規模の大きい公共施設10施設について原発関連交付金の活用の有無を尋ねると、全230施設のうち136施設が該当。過剰な施設を抱える一因となったことがうかがえる。維持更新費は、18市町村で通常の建設投資の予算額を超え、他の分野の予算にしわ寄せが及びかねない。ほとんどの市町村が施設の統廃合などで負担軽減を進める方針を示した。今回の集計で、第1原発事故の影響で維持更新費を試算していない福島県大熊町と双葉町は対象外とした。費用総額は茨城県東海村が60年間、福井県美浜町が30年間で計算している。
●玄海町は660億円見込む
 九州電力玄海原子力発電所が立地する東松浦郡玄海町は、公共施設やインフラの維持管理などに今後40年間で660億4000万円を見込む。住民1人当たりの年間負担額は29万4000円と、全国平均を23万円上回った。公共施設の保有量は「やや過大」と回答した。保有量と原発関連の収入増とは関係があるとみている。規模が大きい10施設のうち、原発関連交付金を活用したのは8施設に上った。維持更新費については試算していない。

*5-1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14803656.html?iref=comtop_Opinion_03 (朝日新聞社説 2021年2月18日) 老朽原発延命 無責任の上塗りやめよ
 核燃料サイクル政策の破綻(はたん)から目をそらし、「原発の運転は原則40年まで」というルールの骨抜きに突き進む。そのうえ電力会社と立地自治体の長年の約束をうやむやにしようとする動きを後押しする。とりわけ国の無責任ぶりが目に余る。運転開始から40年を過ぎ、現在は停止中の関西電力高浜1、2号機と美浜3号機で、再稼働に必要な地元自治体の同意手続きが進んでいる。原子力規制委員会の審査を終えた後、既に高浜、美浜両町の町長と議会は同意し、福井県の知事と議会の対応が焦点となっている。関電は1990年代末、福井県知事の要求に応え、原発の敷地内に保管する使用済み核燃料の中間貯蔵施設を福井県外に確保することを約束した。しかし、いまだに果たせていない。最近では18年、20年と期限を区切りながら実現できず、福井県側は「再稼働に向けた議論に入れない」と反発していた。ところが、である。関電の森本孝社長がこのほど福井県の杉本達治知事を訪れ、23年を最終期限としつつ青森県むつ市を候補地としてあげた。同市には東京電力などが整備する中間貯蔵施設があり、電力各社からなる電気事業連合会が昨年末、それを業界で共用すると表明。関電はそこへの参画を選択肢の一つにするという。むつ市が関電の考えに「あり得ないこと」と激しく反発しているにもかかわらず、杉本知事は「覚悟が示された」と評価し、県議会に議論を促した。一連の動きは、福井県民に示してきた方針を先送り・あいまいにする対応と言うほかない。関電と福井県のトップ会談には、経済産業省資源エネルギー庁の保坂伸長官が同席し、支援を表明。オンラインで参加した梶山弘志経産相は再稼働への協力を知事に要請した。原発政策が「国策民営」と評されるのを地でいく構図である。核燃サイクルは、使用済みの燃料を再処理して再び発電に使う仕組みだが、計画は行き詰まっている。このままでは使用済み核燃料は行き場を失いかねず、その現状への不安が、むつ市や福井県の姿勢の根底にはあろう。そうした根本的な問題に向き合わず、原発の温存へ再稼働を急がせる国の対応は、無責任に無責任を重ねるものだ。原発の40年ルールは、東電福島第一原発の事故を受けて設けられた。電力不足などに備えるため「1回だけ、最長20年延長可」とされたが、その例外規定が次々と適用されている。先行きのない政策に見切りをつけ、現実的な解を探る。その決断と実行が、国と電力会社、自治体のすべてに求められる。

*5-2-1:https://www.jacom.or.jp/column/2020/10/201021-47242.php (JAcom 2020年10月21日) 再生可能エネルギーで地域再生
<日本生命保険は2021年4月から、すべての投融資の判断に、企業の環境問題や社会貢献への取り組みなどを考慮した「ESG」の考え方を採用する。独自に策定した評価基準を用い、経営の透明性や持続可能性の高い企業などへの投資を増やすことで、利回り向上とリスク低減を目指す。(読売新聞10月20日付)、ESGとは、投資環境(Environment)・社会貢献(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別した投資>
●再生可能エネルギーの利用高まる
 西日本新聞(10月17日付)は、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」や、環境や社会的責任を重視する「ESG投資」が注目を集める中、二酸化炭素(CO2)排出量を減らす取り組みで企業の社会的評価を高めるため、使用電力をすべて再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱など)で賄うことを目指す企業が増えてきていることを報じている。そして「電気を使う企業も、CO2削減の取り組みによって投資家や消費者から『選別』される時代が近づきつつある」とする。日本農業新聞(10月18日付)の論説も、「農地に支柱を立てて架台を載せ、農地の上で太陽光発電をしながら農業生産にも取り組む営農型太陽光発電の面積が増えている。当初の設備に資金が必要なため、農家が単独で発電事業に参入するのは難しい。優良な連携相手を仲介する仕組みづくりが求められる」と、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の広がりを取り上げている。
●「エネルギー基本計画」の見直しと再生可能エネルギー
 国の中長期的なエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」について、経済産業省が見直しに向けた議論に着手した。これを受けて、山陽新聞(10月18日付)の社説は、「二酸化炭素(CO2)を出さず環境に優しい再生エネを最大限活用し、主力電源として機能するよう意欲的な目標に見直すことが求められる」とし、「再生可能エネルギーの拡大」をそのポイントとする。しかし18年度の再生エネ比率は16.9%で、脱炭素で先行する欧州各国は30%前後と比べると、「日本の立ち遅れは否めない」とし、事業者への支援の必要性を訴えている。また、固定価格制度による買い取り費用が電気料金に上乗せされ、家庭や企業の負担が増大していることから、「再生エネの強化と国民負担とのバランスを考慮した議論」を求めるとともに、「原発に対する国民の不信や不安は根強い」ことから、「将来的に原発比率を下げていく道筋を示すべきだ」とする。期せずしてこの7月に「経済同友会」から出された『2030年再生可能エネルギーの電源構成比率を40%へ』と、「自然エネルギー協議会(会長 飯泉嘉門 徳島県知事)」から出された『自然エネルギーで未来を照らす処方箋』が、30年に再生エネの比率を40%まで引き上げることなどを提言していることを紹介し、「天候に左右されがちな再生エネが主力電源となるには、蓄電池の性能向上や送電線網の拡充なども必要となる。技術開発を促し、設備投資の呼び水となるよう、政府は野心的な目標を掲げ、政策誘導することが欠かせない」とする。
●原発の再稼働、さらには新増設までも後押しする読売新聞
 読売新聞(10月17日付)の社説は、「温室効果ガスの排出を抑制しながら、電力の安定供給を確保するという課題にどう対処するか。冷静な議論を通じ、現実的な道を探るべきだ」と、再生可能エネルギーの利用促進にくぎを刺す。再生可能エネルギーの問題点として、「買い取り費用が転嫁された結果、家庭や企業の電気代の負担」が増えることと、発電量の不安定性を指摘する。その不安定性を補うための電源として、「原子力の活用が最も有効だろう」とする。そして、「政府は、新計画で原発の必要性を国民に説明し、責任を持って再稼働を後押しせねばならない。同時に、国民の原発に対する信頼を取り戻すため、官民で安全を一段と高める技術開発を加速させるべきだ。古くなった施設も多く、原発の新増設についても、論議を深めてもらいたい」とまで述べている。
●中国新聞の見識
 中国新聞(10月21日付)の社説は、18年度の電源構成実績が6.2%の原発を、30年度に20~22%程度とした18年7月の閣議決定を取り上げ、「福島の事故を受けて安全対策費がかさみ、『安い』というメリットも失われた。(中略)原発ゼロを望む国民の多さを考えると、そもそも達成不可能な目標だったのではないか。依存度の引き下げが進む国際社会の潮流にも逆行している」と、指弾する。「脱炭素を進めるためにも、再生エネルギーの大幅拡大が必要だ」が、日本は後れを取っている。「発電量が天候に左右されるほか、ドイツなどに比べコスト低減も進んでいない」と、問題点を読売新聞同様認める。だが、「政府の意識は経済界より遅れているようだ」とし、前述の経済同友会提言が、30年の再生エネルギーの比率を、太陽光・風力で30%、水力や地熱などで10%と具体的に示したことを、「欧州各国にも引けを取らない高い目標」と評価する。実現に向けた、政府による明確な意思表示と政策誘導、積極的で継続的な民間投資等々の条件がそろえば、「国民の意識変革や行動変容がさらに進み、道筋も見えてこよう。エネルギー自給率の引き上げや、温暖化対策の国際公約達成にもつながるはずだ」として、新たな基本計画で、再生エネルギーの拡大へと大きくかじを切ることを政府に求めている。その背景として、「私たちは、風水害や地震が頻発する災害列島に住んでいることも忘れてはならない。甚大な被害が懸念される南海トラフ巨大地震や首都直下地震が、30年以内に70%前後の確率で起きると予測されている」ことをあげ、「災害に備えて、小規模分散型発電の可能性も各地域で考え」ることを、我々に訴えている。
●再生可能エネルギーで地球も地域も持続する
 「化石燃料のほぼ全量を輸入に頼る我が国では、温室効果ガス削減のためだけでなく、エネルギーの安定供給と自給率向上のためにも、再エネの大量導入と主力電源化が有効有益であることは論を俟たない。その実現に向けては、さまざまな課題があり、また一朝一夕で解決できるものではない。しかしながら、再エネの主力電源化は、地球の持続可能性の確保、そして日本の経済発展のために、官民が一体となって知恵を絞り、課題解決に取り組むべき最優先課題である」で、経済同友会の提言は終わっている。ソーラーシェアリングが、十数年間耕作放棄地だったところを発電所と優良農地に変えた事例を最近見学した。再生可能エネルギーは、地域再生のエネルギー源となる可能性も秘めている。「地方の眼力」なめんなよ

*5-2-2:https://digital.asahi.com/articles/ASP2H7FHYP2HUTNB006.html (朝日新聞 2021年2月16日) 県西部5市が「ゼロカーボンシティ」共同宣言
 所沢、飯能、狭山、入間、日高の埼玉県西部5市は15日、地球温暖化防止に向けて二酸化炭素(CO2)排出を2050年までに実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を共同で宣言した。歴史的、地理的に関係が深い近隣5市が、森林活用や再生可能エネルギーの普及などで連携していくという。所沢市役所で宣言文に署名する際、市長らは「自然環境、産業、文化、歴史などそれぞれの市の特長を生かしながら、互いに協力していく」と表明。市ごとの取り組みや、目指す方向性にも言及した。連携する具体的な取り組みは、5市で構成する「県西部地域まちづくり協議会」にプロジェクトチームを設置して、今後検討していく。再生可能エネルギーの利用・促進に関わる啓発活動や、飯能市や日高市が抱える豊かな森林資源を生かした環境学習などを想定しているという。所沢市は昨年11月に市単独で「ゼロカーボンシティ」を宣言しており、他の4市がこれに歩調を合わせた。県内ではほかに、さいたま市、秩父市、深谷市、小川町が、それぞれ宣言をしている。

*5-2-3:https://www.lnews.jp/2019/10/l1028307.html (Lnews 2019年10月28日) ダイムラーAG/2039年までにトラック・バスのCO2排出ガス0へ
 ダイムラーAG社のトラック部門とバス部門は10月28日、2039年までに欧州、日本及び北米地域の主要3市場で全ての新型車両をCO2ニュートラル(燃料タンクから走行時まで)化する目標を発表した。両部門は2022年までに主要市場である欧州、日本及び北米地域において、車両ポートフォリオにバッテリー式電気自動車(EV)の量産車を含める計画を立てている。また、2020年代の終わりまでに、水素駆動の量産車により航続距離の拡大を目指。第46回東京モーターショーでは、三菱ふそうトラック・バスのブランドであるふそうの燃料電池小型トラックのコンセプトモデル「Vision F-CELL」を世界初公開し、水素分野における活動強化をアピールした。さらに、2022年までに欧州の生産工場をCO2ニュートラル化し、その後他のすべての工場にも拡大する計画を掲げた。ダイムラーAG社のマーティン・ダウム取締役兼トラック、バス両部門代表は、ベルリンで開催した国際サプライチェーン会議の基調講演で「ダイムラーのトラックとバス部門は、パリ協定の目標に明確にコミットしており、業界の脱炭素化に取り組んでいる。2050年までに道路上でCO2ニュートラルの輸送を実現することが、究極の目標。これはコストとインフラの両方の観点において、顧客にとって競争力のある商品の提供を実現出来た時初めて達成できる」。「2050年までに全ての車を完全に刷新するには約10年を要するが、私たちの目標は、2039年までに欧州、日本そして北米地域にて、”燃料タンクから走行まで(Tank to Wheel)”CO2ニュートラルの新しい車両を提供すること。真のCO2ニュートラルの輸送は、バッテリー式電動運転システムまたは水素ベースの運転システムだけの場合に実現する。我々は、大型トラックの電動化に初めて真剣に取り組んだメーカーであり、今日では、顧客が使用する電気自動車の全てのセグメントでパイオニアとなっている」と述べている。なお、「メーカーのあらゆる努力の一方で、2040年時点でも、電気駆動のトラックとバスの総所有コストは、ディーゼル車よりも依然高いことが予想されるため、CO2ニュートラルのトラックとバスの誕生だけでは、普及拡大には至らない。したがって、CO2ニュートラルなトラックとバスの競争力を高めるには政府によるインセンティブが必要。CO2ニュートラルの車両が大幅な救済を得るためにはCO2値に基づいてヨーロッパ全体の通行料を変換、調整することが必要であり、バスに対する補助金プログラム、また全国的な充電および水素インフラ構築、ならびに水素の輸送および燃料補給のための統一基準を構築する補助金プログラムがとりわけ必要」としている。

*5-3-1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF143CB0U0A211C2000000/ (日経新聞 2020年12月14日) 再エネ拡大へ送電網の強化を 排出ゼロで研究機関提言
 総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の分科会は14日、官民の研究機関の報告を交えて再生可能エネルギーの普及に向けた課題や方策を議論した。各機関とも2050年の温暖化ガス排出量実質ゼロに向けて再生エネの導入拡大の重要性に触れたが、不安定な発電量への対応や送電網の強化などが必要になるとした。報告をしたのは国立環境研究所、自然エネルギー財団、日本エネルギー経済研究所、電力中央研究所の4機関。最も意欲的な目標を示したのは自然エネルギー財団だ。人口減や省エネで50年までにエネルギー需要が20~30%減るなどと見込んだ上で、電力は再生エネで100%をまかなえるとした。導入拡大には広域的な送電網を整備することで発電量の変動や事故に対応することが必要になると主張した。日本は欧米に比べて再生エネの設置に適した場所が少ないという見方に対し、耕作放棄地や空き地などを考慮すれば、地上設置型の太陽光だけでも原発や大型火力およそ100基分にあたる1億キロワット超の設備を置く土地があると指摘した。国立環境研究所は、脱炭素社会を目指す上では自動車や産業部門の電化と再生エネの最大限の活用が必須だと強調した。太陽光と風力は設置の余地が大きいものの、資源が地域的に偏在していることや天候による出力変動を踏まえ、高度なエネルギー需給の調整の仕組みが必要になるとした。再生エネの大量導入に向けた課題を指摘したのが日本エネルギー経済研究所だ。大量に導入された場合、発電している時間帯の電力価格が低下し、投資回収の見込みが立ちづらくなる可能性を指摘した。極めて高い再生エネ比率を目指す場合は、電力供給の途絶リスクに対処するために数十年以上の気象データを使った分析が必要になるほか、適切な導入量は設置の可能性や地元合意、環境への配慮などを評価して決めることが重要になると主張した。電力中央研究所は再生エネの導入拡大は「極めて重要」としたが、排出量の実質ゼロは再生エネ比率100%が前提ではないと指摘。原子力などの既存電源に加えて、水素や温暖化ガスの回収・貯留などの技術も組み合わせて費用の最小化を目指す必要があるとした。その上で陸や海で法規制による設置への影響が少ない地域で優先的に導入が進む場合、50年に発電量に占める再生エネ比率は38~50%になると指摘した。

*5-3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZASFL06HRM_W1A100C2000000/ (日経新聞 2021年1月7日) <米国>太陽光発電関連が急伸、バイデン政権で環境投資拡大に期待
 6日の米株式市場で太陽光発電関連株が急伸している。ソーラーエッジ・テクノロジーズは一時、前日比18.4%高の375.00ドルを付けた。ジョージア州の上院決選投票で民主党が2議席とも獲得し、上院で過半数を握るとの見方が強まった。同党が大統領と上下両院を制する「ブルーウエーブ」となり、太陽光関連株は公約に掲げる環境インフラ投資の恩恵を受けるとの見方が広がった。住宅用太陽光発電パネルのサンランは13.6%高の83.00ドル、太陽光電池のファースト・ソーラーは8.3%高の99.85ドルまで買われる場面があった。民主党のバイデン次期大統領は環境インフラに4年間で2兆ドルを投じる公約を掲げる。太陽光など再生可能エネルギーへの設備投資を促進し、2050年までに温暖化ガスの排出ゼロを目指す。ブルーウエーブが誕生すれば政策の実現性が高まると市場でみなされた。

*5-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/635489 (佐賀新聞 2021年2月20日) EV普及で雇用30万人減も、部品減で、メーカー苦境
 自動車がガソリン車から部品数の少ない電気自動車(EV)に切り替わることで、国内の部品メーカーの雇用が大きく減少する恐れがあることが20日、明らかになった。現在300万人程度とされる関連雇用が30万人減るとの試算もあり、メーカー各社は新たな事業創出に向け研究開発を加速。地方自治体も雇用維持するための支援を模索している。EVはモーターでタイヤを駆動して走るため、エンジンなどに関係する部品が不要となり、部品数はガソリン車の3万点から2万点程度に減るとされる。一方でバッテリーや駆動用モーターなどEV化で新たに必要となる部品もあり、各社はその開発に力を入れる。トランスミッションメーカー、ジヤトコ(静岡県富士市)の現在の主力商品はエンジン車向け無段変速機(CVT)だ。「エンジン車があっという間になくなることはない」(中塚晃章社長)としつつ、「イーアクスル」と呼ばれるEVの高速性能を高める新製品の開発を進めている。トヨタ自動車系の部品メーカー、デンソーは昨年、電動化に関連する研究開発などを行う「電動開発センター」を愛知県内に新設した。地方自治体でも中小企業のEV化対応を支援する動きが出ている。静岡県や浜松市でつくる浜松地域イノベーション推進機構が2018年に立ち上げた「次世代自動車センター浜松」は、大学や完成車メーカーなどと連携し、中小企業にEVなどの次世代技術を提供している。担当者は「準備は1年や2年では間に合わない。会員企業が脱ガソリン車に対応できるよう支援したい」と話す。アーサー・ディ・リトル・ジャパンの経営コンサルタント祖父江謙介氏は、自動車部品に関連する雇用は国内で300万人程度とした上で、EV化で1割の約30万人の雇用減少につながる恐れがあると指摘。「海外メーカーはEV開発に経営資源を集中している。日本メーカーが負ければ海外で日本車が売れなくなり、それ以上の雇用減が起こる」と警鐘を鳴らす。

*5-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/636772 (佐賀新聞 2021.2.27) 佐賀市清掃工場電力の利活用を調査 固定買い取り終了で
 再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が2023年度に終了することを受け、佐賀市は4月から、市清掃工場(高木瀬町)のバイオマス発電の利活用策を検討する。現行の売却価格が半額近くになることが見込まれており、対応策の調査研究を民間に委託する。関連予算1170万円を盛り込んだ新年度当初予算案を、3月1日開会予定の定例議会に提案する。調査研究の期間は7月から来年2月までの予定で、4月に業者を公募する。先進事例も踏まえ、一定程度の価格で販売できる仕組みづくりを22年度から計画する。バイオマス発電は、ごみ焼却の熱を利用した蒸気でタービンを回し、年間約3万2千メガワット時を発電する。電気は、焼却炉の運転や隣接する健康運動センタープールの温水などに使っている。余った電力約1万8千メガワット時は現在、東京都の新電力会社に1キロワット時当たり最大17円で販売しているが、23年度以降は7~8円になるという。市循環型社会推進課は「地域内で電力を回す方法、売り先などを幅広く検討していきたい。脱炭素社会に向けた取り組みにもなれば」と話す。

*5-6:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/639156 (佐賀新聞 2021/3/1) 英政府が個人投資家向けに環境債、脱炭素化加速、年内発行へ
 英政府が個人投資家向けに、環境債を発行することが1日までに明らかになった。ジョンソン政権が掲げる脱炭素化の動きを加速させるもので、年内の発行を目指す。環境債は欧州を中心に既に各国で発行されているが、政府が個人を対象に販売するのは珍しい。英メディアは「世界初」の取り組みと伝えている。ロイター通信によると、英政府は調達した資金を活用し、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)のインフラ投資などを進める。個人向け環境債の発行は英国の公的金融機関、国民貯蓄投資機構(NS&I)が担う。3日に正式に発表する。同時に、機関投資家向けの環境債発行も明らかにする見通しだ。英国は11月に開かれる気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の議長国。既にガソリン車の新規販売を2030年までに禁止することも発表しており、新たな環境債発行で、脱炭素化の議論をリードしたい思惑があるとみられる。環境債は使い道を環境分野への資金調達に限定した債券で、企業を中心に世界で発行する動きが広まっている。

<オリ・パラは普通に開催すべきで、できるのだが・・>
PS(2021年2月19日、3月4日追加):*6-1-1に、「①タクシー運転手が自費でPCR検査を受けて『陰性証明』を取るまで職場復帰させないと会社に言われた」「②家族を含め全員が陰性にならないと復帰させないと会社から言われた」「③日本渡航医学会・日本産業衛生学会は『感染者は発症後1週間程度で感染性がほぼ消失する』と考えられている」「④光永弁護士は労災保険の申請を提案している」等が記載されている。不特定多数の客に接する職業は、頻繁にPCR検査をして陰性証明書がなければ就業できないというのは正しいし、①②は妥当だと思う。ただし、発症した運転手本人は、④のように労災を申請すべきだし、発症していない場合もPCR検査費用は接客によるリスクを課している会社負担で行うのが当然だが、③は不確実である。
 なお、*6-1-2のように、新型コロナウイルスのワクチン接種も始まっており、ワクチンを接種した人の接種済証明書はPCR検査をした人の陰性証明書に代替できる。そして、これは医療関係者・介護職員・公共交通の運転手だけでなく、不特定多数の客と接する美容師・理容師・宅配配達員・スーパー店員なども同じ状況であるため、職場でまとめてワクチン接種やPCR検査をするのが有効だと思う。
 なお、*6-2-1のように、日本医師会の中川会長が、「⑤東京オリ・パラ開催時の外国人受け入れは不可能」「⑥外国の選手団だけでも大変な数で、外国から多くの客が来る」「⑦緩みをつくる政策があったかもしれないが、現状のまま感染者が増えると助かる命に優先順位を付けなければならなくなる」と述べられたそうだ。また、*6-2-2のように、「⑧島根県の丸山知事が、島根県内で実施予定だった東京五輪の聖火リレーに中止の意向を表明」「⑨新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための政府や東京都の対応に不満があり、中止を引き合いにして改善を促すのが狙い」とされている。また、国民も、*6-2-3のように、「⑩東京オリ・パラは中止・延期すべきとの回答が世論調査で全体の7割超を占めた」「⑪世界中から人が来るのは感染拡大に繋がるという理由が最も多かった」とのことだ。
 これらのうち、医師会会長の⑤⑥⑦の意見については、不完全な上に外国人差別に繋がる現在の検疫制度を改めさせることも可能な立場の人であるため、何を言っているのかと思った。また、⑧⑨の島根県知事の発言は察するところがあり、知事が国(特に厚労省)に物申すにはこういう言い方しかないのかもしれない。⑩⑪の世論は、メディアの報道を通して形づくられたものであるため、メディアの責任が大きい。
 現在、外国から日本に到着した際は、*6-3のように、「⑫日本への入国時は、国籍を問わず出国前72時間以内の検査証明書の検疫所への提出が必要」「⑬検査証明書を提出できない人は検疫所が確保する宿泊施設等で待機」「⑭待機後、入国後3日目に改めて検査」「⑮検査証明書を提出できなかった人は陰性と判定された後も位置情報の保存等について誓約を求める」「⑯検査証明書を提出できなかった人は、陰性と判定された後、検疫所が確保する宿泊施設を退所し入国後14日間の自宅等での待機を求める」「⑰緊急事態宣言解除まで、全ての対象国・地域とのビジネストラック・レジデンストラックの運用を停止し、両トラックによる外国人の新規入国は認めない」「⑱ビジネストラックによる日本人・在留資格保持者も、帰国・再入国時の 14 日間待機の緩和措置は認めない」となっている。
 このうち、⑫は、出国前72時間以内の検査証明書ではなく、陰性証明書の提出が必要なのだ。しかし、⑬のように、陰性証明書の提出ができない人が航空機に搭乗していれば搭乗前に陰性だった人にも感染する可能性が高いため、陰性証明書を提出できない人を航空機に搭乗させてはならないのである。そのため、航空会社が搭乗前に空港で検査して陰性証明書を提出できるようにもすべきで、これができていれば、⑭⑮⑯のように、屋上屋を重ねる不要な規制をして外国人を差別的に扱う必要はない。なお、⑰⑱のように、平時はビジネストラック・レジデンストラックによる日本人・外国人の新規入国者を例外としているのであれば、屋上屋を重ねる規制をして外国人を差別的に扱っている反面、一部はザルになっているのである。
 そのため、緊急事態宣言解除後も、ビジネストラック・レジデンストラックによる日本人・外国人にも陰性証明書かワクチン接種証明書の提出を義務付けるべきで、これらを徹底していれば、外国人が大量に来日しても問題はないため、オリンピックを通常通り開催できる。また、オリ・パラ選手に母国もしくは日本でワクチンを優先接種しても、リスクの高さとイベントの重要性から考えて不公平にはならないだろう。このような中、日本では、できない理由を並べてワクチンの開発・生産・接種が遅れ、未だに「数が足りない」「オリンピックも完全な形では開けない」等と言っているのは、非科学的で情けない。そのため、何故こういうことになったのかを、全員でまじめに反省すべきである。
 なお、*6-4のように、日本航空が、3月15日から6月20日まで国内線に搭乗する希望者に2千円で新型コロナのPCR検査サービスを始めるそうだ。しかし、海外の航空会社とも協力して、航空機への搭乗前にワクチン接種者と感染回復者が持つ抗体保持証明書かPCR検査の陰性証明書のどちらかを提示することを義務付ければ、オリンピックに外国人客が来ることに何の問題もない。そのため、無策の対応をしながら、オリンピックから外国人客を締め出そうと考えるのは、開発途上国でもやらない驚くべき発想だ。

*6-1-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/693719/ (西日本新聞 2021/2/17) 職場復帰にPCR検査必要? 会社と国で割れる見解
 「自費でPCR検査を受けて『陰性証明』を取るまで、職場復帰はさせられないと会社に言われた」。新型コロナウイルスに感染した福岡市のタクシー運転手の男性から戸惑いの声が、西日本新聞「あなたの特命取材班」に届いた。厚生労働省は「職場復帰に検査や証明は不要」と通知するが、会社側は「従業員の安心」を理由に検査を求めている。取材班は1月下旬、事案の概要をウェブで公開し、意見を募った。運転手、会社側双方に理解を示す投稿が集まった。果たして専門家の見解は-。ウェブには30件以上の投稿が寄せられた。「会社から、家族を含めて(全員が検査で)陰性にならないと、復帰させないと言われた」。家庭内感染の経験をこう語る投稿名「ぱぱぱぱぱ」さん。「国の通知をもっと広めてほしい。保健所からは再検査しないようきつく言われた」という。一方、会社側に理解を示す意見も。「狭い車内でお客さんと接点があるし、安心のためにも陰性証明はあった方がいい」と「匿名」さん。会社側は男性に検査費用の自己負担も求める。「の」さんは「会社が負担すべきではないか。仕事復帰の条件にするなら、当たり前だと思う」との考えだった。
                   ◆
 国の見解はどうか。感染症法はまず、新型コロナの患者や無症状病原体保有者に対し、就業を制限している。退院基準について、厚労省は「発症日から10日間経過し、かつ症状が軽快(解熱剤を使用せず熱が下がり、呼吸器の症状が改善傾向にある状態)となり、さらに72時間経過した場合」などと説明している。原則、ホテルでの宿泊療養や自宅療養も同じ。この時点で就業制限も解除となり「PCR検査は必須ではない」とされている。日本渡航医学会と日本産業衛生学会は「感染者は発症2日前から発症直後が最も感染性が高く、発症後1週間程度で感染性がほぼ消失すると考えられている」との見解を示す。
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 陰性証明を求める会社の姿勢をどう考えるべきか。労働問題に詳しい福岡市の光永享央(たかひろ)弁護士は「従業員らの安全衛生を考えると、必ずしも不当な要求とは言えない」とみる。国は「必須ではない」とするが、会社側にも証明を求める理由がある。こうした場合、光永弁護士は労災保険の申請を提案している。国は感染拡大に伴い、仮に経路がはっきりしなくても、リスクの高い業務であれば特例的に労災認定するよう通達。厚労省によると、全国で医療従事者やサービス業など約2千件がコロナ関連で認定され、タクシー運転手も含まれる。光永弁護士は「認定されれば休業補償が得られ、『治癒』と診断されるまでは、検査や診断書に関わる費用が労災保険の対象となる」と解説する。仮に会社が申請に協力しなかったり、当事者が退職したりしていても、労働基準監督署に相談し、自ら申請することが可能という。
【事案の概要】意見の相違、復職果たせぬまま
 男性は1月上旬に38度の発熱があり、感染が判明。直前までタクシー乗務を続けており、保健所や医師からは「勤務中に乗客から感染した可能性がある」と言われている。軽症だった男性は保健所の指示通りに自宅療養し、10日間の経過観察が終わった。保健所から「職場復帰しても問題ない」と言われ、勤め先に報告した。ところが、会社側は復帰前にPCR検査による陰性証明の提出を指示。費用は自分で負担するよう求めてきた。男性が保健所の担当職員にあらためて相談すると、「経過観察期間を過ぎており、職場復帰前の検査は不要。仮に陽性反応が出ても、人に感染させる恐れはない」と説明された。保健所職員も見解を会社側に伝えたが、会社側は「社内で感染者が出ればバッシングを受けるかもしれない。従業員の安心のためにも必要」と認めなかったという。「保健所が不要と言うのに、自費の検査を強要されるのはおかしい」と男性。今も職場復帰は果たせていない。

*6-1-2:https://www.pref.saitama.lg.jp/a0710/covid-19vaccination.html (埼玉県) 
●新型コロナウイルスワクチン接種について
 新型コロナウイルスワクチンの接種に関する情報を随時掲載していきます。
《留意事項》
 「やさしく解説!大野知事の新型コロナ対策」で県民の皆さんからの新型コロナに関する様々な疑問に、大野知事が分かりやすくお答えしています。「やさしく解説!大野知事の新型コロナ対策」
1 接種スケジュール
 国がワクチンを準備し、接種の順番を定めることとなり、まずは医療従事者、次いで65歳以上の高齢者、基礎疾患を有するかた、高齢者施設等の従事者、一般の県民のかたの順に接種します。2月の中旬から医療従事者のかたの接種が開始される予定ですが、接種は市町村が、その支援と副反応などの相談は県が受け付けることとなっています。65歳以上の高齢者のかたに対しては、3月にお住いの市町村から接種券が届き、4月から接種が開始される予定です。それ以外のかたには、4月以降に接種券が届く予定です。具体的な接種時期についても追ってお住いの市町村からお知らせが届く予定ですので、いましばらくお待ちください。なお、接種費用は、全額国が負担します。自己負担はありません。
2 ワクチンや副反応について
 新型コロナウイルスワクチンのうち、最初に接種を行うことになるファイザー社のワクチンは筋肉内注射のため、接種後に接種部位の痛みや腫れなどの軽い副反応が頻繁に出現するとされています。これらの症状が出たときは、慌てず様子を見ていただければと思います。 他の予防接種と同様、まれに、接種後にけいれんなどのアナフィラキシーショックを起こすことがありますが、その場合は接種会場の医師がすぐに応急処置を行います。また、接種会場から帰宅した後、その日の夜などにショック症状が出現した場合には、24時間対応の県の専門相談窓口にお電話いただければ、看護師と医師が対応いたします。さらに、接種後、徐々に麻痺やしびれ症状などが出現し、かかりつけ医等に受診しても対応が難しい場合には、専門医療機関にスムーズにつなぐ体制を整えています。県民のみなさまに安心して接種していただけるよう、ワクチンの安全性や相談・受診体制に関する情報を広く周知します。(「専門相談窓口」の設置と「専門医療機関」の指定について、3月1日頃に開始を予定しています。)

*6-2-1:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012200902&g=pol (時事 2021年1月22日) 外国人受け入れ、現状では困難 東京五輪、「医療崩壊が頻発」―日医会長
 日本医師会の中川俊男会長は22日、東京都内で開かれた内外情勢調査会で講演した。新型コロナウイルスの感染者数が高止まりする中、「医療崩壊が頻発している」と強い危機感を表明。その上で、東京五輪・パラリンピック開催時の外国人受け入れについて、「受け入れ可能かというと可能ではない」と述べ、現在の感染状況では困難との認識を示した。中川氏は「外国からたくさんのお客が来て、選手団だけでも大変な数だ」と指摘し、患者数のさらなる増加を懸念。五輪開催の可否については明言を避けた。また、年末年始以降の感染者数の急増にも言及。政府の「Go To キャンペーン」などを念頭に「いろいろな緩みをつくる政策があったかもしれない」とした上で、「現状のまま感染者が増え続けると、助かる命に優先順位を付けなければならない状態になる」と警鐘を鳴らした。

*6-2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/86465 (東京新聞 2021年2月17日) 「協力難しい」島根県知事が東京五輪の聖火リレー中止の意向 政府や都のコロナ対策に不満…大会開催も反対
 島根県の丸山達也知事は17日、県内で実施する予定だった東京五輪の聖火リレーについて、「開催すべきでない」と中止の意向を表明した。県の聖火リレー実行委員会で明らかにした。五輪のリレーは5月15、16日に実施し、パラリンピックは日程調整中だった。「今の時点で中止をお願いするわけではない。状況を見て、(政府と東京都の対応が)改善するかどうかあらためて判断したい」とも述べた。委員会終了後の記者会見で、五輪自体の開催にも反対する考えを表明した。丸山氏は委員会に先立ち、取材に「新型コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための政府や東京都の対応に不満がある」などと理由を明かした。中止を引き合いに、改善を促すのが狙い。丸山氏は記者会見で「五輪と聖火リレーの開催に協力していくことは難しい」と語った。丸山氏は10日の記者会見でも政府や都を批判していた。丸山氏は2019年4月の知事選で初当選した。

*6-2-3:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021012400086&g=soc (時事 2021年1月24日) 東京五輪「中止・延期」が7割 感染拡大を懸念―新聞通信調査会
 公益財団法人「新聞通信調査会」(西沢豊理事長)は23日、今夏の東京五輪・パラリンピックに関し、「中止、延期すべきだ」との回答が全体の7割超を占めたとする世論調査の結果を公表した。理由は「世界中から人が来ることは感染拡大につながる」が最も多かったという。調査は昨年10月30日~11月17日、18歳以上の男女を対象に実施し、約3000人から回答を得た。五輪・パラリンピックの開催については、「中止すべきだ」との回答が37.9%で最も多かった。「さらに延期すべきだ」が34%で続き、「開催すべきだ」は26.1%だった。「開催すべきだ」とした理由(複数回答)は、「選手が出場に向けて準備している」(67.3%)、「選手の活躍や五輪の活気に元気づけられる」(49.3%)、「誘致や会場建設などの準備が無駄になる」(44.8%)などの順だった。中止や延期すべきだと回答した理由(複数回答)のうち、最も多かったのは「世界中から人が来ることは感染拡大につながる」で83.4%。次いで「コロナ流行が収束する見込みがない」(64.3%)だった。

*6-3:https://www.iace-usa.com/pcr_test (厚労省 2021年2月5日最終更新より抜粋) 日本到着時の最新の検査状況
※検疫措置の内容・所要時間は流動的であり、予告なく変更となる場合があります。
日本ご帰国のお客様へ 重要なお知らせ
・国籍を問わず、日本への入国に際し(入国・再入国・帰国する者全てに対し)、検疫所へ「出国前72時間以内の検査証明書」の提出が必要です。
・「出国前72時間以内の検査証明書」が提出できない場合、検疫所が確保する宿泊施設等で待機となります。(検疫官の指示に従わない場合は、検疫法に基づく停留措置の対象となる場合がございます。) さらに、入国後3日目に改めて検査を行い、陰性と判定された場合、位置情報の保存等(接触確認アプリのダウンロード及び位置情報の記録)について誓約が求められるとともに、検疫所が確保する宿泊施設を退所し、入国後14日間の自宅等での待機が求められます。
・緊急事態解除宣言が発せられるまでの間、全ての対象国・地域とのビジネストラック及びレジデンストラックの運用は停止され、両トラックによる外国人の新規入国が認められません。また、ビジネストラックによる日本人及び在留資格保持者についても、帰国・再入国時の 14 日間待機の緩和措置は認められません。
その他の関連情報、詳細は外務省ホームページまで。

*6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/639074 (佐賀新聞 2021/3/1) 日航、希望者に2千円でPCR、国内線の客、15日から
日本航空は1日、国内線に搭乗する希望者向けに2千円で新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査サービスを始めると発表した。日航が費用の一部を負担する。対象となる搭乗期間は今月15日から6月30日まで。搭乗日の7日前までの申し込みが必要。春にかけて転勤や進学で人の移動が多くなるため、安心して飛行機を利用してもらうのが狙い。日航の公式サイトで申し込むことができ、マイレージ会員の登録が必要となる。旅行会社などを通じた団体旅行は対象外。自宅に検査キットが届き、採取した唾液を指定の検査機関に返送する仕組み。返送費用は自己負担となる。結果はメールで本人に通知する。陽性判定が出た場合は搭乗できず、予約した航空券は手数料なしで取り消すことができる。日航は国際線の全乗客を対象に、渡航先で新型コロナの陽性と判定された際の検査や治療、隔離にかかった費用を補償するサービスも無償で提供している。

<女性蔑視の結果である日本の遅れ>
PS(2021年2月22日):*7-1に、九電が経産省と同じ見解の原発の必要性を記載しており、「①エネルギーセキュリティ:日本のエネルギー自給率はわずか7%程度しかなく、殆どを海外からの輸入に頼っているため、エネルギーの多様性が重要」「②地球温暖化対策:原発はウラン燃料が核分裂した時に発生する熱を利用して発電しており、発電時にCO₂を排出しない」「③資源の安定供給:ウランは世界各地に分布しているので安定確保が可能で、使い終わったウラン燃料も再処理して燃料として再使用可能」「④地球環境への影響:発電時にCO₂を発生しない」「⑤太陽光は悪天候時・夜間は発電できず、風力は無風時には発電できないなど出力が不安定」「⑥安定的出力を見込めない電力は、ベース電源である原子力の代替として考えることが難しい」「⑦九電はエネルギーの長期安定確保・低炭素社会の実現に向け、国のエネルギー政策の動向を踏まえてバランスのとれた電源開発を行う」としている。
 このうち、①②③④は、再エネこそ100%国産化可能で国富を失わずに安定供給でき、CO₂は排出せず、発電時に原発のように温排水や放射性物質を排出することもないため、環境にも地球温暖化にも原発より優れている発電方法だ。その上、原発のような電源地域への交付金の必要性や廃炉・最終処分場等の問題もないため、国民負担が非常に少ないのである。さらに、⑤⑥はスマートグリッドの使用・蓄電技術・広域送電等によって簡単に解決できるため、⑦の結論は発電時にCO₂を排出しないことだけを掲げて原発維持を主張しているにすぎない。
 一方で、経産省や電力会社は意思決定層に女性が殆どおらず、非常に狭い視野に基づく理由を並べて現状維持(何も考えなくてよいため最も簡単な政策)を意図してきた。この傾向は、*7-2の森前会長の女性蔑視発言に「日本社会の本音が出た」などと述べた経団連会長にも現れており、再エネ推進・脱原発を主張してきた私に、日本の経済社会は「経済・物理に弱い女は黙っていろ」という馬鹿にした態度の人が少なくなかったのである。しかし、戦後の男女共学の下で同じ勉強をし仕事で経験を積んできた女性を馬鹿にしていたことが、日本の再エネ・電動化技術を遅れさせた原因であり、*7-3の経済同友会の桜田代表幹事は、「⑧女性側にも原因がないことはない」「⑨チャンスを積極的に取りにいこうとする女性が多くない」「⑩多様性を重視しない企業は存続すら危うい」等と言っておられるが、⑧⑨については、このように女性の能力を割引いて考え、女性の実績を認めない日本社会で、チャンスを積極的に取りに行くのはハイリスク・ローリターンもしくはハイリスク・ノーリターンなのである。そのため、⑩を徹底した上でも女性が尻込みしていれば、初めて「女性の側にも原因がある」と言えるわけだ。
 そして、このような経験は、どの女性も持っており、それぞれのやり方で解決してきたため、*7-4の東京オリ・パラ組織委員会の森前会長の女性蔑視発言に多くの女性が怒ったのだが、これまで「わきまえて」きた女性は、女性の能力を割引いて考え、女性の実績を小さく評価する日本社会の“常識”を覆すのには貢献しなかったと言える。

*7-1:http://www.kyuden.co.jp/notice_sendai3_faq_necessity.html (九州電力より抜粋) 原子力発電の必要性
●原子力発電は、なぜ必要なのですか。
 原子力発電については、エネルギーセキュリティ面や地球温暖化対策面などで総合的に優れていることから、安全・安心の確保を前提として、その重要性は変わらないものと考えています。
・エネルギーセキュリティ面
 日本のエネルギー自給率はわずか7%程度しかなく、エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っています。その輸入元を見ても、一次エネルギー供給の約40%を占める石油は政情が不安定な中東に大きく依存しているなど、日本のエネルギー供給構造は極めて脆弱な状況にあります。エネルギー供給構造が脆弱な日本では、特定のエネルギーに依存せず、エネルギー資源の多様性を確保しておくことが重要です。日本は2度のオイルショックの経験から、省エネルギーに努めるとともに、原子力や石炭・天然ガスなど、石油に代わるエネルギーの開発・導入を進めてきました。エネルギー資源の多様性を確保する観点からも、原子力発電は必要な電源です。
・地球温暖化対策面
 CO2などの温室効果ガスは、地球温暖化の原因と言われています。原子力発電は、ウラン燃料が核分裂した時に発生する熱を利用して発電しているため、発電時にCO2を排出しません。原子力発電は地球温暖化防止の観点で、優れた発電方法の一つです。
●原子力発電所の特長は。
・資源の安定供給
 燃料となるウランの供給先が、カナダ、オーストラリアなど世界各地に分布しているので安定した確保が可能です。一度使い終わったウラン燃料は、再処理して再び燃料として使うことが可能です。石油資源の節約になります。ウランは少ない量で大きなエネルギーを発生します。輸送・貯蔵も容易です。原子炉に一度入れた燃料は、1年間は取り替えずに発電できるので、燃料を貯蔵しているのと同じ効果があります。
・地球環境への影響
 発電時にCO2が発生しません。
●風力や太陽光発電を推進すれば、原子力発電は必要ないのではありませんか。
 当社は、国産エネルギーの有効活用、並びに地球温暖化対策面で優れた電源であることから、太陽光・風力・バイオマス・水力・地熱等の再生可能エネルギーを積極的に開発、導入しています。しかしながら、太陽光は悪天候時及び夜間は発電できず、風力は無風時には発電できないなど、気象状況や時間帯によって出力が左右される不安定な電源です。また、太陽光・風力は、雲の状況や風況により、時々刻々の出力変動が大きいことから、その変動を吸収する調整電源が必要です。一方、原子力は、年間を通じてフル出力で運転が可能な電源です。従って、安定的な出力を見込めない太陽光・風力は、ベース電源である原子力の代替として考えることは難しいと考えており、原子力・火力・水力などの電源と組み合わせることにより、電力の安定供給を確保していきます。
●九州電力における電源開発の考え方は。
 当社は、エネルギーの長期安定確保及び低炭素社会の実現に向けて、安全・安心の確保を前提とした原子力の推進や、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの積極的な開発・導入、および火力の高効率化などを推進してきました。当社の今後の電源開発計画については、国のエネルギー政策の動向などを踏まえ、バランスのとれた電源開発を検討していきます。

*7-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14794861.html (朝日新聞 2021年2月9日) 経団連会長「日本社会の本音出た」 森会長の女性蔑視発言
 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は8日の会見で、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言について問われ、「コメントは差し控えたいなと思います」と断った上で、「日本社会っていうのは、そういう本音のところが正直言ってあるような気もします。(それが)ぱっと出てしまったということかも知れませんけど、まあ、こういうのをわっと取り上げるSNSってのは恐ろしいですよね。炎上しますから」と語った。問題になっている森氏の発言は「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」というもの。中西氏は「本音」の意味を問われると、「まず、女性と男性と分けて考える、そういう習性が結構強いですね」とし、「長い間、男は男、女は女で育てられてきましたし、それ以外のいろんな意味でのダイバーシティー(多様性)に対する配慮ってのは、まだまだ日本は課題があるんだろうなっていうのは思っていますが、それが、ぱっと出るか出ないか、そんな意味で申し上げました」と説明した。

*7-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/86349?rct=economics (東京新聞 2021年2月16日) 積極的な女性「まだ多くない」 経済同友会の桜田代表幹事
 経済同友会の桜田謙悟代表幹事は16日の定例記者会見で、企業で女性の役員登用が進んでいない理由を問われ「女性側にも原因がないことはない」とし、「チャンスを積極的に取りにいこうとする女性がまだそれほど多くないのではないか」との認識を示した。一方「生産性向上のための技術革新には人材の多様性が必要だが、経営者にはその危機感が足りない」とも指摘。多様性を重視しない企業は「存続すら危うい」と警鐘を鳴らした。辞任表明した東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言については「コメントするまでもなく論外」と批判した。

*7-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14806227.html?iref=comtop_Opinion_02 (朝日新聞 2021年2月19日) 森前会長発言、女性たちに広がった怒り 性差別の社会へ「もうわきまえない」 伊木緑
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)による女性蔑視発言があった翌日。「女性が入ると会議に時間がかかる」実例として挙げられた日本ラグビー協会で、女性で初めて理事を務めた稲沢裕子・昭和女子大特命教授(62)に取材した。発言の報道に触れた時、「私のことだ、と思った」と言う。発言の後に起きた笑いについて尋ねた時の答えに、胸が締め付けられた。「私も笑う側でした」。稲沢さんが読売新聞記者になったのは、1985年の男女雇用機会均等法の制定前だ。「男社会の中で女性は自分だけという場が多く、笑うしか選択肢がなかった。笑いを笑いで受け流していた」。今回の発言を受け、ツイッターでは「#わきまえない女」のハッシュタグを添えた投稿がわき起こった。森氏が言った「組織委員会に女性は7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」にちなんだものだ。稲沢さんも「わきまえて」きたのだろう。ツイッターの声も「わきまえてなんかいない」という反論よりも、「わきまえてしまったこともあったが、もうわきまえない」という決意が目立った。怒りと共感が広がったのは、大きな組織の役員に就くような女性に限った話ではないからだ。たとえば新型コロナウイルス対策の給付金が世帯主にまとめて振り込まれたために自分で手にできなかった人。勤め先の客が激減し、補償もなくシフトを大幅に減らされた人。結婚後も自分の姓を名乗りたかったのに周囲を説得しきれずあきらめた人。いずれも最近、取材した女性たちの声だ。疑問や怒りを感じながらも、声を上げられなかったり、上げても聞き入れられなかったりして、結果的に「わきまえ」させられた経験のある女性は多い。男性だって同じだ、と思うかもしれない。でも考えてみてほしい。官民ともに意思決定層の大半を男性が占める社会で、女性たちの声が軽んじられ、意見しようものなら疎まれてきたことを。ジェンダー格差を意識せずに生きてこられたこと自体が特権であると、男性はまず自覚するべきだ。

<「うーまんちゅ《Woman衆》応援宣言」は有難い>
PS(2021年2月24日追加):日本弁護士連合会会長も、*8-1のように、東京オリ・パラの組織委員会の前会長発言について、「①性別による差別を禁止する憲法14条1項違反」「②女性差別撤廃条約違反」「③男女共同参画違反」「④オリンピック憲章の精神違反」「⑤東京オリ・パラの多様性と調和という基本コンセプト違反」「⑥政府や民間企業が取り組んでいる男女共同参画社会の推進に逆行」「⑦日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いを露呈」「⑧さらに女性に『わきまえる』ことを求め、意見表明を控えよと言わんばかりだが」「⑨意思決定過程において多様な意見が忌憚なく述べられ反映されることは国内外で広く推進されつつあるガバナンスの根本原理」「⑩少数者が意見を述べることを制止するような風潮は健全な民主主義にも疑問が呈される」と、国際条約・法律・オリンピック精神・民主主義の理念からパーフェクトな批判をしておられる。今後は、裁判官・検事・弁護士・警察官・法律自体に潜む女性蔑視や女性差別にも注目して変えていただきたい。
 また、組織や社会の意識改革を行い、幅広い分野で女性登用を推進するために、*8-2のように、沖縄県が「うーまんちゅ応援宣言」に賛同する企業を募集しておられるそうで有難い。さらに、少子化で“生産年齢人口”が減る中、年齢や性別で差別すればそれだけ有能な人材を逃すため、高齢者や女性を公平・公正に登用する機会均等は必要条件であることを加えたい。
 なお、*8-3は、「⑪女性蔑視を批判する人からも女性蔑視を感じる」「⑫女性蔑視は、それを見過ごしてきた社会全体の問題である」「⑬舛添前東京都知事の『気配りの達人だからこそ失言も多くなる』という擁護はズレている」「⑭別の属性を根拠とした抑圧を持ち出すのは女性蔑視問題の矮小化だ」「⑮『女性が生きやすい社会は男性も生きやすい』という説明は男女間に存在する量的・質的な抑圧の差を矮小化し、女性の人権や尊厳に理解が及んでいない」「⑯男性中心社会は女性たちが訴える機会を散々奪ってきた」等と記載された掘り下げた記事だ。⑪⑫⑭⑮⑯は全くそのとおりで、そこまで言及できるようになったのかと思うが、舛添氏はキャリア・ウーマン好みだそうで私は女性蔑視を感じたことがないので、⑬は苦しい擁護だと思う。



(図の説明:左図のように、女性の賃金は2019年でも男性の74.3%で、中央の図のように、格差が縮まっているといっても、あらゆる勤続年数で女性の平均給与は男性より低い。また、学歴別に比較しても、あらゆる学歴で女性の年収は男性の年収より低く(70%超程度)、人生の後半に行くほど差が大きい。これにより、女性差別は、女性を低賃金労働者に据え置き、女性から搾取する手段として使われてきたのだということがわかる。これは、女性にとっては「心を傷つけられた」という精神的被害だけではなく、経済的損失という大きな実害があるのだ)

*8-1:https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210219.html (2021年2月19日 日本弁護士連合会会長 荒 中) 性差別を許さず、男女共同参画の実現を推進する会長談話
 2021年2月3日、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)の会長(当時)は、公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)の臨時評議員会において、スポーツ団体ガバナンスコード(スポーツ庁・2019年6月10日策定)が設定した女性理事の目標割合(40%以上)の達成に関連して、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」、「私どもの組織委員会…(の女性は)みんなわきまえておられて」などと発言した。全世界が注目する東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会の長であり、しかもかつて我が国の内閣総理大臣の立場にあった人物が、公式の場で平然と女性蔑視・差別を内容とする発言を行ったことは社会に大きな衝撃を与え、国内外から厳しい非難の声が上がった。かかる一連の発言が、性別による差別を禁止する憲法14条1項及び日本が批准する女性差別撤廃条約の理念に反し、男女共同参画の理念にも悖ることは、改めて指摘するまでもない。さらに、オリンピック憲章は「権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。」と定め、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会は多様性と調和を基本コンセプトとしている。上記発言は、オリンピック憲章の精神にも真っ向から反するものである。また、JOC及び組織委員会は、本件に対し、直ちに問題点を明らかにするとともに、差別を許さない組織への具体的な改善策を示す等すべきであった。しかし、適時に適切な対応が取られることはなく、むしろJOC会長は「(謝罪、撤回したのだから会長職を)最後まで全うしていただきたい」などと述べ、擁護の姿勢さえ示していた。性差別解消や健全な民主主義発展のため、意思決定過程により多くの女性が関与すべきことは、現代社会における普遍的価値である。上記一連の事象は、政府や民間企業が挙げて取り組んでいる男女共同参画社会の推進に逆行することはもちろん、今なお日本社会に厳然と存在する性に基づく偏見、差別、不平等な取扱いの露呈にほかならない。さらに、同会長の発言は、女性に「わきまえる」ことを求め、意見の表明を差し控えよと言わんばかりであるが、意思決定過程において多様な意見が忌憚なく述べられ反映されることが必要であることは、国内外で広く推進されつつあるガバナンスの根本原理である。女性に限らず少数者が意見を述べることが制止されるような風潮があるならば、多様性と調和を基本コンセプトとする東京オリンピック・パラリンピックの存在意義が問われるだけでなく、ひいては我が国の健全な民主主義にも疑問が呈される問題である。当連合会としても、かかる事態を座視することはできない。当連合会は、JOC及び組織委員会に対し、多様性と調和の実現を目的としつつ、効果的な再発防止策の作成と実施、ガバナンスの見直し、前掲のスポーツ団体ガバナンスコード(女性理事の目標割合40%)達成等に向けて、いち早く取り組むことを望む。当連合会も、「第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画」を策定し、性別による差別的取扱いを厳しく禁止するとともに、男女共同参画実現のための目標を定めて取組みを続けているが、今後も性差別を許さず、男女共同参画社会の実現に向けた活動を積極的に展開していく所存である。

*8-2:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1276386.html (琉球新報 2021年2月23日) 女性登用促進、沖縄県が賛同企業募集「うーまんちゅ応援宣言」
 組織内の改革や社会の意識改革を図り、幅広い分野での女性登用を推進するため、県は県内の企業や団体から「Womanちゅ(うーまんちゅ)応援宣言」を募集している。来年度の第6次県男女共同参画計画策定に先駆けてジェンダー平等の実現に取り組むのが狙い。宣言者は女性活躍を推進する県内各分野のリーダーが対象。県女性力・平和推進課が郵送やメール、ファクシミリで受け付けている。申請書は県ホームページ(HP)からダウンロードできる。企業や団体の宣言内容は県ホームページ(HP)などで公開する予定。

*8-3:https://webronza.asahi.com/culture/articles/2021021100002.html?iref=comtop_Opinion_06 (朝日新聞 2021年2月12日) 辞任表明、森喜朗氏的な女性蔑視は、男性誰もが持っているのだから、批判する人々からも感じる女性蔑視を掘り下げてみた
 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗氏が、「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」「私どもの組織委員会にも、女性は(中略)7人くらいおられますが、みんなわきまえておられて」などと女性蔑視発言をしたことが、大きな問題となりました。これに対して抗議の意を込めた「#わきまえない女」がTwitterのトレンド1位になったり、各国の在日大使館が「#don't be silent」というハッシュタグを付したムーブメントを展開するなど、連帯も生まれています。その後、「逆ギレ」とも言われた森氏の会見や、「余人をもって代えがたい」(自民党の世耕弘成参院幹事長)といった言語道断な擁護論もありましたが、国内外からの厳しい批判を受けて、2月12日、森氏はとうとう辞意を表明するまでに追い込まれました。女性蔑視は発言した本人だけではなく、それを見過ごしてきた私たち社会全体の問題でもあるという認識も広がりつつあるように思います。多くの世論調査で、「辞任すべきだ」という声が多数を占めたように、女性蔑視に関する社会の問題意識が、確実に変化しているように感じます。
●森氏を批判しつつもどこかズレている人たち
 その一方で、森氏を批判する著名人(主に男性)の中には、女性に矛先を向けたり、「ズレている」と思われる意見も散見されます。舛添要一前東京都知事は、自身のTwitterで「森会長の女性蔑視発言は批判に値する」と言いつつも、「気配りの達人だからこそ失言も多くなる」と擁護したり、アメリカの女性参政権運動を模倣して野党の女性国会議員が白いスーツを着用した「ホワイトアクション」に対して、「失笑を禁じえない」と見下すような投稿もしていました。衆院予算委で東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長発言に抗議の意を表すため、白いジャケットを着る立憲民主党の女性議員ら=2021年2月9日
●「#わきまえない男」は「#わきまえない女」と対にはならない
 ここまであからさまではなくとも、「#わきまえない女」の波に乗るように一部の男性著名人が投稿した「#わきまえない男」も誤った批判だと思います。彼らはおそらく自分よりも権力を持つ者から「わきまえろ」と言われて忸怩たる思いをした経験があり、「自分もそのような権威主義的抑圧には反対だ!」と言いたいのでしょう。それにNOを言うこと自体は大切です。しかし、森氏の発言で問題になったのは、あくまで女性蔑視です。確かに、男性にも「わきまえろ」という圧力はあるものの、それは主に「年下のくせに」「役職が低いくせに」「新参者のくせに」といったように、別の属性を根拠とした抑圧であって、「男のくせに」という性を理由とした抑圧は、この男性中心社会にはほぼ存在しないのではないでしょうか。つまり、彼らが言いたいのはあくまで「わきまえない年下」「わきまえない部下」「わきまえない新参者」であり、それを「#わきまえない女」と並列するのは不適切です。むしろ、「#わきまえない女」を“中和”させ、「女性」を理由とする強烈な抑圧という今回の問題の本質を見えなくしています。それは女性蔑視問題の矮小化に他なりません。仮に、ここで「#わきまえない女」と対にするのであれば、「#女性に対して性別を理由にしたわきまえる態度を一切求めも期待もしないし、そのような男性を公然と批判できる男」だと思います。
●「男性の利益」を根拠に説得してはいけない
 次に、「女性が生きやすい社会は、男性も生きやすいのです(なので、森氏は辞任しなければならない)」といった発言も、問題を同様に矮小化する危うさがあります。「男性の生きづらさ」という問題は確かにあるものの、それは量・質ともに女性の問題とは大きく異なります。確かに、両者に等しく圧がかかる部分もありますが、基本的には非対称なはずです。つまり、正確に言えば、「女性が生きやすい社会=男性も生きやすい社会」ではなく、「女性が生きやすい社会∩男性も生きやすい社会(両者に共通する部分がある)」です。それにもかかわらず、まるで片方が成立すればもう片方も成立するかのように規定すれば、男女間に存在する量的かつ質的な「抑圧の差」を見えにくくしてしまいます。このような主張は、その正当性を訴えるために、「男性の利益」を根拠としています。ですが、「あなたにも利益があるから」という形で説得をして、仮に森氏のような人たちが賛成に回ったとしても、彼らは自分の利益目当てで賛成したに過ぎません。女性の人権や尊厳の問題には何も理解が及んでいないのです。それでは意味がありません。環境や非正規雇用の問題も含め、企業や自分たちの利益ベースで物事を判断してきことが様々な社会問題を招いてきたのです。ですから、なるべく利益を根拠とした説得は行わないほうがよいでしょう。
●わきまえない女を「わきまえた女」にしたいのか?
 では、なぜ彼らはわざわざ「男性の利益」を持ち出すのでしょうか? おそらく、「男性と女性が対立している今の状況が嫌だから、女性にわきまえた態度を求める男性たちにも、彼女たちを受け入れてほしい」と思っているのでしょう。その解決策を考えた時に、「男性のメリットにもしっかりと配慮できる女性なんです!とアピールすれば受け入れてもらえるに違いない!」と考えた結果のように思います。ですが、「男性のメリットにもしっかりと配慮できる女性」というのは、結局「“わきまえた女”」に他なりません。「私たちはわきまえない女です」と言っている女性たちのすぐ横で、「彼女たちはわきまえた女です!」と否定しているわけで、結局森氏の女性蔑視と大きなくくりでは同類に思えて仕方ありません。もちろん、絶対に「男性の利益」を持ち出してはいけないとは思いません。ですが、その際は「両者の利益には共通する部分“も”ある」と正確な言い回しをすべきであって、「女性の主張を男性に受け入れてもらえるための説得材料」としては用いるべきではないでしょう。
●男性を出すことで女性をまた“バーター”扱いしている
 そもそも、私たちが暮らす男性中心社会は、これまで女性たちが訴える機会を散々奪ってきました。そしてようやく議題として取り上げられたとしても、結局「男性が抱える課題と抱き合わせにされる」という、まるで“バーター”のような扱いが少なくありません。いつまでたっても一人前の主張として単独では扱われなかったわけです。日本の行政が低用量ピルを何年も認可しなかったにもかかわらず、バイアグラはすぐに認可され、それが批判されるとようやくピルが認可されたという歴史に残る女性差別は、まさにその典型例でしょう。そのような歴史を振り返れば、今回の森氏の件についても、いま「男性の生きづらさ」の問題を同列に机上に乗せるタイミングではありません。まずは当事者である女性の問題に限定するべきだろうと思います。
●「娘のために」という父親はなぜ「妻のために」とは言わない?
 3つ目は、記者会見で森喜朗氏に鋭い切り込みを入れて、多くの人から称賛されたTBSラジオの澤田大樹記者の発言についてです。彼の権力者と対峙する姿勢はとてもすばらしかったのですが、彼がその後にTwitterに投稿した「自分の娘たちが大人になったときに『わきまえろ』と言われたら、どう思うか」という発言には、少々違和感を覚えました。というのも、母親だって、妻だって、(場合によっては)姉や妹だって、同世代の女性の友人たちだって、「わきまえろ」という抑圧の言葉を既にたくさん浴びせられてきたはずだからです。それなのに、どうして真っ先に思いを馳せた対象が娘さんだったのでしょう?確かに、「娘のために」という父親は少なくありません。でも、娘が受けるであろう「未来の不利益」は想像できるのに、自分の周りにいる大人の女性が既に受けた(or受けている)であろう莫大な「過去や現在の不利益」に対して、今なぜ想像力が向かないのでしょうか。そこに、森氏のような女性蔑視の残滓が残っていないか、「娘のために」と言う男性たちは自身に問うて欲しいのです。
●自分の周りにいる女性に「わきまえろ」と思っていないか
 娘という存在は否応なしに親に庇護されている立場であり、多少の口答えをしても、子として“わきまえた女”にならざるを得ない存在です。一方で、大人になれば、個としての意思や論理を持ち、精神的にも経済的にも自立をして、時として男性たちと利害が対立し、批判や非難の矛先を男性に向けることもあります。そのような“わきまえない態度”に対する嫌悪感や忌避感がどことなく存在している男性は少なくないのではないでしょうか。「自分に矛先を向けられるのは嫌だから、彼女たちにはわきまえていて欲しい」と期待している部分があるのかもしれません。このように、男性中心社会で暮らしている私たち男性には、多かれ少なかれ、森氏のような女性蔑視が心の中に潜んでいるように思います。人によって、“大森”なのか、“中森”なのか、“小森”なのかは分かれるでしょう。森氏の発言のような酷いケースには批判を加えつつも、合わせて自らを顧みるきっかけにしたいところです。もちろん私自身も含めて。

<投資は、ESG企業に行うべき>
PS(2021年3月5日追加):*9-1のように、ドイツでは、メルケル首相が2011年に日本で起こったフクイチ原発事故を受けて即断した脱原発が支障なく進み、2022年末には全17基の原子炉廃止が計画通り実現するそうだ。日本は、再エネが豊富であるのに、事実ではないできない理由を並べて原発活用を推進し、*9-5のように、アンモニアの輸入まで行おうとしているのだから、エネルギーの高コスト化で経済の停滞を招き、エネルギーの自給率を下げて国力を落とすことを望んでいるかのようである。
 また、*9-2のように、①世界の資産運用会社は投資先の温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げ始めており ②2050年排出ゼロの達成に向けて新たな運用商品の提供を始め ③「排出ゼロ」を目指すマネーは約2000兆円と世界の投資マネーの2割に達して ④排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが一段と高まったそうだ。また、米カリフォルニア州職員退職年金基金などは「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」を設立し、スウェーデンの公的年金AP4は2040年までの排出実質ゼロを打ち出し、米ニューヨーク州退職年金基金も2040年までの排出ゼロを掲げているが、日本勢の動きは鈍いのだそうで、日本の対応には相変わらずキレがない。
 世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、*9-3のように、2019年度運用実績は4期ぶりとなる損失(8兆2831億円の赤字)を計上し、赤字幅はリーマン・ショックのあった2008年度以来の大きさを記録している。GPIFは、国民年金と厚生年金の積立金を国内外の株式や債券に分散投資しており、運用実績は国民の年金資金を直撃するため、有望企業に投資して儲かってもらわなければ困るのであって、ゾンビ企業の救済に使われるのは目的外使用である。有望企業の要件が、ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)を考慮した経営を行う企業であることは既に間違いないため、投資家は投資先の決定にあたってESGを考慮すべきことになっている。
 なお、国際エネルギー機関(IEA)が、*9-4のように、日本政府が掲げる2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ実現に向け、2030年までに脱炭素電源の比率を現行計画より一段と引き上げる必要性を指摘しており尤もだが、この脱炭素電源に原発やアンモニアが含まれないのは当然のことである。

*9-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/89289 (佐賀新聞 2021年3月3日) ドイツ、来年末に脱原発を実現 環境相、再生エネルギーへ集中
 ドイツのシュルツェ環境相は3日までに、2011年の東京電力福島第1原発事故を受けて決めた脱原発が「全く支障なく進んでいる」と強調、22年末に全17基の原子炉廃止が計画通り実現するとの自信を示した。事故から10年になるのを前に共同通信の書面インタビューに応じた。事故で原発の危険性を確信し、現在は再生可能エネルギー拡大に集中しているとし、「原子力は危険かつ高コストで、各国に利用中止を呼び掛けたい」と指摘。原発活用政策を維持する日本と一線を画した状況が浮き彫りになった。シュルツェ氏は原発の安全対策を統括している。

*9-2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD292C30Z21C20A2000000/?n_cid=NMAIL006_20210302_Y (日経新聞 2021年3月2日) 世界の投資マネー、2割が脱炭素へ 投資先の選別厳しく
 資産運用会社の間で投資先の温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げる動きが広がっている。世界最大の運用会社ブラックロックも目標設定を検討。「排出ゼロ」を目指すマネーは約2000兆円と世界の投資マネーの2割に達する見通しだ。排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが一段と高まってきた。運用資産8.7兆ドル(約930兆円)の米ブラックロックは2月、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを公表した。気候変動に影響を与える主要企業など世界1100社を対象に対話や議決権行使を通じて一段の対策を求める。50年排出ゼロの達成に向け新たな運用商品の提供も始める。ブラックロック・ジャパンの有田浩之社長は「ネットゼロ社会に向かうのを投資の面でサポートするのが使命」と語る。ブラックロックはネットゼロ・アセット・マネジャーズ・イニシアチブへの参加も検討する。同組織は投資先全体の温暖化ガス排出量を50年までに実質ゼロにすることを目指す運用会社の団体。20年12月に仏アクサ・インベストメント・マネージャーズやアセットマネジメントOneなど30社が共同で設立し、運用資産合計は9兆ドルにのぼる。約1.3兆ドルの運用資産を持つ米インベスコやニッセイアセットマネジメントなども参加を検討中。排出ゼロを明確に目指すマネーは少なくとも約19兆ドルにのぼり、今後もさらに増えるとみられる。投資先の排出実質ゼロをめざす動きは、年金基金や保険会社など資金の出し手(アセットオーナー)が先行してきた。米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)や独保険大手アリアンツなどは19年に「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」を設立。参加は当初の12社から33社に広がり、運用資産は合計5.1兆ドルにのぼる。スウェーデンの公的年金AP4は今年2月、40年までの排出実質ゼロを打ち出し、米ニューヨーク州退職年金基金も40年までの排出ゼロを掲げる。投資家の脱炭素志向が強まり、排出削減に消極的な企業は投資対象から外されるリスクが高まっている。45年までに投資先の脱炭素化を目指すスウェーデンの公的年金AP2は2020年12月、外国株式と社債運用で新たに約250社からの投資撤退(ダイベストメント)を決めた。ブラックロックも温暖化ガス排出量が多く気候変動対応が不十分な企業を、運用担当者が投資先を選ぶアクティブ運用の投資対象から外す可能性に言及した。ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンスは20年11月、投資先に対して石炭火力発電所の新規建設に加え、すでに決まった建設計画もすべて撤回するよう要請した。こうした世界的な潮流の中で、日本勢の動きは鈍い。国内の運用会社で排出ゼロ目標を打ち出したのはアセットマネジメントOneのみ。ニッセイアセットマネジメントなどが検討中だが、出遅れ感は否めない。年金や保険など運用会社の顧客であるアセットオーナーは排出ゼロの方針を明確にしていないところが多い。国内で排出ゼロ方針を明らかにしたオーナーは日本生命保険のみ。運用会社は顧客の意向をつかみ切れていない。機関投資家はESG(環境・社会・企業統治)の観点から投資先企業に排出削減を求めてきた。だが、それで削減量が大きくなったわけではない。対策が遅れれば2100年に世界の国内総生産(GDP)の25%が失われるとの試算もある。脱炭素目標を掲げた投資家の動きが企業をどう変えるかに注目が集まる。

*9-3:https://moneyworld.jp/news/05_00029063_news (Quick Money World 2020/7/6) 世界最大の年金基金・GPIFが高めるESG投資の比率
世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が7月3日発表した2019年度運用実績は厳しいものだった。4期ぶりとなる損失(8兆2831億円の赤字)を計上し、赤字幅はリーマン・ショックのあった08年度以来の大きさを記録。期間損益率は-5.20%(前期は+1.52%)で過去3番目に悪い数字となった。コロナ禍が直撃した運用成果となったが、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資のウエイトが大幅に上昇していることに留意したい。
■四半期として過去最大となる損失
 GPIFは19年4~12月期に9兆4241億円の黒字を計上していたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた20年1~3月期に17兆7072億円の赤字(損益率-10.71%)に転落し、四半期として過去最大となる損失・損益率の計上を余儀なくされた。1~3月期は外国株式が10兆2231億円の赤字、国内株式が7兆4185億円の赤字と国内外株式の急落が収益を圧迫した。
■ESG投資のウエイト上昇
 GPIFは国民年金と厚生年金の積立金を国内外の株式や債券に分散投資している。運用資産額は20年3月末時点で150兆6332億円となり、19年3月末(159兆2154億円)に比べて約5.4%減少した。積立金全体の資産構成は、国内株が22.9%(前年同月は23.6%)となり、基本ポートフォリオの中央値(25%)を大きく下回ったが、ESG投資の割合が増加していることが特筆されよう。国内株式に占めるESG投資の割合は11.3%(前年同月は6.0%)にほぼ倍増し、スマートベータや伝統的アクティブ運用の割合を上回った。GPIFは17年度に日本株の3つのESG指数(FTSE RussellによるESG全般を考慮に入れた総合型指数である「FTSE Blossom Japan Index」、MSCIによる総合型指数「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」、MSCIによる性別多様性に優れた企業を対象とする「MSCI日本株女性活躍指数」)を選定し、同指数に連動したパッシブ運用を開始した。さらに、18年度にはESGのうちE(環境)に特化したS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社による炭素効率性等に優れた企業を対象とする「S&P/JPXカーボンエフィシエント指数」に連動するパッシブ運用も開始。これら4つの指数に連動する運用残高は20年3月末時点で4兆155億円(前年同月比1兆7060億円増)となった。野村証券によれば、20年3月末時点でGPIFの保有比率が高い業種は銀行、建設、電気機器などで、資金純流入が大きかった個別銘柄として東京精密(7729)、ニフコ(7988)、ネットワン(7518)、島忠(8184)などを挙げた。19年度にGPIFがESG投資を積極的に進めたことを踏まえると、これらの銘柄に向けられた資金の多くがESG投資によるものだった可能性があると指摘している。
■その他年金でもESG投資開始
 ESG投資に関して、短期的に運用収益の向上につながるか懐疑的な見方が少なくない。ただ、GPIFの年金運用は、長期的な観点から安全かつ効率的に行うことが求められていることから、長期のリスク管理としてESGを考慮した投資活動が行われている。GPIFが19年度に運用リスク管理ツールを新たに選定するなど、リスク管理を一層強化しており、しばらくは国内株に占めるESG投資の割合が高まる傾向が続くきそうだ。また、GPIF以外の年金ではESGに消極姿勢が目立っていたが、地方公務員の年金を運用する地方公務員共済組合連合会は20年度にも日本株のパッシブ運用でESG投資を開始するもよう。今後もESG関連の動きから目が離せなそうだ。
<金融用語>GPIFとは
 正式名称は年金積立金管理運用独立行政法人。日本の公的年金の積立金の管理・運用を行う独立行政法人のこと。世界最大規模の運用資産(2016年末時点で約145兆円)を保有し、英語表記「Government Pension Investment Fund」の頭文字をとって「GPIF」と呼ばれる。 国内債券中心に運用を開始したが、デフレ脱却後の経済環境の変化に対応し収益向上を目指すため、2014年に基本ポートフォリオを見直した。 2017年7月時点の基本ポートフォリオは、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%。また2017年7月からは国内株式運用の一環としてESG投資を開始した。 前身は1961年に設立された年金福祉事業団で、2001年の特殊法人改革により年金資金運用基金が設立。2006年には年金積立金の運用改革で年金積立金管理運用独立行政法人へ改組した。

*9-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/640544 (佐賀新聞 2021/3/4) 日本、一段の脱炭素電源増が必要、30年までに、IEAの報告書
 国際エネルギー機関(IEA)は4日、日本のエネルギー政策に関する審査報告書を公表した。日本政府が掲げる2050年の温室効果ガス排出実質ゼロの実現に向け、30年までに脱炭素電源の比率を現行計画より一段と引き上げる必要性を指摘した。現行計画は30年度の発電量に占める比率について、再生可能エネルギーが22~24%程度、原発が20~22%程度、火力が56%程度と設定。夏ごろに政策指針「エネルギー基本計画」の改定を予定している。報告書は、日本が依然として二酸化炭素(CO2)を排出する化石燃料に大きく依存していると説明。排出実質ゼロの実現には低炭素技術の普及の大幅な加速や、規制緩和が必要だとした。原発再稼働が想定より遅れた場合の電力不足分を埋める方法の検討も訴えた。CO2に課税する炭素税などの活用も選択肢の一つだと指摘。企業の技術開発を促すことにつながるとした。ビロルIEA事務局長はテレビ会議方式で資源エネルギー庁の保坂伸長官と会談し「エネルギーの転換を進め、持続可能な経済成長をしてほしい」と述べた。IEAは加盟国のエネルギー政策を審査しており、日本の報告書の発表は16年9月以来、約4年半ぶり。IEAは4日、排出実質ゼロに関する国際会議を31日に開催し、米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)や梶山弘志経済産業相らが参加予定だと明らかにした。

*9-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210305&ng=DGKKZO69681670V00C21A3MM8000 (日経新聞 2021年3月5日) 大電化時代(5)サウジからアンモニア 再生エネ輸入に熱視線
 国土の狭い日本で再生可能エネルギーをかき集めても限界がある。ならば国境を越え、世界の力を借りる。輸入がカーボンゼロのカギを握る。2020年秋、サウジアラビアを出た貨物船が日本に到着した。積み荷は40トンのアンモニア。国営石油会社サウジアラムコの関連設備で、天然ガスから作った。国内3カ所の施設に運び込み、火力発電での燃焼実験をした。石炭や天然ガスに混ぜても、アンモニアだけでも燃やせた。「既存の火力発電所を使えて大きな追加投資もいらない。アンモニアは脱炭素の切り札になる」。実験に関わった三菱商事の松宮史明・石化事業統括部長は話す。
●グリーン水素に
 アンモニアは燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない。石炭や液化天然ガス(LNG)に混ぜた分だけCO2を減らせる。肥料や冷媒として広く流通し、貯蔵や輸送も容易。政府は30年に年300万トンのアンモニア燃料を導入することにしている。石炭火力で燃料の20%に混ぜると、100万キロワットの大型設備6基分に相当する。オーストラリアでは風力や太陽光で水を電気分解し、CO2を排出しないグリーン水素を作る。日本に運び、燃料電池車や水素発電に生かす。岩谷産業は水素の製造や輸出で豪クイーンズランド州の州営電力会社スタンウェルと提携した。30年代初頭までに年間28万トンの水素を生産する計画。約30万トンの水素があれば、原子力発電所1基分にあたる100万キロワットの発電所を動かせる。スタンウェルのリチャード・バン・ブレダ最高経営責任者(CEO)は「シンガポールなどからも引き合いがある」と話す。水素やアンモニアの国際争奪戦が始まり、日本も国を挙げた対応を迫られる。
●地元理解難航も
 政府は50年までに再生エネが電源に占める比率を現状の3倍近い50~60%に高める。障害は地理的な制約だ。太陽光パネルを置ける森林を除く土地面積はドイツの半分。洋上風力も適した海の面積は英国の1割強だ。あつれきも出始めた。九電工などが長崎県佐世保市の離島で進める太陽光発電。一般家庭約17万世帯に電気を供給する「日本最大規模」の計画だが、地元の合意形成が難航する。目標の年度内の着工は難しそうだ。千葉県銚子沖の洋上風力事業では、地元が設置する漁業振興などの基金への拠出を事業者に求める。輸入に活路を見いだすのは資源小国・日本の伝統でもある。戦後の高度経済成長も、原動力は原油の輸入にあった。物価上昇や労使紛争の増加で石炭に見切りをつけ、石油にカジを切った1950年代。中東の油田開発にも関与し、エネルギーの安定供給につなげた。エネルギー自給率は1割程度で、輸入依存は国家の安全保障を危うくしかねない。環太平洋経済連携協定(TPP)などをテコに国際協調を進め、供給網を整える努力が欠かせない。原油や天然ガスと同じく、再生エネもまた戦略的な海外調達の腕が問われる。「80%まで再生エネを導入すると、太陽光パネルを日本中の建築物に設置し、船の航行に支障があるところにも洋上風力を設置することになる」。政府が昨年末にまとめたグリーン成長戦略。できない理由を並べたようで、さすがに政府も消去したが、当初はこんな表現が検討された。世界の視線は異なる。エネルギー調査会社を営むヤラン・ライスタッド氏は「ダムに太陽光パネルを浮かべ、田んぼにパネルを並べる。日本で再生エネを増やす方法はまだある」と話す。限界まで導入し、足りなければ海外に頼る。輸入は再生エネ不足を埋める最後のピースになる。

| 年金・社会保障::2019.7~ | 03:40 PM | comments (x) | trackback (x) |
2020.6.9~15 日本の医療・社会保障と消費税 (2020年6月16、18、21、22日追加)
    

(図の説明:左と中央の図のように、米国とフランスでは、新型コロナの流行期に超過死亡率が発生している。これは、検査数が足りず、患者の把握が不十分であれば当然生じるものだが、日本では、右図のように、3月以降の超過死亡率は公表されていない)

(1)医療崩壊を加速させた消費税制 ← 医療費を消費税非課税取引とした失政
 健康保険等の保険が適用される医療費・薬代は非課税取引とされているため、患者が医療機関で保険を使って診療を受けた場合に支払う医療費には消費税が加算されない。しかし、病院が購入した財・サービスの仕入れには普通に消費税がかかり、非課税売上に対する仕入税額控除はできないため消費税を転嫁できず、消費税分をすべて医療機関が負担することになっている。(https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/6205.htm 参照)

 これは他産業と比較して著しく不公平・不公正であるため、「保険が適用される診療だから消費税を課さない」ということを貫徹するのなら、非課税取引ではなく0税率の課税取引か免税取引として医療機関が支払った消費税は医療機関に還付すべきだ。この不公平・不公正税制により、コロナ禍以前から病院経営は圧迫され、医療機関の弱体化や危機は起こっていたが、これが続くと、既にある医療システムが崩壊するとともに、医療従事者の質が落ち、国民の命がさらなる危険に晒される。

 この点について、*1-1のように、日本病院会が、「(現場を知らない素人の思い付きで部分的に行われる)診療報酬への上乗せでは不公平・不公正を解消できないため、課税化への転換などの抜本的措置を2020年度の税制改正で行うべきだ」と2019年8月7日に、2020年度税制改正要望を根本匠厚生労働大臣に宛てて提出したが、今のところ無視されている。

 なお、一つの医療法人が、「医療福祉」と「その他の産業」の双方を事業として行っている場合は、他の産業と同様、仕入れを売り上げに紐づけしたり、案分したりして計算するのが適切だと考える。そのほか、(何故か)著しく高価な医療器械の購入や個室・陰圧を標準とした病室への設備投資を促進する税制を拡充し、特別償却や加速償却を可能にすることも重要だ。
 
 さらに、基幹病院として公的運営が担保された医療法人は、赤字になっても維持しなければならない診療科や病床があるため、国もしくは地方自治体からの補助金や寄付制度が必要である。

 このように、不公平・不公正な消費税制のため、*1-2のように、全国の国立大病院42カ所で、高度な医療機器やベッド等の購入時に支払った消費税を診療費に転嫁できず、2014~18年の5年間に計969億円を病院側が負担していることがわかったそうだ。このほか、診察に使う機器やガーゼなどの消耗品は病院が購入時に消費税も支払うが、病院の負担になっている。私大の付属病院はじめその他の病院でも同じことが起こっている。そのため、病院側はコスト削減の工夫を重ねているそうだが、医療器具は日本とは思えない粗末なものが多く、衛生器具を節約するのは危険であるため、まずは消費税制の不公平・不公正を解消すべきだ。

 JA厚生連の病院も、*1-3のように、経営状況が厳しいそうだが、消費税10%への増税で医業収益が減っていたことに加えて、新型コロナの影響で予定した手術や入院の延期、一般外来診療の縮小などで医業収益が減収になっているのだ。基幹病院は、いつでも満床では困るのであって、普段から空床確保分も含めた診療報酬を支払っておくべきだ。そのため、新型コロナで初めて思ついたように、減収支援・医療従事者への危険手当・医療物資や機器の配給体制・病院が赤字続きで地域医療が崩壊しないようにしなければならない等々と言っているのは、近年の厚生行政の失敗にほかならない。

(2)新型コロナの検査抑制による医療崩壊
1)人命よりも行政の組織防衛優先の考え方
 確かに、安倍首相や官邸は「しっかりやります」と繰り返したが、*2-1のように、厚生労働省の動きは一貫して鈍く、PCR検査は1日2万件に届かなかった。その背景にあったのが国立感染症研究所が感染症法15条に基づいて2020年1月17日に出した新型コロナの「積極的疫学調査実施要領」で、「患者(確定例)」と「濃厚接触者」のみが検査対象とされた。

 検査体制への不満が広がると、2月6日に出した要領の改訂版で初めて対象者に「疑似症患者」が加わったが、「確定例となる蓋然性が高い場合には積極的疫学調査の対象としてもよい」という限定付きで、その姿勢は2020年5月29日の最新版でも変わらないそうで、非科学的この上ない。しかし、厚労省が実質的に所管する各地の保健所などもこの要領に従い、濃厚接触者に検査の重点を置いたため大都市中心に経路不明の患者を増やし、日本全国で外出を自粛しなければならない羽目になった。

 厚労省は、自らが適当に作ったルールにこだわり、現実との齟齬を無視するような感染症対策の失敗は今回が初めてではなく、2009年の新型インフルエンザ流行時も疫学調査を優先してPCR検査を感染地域からの帰国・入国者に集中して、いつの間にか国内で感染が広がり、神戸で渡航歴のない感染者が見つかって関西の病院を中心に人々が殺到し、2010年にまとめた報告書で反省点を記した。

 その内容は、「保健所の体制強化」と「PCR強化」だそうだが、保健所を通したことがPCR検査が目詰まりになった原因だ。官邸で「大学病院も検査に使えば」との声が出ても、厚労省は文科省が絡む大学病院での検査拡充に及び腰で、首相が「使えるものは何でも使えばいいじゃないか」と語っても組織防衛の方が優先する意識では、厚労省は命を託すに足りない組織なのである。さいたま市の保健所長は、「病院があふれるのが嫌でPCR検査は厳しめにやっていた」と話したが、これは事実だろう。

 19世紀に始まった日本の官僚機構は、日本が後進国で先進国の欧米諸国を目標にして駆け抜ければよかった時期には強力に機能したが、日本が先進国となり自らがモデルを作らなければならなくなってから機能しなくなった。その理由は、官僚機構は、前例や既存のルールにしがみつきがちで、目の前の現実を把握し、それに対応しながら工夫して新しいものを作りだすことが苦手な組織だからである。

 政府が有効な対策を打たなかったため、コロナ第2波に備えて必要なのは「日本モデル」の解体だと、*2-2は主張している。ただし、原因は、安倍首相ではなく、厚労省はじめ行政であり、わずか1か月半で今回の流行をほぼ収束させることができたのは、検査すら十分に行わないため国民が危機感を感じて自粛したという「日本ならではのやり方」だったのだ(!)。

 こうなった理由は、COVID-19が指定感染症に指定されたためで、これにより「①感染者は無症状でも強制入院となり」「②厚労省はこの時COVID-19の無症状感染者の存在を想定しておらず」「③厚労省が指定感染症に指定する4日前の1月24日には、『ランセット』が無症状の感染者の存在を報告する香港大学の研究者たちの論考を掲載していた」のだそうだ。さらに、「④無症状者も入院させなければならないため早くから病院体制の崩壊が心配され」「⑤これがPCR検査の大幅抑制に繋がり」「⑥厚労省担当課の勉強不足と不作為が国家的悲劇を生み、国立感染症研究所・保健所・地方衛生研究所が束になって行ったのが『日本モデル』」なのである。

 また、「⑦新型コロナ襲来に、国立感染研と保健所、地方衛生研究所の体制は殆ど歯が立たず、多くの『超過死亡』を出したが根拠となる数字の説明がなく」「⑧PCR検査による新規感染者数はCOVID-19の感染の勢いを正確に映していない恐れがあるため、『ランセット』が単純な超過死亡数をリアルタイムで活用することを求めており」「⑨体制としての保健所の限界は、PCR検査体制についても、発熱してからPCR検査を受けるまでに10日間を要し、指定された保健所に電話しても何日間も繋がらないという状況だった」のだ。従って、保健所の人員を増やすのではなく、検査に保健所の仲介をなくすことが必要不可欠なのである。

2)検査抑制による医療機関の外来診療拒否と重症化は、医療崩壊そのものである
 PCR検査が抑制されたことによって、*2-3にも、「⑩留学先のカナダから帰国して間もない女性が39度近い熱を出したが、医療機関4カ所から外来受診を断られ、保健所の相談電話も繋がらず、内臓疾患だったことが判明した」「⑪日本は諸外国と比べて検査数が少ないと批判が高まり」「⑫政府は検査能力を増強したが、目標の『1日2万件』を達成したが、実際の検査数は半数にも満たなかった」「⑬同様の事例が各地で相次ぎ、相談してもPCR検査まで至らないケースも多かった」という状況になった。

 重症化リスクのない人にはPCR検査は不要だと何度も聞かされたが、*2-4のように、新型コロナの感染者が心臓・脳・足などの肺以外で重い合併症を患う症例が世界で相次ぎ報告されており、回復した人も治療が長期化したり後遺症が残ったりするリスクが指摘されている。しかし、ウイルスは診療科に分かれて感染するわけではないため、重症化するにつれて身体全体に症状が出るのは当然なのである。

 また、検査しなかったために新型コロナと判定されずに亡くなった方は、*2-5のように、「超過死亡」に入るが、今年は偶然では起こり得ないほど肺炎の死者が多く、毎週20〜30人の超過死亡が起きていたのに、データを発表した感染研は「原因病原体が何かまでは分からない」としている(??)。

(3)新型コロナの病院への一撃
 日経新聞は、*3-1のように、「①不要不急な診療は控えて、医療費を節約せよ」「②軽い風邪や腹痛、花粉症は通院を控え、薬局で薬剤師や登録販売者に相談し処方箋がなくても買える一般用医薬品で凌ぐことができたのだから、風邪なら自力で治そう」「③高度医療を提供する大学病院や専門病院は、高額な医療費がかかる治療をさほど減らさなかった結果、件数の急減に対し医療費はさほど減らなかった」などの呆れる医療政策を書くことが多い。

 そのうち、①については、先延ばしが可能だということと不要であるということは違う上、②については、軽い風邪や腹痛なのか重い病の前兆なのかを自分で勝手に判断することほど危ういものはないため、まずあらゆる検査のできる基幹病院で診断を確定してから、そこで治療を受け続けるか、近くの医院に紹介してもらうか、売薬ですませるかを決めなければ、病を重症化させてしまってあらゆる方面で被害甚大になる確率が高くなる。そのため、国民皆保険を自慢している日本で何を言っているのかと、私は常日頃から思っている。

 さらに、③についても、高度医療を提供する大学病院や専門病院も、PCR検査を自由にできなかったばかりに、新型コロナの院内感染を恐れて患者が減ったり、手術を先延ばしせざるを得なくなったりして損失を蒙っているのである。

 なお、病院経営に悪影響を与えているのは、新型コロナの流行以前からの消費税の満額負担と現場の真実をチェックしない観念的な医療改悪政策によるものであるため、コロナ対応病院への資金援助も必要だが、その後は改悪ではない地域医療の再構築を進めるべきである。無医村ではあるまいし、セルフメディケーションしなければならないようでは困る。

 また、馬鹿の一つ覚えのようにオンライン初診・再診とも言っているが、オンラインでは得られる情報量が少ないため、補助的にしか使えないことも何度も書いた。さらに、“軽症”の定義もおかしく、“軽症のコロナ感染者”とはどの程度の人を言うのか。定義を曖昧にしたまま、どこで治療するかや医療資源を最適配分するにはどうするかなどは語れないのである。そして、医療保険の加入者や納税者としては、受診や検査を小さくケチって命を危険に晒された上、何十兆円もの補助金を使われる羽目になったようなことこそ、やめてもらいたいのである。

 自民党医師議員団本部長の冨岡氏は、*3-2のように、「④日本は米欧や中韓に比べ検査体制の整備が遅れたので、第2波に備えて体制の拡充が急務だ」「⑤これまで検査せずに医療費を抑えた面はあったが、かえって医療費が増える」「⑥政府は民間の検査機関が参入しやすくなる支援策を講じてほしい」「⑦最短2~3時間で終わるLAMP法も導入すべきだ」「⑧抗原検査や抗体検査は学会で診断の評価が十分に定まっていないため、明確な症状がある人らに対象を限るのが望ましい」と述べておられる。

 このうち、④⑤はやはりそうだったかと思われ、⑥⑦はそのとおりだが、⑧は妊婦・医療従事者・教員・その他の必要な人には行うべきだ。そうして検査数を重ねるうちに、特徴がわかり評価が確定するものだ。

 また、*3-3のように、「37.5度以上の発熱が4日以上続く」などとした他に類を見ない受診目安を作り、小さくケチってPCR検査が遅れた結果、重症化したり死亡したりした人が出て大きな損害になったことについては、その妥当性について十分な検証が必要である。

 従って、*3-4のように、厚労省が再編統合の必要性を打ち出した全国の公立・公的病院については、病気の基本である感染症を考慮するのは当然のことであるため、感染症病床の有無を考慮しないような人が医療再編や医療制度について語ること自体が間違いなのである。

 なお、*3-5のように、新型コロナ対策でコストがかさんだり、一般患者が感染を恐れて受診を控えたりして病院経営が揺らいでおり、医療従事者へのボーナスなどの一時金をカットせざるを得ない病院や施設が相次いでいるそうだ。つまり、感染拡大前から病院にぎりぎりの経営を強いて経営を脆弱にし、すでにあった医療制度という重要なインフラを壊しかけていたのが、厚労省・財務省の病院いじりであり、その結果、国民に重大な損失を蒙らせているのである。

(4)新型コロナの経済対策
1)新型コロナを利用した無駄遣い
 加藤厚労大臣は、5月22日、*4-1のように、新型コロナ関連の解雇や雇い止めが5月21日時点で10,835人に上り、雇用情勢が日を追うごとに悪化していることを明らかにした。しかし、業績が悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給される筈の雇用調整助成金も、なかなか振り込まれず困っている事業者が多いそうだ。

 持続化給付金も、民間委託して目的外の経費を多く使った上に守秘義務も危うい方法を取るよりも、税務署か地方自治体に一括委託すれば、税の支払いは普段から自動振替にしている人が多いため、預金口座の問題が生じず、還付金や給付金の支払いにも慣れている。そのため、退職者を臨時雇用して仕事をこなせば、正確で早く、年金も節約できるだろう。

 なお、*4-2の観光割引予算1兆6,794億円とその約2割を占める外部委託の事務費3,000億円も無駄が多すぎる。そのため、PCR検査・抗体検査・治療薬・ワクチンなどを充実して早く正常な状態に戻すことが重要なのだ。

2)政府による布マスクの全戸配布
 安倍首相が全戸配布された布マスクは、6月になってうちにも届いた。しかし、*4-3のように、「質か量か」という選択をさせられ、検品もしていなかったため、質の悪すぎるものが散見されたようだ。

 私は、マスクと言えば、使い捨ての不織布マスクしか知らない世代が、布マスクでは防御できないなどと言っていた中で、10枚重ねのガーゼマスクは、私の子どもの頃には標準的だったし、洗って繰り返し使える製品でもあるため、親近感を感じた。また、その後、よい布マスクが出てくるきっかけにもなったが、支出金額は多いのに品質が悪すぎたのはよくない。

 しかし、この布マスクを作るにあたっては、「①生地は中国・ベトナム・スリランカなどのアジア各国で探して集めた」「②タイとインドネシアで生地を加工した」「③縫製は中国の加工業者に依頼した」「④検品も中国」「⑤興和の国内検品は1ミリ程度の縫い目のずれすら不良品として取り除くもので、それでは期日までに調達できない恐れがあるので政府側が断った」「⑥介護施設など向けの布マスク21.5億円分の契約書には不具合が見つかっても興和の責任を追及しない条項が入った」「⑦配布計画を担う政府のマスクチーム担当者は、緊急を要する発注だったのでこのような契約を結んだ」と書かれている。

 このうち、①②③④については、マスク一つを作るのに、生地も加工も検品も外国で行い、それも運賃をかけて数か国を渡り歩いている点で無駄が多い。この頃、日本国内では休業や自粛で人が余っていた筈なのに、国民の税金が海外で使われたことは情けない。また、⑤のような縫い目のずれはどうでもよいが、マスクは徹底的に清潔に作られたか否かが最も重要なのに、そこが危うい。さらに、⑥⑦のように、緊急を要するから不具合が見つかっても興和の責任を追及しないという契約は、一見優しそうだが、国民を愚弄している。そのため、このような国になっては、日本製は終わりだと思う。

(5)新型コロナだけが原因ではない介護崩壊
 特別養護老人ホーム・老人保健施設・有料老人ホーム・グループホームなど入所系の高齢者施設で、*5のように、4月末までに利用者380人余り、職員170人の合計550人余りが感染し、このうち約10%の60人が死亡したそうだ。欧米では死者の多くを高齢者施設の入所者が占めており、専門家は「日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘しているとのことである。

 富山市の老人保健施設の例では、介助が必要だったり認知機能が衰えていたりする入所者が多く、深刻な人手不足で最低限の食事や水分をとらせるだけで着替えをしたり体を拭いたりすることが殆どなく、入所者の間で発熱などの症状が相次いだ後も適切な対応を取らず、多くの入所者が相部屋を利用するなど感染が広がりやすい構造だったそうだ。個室ですらない高齢者施設は設備が悪くてプライバシーにも欠けるため、高齢者施設を全室個室にし、身体の清潔を保ち、栄養をとれる食事を出すくらいの福祉は、憲法第25条に基づいて行うべきである。

(6)(じわじわ続く)年金崩壊
     
                      2020.5.21朝日新聞 2019.12.25毎日新聞

(図の説明:現在の年金制度は、左図のようになっている。これについて、高齢化社会と健康寿命の延びを踏まえて、中央及び右図のように、年金改革が行われた)

 年金改革関連法が、*6のように成立したが、その主な内容は「①非正規雇用労働者への厚生年金の適用」で、「②現在は週20時間以上30時間未満働く労働者は従業員数501人以上の企業のみで厚生年金への加入が義務づけられているが、2022年10月からは101人以上、2024年10月からは51人以上に改める」というものだ。

 ①②により、新たに約65万人が厚生年金に加入すると見込まれるが、「小規模企業で働く労働者は老後の生活保障がなくてもよい」ということになる理由は、年金保険料支払者の増加のみを目的にして厚生年金への加入要件を決めているからだ。これは、国民の立場から社会保障の必要性を定めている日本国憲法第25条の「1項 すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「2項 国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」に反する。従って、憲法は変更する前に守るべきだ。

 また、「③年金制度は、少子高齢化の進行に合わせて給付を抑える仕組みで収支を均衡させることになっている」「④今は物価などに連動して給付が伸びるのを抑えるやり方のため、デフレが続くとこの機能が働かない」「⑤しわ寄せを受けるのは、将来年金を受け取る世代だ」「⑥全ての世代で痛みを分かち合いながら、どのような経済環境になっても年金制度が揺るがないようにするには、この仕組みの見直しが避けられない」「⑦国民年金の加入期間を40年から45年に延長すると、基礎年金の底上げ効果が大きいという試算も示された」「⑧基礎年金の半分を賄う国庫負担分の財源確保の議論が進まない」については、年金資産管理で失敗した省庁の説明を鵜呑みにして書いているだけであり、メディアとしてレベルが低い。

 具体的には、③は途中から賦課課税方式に変更した政策の失敗によるもので、年金保険料を支払ったのに受給する段階になって反故にされる世代が出ていることこそ年金崩壊である。また、④によって実質年金が減らされ、これまで日本を支えてきた高齢者が生活できなくなる事態を生んでおり、これこそ憲法25条違反だ。⑤⑧については、現役世代への(買収すれすれの)膨大な補助金や無駄遣いをやめて自ら稼がせることを考えるべきで、日本で実質GDPが増えないのは、⑥のような「痛みの分かち合い」ばかりを主張する価値観によるところが大きいのだ。なお、⑦はよいことだが、定年延長や定年廃止とセットでなければ議論できない。

(7)日本における経済分析の問題点


(図の説明:左図のように、2000年に導入された介護はニーズの高いサービスだったため、2020年には12兆円市場に伸びたが、政府は供給を抑制し続けている。また、中央の図は、「年代別1人当たり所得は、70歳以上で20代・30代より高く、高齢者は金持ちだ」という主張に資するものだが、年金だけで年間192万円/人の所得のある高齢者は滅多にいないため、このグラフの下になった数字の出所が重要だ。また、保育サービス不足は1970年代から言われているが、今でも充実しておらず、右図のように、教育費の高騰とあいまって少子化の原因となっている)

 豊かな高齢化社会で共働きが主流になった日本では、医療・介護・保育・家事支援サービスやその関連製品が必要不可欠で付加価値も高い。しかし、政府(厚労省・財務省)は一貫してこれを抑え、従来型の加工貿易(特にガソリン車の輸出)に固執した(経産省)。そのため、日本は経済成長率も出生率も上がらなかったが、それでもこういう政策を維持してきた。何故か?

1)経済分析と呼ぶに値しない“経済分析”
 内閣府が、*7-1のように、2020年5月18日に発表した2020年1~3月期の国内総生産(GDP、季節調整値)は、物価変動の影響を除いた実質成長率は前期比0.9%減、このペースが1年続くと仮定した年率換算は3.4%減だったそうで、これには2019年10月からの消費税増税・新型コロナに対応した外出自粛による個人消費の低迷・訪日外国人客の減少等の影響がある。

 しかし、現在の日本は、安い賃金を活かして国内で製造し輸出して、国民は貧しい生活を耐え忍ぶ人件費の安い開発途上国を卒業した。そして、国内の個人消費がGDPの6割近くを占め、世界に先駆けて高齢化して人口に占める65歳以上の高齢者割合が30%を超える国なのである。そのため、実質年金額を減らし、消費税増税を行って高齢化社会で必要とされる財・サービスへの消費を抑えたのは、国民の福利を削ったと同時に、高齢化社会で求められる財・サービスの開発にもマイナスになったのである。

 この現状を直視せずに、100年1日の如く、従来型の自動車輸出や住宅投資に依存しようとし、原油や天然ガスの輸入を景気のバロメーターにしていることが経済分析を意味の薄いものにし、とるべき政策を誤らせている。こうなる理由は、日本の経済学者が統計学(数学の中の微分・積分を使う)・社会学(実地調査をする)・人間行動学(行動を決める要素を調べる)に弱く、欧米で作られた公式を丸暗記しているだけで現在のミクロの実態を反映した新しいマクロ経済学の公式を作ることができず、現在の日本及び世界の現実に合った経済分析ができないため、「従来どおり」を繰り返して誤った政策に導くからである。

 そのため、このまま進めば、新型コロナで外食や宿泊に関連した消費が落ち込んだのは一時的であるものの、長期的にも日本経済は下降するだろう。

2)政府が進めるインフレ政策
 *7-2には、「①生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、前年同月より0.2%下がり101.6だった」「②新型コロナの感染拡大による原油価格の急落や個人消費の低迷が押し下げ要因となった」「③市場では指数が前年実績に比べマイナス圏で推移するとの見方が多い」「④物価が持続的に下がるデフレに再び陥る懸念が高まった」「⑤品薄が続いたマスクは5.4%上昇した」「⑥増税の影響で外食が2.7%上がった」「⑦外出自粛による需要の高まりを背景に生鮮野菜は11.2%上がり、キャベツは48.2%上昇した」「⑧損害保険各社が値上げした火災・地震保険料は9.3%上昇した」「⑨増税に伴う無償化で私立の幼稚園保育料は94.0%下がった」などが記載されている。

 この記事は、インフレがよいことでデフレが悪いことであるかのような論調で書かれているが、本来の中央銀行の仕事は、貨幣価値を安定させて国民の財産を守ることであり、意図的にインフレを起こして国民の財産を目減りさせることではない。

 さらに、物価は、⑤⑦⑧のように需要が多ければ上がり、①②③のように消費者の財力やニーズの低下があれば下がるという現象であるため、④のように、デフレだから金融緩和して物価を上げようとすると、国民の財力がますます低下して節約を強いられるので、やはり物価は上がらない。そして、こうした国では、企業の投資も起こりにくい。なお、需要が増えないのに原油価格の上昇などのコスト要因で物価が上がるのをスタグフレーションと呼び、悪いインフレである。また、⑥⑨のように、政府の政策によって物価が著しく変動することもあるわけだ。

3)“新自由主義”は悪いとする歪んだ論理
 個人の諸自由を尊重して封建的共同体の束縛から解放しようとする価値観に反対する人は現在の日本にはいないと思うが、その理由は、*7-4のように、自由を至上の価値とする近代西欧社会で育まれた自由主義が、現在では日本国憲法の中で「人が生まれながらに持っている人権」「人間がかけがえのない個人として尊重され、平等に扱われ、自らの意思に従って自由に生きるために必要不可欠な権利」として明記されているからだ。それには、私も120%賛成である。

 日本国憲法第12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」と明記し、具体的には「精神的自由権:思想・良心の自由(19条)、信教の自由(20条1項前段)、集会・結社、表現の自由(21条)、学問の自由(23条)」「経済的自由権:居住・移転、職業選択の自由(22条)、財産権の不可侵(29条)」「身体的自由権:奴隷的拘束や苦役からの自由(18条)、法定手続の保障(31条)、住居の不可侵(35条) 被疑者・被告人の権利保障(33条、36~39条)」等の条文がある。

 これに対し、*7-5は、新自由主義とは20世紀の小さな政府論のことで、「①政府の規制を緩和・撤廃して民間の自由な活力に任せ成長を促そうとする経済政策」「②緊縮財政や外資導入、国営企業の民営化、リストラのほか、公共料金の値上げや補助金カットなどを進めるため、貧困層の生活を直撃し国民の反発が強い」「③アダム・スミスは、経済は個人や企業の自由に任せることによって繁栄すると主張し、政府の役割を治安維持や防衛などに限定する必要性を説いた」「④20世紀に大恐慌や戦時動員体制の経験を経て、政府が完全雇用を目指して需要を管理するケインズ主義政策が一般的となった」「⑤1980年代に入って政府における財政赤字の深刻な累積、官僚主義的な非能率が大きな問題となり、小さな政府への改革が広まった」「⑥日本も80年代の第2次臨時行政調査会による行政改革以来、新自由主義的な政策転換が進められてきた」「⑦日本では公共事業や規制に関して既得権を持つ官僚組織、利益団体、族議員が、小さな政府の徹底に反対している」「⑧小泉政権は新自由主義改革を推進し、郵政民営化・社会保障費の抑制などが遺産となっている」としている。

 しかし、1995年前後以降は私が関与しているので知っているのだが、このうち①は、現場を知らない省庁が自らの権力を維持するために細かい規制を作って意地悪く運用すれば、民間も新しいことができなくなり経済発展を阻害するため、重要なことなのだ。また、国が破綻しないためには、膨大な無駄遣いを排除する必要があり、②の緊縮財政・外資導入・国営企業の民営化・適切な補助金カットなどは進めたが、そのために必要なリストラならともかく、公共料金の値上げや本当に必要なセーフティーネットの削減を意図したことはない。まして夜警国家になるなど前近代的で、これらは将来大きな政府に戻したい官僚が企んだことだろう。

 また、③のアダム・スミスが言う「神の見えざる手」とは、「市場における需要と供給が生産調整をすすめ、市場の自由を徹底することが経済発展を進める」と説いているもので、これは共産主義・社会主義経済が失敗し、市場主義に移行してから復活したことで歴史的に検証済だ。ただし、市場の失敗もあるため、補足的に④のケインズ主義政策が行われたのであり、ケインズ主義政策ばかりでは国家財政が破綻するのは時間の問題で、社会保障もできなくなる。

 日本では、1980年代に、⑥の第2次臨時行政調査会による行政改革が行われ、⑦のように、無駄遣いが多く効率の悪い官僚的性格を廃し始め、小泉政権は⑧のように郵政民営化を進めた。しかし、私が自民党内でいくら反対しても社会保障費抑制を進めたのは、財務省と厚労省である。

 つまり、私は、ここでいう“新自由主義改革”を推進してきたので知っているのだが、社会保障はもともとは保険で行われており、管理の杜撰・給付の不合理以外は主張したことがない。また、政府の役割を治安維持や防衛に限定することは、歴史的教訓を踏まえない愚行だと思う。

 しかし、*7-3のように、新自由主義という言葉が、ニュースや論説で批判のためによく登場するのは事実で、その内容については「国民の多数が実際に怒り、抗議しているのは増税や金融機関救済という大きな政府路線なのに、一部のメディアや知識人がそれを新自由主義のせいにしたがっている」「物事を正しく理解し、議論するには明確な言葉を使うことが必要不可欠である」「新自由主義などという定義と正反対の使用がまかり通る言葉を使っていては、経済問題の本質について考えることはできない」というのは、全くそのとおりだと思う。

 なお、マクロン政権が環境政策の一環としてガソリンと軽油を増税したように、環境問題を税制で解決することは大きな政府とは関係なく、私は“アリ”だと考えている。何故なら、政府が放っておけば外部不経済として環境を汚した者が得する場合に、政府が介入して無料のものを有料にし、望ましい方向への切り替えを促すことができるからだ。しかし、これが適切に行われるためには、政府の見識の高さが必要なのである。

(8)資源の使い方と財源
1)国有林の民間による伐採
 2019年5月16日に、全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案が、*8-1のように、衆院農林水産委員会で可決され、6月5日に参議院も通過した。

 しかし、国有林・民有林の両方とも先祖が大切に育てた木材資源であり、特に全国の森林の3割を占める国有林は国民の財産だ。そのため、「低迷する林業の成長を促す」という建前の下、特定の民間に大きく開放することは、対価として徴収する権利設定料や樹木料の安さから、せっかくある国民の財産を叩き売りすることとなり、「森林を守る」「資源を活かす」などの発想がないことも明らかである。

 さらに、伐採後の植え直し(再造林)は別の入札で委託して国民の血税を使って行うとのことであり、金を使うことしか考えない政治と行政では、国の財政破綻による緊急事態で、イタリア・ギリシャのように社会保障が削減されるのは時間の問題となるわけだ。

2)放牧の中止
 山の多い日本では、山を賢く使って放牧すれば、家畜を畜舎に閉じ込め、外国から餌のトウモロコシを輸入して、脂肪の多すぎる肉を作る必要はない上、食料自給率も上がる。

 しかし、*8-2のように、農水省は、豚や牛などの放牧制限をしようとしており、何をしているのかと思う。豚熱でもワクチン接種すれば放牧して問題ない上、それ以外の地域まで畜舎の整備を義務化する科学的根拠もないだろう。

 オーストラリア・アメリカ・カナダ・ヨーロッパでは当然の如く放牧している。そして、その方が家畜のストレスが少なく、家畜の免疫力が向上して病気にも強いため、薬の使用減少や耕作放棄地の解消、飼養コストの低減などに繋がるのである(まさか、これが困るのではないでしょうね)。そのため、雨風に備えて一定の畜舎はあった方がよいものの、舎外飼養の中止要請は非科学的だ。つまり、農水省は科学的根拠もなく、農家への影響調査もしていないようなことを、改正案に盛り込むべきではない。

3)地方創成
 新型コロナ以前から、*8-3のように、東京圏在住者は地方暮らしに関心があると答えており、コロナ後は、さらに都市住民の田園回帰志向が強くなっている。

 「やりたい仕事」は、「農業・林業(15.4%)」が最多で、「宿泊・飲食(14.9%)」「サービス業(13.3%)」「医療・福祉(12.5%)」が続き、若い世代ほど移住の意向が強い傾向も分かったそうだ。これらは、今後のニーズを考えれば自然であるとともに、東京一極集中を解消するためにも有効である。

 しかし、地方圏暮らしへのネガティブイメージに「公共交通の利便性が悪い(55.5%)」「収入の減少(50.2%)」、「日常生活の利便性が悪い(41.3%)」などが挙がっているのも当たっており、農林漁業等々で稼げなければ夢破れて二度と田園回帰志向は起こらないだろう。さらに、教育・医療・公共交通の充実による生活の利便性は、人口が増えればある程度はよくなるものの、意識的な充実が不可欠だ。

4)公立病院などの基幹病院を中心とした医療圏の構築
 厚労省は、*8-4のように、新型コロナで入院病床が逼迫したのを受け、感染症対応の視点が欠如していた約440の公立・公的病院の再編・統合について都道府県から検討結果報告を受ける期限を当初の9月から先延ばしするそうだ。

 しかし、地域で重複している診療機能を役割分担して効率化したり、社会的入院をなくして高齢者施設を充実しながら、医療提供体制の無駄をなくしたりすることは重要だが、団塊世代が75歳以上となり医療費が急増するから、2018年に全国で124万6千床あった病床を119万1千床まで減らすというような単純な医療費・病床数削減を目的とした病院統合なら1人当たりの福祉が小さくなるだけであるため賛成しない。

 また、近隣に競合病院があっても、セカンド・オピニオンを得るために重複して受診することもあるため、新型コロナの検査基準のように「非科学的でも、ともかく病院には行かないで欲しい」などという価値観を持って医療体制の再構築をしようとしている厚労省は、命を託せる省庁ではないことが明らかになったのだ。

 さらに、少子高齢化で、急病・大けがで入院する「高度急性期」「急性期」病床の必要性が低くなるというのもおかしく、高齢になると多発する脳血管疾患や心疾患は「高度急性期」「急性期」そのものであり、そこで命が助からなければリハビリといった「回復期」病床に行くこともないため、結論ありきの非科学的な議論はやめるべきだ。

 最後に、病院は重要なインフラであり、病院がなくなれば、都会から移住するどころか、現在住んでいる人もその地域に住めなくなる。そのため、厚労省が狭くて短い視野で考えた無茶な病院再編や効率化を実現させないために、公立病院などの基幹病院を中心とした医療圏の構築に関わる意思決定は地域が行うべきだ。そして、その財源は、資源を安くたたき売ったり投げ捨てたりせずに、有効に使うことによって出る。

(9)研究と特許の意義
 経済学の公式が「与件」として「一定で変わらない」と仮定している要素に、「技術進歩」がある。1953年にワトソン・クリックがDNAのらせん構造を発見して以来、目覚ましい進歩を遂げている生命科学の進歩も無視されており、今回の新型コロナ騒動に際して100年前のスペイン風邪と同じ公式を使っていたというのは、聞いて呆れた。

 そして、日本では、政府もメディアも、生命科学者が瞬く間にウイルスの遺伝情報を読み、その弱点を突いたワクチンや治療薬を作れることを無視していたため、人材はいるのに技術開発で先んじて特許権を得ることを放棄させた。また、国内外の経済封鎖を続けることによって経済に大きなダメージを与え、それをカバーするために血税から多大な支出をしている。どうして、こういうことが起こるのかといえば、そういうことの全体を瞬時に考慮できる専門家をリーダーにしていないからである。

1)新型コロナのワクチン・治療薬に対する他国と日本の対応
 米国は、*9-2のように、米国民の生命を守るため治療薬やワクチンの開発・生産を支援し、自国での供給・備蓄を目的に1千億円超を投じて欧米医薬企業の実用化を後押ししている。中国や欧州も国を挙げて開発を強化している。

 日本の政府及びメディアは、ワクチンや治療薬の開発と実用化に消極的で、「ワクチンができるには数年かかる」「国民は我慢して自粛せよ」「安全性が・・」と繰り返した。そして、「ワクチンができたら国際協調で、分けてね」という態度だが、そんな先進国に優先的に分けてやる国などない。このようにして、世界は「Japan Passing」になりつつある。

2)癌の免疫薬に対する日本の情けない態度
 日本人の死因トップになった癌の治療は、今でも外科的手術・放射線治療・化学療法が標準療法と定められているが、*9-1-2のように、本庶京都大学特別教授が最初に癌免疫治療薬「オプジーボ」を開発・実用化しようとした時は、日本では製薬大手も消極的で、米国のブリストル・マイヤーズが先に実用化に手を貸してくれたと聞いている。

 そして、日本で癌免疫治療薬「オプジーボ」が有名になったのは、本庶教授がノーベル賞を受賞した後だった。さらに、オプジーボはじめ免疫薬は革命的な薬で副作用が小さく、さまざまな癌に効き始めているのに、日本では厚労省が頑なに癌の標準治療を「外科手術」「抗癌剤による化学療法」「放射線療法」として免疫療法を厳しく制限している。これによって、日本国民は免疫薬による治療を著しく受けにくいと同時に、免疫薬の開発者も年間数百億円にのぼるロイヤルティーを逸した。厚労省のこの非科学的態度は、国民の命よりも既に抗癌剤を売っている製薬大手の利益を重視するものではないのか?

 このような環境の中では、免疫療法を開発してきた研究者も厳しい環境に耐えなければならなかったし、開発後もロイヤルティーで被害を受けている。つまり、リスクをとったのは製薬会社だけでなく、一生をかけたリスクをとって先頭に立っている研究者もであるため、本庶教授が「オプジーボ」の特許収入として小野薬品工業に約226億円の支払いを求めて大阪地裁に提訴された気持ちはよくわかる。この場合、組織を重視して個人の貢献を軽視する日本の風土もまた、日本の研究開発人材を生きにくくしているのである。

 なお、*9-3のように、日本農業新聞が2020年6月8日の論説で、「コロナ危機と文明、生命産業へかじを切れ」と題して記事を書いているのは、生命産業に従事する多くの労働者が関心を持って読むのでよいと思うが、ここでも「消費をあおり、資源を乱費する欲望の新自由主義」と記載しているのは、新自由主義の定義を誤っている。もう少し勉強してから記事を書かないと、国民を誤った方向に誘導することになるが、日本農業新聞は自由主義から封建制・官僚制に戻したいのだろうか?

3)自動運転車及びサポカー開発の遅れ
  

(図の説明:左図のように、近年は交通事故による死者数が減少傾向で、よいことだ。右図の年齢階級別の「死亡事故件数/免許人口10万人」では、確かに75歳以上で死亡事故が多いように見えるが、①85歳~100歳をひとくくりにしているため、この階級は他の3倍の年齢層が入っている ②高齢者は地方に多く都市部の生産年齢人口より運転時間が長いため、運転免許を持つ人を分母にするのではなく運転時間を分母にしなければならないのではないか と思う)

 近年、誰か一人が重大な事故を起こしたとして、そのグループに属する人全員に運転免許を返納させることが流行しているが、特定のグループの人に運転免許を持たせないことは、外出の機会や就職の機会を奪うため人権侵害になる。

 東京都池袋で高齢運転者の運転する車が暴走したケースでは、松永真菜さんと長女の莉子ちゃんが死亡した事故を受けて、*9-4-1のように、夫の拓也さんが事故5日後に「運転に不安がある人は運転しないでほしい」と訴え、その結果、*9-4-2のように、家族などから年齢を理由に運転しないことを強制される高齢者が増えた。しかし、これは年齢による差別であり、自分の家族が身体の不自由な高齢者の運転で交通事故に遭ったからといって、全高齢者の運転を禁止する資格にはならない。

 高齢者の運転では他にも事故が起こっているが、その割合が若者より高いかといえばそうでもないし、コロナ自粛で誰もがわかったように、外出できないことは高齢者にとってもストレスであり、不便にしたり身体を悪くさせたりする。そのため、私は、高齢者のみに限定免許創設するよりも、さっさと安全運転サポートを進歩させ、それを標準装備にすればよかったと思う。

 なお、自動運転車や安全運転サポカーについても、技術開発の遅さ・国民への我慢の強制・国の対応の遅さは、新型コロナのワクチン・治療薬や癌の免疫療法と同じで、これは、国民の福利を押し下げながら、今後は世界でニーズが見込まれる日本の技術を収益に結び付けることを不可能にしているので賢くない。

4)EV活用の遅れ
 EVもまた、日産自動車が世界で初めて市場投入したにもかかわらず、*9-5-1のように、2020年6月3日現在、日本は重要市場になっておらず、重要市場になっているのは中国で、日本電産は中国東北部の遼寧省大連市で約1千億円を投じて建設中の工場内に駆動モーターの開発拠点を新設し、成長の柱と位置づけるEVの開発を2021年には稼働させるそうだ。

 独コンチネンタルも2021年に天津市に開発センターを設置する予定で、独ボッシュもまた現地企業と合弁を組んでEV用駆動モーターの供給を目指すそうなので、環境とエネルギーの両面からEVが主役になった時には中国が自動車先進国になるだろう。

 また、日本電産は、5月27日、*9-5-2のように、同社のEV用駆動モーターシステム「E-Axle」が中国の吉利汽車の新型EVに採用されたことを喜んで発表しているが、当然だ。

・・参考資料・・
<医療崩壊を加速させた消費税制>
*1-1:https://gemmed.ghc-j.com/?p=27985 (Gem Med 2019.8.15) 病院の消費税問題、課税化転換などの抜本的解決を2020年度に行うべき―日病
 病院の消費税問題について、診療報酬の上乗せでは不公平等を解消することはできない。課税化転換などの抜本的措置を2020年度の税制改正で行うべきである。日本病院会は8月7日に、こうした内容を盛り込んだ2020年度税制改正要望を根本匠厚生労働大臣に宛てて提出しました。
●診療報酬プラス改定では、個別病院の消費税負担の不公平等を解消できない
 日病の税制改正要望は次の8項目(国税5項目、地方税2項目、災害医療拠点としての役割と税制1項目)で、このうち▼消費税関連(国税の(1))▼診療報酬の事業税非課税(地方税の(1))▼固定資産関連(地方税の(2))の3点を「優先」的に措置すべき項目として強調しています。
【国税】
 (1)控除対象外消費税について、個別病院ごとの解消状況に不公平や不足などが
   生じないよう、税制上の措置を含めた抜本的措置を講じる
 (2)医療法人の出資評価で「類似業種比準方式」を採用する場合の参照株価は、
   「医療福祉」と「その他の産業」のいずれか低いほうとする
 (3)医療機関の設備投資を促進するための税制を拡充する
 (4)資産に係る控除対象外消費税を「発生時の損金」とすることを認める
 (5)公的運営が担保された医療法人に対する寄附税制を整備する
【地方税】
 (1)医療機関における社会保障診療報酬に係る事業税非課税措置を存続する
 (2)病院運営に直接・間接に必要な固定資産について、▼固定資産税▼都市計画税
   ▼不動産取得税▼登録免許税―を非課税あるいは減税とする
【ほか】
 激甚災害に相当するような地震・台風・噴火などの大規模災害が発生した場合に、地域医療の重要な拠点としての役割を果たす医療機関・介護施設に関しては、その機能復旧を支援するための税制上の特段の配慮を行う。
 要望内容を少し詳しく見てみましょう。まず国税(1)の「消費税」については、現在、保険診療(言わば診療報酬)については「非課税」となっています。したがって、医療機関等が物品購入等の際に支払った消費税は、患者・保険者負担に転嫁することはできず、医療機関等が最終負担しています(いわゆる控除対象外消費税)。この医療機関等負担を補填するために、特別の診療報酬プラス改定(消費税対応改定)が行われていますが、当然、「医療機関等ごとに診療報酬の算定内容は異なる」ことから、どうしても補填の過不足が生じます。2019年10月に予定される消費税対応改定では、病院の種類別に補填を行うなどの「精緻な対応」が図られますが、「病院の種類による不公平」是正にとどまり、個別病院の補填過不足を完全に解消することはできません。このため、昨年(2018年)夏には四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)とが合同で、▼消費税非課税・消費税対応改定による補填は維持する▼個別の医療機関ごとに、補填の過不足に対応する(不足の場合には還付)―という仕組みの創設を要望しました(関連記事はこちらとこちら)。「消費税非課税制度の中で個別医療機関等への還付を認めよ」との要望ですが、与党の税制調査会は「税理論上、非課税制度を維持したまま税の還付を行うことはできない」とし、事実上のゼロ回答を突きつけました(関連記事はこちら)。日本医師会は、このゼロ回答に対し、なぜか「消費税対応改定の精緻化により、消費税問題は解消した」としています。しかし病院では▼物品購入量が多く(特に急性期病院)、補填不足が生じやすい▼クリニックと異なり、いわゆる四段階制(社会保険診療報酬の所得計算の特例措置で、概算経費率を診療報酬収入が2500万円以下の医療機関では72%、2500万円超3000万円以下では70%、3000万円超4000万円以下では62%、4000万円超5000万円以下では57%の4段階とする)などの優遇措置もない―という事情があることから、四病院団体協議会では「補填の解消に向けた更なる対応が必要」と判断(関連記事はこちら)。今般、日病では、この四病協判断に則り、さらに「診療報酬での対応は、最終的に消費税負担を患者・保険者に求めることとイコールである」点も考慮し、「病院」について、消費税問題の抜本的措置(課税化転換や、保険診療設備・材料の仕入れを非課税とするなど)を講じるべきと強く要望しているのです。また国税(3)では、地域医療構想の実現や地域包括ケアシステムの構築に向けた設備投資を国全体で促す必要があるとし、具体的に▼病院用建物・医療機器・医療情報システム等に関する法定耐用年数の短縮▼地域医療構想や医療計画に沿った病院の機能分化を行うための設備投資に対する税制負担軽減制度の充実―などを行うよう求めています。一方、国税(5)では、社会医療法人や特定医療法人などの「公的運営が担保された医療法人」について、「寄附」を▼所得税法上の寄付金控除の対象▼法人税法上の損金―とすべきと要望。あわせて、公的医療法人へ不動産を贈与する場合、「贈与税」という障害をなくすため、租税特別措置法第40条の「譲渡所得税非課税申請」を当然に受けられるようにすべきとも求めています。また優先項目にも盛り込まれた地方税(2)では、一般の医療法人においても、国公立・公的病院や社会医療法人と同様に、病院運営に直接関係する不動産について「固定資産税・都市計画税を非課税」とすることを提案。あわせて看護職員等の職員寮などの病院経営に間接的に必要な不動産について、固定資産税などの非課税・減税措置を設け、病院経営の安定等を図るべきと切望しています。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM8L4G3QM8LULBJ003.html (朝日新聞 2019年8月19日) 消費税分969億円、国立大病院が負担 経営を圧迫
 全国の国立大病院42カ所で、高度な医療機器やベッドなどの購入時に支払った消費税を診療費に十分転嫁できず、2014~18年の5年間に計969億円を病院側が負担していることがわかった。診療報酬制度の仕組みによるもので、病院の経営を圧迫しているという。診察に使う機器やベッド、ガーゼなどの消耗品は、病院が購入時に消費税も支払う。一方、公的保険の医療は非課税のため、患者が支払う初診料や再診料などの診療報酬点数に消費税の相当分も含めることで、病院側に補塡(ほてん)する仕組みになっている。だが、初診料や再診料はすべての医療機関でほぼ同額で、高額化が進む手術ロボットなどの先進機器を購入することが多い大学病院などでは消費税分の「持ち出し」が大きいという。全国の国立大病院でつくる「国立大学病院長会議」の試算によると、1病院あたりの補塡不足は平均で年約1・3億円(17年度)。税率が8%になった14~18年の5年間で計969億円に上った。私大の付属病院などでも同様の傾向と見られるという。医療の進歩にともない、高精度な放射線装置、全身のがんなどを一度に調べることができるCT、内視鏡手術支援ロボットなど、1台数億円する医療機器が登場した側面もある。ある大学病院の医師は「医療機器の更新ができなくなると、患者さんにしわ寄せがいく」と嘆く。厚生労働省は「おおむね補塡されている」としてきたが、16年度のデータを調べたところ、補塡率は病院全体で85%にとどまり、国立大病院を含む68カ所の特定機能病院では平均62%だった。同省は、税率が10%になる際は、病院の規模を考慮して、入院基本料などの点数を上げることで対応することにしている。同会議の山本修一・常置委員長は「厚労省に検証を要請するとともに、補塡が十分にされるか注視していきたい」と話している。
●増税分は節約で対応
 病院側はコスト削減の工夫を重ねている。米国製の手術支援ロボット「ダヴィンチ」は、難しい手術にも対応できるが、価格は約3億円。がん治療用の高精度な放射線装置は1台3億~5億円など、このような機器を導入すると、消費税分だけで数千万円かかる。国立大学病院長会議の小西竹生・事務局長は「こうした高度な医療を提供する大学病院ほど赤字幅が大きくなる」と話す。コスト削減の一環として東大病院(東京都文京区)など39カ所が取り組んでいるのが、入院用ベッドのリサイクルだ。病院の地下の一室には、予備のベッドや乳幼児用のベッドなど、数多くのベッドが保管されている。その片隅にはリモコンや手すりなど、一部が故障したものもある。ベッドは1台数十万円するため、更新が滞っている。同会議が大学病院にある2万8千床を調べたところ、耐用年数の8年を超えて使われていたベッドは約7割にのぼった。15年以上使われていたものも3割弱あった。大学病院は平均700床以上あり、消費税の補塡(ほてん)不足などで経営は苦しく、手術や検査に使う医療機器と比べて更新は後回しにされがちだ。ただ、病院関係者は「整備が不十分だと転倒事故などにつながるおそれもある」と話す。従来は一部が壊れると廃棄していたが、部品を修理したり、まだ使える部品を専門業者がメンテナンスしたりした後、別の病院に融通する仕組みだ。新品は1台数十万円だが、部品なら数万円で済む。病院で使うガーゼや手袋などを複数の病院で共同調達する試みも始めた。カテーテルやアルコール綿など多くの製品について、現場の看護師がサンプルを比べて品質を確認。品目を絞ったり大量購入したりすることで、価格を下げてもらっている。2016年度に始め、導入前と比べて数億円の削減につながったという。東大病院の塩崎英司・事務部長は「消費税の補塡(ほてん)不足で経営が苦しい中、今後も知恵を絞って取り組みたい」と話す。

*1-3:https://www.agrinews.co.jp/p50985.html (日本農業新聞 2020年6月5日) [新型コロナ] 厚生連病院支援を 自民議連で要望相次ぐ
 自民党の議員連盟「農民の健康を創る会」(宮腰光寛会長)は4日、東京・永田町で幹事会を開き、新型コロナウイルス対策について議論した。新型コロナによる影響でJA厚生連の経営状況が厳しいことを受け、出席した議員からは、地域医療を守る厚生連の一層の経営支援を訴える声が相次いだ。JA全中やJA全厚連の役員らが出席。厚生連病院は、新型コロナの影響で予定した手術や入院の延期、一般外来診療の縮小などで医業収益が減収となっていることを全厚連が報告。医業収益が前年同期比で、半分になった病院もある。病院への財政的な支援を早急に確立することや、空床確保分の減収に対する支援拡充、医療従事者などへの危険手当の支給、医療物資や機器を国が責任を持って供給体制を整備することなどを求めた。宮腰会長は「地域医療崩壊は何としても避けなくてはならない。第2波、第3波に耐えられる医療提供体制を整えていく必要がある」とあいさつ。三ツ林裕巳衆院議員は一層の経営支援を求め「新型コロナ対策を一生懸命整えた厚生連の経営が滞ることは避けなければならない」と、訴えた。永岡桂子衆院議員は厚生連が感染者数を抑える役割を果たしてきたとし「赤字続きで倒れることはあってはならない」と支援を求めた。野村哲郎参院議員は新型コロナ患者を受け入れていない病院も経営は厳しいと見解を示し「地域医療を守るため、全ての厚生連の経営状況のチェックをするべきだ」と呼び掛けた。

<検査抑制による医療崩壊>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200609&ng=DGKKZO60128210Y0A600C2MM8000 () 検証コロナ 危うい統治(1)11年前の教訓放置 、組織防衛優先、危機対応阻む
 新型コロナウイルスの猛威に世界は持てる力を総動員して立ち向かう。だが、日本の対応はもたつき、ぎこちない。バブル崩壊、リーマン危機、東日本大震災。いくつもの危機を経ても変わらなかった縦割りの論理、既得権益にしがみつく姿が今回もあらわになった。このひずみをたださなければ、日本は新たな危機に立ち向かえない。日本でコロナ対応が始まったのは1月。官邸では「しっかりやります」と繰り返した厚生労働省の動きは一貫して鈍かった。「どうしてできないんだ」。とりわけ安倍晋三首相をいらだたせたのが自ら打ち出した1日2万件の目標に一向に届かないPCR検査だった。その背景にあったのが感染症法15条に基づく「積極的疫学調査」だ。病気の特徴や感染の広がりを調べるのが疫学調査。「積極的」とは患者が病院に来るのを待たず、保健所を使い感染経路やクラスター(感染者集団)を追うとの意味がある。厚労省傘下の国立感染症研究所が今年1月17日に出した新型コロナの「積極的疫学調査実施要領」では「患者(確定例)」と「濃厚接触者」のみが検査対象とされた。検査体制への不満が広がると、2月6日に出した要領の改訂版で初めて対象者に「疑似症患者」が加わった。とはいえ「確定例となる蓋然性が高い場合には積極的疫学調査の対象としてもよい」の限定付き。その姿勢は5月29日の最新版の要領でも変わらない。厚労省が実質的に所管する各地の保健所などもこの要領に従い、濃厚接触者に検査の重点を置いた。それが大都市中心に経路不明の患者が増える一因となった。疫学調査以外にも検査を受けにくいケースがあり、目詰まりがようやく緩和され出したのは4月から。保健所ルートだけで対応しきれないと危機感を募らせた自治体が地元の医療機関などと「PCRセンター」を設置し始めてからだ。
●疫学調査を優先
 自らのルールにこだわり現実を見ない。そんな感染症対策での失敗は今回が初めてではない。2009年の新型インフルエンザ流行時も厚労省は疫学調査を優先し、PCR検査を感染地域からの帰国・入国者に集中した。いつの間にか国内で感染が広がり、神戸で渡航歴のない感染者が見つかると、関西の病院を中心に人々が殺到した。厚労省は10年にまとめた報告書で反省点を記した。「保健所の体制強化」「PCR強化」。今に至る問題の核心に迫り「死亡率が低い水準にとどまったことに満足することなく、今後の対策に役立てていくことが重要だ」とした。実際は満足するだけに終わった。変わらない行動の背景には内向きな組織の姿が浮かぶ。厚労省で対策を仕切るのは結核感染症課だ。結核やはしか、エイズなどを所管する。新たな病原体には感染研や保健所などと対応し、患者の隔離や差別・偏見といった難問に向き合う。課を支えるのは理系出身で医師資格を持つ医系技官。その仕事ぶりは政策を調整する官僚より研究者に近い。専門家集団だけに組織を守る意識が先行する。官邸で「大学病院も検査に使えば」との声が出ても、厚労省は文部科学省が絡む大学病院での検査拡充に及び腰だった。首相は周囲に「危機なんだから使えるものはなんでも使えばいいじゃないか」と語った。誰でもそう思う理屈を組織防衛優先の意識がはね返す。
●「善戦」誇る技官
 「日本の感染者や死亡者は欧米より桁違いに少ない」。技官はコロナ危機での善戦ぶりを強調するが、医療現場を混乱させたのは間違いない。「病院があふれるのが嫌でPCR検査は厳しめにやっていた」。4月10日、さいたま市保健所長がこう話し市長に注意された。この所長も厚労省技官OB。独特の論理が行動を縛る。02年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、12年の中東呼吸器症候群(MERS)を経て、韓国や台湾は備えを厚くした。対照的に日本は足踏みを続けた。厚労省に限らない。世界から一目置かれた日本の官僚機構は右肩上がりの成長が終わり、新たな危機に見舞われるたびにその機能不全をさらけ出してきた。バブル崩壊後の金融危機では不良債権の全容を過小評価し続け、金融システムの傷口を広げた。東日本大震災後は再開が困難になった原発をエネルギー政策の中心に据え続けた。結果として火力発電に頼り、温暖化ガス削減も進まない。共通するのは失敗を認めれば自らに責任が及びかねないという組織としての強烈な防衛本能だ。前例や既存のルールにしがみつき、目の前の現実に対処しない。グローバル化とデジタル化の進展で変化のスピードが格段にあがった21世紀。20世紀型の官僚機構を引きずったままでは日本は世界から置き去りにされる。

*2-2:https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020060700001.html?page=1 (論座 2020年6月7日) 何一つ有効な対策を打たなかった安倍首相が言う「日本モデルの力」とは?、コロナ第2波に備え必要なのは「日本モデル」の解体だ!、佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長
 未曽有のパンデミック状況を呈するコロナウイルスがこの秋から冬にも大きい第2波となって襲い来る予測が広まる中、対策を立てるべきはずの安倍内閣からは危機感がまったく伝わってこない。この原稿を書いている6月6日の首相動静は以下の通りだった。<午前8時現在、東京・富ケ谷の私邸。朝の来客なし。午前中は来客なく、私邸で過ごす。午後4時9分、私邸発。午後4時20分、官邸着。同30分から同50分まで、加藤勝信厚生労働相、菅義偉官房長官、西村康稔経済再生担当相、西村明宏、岡田直樹、杉田和博各官房副長官、北村滋国家安全保障局長、和泉洋人、長谷川栄一、今井尚哉各首相補佐官、樽見英樹新型コロナウイルス感染症対策推進室長、森健良外務審議官、鈴木康裕厚労省医務技監。午後5時10分、官邸発。午後5時27分、私邸着。《時事通信より》>土曜日だから夕方に職場に着くこともあるが、午後4時30分から始まった会議の顔ぶれから推して、政府のコロナ対策会議であることは間違いないだろう。だが、職責上これだけのメンバーを集めておいてわずか20分しか情報を交換しなかったということは、どう考えればいいのだろうか。まず、現在の仕事環境の常識を考えれば、わずか20分の会議はオンラインで済ませるべきものだ。しかし、20分という時間をよく考えてみれば、本当はメール連絡だけで済む話かもしれない。司会役が発言し、数人の事務連絡、報告があって終わりだ。対策などについて議論し合うことなどはこの短い時間では不可能だ。
●緊急事態宣言は「緊急手段」であって「対策」ではない
 「日本ならではのやり方で、わずか1か月半で、今回の流行をほぼ収束させることができました。正に、日本モデルの力を示したと思います」。安倍首相は5月25日、緊急事態宣言解除の記者会見の冒頭、こう発言した。「今回の流行をほぼ収束させること」など本当にできたのか。安倍首相のこの発言に関しては様々な疑念が湧いてくるが、最も驚くべき発言は「日本モデルの力を示した」という言葉だろう。時事通信の6月6日の世論調査では、コロナウイルスに対する安倍政権の対応について60%の人が「評価しない」と答えている。この世論調査通り、安倍政権はコロナウイルス対策については何一つ有効な対策を打ち出せなかったと言っていいだろう。もちろん、緊急事態宣言を対策と呼ぶ人はいないだろう。あらゆるレベルの経済を痛めつける緊急事態宣言は対策と呼べるようなものではなく、感染の波及を食い止める最後に残された緊急手段に過ぎない。何一つ有効な対策が打てなかった安倍首相が発言した「日本モデルの力」とは一体、どういうものなのだろうか。コロナウイルスに対して安倍政権が最初に打った「日本モデル」の対策を振り返ってみよう。
●COVID-19を指定感染症に指定した愚策
 1月28日に厚労省はCOVID-19を感染症法に基づく指定感染症に政令指定。この指定のために、感染者はたとえ無症状であっても強制入院させられることになった。厚労省はこの時、COVID-19の無症状感染者の存在を想定していなかった。無症状者や軽症者は病院以外の企業療養所などで静養隔離するという韓国が取った賢明な政策への道は、これによって閉ざされてしまった。無症状者でも入院しなければならないために早くから病院体制の崩壊が心配され、PCR検査の大幅抑制につながった。ところが、厚労省がCOVID-19を指定感染症に指定する4日前の1月24日、世界の医学界で注目されているイギリスの「ランセット」誌は、無症状の感染者の存在を報告する香港大学の研究者たちの論考を掲載していた。指定感染症担当の結核感染症課の担当者たちがこの論考をいち早く読んで対応を考えていれば、COVID-19の無症状者の存在を重視し、指定感染症には指定しなかっただろう。厚労省担当課の勉強不足と不作為が生んだひとつの国家的悲劇だ。そして、この感染症法に基づく指定感染症に政令指定したために、基本的な「日本モデルの力」が働くことになった。国立感染症研究所と保健所、地方衛生研究所が束になった「日本モデルの力」である。
●「日本モデル」への大きな思い違い
 コロナウイルス第2波の襲来を前に私が訴えたいのは、この「日本モデルの力」の解体である。恐ろしいことだが、安倍首相は本当に心から「日本モデルの力を示した」と思っているのかもしれない。しかし、これは大変な思い違いである。コロナウイルスの襲来の前に、国立感染研と保健所、地方衛生研究所の体制はほとんど歯が立たなかったのである。このままの体制で第2波の襲来を迎えれば惨憺たる結果を招くだろう。それを示すにあたって、まず5月27日の佐藤章ノート『「超過死亡グラフ改竄」疑惑に、国立感染研は誠実に答えよ!』で指摘した国立感染研公表の「超過死亡」グラフ問題の再取材結果を報告しよう。この問題は、有効なコロナウイルス対策を進める上で国際的に注目されている「超過死亡」統計のグラフが大きく変化していた疑惑で、公表している国立感染研と並んで統計を担当している厚生労働省の健康局結核感染症課が取材に応じた。まさに指定感染症を担当する課だ。この問題を簡単に復習しておくと、国立感染研のHPに5月7日に公表されていた「超過死亡」のグラフが、緊急事態宣言が解除された日の前日の5月24日、まったく違う形のグラフに変わっていたという問題だ。この変化によって、5月7日公表グラフでは2月中旬から3月終わりにかけて大きい「超過死亡」が見られたのに、5月24日公表グラフではその「超過死亡」分がそっくり消えていた。あまりに大きく変動していたために、「超過死亡」記事を紹介した私のツイートに対して、私のフォロワーの方々から「改竄されたのではないか」との声が多く寄せられたが、統計数値を直接取りまとめている国立感染研は、私の問い合わせに素っ気ない回答しか与えなかった。この国立感染研に代わって直接取材に答えたのは、感染研とともに「超過死亡」統計を担当する厚労省結核感染症課に所属する梅田浩史・感染症情報管理室長と、同室の井上大地・情報管理係長。6月2日、取材に応じた。
●厚労省結核感染症課の主張
 取材の結論をまず示しておくと、梅田、井上両氏は「超過死亡」統計グラフの作り方を懇切丁寧に説明したが、最終的に誤解を解くデータについては最後まで明らかにしなかった。梅田、井上両氏の説明を噛み砕いてシンプルに示しておこう。二つのグラフの間で大きく変化していたのは2月17日から3月29日にかけての死亡数。厚労省は東京都23特別区の保健所に対して、死亡小票を作った時点から2週間以内に死亡者や死因などを報告するように通知しているが、今年の場合、コロナウイルスへの対応に忙しく、「週によっては三つか二つの保健所からしか報告が来ない時もあった」(梅田感染症情報管理室長)という。23特別区からの報告がそろわない時には、仕方なく「報告保健所数の割合の逆数を乗じて」(国立感染研HP)いる。つまり、例えば23区のうちひとつの保健所からしか報告がなく、その報告が死亡者数5人であれば、「報告保健所数の割合」23分の1の「逆数」である1分の23に5人を乗じて、死亡数を115人と推定する、という計算法だ。これが厚労省の通知通り2週間以内に報告が出そろえば大した問題は生じないが、今回のように、1か月以上過ぎても報告がほとんど来ない事態ともなれば大変な問題となる。グラフのあまりの大きな違いに「改竄ではないか」という疑念まで生んでしまう。グラフが大きく変化していた論理はわかった。では、この厚労省結核感染症課の説明は正しいのだろうか。
●根拠の数字は頑なに示さず
 理由を述べたこの論理については、私はもちろん説明を受ける以前から知っていたが、その根拠となる数字については最後まで「公表していない」という返事しか聞けなかった。何月何日にどの保健所が何人の死亡者数を報告という数字をすべて明らかにすれば、先ほど紹介した計算をしてすぐに結果が出るのだが、なぜか明らかにされなかった。「新型コロナに対する超過死亡の数字が重要だということは我々も理解しています」。こう語った梅田感染症情報管理室長は、COVID-19対策が注目されている現在、第2波の襲来が予想されている今年秋までにCOVID-19対策専用の「超過死亡」統計を作ることを私に明言した。しかし、1か月以上経っても、東京都23特別区内にある保健所から死亡者数の報告さえ上がってこない現状で、そのようなCOVID-19対策専用の「超過死亡」統計など作って運用できるのだろうか。井上情報管理係長によれば、保健所は、報告書の死因欄に「肝臓癌」や「肺炎」などと手書きで書き、OCR(光学的文字認識)機械にかけるという。だが、OCRにかけようとパソコンに直接入力しようと、まず「2週間以内」という時間は遅すぎる。「ランセット」はCOVID-19対策のためにリアルタイムでの「超過死亡」数値の活用を訴えている。「ランセット」は、PCR検査による新規感染者数がCOVID-19の感染の勢いを正確に映していない恐れがあるために、単純な「超過死亡」数をリアルタイムで活用することを求めているのだ。PCR検査数が極端に少ない日本にこそ求められるリアルタイム統計だが、「2週間以内」ではあまりに遅すぎるし、コロナ対応に忙殺されていたとはいえ、1か月経っても死亡者数さえ報告されない現行の保健所体制ではまったく意味をなさない。未知のウイルス襲来に忙殺奮闘された保健所職員の方々の努力を軽視しているわけではない。COVID-19のようなパンデミック・ウイルスを迎え撃つ体制としては、保健所には限界があると言っているのだ。
●保健所の仲介をなくせ!
 体制としての保健所の限界は、「超過死亡」統計の問題だけではない。基本的なPCR検査体制については、さらに明確に指摘できる。私自身、発熱してからPCR検査を受けるまでに10日間を要し、指定された保健所に電話しても何日間も繋がらなかった(佐藤章ノート『私はこうしてコロナの抗体を獲得した《前編》保健所は私に言った。「いくら言っても無駄ですよ」』参照)。私のような事例は特別なものではなく、社会的には「検査難民」という言葉まで生まれた。これは文字通り保健所のキャパを超えていることを表している。しかし、例えば、ここで発想を変えて、保健所の仲介をまったくなくしてみたらどうだろう。何か困るようなことはあるだろうか。毎年のインフルエンザの検査は保健所などは通さない。かかりつけの開業医から民間検査会社にまっすぐ検査依頼が行くだけだ。だが、そうなるとPCR検査依頼が殺到して医療崩壊を招きかねないという心配の声が出てくる。その問題の対策には二つの方法が考えられる。まず、COVID-19を感染症法に基づく指定感染症から外して、無症状者や軽症者は医療機関以外の施設に大量に入所できるようにする。次に、韓国が全国69の既存病院をコロナ専用病院に転換させたように、COVIDー19を迎え撃つ医療体制の再構築を進めることだ。
●医系技官の天下り問題
 このような政策転換は努力すれば可能だが、実は問題は簡単ではない。保健所体制の問題には、厚労省や国立感染研などを含む医系技官の人事問題、つまり天下りの問題が絡んでいるからだ。この問題に関しては、医系技官問題を細大漏らさず知り尽くす上昌広・医療ガバナンス研究所理事長が懇切丁寧に解説してくれた。その説明に耳を傾けよう。戦前にできた保健所は元来、徴兵制度のサポートシステムだった。強兵養成のために栄養失調などを事前にチェックする役目を負い、戦後はGHQの下で、性病検査やチフス、コレラ、結核対策に活用された。GHQは保健所長に医師を充てる政策を採り、食中毒取り締まりなどの「衛生警察」の役割も担わせた。このため、保健所は戦後に特殊な権限を持つ役所に生まれ変わり、同時に厚労省の前身である厚生省もGHQの指揮下で、高等文官試験(現在の国家公務員試験)を通らなくても同省の官僚となれる医系技官制度を採用する。この医系技官官僚が独特の人脈を形成し、厚労省と国立感染研、そして保健所や地方衛生研究所との間で独自の人事交流、つまり天下りのネットワークを形作っていく。ところが、保健所そのものは中曽根康弘政権時代以来、行財政改革の主要な標的とされ、その存廃問題が常に医系技官たちのトラウマとなってきた。1990年代のエイズウイルスやO157、あるいは2000年代に入ってからのSARSや新型インフルエンザなどはそのような心配から医系技官たちを解放してくれた。しかし、COVIDー19の場合はPCR検査のキャパがあまりに大きく、放っておくと保健所体制をはるかに超えるPCR検査の流れができてしまう。そうなると、保健所不要論の声がまた大きくなり、再び悪夢の行財政改革の標的とされてしまう。保健所がPCR検査仲介の権限をしぶとく手放さない深い理由はそこにある。
●第2波に備えてPCR検査拡充を!
 中国は5月14日から6月1日の19日間で、武漢市民の「全員検査」を実施し、約990万人にPCR検査を受けさせた。1日あたり約52万人の計算だ。これにはかなり劣るがニューヨーク市は1日あたり4万件のPCR検査が可能になった。翻って日本の場合は、全国で1日あたり2万2000件のPCR検査が可能になったと厚労省が5月15日に発表している。この差は、アイロニカルに表現すれば、まさに安倍首相の言う「日本モデル」から来ている。つまり、日本独特の保健所体制に絡む医系技官の人事問題に由来しているのだ。PCR検査自体は難しい検査ではない。民間検査会社や大学の研究室ではまだまだキャパが余っている。人の手を介さない全自動機械も日本のメーカーが開発製造している。しかし、保健所が検査仲介の権能を手放して検査会社に検査の自由を認めない限り、検査会社も全自動機械などは導入しない。安倍首相は現在のところ、PCR検査拡充を阻むこのような問題に取り組む姿勢を微塵も見せていない。医療体制の再構築なども念頭にはないようだ。このままでは第1波と何ら変わらない体制のまま大きい第2波を迎えることになるだろう。安倍首相は本来、中曽根元首相や小泉純一郎元首相の流れを汲み、積極的な行財政改革に取り組むのではないかと見られていた。トラウマを抱える医系技官人脈にとっては警戒すべき政権だった。ところが、当の安倍首相にはそのような問題意識はまるでないことがまもなく明らかになり、天下りを夢見る医系技官にとっては夢を紡ぐ安全安心の政権と転じることになった。COVIDー19第2波の危機的な状況を前にしても、そのような問題に気が付いている節は安倍首相にはまるで見えない。「第2波の危機を前に、基本的なPCR検査の拡充などはまったく絶望的ですね」。私の問いかけに上昌広・医療ガバナンス研究所理事長は深く頷いた。この記事の筆者であるジャーナリストの佐藤章さん、記事に登場する医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さん、東京都世田谷区長の保坂展人さんをオンラインでつないだ論座主催の公開イベント『「私はコロナから生還した」~感染したジャーナリストが語る検査の実態。医師は、行政はどうする?』を無料で公開しています。新型コロナウイルスに感染した佐藤さんの体験をもとに、医師である上さん、首長である保坂さんがコロナ対策の課題について語り合う内容です。ぜひご覧下さい。

*2-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/610611/ (西日本新聞 2020/5/23) 帰国後に39度の熱…PCRなぜ受けられない? 検査なおハードル高く
 新型コロナウイルス感染が急速に広がった際、自らの症状に不安を感じて行動しながらも、感染の有無を調べるPCR検査を「受けられなかった」という不満がくすぶった。日本は諸外国と比べて検査数が少ないと批判が高まり、政府は検査能力を増強。目標の「1日2万件」を達成したとするが、依然として実際の検査数は半数にも満たない。「次女が急に高熱を出した。もしかしてコロナかもと不安になりました」。福岡県北部に住む男性(61)は5月上旬、留学先のカナダから帰国して間もない次女(23)が39度近い熱を出したと明かす。医療機関4カ所から外来受診を断られ、保健所の相談電話もつながらない。やむなく自宅療養を続けたという。発熱5日目、クリニックの医師が保健所に連絡し、次女はようやくPCR検査を受けた。結果は陰性だったが、男性は「家族は不安で仕方なかった」と話す。次女は内臓疾患と判明した。同様の事例は各地で相次ぎ、相談してもPCR検査まで至らないケースもある。厚生労働省によると、国内のPCR検査能力は3月上旬の1日約4200件から2万3139件(5月17日現在)に伸びた。ただ、実際の検査数は平日で1日5千~8千件ほどで推移する。感染者の減少傾向を踏まえても、検査能力と検査数に大きな隔たりがあるのはなぜか。改めて検証した。 

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200606&ng=DGKKZO60063940V00C20A6EA1000 (日経新聞 2020.6.6) コロナに後遺症リスク 重篤な合併症 治療長期化も 「肺以外に影響」報告相次ぐ
 新型コロナウイルスの感染者が重い合併症を患う症例が、世界で相次ぎ報告されている。心臓や脳、足など肺以外で重篤化するケースが目立つ。世界では300万人近くが新型コロナから回復したが、一部で治療が長期化したり後遺症が残ったりするリスクも指摘され始めた。各国の研究機関は血栓や免疫システムの異変など、合併症のメカニズム解明を急ぐ。
●俳優が右足切断
「きょう右足が切断されます」。米演劇界最高の栄誉とされるトニー賞にノミネートされたブロードウェー俳優、ニック・コーデロさん。新型コロナに感染して4月上旬、集中治療室(ICU)で治療を受けていた。重い肺炎症状に加えて表れたのが、右足の異変だ。血液の塊である血栓が生じ、つま先まで血液が行き渡らなくなった。血栓を防ぐため抗凝血剤が投与されたが、血圧に影響を及ぼし腸の内出血を併発、切断を迫られた。妻はインスタグラムで「ニックは41歳で持病もなかった。どうかみなさん、新型コロナを甘くみないで」と訴えた。新型コロナが肺以外に影響を及ぼす合併症の症例は、欧米をはじめ世界各国で報告されている。原因の一つとみられるのが、ウイルスが血管に侵入して形成する血栓だ。英医学誌ランセットに掲載された研究で、ウイルスが血管の内膜を覆っている内皮細胞を攻撃する証拠を発見。著者の一人、米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のマンディープ・メウラ医師は日本経済新聞の取材に「(攻撃が)心臓や脳、腎臓など複数の臓器で起きている」と指摘する。オランダの医師らの研究によると、新型コロナに感染してICUに入った患者184人のうち、31%で血栓を伴う合併症がみられた。多くが血栓が肺動脈を塞ぐ「肺塞栓症」で、一部の患者は「脳梗塞」も併発した。本来はウイルスの侵入から体を守る免疫システムが、正常な細胞まで攻撃してしまう現象も合併症を引き起こす一因とみられている。この過剰な免疫反応は「免疫暴走」とも呼ばれ、何らかの理由で過剰に反応し臓器や血管を傷つける。乳幼児が発熱や発疹など「川崎病」に似た症状を引き起こすケースも、米国だけで5月中旬までに約200の症例が報告された。
●正常機能戻らず
 重い合併症の広がりは治療の長期化や後遺症リスクを高める。中国・武漢の医者団が新型コロナを克服した25人の血液サンプルを調べたところ、ほとんどが重症度合いにかかわらず正常な機能を完全に取り戻していなかった。国際血栓止血学会は、回復した患者に退院後も抗凝血剤の服用を勧めるガイドラインを発表した。イタリアの呼吸器学会は新型コロナから回復した人のうち、3割に呼吸器疾患などの後遺症が生じる可能性があると指摘。地元メディアによると、少なくとも6カ月は肺にリスクがある状態が続く懸念があるという。「最初の症状から69日が経過したが、倦怠(けんたい)感が残る。目が痛くて断続的な頭痛がある」(カナダの男性)。重症化は免れても後遺症や長期化に悩む人は多い。米ボディー・ポリティックが感染者640人を対象に4月下旬から5月上旬に行った調査によると、9割が完全に回復しておらず、症状は平均して40日間続いていると回答した。もっとも、ウイルスが血栓の形成や過剰な免疫反応を引き起こすメカニズムは解明されていない。メウラ医師は「内皮細胞にどのように侵入するのか、抗凝血剤の投与が役立つのかまだはっきりしていない」と話す。コーデロさんのように抗凝血剤が機能しない場合もあり、医療現場では手探りの治療が続く。米ジョンズ・ホプキンス大によると、650万人を超えた新型コロナの感染者のうち約280万人がすでに回復した。だが治療の長期化や重症化に悩む患者は多く、医療保険など各国のセーフティーネットや医療インフラへの負担も深刻だ。治療薬やワクチンの開発と並び、重症化に至る仕組みの解明や対策が不可欠になる。

*2-5:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72582 (現代 2020.5.17) 東京の3月のコロナ死者、発表の10倍以上?「超過死亡」を検証する、国立感染研のデータから 長谷川学
●「少なすぎる」疑いの目
 5月11日、小池百合子東京都知事は、都の新型コロナ陽性者数公表に関して、過去に111人の報告漏れと35人の重複があったことを明らかにした。保健所の業務量の増大に伴う報告ミスが原因だという。同じ日の参院予算委員会。政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の尾身茂副座長は、「確認された感染者数より実際の感染者数がどれくらい多いか」と聞かれ、「10倍か、15倍か、20倍かというのは今の段階では誰も分からない」と “正直” に答弁した。先進各国に比べ、PCR検査件数が格段に少ないのだから、感染者数を掴めないのは当たり前のことだ。小池、尾身両氏の発言は、いずれも新型コロナの「感染者数」に関するものだ。だが実は、東京都が発表した今年3月の新型コロナによる「死亡者数」についても、以前から「あまりに少なすぎる。本当はもっと多いのではないか」と、疑惑の目が向けられてきた。東京都が初の新型コロナによる死亡を発表したのは2月26日。その後、3月中に8人の死亡が発表されている。この頃、東京都ではまだPCR検査を積極的に行っておらず、2月24日までの検査数はわずか500人余りにとどまっていた。このため「実際は新型コロナによる肺炎で死亡した人が、コロナとは無関係な死亡として処理されていたのではないか」という疑いが、以前から指摘されていたのだ。
●「超過死亡」とは何か
 これに関連して、国立感染症研究所(以下「感染研」)が興味深いデータを公表している。「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」(以下「迅速把握システム」)のデータである。この迅速把握システムは、約20年前に導入された。少し前置きが長くなるが、概要について述べよう。東京(23区のみで都下は対象外)など全国の21大都市における「インフルエンザ」による死者と「肺炎」による死者の数を合計し、毎週、各地の保健所から集計する。この2つの死者数の変化を追うことを通じて、全国のインフルエンザの流行状況を素早く把握しようという狙いだ。なぜ「インフルエンザ」だけでなく「肺炎」による死者もあわせて集計しているのか。例えば、お年寄りがインフルエンザ感染をきっかけに入院しても、そのまま亡くなってしまうケースは少なく、実際にはさまざまな治療の結果、最終的に「肺炎」で亡くなることも多い。そうした死者も漏らさず追跡し、インフルエンザ流行の影響を総合的に捉えようという考え方だからだ。専門的には、このような考え方を「インフルエンザ流行による超過死亡の増加」という。今回注目すべきは、迅速把握システムの東京都のデータ(次ページの図「東京19/20シーズン」)である(注・19/20とは19年から20年のシーズンという意味)。
●インフルは例年より下火だったのに
 図の「-◆-」で示された折れ線は、保健所から報告されたインフルエンザと肺炎による死者数を示している。ご覧のように、今年の第9週(2月24日〜)から第13週(〜3月29日)にかけて、それまでに比べて急増していることが分かる。この急増の原因は、いったい何なのか。この時期、東京ではインフルエンザは流行していなかった。1月、2月のインフルエンザ推定患者数は、前年同時期の4分の1程度。今年は暖冬で、雨も多かったこと、そして国民が新型コロナを恐れて手洗いを良くしていたことも影響したと考えられている。インフルエンザが流行っていなかったのに、なぜ、この時期に肺炎による死者が急に増えたのか。医師でジャーナリストの富家孝氏はこう推測する。「まず考えられるのは、新型コロナによる肺炎死でしょう。警察が変死などとして扱った遺体のうち、10人以上が新型コロナに感染していたという報道もありました。2月、3月は、まだ東京都はPCR検査をあまり行っていませんでした。検査が行われなかったら、当然、新型コロナの死者数にはカウントされません。実際にはコロナによる重症肺炎で亡くなっていた人が、コロナとは無関係な死亡と扱われていた疑いがあります」
●偶然とは思えない多さ
 金沢大学医学部の小川和宏准教授もこう話す。「今年はインフルエンザの感染者数が少なかった上に、2月末から3月末はインフルエンザのピーク(毎年1月末から2月初めの時期)も過ぎている。この超過死亡は、新型コロナによる死亡を反映している可能性が高いと思います」。では、「隠れた死者」は何人いたのだろう。再び図をご覧いただきたい。「超過死亡」とされるのは、図の赤線(閾値)を超えた部分だ。江戸川大学の隈本邦彦教授が解説する。「東京23区内で過去のデータから予測される死者数がベースライン(緑線)です。どうしても年によってバラツキがありますから、そのベースラインに統計誤差を加えた閾値(赤線)を設定し、それを超えた分を “超過死亡” と判定しています。つまり今年は、偶然では起こり得ないほど肺炎の死者が多かったということです。それが5週連続、しかも毎週20人以上というのは異常だといえます」。図のように、超過死亡は今年第9週(2月24日〜)に約20人にのぼった。その後も、第13週(〜3月29日)まで毎週20〜30人の超過死亡が起きていた。合計すると、およそ1ヵ月の間に100人以上。東京都が発表した3月中の新型コロナによる死亡数8人の10倍を超える。
●「原因病原体はわからない」
 データを発表した感染研は、この超過死亡をどう捉えているのだろうか。感染研に質問したところ、「このシステムは超過死亡の発生の有無をみるものですが、病原体の情報は持っておりませんので、その原因病原体が何かまでは分かりません」と、木で鼻をくくったような回答だった。なお感染研発表の過去の東京都のデータを調べると、前シーズン(18-19年)と前々シーズン(17-18年)にも超過死亡はあったが、これについて感染研は「インフルエンザの流行が非常に大きかった」と回答した。なぜ去年の出来事はインフルエンザとわかるのに、今年は不明という回答になるのだろう。とはいえ、この超過死亡が新型コロナによるものかどうかは、遺体がPCR検査もされずに荼毘に付されてしまったいまとなっては、実証する手立てがない。一方、感染研発表の東京都のデータからは、死者数とは別の大きな問題も浮かび上がる。図のように2月24日以降、東京23区で超過死亡が急増していた。新型コロナウイルス発生を中国政府が正式に発表したのは、今年1月9日。同23日には武漢市が都市封鎖された。日本でも1月下旬以降、徐々に感染者が確認され、2月13日には国内初の死者が出て、人口が密集する東京での感染爆発は不可避とみられていた。そうした状況下で、2月24日以降5週間にわたって、人知れず週20〜30人もの超過死亡が確認されていたのである。なぜ、この重大なサインに当局は目を留めず、活かそうとしなかったのか。「原因病原体が何かまでは分かりません」で片づけられる話ではない。
●今にして思えば…
 前出の隈本氏が首を傾げる。「インフルエンザが流行していないのに、2月下旬に東京23区で週に約20人の超過死亡が発生していた事実は、通常なら2週間後の3月上旬には感染研の迅速把握システムに届いていたはずです。その時点で、感染研の担当者や厚労省の専門家会議のメンバーの誰かが気付いて、“東京が大変なことになっているかもしれない” と警鐘を鳴らしていたら、PCR検査態勢の拡充を含め、より早期の対応が可能だったはずです」。だが実際には、小池東京都知事が新型コロナ対策で本格的に動き始めたのは、3月24日に東京オリンピックの延期が正式に決まってからだった。そして東京都の新型コロナ感染者数は、先に感染が広がった北海道に比べてずっと少なかったのに、東京オリンピック延期が決まった後から、急激に右肩上がりで増えていった。「もし2月下旬に発生し始めた週20人以上の超過死亡が新型コロナのためだとなると、その時点でオリンピックどころではなくなったでしょう。しかし、もしそうした “忖度” のために、税金を使って集めている迅速把握システムが捉えたデータが生かされなかったとしたら、何のためのシステムなのか。東京都や国の責任は重いと思います」(隈本氏)。なぜこの貴重なデータが早期に検証され、コロナ対策に生かされなかったのか。今後、経緯を厳しく検証していく必要があるだろう。

<病院への新型コロナの一撃>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200522&ng=DGKKZO59429720S0A520C2EA1000 (日経新聞 2020.5.22) コロナ禍で通院激減 「不要不急」が問う医療、医療資源、最適配分に一石
 新型コロナウイルスが猛威をふるい始めてこの方、私たちは「不要不急」という言葉を幾度となく聞かされてきた。この四字熟語は医療にもあてはまるのだろうか。企業の健康保険組合と協会けんぽ、公務員などの共済組合や船員保険を合わせた被用者保険の3月の医療費動向が判明した。総額は1兆1257億円、患者が医療機関にかかった件数は9415万件。前年同月と比べると、医療費の1.3%減に対し、件数は11.5%減と大きく落ち込んだ。何が読み取れるか。
●風邪なら自力で
 3月は初旬こそ外出を自粛する空気は強くなかったが、半ば以降はイベントや会合の中止が相次いだ。通院の見合わせや先送りをする患者が目立ちはじめたのは、この頃だ。こんな仮説は成り立たないだろうか。軽い風邪や腹痛、花粉症などにかかった人は通院を控え、薬局で薬剤師や登録販売者に相談し処方箋がなくても買える一般用医薬品(OTC医薬品)でしのいだ。従来は地域の診療所や病院の外来診療に頼っていた軽い病の治療が、自分で手当てをするセルフメディケーションに取って代わった。感染症の専門家は軽い風邪症状の人には自宅療養を呼びかけていた。手洗いや消毒の徹底による予防効果もあろう。一方、高度医療を提供する大学病院や専門病院は、高額な医療費がかかる治療をさほど減らさなかった。この結果、件数の急減に対し医療費はさほど減らなかった―。医療関係者の多くは、医療に不要不急はあり得ないという。慢性疾患を抱えた高齢者には、待合室で長時間すごすのを避けようと、通院を見合わせた人もいる。それが原因で病状が重くなることがあってはなるまい。半面、自らの体調を知り、調子が悪ければ自己判断・自己負担で薬をのんで治すのも医療のひとつのかたちだ。「不要」ではなくとも受診が「不急」であるケースはあろう。健康保険証があれば医療機関へのアクセスが原則自由な日本は、主要国で最も医師にかかりやすい国のひとつだ。早期治療を促す利点があるが、そのぶんコロナ禍による受診抑制を招きやすいのではないか。英国営医療制度(NHS)が採用した人工知能(AI)診断アプリのようなしくみを日本でも保険適用すれば、受診抑制による治療の遅れをくい止める効果が期待できよう。むろん同国とは医療費の負担構造が違うので、一概には比べられないが。
●病院経営に影響
 注目すべきは緊急事態宣言下の4月の動向だ。厚生労働省は重篤・重症のコロナ感染者を受け入れ専門治療にあたっている大学病院などに対し、特例としてICU(集中治療室)の入院料を2倍に上げた。だが採算は改善せず、コロナ対応病院の経営はおしなべて苦しい。隔離用の陰圧病室を新設したり空き病床を確保したりするコストがかさむからだ。政府・与党が編成に着手した2020年度第2次補正予算案は、コロナ対応病院への資金援助が欠かせまい。地域の診療所などはどうするか。日本医師会は2次補正に資金援助を計上すべく厚労省への働きかけを強めている。省内には初診・再診料の加算を模索する動きがある。セルフメディケーションへの移行や予防の徹底が効いているとすれば、医療機関の減収分をほかの患者や健康保険が負担する診療報酬で補填するのは筋が通るまい。診療報酬を上げるなら、オンラインの初診・再診料を増やし、コロナ後も見すえた新しい医療態勢に誘導するのが望ましい。4月に入り、規模の大きな総合病院にも、外来患者が急減したり不急の手術を先送りしたりし、収入の落ち込みが目立つようになったところがある。コロナ禍という特異な状況のもとで、専門性や診療科の違いによる繁閑の差が広がっている。軽症のコロナ感染者は感染予防を徹底させた地域の診療所で治療する選択肢もあろう。そのための設備や資材を国費で援助するのは、納税者の納得を得やすい。人材配置を含め、医療資源を最適配分するにはどんな資金援助が効くか。データをつぶさに読み取り、根拠に基づく政策立案を徹底するときである。

*3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200606&ng=DGKKZO60069950V00C20A6EA3000 (日経新聞 2020.6.6) 新型コロナ 政策を聞く〈検査体制〉民間機関、参入しやすく 自民・医師議員団本部長 冨岡勉氏(長崎大院修了。医学博士。衆院厚労委員長など歴任。党政調副会長。石原派。衆院比例九州、71歳)
 日本は米欧や中韓に比べ検査体制の整備が遅れた。第2波が起こりかけた時に正確に把握できるよう体制の拡充が急務だ。再流行の予兆を感知したらすぐにクラスター(感染者集団)対策を強化し、小さな流行に抑えるためだ。これまで過剰に検査せず医療費を抑えた面はあったが、再流行の兆しをつかめずに大規模な感染拡大につながればかえって医療費は増える。PCR検査の体制を強化するには米国や韓国で普及するドライブスルー方式の検査センターを増やす必要がある。短時間で検体を採取できるため効率がよい。病院で医師や患者が集団で感染するリスクを減らせる。ドライブスルー方式は日本の医師会や自治体で導入が増え始めている。政府は民間の検査機関が参入しやすくなる支援策を講じてほしい。PCR検査に類似し最短2~3時間で終わる簡易な「LAMP法」もドライブスルー方式で導入すべきだ。無症状者らを対象にコロナの感染の有無を一定の精度で早く判定できると期待する。抗原検査や抗体検査は学会で診断の評価が十分に定まっていないため、明確な症状がある人らに対象を限るのが望ましい。無症状者らが診断後にPCR検査も受けたら二度手間になる。

*3-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?b=20200606&c=DM1&d=0&nbm=・・ (日経新聞 2020.6.6) PCR遅れ 国会検証を 立民・幹事長 福山哲郎氏(京大院修了。民主党政権で外務副大臣や官房副長官など歴任。参院京都選挙区、58歳)
 感染の実態を十分把握しているとは言いがたい。検査のために保健所などに設置した帰国者・接触者相談センターは電話がつながらないケースが相次いだ。「37.5度以上の発熱が4日以上続く」とした受診目安も壁となった。軽症、無症状者を含めた感染者数の全体像を把握しなければ必要な対策は打てない。PCR検査を増やすべきだ。ドライブスルー方式は院内感染を防ぎ、検査数を増やせるメリットがある。韓国やドイツなどではドライブスルー方式を2~3月に導入した。感染者を早期に発見し隔離することで感染防止につなげようとしたのだろう。日本も自治体が積極的に導入したのは評価できる。国が経費を負担するのが不可欠だ。第2波に備え、抗体検査も組み合わせ検査数を増やしていくのが欠かせない。妊婦や医療従事者、教員などに優先的に受けさせるべきだ。屋外拠点や電話ボックス型の検査ブースの活用も有効だろう。医療機関とは空間を別にして数多く検査ができるシステムを開発せねばならない。PCR検査がなぜ進まなかったのか十分な検証が必要だ。国会にコロナ問題検証委員会を設け、要因を分析すれば今後の検査拡充につながる可能性がある。(随時掲載)

*3-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14502069.html (朝日新聞 2020年6月5日) 病院再編、感染症考慮
 厚生労働省が再編統合の必要性を打ち出した全国の公立・公的病院について、安倍晋三首相は4日の参院厚生労働委員会で「感染症病床を担い、感染症対策において重要な役割を果たしていることは認識している」と述べ、今後は感染症対策も考慮して議論を進める方針を示した。厚労省は昨年9月、再編統合の必要があるとして424の公立・公的医療機関を名指ししたが、感染症病床の有無などは考慮していなかった。しかし、新型コロナウイルスの患者を多く受け入れている感染症指定医療機関の多くは公立・公的病院で、病院団体などから見直しを求める意見が示されていた。

*3-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14496109.html (朝日新聞 2020年5月31日) 医療担い手、待遇悪化 ボーナス3分の1に/給料10%減… コロナ恐れ受診減
 新型コロナウイルスで、医療や介護の働き手の待遇が悪化している。感染対策のコストがかさみ、患者や利用者が減って、経営が揺らいでいるためだ。一時金をカットせざるを得ない病院や施設も相次ぐ。国は医療・介護従事者へ最大20万円を配る予定だが、減収分を補うのは難しい。一部では雇い止めや、休みを指示する一時帰休などもみられ、雇用をどう守るかも課題だ。医療機関のコンサルティングを手がけるメディヴァによると、一般の患者が感染を恐れて受診を控える動きがめだつ。同社が全国約100の医療機関に感染拡大の前後で患者数の変化を聞いたところ、外来患者は2割強、入院患者は1~2割減った。首都圏では外来は4割、入院は2割減。とくにオフィス街の診療所では、在宅勤務の定着で会社員らの患者が落ち込む。メディヴァの小松大介取締役は「非常勤医師の雇い止めも出ている。夏のボーナス支給見送りを検討している施設も散見される」と話す。実際、看護師らの給料や一時金が下がるケースが続出している。日本医療労働組合連合会(医労連)が28日にまとめた調査では、愛知県の病院が医師を除く職員の夏の一時金を、前年実績の2カ月分から半減させることを検討。神奈川県の病院では夏の一時金カットに加え、定期昇給の見送りや来年3月までの役職手当の2割カットなどを検討しているという。医労連の森田進書記長は「職員の一時金1カ月分はだいたい30万円。コロナ患者を受け入れている医療機関の勤務者には最大20万円が支給されることになったが、賃下げ幅が上回る可能性がある」と話す。職員の夏の一時金を、当初想定していた額の3分の1に引き下げる病院もある。埼玉県済生会栗橋病院(同県久喜市、329床)は、新型コロナの入院患者も受け入れている。4月の病院収入は前年同月より15%減で1億2千万円減った。院長は経営環境について「つぶれるんですか、というレベルだ」と打ち明ける。看護師や臨床検査技師ら職員の夏のボーナスについて、感染拡大前に想定した額の3分の1にまで減らさざるを得ないという。全国医師ユニオンが都内で16日に開いたシンポジウムでも、懸念の声があがった。千葉県内の民間病院に勤める研修医は「すでに給料が10%カットされた病院もある。現場でのストレスが強くなるなかで給料まで下がったら、もうやっていられないという人も出てくる」と訴えた。大病院のなかには、業務が減っている一部の職員について、一時帰休を検討するところも出てきた。今後予想される「第2波」に向け、医療従事者の雇用の安定が求められる。
■経営、もともと脆弱
 背景には、感染拡大前から病院がぎりぎりの経営を強いられ、脆弱(ぜいじゃく)だったことがある。病院の収入は診療報酬制度に基づく。手術や入院などの診療行為ごとに値段(点数)が決められている。国は医療費が膨らみすぎないように点数を抑制してきた。厚労省の医療経済実態調査によると、精神科を除く病院の2018年度の損益率(収入に対する利益の割合)は、マイナス2・7%の赤字。利益を出しにくい構造で、患者が少しでも減れば経営が揺らぐ。介護の分野でも構造は同じ。国が定める介護報酬も抑制されていて、事業者には余裕が少ない。感染対策の費用がかさむ一方で、サービスの利用者が減り経営を圧迫している。国は診療報酬の上乗せやデイサービスの条件緩和など対策をとろうとしているが、実態の把握は十分ではない。厚労省の医療経営支援課は「病院団体が調べたデータなどを踏まえて経営支援に何ができるか考えていく」という。
■病院や介護施設における待遇悪化の主な事例
【病院】
 <愛知> 医師以外の固定給職員の夏の一時金が前年から半減の1.0カ月分
 <沖縄> 正規、臨時職員の夏の一時金が前年の約3割減の0.8カ月分
 <神奈川> 定期昇給見送り。正規職員の夏の一時金が前年の約3割減の
       1.0カ月分+3万円。6月から来年3月まで役職手当2割カット、
       管理職手当1割カット
 <東京> 一部の職員に一時帰休を実施
【介護施設】
 <和歌山> 夏の一時金が前年の約2割減の1.5カ月分
 <神奈川> 基本給を平均約2割減らし、定昇は見送り。年間一時金が前年から
       半減の2.0カ月分
 (日本医療労働組合連合会調べ。労使交渉は継続中で支給内容は変わる可能性がある)

<新型コロナの経済対策>
*4-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/526293 (佐賀新聞 2020.5.23) コロナ解雇1万人超
加藤勝信厚生労働相は22日の記者会見で、新型コロナウイルス関連の解雇や雇い止めが21日時点で1万835人に上ったと明らかにした。政府が緊急事態宣言を発令した4月から急増し、5月だけで全体の7割近い7064人を占める。雇用情勢が急速に悪化している実態が浮き彫りになった。厚労省は2月から、解雇や雇い止めについて見込み分も含めて都道府県労働局の報告を集計している。月ごとに見ると、2月が282人、3月が835人、4月が2654人。5月は20日時点で5798人だったが、21日には7064人となり、千人以上増えた。加藤氏は「日を追うごとに増加している」と懸念を示した。業績が悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給する雇用調整助成金などを利用して、雇用維持に努めてほしいと強調。大規模な解雇や雇い止めの情報を把握した場合は「ハローワークの職員が企業に出向き、雇用調整助成金の活用を働き掛ける」と述べた。厚労省は解雇や雇い止めの集計に関し、現在は正社員と非正規労働者を区別しておらず、加藤氏は「(今後は)正社員と非正規労働者の動向が分かるよう事務方に指示している」と語った。パートら非正規労働者は正社員に比べて解雇されやすく、労働組合関係者の間では派遣社員の大量雇い止めなどへの懸念が広がっている。

*4-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/528535 (佐賀新聞 2020.5.29) 観光割引、事務費が3000億円、「高すぎる」と野党が問題視
 新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた観光・飲食業を支援する政府のキャンペーンを巡り、外部への事務委託費が最大約3千億円と見込まれることが分かった。予算総額1兆6794億円の約2割を占める可能性があり、立憲民主、国民民主などの野党会派が29日開いた合同部会では「事業者に恩恵が行き届かない恐れがある」と問題視する声が出た。政府は新型コロナの収束を見据え、本年度第1次補正予算にキャンペーン費用を計上。旅行商品を購入した人に半額相当を補助したり、飲食店のインターネット予約などにポイントを付与したりする。事務作業は外部に委託するが、費用の上限は3095億円に設定。人件費、広報費に充てることを想定している。事務局の公募を既に開始、6月中に選定する。赤羽一嘉国土交通相は29日の衆院国交委員会で、関係業界が多岐にわたるため、事務局の作業は「時間とコスト、手間が相当かかる」と指摘。上限額の設定は適正との認識を示した。その上で、最終的な委託費用は「絞られる」とも述べた。野党の会合では「事務局への費用がかかりすぎると、本当に必要な事業者の支援が不十分になる」「地域の消費を喚起できるような仕組みにしてほしい」といった意見が出た。

*4-3:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14496375.html (朝日新聞 2020年6月1日) 布マスク「質より量」、迷走 政府、早さ重視 国内検品断る
 4月1日の安倍晋三首相の全戸配布の表明から2カ月。いまだ大半の世帯に届いていない「布マスク」は、安倍政権の迷走の象徴となっている。マスク不足の中、調達の現場ではなにが起きていたのか。「3月中に1500万枚、4月中に5千万枚ほしい」。2月後半、最大の受注企業となる「興和」(名古屋市)の三輪芳弘社長は政府からの依頼に驚いた、と振り返る。枚数の桁が違った。「量ですか、質ですか」。納期を考えて優先事項を尋ねる三輪氏に政府の担当者は言った。「量だ。とにかく早くほしい」。医薬品や衛生品などをつくる同社が生産するマスクは不織布の使い捨てが主流だったが、布マスクも少数ながら取り扱っている。政府は生地の調達を含めて一貫した生産ができるとみて依頼した。だが、この時点で、政府の担当者も同社も、のちに「アベノマスク」とも言われる全戸配布の布マスクになるとは想像していなかった。課題は山積みだった。ガーゼの生地は中国やベトナム、スリランカなどアジア各国で探し、かき集めた。ただ、その時点では政府の発注書もない、いわば「口約束」だった。つくった布マスクを政府が買い取るという確約もない中で作業は始まった。生地はタイとインドネシアで加工。縫製は中国の加工業者に依頼し、約20カ所を確保した。2週間で急きょ集めた作業員は計1万人以上。日本人社員は感染を避けるため赴任先から帰国させており、日本語が分かる現地スタッフを通じて加工業者らとやりとりした。これとは別に検品場所も中国で約20カ所探し、ピーク時には数千人が作業にあたった。同社は当初、品質を担保するため国内での検品を強く希望。しかし、同社の国内検品は1ミリ程度の縫い目のずれすら不良品として取り除くというもので、「それでは期日までに目標の半分も調達できないおそれがあるということで、政府側が断った」(政府関係者)という。同社は日本から検品の担当者を現地に行かせ、監督させようとしたが、出入国制限などのため断念した。こうした経緯は異例の契約にもつながった。3月17日に結ばれた介護施設など向けの布マスク、21・5億円分の契約書には、隠れた不具合が見つかっても興和の責任を追及しないとの条項が入った。配布計画を担う政府のマスクチーム担当者は「緊急を要する発注だったためにこのような契約を結んだ」と話す。縫製作業が始まったのは3月21日ごろ。同月26日、三輪氏は首相官邸で開かれた会議に出席。最初につくったサンプルを持参した。首相が全世帯に2枚ずつ布マスクを配ると表明したのは、その6日後だった。布マスク計画に関わった政府関係者は言う。「マスクが国民に行き渡るようにしろ、というのが官邸の意向だったが、これほどの量を短期間で確保するなんて元々厳しい目標だった」。前例のない計画に、やがてほころびが出た。

<介護崩壊>
*5:ttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20200508/k10012422701000.html (NHK 2020年5月8日) 新型コロナで“介護崩壊”の危機? 高齢者施設で いま何が
 老人ホームなどの入所系の高齢者施設で、4月末までに少なくとも550人余りが新型コロナウイルスに感染し、このうち10%にあたる60人が死亡したことが全国の自治体への取材でわかりました。欧米では死者の多くを高齢者施設の入所者などが占めていて、専門家は「日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがあ

(図の説明:左の図は米国、中央の図はフランスの超過死亡数のグラフで、このような事態の中で、山形の超過死亡数が出るのは極めて自然なのだが、右図のように、日本はこれまでカウントしていた超過死亡数の公表を3月以降、中止している)

(1)医療崩壊を加速させた消費税制 ← 医療費を消費税非課税取引とした失政
る」と指摘しています。
●高齢者施設関連 国内死者の15%
 新型コロナウイルスの感染が先に深刻化した欧米では、死亡した人の多くを高齢者施設の入所者などが占める事態となっていて、NHKは全国の自治体に4月末時点での高齢者施設での感染状況を取材しました。その結果、特別養護老人ホームや老人保健施設、それに有料老人ホームやグループホームなど入所系の高齢者施設では、少なくとも利用者380人余り、職員およそ170人の合わせて550人余りが感染し、このうち10%にあたる利用者60人が死亡していたことがわかりました。このほか、デイサービスなどの通所系施設やショートステイなどの短期入所系施設でも利用者と職員合わせておよそ190人が感染し、このうち利用者6人が死亡していたほか、訪問介護事業所でも利用者と職員だけで合わせて30人余りが感染していました。さらに愛知県では、デイサービスに関連して2つのクラスターが発生し、利用者と職員、それに利用者の家族や接触者などを含めて合わせて90人余りの感染が確認され、このうち20人が死亡しています。これらをすべて合わせた高齢者施設関連の死者は少なくとも86人で、国内で感染が確認され死亡した人のおよそ15%を占めています。
●感染拡大が続く高齢者施設
 各地の高齢者施設では5月に入ってからも利用者や職員の間で感染が広がり続けています。
▽札幌市の介護老人保健施設
  集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて30人の感染が明らかに。
▽京都市内2つの有料老人ホーム
  利用者と職員、合わせて12人の感染が確認。
▽千葉県市川市の介護老人保健施設
  集団感染が発生。新たに利用者と職員合わせて3人の感染が明らかに。(いずれも7日
  までの1週間)。感染者が出たことを受けて休業を余儀なくされている施設も出ています。
  福島県古殿町の介護施設では、5月3日にデイサービスを利用している90代の女性の
  感染が確認されたため、14日まで休業する措置をとり、消毒作業を行いました。
●なぜ消毒難しい? 特有の事情とは
 新型コロナウイルスの感染者が出た高齢者施設の消毒作業を手がけている団体が、認知症の高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画を公開し、入居者の一部が部屋にとどまったまま作業をせざるをえない高齢者施設特有の難しさを証言しました。消毒作業を手がける全国の24の企業で作る団体「コロナウィルス消毒センター」は、依頼者の許可を得て、4月13日に北海道千歳市にある認知症のある高齢者が入居するグループホームで行った消毒作業の動画をインターネットの動画投稿サイトで公開しました。3階建ての建物の中にあるこのグループホームは、1階の入居者と職員の合わせて10人が感染し、このうち入居者1人が死亡しました。センターによりますと、感染していない入居者は避難できる場所がないため部屋にとどまっていました。このため、まず感染者が出た1階の消毒作業を行い、次に2階の入居者を消毒が済んだ1階に移して2階の消毒を行うといった形で、各階ごと順番に作業を進めなければならなかったということです。消毒作業は、次亜塩素系薬剤、アルコール製剤、それに抗菌剤をそれぞれ噴霧するなどして拭く三段階の方式で行い、共有スペースや入居者の個室のほか、布団などを含め部屋に置かれているすべての物を念入りに消毒したということです。コロナウィルス消毒センター事務局の春日富士さんは「グループホームの運営会社の代表は、消毒を依頼する電話をかけてきた際、開口一番『助けてください』と話し、非常に切迫した様子だった。高齢者施設の場合、感染していない入居者はその場所に残るという選択肢しかなく、入居者も職員も不安を感じている。特に職員は非常に疲弊している印象を受けた」と話していました。
●対策も防ぎきれぬ
 集団感染が発生した高齢者施設の中には、感染者が全員入院し再発防止策が取られて事態が収束に向かったと見られていたのに、再び感染者が出たケースもあります。東京 大田区の特別養護老人ホーム「たまがわ」では、4月1日に職員の感染が明らかになり、入所者79人と職員52人がPCR検査を受けました。その結果、職員は全員陰性でしたが、入所者12人の感染が確認されました。しかし、入院先はすぐに確保できず、数十キロ離れた武蔵野市や立川市などまで範囲を広げて病院を探し、ようやく1週間後に感染した入所者全員が入院できました。それまでの間は、感染した入所者を一部の部屋に集め、医療機関で使うような防護服がない中で、簡易的な予防衣を着てゴーグルと手袋をつけて食事や排泄の介助などを続けました。感染者が出たため、作業を委託していた清掃や給食、それに警備の会社が従業員を派遣できなくなり、施設内の清掃なども職員がやらざるを得ない状況になったということです。施設を運営する社会福祉法人「池上長寿園」の杉坂克彦常務理事は、「感染した入所者が入院するまで1週間もかかるとは思わなかった。感染に気をつけながら1日中入所者の介助をして、職員は精神的にも肉体的にも、かなり疲弊していた」と話しました。保健所からは、調査の結果、現段階で感染経路はわかっていないと連絡があったということです。その後、施設内の消毒を行うとともに、食堂でとっていた食事を居室でとるように変更するなど、感染防止策を徹底しましたが、感染した入所者が全員入院してから1週間余りたち事態が収束すると思われた4月18日、新たに職員1人の感染が確認されました。さらに12日後の先月30日、今度は入所者1人の感染が確認されました。この入所者の濃厚接触者と判断された入所者3人は、症状が出ていないとしていまだにPCR検査を受けられず、施設内で隔離する対応を続けているということです。杉坂常務理事は、「通常の体制に戻そうかと考えていた矢先に、職員と入所者の感染が新たに判明し、まだ続くのかと感じました。感染防止策をさらに徹底していくが、これ以上施設内で感染を広げないためにも、防護服の確保やPCR検査の拡充を進めてもらいたい」と話していました。
●欧州 死者の半数近くが介護施設で暮らす人
 日本よりも先に新型コロナウイルスの感染が深刻化した欧米では、死亡した人の多くを高齢者施設の入所者などが占める事態となりました。感染者や死者が最も多いアメリカでは、ジョンズ・ホプキンス大学のまとめで、これまでに7万3000人余りが死亡しています。高齢者施設での死者をまとめている民間の財団によりますと、情報が公開されている23の州の高齢者施設だけで、合わせて1万人以上が死亡したということです。このうちおよそ半数が、死者数が最多のニューヨーク州に集中していて、今月4日までに5000人近くが高齢者施設で死亡したとみられています。こうした状況はヨーロッパも同じで、死者3万人余りとアメリカに次いで死亡した人が多いイギリスでは、当初集計が困難だとして統計に含めていなかった高齢者施設など病院以外の場所で死亡した人を含めるよう変更した結果、死者数が4400人余り増えました。フランスではおよそ7000ある高齢者施設の半分近くで感染者が確認されていて、2万5000人を超える死者のおよそ4割、9600人余りが高齢者施設で死亡しています。ドイツでも7000人を超える死者のうち少なくとも2500人が高齢者向けなどの福祉施設で死亡していました。WHO=世界保健機関のヨーロッパ担当の専門家は4月23日の会見で「各国の推計によると、ヨーロッパで亡くなった人の半数近くが長期滞在型の介護施設で暮らしていた人たちだと見られる」と指摘しています。
●専門家「日本でも感染者や死者 さらに増えるおそれ」
 国内の高齢者施設での感染状況について、高齢者の介護や施設に詳しい東洋大学の早坂聡久准教授は「現段階でも大変高い死亡率になっていると受け止めているが、欧米では死者に占める高齢者施設の入所者の割合が高いことを考えると、日本でも感染者や死者がさらに増えていくおそれがある」と指摘しました。そのうえで今後の対策について「今は医療崩壊を招かないよう病院については大変多くの対策がとられているが、介護施設はどうしても二の次になっていて、感染が広がっている中でも具体的な支援策が十分講じられていないのが現状だ。国や自治体は最低限、マスクや消毒液、防護服の確保など、感染を拡大させないための手当てをしたうえで、職員や入所者が早い段階でPCR検査を受けられるようにするとともに、施設内で集団感染が発生しても介護の質が落ちないよう職員のバックアップ体制を作る方策を早急に考えていく必要がある」と述べました。そして「介護崩壊を起こさないよう、長期的に新型コロナウイルスがある生活の中で介護サービスを維持していく仕組みを検討していくべきだ」と話しました。
●老人保健施設でクラスター いったい何が 富山
 人口10万人当たりの新型コロナウイルスの感染者が全国で3番目に多い富山県。富山市の老人保健施設で発生したクラスターが、220人近くいる感染者の4分の1以上を占めています。この施設では入所者だけでなく施設の職員の感染も相次ぎ、“介護崩壊”直前の状況になっていました。富山市の老人保健施設「富山リハビリテーションホーム」では、4月17日に入所者の感染が初めて確認されて以降感染が広がり、これまでに入所者と職員合わせて58人が感染、このうち入所者8人が死亡しています。施設には県から、診療や感染拡大の防止にあたる医療チームが派遣されていて、このうちの1人、富山大学附属病院の山城清二教授がNHKの電話インタビューに応じました。山城教授は4月23日と24日に施設内を視察したあと、25日から診療にあたり、入所者の健康状態を確認したうえで重症者を搬送するなどの対応をとったということです。施設で勤務している介護士や看護師にも感染が広がったため、5人程度の職員で40人余りの入所者のケアに当たっていたということで、山城教授は「非常に少ない人数で対応していてケアが行き届いていなかった。“介護崩壊”直前のぎりぎりのところでやっていて、あと1人職員が感染すれば完全に崩壊していた」と指摘しました。施設には介助が必要だったり認知機能が衰えていたりする入所者も多くいますが、深刻な人手不足のため、最低限の食事や水分をとらせるだけで、着替えをしたり体を拭いたりすることはほとんどできていなかったということです。“介護崩壊”を防ぐため、富山市などが富山県内の老人介護施設でつくる協議会に対して介護士の派遣を要請した結果、今月2日以降介護士と看護師合わせて6人が応援に入り、体を拭くなどのケアをカバーできるようになって、状況は徐々に改善されているということです。
●症状相次いでも 適切な対応とらず…
 一方、この施設では、入所者の間で発熱などの症状が相次いだ後も適切な対応を取らなかったことや、多くの入所者が相部屋を利用するなど感染が広がりやすい構造がクラスターを引き起こしたとみられることが市の関係者への取材で分かりました。市の関係者によりますと、この施設では入所者の間で発熱などの症状が相次いだあとも感染を疑わず、保健所に相談してPCR検査を受けさせるなどの適切な対応を取っていませんでした。施設で最初に感染が確認された80代の女性のケースでは、4月7日に熱が出て、10日にはしゃがれ声、13日にはせきやたんといった症状も出ていましたが、症状が悪化して救急搬送された指定医療機関でPCR検査を行ったのは、発熱の9日後の16日でした。女性と同室だった90代以上の入所者は、4月9日に熱が出て、14日にはせきやたん、しゃがれ声の症状も出ていましたが、指定医療機関に搬送されて検査を受けたのは16日でした。この女性は翌日に死亡し、その後、感染が確認されました。さらにこの施設では、入所者の多くが相部屋で、部屋や風呂を共同で利用するなど、感染が広がりやすい構造になっていることがクラスターを引き起こしたとみられることも分かりました。
●高齢者施設は どうすればいいのか?
 感染症が専門の厚生連高岡病院の狩野惠彦医師は、高齢者が入所する施設の中で感染が広がるリスクについて「人と人との距離が近く接触度の高い生活をしているので、一度ウイルスが持ち込まれるとクラスターが発生しやすくなる。感染が収束に向かうような流れがあっても、最後の最後まで気が抜けない環境であることに変わりはない」と指摘しています。そして、施設内で感染者や疑わしい人が出た場合は、個室に移動させて隔離し対応する介護職員を限定することや、入所者や職員が食事する際、換気のいいところでなるべく離れて食べるといった対応を速やかにとることが大切だとしています。一方で、人手や施設の構造など施設ごとの事情があるとしたうえで「個室が難しければ、カーテンで仕切ってそこから出ないようするなど、感染リスクを下げるために与えられた環境で可能な対応を考えていく必要がある」と話しています。そのうえで、今後高齢者が入所する施設の中でクラスターを防ぐために必要なこととして「クラスターの発生には1つのことが理由になっていることもあれば、いくつかの事情が重なっていることもある。海外や国内で起きた事例から学んで、対策の見直しを行うことが求められる」と話しています。

<年金崩壊>
*6:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14494753.html?iref=comtop_shasetsu_01 (朝日新聞社説 2020年5月30日) 年金改革 残る課題の検討を急げ
 年金改革関連法が成立した。非正規雇用で働く人たちに厚生年金の適用を広げることなどが柱だ。適用拡大は長年の懸案で、今回の見直しは半歩前進だ。ただ、積み残しとなった課題も多い。制度の安定と将来不安解消のため、次の改革に向けた議論を急がねばならない。雇われて給料をもらう人は厚生年金に入るのが原則だ。しかしパートなどで週の労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者は、「従業員数501人以上」の企業で働く人にだけ加入を義務づけている。この要件を22年10月に「101人以上」、24年10月に「51人以上」に改める。約65万人が新たに厚生年金に加入すると見込まれる。本人の年金が充実するのに加え、厚生年金の支え手が増え、年金財政の改善にもつながる。新たに保険料の負担が生じる中小企業への支援、当事者への丁寧な説明を通じて理解を得つつ、着実に進めたい。そもそも厚生年金に加入するかどうかが、勤め先の規模で異なるのは不合理だ。野党は24年10月に企業規模要件をなくす修正案を提出し、安倍首相も「撤廃を目指すべきだ」と述べた。にもかかわらず今回、廃止時期を示せなかったのは遺憾だ。いつまでにこの要件を撤廃し、それを実現できる環境をどのように整えるのか。議論を深める必要がある。コロナ禍で経済が打撃を受け、今後の景気の動向は見通しにくい。年金制度は、少子高齢化の進行に合わせて給付を抑える仕組みで収支を均衡させることになっている。ただ、今は物価などに連動して給付が伸びるのを抑えるやり方のため、デフレが続くとこの機能が働かない。しわ寄せを受けるのは、将来年金を受け取る世代だ。全ての世代で痛みを分かち合いながら、どのような経済環境になっても年金制度が揺るがないようにするには、この仕組みの見直しが避けられない。参院では、コロナ後の経済・社会の動向も踏まえた年金財政の検証を求める付帯決議がつけられた。作業の前倒しも含め、検討を急ぐべきだ。昨年の財政検証では、国民年金の加入期間を40年から45年に延長すると、基礎年金の底上げ効果が大きいという試算も示されたが、これも付帯決議で、今後の課題として先送りされた。政府・与党内で、基礎年金の半分を賄う国庫負担分の財源確保の議論が進まないためだ。今は65歳まで働くことも一般的になっており、見直しは待ったなしだ。財源の議論も含め、これ以上の先送りはできない。

<日本における経済分析の問題点>
*7-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202005/CK2020051802000225.html (東京新聞 2020年5月18日) <新型コロナ>GDP年3.4%減 2期連続マイナス 1~3月期
 内閣府が十八日に発表した二〇二〇年一~三月期の国内総生産(GDP、季節調整値)速報値は、物価変動の影響を除いた実質成長率が前期比0・9%減、このペースが一年続くと仮定した年率換算では3・4%減だった。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が緊急事態宣言を発令する前だが、外出自粛で個人消費が低迷。訪日外国人客の減少も響き、約四年ぶりに二・四半期連続のマイナス成長となった。項目別に見ると、GDPの六割近くを占める個人消費が前期比0・7%減。政府による二月末のイベント自粛要請で「自粛ムード」が広がったため、外食や宿泊に関連した消費が落ち込んだほか、自動車や衣服の消費も振るわなかった。外食や宿泊などのサービス消費額は今回、外出自粛の影響をより正確に反映させるため、業界統計を基に推計する異例の手法を採った。従来は一~二月の実績から三月分を推計していたが、これではサービス消費が急減した状況を織り込めず、実態と懸け離れると判断した。輸出は6%減で一一年四~六月期以来のマイナス幅。統計上は輸出にカウントされる訪日客の消費が減り、世界経済の減速で半導体製造装置の出荷が滞ったことも響いた。一方、輸入も国内消費の弱さを背景に原油や天然ガスの減少などで4・9%減となった。企業の設備投資は0・5%減。新型コロナ感染拡大の収束が見通せない中、先行きの不透明感から投資を先送りする企業が増えたとみられる。住宅投資も4・5%減った。この他、物価の変動を反映し、生活実感に近いとされる名目GDPの成長率は0・8%減。年率で3・1%の減少となり、実質と同じく二・四半期連続のマイナスだった。一九年度のGDPは、実質が前年度比0・1%減と五年ぶりにマイナス。名目は同0・7%増と八年連続のプラスだった。

*7-2:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/525813 (佐賀新聞 2020年5月22日) 消費者物価が3年4カ月ぶり下落、4月0・2%、コロナで原油安
 総務省が22日発表した4月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月より0・2%下がり101・6だった。下落は2016年12月以来、3年4カ月ぶり。新型コロナウイルスの感染拡大による原油価格の急落や個人消費の低迷が押し下げ要因となった。市場では当面、指数が前年実績に比べマイナス圏で推移するとの見方が多い。物価が持続的に下がるデフレに再び陥る懸念が高まってきた。3月は0・4%の上昇だった。昨年10月の消費税増税の影響を除いた4月の下落率は0・6%となった。品目別ではガソリンが9・6%、灯油が9・1%それぞれ下落した。いずれも原油価格がすぐに反映されやすい。ホテルなどの宿泊料は訪日外国人の激減で7・7%下がった。新型コロナでイベント中止や冠婚葬祭の縮小の動きが出て、切り花は1・9%下落した。総務省の担当者は「電気代やガス代は(原油安の影響が)少し遅れて数カ月後に出てくる」と、ガソリンなどを含めたエネルギー価格が一段と下がる可能性を指摘した。一方、品薄が続いたマスクは5・4%上昇し、上げ幅は3月よりも1・3ポイント拡大した。増税影響で外食が2・7%上がった。生鮮食品を除いた指数には含まれないものの、外出自粛による需要の高まりを背景に、生鮮野菜は11・2%上がり、キャベツは48・2%も上昇した。新型コロナと関係なく価格変動が大きかった品目では、損害保険各社が値上げした火災・地震保険料は9・3%上昇。増税に伴う無償化で私立の幼稚園保育料は94・0%下がった。生鮮食品とエネルギーを除いた4月の指数は0・2%の上昇で、伸び率は0・4ポイント縮小した。

*7-3:https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO4170568025022019000000/ (日経BizGate 2019/3/6) 「新自由主義」という謎の言葉~「小さな政府」という意味ではないの?~
 「新自由主義(ネオリベラリズム)」という言葉がニュースや論説によく登場します。最近では、フランスで反政府運動「黄色いベスト」の抗議デモにさらされるマクロン政権の政策路線が新自由主義的だと言われます。けれどもこの新自由主義という言葉、なんとも正体不明です。いちおうの定義はあるものの、実際には、どう考えても定義と正反対の意味で使われることが少なくありません。たとえるなら、赤は「血のような色」と説明された後で、青空を指差して「ほら、赤いでしょう」と言われるようなものです。これでは頭が混乱します。たとえだけではわからないでしょうから、新自由主義がどのように正体不明で、人を混乱させるのか、具体的に見ていきましょう。まず、新自由主義の定義を確認しましょう。辞典では「政府などによる規制の最小化と、自由競争を重んじる考え方」(デジタル大辞泉)、「20世紀の小さな政府論」(知恵蔵)などと説明されています。これらの定義は明確です。言い換えれば、経済に対する政府の介入を否定する考えです。ところが実際には、この定義に当てはまらない政策や考えを新自由主義と呼び、批判するケースをしばしば目にします。
●「小さな政府」をめざしているのに増税や金融機関救済
 たとえば、冒頭で触れたマクロン仏政権です。マクロン大統領は、企業活動の活性化のため雇用・解雇をしやすくしたり、財政赤字の削減のため公務員を減らしたりする策を打ち出しています。なるほど、これらの政策は「小さな政府」をめざすという新自由主義の説明に素直に当てはまります。しかし、マクロン政権に抗議する「黄色いベスト」運動が広がったきっかけは、これらの新自由主義的な政策ではありません。政府が環境政策の一環として今年1月から実施する予定(抗議を受け今年は見送り)だった、ガソリンと軽油の増税です。増税は、政府が経済への介入を控え、小さな政府をめざす新自由主義の定義には当てはまりません。予算規模の拡大につながりますから、むしろ正反対の「大きな政府」の政策です。最近では燃料増税だけでなく、雇用・解雇の規制緩和や公務員削減といった新自由主義的な政策に対しても抗議が広がっているのは事実です。けれども、そもそも増税という大きな政府路線への反対からデモが始まったのに、それが小さな政府をめざす新自由主義に対する抗議だと報じられてしまうと、読者や視聴者は混乱しますし、事実の本質をゆがめかねません。似た例は、米国でもあります。2008年にリーマン・ショックと呼ばれる金融危機が起こったときのことです。当時はブッシュ(子)政権で、英国のブレア政権や日本の小泉政権と並び、新自由主義の権化のように言われていました。しかしリーマン・ショックで米国経済への不安が広がると、ブッシュ大統領は総額7000億ドル(約70兆円)の総額不良資産救済プログラム(TARP)法案に署名し、金融機関の救済に乗り出します。もちろん、政府が経済への介入を控える新自由主義の定義とは正反対です。税金を投入したこの救済策に対しては、米国内で強い批判が巻き起こりました。けれどもなぜか、今でもブッシュ政権は新自由主義だと言われます。オンライン百科事典のウィキペディアでは、ブッシュ大統領の政策について、新自由主義、小さな政府の方針と重なるところが多いと記しています。同じ政権の政策に、新自由主義的なものとそうでないものが混在することはあるでしょう。けれどもリーマン・ショックのような重大な出来事に対し、明らかに新自由主義の定義に反する対応をしたにもかかわらず、その政権の性格を新自由主義という言葉で表現するのは、適切とは言えません。青空を「赤い」と言うようなものです。ブッシュ政権は自由貿易を信奉すると言いながら、国内の鉄鋼業を保護するため、鉄鋼輸入に対し関税や数量制限をかけたりしました。この点からも新自由主義というレッテルは疑問です。
●都合が悪くなると放棄されるか、ねじ曲がる程度の「原理」に基づく?
 マクロン、ブッシュ両政権の例から気づく点があります。国民の多数が実際に怒り、抗議しているのは増税や金融機関救済という大きな政府路線であるにもかかわらず、一部のメディアや知識人はそれを新自由主義のせいにしたがることです。そうした解説は現実と食い違うので、無理が目立ちます。たとえば、新自由主義批判の代表的な論客であるデヴィッド・ハーヴェイ氏は著書『新自由主義』(作品社)で、新自由主義は市場への国家の介入を最低限に保つ理論だと述べる一方で、現実には「新自由主義的原理がエリート権力の回復・維持という要求と衝突する場合には、それらの原理は放棄されるか、見分けがつかないほどねじ曲げられる」と言います。苦しい説明です。都合が悪くなると放棄されたり、ねじ曲げられたりする程度の「原理」は、そもそも原理と呼ぶに値しません。「建前」とでも呼ぶのが適切です。経済への介入を控えるというのはあくまで建前にすぎず、本音では増税や企業救済、輸入制限といった大きな政府路線をためらわない。こう説明するほうが、はるかにすっきりします。そう言われても、新自由主義を批判する知識人は、すんなり従うわけにはいかないでしょう。ハーヴェイ氏を含め、彼らの多くはマルクス主義を信奉する左翼やそれに賛同する人々で、大きな政府を支持するからです。政治的な敵として攻撃する相手は、たとえ現実と食い違っても、小さな政府をめざす新自由主義者でなければ都合が悪いのです。明治学院大教授(社会学)の稲葉振一郎氏は、新自由主義といわれる経済学の諸学派には、ひとくくりにできるような一貫性のある立場は見出せないと述べます。そのうえで、あたかも実体のある新自由主義というイメージの「でっち上げの主犯」は、批判すべきわかりやすい対象を見出したい、マルクス主義者たちなのではないかと厳しく問います(『「新自由主義」の妖怪』、亜紀書房)。以上の説明で、新自由主義とは表面上の定義と実際の意味が食い違う、謎の言葉である理由がわかったのではないでしょうか。物事を正しく理解し、議論するには、明確な言葉を使うことが欠かせません。新自由主義という、定義と正反対の使用がまかり通るような言葉を使っていては、経済問題の本質について考えることはおぼつかないでしょう。

*7-4:https://kotobank.jp/word/%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9-77046 (自由主義)
 個人の諸自由を尊重し,封建的共同体の束縛から解放しようとした思想や運動をいう。本格的に開始されたのはルネサンスと宗教改革によって幕をあけた近代生産社会においてであり,宗教改革にみられるように,個人の内面的自由 (信教の自由,良心の自由,思想の自由) を,国家,政府,カトリック,共同体などの自己以外の外在的権威の束縛,圧迫,強制などの侵害から守ろうとしたことから起った。この内面的諸自由は,必然的に外面的自由,すなわち市民的自由として総称される参政権に象徴される政治的自由や,ギルド的諸特権や独占に反対し通商自由の拡大を求め,財産や資本の所有や運用を自由になしうる経済的自由への要求へと広がっていった。これらの諸自由の実現を求め苦闘した集団や階級が新興ブルジョアジーであったため,自由主義はしばしばそのイデオロギーであるとみられた。しかし各個人の諸自由を中核とした社会構造は,その国家形態からみれば,いわゆる消極国家,中性国家,夜警国家などに表象されるように,自由放任を生み,当然弱肉強食の現象を現出させることになり,社会的経済的に実質的な平等を求める広義の社会主義に挑戦されることになった。しかし,20世紀に出現した左右の独裁政治の実態は,自由主義が至上の価値としてきた内面的自由,政治的社会的諸自由などが,政治体制のいかんにかかわらず,普遍的価値があることを容認せしめ,近代西欧社会に主としてはぐくまれてきた自由主義は再評価されている。

*7-5:https://kotobank.jp/word/%E6%96%B0%E8%87%AA%E7%94%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9-298677 (新自由主義)
 政府の規制を緩和・撤廃して民間の自由な活力に任せ成長を促そうとする経済政策。債務危機の解決をめぐって国際通貨基金(IMF)など国際金融機関が融資の条件として債務国に採用を求めたこともあって、急速に中南米各国に広まった。緊縮財政や外資導入、国営企業の民営化、リストラのほか、公共料金の値上げや補助金カットなどを進めるため、貧困層の生活を直撃し国民の反発が強い。ベネズエラ大統領選でのチャベス政権誕生やエクアドル政変、アルゼンチン、ボリビアでの暴動など、新自由主義への反対を掲げた市民の動きが目立ち、南米の左派政権誕生の原因となった。 20世紀の小さな政府論を新自由主義と呼ぶ。18世紀イギリスの思想家、アダム・スミスは『国富論』で、経済は個人や企業の自由に任せることによって繁栄すると主張し、政府の役割を治安維持や防衛などに限定する必要を説いた。その後20世紀に入ると、大恐慌や戦時動員体制の経験を経て、政府が完全雇用を目指して需要を管理するケインズ主義政策が一般的となった。しかし、1980年代に入って政府における財政赤字の深刻な累積、官僚主義的な非能率などが大きな問題となり、イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権を皮切りに、減税、規制緩和、民営化を軸とする小さな政府への改革が広まった。日本でも80年代の第2次臨時行政調査会による行政改革以来、新自由主義的な政策転換が進められてきた。ただ、日本では公共事業や規制に関して既得権を持つ官僚組織、利益団体、族議員が、小さな政府の徹底に反対してきた。つまり、日本の場合、保守の自民党の中に小さな政府と大きな政府という相対立する思想が同居しており、政策が円滑に決定されない。「官から民へ」というスローガンを唱えて登場した小泉政権も、新自由主義改革を推進するために、党内の抵抗勢力との間で複雑な駆け引きを繰り返してきた。結果的には、郵政民営化や社会保障費の抑制など新自由主義的政策が小泉政権の遺産となった。

<資源の使い方と財源>
*8-1:https://mainichi.jp/articles/20190516/k00/00m/040/193000c (毎日新聞 2019年5月16日) 国有林、過剰伐採の恐れ 民間開放拡大 法改正案衆院委可決
 全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案が、16日の衆院農林水産委員会で自民、公明両党と国民民主党、日本維新の会の賛成多数で可決された。21日の衆院本会議で可決されて参院へ送られる見通し。全国の森林の3割を占める国有林の伐採を民間へ大きく開放し、低迷する林業の成長を促すとしているが、伐採後の植え直し(再造林)が進まなければ国土の荒廃につながりかねないなどの懸念も浮上している。現行の国有林伐採は農林水産省が数ヘクタール程度について1~数年単位で入札。再造林は別の入札で委託している。同案はこれに加え、数百ヘクタール規模の「樹木採取区」で公募した業者に「樹木採取権」を付与。大規模集約化による効率化を図り、対価として一定の権利設定料と樹木料を徴収する。

*8-2:https://www.agrinews.co.jp/p51016.html (日本農業新聞 2020年6月8日) 放牧経営どうなる 中止、畜舎義務化 懸念広がる 農水省基準案に「唐突」「根拠は」
 農水省が7月決定を目指す家畜の「飼養衛生管理基準」の改正案に、豚や牛などの放牧制限につながる事項が盛り込まれたことで、放牧で豚を飼育する農家に波紋が広がっている。豚熱のワクチン接種地域の24都府県で豚の放牧が実質できなくなり、それ以外の地域でも豚や牛は畜舎の整備などを義務化する。長年の経営を抜本的に見直さなければならない農家もいる中、科学的根拠を示さず案を示した同省の姿勢に疑問の声が相次ぐ。全国で放牧に取り組む養豚農家は140戸。自然に近い形で育て、薬の使用減少や耕作放棄地の解消、飼養コストの低減などにつなげてきた。一方、基準案は「放牧の停止又は制限があった場合に備え、家畜を使用できる畜舎の確保又は出荷もしくは移動のための準備措置を講じること」「大臣指定地域に指定された場合の放牧場、パドック等における舎外飼養の中止」などと明記。11日まで国民からの意見を募集しており、7月までの決定を目指す。放牧中止を余儀なくされる養豚農家らは「根拠を示してほしい」「国は放牧を推進してきたのに矛盾する」などと基準案の内容を疑問視する。長野県安曇野市で40年前から放牧豚を飼育してきた藤原喜代子さん(59)は「根本的に経営が変わる。理由を教えてほしい」と話す。畜産試験場で豚熱が発生しても、放牧で150頭を飼育する藤原さんは防疫と放牧を両立させて発生を防いできただけに、放牧を危険視する根拠の提示を求める。同省は5月13日に改正案をホームページなどで周知したが、理由は明記していない。事実上の放牧中止にまで踏み込んだ内容にもかかわらず、農家への影響調査はしていないという。同省の対応に静岡県富士宮市の「朝霧高原放牧豚」代表、関谷哲さん(45)は放牧豚ができなくなれば経営が成り立たなくなるだけに「どういう状況を放牧というのか、屋外に豚を出してはいけないのかなど、全く説明がない」と困惑する。大臣指定地域の豚熱のワクチンを接種する24都府県以外にも波紋は広がる。熊本県山都町で120頭を飼養する坂本幸誠さん(62)は、豚熱対策として4月に700万円かけて放牧場に550メートルのフェンスを設置した。「放牧でストレスのない環境で免疫力が向上し、病気にも強い。10年かけて、やっとここまできた」と坂本さん。顧客は放牧で飼育する希少種だから取引しているという。簡易畜舎はあるが、放牧中止の準備を求める同省の基準案に「寝耳に水。防疫と放牧は両立できるはず」と訴える。鹿児島県伊佐市で黒豚1000頭を飼育している沖田健治さん(61)も「豚熱はいつどこで発生してもおかしくなく、ワクチン接種地域以外にも影響は大きい」と指摘する。熊本県天草市で50頭の豚を飼育する大橋範子さん(46)は「放牧する養豚農家は、誰もが伝染病対策の大切さを考えている。突然案を示すのではなく、どんな対策ができるのか農家と考えてほしい」と要望する。

*8-3:https://www.agrinews.co.jp/p50881.html (日本農業新聞 2020年5月24日) 東京圏在住 半数「移住に関心」 農業人気 田園回帰志向強く
 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部は、東京・埼玉・千葉・神奈川の1都3県在住者を対象に行ったアンケートの結果を公表した。東京圏在住者の半数が地方暮らしに関心があると答え、都市住民の田園回帰志向が浮き彫りになった。「やりたい仕事」の最多は「農業・林業」だった。j調査は、東京一極集中の解消に向けて移住を促進するために、同本部が今年1月、東京圏在住の20~59歳の男女1万人を対象にインターネットで実施した。東京圏在住者全体の49・8%が、1都3県以外の地方圏暮らしに関心があると回答した。出身別では東京圏出身者は45・9%、地方圏出身者では61・7%に上った。「やりたい仕事」では「農業・林業」が15・4%で最多。「宿泊・飲食サービス」(14・9%)、「サービス業」(13・3%)「医療・福祉」(12・5%)が続いた。また、若い世代ほど移住の意向が強い傾向も分かった。一方、地方圏暮らしへのネガティブイメージは、「公共交通の利便性が悪い」(55・5%)が最も多く、「収入の減少」(50・2%)、「日常生活の利便性が悪い」(41・3%)などが挙がった。同本部は「新型コロナウイルスの影響が及ぶ前の調査だが、コロナ禍で地方への関心層は一層、高まる可能性もある。新型コロナウイルスが収束し、都道府県をまたいで行き来ができるようになれば、地方暮らしをPRしていく」と説明する。

*8-4:https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20200612.inc (山形新聞社説 2020.6.12) コロナと公立病院再編 危機に強い医療構築を
 厚生労働省は新型コロナウイルス流行で入院病床が逼迫(ひっぱく)したのを受け、約440の公立・公的病院の再編・統合について都道府県から検討結果報告を受ける期限を当初の9月から先延ばしする。同省が主導した従来の検討では、感染症対応の視点欠如が明らかだ。経済合理性を優先して病床削減を進めれば国民の生命を守れない。コロナの教訓を生かし、効率的かつ危機に強い病院再編に向けて仕切り直しをすべきだ。病院再編は、団塊世代が75歳以上となり医療費が急増する2025年を見据え病院の統合や診療機能の役割分担、病床数削減も含めて医療提供体制を見直す。厚労省は再編に向けた議論を促すため昨年秋、診療実績が乏しいか、近隣に競合病院があり、再編・統合が必要と判断した約440の公立・公的病院を都道府県に伝え、地域で結論を出すよう求めた。本県では県立河北、天童市民、朝日町立、寒河江市立、町立真室川、公立高畠の各病院が該当し、県は四つの2次医療圏に設置した地域医療構想調整会議で議論を促している。寒河江市は来月、市立病院と県立河北病院の統合を軸とした検討を進めるよう県に要望する。病院再編の検討は少子高齢化に伴うものだ。急病や大けがで入院する「高度急性期」「急性期」病床の必要性は低くなる一方、高齢者のリハビリといった「回復期」病床のニーズが高まる。厚労省はこれらを調整し、18年に全国で124万6千床あった病床を119万1千床まで減らす方針だ。だが地方側は、赤字が深刻な公立病院改革の必要性は認めつつ、病院名を挙げての再編要請には「地域医療の最後の砦(とりで)だ。個別事情を評価していない」と反発し、議論が難航していた。そのさなかに新型コロナの感染拡大が起きた。2月時点で全国の感染症指定医療機関の病床は約2千床。政府は当初、5千床の緊急確保を表明したが、とても足りず、5月末で1万8千床をようやく確保できた。一時は東京、石川で用意した病床の約9割が埋まり、感染症への危機対応の弱さが浮き彫りになった。しかも公立病院は感染症病床の約6割を担っている。再編が必要とされた公立・公的病院約440の中には感染症指定医療機関53病院が含まれ、コロナ対応の拠点となっており、それを考慮しない病床削減は地域の理解を得られない。厚労省の有識者会議で有事対応への余力維持を求める意見が出ているのも当然だろう。公立・公的病院は過疎地での医療や、救急、小児医療など採算が取りにくい部門を引き受けている。だが少子高齢化で医療や病床のニーズが変わるのに合わせ病院、病床の機能を効率化していかなければ将来の医療費負担は重くなる一方だ。同時に、コロナの教訓を踏まえ、感染症流行拡大に即応できる体制を強化しなければならない。ただし未知のウイルスに備え常時多くの空きベッドを抱えれば人件費など医療機関の経営コストが過重になりかねない。しかもコロナ患者を受け入れた公立病院の9割以上が通常の診療ができず減収に苦しむ問題も起きた。複雑な連立方程式であり最適の解を見いだすのは容易ではないが、官民とりわけ地域の英知を結集し展望を開きたい。

<研究と特許>
*9-1-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/531307 (佐賀新聞 2020.6.5) ノーベル賞本庶佑氏が法廷闘争へ、がん免疫薬の特許巡り小野薬品と
 本庶佑京都大特別教授は5日、自身の研究チームの発見を基に開発され、ノーベル医学生理学賞の受賞にもつながったがん免疫治療薬「オプジーボ」の特許収入として、小野薬品工業に約226億円の支払いを求め、今月中旬にも大阪地裁に提訴すると発表した。新たながん治療薬の種を見つけた研究者と、リスクを取って実用化に結びつけた製薬企業の収入配分を巡る対立は法廷に持ち込まれる。本庶氏は収入を若手研究者の支援のため設立された京大の基金に充てる考え。本庶氏は記者会見し「話し合いで解決したかったが誠意ある回答が得られず、やむなく訴訟を決意した」と説明。「アカデミアの成果を社会がきちっと評価することが必要だ」と訴えた。小野薬品の広報担当者は「内容を正確に把握できておらず、コメントは差し控える」と話した。本庶氏は2006年、小野薬品と収入配分に関する契約を締結。だが「金額が著しく低く不当だ」として11年以降、見直しを求め交渉していた。本庶氏は、14年に小野薬品から「特許を巡る米国の製薬会社との訴訟に協力すれば条件を見直し、その会社から得られる特許使用料の40%を配分する」と提案され、協力。しかし裁判終了後にほごにされたと主張する。一方の小野薬品は、この提案内容で両者が合意したとは認めていない。今回求める約226億円は、17~19年に米国の製薬会社から小野薬品に入った特許使用料の約39%。本庶氏によると、小野薬品は40%ではなく「1%分を支払う」と通知してきており、その差額に当たる。小野薬品は19年、本庶氏が求めてきた料率の引き上げではなく、京大への最大300億円の寄付を提案。だが本庶氏は受け入れず、協議を続けていた。オプジーボは体内の免疫細胞に作用し、がんへの攻撃を継続させる薬。14年に国内で発売され、皮膚のがんから肺、腎臓などへと用途が拡大してきた。

*9-1-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO78790300T21C14A0X11000/ (日経新聞 2014/10/24) 15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬
 日本人の死因のトップであるがん治療には、外科的手術や放射線治療、最後の手段として化学療法があるが、今この構図が大きく変わる可能性が出てきた。免疫を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬「抗PD-1抗体」が実用化されたからだ。世界に先駆けて実用化したのが関西の中堅製薬、小野薬品工業だ。画期的な免疫薬とは――。
■「オプジーボは革命的なクスリ」と高評価
 「がん研究、治療を変える革命的なクスリだ」。慶応義塾大学先端医科学研究所所長の河上裕教授は9月から日本で発売が始まった小野薬の抗PD-1抗体「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)をそう評価する。ニボルマブは難治性がんの1つ悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として小野薬と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が共同開発した新薬だ。がんは体内の免疫に攻撃されないように免疫機能を抑制する特殊な能力を持つ。ニボルマブはこの抑制能力を解除する仕組みで、覚醒した免疫細胞によってがん細胞を攻撃させる。世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。今や米メルク、スイスのロシュなど世界の製薬大手がこぞってこの仕組みを使った免疫薬の開発を加速させている。悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極めて危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出た」(河上教授)。米国での他の抗がん剤と比較する治験では既存の抗がん剤を取りやめ、ニボルマブに切り替える勧告も出たほどだ。肺がんや胃がん、食道がんなど他のがん種に対する治験も進んでいる。世界の製薬大手が画期的な新薬開発に行き詰まるなか、なぜ小野薬が生み出せたのか。1つは関西の1人の研究者の存在がある。「PD-1」という分子を京都大学の本庶佑名誉教授らの研究チームが発見したのは1992年だ。小野薬もこの分子に目をつけ、共同研究を進めた。PD-1が免疫抑制に関わっている仕組みが分かったのは99年で、創薬の研究開発が本格的に始まるまでにおよそ7年。実際の治療薬候補が完成し治験が始まったのは2006年で、開発から実用化までにおよそ15年かかったことになる。当時は「免疫療法は効果が弱い」「切った(手術)方が早い」など免疫療法に対する医療業界の反応は冷ややかだった。医師や学会だけでなく、数々の抗がん剤を実用化した製薬大手も開発に消極的だった。そんな中で小野薬だけが"しぶとく"開発を続けてきた背景には「機能が分からなくても、珍しい機能を持つ分子を見つけ、何らかの治療薬につなげるという企業文化があった」(粟田浩開発本部長兼取締役)という。もともと小野薬は極めて研究開発志向の強い会社だ。売上高(14年3月期は1432億円)に対する研究開発比率は国内製薬メーカーでは断トツの30%台だ。しかもがん治療薬は初めて参入する分野で、「かならず成果を出す」という研究者の意欲も高かった。小野薬は血流改善薬「オパルモン」とアレルギー性疾患治療薬「オノン」の2つの主要薬で高収益を維持した。だが、特許切れや後発薬の攻勢で陰りが出てきたところでもあった。免疫療法に対する風向きが変わり始めたのは米国で抗PD-1抗体の治験が始まった06年からだ。一般的な抗がん剤はがんの増殖を抑える仕組みのため数年で耐性ができ、結局は延命効果しかない。しかし抗PD-1抗体で「がんを根治できる可能性も出てきた」(河上教授)。
■年間数百億円のロイヤルティー効果
 副作用が少ないうえ、がんの増殖を止める、小さくする、消滅させる――。そうした治験結果が出始めたことで、国内外の研究者、製薬企業の免疫療法に対する見方が大きく変わった。ただ、効果が出ていない人も一定の割合で存在する。その場合は「他の抗がん剤や免疫療法と組み合わせれば、効果が上がる可能性がある」(粟田本部長)という。足元の業績が低迷するなか、ニボルマブ効果で小野薬の市場評価は高まっている。昨年10月時点で6000円前後だった株価は今年に入って急騰。23日の終値は9340円とわずか1年足らずで3000円以上伸びた。アナリストも「今後数年でロイヤルティーだけで年数百億円は堅い」と分析する。小野薬の相良暁社長も「10年先を支える薬になるだろう」と自信をみせる。ただメルク、ロシュなどが同じ仕組みの抗PD-1抗体の治験を拡大しており、国際競争に巻き込まれる可能性も高い。一方で他の製薬大手から小野薬がM&Aの標的となる懸念もある。その意味で同社が置かれている環境は必ずしも楽観視できない。がんの新たな治療法の扉を開けた小野薬。日本発の免疫薬に世界の目が注がれている。

*9-2:https://www.nikkei.com/paper/related-article/?R_FLG=1&b=20200523&be・・ (日経新聞 2020.5.23) ワクチン量産 設備が壁 特殊な技術 欧米勢が先行 日本、資金支援を検討、 ワクチン、国家の争い激化 国際協調に課題 、 米、コロナ関連に1300億円/中国、年内に実用化めざす
 新型コロナウイルスのワクチン開発を巡り各国が激しい主導権争いを演じている。先行する米国は自国での供給・備蓄を目的に1千億円超を投じて、欧米医薬企業の実用化を後押しする。中国も国を挙げて開発を強化しており、欧州勢も世界競争に割って入る。国際協調でワクチン開発を支援する動きもあるが、国主導の開発スピードが加速している。米国で新型コロナワクチン開発を支えるのが、米生物医学先端研究開発局(BARDA)だ。BARDAはバイオテロなどに対応するために2006年に設立。米保健福祉省(HHS)の傘下組織で国の予算で運営されている。米国民の生命を守るため治療薬やワクチンの開発・生産を支援する。BARDAは米でコロナ感染が深刻化した3月初旬以降、新型コロナ案件に集中している。投じた金額は12億ドル(1300億円)を超える。BARDAは開発を支援するだけでなく、開発を終えてすぐに供給できるように生産体制の構築まで視野に入れ巨額資金を投じる。すでにジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)と設備投資費用10億ドル(約1千億円)を折半して、10億回分の新型コロナワクチン供給契約も締結した。BARDAは米バイオ企業モデルナにも約4億3000万ドル(約460億円)を投じる。ワクチンの有効性を確認する前から投資を決断し、同時に大量に買い取る契約も結んだとされる。4月30日、国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は21年1月までにワクチンを数億本供給する計画の存在を明らかにした。「有効かどうか答えが出る前に、リスクをおかして生産増強を進める」(ファウチ所長)。詳細は明らかになっていないがBARDAの存在が見え隠れする。米国は自国への供給を最優先としているが同様の動きは広がっている。中国では政府と関係の深いバイオ企業や研究所で3つのワクチン治験が進む。開発費用や治験の設計、製造体制まで政府の支援を受けていると言われる。安全性重視の欧米と違い有効性確認を優先するため実用化スピードは速い。支援を受けるカンシノ・バイオロジクスが手掛けるワクチンは世界で初めて有効性を確認する治験まで進んでおり、年内実用化を目指す。中国は自国だけでなく、途上国にも供給することで外交的な影響力拡大も狙う。ワクチン開発を急ぐのは米中だけではない。英国でワクチン治験を始めたオックスフォード大学は4月30日、製薬大手の英アストラゼネカ(AZ)との提携を発表した。英国政府も同大に2000万ポンド(27億円)を助成。年内に1億回分のワクチン製造体制を構築し英国民への供給を急ぐ。欧州連合(EU)もドイツの有力ワクチンメーカーに8千万ユーロ(約94億円)の研究助成を決めたのも、優先供給を狙う米国から同メーカーを防衛するためとされる。ただ、仏製薬大手サノフィのポール・ハドソン最高経営責任者(CEO)は「(ワクチン開発支援で)欧州委員会がBARDAレベルに達していない」と指摘し、開発スピードなどで遅れかねないと懸念する。国際的な官民連携組織である感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)は「平等なアクセス」を理念とする。支援を受けた企業は手ごろな価格で分け隔てなく供給することが求められる。ただ、CEPIの支援は研究開発が中心で、BARDAのように供給体制構築まで踏み込まない。日本もCEPIに資金拠出している。国内では内閣府などが所管する日本医療研究開発機構(AMED)がワクチン開発を支援する。支援規模は小さく、治験などの助成に限る。世界がワクチン開発で覇権争いを繰り広げるなか、海外製ワクチンが日本に速やかに輸入されるという保証はない。国産ワクチン開発を急ぐためにも、制度、資金だけでなく生産体制にそそぐ必要がある。

*9-3-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/613631/ (西日本新聞 2020/6/3) 高齢運転対策「終わりはない」池袋暴走の遺族訴え 改正道交法成立
 高齢者運転対策を盛り込んだ改正道交法が2日、衆院本会議で可決、成立した。契機となったのは昨年4月、東京・池袋で高齢運転者の車が暴走し、松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3)=が死亡した事故だった。悲しみの淵にありながら事故防止を訴え続けた夫拓也さん(33)は、法改正を「大きな一歩だけど、終わりではない」と語る。都市と地方の格差、免許返納者の生活支援など課題は残されている。インターネットのビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で思いを聞いた。事故の5日後、拓也さんは会見で涙ながらに訴えた。「運転に不安がある人は運転しない選択を考えてほしい」。犠牲者を減らしたい一心だった。6月には福岡市早良区で80代男性の車が逆走し、10人が死傷する事故も発生。「また起きた。もっと伝えられることがあったのでは」と自分を責めた。妻子が事故に遭った時間に手が震え、見ていない事故の瞬間の光景が目に浮かんだ。同様の経験をした遺族たちと出会い、交通政策の勉強を始めた。東京生まれ、東京育ちの拓也さん。車でないと買い物や病院さえ行けないという地方の窮状を知った。免許が自尊心そのものという人もいる。「『運転しない選択』を迫った発言は短絡的だった」と省み、今はこう考える。「高齢者を切り離して事故は防げるが、今生きてる命を見放すことになる。事故で奪われる命も、車を手放すことで脅かされる日常も望まない」。高齢化に伴い、75歳以上の運転免許保有者数は昨年までの10年間で140万人も増えた。改正道交法は、一定の違反歴がある75歳以上への実車試験の義務付けや安全運転サポート車(サポカー)の限定免許創設を定める。「従来の免許更新は足が不自由など体の機能を調べていなかった。一定の効果は出る」と期待する。一方、サポカーへの過信が事故につながらないか懸念する。自動ブレーキの作動には多くの条件があり、池袋の事故もサポカーで防げなかった。「技術を過信しないよう正確な情報発信が必要」と求める。拓也さんの活動は世の中を動かした。運転免許の返納件数は昨年、過去最多の約60万件に上った。「高齢の親の説得などそれぞれの家庭の頑張りに支えられた結果」と受け止める。事故は高齢者だけが起こすものではない。誰もが加害者にも被害者にもなる。高齢者運転対策が「若年者と高齢者の対立構造になってほしくない」と願う。「1人でも命が守られれば、2人の命を無駄にしないことにつながる」と一周忌を機に実名を公表し、会員制交流サイト(SNS)などでも発信を始めた。「僕の寿命が尽きたとき、2人に『生ききったよ』と言えるようにしたい」。事故のない社会のために、前を向く。

*9-3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/613906/ (西日本新聞 2020/6/4) 高齢運転者の免許返納急増 10人死傷の多重事故から1年
 福岡市早良区で高齢ドライバーの車が逆走して10人が死傷した多重事故から4日で1年。事故を機に高齢者を中心に運転免許証の自主返納が急増していることが西日本新聞の調べで分かった。昨年、九州7県の返納件数は5万6578件と2018年の1・3倍。今年も新型コロナウイルスの影響が本格化した4月以外は高止まりが続いている。警察庁によると、昨年は75歳以上のドライバーによる死亡事故件数は401件。免許人口10万人当たりの件数は6・9件で、75歳未満の2・2倍だった。九州7県の昨年1月以降の月別返納件数(西日本新聞調べ)は、東京・池袋で男性=事故当時(87)=の車が暴走して母子2人を死亡させた事故が同4月に起き、同5月は全県で増加。福岡市の逆走事故があった同6月は、福岡(2381件)▽佐賀(418件)▽熊本(786件)▽鹿児島(804件)の4県で最多になった。今年1月には大分(628件)▽宮崎(520件)の両県で最も多くなり、免許返納に対する意識が浸透していることをうかがわせる。年齢別では75歳以上が6~7割を占めた。各県警もあの手この手で高齢運転者の対策を進めている。福岡県警は3月に交通安全を啓発する専用車を導入。認知機能や体力が低下した高齢者の運転を疑似体験し、身体能力を測定できる機器を備える。公共施設などを巡回し、運転を見つめ直すきっかけにしてもらう狙いだ。佐賀県警は、運転寿命を延ばす一方、免許証を返納しやすい環境づくりを進める。昨年4月に「シルバードライバーズサポート室」を設置し、70歳以上を対象にした無料の運転技能教習には昨年5~12月に87人(平均年齢78・6歳)が参加。今年4月からは基山町役場でも返納ができるようにした。久浦厚室長は「知恵を出しながら高齢運転者に寄り添った対応を進めたい」と話した。 

*9-4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59924040T00C20A6MM8000/?n_cid=NMAIL006_20200603_Y (日経新聞 2020/6/3) 日本電産、中国にEVモーター開発拠点 日本級の規模
 日本電産は中国に駆動モーターの開発拠点を新設する。成長の柱と位置づける電気自動車(EV)用が中心で、2021年に稼働させる計画。人員規模は約1千人と日本の中核拠点と同規模になる見通し。米国との政治対立や新型コロナウイルスの感染問題で中国展開に慎重な企業も増えるなか、日本電産は中国を重要市場と位置づけている。米国も含めた複数の拠点整備で、現地の需要を取り込む。中国東北部の遼寧省大連市で約1千億円を投じて建設中の工場内に設ける。EV用の駆動モーターに加え、家電製品などに使うモーターの開発にあたる。人員規模は滋賀県の開発センターと同程度になる。このうち、300~400人程度がEV用駆動モーター専任となる予定。中国に設置済みの2拠点でも増員し、EV関連の技術者は現状の約100人から数年後に650人に増やす。競合も中国での拠点開設を急いでいる。独コンチネンタルが21年に天津市に開発センターを設置する予定。独ボッシュも現地企業と合弁を組み、EV用駆動モーターの供給を目指す。日本電産はシェア拡大とコスト競争力を高めるうえで、現地で開発強化が欠かせないと判断した。米中が貿易問題で対立を深めており、米国が中国製品への制裁を強めるとの懸念から、外資企業が中国の拠点を他国に移す動きが広がるとの見方も出ている。ただ、日本電産は米国でもエンジン冷却用などの車載用モーター拠点を抱えるほか、米中西部のセントルイスには家電や産業用モーターの事業拠点を持つ。米中は世界の二大消費国でもあるだけに、両国に拠点を構えることで、さらなる成長につなげる。

*9-4-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59635330X20C20A5000000/?n_cid=DSREA001 (日経新聞 2020/5/27) 日本電産のEV用モーター、吉利汽車が採用
 日本電産は27日、同社が手掛ける電気自動車(EV)用駆動モーターシステム「E-Axle」が中国の吉利汽車の新型EVに採用されたと発表した。2019年4月に量産を始めた最大出力150キロワット型を吉利汽車向けに改良し、新型のインバーターを採用するなどして走行性能を高めた。E-Axleは内燃自動車のエンジンにあたる駆動用モーターにインバーターやギアなどを組み合わせた基幹部品。吉利汽車のハイエンド新型EV「Geometry C」に採用された。既に量産している150キロワット型のE-Axleを、吉利汽車向けに改良し供給する。同社のEV用駆動モーターの受注見込みはE-Axleやモーター単体を合わせて4月時点で26年3月期までに1600万台と、中国や欧州を中心に採用が増えている。日本電産はEV用駆動モーターを今後の成長を担う中核製品と位置づけており、30年に世界シェア35%の獲得を目指す。

<日本の教育について>
PS(2020年6月16日追加):米国は世界から留学生を受け入れ、比較的差別なく要職にもつけており、中国人も同様に扱ったため、*10-1-1のように、「①テキサス州にある世界有数の癌研究機関が、疫学・分子生物学の研究を手掛ける3人の中国系研究者(教授も含む)を追放した」「②ジョージア州のエモリー大学が、2人の中国系米国人の神経科学の研究者夫妻(教授を含む)を解雇した」「③ナノ化学の世界的研究者でノーベル賞候補でもあったハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が、中国政府が進める『千人計画』に協力して年間15万ドルに加えて毎月5万ドルの報酬を受け、中国の大学でも研究室を主宰する予定だったにもかかわらず、NIHと米国防総省に虚偽の説明をしていたため逮捕された」等のことが起きている。米国は、これまで世界の優秀な頭脳が米国内で働き、研究して特許を得ることによって利益を得てきたのだが、中国が「千人計画」で優秀な中国人研究者を呼び戻して飛躍的に研究開発力を高め始め、世界の新技術の覇権争いに負ける可能性すら出てきたことから、これらの行動に踏み切ったものだ。中国人の方は、母集団の多さや勤勉さもあって、世界のどの国に行っても活躍しているため、市場主義に変革した中国に帰っても活躍できるだろう。
 一方、日本は、優れた人材が新市場を作りだして富を生みだすにもかかわらず、*10-1-2・*10-2のように、研究者等の育成を疎かにしている。研究者だけでなくビジネスパースン(businessperson)も、少ない母集団から選ばれた人材よりも留学生も加えた多くの人材から選ばれた方が優秀になるのは当然である上、留学生は2つの文化を理解して擦り合わせることができるため、気付くことが多いのである。にもかかわらず、日本が今の段階で、学生給付金等々で留学生差別を行うのは、人材確保・国際戦略の両面で誤っている。
 さらに、日本では、いつまでたってもできない理由を並べて解決せず、*10-3-1のような保育士不足や、*10-3-2のような教員不足・学童保育施設不足が言われるが、子どもは生まれた時から周囲の環境を感じながら1人の人間としての美意識や価値観などの感性を形づくっていくものであるため、教育投資を疎かにすべきではない。従って、私は、コロナ危機を境に、*10-3-3のように、9月入学制度を採用するか否かにかかわらず、義務教育開始を5歳か3歳からにするのがよいと思う。何故なら、できるだけ前倒しして教育することによって無駄な時間を過ごさせず、無理なく楽しく必要な知識や理解力・判断力などを身に着けさせるのが、日本に住む子どものためだからだ。


    2017.3.28毎日新聞    アフリカ諸国の人口ピラミッド 2020.5.5佐賀新聞

(図の説明:左図のように、日本の1950年の人口ピラミッドは、中央の現在のアフリカの人口ピラミッドと似た二等辺三角形の多産多死型だったが、現在は少産少死化が進んで人口構造が変わった。そして、日本では、生産年齢人口や教育期間人口の割合が減ったため、学校にはゆとりがあり、留学生や移民を受け入れる余地は大きくなった筈である)

*10-1-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60224600R10C20A6000000/?n_cid=DSREA001 (日経バイオテクオンライン 2020年6月10日) ワクチン開発競争 実力増す中国、いらだつ米国
 新型コロナウイルス感染症を契機に、米国と中国の対立が深まっている。その主戦場の1つがワクチン開発だ。製薬業界で新しい医療用医薬品(先発医薬品、いわゆる新薬)を生み出した経験を持つのは、これまで欧州や米国、日本ばかりだった。しかし中国は近年、新薬の研究開発力を飛躍的に高めている。中国が米国に先んじてワクチン開発に成功する可能性も否定できない。「最初にワクチン開発に成功した国が世界に先駆けて、その国の経済と世界的な影響力を回復するだろう」――。4月末、米国で医薬品の審査・承認を担当する米食品医薬品局(FDA)の元長官であるスコット・ゴットリーブ氏は、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発の重要性について、こう見解を述べた。米国がワクチン開発に血眼になるのは、世界で最も感染者数の多い自国民を救うのにとどまらず、ゴットリーブ氏が言及したように、世界の覇権争いの行方を左右すると考えるからとみられる。とりわけ意識するのが中国だろう。トランプ米大統領が「中国ウイルス」と連呼するほどに「敵視」するのが中国だ。一昔前であれば、創薬大国の米国に中国がワクチン開発で先着する可能性はゼロだった。これまで中国が得意としてきたのは、生薬や後発医薬品(特許切れした先発医薬品と同等の医薬品)の開発・製造であり、新薬の研究開発経験はほとんど無かった。しかし、「過去10年で、中国の新薬の研究開発力は飛躍的に高まっている」と製薬業界の関係者は口をそろえる。世界に先駆けて、中国が新型コロナウイルス感染症のワクチン開発に成功する可能性もある。
■中国、新薬・ワクチン開発に軸足
 これまで中国は海外留学から帰国した研究者などに多額の研究費を投じ、大学・研究機関のレベルの底上げを図ってきた。近年は最先端のiPS細胞や間葉系幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)などを用いた細胞医薬や遺伝子治療などを含め、新薬の研究開発を手掛ける中国のスタートアップが続々誕生。中国政府が、医薬品の規制をグローバルの規制に近づけたり、医薬品の臨床試験の環境を整えたりしたこともあり、中国企業は、「中国での後発医薬品の開発」から、「世界での先発医薬品の開発」へと軸足を移している。2019年11月には、スタートアップの中国ベイジーンが米国で悪性リンパ腫というがんの治療薬「BRUKINSA」(一般名ザヌブルチニブ)の承認を獲得。先端的な創薬技術や開発力が求められるがん領域の新薬を、中国企業が生み出せることを世界に印象付けた。同様に中国は感染症領域のワクチンの研究開発にも力を入れてきた。一般的にワクチンは健常者に打つため高い安全性が求められ、種類によっては製造が難しく、開発・製造するのは簡単ではない。ただ、中国企業がワクチンを開発・供給できれば、自国のためだけでなく、公衆衛生上、感染症が大きな課題であるアジアやアフリカなどで存在感を増すことにもつながるという、中国政府の戦略もあるのだろう。13年10月には、中国生物技術集団傘下の成都生物制品研究所が開発・製造した日本脳炎ワクチンが、世界保健機関(WHO)の事前認定基準に準拠していると認められた。同基準はWHOが途上国などへ医薬品を供給するに当たって、医薬品の品質、安全性、有効性などを事前に確認するためのもの。中国製のワクチンがWHOの認定を受けるのは初めてのことだった。最近では、アフリカで問題になっていたエボラ出血熱に対して、欧米企業に並んで、中国スタートアップのカンシノ・バイオロジクスが独自技術を活用したワクチンを開発し、中国政府から緊急時と国家備蓄向けの承認を獲得。同ワクチンは国連の下、アフリカに派遣された中国の平和維持軍や中国の医療専門家などに投与されている他、アフリカでの臨床試験が計画されていた。今回、新型コロナウイルス感染症に対しては、世界で100品目超のワクチンの開発が進められている。その中で、スタートアップである米モデルナ、英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカと並び、先頭を走っているのがカンシノだ。同社はエボラ出血熱に対するワクチンと同じ基盤技術を活用。ウイルスのたんぱく質(具体的にはスパイクたんぱく質)の遺伝子を、風邪の原因の1つであるアデノウイルスからつくった、人に害のないアデノウイルスベクター5型というウイルスの運び屋に搭載し、体内でウイルスのたんぱく質をつくらせるワクチンを開発した。このワクチンに関しては、「もともとアデノウイルスベクター5型に免疫のあるヒトには効きにくいのでは」といった懸念が挙がっているものの、カンシノは着々と開発を進めている。既に少数の被験者を対象に安全性を確認する第1相臨床試験を終え、最適な投与量を決める第2相臨床試験を500人を対象に進めているところだ。さらに今後カナダで同ワクチンの臨床試験や製造を行うことも計画している。ワクチンが実用化されるまでには、新型コロナウイルス感染症が流行している地域で数多くの被験者を対象に第3相臨床試験を実施して、安全性、有効性の確認が必要となる。いずれにせよ、現状では中国のスタートアップが新型コロナウイルス感染症のワクチン開発の先頭集団にいることは間違いない。もっとも、新型コロナウイルス感染症に対しては相当数のワクチンが開発されていることから、複数のワクチンが実用化される可能性が高く、「ワクチンの製造能力や特徴に応じて、高齢者向け、小児向けなど、使い分けが進むのではないか」と業界関係者はみている。そのため、カンシノのワクチンも、(仮に臨床試験がうまく行ったとして)製造能力がどの程度あるか、副反応など安全性がどの程度か、どの国で承認を得られるかなどによって、世界で使い分けられるワクチンの1つになるだろうと考えられる。
■FBI、中国を名指しで異例の警告
 中国が新型コロナウイルス感染症のワクチン開発で存在感を増していることについて、いら立っているのが米国だ。20年秋に大統領選を控えるトランプ大統領が、対中強硬姿勢を先鋭化させている影響もあるにせよ、米国政府が以前にも増して、中国の動きに神経を尖らせていることは間違いない。米連邦捜査局(FBI)と米国土安全保障省傘下のサイバーセキュリティー専門機関(CISA)は5月13日、新型コロナウイルス感染症の研究を手がける米国の大学・研究機関や企業に対して共同で警告を発出した。警告では、中国を名指しした上で「中国政府とつながりのあるハッカーが、米国の研究機関から新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬、検査に関するデータを不正に取得しようとしているケースが、複数回確認されている」と指摘。疑わしい活動があれば、積極的に報告するように呼びかけた。米国は以前から、中国によるサイバースパイ活動を批判してきたが、FBIとCISAが共同で警告を出すのは異例のことだという。なお中国政府は今回の警告について、「米国による中傷だ」として反論している。もっとも、バイオ・医学分野での米中対立は最近始まった話ではない。米国では数年前から公的資金で実施されたバイオ・医学分野の研究成果が、中国に不当に利用されているのではないかという懸念が強まっていた。それを印象付けたのは18年夏、著名な研究者でもある米国立衛生研究所(NIH)のフランシス・コリンズ所長が、全米の大学や研究機関へ送付した1枚の書簡だ。NIHは米保健福祉省(HHS)傘下で様々な医学研究を手掛ける研究所の集合体であるとともに、年間300億ドル(約3兆2000億円)以上という莫大な研究費をバイオ・医学分野の研究者に配分している政府機関である。米国でバイオ・医学分野の主要な研究を手がけるアカデミアの研究者で、NIHからの研究費を得ていないものはほとんどいない。コリンズ所長は公表した書簡の中で、「残念ながら、米国のバイオ・医学分野の研究の清廉性を脅かす存在がある」と明らかにしたのだ。清廉性を脅かす存在が誰なのか、書簡では具体的な国名などには言及しなかったが、「NIHが支援した研究に基づく知的財産を、一部の研究者が他国政府など外部組織へ盗用している」「NIHが支援した研究者が、他国政府など外部組織から相当な研究費を得ているにもかかわらず、情報を開示していない」といった違反行為の具体例を挙げ、他国政府が関与している可能性を示唆。違反行為を減らすため、NIHとして政府機関や研究コミュニティと協力して取り組みを進める方針を示した。
■米で相次ぐ中国系研究者の追放
 さらに19年春、NIHは米国の大学や研究機関に対し、他国政府など外部組織とのつながりを開示していない研究者について、情報提供するよう要請したとされる。これまでの事態の推移をみると、研究の清廉性を脅かす存在として、NIHの念頭にあったのは、やはり中国ということになるだろう。19年春以降、米国では、「中国と関わりがあるにもかかわらず、その事実を開示していなかった」などとして、バイオ・医学分野の研究者が何人も大学から解雇されたり追放されたりしている。19年4月、テキサス州にある世界有数のがん研究機関MDアンダーソンがんセンターが、疫学や分子生物学の研究を手掛ける3人の研究者を追放した。3人はいずれも中国系で、中には教授も含まれていた。また、19年5月には、ジョージア州にあるエモリー大学で、神経科学の研究を手掛けていた、教授を含む2人の中国系米国人の研究者夫妻が突然解雇された。研究室はその日のうちに閉鎖され、研究室のウェブサイトにもつながらなくなった。20年1月には、ハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が逮捕された。逮捕の理由は、中国政府が進める「千人計画」に協力し年間15万ドルに加えて毎月5万ドルという莫大な報酬を受け、中国の大学でも研究室を主宰する予定だったにもかかわらず、NIHと米国防総省に対し虚偽の説明をしていたため。これまで数々の受賞歴を持つ、ナノ化学の世界的な研究者であり、ノーベル賞の受賞者候補の1人でもあったことから、全米で大きく報道された。バイオ・医学分野ではこれまで、直接的なスパイ活動をしたというよりも、「中国との関係を開示していなかった」ことを理由に研究者が追放・解雇されたり逮捕されたりするケースが相次いでいるのが実態だ。しかし今回、FBIとCISAが警告を出したことで、今後、中国絡みのバイオ・医学分野のサイバースパイ活動に関しても、具体的なケースが出てくる可能性がありそう。新型コロナウイルス感染症のワクチン開発競争が決着しても、バイオ・医学分野での米中対立は続くことになりそうだ。

*10-1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN6F7F61N69PLZB01M.html (朝日新聞 2020年6月14日) 京大総長、学生給付金を批判 「留学生差別、おかしい」
 新型コロナウイルスの影響で困窮する学生を対象にした国の「学生支援緊急給付金」が、外国人留学生だけ成績の良さを申請要件にしている問題で、京都大の山極寿一(じゅいち)総長(68)が9日、朝日新聞のインタビューに応じた。要件を「差別的だ」と批判した上で、留学生を排除しない姿勢を取ることが「日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になる」と訴えた。同給付金を外国人留学生が申請する場合、「成績が優秀」「出席率が8割以上」といった日本人学生にはない要件を満たす必要がある。批判の声が出ており、山極氏はネット上の反対署名運動の呼びかけ人の一人にもなった。インタビューで山極氏は「(同給付金は)生活困窮者への支援だ。成績を重んじる奨学金とは目的が違う」と述べ、成績要件を批判。「日本人学生の要件は基本的に経済的な事情だけ。留学生も、経済事情が逼迫(ひっぱく)している人に支給するのが本筋だ」と指摘した。留学生に対する日本政府の方針について、「日本も少子高齢化でだんだん労働者人口が減っていく。外国の優秀な学生を頼らなければいけなくなる時代が目の前に来ている」「優秀な留学生を集めるには、日本の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だ」と述べ、「差別するのはおかしい」と批判した。留学生の自主性を尊重することの重要さも強調。「(在学中の数年間に)どう教育を得るかは、学生が自分でスケジュールを立てるべきだ」とし、文部科学省が前年度の成績を申請要件にしたことに疑問を呈した。国立大の総長が国の仕組みに反対する運動に加わった理由については、「だいたいいつも、教員の立場に立っている」として、「現場の教員が『留学生と日本人を、我々は差別したくない』という声を上げることが大事だ。直接留学生と向き合う現場の教員が出すメッセージは強い」と話した。山極氏は、野生ゴリラ研究の第一人者として知られる。「私は、アフリカ赤道直下の『ゴリラの学校』に留学した」と自らの経験を紹介。「(ゴリラは)決して排除することなく私に接してくれた。それはゴリラの社会を知る上で大変に役立った。現場に行って、いろんな人と付き合って、様々な知識を学ぶのが留学の良さだから」とも述べ、留学生を排除せず、多くの人を受け入れる姿勢が大事だと訴えた。京都市立芸術大も同様の方針を示していることについても触れ、「個性を開花させる芸術家養成の大学であることを考えれば、そういう認識を持ったのはごく当然と思う」とも発言。「京都は文化や芸術に特化する大学が多い。留学生も多く、国際感覚を持った大学や教員も多いのではないか」との考えを示した。この問題をめぐり、要件に反対する大学教員らがネット上で賛同署名を呼びかけたところ、10日午前0時の締め切りまでに1701筆が集まった。うち大学教員は1100人を超えた。署名は5月26日から集め、呼びかけ人には京都大の山極氏ら約40人が名を連ねた。15日にも文部科学省に結果を届ける。
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 学生支援緊急給付金 新型コロナウイルスの影響でアルバイト収入が減るなど、困窮した学生に対する国の給付金。大学が学生から申請を受け付けて推薦者リストを作り、リストに基づいて日本学生支援機構(JASSO)が最大20万円を支給する。外国人留学生にだけ「成績優秀」の申請要件が設けられた。
●山極総長への単独インタビュー
 山極寿一・京都大総長との主なやりとりは以下の通り。
―京都大は留学生に成績要件を付けないことにしましたね
 「今回は生活困窮者への支援だ。日本人学生にも(給付金の支給)条件が六つあるが、基本的に経済的な事情だけだ。だから、留学生も、成績のいい人だけというのでなく、生活困窮者、経済事情が逼迫(ひっぱく)している留学生に支給するのが本筋だと思う。奨学金とは目的が違う」「英国のオックスフォード大では、自国民の学生の年間授業料は130万円なのに、アジアの学生は390万円と3倍を要求している。日本は決して高いお金を払ってもらうことを目的に『大学ビジネス』として留学生を集めているわけではない。その意味では、日本は他の国に比べて、留学生と日本人とを差別していない」「このコロナ騒ぎで国境を越えた移動が制限され、オンラインの遠隔授業が組み合わされる形式になり、さらに激しい留学生獲得競争にさらされている。日本に来てくれる優秀な学生、日本を好きになり日本で働いてくれる、あるいは自国に帰っても日本のために尽くしてくれる留学生を育てるためには、またとないチャンス。この好機をとらえて国際的に発信しなければ、英語圏になかなか太刀打ちできない。大学ランキングは英語圏(の大学)が強いわけですから」「英語を母国語としない国として、優秀な留学生を集めるためには、日本人の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だと思う。(政府は)なぜそれをやらないのか」
―大学教員による署名の呼びかけ人の一人になりましたね
 「文部科学省と話をしても、『各大学に最終的な判断をお任せしている』と言われて終わり。やっぱり現場の教員が声を上げていくことが大事なんです。留学生と向き合う教員が、『日本人学生と留学生を一緒に教育しようとしてるんだ』という態度を出す。このメッセージが強い。文科省の態度がひっくり返らなかったとしても、そういうメッセージが伝わればいいと思っている」「成績が良い悪いに関係なく、みんな一生懸命に生活を成り立たせ、学問に励んでいる。そのバランスのとり方によって成績が良くなったり悪くなったりするわけじゃないですか。そこで各大学がその成績上位を選ぶ(給付金)というのは、やっぱりおかしいわけでね。だって、4年間、あるいは2年間、学生が大学に在籍する中で、どういうふうに教育を得ていくかは、学生が自分自身でスケジュールを立てるわけだから。そこまで我々が介入するものではない。我々が今するべきは、本当に今、学業を続けられなくなって困っている学生をきちんと選別して、支給してあげられるようにすることだ」「(大学としての方針を決める前に署名を呼びかけたのは)僕はだいたいいつも、教員の立場に立っているからです」
―自身の留学体験は
 「私は『ゴリラの学校』に留学したからね。アフリカの赤道直下の」「今はインターネットを使えば、既存の知識は何でも手に入る。現場に行って、いろんな人と付き合って、伝統知など様々な文字になっていない知識を学ぶっていうのが留学の良さだから。私はゴリラの知識まで学ばせていただいた。それはもうすごく、私の中では貴重な体験です」
―そういう体験をより多くの人にしてほしいと
 「学生個人が金太郎あめみたいになってもらっては困るわけです。我々は工業製品を作っているわけじゃない。それぞれが個性を持った、違う育ち方をする学生を相手にしている。違う目標を持ち、個性を持った学生に育ってほしいと思っているわけですよ。だから、日本人は日本人だけでいてはいけないし、いろんな国の学生と入り交じってほしい。その時に、彼らが対等に付き合うことが重要。我々が対等な扱い方をしなければ、そういう環境は生まれません」
―ゴリラは対等に扱ってくれましたか
 「まあねえ、出来の悪いゴリラとしてなあ、扱ってくれたと思うよ。もちろん、ゴリラとして認めてくれたわけじゃなくて、やっぱり外部者なんだけど、決して排除することなく、ゴリラの流儀で、私に接してくれた。それはゴリラの社会を知るうえで、大変役に立ったね」
―日本も留学生に対してそういう社会であるべきだと
 「それが日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になると思う。日本は軍事力もなければ、いまは経済力も弱っている。日本が今、示すべき大きな力は、学術と教育力だと思う」「日本政府にとって、お金をかけずに国際戦略として一番有効なのは、大学や教育を通じてアフリカやアジアの国と手を結ぶこと。日本の大学で学んだ人たちが日本のファンになってくれるネットワークを作るべきなんですよ。留学生をこれまでも大事にしてきたんだから、同じように大事にしてよ、ということです。今度だけ差別するっていうのはおかしいじゃない、ってことです」(聞き手・小林正典)
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〈やまぎわ・じゅいち〉 1952年生まれ。京都大の大学院理学研究科長・理学部長などを経て、2014年から総長。日本学術会議会長も務める。専門は人類学・霊長類学。著書に「ゴリラ」「暴力はどこからきたか」など。

*10-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54653250R20C20A1MM0000/ (日経新聞 2020/1/22) 「ポスドク」支援へ奨学金拡充・採用増 政府が総合対策
 政府がまとめる若手研究者支援の総合対策案が明らかになった。博士課程の大学院生を対象に、希望すれば奨学金などで生活費相当額を支給して研究に集中できるようにする。企業に協力を求め、理工系の博士号取得者の採用者数を2025年度までに16年度比で1千人増やす。若手研究者ら「ポスドク」を取り巻く環境を改善し、研究力の強化につなげる。23日に開く総合科学技術・イノベーション会議(議長・安倍晋三首相)で決める。日本で若手研究者を取り巻く環境は厳しい。博士号の取得後、大学の教員になれず企業にも就職できない「ポスドク」問題が指摘されている。企業でも博士号取得者は他国に比べて少なく、100万人あたりの人数は米国やドイツ、英国、韓国の半分以下とされる。優秀な研究者が日本での研究を見切って海外留学をめざす人材流出の問題もある。政府は今後の目標として、修士課程から博士課程に進学した大学院生のうち約5割が、学内奨学金などで月15万~20万円の生活費相当額を受給できる状況の実現を盛り込んだ。博士課程の大学院生は18年度は約7万4000人で、このうち修士課程からの進学者は約3万2000人に上る。博士号取得者の企業への橋渡しも支援する。博士号取得者の採用者数は16年度は産業界全体で約1400人だった。これを25年度までに65%増やす目標を明記した。企業には博士課程の大学院生を対象とする長期有給インターンシップの設置を促し、官民連携による若手研究者の発掘にもつなげる。政府も博士号を持つ国家公務員の待遇改善を検討する。若手研究者向けに大学教員の採用の間口も広げる。今回まとめた支援策では40歳未満の大学教員の割合を3割以上に高める目標を盛り込んだ。16年度は23.5%だった。若手研究者を巡っては大学内の事務作業に煩わされ、十分な研究時間を確保できないとの声もある。25年度までに学内事務の半減を求め、政府側も関連する手続きの簡素化に取り組むとした。

*10-3-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/524492 (佐賀新聞 2020.5.19) 保育士1万7000人不足 9月入学で政府試算
 政府は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、9月入学制を来年導入した場合、未就学児が一時的に増えるため保育士が約1万7千人不足するとの試算をまとめた。都市部を中心に保育施設の確保が困難になることも指摘した。関係者が18日、明らかにした。安倍晋三首相が学校休校の長期化を踏まえ、各府省に課題の洗い出しを指示していた。政府はこれを基に、6月上旬にも論点整理をまとめる。試算では、来年9月の小学校新入生は4月入学の場合より約40万人増える。この学年は17カ月の年齢差が生じるため「発達段階の差が大きい」として指導の工夫や学校、教員への支援も必要とした。夏場の入試の熱中症対策も課題に挙げた。

*10-3-2:https://digital.asahi.com/articles/ASN5J5W43N5GUTIL052.html (朝日新聞 2020年5月17日) 9月入学で教員2.8万人不足の推計 待機児童も急増
 新型コロナウイルスの感染拡大で政府が検討している「9月入学」を来秋から実施した場合、学校教育や保育などにひずみを生みかねないことが、苅谷剛彦・英オックスフォード大教授の研究チームの推計でわかった。新1年生を4月生まれから翌年9月生まれまでの17カ月に再編し、特に施策を取らなければ、初年度は、教員は約2万8千人が不足し、保育所の待機児童も26万人超に上り、地方財政で3千億円近くの支出増が見込まれると試算した。
●教員不足、大都市で深刻に 9月入学「教育の質低下も」
 研究チームは、教育社会学の研究者やシンクタンク代表ら計7人。地方教育費調査や学校基本調査、社会福祉施設等調査などをもとに推計した。9月入学は、緊急事態宣言の対象が全国に広がり、休校が長期化するなか、学習の遅れを取り戻す時間を確保するために一部の高校生や東京都、大阪府などの知事が導入を求めた。安倍晋三首相も14日の記者会見で「有力な選択肢の一つだ」と言及している。政府は6月上旬をめどに来秋からの9月入学について論点や課題を整理する方針で、自民党が設置した「秋季入学制度検討ワーキングチーム(WT)」は5月末~6月初旬に政府への提言をまとめるという。文部科学省が主に検討しているのは、小学校開始年齢の遅れを解消するために、2021年9月の新入生を14年4月2日生まれから15年9月1日生まれまでと5カ月分増やす案だ。研究チームの推計では、この場合、新入生は例年より42万5千人増え、1・4倍になる。14年4月2日生まれから15年4月1日生まれの児童は保育所に5カ月長くいることになるため、初年度、地方財政支出は2640億円、教員は2万8100人が追加で必要になり、保育所は新たに26万5千人、学童保育は16万7千人の待機児童が生まれる。一方、文科省は、現行の学年の区切り(4月2日生まれから翌年4月1日生まれまで)を変えずに、新学年を9月1日から始める案も検討する。ただ、この場合、児童全体の教育が5カ月後ろ倒しになり、小学校の開始が遅い児童で7歳5カ月からとなる。欧米は6歳が主流で、韓国や中国も6歳。日本の児童はそれよりさらに1年以上遅れることになる。推計では、学校教育の支出や教員、学童保育の待機児童の大きな増加は見られないものの、保育所の待機児童26万5千人は初年度だけでなく毎年生まれ続ける。苅谷教授は推計をふまえ、来秋からの9月入学について「学校教育だけでなく保育などのシステムを崩壊させ、子育て世代の働き方に大きな影響を与える。エビデンスに基づいた冷静な議論が必要だ」と話す。

*10-3-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200603&ng=DGKKZO59886200S0A600C2EA2000 (日経新聞 2020.6.3) 9月入学、「義務教育5歳から」軸 政府・自民検討 首相「来年度は難しい」
 始業や入学の時期を9月に変える「9月入学」を巡り、政府は2022年度以降の課題として検討を始める。義務教育の開始年齢をいまの6歳から半年ほど前倒しして国際標準に合わせる案が軸だ。幼稚園の入園時期を早める構想もある。20~21年度の導入は見送り、中期的に検討する。9月入学を議論する自民党のワーキングチーム(WT)は2日、安倍晋三首相に21年度までの導入は見送るべきだと提言した。首相は「法律を伴う形で改正するのは難しい」と述べた。WTの柴山昌彦座長は記者団に「国民に理解をいただける形でじっくり検討するのがふさわしい」と語り、9月入学は中期的に議論する意向を表明した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校を受け、提言では「学びの保障は一刻の猶予も許さない喫緊の課題」と明記した。9月入学に関しては「国民的合意や実施に一定の期間を要する」と指摘し「今年度・来年度のような直近の導入は困難」と結論づけた。9月入学の検討は続ける。提言は「秋季入学制度の導入の方式について」と題した文書を添付した。小学校の入学年齢を前倒しするか遅らせるかなどの違いで5案を示した。政府・自民党では、6歳0カ月からの就学年齢を5歳5カ月に前倒しする案を軸に検討する。同案では現行制度と同様に4月2日から翌年4月1日生まれを一学年にするものの入学は9月にする。4月2日以降に6歳になる児童は前年9月に小学校に入学するため、就学年齢は最年少で5歳5カ月になり、現行制度より7カ月早まる。「前倒し」をすれば義務教育が早まり、現在より若い年齢で学力が上がる期待がある。米国の一部の州や英仏独、オーストラリアは5歳で小学生になる子どもがいる。新型コロナに伴う休校で今年の4月入学を9月に遅らせる案があがった際も、政府・自民党内では「義務教育の開始が遅れる。国際競争を考えれば米欧にあわせて『前倒し』にすべきだ」との声が根強かった。提言では幼稚園の入園を前倒しする案も示した。課題もある。移行期の年は小学1年生が大幅に増え、教員や教室を増やす必要がある。移行期の1年生は数が多いまま進級する。受験や就職で他の世代より激しい競争を強いられる懸念がある。前倒し案への賛成論は多い。経団連の井上隆常務理事は「義務教育の開始年齢や入学時期を欧米とそろえれば、大学の国際化に直結して産業界の人材獲得にプラスとなる」と語る。9月入学に反対する声明を5月に出した日本教育学会の広田照幸会長(日大教授)も「国際的にも幼児教育の開始時期は早まっている。選択肢の一つとして議論する価値はある」と話す。新型コロナで当初浮上した9月入学論は、4月の入学を同じ年の9月に遅らせて休校による授業不足を補うものだった。海外の秋入学に足並みをそろえれば留学生の派遣や受け入れが進み、国際化につながるとの意見があった。最年少の入学者は6歳5カ月になり、義務教育の開始が米欧主要国より大幅に遅れる。提言は「影響が大きいため、就学年齢を後ろ倒ししないことを基本に考えるべき」と記した。提言に示した5案には文部科学省の案も含めた。(1)1年で移行するために最初の1学年だけ対象を広げる(2)対象を段階的に変えて5年かけて移行する――の2つだ。提言は「首相の下の会議体で各省庁一体となって、専門家の意見や広く国民各界各層の声を丁寧に聴きつつ、検討すべき」と促した。提言を参考に政府は今夏までに今後の方針を示す見通しだ。

<地方では、“高齢者”の就労は普通であること>
PS(2020年6月18日):*11-1のように、農業分野では新型コロナの影響で日本酒の消費が落ち込み、原料の酒造好適米「山田錦」の産地に影響が表れているそうだが、「酒は百薬の長(適量の酒はどんな良薬よりも効果がある)」と言われているように、麹菌は他の菌を殺して自身が生き残るためにアルコールを作っているのだと思われるため、新型コロナウイルスの抗体を作らせることもできそうだ。そして、これは甘酒・味噌・醤油・酢・ワイン・ヨーグルト・納豆・チーズ等でも起こり得るため、近くの大学と共同研究して新型コロナはじめ各種ウイルスへの抗体を持つ発酵食品を作れば世界で売れると思う。そうすると、*11-3のように、減少するばかりだった地方の生産年齢人口も増加に転じるのではないか?
 なお、生命科学は、現在のところ、漁業で、*11-2のように、1匹の雄の幹細胞から卵や精子を作り、1700匹のニジマスをふ化させるところまで進歩している。
 さらに、*11-4のように、70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法などの関連法が2020年3月31日に参院本会議で成立し、政府は将来的な義務化も視野に入れている。しかし、70歳まで働く機会を確保できるようにするのはよいが、働き手の保護に欠けるのはよくない。では、65歳以上の高齢者は働く能力が低いのかといえば、*11-3のように、基幹的農業従事者の平均年齢は2019年には66.8歳となり、農業は「生産年齢人口」「高齢者」の定義を変えなければならないくらい高齢者に支えられている。もちろん、次世代の人材確保や若者の地方移住は喜ばしいことだが、主たる生産者としての女性や“高齢者”の存在にも気がついてもらいたい。

   

(図の説明:左図は、実った稲で、中央は、農業就業人口とその平均年齢の推移だ。また、右図は、林業の従事者数と林業及び全産業の高齢化率・若年者率の推移だ)

*11-1:https://www.agrinews.co.jp/p51077.html (日本農業新聞 2020年6月14日) [新型コロナ] 日本酒低迷、米産地を直撃 契約3割見直しか 需要回復いつ… 兵庫
 型コロナウイルスの影響で日本酒の消費が落ち込む中、原料の酒造好適米の産地に影響が表れている。酒造好適米の生産量日本一の兵庫県では需要が3割落ち込むとの想定もあり、契約予定数量の見直しを迫られている。来年産以降の生産計画に影響する可能性があり、生産者に不安が広がる。
●来年産計画に影響も
 酒造好適米「山田錦」の作付面積が、地域の水田面積の8割を占める兵庫県三木市吉川町。県内の主力品種「コシヒカリ」から遅れること約1カ月後の5月30日、「山田錦」の田植えが本格的に始まった。生産者の表情は険しく「収穫する頃、世間はどうなっているのか」。苗を見つめながら同町冨岡地区で水稲15ヘクタールを手掛ける冨岡営農組合の西原雅晴組合長は出来秋を不安視する。産地関係者の「悩みの種」は、新型コロナ禍に伴う日本酒の消費減だ。日本酒造組合中央会によると、出荷量は2月が前年同月比9%減、3月が同12%減、4月が同21%減と月を追うごとに落ち込む。5月は集計中だが、4月と同水準とみられる。同中央会は「流通在庫が積み上がっているところもあり、事態は数字以上に深刻」と分析する。産地にも影響が出始めている。JA全農兵庫では4月中旬以降、今秋収穫される2020年産の契約数量の見直しを求める問い合わせが、取引先から相次いだ。「当初の契約予定数量(約1万5000トン)の3割の見直しを迫られるとの想定もあり、現在協議を進めている」(全農兵庫の土田恭弘米麦部長)。深刻な事態を受け、全農兵庫は4月下旬、県内のJAみのり、JA兵庫みらい、JA兵庫六甲と共同で、県内生産者に緊急通知を発出。酒造好適米から主食用品種などへの転換を呼び掛けた。ただ、多くの農家が苗作りを始め「変更できない農家が大半。問題が表面化した時点で手遅れだった」(JA関係者)。当初の生産計画から減産できたのは「数%」(同)だった。冨岡営農組合は緊急通知を受け、酒造好適米の作付面積を1割減らし、主食用品種に切り替えた。「山田錦」に比べ10アール当たり収入は半減する見込みだが、西原組合長は「産地と酒造メーカーは一蓮托生(いちれんたくしょう)。酒造メーカーが苦しむ中、産地も減産に協力したい」と覚悟を決める。兵庫県も独自支援に動く。20年度6月補正予算案に酒造好適米の産地支援を盛り込んだ。余剰在庫の解消に向け、米粉など日本酒以外の用途向けに19年産の酒造好適米を販売する際、販売価格の下落補填(ほてん)に60キロ1万800円を支給。20年産の作付け転換や消費喚起にも取り組む。ただ、影響の長期化は避けられない見通しだ。「自粛ムードが続き、日本酒の需要はすぐに回復しない」(同中央会)とみられるためだ。土田部長は「来年産以降の生産計画の見直しも避けられない」と肩を落とす。西原組合長は「日本酒を飲んで、産地を応援してほしい」と呼び掛ける。

*11-2:https://www.chunichi.co.jp/article/73300 (中日新聞 2020年6月15日) ニジマス、試験管で大量増殖 東京海洋大が世界初、養殖に貢献
 ニジマスの卵や精子のもとになる生殖幹細胞を、試験管で大量に増殖させることに世界で初めて成功したと、東京海洋大の吉崎悟朗教授(魚類養殖学)のチームが15日付の国際的な科学誌の電子版に発表した。たった1匹の雄の幹細胞から卵や精子を作り、1700匹がふ化した。順調に成魚に成長しており、貴重な水産資源の魚を保護しつつ、大量生産を可能にする技術として期待される。吉崎教授は、養殖生産や絶滅危惧種の保全に貢献したいと説明し「ニジマスに近いサケやマスの仲間ならば、数年で保全事業に活用できる。クロマグロへの応用も5年程度で実現化を目指したい」と話した。

*11-3:https://www.agrinews.co.jp/p51096.html (日本農業新聞 2020年6月17日) 担い手さらに減少 60代以下100万人割れ続く
 担い手を含め農業に携わる人材の減少と高齢化に歯止めがかからない。販売農家の世帯員のうち主な仕事を農業とする「基幹的農業従事者」は2019年時点で140万人と5年間で27万人減った上、60代以下は100万人を割り込んだ状態が続いていることが農水省のまとめで分かった。一層の減少・高齢化が見込まれる中、生産基盤を維持するには、60代以下の人材をどう確保していくかが喫緊の課題となる。基幹的農業従事者は、1995年に256万人いたが、05年に224万人、15年に175万人、19年に140万人と大幅な減少が続いている。若年層の減少が止まっておらず、60代以下は95年の205万人から05年には135万人に減少。その後、15年は93万人と100万人を割り、19年はさらに81万人にまで落ち込んだ。高齢化も進展。平均年齢は95年に59・6歳だったが、05年に64・2歳に跳ね上がった。15年は67歳、19年は66・8歳と依然として高い水準で推移する。同省は、農地の維持、活用策などを検討するため5月に新設した「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」で、基幹的農業従事者は「今後一層の減少が見込まれる」との見方を示した。農業生産を支える層の減少に伴い、「農業の持続可能性が確保できない地域が増加する可能性がある」と指摘する。人材確保に向けて、同省は、新規就農や第三者も含めた経営継承を引き続き推進する方針だ。新型コロナウイルス感染拡大の中で「食の大切さに改めて気付いたり、地方への移住を希望したりといった動きもある」(就農・女性課)とし、若年層の参入・定着に一層力を入れる方針。農業の働き方改革や地域の受け入れ態勢の整備も重視する。新たな食料・農業・農村基本計画は、基幹的農業従事者数と農業法人の従業員・役員らを合わせた「農業就業者数」を30年に140万人確保する方針を掲げる。同省は、現状の傾向が続けば30年に131万人に減ると見込む。人材確保に結び付く実効性のある対策を講じることができるかが問われる。

*11-4:https://digital.asahi.com/articles/ASN306GWKN30ULFA010.html (朝日新聞 2020年3月31日) 70歳まで働けるよう、改正法が成立 企業に努力義務
 70歳まで働く機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法などの関連法が31日、参院本会議で可決、成立した。来年4月から適用され、政府は将来的な義務化も視野に入れる。健康な高齢者の働き手を増やし、人手不足に対応するとともに、年金などの社会保障の担い手を厚くする狙いがある。いまの法律は企業に対し、定年廃止、定年延長、再雇用などの継続雇用といった対応をとることで従業員が65歳まで働ける機会をつくることを義務づけている。改正法はこれを70歳まで延長し、現在の三つの対応に加え、別の会社への再就職、フリーランス契約への資金提供、起業の後押し、社会貢献活動への参加支援の四つも選択肢として認める。企業には七つのうちのいずれかの選択肢を設けるよう努力義務を課し、どれを選ぶかは企業と労働組合が話しあって決める。起業の後押しといった雇用契約を結ばない選択肢をとる場合、従業員の収入が不安定になるおそれがあるため、改正法は企業に従業員や勤め先と業務委託契約を継続的に結ぶよう求める。厚生労働省は今後つくる指針の中に働き手の保護策を盛り込む方針だ。新型コロナウイルスの感染拡大が企業業績を急激に悪化させるなか、今回の見直しは企業の人件費負担を増やす要因になりうる。現在は約8割の企業がいったん退職してから賃金水準が低い契約社員などで再雇用する方法をとっているが、70歳に延長した場合も、多くの企業は同じように契約社員などでの再雇用を選ぶとの見方がある。この日成立した関連法には、兼業や副業をする人の労働災害を認定するしくみを見直す改正労災保険法や、定年後に再雇用されて賃金が大きく下がった人に65歳まで支払われる「高年齢雇用継続給付」を縮小する改正雇用保険法なども含まれる。

<遺伝子から人類の進化を辿る>
PS(2020年6月21日):*12-1のように、 中国公安当局が“犯罪捜査を名目に”、全国で血液を採取してDNAをデータベース化し、中国人男性約7億人の「遺伝子地図」作成を進めているそうだ。もちろん、①遺伝子を調べて犯罪を起こしやすい人をあらかじめ逮捕するのは人権侵害である ②遺伝子による判定は、第三者の検証が入りにくいため日本の捜査でも冤罪を生んでいる などの理由で、国民統制や犯罪捜査に使われれば悪である。
 しかし、純粋に科学的に調査すれば、中国のようなユーラシア大陸の人類の交差点で男性7億人分の「遺伝子地図」を作成すれば、人類の進化の過程を辿ることができるため興味深い。また、*12-2のウイルスが、③どの民族に ④いつ感染して ⑤どういう理由で優位性を持って人類の進化を演出したか を解明することができ、東アジア人が新型コロナウイルスに強い理由も人間側の遺伝的要素からわかるかもしれない。また、日本でも地域ごとに調査すれば、⑥どういう民族が ⑦いつ ⑧どこから ⑨どのくらいの人数 ⑩日本列島に移住してきたか がわかると思う。
 このように、新型コロナ致死率・その他の死亡率等を比較すればいろいろな調査に役立つため、*12-3・*12-4の原因別死亡数は、WHOで統一した基準を作って国際比較できる形で正確に出した方がよいと思われる。

   
    2020.5.11毎日新聞     *12-4より    2020.6.12西日本新聞
    
(図の説明:左図は、2020年5月4日現在の各国の新型コロナによる「死亡率/人口100万人」の推移で、欧米が高い。中央の図は、2020年5月16日現在の各国の新型コロナによる致死率「死亡者数/感染者数」「死亡者/人口10万人で、検査数や死亡原因の特定に違いはあるが、やはり欧米で高い。右図は、2020年6月11日現在の日本の死亡率だが、日本全体では中央の図の4.4%より高い5.2%《938/18,008X100》で、中国の5.5%に近い)

*12-1:https://www.sankei.com/world/news/200618/wor2006180033-n1.html (産経新聞 2020.6.18) 中国、男性7億人分の「遺伝子地図」作成 国民統制を強化
 中国公安当局が犯罪捜査を名目に全国で血液を採取してDNAをデータベース化し、中国人男性約7億人の「遺伝子地図」作成を進めていると、米紙ニューヨーク・タイムズが17日、オーストラリアの研究機関の調査を基に報じた。国民統制が一層強まる恐れがあり、外国の人権団体だけでなく中国内でも一部当局者が反対しているという。中国では既に人工知能(AI)による顔認識技術などを駆使した捜査による人権侵害が指摘されているが、DNAのデータベースの一部も既に犯罪捜査に利用され始めているという。公安当局は2017年、小学生男児を含めた全国の男性を対象に血液採取を開始。3500万~7千万人のサンプルを採取し、それを基に全男性の遺伝子地図作成を目指している。データベースを使えば男性1人の遺伝子情報で、その親族も特定が可能。対象を男性に絞っているのは犯罪率が高いためとしている。犯罪と無関係の親族らの人権が損なわれる恐れや当局が情報を乱用する懸念もあり、人権活動家らは遺伝子地図により公安当局が「空前の権力」を手にすると批判している。

*12-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59746430Z20C20A5MY1000/?n_cid=SPTMG053 (日経新聞 2020/5/30) 人類に宿るウイルス遺伝子、太古に感染 進化を演出、驚異のウイルスたち(2)
 地球上にはいろいろなウイルスがいる。人類の進化にもウイルスが深くかかわってきた。太古のウイルスが人類の祖先の細胞に入り込み、互いの遺伝子はいつしか一体化した。ウイルスの遺伝子は今も私たちに宿り、生命を育む胎盤や脳の働きを支えている。新型コロナウイルスは病原体の怖さを見せつけた。過酷な現実を前に、誰もが「やっかいな病原体」を嫌っているに違いない。ウイルスが「進化の伴走者」といわれたら、悪い印象は変わるだろうか。母親のおなかの中で、赤ちゃんを守る胎盤。栄養や酸素を届け、母親の「異物」であるはずの赤ちゃんを育む。一部の種を除く哺乳類だけが持つ、子どもを育てるしくみだ。「哺乳類の進化はすごい」というのは早まった考えだ。この奇跡のしくみを演出したのはウイルスだからだ。レトロウイルスと呼ぶ幾つかの種類は、感染した生物のDNAへ自らの遺伝情報を組み込む。よそ者の遺伝子は追い出されるのが常だが、ごくたまに居座る。生物のゲノム(全遺伝情報)の一部と化し、「内在性ウイルス」という存在になる。内在性ウイルスなどは、ヒトのゲノムの約8%を占める。ヒトのゲノムで生命活動などにかかわるのは1~2%程度とされ、ウイルスが受け渡した遺伝情報の影響は大きい。見方によっては、進化の行方をウイルスの手に委ねたといっていい。哺乳類のゲノムに潜むウイルスは注目の的だ。東京医科歯科大学の石野史敏教授は、ヒトなど多くの哺乳類にある遺伝子「PEG10」に目をつけた。マウスの実験でPEG10の機能を止めると胎盤ができずに胎児が死んだ。PEG10は、哺乳類でも卵を産むカモノハシには無く、どことなくウイルスの遺伝子に似る。状況証拠から「約1億6000万年前に哺乳類の祖先にウイルスが感染し、PEG10を持ち込んだ。これがきっかけで胎盤ができた」とみる。胎盤のおかげで赤ちゃんの生存率は大幅に高まった。ウイルスが進化のかじ取りをしていた証拠は続々と見つかっている。哺乳類の別の遺伝子「PEG11」は、胎盤の細かい血管ができるのに欠かせない。約1億5000万年前に感染したウイルスがPEG11を運び、胎盤の機能を拡張したようだ。ウイルスがDNAに潜むのには訳がある。「生物の免疫細胞の攻撃を避け、縄張りも作れる」(石野教授)。ウイルスは生きた細胞でしか増えない。感染した生物の進化も促し、自らの「安住の地」を築きたいのかもしれない。東海大学の今川和彦教授は「過去5000万年の間に、10種類以上のウイルスが様々な動物のゲノムに入り、それぞれの胎盤ができた」と話す。ヒトや他の霊長類の胎盤は母親と胎児の血管を隔てる組織が少ない。サルの仲間で見つかる遺伝子「シンシチン2」は、約4000万年前に感染したウイルスが原因だ。さらにヒトやゴリラへ進化する道をたどった一部の祖先には、3000万年前に感染したウイルスが遺伝子「シンシチン1」を送り込んだ。初期の哺乳類はPEG10が原始的な胎盤を生み出した。ヒトなどではシンシチン遺伝子が細胞融合の力を発揮し、胎盤の完成度を高めた。本来のシンシチン遺伝子はウイルスの体となるたんぱく質を作っていたが、哺乳類と一体化すると役割を変えた。父親の遺伝物質を引き継ぐ赤ちゃんを母親の免疫拒絶から守る役目を担っているとみられる。石野教授は「哺乳類は脳機能の発達でもウイルスが進化を助けた」と指摘する。「複雑になった脳の働きを、ウイルスがもたらす新たな遺伝子が制御しているのだろう」。ウイルスが「進化の伴走者」と言われるゆえんだ。ウイルスの影響がよくわかる植物の研究がある。東京農工大学や東北大学などのチームはウイルスがペチュニアの花の模様を変える様子をとらえた。花びらの白い部分が、ゲノムに眠るパラレトロウイルスが動き出すと色づく。ダリアやリンドウでも似た現象がある。東京農工大の福原敏行教授は「一部はウイルスの仕業かもしれない」と語る。哺乳類のように進化の一時期に10種類以上の遺伝子がウイルスから入った例は見つかっていない。哺乳類も、形や機能の進化にウイルスを利用してきたのだろう。進化の歴史を隣人として歩んできたウイルスと生物の共存関係は今後も続く。

*12-3:https://www.yomiuri.co.jp/national/20200614-OYT1T50084/ (読売新聞 2020/6/14) 「コロナ死」定義、自治体に差…感染者でも別の死因判断で除外も
新型コロナウイルス感染症の「死者」の定義が、自治体ごとに異なることが、読売新聞の全国調査で分かった。感染者が亡くなった場合、多くの自治体がそのまま「死者」として集計しているが、一部では死因が別にあると判断したケースを除外。埼玉県では10人以上を除外したほか、県と市で判断が分かれた地域もある。専門家は「定義がバラバラでは比較や分析ができない。国が統一基準を示すべきだ」と指摘している。
■全員精査 厳しく
 読売新聞は5月下旬~6月上旬、47都道府県と、県などとは別に独自に感染者集計を発表している66市の計113自治体に対し、集計方法などを取材した。これまでに感染者の死亡を発表したのは62自治体。このうち44自治体は、死因に関係なくすべて「死者」として集計していた。その理由として、「高齢者は基礎疾患のある人が多く、ウイルスが直接の死因になったのかどうか行政として判断するのは難しい」(東京都)、「全員の死因を精査できるとは限らない」(千葉県)――などが挙がった。感染者1人が亡くなった青森県は「医師は死因を老衰などと判断した。感染が直接の死因ではないが、県としては陽性者の死亡を『死者』として発表している」と説明している。
■「区別は必要」
 一方、13自治体は、「医師らが新型コロナ以外の原因で亡くなったと判断すれば、感染者であっても死者には含めない」という考え方で、埼玉県と横浜市、福岡県ではすでに除外事例があった。埼玉県は12日時点で13人の感染者について、「死因はウイルスとは別にある」として新型コロナの死者から除外。13人はがんなどの死因が考えられるといい、県の担当者は「ウイルスの致死率にもかかわるので、コロナなのか、そうでないのかを医学的に区別するのは当然だ」と話す。横浜市でも、これまでに死亡した感染者1人について、医師の診断により死因が別にあるとして、死者から除外したという。
■県と市でズレ
 福岡県では、県と北九州市で死者の定義が異なる事態となっている。北九州市では、感染者が亡くなればすべて「死者」として計上している。これに対し、県は、医師の資格を持つ県職員らが、主治医らへの聞き取り内容を精査して「コロナか否か」を判断。この結果、これまでに4人の感染者について、北九州市は「死者」として計上し、県は除外するというズレが生じている。また、62自治体のうち残る5自治体は「定義は決めていないが、今のところコロナ以外の死因は考えられず、死者に含めた」などとしている。厚生労働省国際課によると、世界保健機関(WHO)から死者の定義は示されていないといい、同省も定義を示していない。だが、複数の自治体からは「国が統一的な定義を示してほしい」との声が上がっている。
●国「速報値と捉えて」
 厚労省は12日現在、「新型コロナウイルス感染症の死亡者」を922人と発表している。都道府県のホームページ上の公表数を積み上げたといい、この死者数をWHOに報告している。一方で同省は、新型コロナによる死者だけでなく国内のすべての死亡例を取りまとめる「人口動態統計」を毎年公表している。同統計は医師による死亡診断書を精査して死因が分類されるため、新型コロナの死者は現在の公表数よりも少なくなるとみられる。国として二つの「死者数」を示すことになるが、同省結核感染症課の担当者は「現在の公表数についての判断は自治体に任せており、定義が異なっていることは承知している。現在の数字は速報値、目安として捉えてもらいたい。統一された基準でのウイルスによる死者数は、人口動態統計で示される」と話している。
●識者「統一すべきだ」
 大阪市立大の新谷歩教授(医療統計)は「死者数は世界的な関心事項で、『自治体によって異なる』では、他国に説明がつかない。国際間や都道府県間での感染状況を比較するためにも、死者の定義を国が統一し、明示すべきだ」と指摘する。患者の治療に当たっている国立国際医療研究センター(東京)の大曲貴夫・国際感染症センター長も「医療従事者にとって、死者数は医療が適切に行われているかどうかを見定める指標の一つ。第2波に備える意味でも、ぜひ定義を統一してほしい」と求めた上で、「迅速性が重要なので、『陽性判明から4週間以内に死亡したケース』など、人の判断を挟まない方法が良いのではないか」と提案している。

*12-4:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14724 (Web医事新報No.5014 2020年5月30日発行) [緊急寄稿]日本の新型コロナ対策は成功したと言えるのか─日本の死亡者数はアジアで2番目に多い(菅谷憲夫) 、菅谷憲夫 (慶應義塾大学医学部客員教授,WHO重症インフルエンザガイドライン委員) 、登録日:2020-05-20、最終更新日: 2020-05-20
1.SARS-Coronavirus-2(SARS-CoV-2)の日本の流行
 世界保健機関(WHO)は,本年3月11日に新型コロナウイルス〔SARS-Coronavirus-2(SARS-CoV-2)〕のパンデミックを宣言し,日本国内でも,2020年3月から流行が本格化した。4月7日に,東京,神奈川,千葉など7都府県に緊急事態宣言が出て,4月16日には,宣言が全国に拡大された。5月に入り,日本の流行も終息傾向が見られるようになった。Social Distancingや休校の効果が出てきたものと思われる。
2.緊急事態宣言解除の影響
 これからの問題は,休校,外出やイベントの自粛,飲食店の休業,テレワークなどの対策が解除されると,流行が再燃する可能性が大きいことである。今,欧米諸国では,ロックダウンの解除,reopeningが課題となっている。国によって差はあるものの,5月中旬から徐々に厳しい外出禁止措置が解除されつつある。これがどのような影響をもたらすかは注目されるところである。ロックダウン期間中に人々が免疫を獲得したわけではなく,またSARS-CoV-2が完全に消失するとは考えられず,単に厳しい外出制限により人と人の接触が減ったので,患者数が一時的に減少したに過ぎない。夏になると,気候により流行が下火になると期待する向きもあるが,インドやフィリピンの流行状況を見ると,インフルエンザほどの季節性は望めないのではないかという意見もある。
3.日本のSARS-CoV-2対策は優れていたか
 政府を中心に,日本の死亡者の絶対数が欧米に比べて少ないから,日本のSARS-CoV-2対策は優れていたとか,成功したという論調が,最近多く聞かれる。ところが,アジア諸国は欧米諸国に比べて,感染者数も死亡者数も圧倒的に少ない事実がある。そして,アジア諸国間で,人口10万人当たりに換算した死亡者数を比較すると,日本は,フィリピンに次いで2番目に多く,日本の対策が優れていたとは言い難い(表1)。欧米諸国での人口10万人当たりのSARS-CoV-2感染者数は,アジア諸国に比べて10倍から100倍以上も多い。スペイン,イタリア,フランス,英国での感染者数は,10万人当たり275〜492人にもなるが,インド,中国,日本,韓国,台湾では,10万人当たり1.9〜21.5人に過ぎない。日本は,10万人当たり感染者数では,シンガポール,韓国,パキスタン等に次いで,5番目に位置する。シンガポールでは,最近,外国人労働者の宿舎で集団発生が起きたために,例外的に感染者数が488人と急増した。現時点での日本の感染者数は1万6203人,死亡者数は713人である(5月16日)。致死率を計算すると,4.4%(713/1万6203)と,かなり高率である。日本の例年の季節性インフルエンザの致死率は,1000万人のインフルエンザ患者数で,5000人の死亡者が出ていると仮定すると,0.05%(5000/1000万人)程度であるから,その約100倍の致死率となる。いずれにしろ,日本の感染者数は,国際的にも批判されたが,RT-PCR検査数が異常に少ないことが影響し,信頼できる数値とは言えない。
4.世界各国のSARS-CoV-2致死率
 世界各国の致死率(死亡者数/感染者数)は,欧米諸国では極めて高く,英国,フランス,イタリア,スペインなどでは,12〜15%となる(表1)。これは,1918年のスペインかぜの欧米の致死率1〜2%をはるかに超えて,驚くべき高値である。不明の点も多いが,欧米での高い致死率は,長期療養施設での流行により,多数の高齢者が死亡したためとも報道されている。アジア諸国の致死率は,インドネシアとフィリピンは6%台と高いが,中国が5.5%,日本は4.4%である。韓国が2.4%,台湾が1.6%と低い。表1を見ても,アジア諸国の致死率は,欧米諸国よりも明らかに低い。欧米よりもアジア諸国の死亡者数が少ないという現象は,スペインかぜの経験とは真逆であり,説明が困難である。例えば,スペインかぜの死亡者数は,アジア全体で1900万から3300万人で,欧州全体で230万人と報告されている(表2)。1918年当時は,アジアに比べて欧州諸国が社会経済的に圧倒的に優位だった影響と説明されてきた。社会経済的な格差は大幅に改善されたとはいえ,現在も欧州諸国が優位であると考えられるにもかかわらず,アジア諸国の死亡者数が少ない理由は説明がつかない。
5.人口10万人当たりSARS-CoV-2の死亡者数
 欧米諸国とアジア諸国での,SARS-CoV-2流行のインパクトの違いは,10万人当たりの死亡者数で比較すると,一段と明確となる(表1)。スペイン,イタリア,フランス,英国での死亡者数は,10万人当たり40〜60人にもなる。欧米諸国の中で,流行を徹底的に抑え込んだと高く評価されるドイツでも,10万人当たり死亡者数は9.5人であるが,対照的に,アジアで最も死亡者数の多いフィリピンでも,10万人当たり0.77人に過ぎない。インド,中国,日本,韓国,台湾などでは,10万人当たり0.03〜0.56人となる。欧米諸国とアジア諸国との差は明らかである。日本とドイツの人口10万人当たりの死亡者数を比べると,0.56人対9.47人で17倍差があり,特に多くの死亡者が出ているスペインと比べると,0.56人対58.75人で,実に105倍となる。まさに,欧米諸国ではSARS-CoV-2流行のインパクトは桁違いに大きい。欧米とアジアとの死亡者数には,100倍の違いがあるが,原因は不明である。可能性として考えられるのが,①人種の差,②年齢構成の違い,すなわちアジア諸国では若年層が多い,③BCG接種の影響,④欧米諸国では,高い感染力を持ち病毒性の強い,アジアとは別のSARS-CoV-2流行株が出現した─等が考えられる。
6.日本の死亡者数はアジアでワースト2
 欧米諸国と比べて死亡者数が少ないというだけで,日本のSARS-CoV-2対策が成功したという報道は誤りである。人口10万人当たりの死亡者数をアジア諸国で比べると,1位はフィリピン,2位が日本であり,日本は最も多くの死亡者が発生した国の一つである。注目されるのは,医療崩壊した武漢など,SARS-CoV-2の発生源とされた中国を上回っている点である(表1)。最も死亡者が少ない国・地域は台湾で,感染者数440人で死亡例はわずかに7人である。台湾の人口は2370万人なので,この割合を日本に当てはめると,患者数2350人,死亡者数は37人と驚異的な低値となる。日本では700人以上の死亡者が出たが,対策によっては,まだまだ多くの命を救えた可能性がある。
7.今季は大規模なインフルエンザ流行が予測される
 2019/20年シーズンの日本のインフルエンザ流行は,例年よりも数週早く,11月中に各地で注意報が出て大流行が懸念されたが,結局,A/H1N1pdm09による流行のみで,A/香港型(H3N2)の流行はなく,2020年1月には終息した。また,2018/19年シーズンに流行がなかったB型インフルエンザも出現せず,2年連続して流行がなかった。約700万人程度の患者数と言われ,小規模の流行に終わった。したがって,2020/21年シーズンは,A/香港型(H3N2)とB型による,大規模な混合流行の可能性が高い。
8.おわりに
 日本では,欧米と比較してSARS-CoV-2死亡者数は少ないことは事実である。しかし,それは日本の対策が成功したとか,優れていたわけではない。アジア諸国の感染者数,死亡者数は,欧米に比べて,圧倒的に少ないのであり,その中では,最大級の被害を受けているのが日本である。今,第2波の問題が世界のトピックとなっているが,日本を含めたアジア諸国では,第2波は,欧米諸国と同じような激甚な流行となる危険性もある。そのため,日本の第2波対策は,欧米の被害状況を詳しく分析して,慎重に立案,準備する必要がある。特に今季は,A/香港型とB型の大規模なインフルエンザ混合流行が予測され,インフルエンザとSARS-CoV-2の同時流行にも備える必要がある。

<地方住まいの長所と短所>
PS(2020年6月22日):*13-1のように、2019年度の「森林・林業白書」は、2015年の国連サミットで採択され①気候変動対策 ②森林の持続可能な管理等の17目標を掲げた国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献を特集したそうだ。森林は、地球温暖化防止・水源涵養、国土保全、教育など幅広い機能があり、日本は国土の2/3を森林が占め収穫期でもあるため、大切に使えば大きな資源になる。しかし、そのためには、「スマート林業」「3Kからの脱却」「若者に魅力ある産業への脱皮」を急いで山村を再生する必要があり、国民は一部の企業を潤わせるために森林環境税を支払うのではないため、山から得られる「富」を地元に還元して魅力ある山村造りに役立てることが重要だ。また、せっかく育てた国有林を、民間企業に皆伐させ、造林は国が環境税を使って責任を持って行うなどという呆れた政策を作らない国民を育てるためには、子どもをコンクリートで作られた都市ではなく、自然の近くで育てて自然の美しさ・素晴らしさ・すごさ・貴重さを肌身で感じさせる必要がある。そこで、地方の学校では、*13-2のように、近くの森林や農園に児童の手で巣箱を設置し、森や農園や巣箱の中の変化の様子をカメラで撮影し、ITを使って学校のパソコンに映し出せる仕掛けをしたらどうかと思う。なお、現在の科学は、*13-3のように、太陽系外に地球に似た公転軌道をもつ第2の地球をすばる望遠鏡が発見し、太陽系内でも火星や月には人間が住めそうとのことだ。
 しかし、地方に住むにあたって不便なのは、*13-4・*13-5のような公共交通機関における赤字路線の存在と廃止の危機だ。私は、工夫すればいろいろなやり方があると思うが、人口減少や運転手不足に悩む地方の交通網を守る改正地域公共交通活性化再生法が5月27日に成立し、国交省は、路線維持への自治体の関与を強めることで影響を最小限にとどめたい考えだそうだ。路線廃止だけでなく、多様な利用をして黒字化したり、自治体の総合戦略とあわせて駅ビル・駅前の街づくり・産業・住宅地などとセットで考える必要があるため、確かに自治体主導にするのがよいだろう。

 

(図の説明:1番左は十勝千年の森、左から2番目は人間がかけた巣箱で子育て中のフクロウの雛だ。また、右から2番目は、手入れされた森林で、1番右は、庭にかけた巣箱で子育てしているシジュウカラだ)


  EV電車      燃料電池電車       貨客混載     超電導電線敷設

(図の説明:電車だけ考えても、1番左のEV電車、左から2番目の燃料電池電車などに変更して電力を自ら作る方法がある。また、右から2番目のように、宅急便などと組んで貨客混載したり、1番右のように、線路に超電導電線を敷設し、地方から都市への送電を担って稼ぐ方法もある。なお、電車は自動運転にすれば、人件費が節約できるだろう)

*13-1:https://www.agrinews.co.jp/p51121.html (日本農業新聞論説 2020年6月20日) 林業白書 成長と循環で再生促せ
 政府が閣議決定した2019年度の「森林・林業白書」は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献を特集した。時代の要請に沿った役割発揮への期待を込めたが、成否の鍵は山村の再生が握る。SDGsは、2015年の国連サミットで採択された。持続可能な世界を実現するため、貧困や飢餓の撲滅、気候変動対策、森林の持続可能な管理など17の目標を掲げた。2030年までの実現に向けて、世界的な取り組みが始まっている。森林は、地球温暖化防止や水源のかん養、国土保全、教育など幅広い公益的機能がある。日本の森林は、国土面積の3分の2を占め、公益機能の発揮に期待が高まっている。白書は「伐(き)って、使って、植える」という循環利用を基本にした管理が、SDGsの実現に貢献することを示した。特集で取り上げたのは、政府が掲げる森林・林業の成長産業化と、SDGsに沿った管理の両立を目指す決意表明とも言えよう。ただ森林・林業の現状は楽観できるものではない。木材の自由化政策と木材価格の低迷で、山村は廃れ、所有者や境界が分からない森林、手入れの届かない森林が目立つ。担い手不足と高齢化も深刻で、このままでは、成長産業化どころか、森林を維持することも危うくなる。林野庁は、所有者が放置している森林を林業経営者の管理に委ねる森林経営管理制度や森林環境税の導入で、循環利用にてこ入れをする。白書は、そうした政策の背景と狙いを詳しく示した。国民理解には必要なことだろう。難問は山村の再生である。若者が定住できるように魅力ある山村の創造が必要だ。機械化による「スマート林業」を進め、「きつい、汚い、危険」の「3K」イメージを払拭(ふっしょく)し、男女を問わず若者に魅力ある産業への脱皮も急ぐ必要がある。「担い手」である森林組合の活性化を促し、林家や林業従事者の経営と生活を安定させる環境がなければ、成長産業化と循環利用との両立は困難だろう。日本の森林は、戦後に植えた人工林を中心に主伐期を迎えている。いわゆる収穫期だ。国産材の利用も増えている。SDGsへの貢献と併せて、森林・林業に追い風が吹いていると言える。これを、山村再生につなげる必要がある。宝の持ち腐れにせず、計画的で適切な伐採と活用を進めるべきだ。その際に、山から得られた「富」をきちんと地元に還元し、魅力ある山村づくりに役立てることが肝心だ。一部の木材企業だけが潤って、森林を守る人たちが暮らす山村が衰退するようでは、循環利用の森林・林業を展開することはできない。白書は、「山村の活性化」を巡って地元に利益を還元する必要性を示した。しかし、山村社会のインフラ整備や就業機会の創出などに関する記述は厚みに欠ける。今後の課題である

*13-2:https://www.agrinews.co.jp/p51141.html (日本農業新聞 2020年6月22日) 絶滅危惧「ブッポウソウ」 ブドウ園に巣箱 害虫駆除で一石二鳥 広島県世羅町のワイナリー
 絶滅危惧種の渡り鳥「ブッポウソウ」を利用してブドウの害虫を駆除するプロジェクトが広島県世羅町で始まった。ワインブドウを栽培する園地に巣箱を設置して繁殖を促し、葉を食害するコガネムシ類を捕食してもらう。薬剤防除を減らすことで、生産者の負担を減らしながら、鳥の生育数の増大、良質なブドウで地域の特色を打ち出したワイン作りを目指す。ブッポウソウは、羽が青色でハトより小さい夏鳥。越冬場所の東南アジアから4月末~5月上旬に、本州や四国、九州に飛来する。昆虫を食べ、コガネムシなど甲虫類を好む。ただ、営巣場所が減り、急激な生息数の減少で、近い将来絶滅の可能性が高いとされる環境省のレッドリストでIB類に指定される。電柱などにも営巣することから、生息数の回復に巣箱の設置が有効という。プロジェクトは町産ブドウでワインを造る「せらワイナリー」を経営するセラアグリパークが始めた。三原野鳥の会の指導を受け、同社にブドウを出荷する世羅ブドウ生産組合と連携する。せらワイナリーと隣接するせら夢公園自然観察園では、野鳥の会が昨年初めて巣箱を設置し、ひなが巣立ったことを確認した。今年は組合員19戸が、園内や周辺の柱に巣箱30個を設置した。セラアグリパークは、巣箱を設置した園のブドウで造った商品をブランド化する計画だ。 

*13-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200531&ng=DGKKZO59745590Z20C20A5MY1000 (日経新聞 2020.5.31) 「第2の地球」公転軌道 地球に似る 太陽系外惑星 すばる観測
 太陽系外で生命が存在できる領域にあり「第2の地球」の候補とされる惑星が、地球と似た公転軌道をもつことが、国立天文台のすばる望遠鏡による観測でわかった。この領域にある惑星の軌道が詳しくわかったのは初めてで、生命の生息条件を探る一歩になるという。東京工業大学や自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターなどのチームが、みずがめ座の方向、約40光年の距離にある赤色わい星「トラピスト1」を観測した。周囲には少なくとも7つの惑星が公転し、うち3つは生命がすめる領域「ハビタブルゾーン」にあり岩石でできている。このゾーンは恒星から適度に離れていて熱すぎたり冷たすぎたりせず、液体の水が存在できる。研究チームは、米ハワイ島にあるすばる望遠鏡に搭載した観測装置でトラピスト1を調べた。観測中にハビタブルゾーンにある2つの惑星を含む3つの惑星が、トラピスト1の前面を横切るように通過した。トラピスト1が放つ光の変化を詳細に調べたところ、自転軸の傾きが判明。惑星の公転軌道面に対してほぼ垂直であることがわかった。太陽系の惑星は太陽の自転軸に対しほぼ垂直の軌道で回っているが、太陽系外では軌道が傾いた惑星もある。軌道の傾きは、恒星から受ける放射線や紫外線の変化を通じて環境を左右している可能性がある。成果は軌道の傾きと環境を探る研究の出発点になるという。

*13-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/527823 (佐賀新聞 2020.5.28) 伊万里-唐津、1億9300万円赤字 JR九州、線区別収支公表
 JR九州は27日、1日1キロ当たりの平均通過人員が2千人未満だったのは2018年度に17線区あり、営業損益が全て赤字だったと発表した。佐賀県内の線区の赤字額は筑肥線(伊万里―唐津)が1億9300万円、唐津線(唐津―西唐津)は2億2900万円で、ローカル線の厳しい現状が改めて浮き彫りになった。同社が線区別の収支を幅広く公表したのは初めて。沿線の自治体や住民に利用促進の手だてを考えてもらいたいとして、青柳俊彦社長が福岡市での会見で説明した。「将来的な鉄道網の維持可能性を高めるために知恵を出し合いたい」とし、複数の線区で立ち上げた自治体との検討会で対策を講じる考えを示した。運賃などの営業収益から、運行にかかる人件費や燃料代などを営業費として差し引いた金額を公表した。伊万里―唐津では営業収益3900万円に対し、営業費は2億3200万円、唐津―西唐津は営業収益3300万円、営業費2億6200万円だった。筑肥線の唐津―筑前前原(福岡県)と筑前前原―姪浜(同)、唐津線の久保田―唐津は2千人以上で、公表の対象外としている。JR九州管内には全59線区があるが、公表対象を限定した点について青柳社長は「ローカル線では30年前と比べて平均通過人員が7割以上減っているところもある。まずスポットを当て、一企業だけで維持するのは大変だということを理解いただく」と述べた。17線区を廃止したり、バスなど別の交通形態に転換したりする可能性に関しては「結果としてあるかもしれないが、今の段階でそれらを前提に議論することは考えていない」と話した。赤字額が最大だったのは日豊線の佐伯(大分県)―延岡(宮崎県)間の6億7400万円。災害の影響があった日田彦山線などは公表していない。

*13-5:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/527934 (佐賀新聞 2020.5.28) 地域の足、自治体主導で、改正地域公共交通活性化再生法が成立
人口減少や運転手不足に悩む地方の交通網を守る改正地域公共交通活性化再生法が27日、参院本会議で可決、成立した。過疎地域などでバス路線の存続が難しくなる前に、自治体が後継事業者を公募するなど、対策を早期に検討する制度を創設。住民の足が途切れないようにする。バス事業は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛で乗客が大幅に減少しており、路線撤退が増える恐れもある。国土交通省は、路線維持に対する自治体の関与を強めることで、影響を最小限にとどめたい考えだ。新制度では、採算割れなどを理由にバス事業者が路線廃止を想定し始めた段階で、自治体が対策に着手する。人口や住民の年齢層など地域の実態に応じて(1)コミュニティーバス(2)乗り合いタクシー(3)マイカーを使う自家用有償旅客運送―といった存続の選択肢を検討。事業者を公募するか、自治体が直接運営する。一方、地方都市を念頭に、路線バスの参入審査に地元自治体の意見を反映させる仕組みも設ける。新規参入により、客を奪い合って経営が悪化したり、通勤・通学など利用客が見込める時間帯だけに運行が集中して不便になったりする恐れがあるためで、国は自治体の意見を参考に、認可するかどうか決める。

| 年金・社会保障::2019.7~ | 04:14 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.8.30 高齢者差別や人権無視という病根がはびこる理由は何なのか? (2019年8月31日、9月1、2、3、5、7日に追加あり)
 
   日本の出生数推移      一人当たりGDP比較     2019年度政府予算
                               2018.12.21産経新聞

(図の説明:左図のように、日本の出生数・出生率は戦後の1947~1949年を最高として漸減しているが、中央の図のように、一人当たりGDPは著しく増加している。個人の豊かさは、一人当たりGDPの方がよく表すが、近年は世界の一人当たりGDPも上がり、世界と比較した場合の日本の一人当たりGDP倍率は下がっている。また、右の2つの図のように、政府支出は過去最高に達しているが、社会保障についてはその充実や高齢者の増加で仕方がない面があるものの、投資に当たらない景気対策と称する生産性の低い支出は国全体の生産性向上の足を引っ張っている)

(1)高齢ドライバーに対する運転免許返納の大合唱は正しくないこと
1)高齢者の免許証返納を奨める高齢者いじめ
 *1-1のように、高齢ドライバーの同一の事故が繰り返し報道され、家族に高齢の親に免許返納を提案させたり、強引に免許証を取り上げさせたりして、高齢者に免許返納させようという動きがある。

 報道を信じた家族は、「よかれ」と思って善意で老親に免許返納を奨めるわけだが、同世代の高齢ドライバーによる事故が報じられたからといって、運転の必要性や老化の程度は人によって異なるため、他の高齢ドライバーが起こした事故を個人に敷衍するのは妥当ではない。

 さらに、まだ運転できる人に無理に免許を返納させれば、仕事や買い物に支障をきたしたり、高齢者を引きこもりにしたりして、健康寿命を縮める。そのため、「運転の自信を失った」「必要でなくなった」と本当に自分で感じる人以外は、家族の勧めがあっても免許を返納する必要はないと、私は考える。

 このような中、*1-5のように、警察庁が、①高齢ドライバーに実技試験を課し ②技能に課題があれば安全機能を備えた車のみに限って運転を認める「限定免許」の対象とする 方針を出した。しかし、教習は、高齢者だけを対象とするのではなく、長くペーパードライバーだった人が再度運転を始める時や自動車の仕組みが大きく変わった時もやる必要があると、私は思う。

 なお、高齢ドライバーによる事故には、ハンドルやブレーキ操作ミスが多いそうだが、個人を犠牲にして免許を返納させるよりも、安全装置を導入する方が理にかなっている上、それによって新時代のニーズにあった自動車ができるのである。

2)生産年齢人口にあたる人が起こした事故
 しかし、*1-2のような生産年齢人口にあたる人の「あおり運転」もたびたび起こっており、これは、1)とは異なり、意図的であって許し難い。そのため、何故、すぐに対策を講じなかったのかが疑問だ。そして、一般の人が気を付けるべきことは、必ずドライブレコーダーを装備して運転時の証拠を残し、事故時に冤罪を押し付けられないようにすることとなる。

 また、*1-3のケースは、ワゴン車とバイクの追突死亡事故が発生し、ワゴン車の運転手はスマホの画面でミステリーやホラー系の漫画を読みながら運転を続け、夜間だったことからその様子がフロントガラスに反射して写り、それが本人の車のドライブレコーダーにはっきりと記録されていたのだそうで、このようにたるんだ人が運転しているのは恐ろしいことである。

3)根本的な解決
 自動車は既に贅沢品ではなく生活必需品となっており、とりわけ足の悪い人には便利な移動ツールだ。そのため、私が10年以上前から言っているように、*1-4のような手放し運転できる運転支援システムや安全装置の搭載は、EV・燃料電池車・ガソリン車などのエネルギー源や大型・中型・小型車といった車種を問わず、どの車種でも速やかに行うべきである。

(2)個人情報の無断使用と個人情報保護について
1)就職情報サイト「リクナビ」の「内定辞退率」予測データ販売
 日経新聞は、*2-1のように、①就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の同意を得ずに「内定辞退率」の予測データを売っていたこと ②リクナビが就職活動の代表的な情報プラットフォームになっていること ③学生の信頼を裏切ったこと について、「個人情報を扱う自覚はあるか」と厳しく糾弾している。

 しかし、*2-2のように、日経新聞は経産省の「信頼ある自由なデータ流通政策」に協力してきた。上の③のように「信頼したから」と言ってそれに応える人ばかりではないし、②のように情報プラットフォームになって多数の情報を扱うからより正確な結果が出せるのであり、購入価値のあるデータを作るには多量のデータを分析することが必要だろう。そのため、「プラットフォーマー」だったことが問題なのではなく、個人情報を他の用途で勝手に使用してよいことにしたのが問題なのである。さらに、①の予測は、AIが統計的に推測できるような“普通”の行動をする人にしか当てはまらないことにも留意すべきだ。

 また、2013年にJR東日本が「Suica」の乗降データを匿名化して社外に販売し、個人情報保護に反すると批判が相次いだことについて、*2-3のように、匿名化されたビッグデータでもいくつかのデータを組み合わせれば、高確率で個人を特定できることが指摘されている。つまり、「匿名加工すれば個人情報の扱いではなくなり、本人の同意がなくても第三者に提供できる」という指針が間違っているのだ。

2)医療ビッグデータの活用!?
 日経新聞は2019年8月21日の社説で、*2-4のように、「①医療ビッグデータを使いこなせ」「②高齢化が進む中、効率的で質のよい医療の提供は重要な課題だが、それを支える検査や治療の記録などの膨大な医療ビッグデータの活用が進まない」「③デジタル技術が生かされておらず、宝の持ち腐れで、医療産業の国際競争力も低下しかねない」などと記載している。

 しかし、①は個人情報の悪用に繋がる可能性が高く、②③はデータ提供者の同意の上で治験を行ったり、医療保険会社が使用された薬と治療効果を比較したりすれば、ビッグデータでなくても検証できる。さらに、「新薬開発のためなら個人の権利を無視してもよい」と考える製薬会社があるとすれば、その会社の薬が患者の側に立って開発されたとは思えない。

 そのため、厚労省の有識者会議で「用途に公益性があると認められた場合」といってもそれがどういう場合かを吟味する必要があるくらいで、私は、EUのやり方の方が見識があると思う。日本もルールづくりに関与したいのなら、まず「人権」「個人情報」「個性」「差別」などの正しい意味を理解してからにすべきだ。

3)ゲノムデータの収集
 東芝は、*2-5のように、従業員のゲノムデータを収集して数万人規模のデータベースを構築するそうだ。断りにくいという社内のプレッシャーはあるものの、これは希望者を対象にしている点で許せる。しかし、個人の生活や遺伝的要因を会社に調べられるのは、(どうにでも使えるという)リスクがある。

 なお、東芝は、これによって多くのデータを分析し、特徴別に複数のパターンに分けることで、最適な予防法・治療法の開発に繋げることが可能になるとしているそうだ。

4)マイナンバーカードによる強引なデータ収集
 政府は、*2-6のように、個人番号が記載されたマイナンバーカードの普及率を高めるため、年度末までに国・地方の全ての公務員にマイナンバーカードを取得させるそうだ。

 国がそうまでするのは、国民一人一人に割り当てられた12桁のマイナンバーで年金・税金・社会保障などを照合し、国民を効率的に監視下に置くのが目的だ。そのため、マイナンバーカードの取得が進まないのであり、その国民の判断は、国が率先してビッグデータを活用して個人情報を使うことを奨めている人権無視の政策を進めていることから見ても正しい。

(3)論調に見る「個人の権利」「社会保障」の軽視
1)年金制度は効率的に運用されているか
 日経新聞はじめ多くのメディアは、*3-1のように、①日本の社会保障は「中福祉・低負担」で ②その差を財政赤字が埋めているため ③負担を中レベルに引き上げるべきだ とする。しかし、ここには年金保険料を支払ってきた割に年金をもらえているか、つまり、i)年金資産運用の適格性 ii)年金保険料集金の網羅性 iii)年金管理事務の効率性 iv)年金関係法令の妥当性 に関して検討がなく、足りなくなれば負担増・給付減して国民にしわ寄せすればよいという省庁の発想の受け売りがあるにすぎない。

 私から見ると、i) ii)とも不十分で、iv)の年金関係法令が“きめ細やか”と表現される無意味な複雑さも手伝って、iii)の効率性は著しく低い。また、*3-3のように、未納者が多い上に未納者データを紛失したりなど、年金保険料をきちんと集めて管理する風土があるのか否かが疑問という民間企業ではありえないようなことが続いているわけである。

2)支え手の拡大
 上記、1)のiv)の年金関係法令に関しては、*3-4のように、支え手を拡大するために、会社員らの入る厚生年金の適用を拡大し、高齢者やパートらの加入を増やす改革に乗り出すとのことだが、パートだから厚生年金の適用がなかったというのは、パート労働者(多くは女性)の生活を全く考えていない法体系だったということだ。

 そのため、*3-2の「支え手」を増やす改革を急ぐのは賛成であるものの、「支払われた年金保険料を誠意をもって大切に管理し、できるだけ多くの年金支払いをする」というコンセプトが共有されないまま、負担増・給付減をいくらやっても無駄遣いが増えるだけだと考える。

 「少子高齢化の進行で『支える側』の現役世代が減り、『支えられる側』の高齢者の割合が増えた」というフレーズも何度も聞いたが、それは人口構成を見れば1980年代からわかっていたことで、1985年に積立方式を賦課課税方式に変更してばら撒くのではなく、積立方式のまま年金支払いに十分なだけの積立金を備えておくべきだったのだ。

 また、「現役世代の手取り収入に対して厚生年金の給付水準『所得代替率』は50%以上あればよい」というのも理由が不明であり、政府の言う「モデル世帯」に国民の何%が当たるのか、さらに国民の一部に関する試算だけをやればよいのか についても疑問である。

 平均寿命や健康寿命が延びたので、私は、高齢者も*3-5のように68歳と言わず、75歳であっても「支える側」に入れることにやぶさかではないが、そのためには、就業における高齢者差別がなく、気持ちよく働ける仕事のあることが大前提になるわけだ。

<高齢者いじめ>
*1-1:https://www.sankei.com/west/news/190603/wst1906030013-n1.html (産経新聞 2019.6.3) 高齢者の免許返納、説得のポイントは
 相次ぐ高齢ドライバーによる事故で、免許証の自主返納を呼びかける動きが広まっている。高齢の親に返納を提案する家族も増えているが、応じないケースが少なくない現状も。半ば強引に免許証を取り上げるなどの強行な手段も考えられるが、家庭内でのトラブルにもつながりかねず、高齢者自身が納得した上で返納することが重要な課題になる。どうすれば説得を受け入れてもらえるのか。「免許を返納した方がいい」。大阪府内に住む80代男性は昨年、同居する50代の息子から免許の返納を持ちかけられた。同世代の高齢ドライバーによる事故が相次いで報じられていたが、それでも返納には抵抗があった。しかし息子も譲らず、妻や孫も加勢。説得は最終的に男性が返納に応じるまで続いたという。「説得に悩む家族の話はよく聞くが、頭ごなしに返納を求めるだけでは、かえってかたくなになってしまう」。高齢社会の問題に詳しいNPO法人「老いの工学研究所」の川口雅裕理事長(55)は指摘する。警察庁が平成27年に75歳以上のドライバーと免許返納者約1500人ずつを対象とした調査では、「家族らの勧め」を返納理由とした人が33%で最も多く、「運転への自信を失った」や「必要性を感じなくなった」を上回った。一方、運転を継続しているドライバーは67・3%が「返納しようと思ったことはない」と回答。「家族の勧めで返納について考えたことがある」は4・7%にとどまっている。高齢者の車の運転に対するスタンスはさまざまで、単なる移動手段としてではなく、運転そのものを楽しみに感じていたり、苦労して手にした免許や車そのものに特別な思い入れを抱いていたりするケースもある。川口さんは「まずは免許や車が親にとってどういう存在なのかを理解することが大切」と話す。車を使う頻度や目的によって、効果的な説得方法は変わってくる。例えば、免許返納者への公共交通機関やタクシーの割引などのサービスは、移動手段として車を利用してきた人には有効だ。一方で、運転自体を趣味にしている場合はメリットとは感じず、車に思い入れがある場合、その“喪失感”を埋めることにはならない。重要なのは、返納後の生活に対して「ポジティブな提案」をすること。車の維持費に充てていた資金で旅行に行くことや、日常生活での新たな趣味や地域活動への参加を提案することが挙げられる。川口さんは「親と同居している人もいれば、疎遠になっている人もいる。返納が必要だと感じたら、まずはコミュニケーションを取ることから始めてみてほしい」と話している。
■年間40万人超返納も後絶たぬ事故
 運転免許の自主返納制度は平成10年に始まった。スタート初年は年間2596人だったが、30年には42万1190人が返納。このうち、75歳以上が半数以上を占める。返納が進む一方、高齢者による事故は後を絶たない。警察庁の調査では、29年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数は85歳以上が年間14・6件。運転免許を取得したばかりの16~19歳の11・4件を大きく上回った。また、75歳以上と75歳未満で比較すると、75歳未満が3・7件なのに対し、75歳以上は7・7件と2倍以上になり、高齢になるほど事故が多くなることが明らかになった。高齢者の免許保有者も増えており、75歳以上の免許保有者は19年に283万人だったのが、30年には564万人に。このうち、80歳以上は98万人だったのが、227万人となっている。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM8N55NSM8NUJHB017.html (朝日新聞 2019年8月20日) 「車遅く頭にきた」容疑者供述 あおり運転自体も捜査へ
 茨城県守谷市の常磐自動車道であおり運転を受けた後、男性会社員(24)が殴られ負傷した事件で、傷害容疑で逮捕された会社役員宮崎文夫容疑者(43)=大阪市東住吉区=が「男性の車が遅く、進行を妨害されたと感じて頭にきた」と話していることが、捜査関係者への取材でわかった。男性のドライブレコーダーには、宮崎容疑者が数キロにわたってあおり運転をする様子が映っていたという。県警は20日、宮崎容疑者と、あおり運転の際に同乗し同容疑者をかくまったとして犯人蔵匿・隠避容疑で逮捕された喜本(きもと)奈津子容疑者(51)を送検した。捜査関係者によると、宮崎容疑者は「車をぶつけられたので殴った」と傷害容疑について認める一方、「危険な運転をしたつもりはない」と供述。しかし県警は、ドライブレコーダーの映像などから危険な運転があったのは明らかとみている。そのため、傷害容疑とともに、あおり運転そのものについても、道交法違反(車間距離保持義務違反など)や、あおり運転で被害者に恐怖心を与えたとして暴行容疑などを視野に調べる方針だ。一方、より刑罰の重い自動車運転死傷処罰法の危険運転致傷の適用について、捜査幹部は「現時点で法律の要件を満たす上で困難な部分がある」との見方を示している。同幹部は「今回はあおり運転後に、手で殴りけがをさせた事案で、危険な運転行為で直接的に衝突などの事故により負傷したものでない」と話す。自室で宮崎容疑者をかくまったとして逮捕された交際相手の喜本容疑者は、高速道路上で宮崎容疑者が殴る様子を携帯電話で撮影していたことを認めている。県警は、宮崎容疑者の暴行を止めなかったなどとして、傷害幇助(ほうじょ)容疑も視野に調べを進めている。

*1-3:https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20190630-00132169/ (Yahoo 2019/6/30) スマホ漫画で追突死亡事故 真実を明らかにしたのはドラレコだった
■楽しかった夫婦ツーリングが、一瞬の追突事故で暗転
 まずは、この写真をご覧ください。高速道路の事故現場から引きあげられた250ccのオートバイが、レッカー車の荷台に横倒しの状態で積まれています。ハンドル周りは原形をとどめず、車体も大破しています。つい数時間前まで、このバイクには39歳の女性が乗っていました。夫婦で2台のバイクを連ね、ヘルメットに装着された無線機で楽しい会話を交わしながら、泊りがけのツーリング……。しかしその楽しい旅は、自宅まであと少しというところで断ち切られてしまったのです。2018年9月10日、午後9時11分、事故は関越自動車道下り線、大和PAから小出ICの間の見通しのよい片側2車線の直線道路で発生しました。夫の井口貴之さんは左車線を、妻の百合子さん(当時39)はその後ろを走っていました。制限時速80キロの区間でしたが、百合子さんは時速約70キロで走行していたところ、後ろから運送会社のワゴン車が時速100キロのスピードで追突。百合子さんは避ける間もなく、そのままワゴン車の前後輪に轢かれたのです。
■高速道路上に横たわる妻の変わり果てた姿
 無線での会話が、突然の百合子さんの悲鳴とともに途切れたことに異変を感じた貴之さんは、すぐに自分のバイクを路肩に止め、百合子さんの姿を確認しに後方へと戻りました。しかし、目に入ったのは無残な光景でした。百合子さんは40~50秒後に走行してきた後続車にも轢かれ、脳挫傷等の致命傷を負い、命を奪われたのです。現場はその後、7時間にわたって通行止めになったほどの大事故でした。事故の翌朝、ワゴン車の運転手は、「なぜこんなことになったんだ」と詰め寄った貴之さんにこう説明したそうです。「対向車に気を取られて、わき見してしまった」 。結局、運転手は逮捕されることはなく、事故処理されました。
■ドライブレコーダーに写っていた「スマホ漫画」の動かぬ証拠
 ところが、事故から1週間後、思わぬ展開を見せます。新潟県警は、ワゴン車を運転していた男性(当時50)を、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)の疑いで逮捕したのです。夫の貴之さんは語ります。「逮捕後、警察からその理由を聞いて驚きました。わき見という当初の説明は全くの嘘で、加害者は、高速道路に入ってからもスマホの小さな画面で、ミステリーやホラー系の漫画を読みながら、十分に前を見ず運転を続けていたそうです。そして、前方の妻のオートバイに気づかずに追突したのです」 。実は、加害者がスマホで漫画を読み続けていたことは、本人の車のドライブレコーダーにはっきりと記録されていました。夜間だったことから、その様子はフロントガラスに反射して写っており、約4時間にわたってその映像が残されていたというのです。この映像をもとに警察が加害者から事情を聞いたところ、本人が「わき見」ではなく「ながらスマホ(漫画読み)」をしていたことを認めました。また、加害者の車には、運転手の目の動きを感知し、居眠りや脇見を3秒以上検知すると警報ブザーが鳴る装置も取り付けられていましたが、それすらも無視し、マンガを読みふけっていたといいます。時速100キロの車は、10秒間に約280メートル進みます。高速道路で10秒以上前方から視線をそらすことが、どれほど危険な行為なのか……。検察官は、「これは目隠しをして走っているのと同じだ」と述べたそうです。夫の貴之さんは、今回、私に直接連絡をくださった理由について、こう話してくださいました。「加害者の言い分だけで処理をされた交通事故のことを『Yahoo!ニュース』の柳原さんの記事で知り、妻の事故と全く同じだと思いました。もし、ドライブレコーダーに映像が写っていなければ、この事故は単純なわき見運転で処理されていた可能性が大だったでしょう。なぜこんなことで妻は殺され、私たちの人生が壊されなければならなかったのか……。私は、ながらスマホの危険性、そして加害者が嘘をつくことの悪質性を広く世間に知っていただきたいと思うのです」
■マンガを読みながらの運転は悪質な「危険運転」
 この事故は現在、新潟地裁長岡支部で刑事裁判が進行中です。夫の貴之さんは、事故後、心身に大きなダメージを受け、仕事復帰にも長い時間がかかったそうですが、被害者参加制度を利用してご自身も検察官と共に法廷に立ち、6月24日には被告に対して直接尋問を行いました。被告が運送業務に携わるプロドライバーであるにもかかわらず、スマホで漫画を読みながら高速走行をしていたこと、そして、事故直後にそのときの閲覧履歴を消去するなどして事実を隠し、「対向車線のほうをわき見していた」と嘘の供述をしていたことの悪質性に言及し、危険運転致死など重い罪を課してほしいと述べたそうです。「ながらスマホ」による事故のニュースをたびたび耳にする昨今ですが、実際に車を運転していると、信号待ちなどで明らかにスマホに夢中になっているようなドライバーをたびたび見かけます。ドライバーはこの行為の危険性を改めて認識すべきでしょう。ましてや、スマホの小さな画面でコマ割りされた漫画を読みながら、クルマを運転するなど論外です。次の裁判は、7月16日。被告人に対しての論告求刑が行われる予定です。

*1-4:https://news.livedoor.com/article/detail/16991243/ (読売新聞 2019年8月28日) 高速「手放し運転可能」、BMWが国内初実用化
 独BMWの日本法人は27日、渋滞した高速道路で手放し運転ができる運転支援システムの搭載を今月から始めたと発表した。同社によると、手放し運転ができる自動車の実用化は国内で初めてという。支援システムはドライバーの疲労軽減が目的で、安全確認は運転手が行う。ドライバーが前方を注視しているかどうかを車内カメラで監視し、よそ見や居眠りの状態が続いたと判断されると警告音などで注意を促す。時速60キロを超えた場合も、ハンドルに手を添える必要がある。報道陣向けの試乗会では、高速道路で前の車に追従して走行し、暗いトンネル内でも車線をはみ出すことはなく、加速や減速もスムーズにこなした。7月生産分以降の最新型「3シリーズ」や「8シリーズ」などに標準装備している。すでに購入した人も、販売店で制御ソフトの更新を有償で行えばシステムが使える。日産自動車も高速道で手放し運転が可能な新型「スカイライン」を9月に発売する。高精度な3次元の地図データなどを駆使して実用にこぎ着けた。

*1-5:https://r.nikkei.com/article/DGXMZO49134150Z20C19A8MM0000?s=1 (日経新聞 2019年8月29日) 高齢ドライバーに実技試験 警察庁、事故対策へ検討
 高齢ドライバーによる交通事故対策として、警察庁は運転技能を調べる実車試験を導入する検討を始めた。高齢者を対象にブレーキやアクセルの操作を試験し、技能に課題があれば、安全機能を備えた車のみに限って運転を認める「限定免許」の対象とする。高齢者による事故の原因は操作ミスが多く、事故のリスクを軽減する狙いがある。2020年度予算の概算要求に調査費2700万円を計上する。高齢者向けの限定免許は早ければ21年度に創設される見通しで、実車試験も同時期の導入を念頭に制度設計を進める。現在は75歳以上のドライバーを対象に免許更新時に認知機能検査を義務付け、検査を経て医師に認知症と診断されれば免許取り消しか停止になる。ただ認知機能に問題がなくても運転技能が衰えているケースがあり、専門家から実車試験の導入を求める声が上がっていた。実車試験の対象者は認知機能検査を受ける高齢ドライバーを想定。アクセルとブレーキの踏み間違いや、対向車線へのはみ出しといった危険な運転の兆候がないかどうかなどを調べる。20年度の調査ではこうした危険な運転について、車の安全機能でどの程度制御できるかを実証する。限定免許の創設は、相次ぐ事故を受けて政府が6月に決めた緊急対策に盛り込まれた。ドイツやスイス、オランダといった先行して限定免許を導入している国では、医師による診断や実車試験の結果などに基づき対象者を決めている。警察庁はこうした各国の事例を基に、新たに導入する限定免許の対象者を判断する基準として、実車試験の結果を活用する方針だ。具体的な試験の項目などについては、対象となる高齢者の負担が重くなりすぎないように配慮する。75歳以上の運転免許保有者は2018年末時点で563万人で、社会の高齢化とともに20年に600万人に増えると推計される。75歳以上による死亡事故は18年に460件発生し、全体に占める割合(14.8%)は過去最高だった。東京・池袋で4月に80代のドライバーの車が暴走し母子2人が死亡するなど、重大事故も後を絶たない。19年上半期(1~6月)に発生した高齢ドライバーによる事故を警察庁が分析したところ、34%はハンドルやブレーキの操作ミスが原因だった。自動車各社は操作ミスの影響を軽減する安全装置の導入を急いでおり、新車の17年の搭載率は加速抑制機能が65.2%、自動ブレーキが77.8%だった。後付けの装置の商品化も広がっている。実車試験の導入を巡っては警察庁が17年に設置した有識者会議の分科会でも議論されたが、「どのような運転が事故のリスクが高いと言えるかという判断基準が明確でない」などの課題が示され、結論は出なかった。

<個人情報の無断使用と個人の特定>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190829&ng=DGKKZO49110140Y9A820C1EA1000 (日経新聞社説 2019.8.29) 個人情報を扱う自覚はあるか
 個人データを扱う企業としての自覚を問われている。就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)が学生の同意を得ずに「内定辞退率」の予測データを売っていた問題で、政府の個人情報保護委員会が是正を求める勧告を出した。人材サービスへの信頼が損なわれれば、人的資源を効率的に配分する柔軟な労働市場づくりにもマイナスだ。同社は影響の大きさを認識し、再発防止に向けた具体策を早急に示すべきだ。リクナビに登録した学生がどの企業の情報を閲覧したかを、同社は人工知能(AI)で分析。それをもとに内定を辞退する確率を推計するサービスを始め、計38社と契約した。これまでに約8千人分の個人データを本人の同意を得ないまま提供していた。個人情報保護法違反と判断されたのは当然だ。十分に説明しないまま分析に使ったデータも約7万5千人分にのぼり、個人情報保護委は改善を指導した。見過ごせないのはリクナビが就職活動の代表的な情報プラットフォームになっている点だ。学生の間では、これを使わずに就活を進めるのは難しいとの声が多い。他のサイトに比べた優位性を利用して個人データを集めていたのだとしたら、まさに学生の信頼を裏切る行為である。面接でAIが応募者と対話して適性を探るなど、採用選考や人事管理にIT(情報技術)を活用する動きが広がり始めている。業務効率化につながるが、個人データの扱いが公正なことが前提だ。リクルートキャリアには徹底した再発防止策を講じる責任がある。学生にとっては、自分のデータがどの企業に提供されていたのかなどが不明なままだ。同社は説明を尽くさなければならない。個人データの購入企業にも説明責任がある。合否判定に使っていた例は出てきていないが、データの購入目的について、学生の納得のゆく情報開示が求められる。

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190820&ng=DGKKZO48719040Z10C19A8MM8000 (日経新聞 2019年8月20日) ワタシという商品(上) リクナビのつまずき 革新の波、使う知恵試す
 データエコノミーの落とし穴があらわになった。人工知能(AI)が個人の心理を読む時代が現実となり、日本では学生データの利用を巡る「リクナビ問題」が起きた。個人情報を扱う責任を負いながら、便利なデータ社会を実現できるか。課題に直面している。8月上旬、経済産業省にいら立ちが広がった。「最悪のタイミングだ」。職員の一人は唇をかんだ。政府が20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で「信頼ある自由なデータ流通」を提唱。リクナビ問題が発覚したのは、経産省がこの構想を後押しするデータ活用事例集の公表準備を進めているさなかだった。
●年80万人が利用
 就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京・千代田)は2018年以降、学生の十分な同意を得ずに内定辞退率の予測データを38社に販売するなどしていた。年80万人が使うなくてはならない就活の「プラットフォーマー」が震源地だったことで問題は深刻になった。トヨタ自動車やNTTグループ、三菱電機などデータを購入した企業も説明に追われる。日本企業はデータ利用で米国勢などに出遅れ、その経験不足は個人情報の保護意識も鈍らせた。環境や人権に配慮した経営で知られる英蘭ユニリーバは、2年前からAIを採用に使う。「欧州本社も加わり、情報の用途や対象を何重にも確認する」。日本法人でデータ保護を統括する北島敬之さんは話す。データエコノミーの進展は、新たな技術を次々と生んでいる。個人の信用や将来性まで点数化されるようになったが、問われるのは使い手である人の知恵だ。米カリフォルニア州は20年の新規制で、AIで趣味や思想を割り出す手法を制限する。欧州もAIの決定に異議を唱える権利を定めた。慶応大学の山本龍彦教授は「日本は企業倫理も法制度もAI時代に追いついていない」と指摘する。
●「スイカ」の教訓
 マッキンゼー・アンド・カンパニーの推定では、30年までにAIは世界で1400兆円の経済活動を生む。日本も立ちすくんでいては巨大な情報鉱脈にたどり着けない。教訓は13年の「スイカ・ショック」だ。JR東日本がIC乗車券「Suica」の乗降データ活用に動いた直後だった。匿名化して社外に販売したが、説明が足りず個人情報保護に反すると批判が相次いだ。多くの企業が個人データを使う新事業の立ち上げに慎重になった。「国が白黒の判断を下さず、グレーのままにしたのが問題だった」。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は振り返る。ルールが曖昧なままでは前に進めない。リクナビも丁寧な説明が欠かせなかった。適切な手続きを踏めば、学生を特定しない企業単位の辞退数予測などの形で、人材難の各社が機動的な採用に使えた可能性がある。個人も意識を高める必要がある。「後輩には他のサイトと使い分けるよう伝える」。早稲田大学4年の女子学生は憤る一方、内定を得たのもリクナビのおかげと割り切り、最適解を探す。個人情報はデータの世紀の資源だ。使いこなせば、豊かさをもたらす。「ワタシという商品」を巡るトラブルは問題解決の好機だ。企業も政府も個人も、やるべきことは見えている。

*2-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM8B2394M8BULBJ002.html?iref=pc_extlink (朝日新聞2019年8月11日)進む匿名データの第三者提供に警鐘 日本でも特定の恐れ 
 客の購入動向やニーズに応じた商品やサービスを薦めたり、企業の業務の効率化につながったり。ビッグデータは幅広い分野で利活用が広がっているが、前提となるデータの匿名性は保たれているのか――。今回の論文は警鐘を鳴らす。
●ビッグデータ、匿名化でも高確率で個人特定 海外で指摘
 欧米では、先月発表されたこの研究内容は関心を集めた。米紙ニューヨーク・タイムズは「あなたのデータは匿名化されている? だが科学者はあなたを特定できている」、英紙ガーディアンは「データは指紋 ネットの世界ではあなたはあなたが思っているほど匿名ではない」との見出しでそれぞれ報じた。匿名データからの個人の特定をめぐっては、過去に別の研究者が、公開情報に含まれる生年月日、性別、郵便番号から米州知事の病歴記録を特定した。また、有料動画配信サービス・ネットフリックスが提供した匿名化された閲覧履歴情報を使い、研究者が公開の映画レビューサイトの内容と照合して、個人を特定したケースなどもある。米国ではデータがオンライン公開されることが多く、属性にまつわるさまざまなデータが日本より入手しやすい事情はある。ただ、日本でも匿名化して、まとめられたビッグデータの提供が進みつつあり、対岸の火事とはいえない。個人情報保護法が改正され「匿名加工情報」の考えが導入された。2013年、JR東日本が外部に販売していたICカード「Suica(スイカ)」の乗降履歴から、個人が特定される恐れがあると批判を浴びたことがきっかけだった。匿名加工には基準があり、特定の個人の識別につながる氏名や生年月日、住所などの全部または一部を削除したり、住所を県や市までにあいまいにしたりといった要件を満たせば個人情報の扱いではなくなり、本人同意がなくても第三者に提供できる。ただ、匿名加工に関する政府の指針は、あらゆる手法によって特定できないということまでは求めず、現在の一般的な技術レベルで特定できなければよいとしている。また、匿名化の方法の細かいところは必ずしも明確ではないとされる。産業技術総合研究所の高木浩光主任研究員は、個人が識別されない適切な匿名加工の必要性を強調。そのうえで「論文が指摘している問題は匿名加工情報の制度設計でも議論された。一人しかいないようなデータがあれば、どうしてもリスクが高くなる」と話す。個人を特定するために、例えば交通系ICカードの乗降履歴と、別会社のポイントカードの購買履歴などを突き合わせる行為は「照合」と呼ばれ、個人情報保護法で禁じている。政府の「パーソナルデータに関する検討会」の技術担当会合で主査を務めた国立情報学研究所の佐藤一郎教授は、「購買履歴や治療履歴などは人によって大きく異なるので、(特定につながる)リスクがあると知っておいてほしい」と語る。ただ、データの削除や、あいまいにする加工を進めすぎると、ビッグデータ活用の芽を摘むことになる。国の個人情報保護委員会の担当者は「個人情報保護と利活用のバランスを取り、最新の技術動向も注視していきたい」と話す。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190821&ng=DGKKZO48773980Q9A820C1EA1000 (日経新聞社説 2019年8月21日) デジタル社会を創る 「医療ビッグデータ」を使いこなせ
 高齢化が進むなか効率的で質のよい医療の提供は重要な課題だ。しかし、それを支える検査や治療の記録など膨大な「医療ビッグデータ」の活用が進まず、デジタル技術が生かされていない。宝の持ち腐れでは、医療産業の国際競争力も低下しかねない。
●新薬開発に使いにくく
 医療ビッグデータは問診記録や検査結果、投薬情報など多岐にわたる。個人情報として慎重な取り扱いが必要だが、新薬開発や病気予防、健康管理に役立ち医療費抑制にもつながると期待される。国は2018年、個人を特定できないよう医療情報を匿名化して使う仕組みを定めた「次世代医療基盤法」を施行した。医療ビッグデータの利用推進が目的だ。だが製薬企業などにとって使い勝手が悪いという。匿名化したデータでは病気ごとの患者数や薬の処方実績などの統計は出せても、一人ひとりの薬の効き目や症状の推移を把握できないからだ。医療情報は従来、活用よりも保護を重視する考え方が強かった。発想を変えて、十分な情報漏洩対策は施しつつも、創薬などのニーズに即した活用をもっと重視した制度設計にすべきだろう。日本には世界有数の規模を誇る診療報酬明細書(レセプト)の情報を集めた「ナショナル・データベース」がある。ことし5月の法改正で介護データと照らし合わせて解析できるようになった。一歩前進だが、制約はなお大きい。厚生労働省の有識者会議で用途に公益性があると認められた場合にしか、企業は利用できない。自社製品の開発や販売に生かせなければデータの魅力は薄れる。大学や研究機関でも、認められた人が専用の部屋でネットに接続できない端末でのみ使える。クラウドを上手に活用し利便性を高めるなど改善の余地は大きい。電子カルテの情報を使いこなすのも大きな課題だ。記載の仕方が病院や担当科ごとに異なり、国の標準化計画は進展が遅い。医療現場は診療業務に追われシステム改修の余裕がないというが、それだけではない。縦割り組織やメーカーの顧客囲い込み、研究者によるデータ独占など、あしき慣習を絶つ必要がある。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は18年から、全国23の病院の協力を得てレセプトと電子カルテの情報の統合データベースを運用し始めた。副作用の把握を目的としているが、用途や対象病院の拡大を検討してはどうか。利用価値は高いのに基盤整備が途上の分野もある。コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)による診断画像のデータベース構築だ。画像をAIに学習させ、がんや脳疾患の診断を支援するサービスが大きく伸びると予想される。信頼できるデータが豊富なほど診断精度は上がる。ところが、多くの大学や病院がもつ画像は紙焼き写真のみで、もとになるがん組織の保存状態も悪い。関係学会による画像のデジタル化を国が継続的に支援すべきだ。
●国際ルール積極関与を
 今後は遺伝子データの収集も進む。19年から全国の拠点病院で、がん患者の遺伝子を解析して最適な治療薬を探す「がんゲノム(全遺伝情報)医療」が始まった。一定の条件を満たせば公的保険の対象となり、年間数万人分の解析が実施される見通しだ。国立がん研究センターは集約したデータを製薬企業などに最大限開放し、がんの新薬開発などに生かしてほしい。米国のように、データの提供サービスに民間の参入を認めるのも検討に値する。身近なところでは、スマートフォンや腕時計型センサーによる心拍数や血圧、体温、血糖値などの測定が広がり、データが集まりだしている。病気の発症や進行を遅らせ、健康寿命を延ばす研究などに生かせる。こうした遠隔の測定や投薬管理サービスでは米欧のIT企業や製薬企業が先行する。日本人のデータが知らぬ間に海外に流出する可能性もある。データ利用に関する同意項目などに、一人ひとりが注意する習慣をつけたい。個人情報に配慮しながら国境を越えて医療データをやりとりする、データシェアリングの方式を標準化する動きも米欧を中心に活発になってきた。日本も率先してルールづくりに加わるべきだ。

*2-5:https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/news/18/04940/ (日経BP 2019/5/15) 東芝が従業員のゲノムデータを収集へ、数万人規模のデータベース構築
 東芝は、「東芝Nextプラン」で新規成長事業の1つに位置付けた精密医療の取り組みの一環として、日本人に特徴的な遺伝子を効率的に解析する「ジャポニカアレイ」によるゲノムデータの収集開始を決定した。また、医療分野のスタートアップ投資に実績のあるBeyond Next Venturesと業務提携契約を締結した。東芝グループは、2018年11月8日に全社変革計画「東芝Nextプラン」を発表し、「超早期発見」「個別化治療」を特徴とした精密医療を中核とする医療事業への本格的な再参入を表明した。また、東芝のDNAであるベンチャースピリットを呼び覚まして新規事業を創出する新たな仕組みとして、100億円規模のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)機能を導入している。疾病は個人の生活パターンや遺伝的要因(体質)によって異なるため、より多くのデータを分析し、特徴別に複数のパターンに分けることで、最適な予防法・治療法の開発につなげることが可能となる。「ジャポニカアレイ」によるゲノムデータの収集開始はその第一歩で、国内グループ従業員の希望者を対象に、ゲノムデータや複数年の健康診断結果などを含む数万人規模のデータベースを構築する。これにより東芝は、「予防医療」の実現に向けた研究開発を、医療研究者をはじめとする医療・ライフサイエンスに携わる機関や企業と共同で推進する。また、精密医療事業の事業化や収益化には社外の力を積極的に活用することも重要となることから、Beyond Next Venturesとの連携を通じ、優良な医療系ベンチャー企業の探索や協業の検討を推進していく。このほか東芝は、精密医療事業を本格的に推進するため「一人ひとりのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を応援します」「積み重ねた技術力と、新たなパートナーシップでこれからの先進医療・ライフサイエンスを支えます」「次の世代も見据えた予防医療にデジタルの力を活かします」の3つを目標とする「精密医療ビジョン」を新たに作成した。東芝グループは、このビジョンのもとに予防から治療にわたる複数のテーマで要素技術などの技術開発に着手しており、研究から実用化に向けたさまざまなパートナーシップを組みながら事業の成長を目指す。

*2-6:https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190821/KT190820ETI090002000.php (信濃毎日新聞 2019年8月21日) マイナンバー 強引なカード普及促進策
 個人番号が記載されたマイナンバーカードの普及率を高めるため政府は年度末までに国と地方の全ての公務員に取得させる考えだ。そうまでする必要があるのか。カードの普及が自己目的化しているかの強引なやり方には疑問が拭えない。国、地方それぞれの共済組合から職場を通じて交付申請書を配布し、手続きを促す。申請書には家族分を含め、あらかじめ名前などを印字する。霞が関の中央省庁で始めている身分証との一体化も出先機関や自治体に順次広げる。実質的な取得の義務化だ。マイナンバーは、国民一人一人に割り当てられた12桁の番号である。年金や税金などの個人情報を番号で照会し、事務を効率化するとして2016年1月に導入された。預金口座にも適用し、国民の所得や資産を正確につかむことで脱税などを防ぐことも狙う。希望者には、顔写真付きのICカードが交付される。番号のほか氏名、住所、生年月日が載り、身分証明書になる。政府は、22年度にほとんどの住民がカードを持つことを想定するものの、現状は程遠い。交付は今月8日時点で1755万枚、人口比で13・8%にとどまる。申請書を受け取った公務員は提出を拒みにくいだろう。公務員だからといって、本人の希望が前提であるカード取得を強いていいのか。まして扶養家族まで対象に含めるのは普及促進の度が過ぎる。内閣府の世論調査では、カードを「取得していないし、今後も取得する予定はない」との回答が半数を超えている。理由は「必要性が感じられない」が最多で「身分証になるものは他にある」「情報漏えいが心配」と続いた。利点が乏しい一方で不安が残る制度―。国民のそんな受け止めが見て取れる。公務員への働き掛けのほかにも政府は普及策をあれこれ打ち出している。消費税増税に伴う景気対策ではカードを活用した「自治体ポイント」を計画する。21年には過去の投薬履歴を見られる「お薬手帳」の機能も持たせる。カードの利点をアピールしようと活用範囲を拡大していけば、その分、情報漏れや不正利用の心配が膨らむ。脱税防止といった本来の目的がかすんでもいく。普及を図りたいなら、強引な促進策ではなく、制度への国民の理解を広げる努力が先決だ。何のための個人番号か、なぜカード取得を促すのか。出発点に立ち返って丁寧に説明するべきである。

<個人の権利や社会保障の軽視>
*3-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190820&ng=DGKKZO48739010Z10C19A8EN2000 (日経新聞 2019年8月20日) 社会保障を巡る認識ギャップ
 日本の社会保障は「中福祉・低負担」であり、その差を財政赤字が埋めている。これに対して専門家は負担を中レベルに引き上げるべきだと考えている。一方で、多くの国民は福祉水準の方を高レベルに引き上げてほしいと願っている。そして政治は票を意識して国民意識に寄り添おうとするから、認識ギャップは放置され、財政赤字だけが拡大していくことになる。この放置された巨大な認識ギャップこそが社会保障問題の解決を難しくしている最大の原因だ。このギャップを少しでも小さくしていくためには、まずは政治が短期的な人気取りではなく、長期的な国民福祉の安定を考えた議論を展開すべきだ。国民の側も次のような点で社会保障への理解(社会保障リテラシー)を高めていくことが必要だ。第1は、社会保障の給付と負担は一体だという認識を持つことだ。これは当然のようにみえて結構難しい。例えば消費税率を引き上げようとすると「それにより社会保障がどう改善されるのかを示すべきだ」という意見が出る。しかし、現在の低すぎる負担レベルを正そうと消費税率を引き上げるのだから、税率を上げても社会保障のレベルが高まるわけではない。第2は、適切な期待を持つことだ。例えば年金について「百歳までも安心して暮らしていける年金水準にすべきだ」というのは過度な期待である。年金制度があっても自ら老後に備えるのは当然だ。一方、若者たちの中には「自分たちが老人になる頃には年金はもらえない(文字通り受け取る年金がゼロ)」と悲観する向きも多いが、これはあまりにも期待レベルが低い。現行の年金制度は長生きリスクに備えて自己努力を補う有力な手段となっている。第3は、自分自身がどんな形で負担しているかを知ることだ。近年、消費税率の引き上げが遅々として進まなかったこともあって、社会保険料の引き上げが続いてきた。このため勤労者と企業が相対的に重い負担をすることになってしまっている。これは、勤労者が負担する社会保険料は給料から天引きされているため、本人も負担の高まりを認識していないからだ。政治の側と国民の側の双方が社会保障を巡る巨大な認識ギャップを埋める努力をしてほしいものだ。

*3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/538855/ (西日本新聞社説 2019/8/29) 年金の将来 「支え手」増やす改革急げ
 5年ぶりの健康診断は厳しい結果だった。放置すれば命を縮めかねない。すぐに大手術をするわけにはいかないが、体力の増強などやるべきことに早急に取り組む必要がある-。厚生労働省が公表した公的年金の財政検証結果から読み取るべきは、こんな結論だろう。少子高齢化の進行で「支える側」の現役世代が減り、「支えられる側」の高齢者が受け取る年金給付水準の低下は避けられない。老後に対する国民の不安は募るばかりだ。厚生年金の加入対象者を拡大するなど、支え手を増やす制度改革で国民の不安解消に努めるべきだ。財政検証では、現役世代の手取り収入に対する厚生年金の給付水準「所得代替率」を試算した。政府にとっては、モデル世帯で所得代替率50%以上を維持という約束が、将来も守られるかが焦点の一つだった。経済成長の度合いによって6通りで試算し、高成長3ケースでは約30年後も約束は守られるとした。5年前の試算結果とほぼ同じで、根本匠厚労相は「経済成長と労働参加が進めば、一定の給付水準が確保されながら約100年間の負担と給付が均衡し、持続可能となる」と強調した。年金制度の「100年安心」をアピールする狙いだ。ただ、それでも現在の所得代替率61・7%からは大幅に低下する。しかも、この3ケースは経済成長と高齢者の就労が順調に進むという甘い条件設定での見積もりだ。それらが低迷するケースでは40%台に落ち込む。楽観を排して見通せば、年金制度も受給者の生活も「100年安心」とは言い難い。不安解消には、年金給付水準の低下抑制が欠かせない。厚生年金の加入対象者を中小企業のパートにまで広げたり、賃金要件を緩和したりすれば、給付水準は改善する。厚生年金の保険料は労使で折半するため企業側の反発が予想されるが、支え手の層を厚くするためにも腰を据えた議論が必要だ。現在は20歳から60歳まで40年間となっている基礎年金加入期間を45年に延ばす案や、厚生年金の加入上限年齢を75歳に引き上げる案などについても、給付水準の改善につながるという試算が出た。これらについても検討してほしい。「就職氷河期世代」の非正規労働者など、老後への備えが十分ではない人は少なくない。無年金や低年金への対策は待ったなしだ。政府は検証結果を踏まえて制度改革案をまとめ、関連法案を来年の通常国会に提出するという。与野党とも政治の責任として、より望ましい年金の将来像づくりに合意できるよう議論を尽くすべきだ。

*3-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/403840 (佐賀新聞 2019年7月22日) 年金機構が個人情報紛失、未納者データのDVD
 日本年金機構の東京広域事務センター(東京都江東区)が、国民年金の未納者の個人情報が入ったDVDを紛失したことが22日、機構への取材で分かった。未納者の氏名や住所、電話番号が含まれている可能性があるが、情報の流出や悪用は確認されていないという。機構によると、機構は国民年金の保険料未納者に支払いを訪問や電話で催促する業務を外部業者に委託。業者が状況を報告するための情報を記録したDVDを同センターに送付し、届いた後に行方不明になった。機構の担当者は「具体的な個人情報の内容や人数、行方不明になった時期は調査中」としている。

*3-4:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49083190X20C19A8SHA000/?n_cid=NMAIL006(日経新聞2019/8/27)年金、支え手拡大急ぐ パート加入増で給付水準上げへ
 厚生労働省が27日公表した公的年金の財政検証では、少子高齢化で先細りする公的年金の未来像が改めて示された。日本経済のマイナス成長が続き、労働参加も進まなければ2052年度には国民年金(基礎年金)の積立金が枯渇する。厚生労働省は一定の年金水準を確保できるよう、会社員らの入る厚生年金の適用を拡大し、高齢者やパートらの加入を増やす改革に乗り出す。

*3-5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49054290X20C19A8SHA000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2019/8/27) 年金、現状水準には68歳就労 財政検証 制度改革が急務
 厚生労働省は27日、公的年金制度の財政検証結果を公表した。経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準(所得代替率)は今より16%下がり、成長率の横ばいが続くケースでは3割弱も低下する。60歳まで働いて65歳で年金を受給する今の高齢者と同水準の年金を現在20歳の人がもらうには68歳まで働く必要があるとの試算も示した。年金制度の改革が急務であることが改めて浮き彫りになった。

<インフラ整備は最初の都市計画が重要であること>
PS(2019年8月31日、9月3日追加):*4-1のように、熊本地震からの復興と将来の都市づくりのため、「中心市街地を『歩いて暮らせる上質な生活都市』に転換する新たな街づくりが必要」として、熊本市の大西市長・市の幹部・市の職員・市議など28名の視察団がフランスに派遣されることになり、これに対して、「①市長や議員が飛行機でビジネスクラスを利用する」「②生活再建できない熊本地震の被災者が残される中で、議員が物見遊山のように海外視察に行くことは納税者の理解を得られない」との批判があるそうだ。しかし、①については、一般企業の常識から考えると、市長・議員・市の幹部などが出張時にビジネスクラスを利用するのは当たり前であり、②についても、街づくりが進む前に都市計画をしておくことが重要だ。ただ、本当に都市計画のための見聞であることは大切で、そのためには議員は少人数づつに分かれてあちこちの街を視察し、必要な質問を行い、正確な報告書を提出して、その後の議論に資するのでなければならない。その時は、共産党の議員も分担して、中国・ロシア・東ヨーロッパなどの開発の進みつつあるモデルにしたい都市を視察して報告すると役に立つと思う。
 なお、*4-2のように、横浜市で第7回アフリカ開発会議(TICAD)が開かれ、「横浜宣言」に「自由で開かれたインド太平洋」「海洋安全保障」などが入れられたそうだが、それはアフリカの開発とはあまり関係ないだろう。また、尖閣諸島に関しては抗議が甘いのに、何に関しても中国の悪口を言ったり、投資額だけでなく中国独自の取り組みとの違いも際立たせたいなどと中国と競争するためにアフリカ開発援助をしているような発言をしているのは日本の意識が低いと言わざるを得ない。私は、*4-5のように、アフリカ開発銀行のアデシナ総裁が、中国の経済圏構想『一帯一路』について、「アフリカの経済成長に寄与する」「中国が『債務のワナ』の意図を持っているとは思わない」とされているとおり、現在のアフリカは、1950年代の日本と同様に、今から経済成長する地域で、そのためにインフラ整備を必要としており、人口増加しつつある平均年齢の低い国が多いため、借金は経済発展すれば返せると思う。
 そして、日本が援助するのなら、アフリカの貴重な自然を破壊せずに開発を進めるため、都市計画を先にたて、民間企業を中心として上下水道・再エネによる分散電源・EV・FCV・携帯電話・パソコン使用などを前提とする「質の高いインフラ投資」をすべきだ。
 さらに、*4-3のように、G7首脳会議で日米欧が素早く一致したとおり、2050年までにアフリカ大陸は人口が倍増して25億人になると予想されるため、治安の悪化を防ぐには雇用創出しなければならないが、日本はこの状態を1940~1950年代に経験済であり、これらを解決する方法は、女性も含めた教育・人材づくり・家族計画・経済成長であることがわかっている。そのため、中国と同様、一時的な格差拡大を恐れずに、できる所からやっていくことが必要だろう。
 2019年9月1日、日本農業新聞が、*4-6のように、「①人口が倍増するアフリカは、今後の有望成長地域で食料輸入国が多い」「②農業振興で成長を後押ししたい」「③アフリカの食料安全保障も大問題」と記載している。私は、エネルギーは全く排気ガスを出さない再エネ由来の電動にすべきだと思うので、わざわざ食料を作れる田畑でバイオ燃料を作ることには反対で、さらにスマート農業にしすぎると人口増のアフリカで雇用吸収力が低くなるのではないかとも思うが、①であるからこそ②③は非常に重要で、JAグループ等の農業関係団体は技術協力や人材育成が可能だと思う。また、アフリカで技術協力した日本人の方にも貴重な経験になるし、アフリカの家族農業をまとめた農業協同組合との連携や6次産業化もできるだろう。
 なお、JA全農が、*4-7のように、組合員の家庭や営農施設向けの電力の販売に乗り出すそうだが、各地域の電力会社から電力を調達するのでなく、ハウス・畜舎・田畑などで再エネ発電を行えば、完全なグリーン電力にでき、営農の大きなコストダウンや農家の副収入確保が可能になる。また、この方式は、アフリカなど電力インフラの遅れている地域でも活用できる。


アフリカのGDPと経済成長率 アフリカの人口ピラミッド 日本の人口ピラミッドの変化

(図の説明:左図のように、アフリカ諸国は変動はあるものの世界平均より経済成長率が高く、これから成長する国々である。中央の図のケニア・ナイジェリア・エチオピアの人口構成は、右図の日本の1940年代、南アフリカの人口構成は1955年くらいに当たり、先進国の援助でスピードが速まりつつ、インフラ・経済・医療・教育の充実は似たような道を辿ると思われる)

   
世界では最安値の太陽光発電      改良型風力発電機        地熱発電

*4-1:https://digital.asahi.com/articles/ASM8V5392M8VTLVB00B.html?iref=comtop_8_05 (朝日新聞 2019年8月30日) 熊本市、海外視察に1850万円 市長はビジネスクラス
 熊本市が今秋、大西一史市長をはじめ、市幹部や市職員、市議ら28人からなる視察団をフランスに派遣することになった。6泊8日で、市負担の予算は計約1850万円。市は視察の理由を、熊本地震からの復興と将来の都市づくりには中心市街地を「歩いて暮らせる上質な生活都市」へと転換する新たなまちづくりが必要で、フランスが欧州の先進事例と説明している。今年6月、熊本市と交流都市の関係にあるエクサンプロバンス市から「日仏自治体交流会議」の準備会議への招待状が大西市長に届き、倉重徹議長にも議員との交流を求める招待状が届いた。これに合わせる形でフランスの3都市を巡る視察団の派遣を企画した。市都市政策課によると、一行は10月30日に熊本を出発。同日夕にストラスブール市に到着。31日に同市の市長を表敬後、公共交通を優先したまちづくりを視察。11月2日にオルレアン市を回り、3日に交流都市のエクサンプロバンス市に移動。翌4日に同市の市長を表敬し、5日まで市内を視察して6日に帰国する。大西市長は県産農産物品の売り込みのため視察の途中でイタリア・ミラノ市を訪問し、エクサンプロバンス市で合流する予定だ。市議会からは倉重議長のほか、自民の寺本義勝議員、小佐井賀瑞宜議員、光永邦保議員、公明の井本正広議員、市民連合の福永洋一議員が参加する予定。参加議員は各会派の代表として選ばれた。視察の準備は昨年から始め、市幹部と職員の費用は今年度当初予算で議決済み。市議会分については、9月定例会に770万円の補正予算案を提出する。経済界から参加する4人の旅費は自己負担という。市長や議員は飛行機でビジネスクラスを利用する予定。市議会事務局によると、交通費や滞在費を含む議員1人あたりの旅費約106万円は全額公費から支出する。議員は視察後の報告書提出の義務が無く、議会事務局が感想を聞き取って報告書を作成する。海外視察の事例については「近年は無く、少なくとも改選前の前期の4年間は無かった」としている。市議6人が同行する海外視察ついて、大西市長は27日の記者会見で「派遣する議員数については議会がお決めになること。熊本市の市電延伸にも色んなご意見があり、多様な方が実際に現地を見て違う角度から将来の熊本について検討する機会。視察の目的も明確でまちづくりの知見を深められる」と説明。倉重議長も取材に対し、「路面電車をいかしたまちづくりやコンパクトシティーを実現した先進国で、なるべくたくさんの議員に一緒に交通体系を体験してもらい、その意見を将来の熊本のまちづくりにいかす」と話す。一方、これまで市議会の海外視察に加わってこなかった共産の上野美恵子議員は「市民の代表として市長と議長の表敬訪問は理解できる。しかし、まだ生活を再建できない熊本地震の被災者が残されるなかで、議員が物見遊山や大名行列のようにゾロゾロと海外視察に行くことは納税者の理解を得られると思えない」と批判している。

*4-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190830&ng=DGKKZO49193050Q9A830C1MM0000 (日経新聞 2019年8月31日) TICAD横浜宣言、インド太平洋構想を明記、中国念頭に 民間重視を強調
 横浜市で開いた第7回アフリカ開発会議(TICAD)は30日午後、「横浜宣言」を採択して閉幕した。安倍晋三首相が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想にTICADの成果文書として初めて触れ、重要性について認識を共有した。今後のアフリカ開発では民間ビジネスを重視していく姿勢も前面に出した。インド太平洋構想はアジアとアフリカを結ぶインド洋や太平洋地域で、法の支配や航行の自由、経済連携を推し進めるものだ。首相が2016年8月にケニアで開いた前回TICADの基調演説で打ち出した。横浜宣言では同構想に「好意的に留意する」と言及した。中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」を意識し、アフリカ諸国が中国に傾斜しすぎないよう促すものだ。アフリカでのインフラ開発では中国の融資に頼り、巨額の債務を負った事例が指摘される。6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)でまとめた首脳宣言や「質の高いインフラ投資原則」を共通認識として歓迎することも盛り込んだ。相手国に返済が難しいほど過剰な債務を負わせないよう、透明性と持続可能性を重視する内容だ。優先事項の一つでも海洋安全保障を挙げ、中国の海洋進出を念頭に「国際法の諸原則に基づくルールを基礎とした海洋秩序の維持」を訴えた。経済連携では「アフリカ開発における民間部門の役割を認識」と盛り込んだ。民間ビジネスを活性化してアフリカ経済の自律性を高める狙いで、政府間が主導する中国の対アフリカ支援との違いを訴えた。首相は閉会式で「民間企業のアフリカにおけるさらなる活動を後押しするため支援を惜しまない」と強調した。アジアでの開発で日本が取り組んだ経験がアフリカでも役立つことを確認し、日本がアフリカ諸国での人材育成を支援する「ABEイニシアチブ3.0」を評価した。日本への留学やインターンを促進し、今後6年間で3000人の産業人材の育成を目指す仕組みだ。女性起業家への支援も歓迎する考えを明記した。アフリカ開発を巡っては中国も00年から中国アフリカ協力フォーラムを計7回開き、18年の会合では3年間で約600億ドルの拠出を表明した。首相も28日の基調演説で今後3年間で200億ドルを上回る民間投資の実現を後押しする考えを示した。ただ投資額だけで対抗するのではなく、中国独自の取り組みとの違いも際立たせたい考えだ。横浜宣言ではTICADの基本理念として日本とアフリカだけでなく国際機関や第三国にも開かれた枠組みだと強調した。同宣言では日本が目指す国連安全保障理事会の常任理事国の拡大を念頭に「安保理を含む国連諸組織を早急に改革する決意を再確認」することも明記した。次回の第8回TICADは22年にアフリカで開く。TICADは前回初めてアフリカで開いており、3年ごとに日本とアフリカで交互に開催する方向性を明確にした。日本が1993年に立ち上げたTICADでは参加する日本やアフリカ諸国で共通する問題意識を盛り込んだ宣言を出すのが通例だ。28日に開幕した今回はアフリカ54カ国のうち過去最高の42カ国の首脳級が参加した。

*4-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190831&ng=DGKKZO49225340Q9A830C1EA3000 (日経新聞 2019年8月31日) 人口増リスク、欧米が注視
 対立が目立った26日までのフランスでの主要7カ国(G7)首脳会議で日米欧が素早く一致した分野がある。西アフリカのサハラ砂漠南部「サヘル地域」での雇用創出などを通じた開発支援だ。マリやチャドなどサヘル地域5カ国は世界のアフリカへの成長期待をよそに治安が悪化し、統治が機能していない。背景には人口が増えるなかで貧困や若年層の失業が膨らみ、過激派勢力が不満を募らす若者を引き込む負の構図が浮かぶ。2050年までに人口が倍増して25億人になるアフリカ大陸。欧米は「最後の市場」としての潜在性よりも、リスクへの意識を強めているように見える。西アフリカのある高成長国の閣僚も「雇用創出できなければ、人口は文字通りに爆発し、世界の問題になる」と話す。特に地理的に近い欧州は大量の難民流入やテロのリスクに直面する。アフリカの安定成長を促して人口増に伴う雇用を確保し、インフラや衛生整備を進めなければ、食料不足や疫病の流行といった危機も招きかねない。今回のアフリカ開発会議(TICAD)で安倍晋三首相が平和構築への協力を打ち出し、教育や医療支援も強調したのは欧米の懸念に呼応した動きといえる。「スクランブル(先を競った奪い合い)」と形容される最後の市場を巡る各国の競争は思わぬ結果を生む可能性もある。改革を進め、外資を呼び込んで成長する国と、負のサイクルから抜け出せない国との格差が広がる兆しがある。人口予測通りにいけば、50年には世界の4人に1人はアフリカ人となる。世界銀行総裁候補だったナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相は訴える。「アフリカを育むことは世界の未来に直結する」

*4-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190831&ng=DGKKZO49216720Q9A830C1EA3000 (日経新聞 2019年8月31日) アフリカ投資拡大へ「人づくり」前面 TICAD閉幕 、膨らむ債務 対処後押し 支援先行の中国を意識
 第7回アフリカ開発会議(TICAD)は30日、アフリカの経済成長の進展をめざす「横浜宣言」を採択して閉幕した。日本は会議を通じて民間主導の投資を訴え、政府としては投資拡大の環境を整える人材育成を前面に掲げた。中国の融資で過剰債務を抱える国などの実態を踏まえ、投資や支援で先行する中国に傾斜しすぎないよう促す狙いもある。安倍晋三首相は30日のTICAD閉幕後の記者会見で「日本とアフリカの懸け橋となる人材の育成に力を入れていく」と強調した。治安から公的債務、保健、産業まで投資拡大の前提となる能力向上をはかる。具体策のひとつが今後3年間でのべ30カ国に公的債務のリスク管理研修を実施することだ。ガーナやザンビアへの債務管理やマクロ経済政策を助言する専門家の派遣を決めた。ケニアの鉄道など中国の融資で重い債務を抱えた例が指摘される。財政が悪化すれば円借款などを用いたインフラ支援などが難しくなる。横浜宣言には6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)でまとめた首脳宣言や「質の高いインフラ投資原則」の歓迎を盛り込んだ。過剰な債務を負わせないよう透明性と持続可能性を重視する内容だ。首相は記者会見で「支援は対象国の債務負担が過剰にならないようにしなければならない」と述べた。宣言で「自由で開かれたインド太平洋構想」の評価に初めて触れたのは、中国の「一帯一路」構想を意識した。アフリカ側にも「投資や援助を受ける国を多様化したい」(ジブチのユスフ外相)との声がある。30日の「平和と安定」に関する会合では、河野太郎外相がアフリカ諸国の国連平和維持活動(PKO)の能力向上支援に触れた。ケニアなどのPKO訓練センターで日本の自衛官らによるPKO部隊の研修を充実させる。アフリカでは治安が悪化している地域が多く、地域格差拡大の要因にもなる。アフリカ市場が発展し民間投資が増えるためには情勢の安定が重要だ。

*4-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190831&ng=DGKKZO49221200Q9A830C1FF8000 (日経新聞 2019年8月31日) アフリカ開銀総裁「一帯一路は成長寄与」 債務のワナ否定
 アフリカ開発銀行(AfDB)のアデシナ総裁は30日、日本経済新聞のインタビューに対し、中国の経済圏構想「一帯一路」について「アフリカの経済成長に寄与する」と評価した。中国が過剰債務の代償としてインフラ権益を奪う「債務のワナ」について「中国がそうした意図を持っているとは思わない」と述べ、中国のインフラ投資を歓迎する姿勢を見せた。アデシナ氏はアフリカの持続的な経済成長にはインフラ整備が欠かせないと述べた。不足している資金を最大で1080億ドル(約11兆円)と予測し、海外から投資を呼び込むことが重要との考えを示した。「一帯一路」については「アフリカの発展に寄与する」と評価した。また、アフリカの一部の国で対外債務が増えていると指摘し、各国が「債務についての透明性を確保し、処理の道筋を示すことが非常に重要だ」と述べた。一方で「アフリカで債務危機に陥っている国はない」と述べ、現時点でのアフリカ諸国の債務水準は問題視しない考えを示した。足元のアフリカ経済については良好との認識を示した。「2019年の平均成長率は4.1%を確保できる」と述べた。今後のリスクに米中貿易戦争と英国の欧州連合(EU)離脱、インドとパキスタンの緊張の3つを挙げた。アデシナ氏は8月28~30日に横浜市で開いたTICADに出席するため来日した。

*4-6:https://www.agrinews.co.jp/p48606.html (日本農業新聞論説 2019年9月1日) 日・アフリカ会議 農業支援で関係強化を
 日本政府が主導する第7回アフリカ開発会議(TICAD7)は、民間企業の投資強化など「横浜宣言」を採択して閉幕した。人口が倍増するアフリカは、今後の有望な経済成長地域だ。一方で食料輸入国が多い。日本の先進技術を含め、農業振興で成長を後押ししたい。「後進地域がゆえの先進性」──潜在的な成長力を秘めるアフリカ大陸の可能性はこう表現できる。「横浜宣言」で、民間投資の大幅拡充やデジタル革命へ対応を明記した理由だ。農業面でも同じ。JAグループが6月開設した戦略拠点「イノベーションラボ」。ベンチャー企業と連携し、幅広い分野でITを活用した新規事業の創出を目指す。その一つ、日本植物燃料(神奈川)は、アフリカのモザンビークで新たな挑戦を進める。現地農家にバイオ燃料作物栽培を推進。それを契機に農家に電子マネーを広げ、少額融資などを行う。鍵は普及している携帯電話の活用だ。合田真代表は、情報通信技術(ICT)を駆使し、農林中金やJA全農など総合事業を行うJAグループと連携すれば、「さらに現地の農村を発展できる」と強調する。吉川貴盛農相はTICAD期間中、「農業」部門に参加し、アフリカの食料安全保障確立に関連し、専門家派遣の拡充や、先端技術を駆使したスマート農業の振興などを強調した。TICADでは、二つの視点が欠かせない。地球規模の食料安保と中国の存在感だ。アフリカ諸国はかつて農産物の輸出大国でもあった。だが度重なる紛争や気象災害で国土は荒廃した。豊富な鉱物資源は多国籍企業の収奪に遭う。土地収奪も重なり、アフリカ農業は衰退の一途をたどる。基礎的食料さえも不足し食料輸入大国に転落した。人口増と食料輸入の同時進行は、世界の食料安全保障上も大問題となりかねない。アフリカ大陸の経済成長の潜在力は大きい。今年5月には域内の関税撤廃などを目指す自由貿易協定も発効し、巨大な統一市場への期待も膨らむ。中国やインドに匹敵する13億人の人口で、2050年には25億人と倍増し世界の4分の1を占める見通しだ。巨大な胃袋をどうやって満たすのか。いま一つの視点は中国の動き。2000年からアフリカ協力フォーラムを7回開催。昨年は、3年間で600億ドルを拠出する巨額支援を表明した。米中貿易紛争の激化は、安全保障問題も絡む。こうした中で、今回のTICADでは中国に対抗し日本の存在感を強める戦略的な意味合いも一段と強めた。一方、食料自給率の向上は喫緊の課題だ。農業分野支援は、日本の高い技術力を生かせる。既に干ばつに強い多収性の「ネリカ米」振興は高い評価を受けている。JAグループなど農業団体はアジアの途上国を中心に人材育成に力を入れてきた。今後はアフリカを含め日本の“農協力”発揮の時でもある。

*4-7:https://www.agrinews.co.jp/p48629.html (日本農業新聞 2019年9月3日) 全農 電力販売を本格化 割安提供 家計、営農後押し
 JA全農は、JA組合員の家庭や営農施設向けの電力の販売に本格的に乗り出す。各地域の電力会社より安価に供給し、家計の負担や営農コストの削減を後押しする。地方では電力小売りへの参入業者が少ないが、「JAでんき」の愛称で北海道と沖縄県、一部の離島を除く全国で展開。2021年度までに累計35万戸の契約を目指す。子会社の全農エネルギーが各地域の電力会社などから電力を調達し、正・准組合員やJAグループ役職員の家庭、営農施設に届ける。電力会社の送電網を使うため、電力の安定性は従来と変わらない。JAを通じて申し込むが、地域のJAが同社や全農と代理事業契約を結ぶ必要がある。家庭用電力の料金は、各地域の電力会社より割安に設定する。自前の発電所などを持たないため料金を抑えられる。全農によると、標準的な4人家族の使用量で、電気料金は5%前後安くなる。使用量が多いほど割安な料金体系で、世帯人数が多い農家は、さらに電気料金の引き下げメリットが受けられるという。ハウスや畜舎などの営農施設向けには、使用実態の調査や料金の試算を個別に行った上で、値下げが見込める場合に切り替えを提案する。営農施設には、地域の電力会社も規模や使用量に応じて割安な料金を設定している場合があるためだ。16年の電力小売り全面自由化で、家庭や小規模事業者も電力会社を選べるようになった。だが、JAの組合員が多い地方では、大都市圏に比べ参入業者が少なく、切り替えが進んでいない。全農はその受け皿となり、組合員の電力コスト削減を目指す。16年に電力事業に参入後、電力の使用規模が大きい精米や食肉などの加工工場、物流センターといったJAグループの施設向けに先行して取り組み、全国的に供給できる態勢を整えてきた。全農は現在、電力事業に取り組んでもらうJAへの説明や提案を進めている。19年度は50JA程度でモデル的に供給を開始。20年度以降、対象となる全てのJAに広げたい考えだ。19年度からの3カ年計画では、契約件数の目標を21年度までの累計で35万戸と掲げた。全農は「安価な電力の供給で家計負担の抑制や営農コストの削減に貢献したい」(総合エネルギー部)とする。従来のLPガスや灯油と組み合わせたエネルギー利用の提案や、営農用エネルギーの総合診断なども展開していく方針だ。

<“普通”信奉(≒同質主義)は、病根の一つである>
PS(2019年9月2日追加):持って生まれたDNAと周囲の環境の違いのために発現する多様な個性を、*5のように、“普通”でないから脳機能障害による発達障害だとし、“グレーゾーン”まで含めて医療機関の受診を奨める報道は少なくないが、これは間違った知識を一般の人に与えるのでよくない。何故なら、医師が「経過をみましょう」と言っても、母親が「ママ友」の繋がりで発達障害と診断してくれるクリニックを捜して「むしろ安心した」と言うような状況になるからだ。人の性格や生育スピードにはばらつきがあるので、周囲の大人が「普通でない」と感じたからといって脳機能障害と考えるのは間違いであり、その子に対する人権侵害でもある。
 学校や社会に適応できない理由には、くだらないことで仲間外れにしたり、いじめたりする影響があるからで、発達障害というよりは“文化”の方を変えなければならない側面が大きい。そして、社会に出てまで支援を受ける人の割合が多いのは困るため、それぞれの個性を活かした教育や能力開発が必要だ。さらに、普通に働いている大人まで「見過ごされた人」として、その症状を「①空気が読めない」「②ミスを繰り返す」などとしているが、①は、空気を読んで周囲に合わせることしかできない深刻な無思考(他人依存)症候群であり、②は、慣れないことは誰にとっても難しいため仕事ができるためには熟練しなければならないということだ。



(図の説明:最近、左及び中央の図のように、程度の差こそあれ誰にでもある多様性の範囲に入るものまで発達障害として精神障害に入れ、右図のように、相談してケアされることを奨めているが、これはむしろ教育や躾の妨げとなって子どもの機会を奪う)



(図の説明:左図のように、人は成績・身体能力・所得・貯蓄高等と同様、性格にも多様性があり、普通と言うのは中央から2σ《95.4%が入る》か3σ《99.7%が入る》内の人だ。そして、3σより向こうの両端にも0.3%《1000人に3人》の人がおり、右端《0.15%、1000人に1.5人》には優秀な人がおり、左端《0.15%、1000人に1.5人》には駄目な人がいて、普通が最もよいわけではない。また、中央の図のように、ばらつきが左右対称に分布している場合は平均値・中央値・最頻値は一致するが、歪んだ分布をしている場合には平均値・中央値・最頻値は異なる。そして、日本は何でも精神障害ということにする結果、世界でも突出して精神病床の多い人権侵害国になっている。ただ、既製服や既成靴を買う場合は「普通」の範疇に入る人の方が品物が豊富でよいのだが、この「普通」も国によって大きく異なることは誰もが知っているとおりだ)

*5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14160488.html (朝日新聞 2019年9月2日) (記者解説)発達障害、寄り添うため 特性は多様、早めに専門機関へ 生活文化部・土井恵里奈
 ・脳の機能障害が原因とされ、手術や投薬では解決しない。障害特性は一人ひとり違う
 ・専門家や専門機関と早めにつながり、社会生活上の困難を小さくすることが大切
 ・障害を見過ごされた大人、診断されない「グレーゾーン」の人たちの支援も課題
■診察のため予約殺到
 東京都江戸川区の児童精神科クリニック「まめの木クリニック」には、発達障害かどうか診察を求める電話が後を絶たない。「健康診断や学校で(発達の凸凹を)指摘されて来る人、自分で調べて来る人が多い」。上林靖子院長はそう話す。初診予約は年内すでにいっぱい。2年待ちの時もあった。東京都内の女性の長男(中2)は発語が遅く、あちこちにふらふら行くなど落ち着きがなかった。1歳半の健診では「経過をみましょう」と言われ、病院を受診しても「発達障害の疑いはありますが……」とあいまいだった。「ママ友」のつながりで同クリニックを知った。約10カ月待ち、長男が2歳のころ受診。発達障害と診断された。女性はこう振り返る。「むしろ安心した。それまでは情報が得られなくて先が見えなかったから」。今も定期的に長男と通院し、医師や臨床心理士らに相談する。女性は「最初は長男がなぜこんな行動をするのか共感してあげられなかった。子どもへの接し方を学び、子どもが穏やかに生活できるようになった」と話す。発達障害の特性による育てにくさに直面し、周囲に言えなかったり理解されなかったりして悩んでいる人は多い。発達障害かどうかは、成育歴を聞き取る問診や知能検査などを経て医師らが診断する。厚生労働省によると、特性を適切に把握できる児童精神科医は少ない。発達障害の原因は脳の機能障害とされる。手術や投薬で治ることはなく、当事者は特性と生涯向き合う必要がある。だから、医師や臨床心理士といった専門家と早くからつながることが大切だ。上林院長は「発達障害の特性ゆえのやりにくさをうまく乗り越えていけるようにして、社会に送り出してあげることが大切」と指摘する。発達障害は一様ではない。読み書きや計算など特定の課題の学習につまずく「学習障害」(LD)、こだわりが強く、他人の気持ちを想像したり共感したりするのが苦手な「自閉スペクトラム症」(ASD)、衝動性が強かったり、忘れ物や遅刻などの不注意が多かったり落ち着きがなかったりする「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)がある。複数の特性が重複していることもよくある。特性から光や音、接触に過敏だったり、暑さや寒さ、痛みに鈍感だったりする人もいる。
■高校でも支援の動き
 政府も後押ししている。2005年に発達障害者支援法が施行され、早期の発達支援が重要と条文にうたわれた。学校や社会に適応できずに不登校やうつ、引きこもりといった「二次障害」を防ぐためで、「障害の早期発見のため必要な措置を講じること」が国と地方公共団体の責務となった。だからこそ発達障害の疑いのある子どもがいれば、いち早く地元の市役所や町村役場を頼りたい。行政機関は求めに応じて医療機関を紹介してくれる。ただ地域格差があり、都道府県と政令指定市に設置されている「発達障害者支援センター」も支援の窓口だ。発達段階に応じた児童発達支援(未就学児対象)や放課後等デイサービス(小学生から原則高校生まで)も制度化されている。専門性を持った職員から社会的スキルなどを学ぶが、こうした情報も行政とつながることで得られやすくなる。幼稚園や保育所、小中学校には教員や支援員が増やされることがある。高校でも、通常学級に在籍しながら発達の程度に応じた特別な指導(通級指導)を受けることができる。一方、義務教育が終わると支援が行き届かない場面が増える。孤立しないよう、積極的に向き合う高校もある。和歌山県立和歌山東高校では、発達に課題がある生徒の保護者とは入学前の早い時期に面談している。読み書きを苦手にしている生徒に対しては、在籍する通常学級で黒板を書き写しやすくするため、重要なことを黄色の線で囲むなど工夫している。こうした配慮は他の生徒にも好評で、退学者が減るなど全体に好影響をもたらしている。石田晋司校長(58)は「社会に出ると多様な人と関わっていく。得手不得手を助けたり助けられたりすることを学ぶことは、どの子にとってもプラス。人を理解する力をつけることにつながる」と話す。
■「見過ごされた」大人
 困難を抱えていたのに、子どもの時に「見過ごされた」人たちがいる。大人の発達障害だ。昭和大付属烏山病院(東京都世田谷区)には大人の発達障害専門の外来があり、来院者が絶えない。臨床心理士らに付き添われ、怒りや不安の感情との向き合い方や時間を管理するスキルなどを学ぶ。仕事や生活での具体的な困り事を当事者同士が話し合うプログラムもある。「家に食材をため込む」「体調が悪い時は特に片付けが苦手」。当事者たちは日頃の悩みを互いに打ち明ける中で自己理解を深め、解決のアイデアを共有する。障害の傾向はあっても発達障害と診断されない、「グレーゾーン」に置かれる人たちもいる。困難や生きづらさはあるのに、支援の手が届きにくい。神奈川県の男性会社員(31)は子どもの時から忘れ物や遅刻、不注意が多かった。周囲から孤立し、22歳でうつに。発達障害を疑って受診したが、医師からは「ADHDの傾向はあるが断定できない」と言われた。就職活動時はリーマン・ショック。特性を職場に伝えるのはマイナスと考え、言えなかった。職場では複数の業務を同時にこなすのに苦労。転職を繰り返した。2年前、グレーゾーン当事者の支援団体「OMgray事務局」をつくった。定期的に東京に集まり、就労や生活の困り事の解決策などを情報交換する。男性は「社会に普通にいる存在として受け止めてほしい」と話す。女性の当事者会「Decojo」には、診断を受けた人もグレーゾーンの人も参加し、困り事をブログに書き込んでいる。代表の沢口千寛さん(27)は「当事者だけでなく、私たちの行動を理解できず振り回されている人や社会にも見てほしい。理解し合い、歩み寄れるようになれば」と話す。
■「普通」に見える、でも困っている 学校で職場で手をさしのべて
 23万人。発達障害の診断などを受けるために医療機関を受診した人の推計(17年度)だ。受診者といっても、学校に通ったり働いたり子育てしたりと「普通」に見える。でも壮絶に困っている。生きづらさを抱えたまま社会に紛れている。「空気が読めない」「ミスを繰り返す」。当事者の困りごとは切実だが、外からは見えにくい。「怠けている」「だらしない」と責められやすい。「グレーゾーン」だと、相談先も十分でない。病気のように重いほどつらいとは限らないことも、この障害の特徴だ。子どもは自分で苦しさを伝えづらく、いじめにつながりやすい。無理を重ね不登校になった子もいる。大人になると、周囲が助けてくれる場面は少なくなる。特性を抱えながらも、発達障害という言葉さえ知られていない時代に子どもだった人は今、30代、40代を過ぎている。就職氷河期のロストジェネレーション世代とも重なり、非正規雇用など不安定な生活を強いられている人は多い。ひきこもりに陥るなど社会からの孤立が心配だ。当事者の言葉は重い。「人生で普通の人の100倍怒られてきた」「パターンをたたき込んで普通になろうともがく。努力して努力して、でもなれなくて。自分はダメと思い、殻に閉じこもっていく」「社会に出たら迷惑をかける。出ないことが社会貢献」。当事者を縛る「普通」とは何だろう。常識? 標準? ものさしは一つ? いろんな国や言語があるように、一人ひとりの普通は違う。学校にも職場にも地域にも、「苦手ならちょっと代わりに」とさしのべる手がたくさんあるといい。発達障害の痛みを和らげるには、医療より社会にできることが大きい。特効薬がない障害の鎖をほどいてゆく力になるのは、医師や専門家だけじゃない。どこにでも普通にいる私たちだ。

<日本は、本当に法治国家か?>
PS(2019年9月3日追加): 総務省が、ふるさと納税の新制度から大阪府泉佐野市を除外した件を審査した「国地方係争処理委員会」が、*6-1・*6-2のように、除外決定の再検討を石田総務相に勧告することを決めて総務省は敗訴したが、これは新制度への参加が認められなかった静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町も同じであるため、提訴すれば速やかに結論が出るだろう。何故なら、日本国憲法に「第84条:あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定められており(租税法律主義)、新たに定められた法律が施行前に遡って効力を持つこと(遡及効)はないからだ。さらに、総務省の通知は、国税庁の通達と同様に一つの考え方であって法律ではないため、総務省が「メチャクチャだ」と感じたとしても通知の順守を強要すれば憲法違反になる。そのため、大阪府知事が、*6-3のように、「総務省のおごり」「国は真摯に受け止めて見直すべき」としているのは妥当であり、メディアや行政は、もっと法律を勉強しておく必要がある(笑)。
 なお、佐賀県は、(私の提案で)日本の中でも病院のネットワーク化が進んでいるので、*6-4の東多久町に建設する新病院は、①どのような先進医療を ②どういう新しい施設で市民に提供するか についてのコンセプトを決め、新病院の建設を使い道として県人会や同窓会などで「ふるさと納税」を集めればよいと思う。

   
 2019.9.3東京新聞 2019.8.27朝日新聞

(図の説明:左図には、泉佐野市の勝因は地方税法違反と書かれているが、そもそも租税法律主義を定めた憲法違反である。また、中央の図には、泉佐野市は肉・カニ・米の三種の神器がないと書かれているが、私は農産物でなくても地域を振興する何かであればよいと思う。確かに、右図のように、大阪府泉佐野市・静岡県小山町・和歌山県高野町・佐賀県みやき町は頑張ったわけだが、これは上記の法的根拠で除外される理由にはならないわけだ)

*6-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201909/CK2019090302000146.html (東京新聞 2019年9月3日) ふるさと納税 泉佐野市除外、違法か 係争委、再検討勧告へ
 ふるさと納税の新制度から、大阪府泉佐野市が除外された問題を審査した第三者機関「国地方係争処理委員会」は二日、除外決定の再検討を石田真敏総務相に勧告することを決めた。過去に不適切な寄付集めをしたとして除外した総務省の対応は、新制度を定めた改正地方税法に違反する恐れがあると指摘した。同省が事実上の「敗訴」となる極めて異例の判断を下した。総務省には、勧告の文書を受け取ってから三十日以内に、再検討の結果を泉佐野市へ通知するよう求める。同省は再検討を義務付けられるが、別の理由で改めて除外するのは可能。審査を申し出た市は「主張がおおむね理解された」とコメントした。同様に新制度への参加が認められなかった静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町の三町は勧告の対象外。委員長の富越和厚元東京高裁長官は記者会見で、泉佐野市による寄付集めを「制度の存続が危ぶまれる状況を招き、是正が求められるものだった」と述べ、問題があったとの認識を示した。ただ、それを除外の根拠にすることは認められないと指摘。理由として「改正地方税法に基づく新制度の目的は過去の行為を罰することではない」と説明した。六月開始の新制度は、改正法に基づく総務相の告示で「昨年十一月以降、制度の趣旨に反する方法で、著しく多額の寄付を集めていない」ことが参加基準の一つになった。市はインターネット通販「アマゾン」のギフト券などを贈り、昨年十一月~今年三月に三百三十二億円を獲得。総務省は基準を満たしていないとして五月に除外を決めた。

*6-2:https://digital.asahi.com/articles/ASM9263JXM92ULFA03B.html?iref=pc_rellink (朝日新聞 2019年9月2日) 総務省、泉佐野市に完敗 「メチャクチャだったのに…」
 ふるさと納税制度からの除外をめぐる総務省と大阪府泉佐野市の対立で、同省の第三者機関・国地方係争処理委員会が2日、石田真敏総務相に除外の内容を見直すよう求めた。係争委は、法的拘束力のない通知への違反を除外理由にしたことを「法に違反する恐れがある」と認定しており、事実上、総務省の「完敗」となった。係争委の富越和厚委員長は委員会後の会見で、6月の地方税法の改正前の泉佐野市の行為は「世間にやり過ぎと見られるかもしれないが、強制力がない通知に従わなくても違法ではない」と説明した。係争委は今回、改正法の施行後に守るべきものとして総務省がつくった基準を、法改正前の行為にあてはめて除外を判断したとして、違法の疑いがあると認定。同省に直接、除外の判断の撤回までは求めなかったが、総務省が除外の根幹として掲げていた理由は「少なくとも本件で使うべきではない」と退けた。富越委員長は、総務省が泉佐野市を除外する判断を続ける場合は、新たな法的根拠を提示する必要があるとの見解を示した。係争委の勧告に、総務省内では戸惑いの声が上がった。同省幹部の一人は朝日新聞の取材に「泉佐野市の集め方はメチャクチャだったのに。係争委の厳しい判断は受け入れがたい」と話す。一方、政権幹部の一人は「今後訴訟になった時に対応できるよう整理するということ。根本的な問題ではないのでは」との見方を示した。

*6-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM933HCLM93PTIL005.html?iref=comtop_list_nat_n05 (朝日新聞 2019年9月3日) 大阪府知事「総務省のおごり」 ふるさと納税の勧告受け
 ふるさと納税制度から大阪府泉佐野市を除外した総務省の判断に対し、同省の第三者機関・国地方係争処理委員会が「法に違反する恐れがある」と見直しを求めたことについて、大阪府の吉村洋文知事は3日、記者団に「妥当な判断。国は真摯(しんし)に受け止めて見直すべきだ」と述べた。吉村知事は、国が元々通知として出し、6月施行の改正地方税法に盛り込んだ「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品に限る」とのルールを、法改正前の泉佐野市の行為にあてはめて除外したと指摘。「法律を遡及(そきゅう)適用しないのは大原則。新しい制度から外すのは総務省のおごりだ」と批判した。
菅義偉官房長官は記者会見で「総務省において対応について検討が行われる。各自治体で使途や返礼品について知恵を絞り、健全な競争が行われ、地域の活性化につなげていくことが大事だ」と述べた。

*6-4:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/421806 (佐賀新聞 2019年9月3日) 新病院は東多久町に 建設地を選定多久、小城検討委
 多久市立病院(多久市多久町)と小城市民病院(小城市小城町)の統合計画で、多久、小城の両市は2日、新しい統合病院の建設予定地が多久市東多久町に選定されたと発表した。選定の理由は「両市民の利便性や経営の安定性に加え、医療機関が特定の地域に偏らないことなどを総合的に判断した」としている。今後は地権者との協議を進め、新病院の建設費に関する負担割合や診療科目などを両市で議論する。両市長や医師会、両病院の代表者らで構成する建設地の検討委員会が8月30日、佐賀市で3回目の会議を非公開で開き、候補地5カ所の中から適地を選んだ。両市の事務局によると、多久、小城市はそれぞれ、自らの市域への建設を会議で要望した。民間の病院が少ない多久市は「公立病院がなくなれば医療過疎地になる」とし、財政支援などで経営の安定に努力すると訴えた。建設予定地は東多久町別府の約2・6ヘクタールの範囲。現在は水田などが広がり、北東に佐賀LIXIL(リクシル)製作所の佐賀工場がある。両市長が2日、両市議会に選定の概要を説明した。今後は両市で新病院の準備室を立ち上げ、具体的な協議に入る。2020年に診療科目や病床数を定めた基本計画の策定を目指す。検討委の委員長を務める池田秀夫佐賀県医師会長は「両病院ともに老朽化が進んでおり、必要な医療を継続して両市民に提供するためにも、早期の病院建設を望む」とのコメントを出した。

PS(2019年9月5日追加):*7-1のように、「情報社会でデータを使ってなら人権侵害をしてもよい」という感覚は早急に正すべきだが、そういうことをする人の心の底には、他を貶めたり差別したりすることによって自分の優位を保とうとする誤った意識がある。そのため、私は、「表現の自由」「日本文化」の名の下にあらゆる角度から女性差別された嫌な経験から、「他人を差別した人が有利になることはない」ということを徹底しなければならないと考えている。
 そして、*7-1には、被差別部落の事例が掲載されているが、*7-2の外国人のケースも、「包丁購入=殺人犯」とするのは飛躍しすぎているため重傷を負った裕子さんが話せるようになってから犯人について聞くことが不可欠なのに、警察もまた孤立無援に近い外国人を差別を利用して犯人に仕立て上げることが多いわけだ。例えば、*7-3のゴビンダさんの冤罪事件は有名だが、その他にも人権侵害にあたる事件は多い。

*7-1:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/422734 (佐賀新聞 2019年9月5日) 情報社会と権利侵害、感覚が鈍っていないか
 個人情報やプライバシーをめぐってインターネットの負の側面を象徴するような出来事が続く。就職情報サイト「リクナビ」の運営会社は学生の閲覧履歴を基に内定辞退率を予測し、個人を特定する形で企業に販売していた。常磐自動車道でのあおり運転事件で無関係の女性が「同乗者」と名指しされ、実名と写真がさらされた。就職活動に関わる情報は学生の人生を左右しうる。それが本人も知らない間に採用側に提供される。事件のたび虚実ない交ぜの情報がネット上で飛び交い、平穏な日常を送っていたら突然、デマ情報で「犯罪者」扱いされる。企業しかり、個人しかり。個人データや情報、名誉権に対する意識の希薄さを浮き彫りにする。身近なところで気になっていることがある。今年3月、被差別部落(同和地区)の地名や戸数、人口などを掲載した『全国部落調査』の復刻版が、ネットのフリーマーケット「メルカリ」に佐賀県内から出品されていた件だ。『全国部落調査』は1936年、政府の外郭団体が融和事業を進めるため作成した報告書で、70年代、企業や調査会社が就職や結婚の際の身元調査のために購入し、社会問題となった『部落地名総鑑』の原本とされる。それが2016年、神奈川県の出版社が復刻版発行をネットで予告し、出版は差し止め処分が出たが、ネット上でダウンロードできた。出品物はデータを個人で印刷したとみられ、約200ページ、売価3500円で、行政関係者が気づいた時は既に3冊が売れていた。出自をめぐる差別は普段は見えないが、就職や結婚など人生の節目に出現する。そして人を排除し、引き裂く。購入者は一体何のために買ったのか。出品者はコトの重大性を認識しているのか。そんな資料が公然と出回っている現実は、長きにわたる部落差別撤廃の取り組みの内実を問う。同様に、差別をあおる行為は特定の国の人々やマイノリティーに対して顕著だ。国際社会での日本の経済力が低下し、格差が拡大する中、雇用や社会保障への不安と不満が募っていることが関係するのか。いら立ちが社会的弱者に向かい、それがネットという匿名性の空間に噴出している。インターネットの普及でさまざまな情報が瞬時に手に入るようになり、個人が自由に情報発信できる時代になった。ただ、利便性ゆえ、社会規範を逸脱した行為や権利侵害を誘発しやすい。一度ネット上で広がれば長期間残り、不特定多数の目に触れるという点で、影響は大きく、深刻だ。デマ情報問題では女性が投稿者の法的責任を追及する方針だが、情報の洪水の中で、こうした権利侵害行為への感覚が鈍っていないか。自戒したい。

*7-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190903-00000061-asahi-soci (朝日新聞 2019/9/3) 逮捕のベトナム人実習生、容疑を否認 包丁購入は認める
 茨城県八千代町の住宅で8月24日、大里功さん(76)が殺害され、妻の裕子さん(73)が刺されて重傷を負った事件で、裕子さんに対する殺人未遂容疑で逮捕されたベトナム国籍の農業実習生グエン・ディン・ハイ容疑者(21)が「現場に行っておらず、刺してもいない」と容疑を否認していることが3日、捜査関係者への取材でわかった。茨城県警は同日、ハイ容疑者を水戸地検に送検した。捜査関係者によると、ハイ容疑者は容疑を否認する一方で、事件前日の午後5時ごろ、近くのホームセンターで包丁を購入したことは認めている。購入したのは、現場に落ちていた凶器とみられる包丁と同じ型のものだったという。県警は、同店の防犯カメラの映像などからハイ容疑者を特定したという。県警によると、ハイ容疑者は農業実習生として昨年11月から1年間の期限で在留しており、大里さん宅から約2キロの宿舎に他の実習生らと住んでいた。大里さん宅近くの畑で野菜を栽培するなどしていたという。ただ大里さんは元会社員で、実習生の受け入れなどは確認されていないという。県警は、事前に凶器を準備した計画的犯行とみるとともに、室内が物色された形跡がないことなどから、夫婦との間に何らかのトラブルがあった可能性があるとみて調べている。

*7-3:http://www.jca.apc.org/~grillo/ (ウイズダムアイズ 2019.9.5) 外国人冤罪事件から日本が見える
 ウイズダムアイズは真実を見通す眼です。私たちが裁判官に期待したい眼です。
●ゴビンダさん冤罪事件
 1997年3月、東京都渋谷区で一人の日本人女性が殺される事件が発生しました。
間もなく、近くに住んでいたネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんが逮捕されました。一審無罪、それにも関わらず勾留が続き、新しい証拠調べもないままに2000年12月高裁での逆転有罪・・・と異様な経過をたどる事となりました。
●ロザールさん冤罪事件
 1997年11月、フィリピン人女性マナリリ・ビリヤヌエバ・ロザールさんは、恋人と同居していたアパートのベッドで恋人が刺されているのを発見しました。ロザールさんはすぐにY病院に駆け込み、助けを呼びました。救急隊員は、硬直の状況等を多少確認しただけで警察に通報しました。その直後、ロザールさんは松戸署に連行され、その後逮捕状もないまま拘束され、二度と釈放されませんでした。 
●トクナガさん冤罪事件
 2000年6月27日長野県警豊科署は、3歳の長女に暴行を加え死亡させたとして傷害致死の疑いで、同県穂高町穂高に住む日系ブラジル人の工員トクナガ・ロベルト・ヒデオ・デ・フレイタス容疑者(23)を逮捕しました。トクナガさんの逮捕容疑は同年6月25日ごろ、長女のマユミちゃんが自分になつかないことに腹を立て、全身を殴るけるなどの暴行を加え死に至らしめたというもの。
公判では一貫して「暴行したのは当時の妻」と無罪を主張。一審長野地裁では無罪判決を受けました。しかしその後も「無罪勾留」が続き、東京高裁は2002年6月8日、1審無罪判決を破棄し、懲役5年を言い渡した。弁護人は閉廷後、「控訴審は、当時を知る元妻らを証人として出廷させず、事件について真摯(しんし)な検討を加えたとは言い難い」としています。
●姫路冤罪事件(ジャスティスさん冤罪事件)
 兵庫県姫路市2001年6月19日、市内の花田郵便局に、目出し帽をかぶった2人組の強盗が入り、約2200万円が奪取されました。その犯人とされたのが、ナイジェリア人のジャスティスさん。この事件については担当の池田弁護士のサイトがくわしいです。
●ニック・ベイカーさん冤罪事件
 2002年にサッカーワールドカップを見に日本にやってきたイギリス人のベイカーさんが成田空港で麻薬の不法所持で逮捕された事件。ベイカーさんはプルーニエという男にだまされて鞄を持たされたと主張しましたが、日本の警察はこのプルーニエを調べもしないで出国させました。ところがその後、このプルーニエがベルギーで、他人をだまして麻薬を運ばせようとした容疑で逮捕されました。このことを証拠として申請した弁護側の要求を蹴って、東京地裁は2003年6月にベイカー氏に懲役14年の判決をくだしました。2005年10月、控訴審でも有罪となり、上告はせずに服役した。
●モラガさん無罪勾留事件
 チリ国籍のモラガさんは2001年8月、知人と共謀し東京都内と諏訪市で窃盗を働いた容疑で逮捕された。2003年5月29日、諏訪簡裁で無罪判決。検察控訴の後、8月29日、東京高裁の決定により再勾留されました。2004年年8月17日逆転有罪。最高裁第二小法廷(滝井繁男裁判長)は2004年12月14日付けで上告を棄却する決定をし、懲役二年が確定した。11月上旬に上告趣意書を提出し、わずか一カ月余りで最高裁は十分な審理をしたとは思えない。一審の無罪判決が軽んじられている決定である。

<高齢者差別による活動制限は人権侵害である>
PS(2019/9/7追加):すべてのメディアで長時間に渡って繰り返し繰り返し高齢ドライバーによる交通事故が報道された後、*8-1のように、九州の240自治体にアンケートで尋ねた結果、18自治体が「①免許更新を厳格化すべき」とし、「②65歳以上のサポカー購入に1人1台に3万円補助している」「③後付け装置の購入を支援している」とする自治体もあり、「④交付税措置を検討してほしい」とする自治体もあったそうだ。政府は「⑤75歳以上を対象にサポカーだけを運転できる限定免許を導入する方針」としているが、①は、“高齢者”だけを一律に厳格化すれば、老化に程度の差がある高齢者に対して差別になり、②も65歳以上の全員を運動機能の衰えた高齢者とすることには無理がある。そのため、私は高齢か否か、故意か過失かを問わず、自動車運転が事故に繋がらないように運転支援車の普及を義務化しつつ、既に所有されている自動車にも国の補助をつけて車検時に運転支援プログラムを導入するのがよいと考える。
 なお、*8-2のように、「車の運転をやめて移動手段を失った高齢者は、要介護状態になるリスクが2.2倍になる」という研究結果が日本疫学会誌に発表されたが、これは当たり前のことで、要介護状態になれば支える側から支えられる側になるのである。当たり前である理由は、筋力と同様に頭脳も使わなければ衰えるため、頭脳がつかさどる言語能力・思考力・健康維持力なども落ちるからで、事故のリスクだけが人体への悪影響ではないことを考慮すべきだ。

*8-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/539398/ (西日本新聞 2019/8/31) 高齢事故防止 広がる助成 九州5市町導入、26自治体検討
 高齢ドライバーによる交通事故が相次ぐ中、事故防止につながる「安全運転サポート車」(サポカー)や後付け安全装置への関心が高まっている。西日本新聞は九州7県の全自治体にアンケートを行い、5市町がサポカーや後付け装置購入に助成していることが分かった。26自治体は検討中とした。公共交通が乏しい地域を抱える自治体は、助成の必要性は感じているものの「財源がない」と国の財政支援を求めた。18自治体が「免許更新を厳格化するべきだ」と回答した。アンケートは九州の7県と市町村の計240自治体に送付、今月までに218自治体(回収率90・8%)が回答した。助成制度の有無や検討状況、国への要望などを聞いた。助成制度がある5市町のうち、福岡県苅田町は65歳以上がペダルの踏み間違い加速抑制装置などを備えたサポカー購入時、1人1台に限り3万円を補助する。同県うきは市、熊本県玉名市、大分県日出町は、後付け装置の購入を支援。玉名市は地元企業が開発した踏み間違い防止ペダルの取り付けに5万円まで出す。宮崎県新富町はサポカーと後付け装置の購入両方に3万~5万円を補助する。サポカーと後付け装置の両方の助成を検討するのは13自治体。ほかに13自治体が後付け装置の補助を検討している。制度のない自治体のうち、少なくとも50自治体が「交付税措置を検討してほしい」(熊本県八代市)などと回答した。政府は75歳以上を対象にサポカーだけ運転できる「限定免許」を導入する方針で、福岡県須恵町など8自治体が支持した。10自治体は高齢者を中心に免許更新の厳格化に言及した。同県柳川市は「急発進防止機能装置の義務化や更新時の技能指導が必要」、熊本県甲佐町は「実技試験の導入」を提案した。独自の取り組みをしている自治体もある。宮崎県都城市は4月から65歳以上を対象に自動車学校での実技訓練やサポカーの試乗を始めた。同県美郷町は10月、ドライバーが自ら運転する時間や場所の条件を申告する「補償運転」を始める。免許返納者らの「足」確保を手助けする自治体も多かった。長崎県西海市は4月から事前予約制の乗合ワゴンを運行。高齢者へタクシー券を配布する自治体も多い。

*8-2:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190905-00000137-kyodonews-soci (KYODO 2019/9/5) 高齢者運転中止、要介護リスク倍 外出減、健康に悪影響か
 車の運転をやめて自由に移動する手段を失った高齢者は、運転を続けている人と比べ、要介護状態になるリスクが2.2倍になるとの研究結果を、筑波大の市川政雄教授(社会医学)らのチームが5日までに日本疫学会誌に発表した。運転をやめたが公共交通機関や自転車を使って外出している人は、リスクが1.7倍だった。高齢者の事故が問題になり、免許返納を勧めるなど運転をやめるよう促す機運が高まっている。だが市川教授は「運転をやめると閉じこもりがちになり、健康に悪いのではないか。事故の危険だけを考えるのではなくバス路線を維持・充実させるなど活動的な生活を送る支援も必要だ」と話す。

| 年金・社会保障::2019.7~ | 11:03 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.6.13 高齢者の困窮と高齢者の就業を妨げる高齢者差別 (2019年6月14、15、17、19、20、21、22、23、24、25、26、28、29日に追加あり)
(1)高齢者の生活と年金

 
                               2019.6.3YAHOO
(図の説明:左図のように、65歳の夫と60歳の妻の“標準的”夫婦は、年金だけでは毎月5万5千円、30年で約2千万円が不足するので貯蓄や資産運用が必要だと金融庁が公表し、右図のような対策を推奨している。しかし、ここで前提とされている高齢者のイメージは、現在の50代、60代、70代の人から見ると、かなり昔のものであることに注意が必要だ)

 

(図の説明:左図のように、“平凡な”夫婦の場合、65歳から貯蓄を取り崩し始め、夫の死後は年金給付額が減るためか取り崩しのカーブが急になり、90歳程度で貯蓄が底をつくようだ。また、中央の図のように、高齢者が貯蓄を取り崩すに従って家計貯蓄率は低下し、さらに右図のように、60歳以上の人が購入する品の物価上昇率は他に比べて大きいそうである)

 「65歳の夫と60歳の妻の“標準的”夫婦の場合、年金収入だけでは毎月5万5千円、30年で約2千万円が不足し、貯蓄や資産運用が必要」と金融庁が公表した報告書について、参院決算委員会で、*1-1のように、野党が「年金『100年安心』は嘘だったのか」と追究したが、制度の持続が100年安心なのであり、国民生活が100年安心なのではないことは、年金制度の改定内容を見ればわかる筈である。

 実際、少ない年金だけでは暮らせず、高齢になっても働き続けたり、蓄えを取り崩したりしている人は多く、(少子高齢化のせいにしているが、本当は引当不足が原因)の年金水準のさらなる(調整と称する)引き下げが予定されている。そのため、誰もが納得する形で年金引当不足を解決するには、年金を賦課方式から発生主義による引当方式に戻し、引当不足分は国有資源から生じる収益で埋めていくしかないだろう(このブログのマニフェスト参照)。

 なお、金融庁の報告書は夫婦が揃っている間の収支しか述べていないが、実は妻が1人で残った家計の方がずっと苦しく、貯蓄が底をつくこともある(女性の皆さん、どうするか考えていますか?)。また、国民全体としては、貯蓄を取り崩す高齢者の割合が増えるにつれて家計の貯蓄率は下がり、それとともに投資が抑制される。

 その上、「高齢者は金づるだ」と言わんばかりに、高齢者が購入する製品の物価を高くしたり、高齢者のみに高額の介護保険料を課したりして、全世代に年金・医療・介護の将来不安を残したままでは、誰もが消費を抑えて将来に備える必要があるため、経済にも悪影響を及ぼす。

 また、「95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要」と試算した*1-2の金融庁審議会報告書は、「物価の伸びより年金給付の伸びを抑える『マクロ経済スライド』を適用してさらに年金を減額していくため、(インフレ政策をとり続ければ)中長期的には年金給付額の実質的低下が見込まれる」と明記しており、地域によって物価水準は異なるものの、2千万円蓄えても不足する人が多いというのが正しいと思われる。

 一方、参院選前なので、寝た子を起こしてはならないと、*1-3のように、自民党は金融庁金融審議会報告書に抗議して撤回を要求し、公明党の山口代表も不快感を示している。

 最後に、*1-4の「将来への議論封じるな」とする記事もあり、確かに報告書が公的年金の先細りを指摘して自助努力を促し、高齢社会の資産形成に役立つ(?)とする投資のみに言及しているのは偏りがあるため、非正規労働者の増加・年金給付水準の低下・高齢者の貧困拡大などを前提に、参院選を控えた今だからこそ、最近の年金制度改定を復習して議論を深め、それぞれの候補者がどう考えて行動してきたのかを明確にして、有権者の判断に資すべきである。

(2)改訂しても高齢世代と40代以上のみに保険料を負担させる介護保険制度

  
                                 2019.6.15東京新聞
(図の説明:左図のように、介護保険料は増加の一途を辿っているが、地域や所得によってさらに高い。また、中央の図のように、所得によって利用料の負担率が異なるが、所得によって保険料も異なるため、これは二重負担になる。そして、右図のように、金融庁の報告書には、介護が加わるとさらに最大1千万円必要だと書かれているそうだ)

 2018年度の介護保険制度改訂で、①所得が高い人の利用料3割負担の導入 ②所得が高い人の高額介護サービス費の自己負担上限引き上げ ③要介護・要支援認定有効期限の延長 ④「介護療養病床」に代わり「介護医療院」を新設 ⑤福祉用具貸与価格の適正化 ⑥共生型サービスの開始 ⑦市町村に対する財政的なインセンティブの導入 が行われたそうだ(https://www.sagasix.jp/knowledge/hoken/kaigohoken-seido-kaisei/ 参照)。

 このうち①②は、「世代間・世代内の公平性を確保しつつ、制度の持続的な可能性を高める目的で、平成30年8月から所得が特に高い一部の利用者層(年金収入などが年間340万円以上の利用者)の負担割合が3割とした」とのことだが、世代間の公平性確保なら、介護保険制度で自らの介護負担が軽減された働くすべての人に介護保険料を課すことが必要だ。何故なら、介護保険制度が無かった時代は、介護保険料の支払いは不要だったが、そのかわり家族が全ての介護をしなければならず、この負担の方が重かったからである。さらに、現在は現役世代のうち40歳以上に介護保険料を課しているため、40歳定年制などが言われているからだ。

 また、世代内の公平性として利用料3割負担の導入や自己負担上限の引き上げが行われたことについては、年金収入等が年間340万円以上の利用者が“所得が特に高い一部の利用者層”に入るというのは大いに疑問である上、所得が上がれば高い保険料を徴収し、サービス提供時にも利用料を増やすというのは、同じ所得に対する二重負担(二重課税と同じ)である。

 ③~⑦は、変更の内容を検討しなければ何とも言えないので省くが、①②を見ただけでも厚労省及び関係議員のセンスのなさがわかる上、世代間・世代内の公平性には程遠いわけだ。

(3)生活の不安は全員に

  
                        2019.5.16東京新聞

(図の説明:左図のように、老後の生活に不安を感じているのは、全世代では81.3%に上るが、非正規雇用の多い40代の91.0%は特に高い。しかし、中央の図のように、就業機会も65歳までの就業継続は義務化されたが70歳までは努力義務にしかなっていないため、平均余命の伸びや年金給付の不足額を考慮すれば、70歳までの義務化は急務である。ただ、右図のように、日本・アメリカは就労希望理由の1位が「収入」であるのに対し、ドイツ・スウェーデンは「遣り甲斐」であり、これがあるべき姿であって羨ましい)

1)高齢者の就労について
 *2-1のように、政府は未来投資会議で、成長戦略として70歳まで働ける場を確保することを、企業の「努力義務」として規定することを盛り込んだそうだ。私も、人手不足の中、労働者が長く働けるようになれば、教育研修費を節約しながら生産性を上げることができると考える。

 しかし、年金制度を国民サイドからの100年安心プランにするためには、高年齢者雇用安定法を改正して70歳までの雇用は義務化すべきだ。その際、同一労働・同一賃金は、全世代及び男女から見て当然のことである。

 そのような中、*3-1、*3-2のように、高齢運転者による事故をTVの全局で毎日取り上げ、「高齢者は全員運転能力がなくなるため、免許返納すべきだ」という世論を作っているのは目に余る。それこそ、運転支援機能がある自動車に限定した運転免許制度を創設したり、全自動車に運転支援機能をつける技術開発を行ってその装備の装着に補助金を出すなど、世界で進む高齢化社会のニーズに対応する技術開発に重点を置いた方がよほど賢い。

 しかし、*2-2は、①日本の労働生産性は主要7カ国で最下位 ②産業の新陳代謝を促して付加価値の高い分野に人を動かす抜本策が必要 ③70歳までの就業機会確保は少子高齢化への処方箋の一つとして評価できるが、単なる雇用延長だけでは日本全体の生産性の足を引っ張りかねない ④そのため、裁量労働制の対象拡大や解雇規制の緩和などが必要だ としている。

 革新を嫌ってカンフル剤の投入ばかりやってきたため、①は当然だが、②の実現には能力の高い人を必要とする企業がヘッドハントして雇用できるシステムが必要なのであり、④の裁量労働制の対象を拡大することによって労働者から搾取したり、解雇規制の緩和で解雇された人を他の企業に転職させたりすればよいわけではない。また、③の70歳までの雇用延長だけでは生産性の足を引っ張りかねないというのは、年齢・性別・勤務年数にかかわらない能力給の比重を増して、公正な評価を行う必要がある。

2)高齢者は能力がないとアピールする高齢者差別
 このような中、*3-1のように、「福岡市で高齢者が逆走し、追突事故後に加速して600~700メートル、ブレーキ痕がなかった」というニュースがあったが、運転していたのは81歳男性で76歳の妻とともに亡くなったと書かれている。

 これは、事故を起こした人も気の毒な話なのだが、*3-2のように、池袋で起こった高齢者の事故とあいまって、「子どもが犠牲になるのは痛ましいから、高齢者は全員免許返納すべきだ(話が飛躍しすぎており、子どもの事故をなくすために全高齢者が引きこもるべきだという考え方は問題だ)」「海外には免許の定年制もある(運転支援車の技術を進歩させた方が役にたつ)」という愚かな結論になった。
 
 私は、このような事故を繰り返し報道して、*3-3のように、「高齢者に免許を返納させ、生活支援の体制整備をすればよい」と結論付けるのはよくないと考える。何故なら、事故を起こすのは高齢者だけではないし、仕事や外出に運転が必要な高齢者も多いからだ。また、「75歳以上の層は70~74歳に比べて、事故が2倍多く発生」と書かれているのも層分けの幅が同じでない上に、高齢者全員が事故を起こしているわけではない。

(4)科学技術の進歩を活かせ
 政府は、*4-1のように、75歳以上の高齢ドライバーを想定して新しい運転免許制度を創設し、安全運転支援システムを搭載した自動車に限定して運転を認めるそうだが、年金生活者が新車に買い替えるのは容易ではない。そのため、プログラムを更新したり、小さな器械を装着したりすれば安全運転支援システムを搭載できるようにし、それに補助金をつけることが望まれる。

 また、*4-2のように、九電が買い取り単価7円/kw時で、FIT期限終了後の家庭発電の太陽光を買い取るそうで、これなら原発や火力発電と十分に競争できる。FIT期限が終了した家庭は、①九電への売電継続 ②新電力会社への変更 ③蓄電池を活用した自家消費などを選択できるそうで、言うことはない。経産省は大手電力各社に料金プランを示すように求め、四電が7円/kw、関電が8円/kw、東北電が9円/kwと発表しているそうで、これとEVの運転支援車を併用すれば、21世紀の移動手段になるわけだ。

 さらに、蓄電池の材料になるので次の油田と言われている「レアアース」は、*4-3のように、南鳥島周辺や沖縄付近の海域に埋蔵されているそうだ。いつまでも原油に拘泥して産業化せず、これも中国・韓国・インド・ロシアなどに大きくリードされないように願いたい。

・・参考資料・・
<高齢者の生活と年金給付>
*1-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14050522.html (朝日新聞社説 2019年6月11日) 「年金」論戦 まずは政府が説明を 
 安倍首相と全閣僚が出席する参院決算委員会がきのう開かれた。衆参の予算委員会の開催を与党が拒むなか、広く国政の課題をめぐる質疑に首相が応じたのは2カ月ぶりだ。野党の質問が集中したのは、夫婦の老後の資産として2千万円が必要になるとの、金融庁が先に公表した報告書だ。65歳の夫と60歳の妻の場合、年金収入だけでは毎月5万5千円、30年で約2千万円が不足する――。そんな試算に基づき、貯蓄や資産運用の必要性を呼びかけた。「年金は『100年安心』はうそだったのか」「勤め上げて2千万円ないと生活が行き詰まる、そんな国なのか」。野党の追及に、首相や麻生財務相は「誤解や不安を広げる不適切な表現だった」との釈明に終始したが、「表現」の問題にすり替えるのは間違っている。年金だけでは暮らせず、高齢になっても働き続けたり、蓄えを取り崩したりしている人は少なくない。少子高齢化が進み、今後、年金水準の引き下げが予定されているのも厳然たる事実だろう。制度の持続性の確保と十分な給付の保障という相反する二つのバランスをどうとるのか。本来、その議論こそ与野党が深めるべきものだ。国民民主党の大塚耕平氏は「制度を維持・存続する意味での安心で、国民の老後の安心ではない」とただしたが、首相は「みなさんに安心してもらえる制度の設計になっている」と述べるだけだった。年金の給付水準の長期的な見通しを示す財政検証は、5年前の前回は6月初めに公表された。野党は今回、政府が参院選後に先送りするのではないかと警戒し、早期に明らかにするよう求めたが、首相は「政治的に出す、出さないということではなく、厚労省でしっかり作業が進められている」と言質を与えなかった。年金の将来不安を放置したままでは、個人消費を抑え、経済の行方にも悪影響を及ぼしかねない。財政検証を含め、年金をめぐる議論の土台となる正確な情報を提示するのは、まずは政府の役割である。日米の貿易交渉や日朝関係、防衛省が公表したデータに誤りがあった陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備など、国会で議論すべき課題は山積している。しかし、4時間弱のきのうの審議では、年金以外のテーマはほとんど取り上げられなかった。夏の参院選で、有権者の判断材料となるような審議こそが求められている。今国会の会期末まで2週間余り。政権与党は逃げの姿勢を改め、国民の前で堂々と論戦に応じるべきだ。

*1-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201906/CK2019061102000140.html (東京新聞 2019年6月11日) 「老後2000万円」報告書 野党追及 年金目減り記述削除
 安倍晋三首相は十日、参院決算委員会で、九十五歳まで生きるには夫婦で二千万円の蓄えが必要と試算した金融庁の審議会の報告書について「不正確であり、誤解を与えるものだった」と釈明した。野党は、当初案にあった年金給付水準の目減りなどに関する記述が報告書から削除されたことなども指摘。「国民を欺いている」(立憲民主党の蓮舫参院幹事長)と批判した。報告書は金融庁の金融審議会が今月三日に公表。平均的な無職の高齢夫婦世帯で月五万円の赤字が見込まれ、三十年間で二千万円が不足するとした。自公政権は二〇〇四年の年金制度改革で、制度が「百年安心」との看板を掲げてきた。だが老後には公的年金以外に多額の自己資金が必要なことが明確に示されたことで、不安が広がっている。蓮舫氏は決算委で「国民は『百年安心』がうそだったと憤っている」と批判。麻生太郎副総理兼金融担当相が報告書について「冒頭の一部、目を通した。全体を読んでいるわけではない」と明かした点も「問題だ」と指摘した。首相は、公的年金の積立金運用益が六年間で四十四兆円となったことを強調。本年度の年金給付が、物価の伸びよりも年金給付の伸びを抑える「マクロ経済スライド」を適用した上でも「0・1%の増額改定となった」と反論した。麻生氏は報告書に関して「二千万円の赤字であるかのように表現した点は、国民に誤解や不安を与える不適切な表現だった」と繰り返した。蓮舫氏は、先月二十二日に審議会がまとめた報告書案の段階では、年金給付水準について「中長期的に実質的な低下が見込まれている」と明記されていたことも追及した。今月三日の報告書で削除した理由について、金融庁の担当者は「より客観的な表現に改めたものを提出した」と説明した。蓮舫氏は、年金制度の健全性を五年に一度チェックする財政検証についても「早く出さないと国会で審議できない。まさか参院選後ということはないか」と確認を求めた。首相は「厚生労働省でしっかりと作業が進められている」と、公表時期を明言しなかった。

*1-3:https://www.saga-s.co.jp/articles/-/385861 (佐賀新聞 2019年6月11日) 自民、金融庁に報告書の撤回要求、公明代表「猛省促す」
 自民党は11日、金融庁に対し、老後資金として2千万円が必要とした金融庁金融審議会の報告書への抗議を伝え、撤回を要求した。林幹雄幹事長代理が国会内で金融庁幹部に伝えた。公明党の山口那津男代表は記者会見で「いきなり誤解を招くものを出してきた。猛省を促したい」と不快感を示した。自民党の二階俊博幹事長も「2千万円の話が独り歩きして国民の不安を招き、大変憂慮している」と自民党本部で記者団に語った。報告書の撤回を要求した理由に関し「参院選を控えており、党として候補者に迷惑を掛けないよう注意していかねばならない」と説明した。

*1-4:https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20190613_4.html (京都新聞 2019年6月13日) 「老後」報告書  将来への議論封じるな
 国民の「老後」に関する議論まで封印しようというのだろうか。95歳まで生きるのに夫婦で2千万円の蓄えが必要と試算した金融庁金融審議会の報告書の受け取りを、政府が拒否した。内容を巡って野党をはじめ各方面から強い批判が上がっていた。夏の参院選への影響を排除しようとしたことは明らかだ。確かに、報告書は公的年金の先細りを指摘して自助努力を促し、投資を勧めているとも読み取れる。違和感を感じさせる内容だ。麻生太郎財務相は「世間に不安や誤解を与えた。政府の政策スタンスとも異なる」と受け取り拒否の理由を述べた。だが、報告書はその麻生氏の諮問を受けてまとめられており、公的な性格を持つ。内容が妥当でないというなら、政府内や国会で議論を尽くすのが筋ではないか。報告書の門前払いは、審議会が提起した年金の将来に関する問題まで封じてしまいかねない。自ら諮問しておきながら、選挙で不利になりそうだと見るや一転して突き放し、はしごを外す-。麻生氏のこうした姿勢も、政治に対する不信を招きかねない。報告書はもともと、高齢社会の資産形成に関するものだが、公的年金制度の限界を政府が認めたと受け取れることや、元本割れリスクもある投資を促すなどの内容は衝撃的だった。批判が拡大したのは、非正規労働者の増加や高齢者の貧困拡大など、国民が抱く生活実感とつながる面があったからではないか。その意味では、年金の給付水準低下や長い老後への備え方など、報告書が示唆する課題を国民に示し、幅広く考えるきっかけにできる可能性があった。参院選を控えた今だからこそ、与野党を超えて議論を深めなければならないはずだ。報告書をなかったことにするのは、そうした機会の放棄に等しい。今年は5年に1度行われる年金の財政検証の年だが、政府は検証結果の公表時期をいまだ明らかにしていない。参院選での争点化を避けるため、選挙後に先送りするとの見方も出ている。そうだとすれば、年金制度の現状と先行きの見通しを覆い隠そうとするもので、極めて不誠実だ。批判を強めている野党も、政権の姿勢を責めているだけでは済むまい。年金制度の持続可能性や負担と給付のあり方に踏み込んだ具体策をぶつけ、実りのある議論につなげる気構えが欲しい。

<高齢者の就労について>
*2-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14045073.html (朝日新聞 2019年6月6日) 70歳就労、企業に努力義務 成長戦略素案 人手不足、効率化狙う
 政府は5日の未来投資会議(議長=安倍晋三首相)で、今年の成長戦略の素案を示した。70歳まで働ける場を確保することを、企業の「努力義務」として規定することなどが盛り込まれている。人手不足が深刻化するなか、限られた労働の担い手がより長く働けるようにして、生産性を上げる狙いがある。今月下旬にも閣議決定する。盛り込まれた施策について、必要な法律の改正案は2020年の通常国会に提出する。安倍首相はこの日の会議で、「急激な変革の時代にあって、人や資金が柔軟に動けるよう、これまでの発想にとらわれない大胆な政策をスピーディーに実行していかなければならない」と述べた。「目玉」と位置づけるのは、高年齢者雇用安定法を改正して、70歳まで働きたい人が働けるようにすることだ。希望する人に働く場を提供するため、定年廃止や定年延長、他企業への再就職、起業支援など七つの選択肢を示す。どれを採り入れるかは各社の労使などで話し合う仕組みだ。いずれかの方法で70歳まで雇用することを当初は罰則のない「努力義務」として企業に課し、定着するかをみる。運転手不足が深刻な運送分野も重点的に盛り込まれた。一つは、マイカーによる有償での運送だ。「白タク」行為として原則禁止されており、現在は過疎地域などで限定的に「自家用有償旅客運送」として認められている。今回、この制度をさらに緩和。民間のタクシー会社が配車手続きなどで参入しやすくする。タクシーに見知らぬ人同士を乗せる「相乗り営業」については、今年度中にも通達を出して実現させる。そのほか、地方銀行と地方のバス会社が合併しやすくする特例法案を提出し、単独で生き残りが難しい地域での企業再編を促す。また、以前の成長戦略から継続する政策として、高齢運転者による事故防止策を明記。安全運転支援機能がある自動車に限定した高齢者の運転免許制度の創設に向けて、今年度内に方向性を定める。今後の課題として、戦略では「個人が組織に縛られ過ぎず、付加価値の高い仕事ができる社会を実現する必要がある」と提言。兼業・副業を広めるための議論を加速させるとした。一方、昨年の成長戦略で重点施策として掲げられた152項目のうち、4割が1年で達成すべき目標に満たなかった。ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次・チーフエコノミストは「本来、成長戦略は企業活動を活発にするための規制緩和を掲げるべきものだ」とした上で、「夏に選挙があるため、風当たりのきつくない政策を並べている。成長力アップにどの程度役立つのか疑問だ。目新しい政策を並べるより、過去に掲げた目標を点検し、不十分な分野を加速させるべきだ」と話した。
■成長戦略実行計画案に盛り込まれた主な施策
◆70歳までの就業機会確保を企業の「努力義務」として規定
◆マイカーの有償運送にタクシー事業者らが参画しやすくする規制緩和
◆タクシーに見知らぬ人同士が乗る「相乗り営業」の解禁
◆100万円を超える銀行業以外の送金
◆地方銀行、乗り合いバス事業者の経営統合や共同経営を容易に

*2-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190606&ng=DGKKZO45748260W9A600C1MM8000 (日経新聞 2019年6月6日) 「新陳代謝」に遅れ 雇用改革踏み込めず
 人口減少が進む日本で人手不足を「成長の天井」にしないためには、効率よく働いて成果を高める「労働生産性の向上」の道を歩む必要がある。今回の計画では地銀の再編支援などを盛り込んだ。だが産業の新陳代謝を促し、付加価値が高い分野に人を動かす抜本策は踏み込み不足だ。日本生産性本部の国際比較によると、日本の労働生産性(就業1時間あたり付加価値)は2017年に47.5ドルだった。10年代以降、米国の3分の2程度の水準が続き、主要7カ国では最下位が定位置だ。原因の一つは成長分野への人材再配置の遅れにある。「日本再興戦略」と称した第2次安倍政権で初の成長戦略では、「開業率・廃業率10%台を目指す」と明記していた。それぞれ当時は4~5%程度。17年度の開業率は5.6%どまりで、廃業率は逆に3.5%まで下がった。目標未達の検証は十分でない。本来は企業の存続と雇用の問題は切り離し、生産性の低い企業には退出してもらうのが筋だ。企業の再編も既存の事業を救うためでなく、産業の入れ替えにつなげる必要がある。70歳までの就業機会の確保は少子高齢化への処方箋の一つとして評価できる。ただ単なる雇用延長だけでは日本全体の生産性の足を引っ張りかねない。裁量労働制の対象拡大や解雇規制の緩和など、ハードルが高い本丸の課題はなお積み残されている。

<高齢者は能力がないとアピールする高齢者差別>
*3-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/516005/ (西日本新聞 2019/6/5) 追突事故後に加速 600~700メートル ブレーキ痕なし 福岡市の高齢者逆走
 福岡市早良区百道2丁目の交差点付近で4日夜、6台が絡み9人が死傷した多重事故で、交差点に突っ込んだ乗用車は反対車線を約600~700メートル逆走して次々と車と衝突し、事故現場には目立ったブレーキ痕も残っていなかったことが5日、捜査関係者への取材で分かった。福岡県警は、乗用車が同じ車線を走行する前方の車に追突した最初の事故直後に逆走を開始し、加速を続けて猛スピードで交差点に突っ込んだとみて調べている。
●死亡は運転81歳男性と76歳妻
 福岡県警は乗用車を運転し、死亡した2人の身元について、同区原3丁目、小島吉正さん(81)と妻節子さん(76)と発表。自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)容疑で、5日午前から乗用車と関係車両の計6台の実況見分を始めた。車の破損状況などを調べ、事故の詳しい経緯や原因の解明を急ぐ。事故は4日午後7時5分ごろに発生。県警の調べや目撃者の話を総合すると、乗用車は県道を交差点に向けて北上中、同区藤崎2丁目の動物病院付近で前方を走る車に追突、直後に対向車線にはみ出して逆走した。その後、前から走ってきた車やタクシーに次々と衝突、交差点で右折しようとした車2台にもぶつかり、うち1台は歩道に乗り上げてひっくり返った。信号待ちをしていた歩行者の男性も巻き込んだ。県警によると、10~80代の関係車両の8人と通行人1人が病院に搬送された。小島さん夫婦はその後、死亡が確認された。残る7人は負傷したが、命に別条はないという。当日、孫の送迎で県道を交差点に向けて走行していた同区の70代男性は「動物病院近くでガシャーンと音がした後、『ププッ』とクラクションの音がして、猛スピードで(小島さんが運転していた)乗用車に右側から追い抜かれた。自分は中央線寄りの車線を走っていたので、乗用車は逆走で反対車線を真っすぐ走っていった。80キロ以上は出ていた気がする」と話した。県警によると、県道の制限速度は時速50キロ。乗用車は、追突事故をきっかけに何らかの理由で加速し、制限速度を大幅に上回るスピードを出していたとみている。

*3-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/516217/ (西日本新聞 2019/6/6) 高齢者免許返納ためらう地方 海外は場所制限、定年制も
 高齢者が運転する車による悲惨な事故が相次ぐ中、運転免許制度はどうあるべきか‐。東京・池袋で4月、87歳が運転する車が暴走し母子2人が死亡。福岡市早良区では81歳の車が逆走で交差点に突っ込んだ。都心部では免許返納者が増えているが、交通の便が悪い地方で車は「生活の足」で返納にためらう人も少なくない。海外には運転する場所などを制限する高齢者向け「限定免許」や定年制を採用する国もあり、高齢ドライバーの事故防止に各国が試行錯誤している。「(池袋と)同じような事故を起こすかもしれないと恐ろしくなった」。同区の平野澄雄さん(84)は5月23日、免許を返した。元タクシー運転手で無事故運転が自慢だったが、妻の不安などが背中を押した。福岡県警によると、池袋の事故後、免許返納者は増加傾向で、例年の倍の105件に上った日もあった。交通機関が充実した都心部でも事情は一様ではない。同市城南区の主婦(72)は「加害者になってしまったら…」と恐怖がよぎる一方で、夫(78)の病院への送迎や買い物に車は「手放せない」と悩む。地方では返納に「高いハードル」がある。高齢者の免許返納率が九州で最も低い熊本県の八代市泉町に住む森山和俊さん(78)は「車がないと何もできない」と訴える。買い物や病院、老人クラブの会合場所は約30キロ離れ、バスは1日4~6便のみ。「免許は自立の証し。衰えも感じないし、返納は考えてない」
   ◇    ◇ 
 警察庁によると、昨年の免許保有者10万人当たりの交通事故件数は494件。65~74歳はこれより少なく、75~79歳は533件▽80~84歳604件▽85歳以上645件と年齢とともに増加。一方、16~19歳1489件、20~24歳876件と若者の事故率の方が高い。ただ、山梨大の伊藤安海教授(交通科学)は「高齢者の運転能力は加齢に伴う目の衰えなどにより、若い人に比べて個人差が出やすい」と指摘する。「事故を予防するためにも『限定免許』を導入し、限定免許になった時点で返納後の生活設計もするべきだ」と話す。ドイツやスイスが導入している限定免許は、運転は昼間に限り、場所も制限する。速度制限を設ける国もある。日本も政府が2017年から導入を検討しているが、結論は出ていない。オーストラリアや米国では運転技能を見極める実技試験を取り入れている州もある。日本は70歳以上に講習を義務付け、75歳以上には認知機能検査も加わるが、実技試験はない。九州大の志堂寺和則教授(交通心理学)は「高齢者の中には運転能力を過信する人もいる。免許更新時に運転技能を確かめる仕組みが必要」と強調する。「年齢の上限が必要」‐。池袋の事故後、インターネット上には、定年制を支持する書き込みも目立った。中国は70歳までの定年制を採用する。福岡県警幹部は「年齢と運転能力は別。年齢で一律で区切って“返納しろ”は行き過ぎ」と慎重だ。

*3-3:https://www.agrinews.co.jp/p47834.html (日本農業新聞論説 2019年6月4日) 高齢運転事故防止 生活支援の体制整備を
 高齢ドライバーによる交通事故が後を絶たない。子どもらが犠牲になる痛ましい事故も相次いでいる。だが、免許の自主返納を勧めるだけでは、問題は解決しない。返納しても生活に困らない支援体制づくりや、先進技術を活用した運転支援など総合的な対策が急務だ。高齢者の運転については、農山村で暮らす農家らの関心が高く、日本農業新聞にもさまざまな声が寄せられている。免許を自主返納し、その後は電動自転車やタクシーなどの代替手段を使って支障なく暮らしている人もいる。しかし、交通事情や行政の支援、農業経営の規模など個人や地域で差があり、返納をちゅうちょする人もいる。70代後半の男性は「返納したいが、そうすると暮らしていけなくなる」と切実に訴える。返納の有無にかかわらず、対策が遅れているのが実態だ。政府は5月末、相次ぐ高齢者による事故を受けて、交通安全対策に関する関係閣僚会議を開いた。安倍晋三首相は、①高齢者の安全運転支援②免許を返納した場合の日常生活支援③子どもの移動経路の安全確保──を指示、早急な対策を求めた。60歳以上を対象にした内閣府による高齢者の経済・生活環境調査(2016年)では、買い物に行くときの手段で6割が「自分で自動車などを運転」と回答。公共交通機関や家族の運転する車、タクシーを利用するとの回答は計1割にも満たなかった。17年交通安全白書で、免許人口10万人当たりの死亡事故件数は、最多が75歳以上(8・9件)で、次いで16~24歳(7・2件)となった。75歳以上の層は、70~74歳に比べ2倍多く発生しており、高齢になるほど死亡事故につながりやすい。原因は視力や認知力、判断力の低下によるものとみられている。だが、免許を返納して交通手段が絶たれると、困るのが買い物と通院だ。近年は、こうした高齢者の生活や外出を支援しようと、国や行政の助成事業を活用して地域住民自身が高齢者の通院や買い物に付き添う支援をしたり、ショッピングセンターなど買い物ができる場所にミニデイサービスを設置したりする動きも出てきた。運営に携わる関係者は「地域住民に困り事を聞き取ったところ、草刈りとともに『買い物や病院に行く手段がない』が最も多かった。この悩みは全国共通。国や行政が本格的に支援体制をつくるべきだ」と指摘する。ブレーキとアクセルを踏み間違えた際のスピード抑制装置などが搭載された「先進安全自動車(ASV)」導入への補助も必要だ。高齢者を対象にした購入支援の検討は始まったばかりだが、早期に実現すべきだ。政府は早急に、高齢者の生活・外出支援体制を整備すべきだ。JAは行政と連携し、生活支援事業の推進に力を入れてほしい。年を重ねても安全に暮らし続けられる地域をつくることが求められている。

<科学技術の進歩を活かせ>
*4-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45930890R10C19A6000000/?n_cid=NMAIL006 (日経新聞 2019/6/11) 高齢者向け新免許創設 メーカーは安全機能の開発競う
 政府は75歳以上の高齢ドライバーを想定し、新しい運転免許制度を創設する方針です。安全運転の支援システムを搭載した自動車に限定して運転を認める枠組みで、新免許は新型車の買い替え需要を促しそうです。75歳以上の高齢ドライバーは2018年末時点で563万人で、18年の高齢者による死亡事故は全体の約15%を占めています。最近でも福岡市や東京・池袋で高齢ドライバーによる死亡事故が相次ぎ発生。高齢ドライバー対策を求める世論が高まったことから、政府も制度面の検討を急ぐ必要があると判断しました。企業も対策に動き始めています。08年に富士重工業(現SUBARU)が安全運転支援システム「アイサイト」を開発。10年に乗用車「レガシィ」に搭載しました。トヨタ自動車は15年から先進安全システム「トヨタセーフティセンス」を導入。「アルファード」や「ヴェルファイア」といった上級ミニバンなどに夜間の歩行者を検知する自動ブレーキを標準搭載しました。トヨタとデンソーはアクセルとブレーキの踏み間違いなどによる事故を防ぐ後付け装置を開発。19年内には「プリウス」や「ヴィッツ」など12車種に取り付けられるようにします。

*4-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/516218/ (西日本新聞 2019/6/6) 九電、買い取り単価7円 家庭発電の太陽光 FIT後方針
 九州電力が11月以降に家庭の太陽光発電で余った電力の10年間の買い取り期間が終了する契約者について、新たな買い取り単価を1キロワット時7円程度とする方針を固めたことが5日分かった。固定価格買い取り制度(FIT)が始まった2009年度に契約した家庭の単価は48円だった。九州で19年度中に期限を迎える契約は約10万件(出力約42万キロワット)に上る。九電が6日に発表する。九電と契約を結んでいる太陽光10キロワット未満の家庭などは2月現在で約37万件(同約170万キロワット)ある。期限が終了した家庭は、九電への売電継続や新電力会社への変更、蓄電池を活用した自家消費などを選択できる。FITは太陽光など再生可能エネルギーを普及させる目的で始まり、従来の単価は高く設定されていた。電力会社が再エネ電力を買い取る費用は「賦課金」として電気料金に上乗せされているため、消費者の負担軽減のために単価は段階的に下落し、九州は19年度で26円になっていた。電力会社はFITによって住宅用太陽光の余剰電力を10年間買い取ることを義務付けられているが、期限終了後は二酸化炭素(CO2)を排出しない電源としての価値などを勘案して電力各社が個別に単価を設定できる。経済産業省は大手電力各社に6月末までに料金プランを示すように求めている。既に四国電力が7円、関西電力が8円、東北電力が9円などと発表。一方、16年4月に電力小売り事業を始めた西部ガスは、FIT終了後の余剰電力を買い取るかどうかを検討している。他の新電力は九電の単価設定を踏まえ、九州地域での買い取り単価を公表する見通し。

*4-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39489620Y8A221C1TJM000/ (日経新聞 2019/1/4) 深海の「レアアース泥」本格開発へ、資源量把握急ぐ
 深海底にある鉱物資源の開発が本格化する。産業技術総合研究所や海洋研究開発機構などのチームが国の支援のもと、2月に南鳥島周辺の海域でレアアース(希土類)を高濃度で含む泥「レアアース泥」の含有量を調査する。沖縄周辺の海域にある「熱水鉱床」の開発でも研究は進む。産業化には正確な埋蔵量や品質の把握が欠かせない。「予定よりも早く調査が進んでいる」。内閣府の研究プログラム「SIP」の一環で海底資源の開発に挑む石井正一プログラムディレクターは笑顔を見せる。2018年秋に先行して実施した航海では、南鳥島周辺の水深5000メートルの海底の25カ所から試料を採った。18年度内に解析する。19年も海底の地質調査を進め、海洋機構や産業技術総合研究所などがレアアース泥の量を正確に推定する。22年度には南鳥島近海で試験採掘をする計画だ。南鳥島近海では14年ころから、東京大学や企業約30社などがつくる民間団体が調査や採掘技術の開発を進めてきた。東大の加藤泰浩教授らが13年に磁石に使うネオジムなどを高濃度で含むレアアース泥を発見し、国も開発の支援に動き出した。加藤教授は「市場価値の高いレアアースが多く含まれており、泥から鉱物を取り出す工程も簡単だ」と話す。専用の管で泥を海上へ引き揚げ、酸に浸すと泥の中の鉱物が溶けて取り出せる。石井プログラムディレクターは「資源量を正確に把握し、なるべく早く産業化したい」と話す。国はこれまで、より浅い海底にある熱水鉱床の開発に力を入れてきた。熱水鉱床は金属を含む熱水が噴き出してできたもので銅や亜鉛、金などを含む。水深1000メートル前後にあり、比較的調査しやすく研究が進んでいる。17年には沖縄周辺で採掘試験に成功した。まだ産業化には調査不足だ。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、産業化には1日あたり5000トンの採掘規模が必要だという。この規模で何十年も採掘を続けられる資源量があるかは不明だ。現状ではどちらの資源も採算は不明だ。熱水鉱床の場合、経産省の試算では設備投資に1183億円、運営に年232億円かかり、採掘期間を20年とすると834億円の赤字になる。レアアース泥の場合、加藤教授らの13年の試算では約750億円の設備投資を約16年で回収できる。ただどちらも様々な仮定を伴う。石井プログラムディレクターは「民間の参入を促すには、産業化した場合の全体像を示すことが必要」と話す。SIPでは詳細調査を進めて、企業の事業判断に必要な情報をそろえる考えだ。中国や韓国、インド、ロシアでも海底資源の埋蔵量の調査が進む。国連下部組織の国際海底機構は、20年をめどに環境影響などを考慮した海底資源開発のルールを作ろうとしている。「採掘が海底の環境に与える影響を調べる技術で日本は先んじている」(資源エネルギー庁)。このリードを生かしつつ産業につなげるには、企業を巻き込んだ調査結果に基づく議論が欠かせない。

<できないということを威張るな>
PS(2019年6月14、15日追加):*5-1には、「①老後の生活費が2千万円不足するとした金融庁の報告書をめぐって野党の追及が、年金制度を所管する厚生労働省にも向かっている」「②厚労省側は『年齢が上がると支出が減るので、厚労省は[5.5万円×12カ月×30年で2千万円不足]という単純な議論はしない』と主張」「③100年安心は制度の『安定』が原点で、現在の年金制度は、向こう100年持続可能性があるという意味」「④政府は2004年改革で、『マクロ経済スライド』を導入した」「⑤日本の公的年金は『仕送り方式』なので、高齢化に伴って現役世代の負担増か高齢者への給付減が起きる」「⑥年金に魔法の杖はなく、制度への批判は簡単だが大きな改革は難しい」などが書かれている。
 しかし、①は野党に頑張って追及して欲しいが、②の厚労省の答弁のうち「年齢が上がると支出が減る」というのは誤った仮定である。何故なら、高齢になる程に、医療・介護費、葬儀等の交際費がかかる上、家事も自分でこなすことが大変になって外注が増えるからだ。つまり、消費が減るのではなく、消費の内容が変わるのである。また、③は、年金制度が継続しても国民生活はより不安になるというふざけた話で、④については、マクロ経済スライドを導入したのは2016年の改訂であるため、虚偽だ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284.html 参照)。さらに、⑤⑥については、1985年以前は積立方式(自分用に積み立てる形式)だったが、1985年にサラリーマンの専業主婦を3号被保険者にすると同時に賦課課税方式(国が取り立てて他の人に仕送りする形式)に変更し、徴収が不完全な上に目的外使用も多くて積立金不足になったのだから、国が責任を持って発生主義による引当方式に変更し、引当金不足額は税外収入で補えというのが、私の趣旨である。 
 なお、これは「魔法の杖」ではなく「技術進歩」の力ででき、*5-2のように、日本以外の国は既に海底資源を採掘しており、日本近海の排他的経済水域にもメタンハイドレートの形で大量のLNGが存在する。そして、サハリン沖の石油ガス開発事業には、三井物産や三菱商事が参加しているのだ。
 このような中、安倍首相がイランを訪問している最中の昨日、*5-3のように、日本の海運会社が運航するタンカーが、ホルムズ海峡付近で攻撃を受けたとしてイランに疑いがかかった。しかし、国営イラン通信は「イランの捜索チームが、2隻から船員44人を救助してイラン南部の港に運んだ」と報じており、イランが日本のタンカーを攻撃する理由もメリットもないため、私もイランが犯人ではないと思った。しかし、この“攻撃”の後、「ホルムズ海峡は日本の生命線」という報道が多くなって安全保障法制を正当化しており、(エネルギーを外国産原油に頼りきって)未だにここを“生命線”と呼んでいること自体が兵糧攻めに弱すぎて防衛失格だと思われる。
 また、中東ホルムズ海峡近くでタンカーが沈まない程度の騒ぎがあって、“敵”が誰かもわからないのを“攻撃”と呼ぶのはおかしいと思ったが、*5-4に、「①自民党の防衛相経験者の1人が『やはり安保法は必要だった』としている」「②2015年に成立した安保法では、ホルムズ海峡が機雷封鎖され日本への原油供給が断たれて政府が『存立危機事態』に当たると判断すれば、集団的自衛権の行使が可能」と書かれている。これらから、参議院議員選挙前に安保法を正当化するため、日本が自作自演の騒ぎを起こしたのではないかと考える。しかし、ホルムズ海峡経由の原油が絶たれると存立危機事態に陥るような国は、実力から見ても戦争はできない。

 

(図の説明:左図の2019年度予算を見て、年金・医療費等の金額が大きいのでこれを減らしさえすればよいと考える人がいる。しかし、それでは1人当たりのサービスが低下する上、保険料を支払って給付を受けているのに、税金投入額が大きいのはおかしい。これについては、「仕送り方式だから」「少子高齢化で支え手が減ったから」という説明がよくなされるが、右図のように、ベビーブーム世代が高齢化すれば高齢者が増えるのは当然なので、その世代が働き手だった間に退職給付相当額を引き当てておかなければならなかったのだ。そして、この退職給付会計は、世界では1985年に導入され、日本では《私の提案で》1998年6月にできて2000年4月以降に始まる事業年度から適用された。現在は、民間大企業の殆どが退職給付会計を採用している)

*5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14054990.html (朝日新聞 2019年6月14日) 「老後2000万円」厚労省弁明 元データを提示、報告書関与は否定
 老後の生活費が2千万円不足するとした金融庁の報告書をめぐり、野党の追及の矛先が、年金制度を所管する厚生労働省にも向かっている。2千万円と計算する際の元データは厚労省が提出していたからだ。年金批判の高まりを回避したい厚労省は、報告書は金融庁が独自に作ったものと距離を置くのに躍起で、制度の持続可能性を強調している。報告書を作った金融庁の審議会の議事録によると、厚労省の課長は4月の会合で、主に年金で暮らす高齢夫婦の家計について「実収入と実支出との差は月5・5万円程度」と資料を示して説明。資産形成の重要性にも言及していた。13日の参院厚労委員会では、この厚労省の説明が焦点となった。社民党の福島瑞穂氏は「公的年金だけでは暮らしていけない、あとは自己責任でやれということか」と批判。厚労省の局長は、課長はあくまでオブザーバーとしての参加であり、「5・5万円」は総務省の家計調査から引用したデータだったと強調した。さらに局長は、月5・5万円の赤字が30年続く想定とした報告書のとりまとめへの関与も否定。「協議を受けていない。向こう(金融庁)の責任で作成された」とした。根本匠厚労相も「課長は2千万円不足すると説明はしていない」。厚労委に先立つ野党の合同ヒアリングで、厚労省側は「年齢が上がると支出が減るので、厚労省は『5・5万円×12カ月×30年で2千万円不足』という単純な議論はしない」と主張した。2004年の年金制度改革のキーワード「100年安心」を巡る綱引きも激しさを増している。野党は、年金が老後の安定を保障しないことが報告書で明らかになったと攻め込むが、厚労省は「年金は老後生活の柱だが、年金だけで暮らせると言ったことはない」と反論。現在の年金制度は、向こう100年を見通した上で持続可能性のある仕組みと説明する。政府は04年改革で、現役世代の負担増に上限を設けつつ、現役世代の減少や平均余命の伸びに応じて年金額を自動的に引き下げる「マクロ経済スライド」を導入した。ただ、この仕組みでは少子高齢化に伴う年金水準の低下は避けられない。モデル世帯(40年間働いた会社員と専業主婦)が受け取る厚生年金が、現役世代の平均収入の何割かを示す「所得代替率」は14年時点で62・7%だったが、一定の経済成長を見込んでも43年度には50・6%に低下すると厚労省は試算している。民主党政権になる直前の09年時点でも、38年度に50・1%となる見通しが示されている。菅義偉官房長官は13日の記者会見で、報告書について「世間に著しい誤解や不安を与えた」と釈明。「公的年金が老後の生活設計の基本。(報告書は)政府のスタンスと異なる」として、正式な報告書としては受け取らない政府の立場を繰り返した。
■<視点>年金に魔法の杖ない
 金融庁の報告書問題を機に、「年金不安」の声が上がっている。制度への批判は簡単だが、大きな改革が難しいのも現実。旧民主党が挑んで挫折し、その後、政権も手放したことは記憶に新しい。高齢社会を迎え、年金の将来は有権者の関心事。それだけに、誤解を生む言葉も語られる。野党が攻勢でたびたび使う「100年安心」は代表格だろう。2003年の総選挙当時、坂口力・厚生労働相を出していた公明党が使い始めた。日本の公的年金は、現役世代が払う保険料を高齢者に渡す「仕送り方式」だ。高齢化に伴い、現役世代の負担増か高齢者への給付減が起きる。そこで、100年間を見通して収支を調整するしくみがマクロ経済スライド。現役の保険料に上限を設け、高齢者への給付をその範囲に抑える。100年安心は制度の「安定」が原点だった。有権者の耳には「十分な給付額」と届きやすい。年金への誤解を招くため、厚労省などは使うのを避けてきた。それだけに、安倍晋三首相が10日の参院決算委員会で「マクロ経済スライドで、100年安心という、そういう年金制度ができた」と答えたのは罪深い。給付の「安心」には、経済を成長させるとともに、より多くの人がより長く働いて保険料を払う社会をつくる努力が必要だ。制度改革に、魔法の杖はない。与野党が地に足をつけた年金論戦をすることこそ、報告書問題を機に有権者が最も望むことではないか。

*5-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190614&ng=DGKKZO46052490T10C19A6MM8000 (日経新聞 2019年6月14日) ロシア、LNG生産5倍に エネルギー相、最大7割アジア太平洋向け
 ロシアのアレクサンドル・ノワク・エネルギー相はモスクワで日本経済新聞と会見し、2035年までに液化天然ガス(LNG)の生産量を現在の約5倍に増やすと表明した。北極圏のLNG生産(総合2面きょうのことば)の拡大などで「世界市場のシェアを約20%に高める」方針だ。生産量の最大70%をアジア太平洋に輸出すると述べ、日本とエネルギー分野での協力関係を強化する。プーチン大統領は6月28~29日に大阪で開く20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席する。サミット期間中の日ロ首脳会談では、エネルギー分野を中心とした経済協力も議題になる見通しだ。ロシアのLNG生産能力は、三井物産や三菱商事が参画するサハリン沖の石油ガス開発事業サハリン2と、北極圏のヤマルLNGなどを合わせて約2800万トン。ノワク氏は「35年までに1億2000万~1億4000万トンに引き上げる計画だ」と明言した。18年時点で約6%にとどまる世界の市場シェアを約20%まで引き上げる。LNG市場での18年の国別シェアはカタールやオーストラリアが20%を超える。シェールオイルの増産が進む米国も存在感を高めている。ロシアはカタールなどに並ぶLNG輸出大国をめざす。ただロシアの大幅な増産は、世界的なLNGの供給過剰に拍車をかける可能性が高い。LNG増産に関し、ノワク氏は「ロシアの北極圏だけで74兆立方メートルの天然ガスがあり、多くの未確認の埋蔵量もある」と指摘した。ロシアのガス大手ノバテクが計画するアークティック2やサハリン2の増設など新規プロジェクトを念頭に「20%のシェア獲得へ必要な資源や競争力など潜在力はすべてある」と自信を示した。

*5-3:https://mainichi.jp/articles/20190614/ddm/003/030/023000c (毎日新聞 2019年6月14日) タンカー攻撃 日本の生命線で誰が ホルムズ海峡緊張増す
 日本の海運会社が運航するケミカルタンカーが、中東のホルムズ海峡付近を航行中に攻撃を受けた。安倍晋三首相がイランを訪問し、緊張緩和を呼びかけていた最中の事件。日本に衝撃を与えるとともに、米国とイランを軸にした中東地域の緊迫化がさらに進みそうだ。13日に起きたタンカー2隻への攻撃について、バーレーンに司令部を置く米海軍第5艦隊は「早朝に二つの遭難信号を受信し、救援に向かった」との声明を発表。一方、国営イラン通信は「イランの捜索チームが、2隻から船員44人を救助してイラン南部の港に運んだ」と報じており、対立する米・イラン双方が共に「救助にあたった」との主張を展開する。(以下略)

*5-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201906/CK2019061502000162.html (東京新聞 2019年6月15日) 自衛隊派遣論 緊迫進めば高まる恐れも
 岩屋毅防衛相は十四日、中東ホルムズ海峡近くでの日本のタンカー攻撃に関し、現時点での自衛隊派遣を否定した。日本人に被害がなく、攻撃した相手も不明だからだ。ただ、米・イラン関係や現地情勢がさらに緊迫すれば、自民党内から安全保障関連法による自衛隊派遣を求める声が上がる可能性もある。岩屋氏は閣議後の記者会見で「現時点で自衛隊へのニーズ(需要)は確認されておらず、部隊を派遣する考えはない」と述べた。日本が直接攻撃された際に反撃する個別的自衛権発動の要件は満たさないとの見解を示した。一方、自民党の防衛相経験者の一人は「やはり安保法は必要だった」と自衛隊派遣に意欲を隠さない。安保法の施行で「あらゆる事態」に応じて自衛隊を海外に派遣できるようになったことが念頭にある。例えば、米・イランが戦争状態になり、ホルムズ海峡が機雷封鎖された結果、日本への原油供給が断たれ、政府が「存立危機事態」に当たると判断すれば、集団的自衛権の行使が可能になる。二〇一五年に成立した安保法の審議の際には、安倍晋三首相が海上自衛隊によるホルムズ海峡での機雷除去を集団的自衛権行使の事例に挙げた。政府は、戦時の掃海活動は機雷をまいた国の防御力をそぐ「武力行使」とみなされる可能性があり、実施するには集団的自衛権行使を認めなければならないと主張。首相は審議の終盤、当時の国際情勢からは海峡封鎖は想定できないとして事例を撤回したが、今後の展開次第ではこうした派遣論が再浮上しかねない。名古屋学院大の飯島滋明教授(憲法学)は本紙の取材に「安保法が成立した今、機雷敷設が現実になれば、自衛隊が米軍の求めに応じて掃海艇を派遣せざるを得ないことはあり得る。米国に追従する姿が反米勢力の反発を買い、自衛官が危険にさらされる恐れがあるだろう」と懸念を示した。

<生活できるためには?>
PS(2019年6月17日追加):*6-1のように、問題になった金融審議会報告書は、将来の公的年金給付水準について、当初は「中長期的に実質的な低下が見込まれる」と記載したが、最終的には「調整されていくことが見込まれる」に修正したそうだ。本当は、「『マクロ経済スライド』を導入してインフレ政策をとることにより、給付水準を低下させる」と言うのが正しく、国民を犠牲にして年金制度を維持するという知恵も工夫もない愚策である。さらに、言葉を曖昧にすれば実態が変わるわけではないので、国民に実態を見えにくくしたにすぎない。
 そのような中、*6-2のように、就職氷河期に高校・大学を卒業した氷河期世代は、新卒時に正社員になれず、今も無職や派遣・アルバイトなどの非正規雇用割合が他の世代より高く、厚生年金に入れないため無年金・低年金予備軍となっているそうだ。そのため、*6-3のように、社会保障の支え手を拡大し、正社員としての勤務年数が短い氷河期世代や女性・高齢者・外国人が損をしない能力給中心の給与体系に変え、公正な評価をする仕組みに変える必要があるわけだ。また、「70歳までの就業機会確保」「勤労者皆保険制度」は、必要である。
 そうすると、これまで差別によって優遇されてきた男性労働者から不満が出るかも知れない。また、世代間の公平性がないと言う人もいるが、年金制度がなかった時代は、年金保険料は支払わなくてもよいが、親に直接仕送りしたり、親と同居して経済的・物理的援助をしたりしなければならなかった。一方、現在それを求める親は殆どおらず、年金保険料は支払わなければならないものの、より自由な職業選択ができ、活躍できそうな新産業も次々と芽生えている。
 例えば、*7-1のように、農業も現代化しつつあり、「マーケットイン」「スマート農業」「輸出」などを目標にして、成長産業になりつつある。また、戦後植林した木が伐採期を迎えて林業も有望な産業になっている。*7-2のように、「国有林を大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える改正国有林野管理経営法が、2019年6月5日の参院本会議で自民・公明・国民民主・日本維新の会などの賛成多数で可決・成立した」というのは、国民の資産を二束三文で民間に譲渡するもので大規模なドロボーの合法化だが、このような国民全員の財産を相当の料金をもらって民間企業に伐採させ、税外収入を得て政府のこれまでの年金政策の失敗をカバーすれば、林業や森林の維持管理も重要な産業になりつつあるだけに問題解決に近づく。
 さらに、*7-3のように、2030年までに世界の海底地形図を作って資源探査することが可能になり、日本近海での資源開発にも役立ちそうだ。ただ、日本で鉱業を行うには、日本には鉱業会計すらないため、国際会計基準(IFRS)の鉱業会計を早急に採用する必要がある。

  
 2019.6.16東京新聞  三菱UFJリサーチ&コンサルティング    総務省統計局

(図の説明:左図のように、金融庁金融審議会報告書は、「マクロ経済スライド」による公的年金水準の低下に関する表現を曖昧にし、中央の図のように、資産形成によって不足分を補うよう奨めているが、ここでモデルとされているような家計はむしろ少ない。なお、右図は、2012年時点の産業別営業利益率だが、現代のニーズに合ったことをすれば、新市場を作ったり、売上高や利益率を劇的に上げたりできることが介護市場を見れば明らかである)

*6-1:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201906/CK2019061602000142.html (東京新聞 2019年6月16日) <「消された」報告書を読む>(中)年金給付水準「調整」 実質は「低下」表現修正
 老後に公的年金以外で二千万円の蓄えが必要と試算した金融庁金融審議会の報告書は、将来の公的年金の給付水準について「今後調整されていくことが見込まれている」と記した。先月二十二日に示された当初の報告書案には、給付水準について「中長期的に実質的な低下が見込まれている」と「低下」の文字があったが、最終的に「調整」に修正した。「調整」とは、現役世代が支払う保険料の上限を定め、現役世代人口の減少や平均余命の伸びに応じ給付水準を徐々に引き下げる「マクロ経済スライド」という仕組みを指す。年金制度を維持するための仕組みだ。厚生労働省が二〇一四年に公表した年金の財政検証では、この「調整」の結果、年金給付水準は約三十年後の四三年度まで下がり続ける見通しを示した。財政検証によると、現役世代の平均手取り収入に対し、夫婦で受け取ることができる年金額の割合を示す「所得代替率」は、一四年度に62・7%だったが、その後は二〇年度が59・3%、四〇年度が51・8%、四三年度の50・6%まで低下することを示した。修正前の報告書案に記された「実質的な低下」という表現は、こうした試算に合致する内容だ。当初の報告書案には、この他にも年金の給付水準を巡り「今までと同等だと期待することは難しい」「今後は公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある」などの厳しい表現が並んでいた。みずほ証券の末広徹氏は、報告書の表現が当初案から変更されたことについて「国民が萎縮しないようバランスを考えて調整したと思うが、給付水準が実質的に低下するとの見通しは厚労省の財政検証の結果なので、ストレートに伝えるべきだった」と指摘する。また末広氏は、年金財政の負担と給付に関する正面からの議論を、政府が避けようとする傾向について「今回もうやむやにして先送りすれば、次に年金問題が注目された時は、この程度のショックでは済まないだろう」と懸念する。 

*6-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190616&ng=DGKKZO46163500V10C19A6EA1000 (日経新聞社説 2019年6月16日) 氷河期世代の支援にもっと知恵を絞れ
 就職氷河期という言葉がある。バブル経済の崩壊後、1993年からの10年あまりの間、日本企業が新卒採用を極端に絞った長期低迷期を指す。この期間に高校・大学を卒業した氷河期世代は30代半ば~40代後半になっている。無職や非正規雇用の割合がほかの世代より高いのが特徴だ。日本の中核的な層が不安定雇用に甘んじているのは、本人にも日本経済にもマイナスが大きい。産業界と政府・自治体が知恵を出し合い、効果的に支援する必要がある。氷河期世代は第2次ベビーブームの1970年代前半に生まれた団塊ジュニア世代を含む。明確な定義はなく、2300万人を超すという見方がある一方、政府は1700万人程度とみている。新卒時に正社員になれず、今なお派遣やアルバイトで生計を立てる人の割合が相対的に高い。無職者は40万~55万人、不本意なまま非正規社員を続けている人は50万~70万人と推計されている。社会保障についても不利益を強いられがちだ。国民年金の保険料を払う経済的余裕が乏しいのに減免手続きを怠り、未納を放置している人が多いとみられる。無年金・低年金者の予備軍だ。数十年後には生活保護に頼る人が続出することが想定される。経済面の制約から未婚者が多く、少子化の原因にもなっている。介護を家族に頼れない不安もある。本人の職への意識を高める必要があるのは言うまでもないが、非正規雇用の固定化などを本人の責任だけに帰すのは酷だろう。再チャレンジ支援に熱心な安倍晋三首相の意を受け、政府の経済財政諮問会議が氷河期支援を提起した。政権は今週まとめる骨太の方針に、3年間に30万人を正社員化する政策目標を盛り込む。重要なのは、根拠に基づく実効性が高い支援策だ。職業訓練・資格取得・学び直しのメニューを漫然と羅列したり、たんに人手不足が著しい業界に送り込もうとしたりしても、正社員として定着するのは難しいだろう。企業経営者も支援に責務を負っているが、正社員化の目標が独り歩きするようでは意味がない。一口に氷河期世代といっても置かれた状況はさまざまだ。例えばこの世代が得意とするデジタル技術の習熟度を高めてもらい、自宅で仕事を請け負う環境を充実するのも一案だ。企業側と本人双方の意欲と工夫が問われている。

*6-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20190616&bu=BFBD9496EABAB・・ (日経新聞 2019年6月16日) 支え手拡大へ雇用改革 社会保障維持へ骨太素案 、氷河期世代、正規30万人増へ 女性・高齢者、年功から能力給に
 政府が11日示した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)の素案では、社会保障の支え手拡大に軸足を置いた。働く高齢者や女性は増えており、雇用形態にかかわらず能力や意欲を評価する仕組みに変えていけるかが課題だ。今年の骨太で焦点を当てた就職氷河期世代が生まれたのは新卒採用に偏重した雇用慣行にある。年功序列と一括採用を前提にした日本型雇用の転換が急務だ。骨太の素案では「全世代型社会保障への改革」を柱に据えた。70歳まで就業機会を確保するよう企業に定年延長などの環境整備を求める。パート労働者すべてが厚生年金などに加入する「勤労者皆保険制度」の実現を掲げた。長く働き、税金や社会保険料を負担する人を増やす政策だ。厚生年金は年収106万円を超えると、保険料を払う必要がある。その負担を回避する目的で就労調整するパート労働者は多い。政府は年金保険料を負担するパートを増やすため、年収基準の引き下げを含めた公的年金の改正法案を2020年の通常国会に提出する。女性や高齢者を中心に社会保障の支え手である就業者は増えている。総務省によると、18年(平均)の就業者は6664万人となり、過去最高だ。過去5年間に増えた分の7割を占めたのが女性。一般に子育て期とされる30歳代前後の女性で就業率が下がる「M字カーブ」は緩やかになってきた。さらに年齢別では65歳以上の高齢者が35%増と高い伸びを示す。ただ、女性や高齢者は社会保障の支え手として1人あたりの稼ぐ力は十分とはいえない。女性や高齢者の雇用形態はパートなど非正規が多い。例えば、65歳以上になると非正規比率は75%を超す。パート労働者の平均賃金は月10万円弱。30万円台の正規社員と比べれば格差は大きい。日本企業の間では一定の年齢になると退職・再雇用の扱いとなり、賃金を一律で3割下げるといった措置がある。女性は育児休業で勤続年数が短くなると、男性に比べ賃金は低くなりやすい。年功型から能力に応じた制度へと変える必要がある。25年には団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になる。その時点で75歳以上の人口は2180万人となり、15年比で3割以上も増える。一方、60歳代は約2割減る。社会保障の支え手として高齢者の働き手を増やし続けるのはいずれ限界が来る。働く高齢者の年金を減らさないよう、在職老齢年金の廃止を含めて働く意欲や質を高める政策も課題になる。「就職氷河期世代への対応は、わが国の将来に関わる重要な課題だ。計画を策定するだけでなく、実行こそが大事だ」。安倍晋三首相は11日の経済財政諮問会議でこう語り、関係閣僚に対応を指示した。素案では今後3年間を「集中支援期間」とし、30代半ばから40代半ばの氷河期世代の就職を支援する考えを示した。この世代の正規雇用で働く人を3年間で30万人増やすことをめざす。全国の支援拠点と連携し、就業に直結しやすい資格取得などを促す。氷河期世代が卒業したのは1993年から04年ごろ。バブル経済の崩壊やその後の金融危機の影響で、企業が新卒採用を大幅に絞った時期だ。他の世代に比べ、正規で働きたくても働けない不本意な非正規が多い。氷河期世代で非正規や働いていない人は90万人を超す。高齢化すると十分な年金を受け取れず、生活保護に頼る世帯が急増すると懸念されている。この世代を正規社員として働けるようにするには、新卒一括採用と終身雇用の見直しが欠かせない。景気後退期に就職活動する世代が希望通りの仕事に就けない問題は潜在的にある。新たな氷河期世代を生まないためにも中途採用の拡大を進めていく必要がある。

*7-1:https://www.agrinews.co.jp/p47681.html (日本農業新聞 2019年5月17日) 新時代の農業技術 消費者意識して導入を
 時代を先読みした技術を取り入れよう。キーワードは「マーケットイン」と「スマート農業」。消費者が求めているものを的確に把握し、それに応じた生産に取り組むとともに、新しい技術をどう生かしていくか。時代のニーズに応じた生産や技術の導入が求められている。マーケットインの生産とは、消費者ニーズを栽培に取り入れようとする取り組み。日本農業新聞営農面の「農業技術ネクストエイジ」では平成の時代に開発されたり、広く普及したりした技術や品種を連載した。その中で、かんきつのマルチ・点滴かん水同時施肥法(マルドリ栽培)や根域制限栽培を紹介した。水分を与える量を制御することで、糖度を高める技術だ。消費者が求める甘いかんきつが生産できるとして、産地に広く普及した。出荷作業も同様だ。果実を切ることなく、糖度を測ることができる光センサーを取り上げた。花きのバケット輸送システムは、生花を長く楽しみたいという声に応えた技術。バラなど鮮度保持が難しい品目でも、日持ちの向上につながった。安全・安心は当たり前になった。化学合成農薬を減らし、天敵などを取り入れた総合的病害虫・雑草管理(IPM)は、広く普及した。一方、長期的な影響を踏まえ「安心できない」という消費者心理が働いた遺伝子組み換え(GM)技術や体細胞クローン技術は、普及につながらなかった。今夏にも流通する可能性があるゲノム編集で作られた作物も、消費者が安心して購入するのか。産地は見極めが必要だ。少子高齢化に伴う人口減で日本の「胃袋」は年々小さくなっていく。貿易自由化で輸入農産物は増え、消費者に選ばれる産地をどうつくるかが、重要になっている。食味や鮮度、安全性、食べやすさ、便利さなど時代のニーズに的確に応えられる技術が求められる。農村の高齢化や担い手不足に対応するため、連載企画では水稲の直まき栽培や不耕起V溝直播(ちょくは)、高密度播種育苗が進んだことを取り上げた。少ない労働力でも、大きな面積を耕作することができる技術だ。果樹の樹体ジョイント仕立ては高密度に苗を定植し、隣の木に接ぎ木する手法。樹高が一定で直線状に作業ができ、効率が高まる。酪農は規模拡大に合わせたユニットミルカーやミルキングパーラー、搾乳ロボットを紹介した。労働力不足は今後、さらに深刻化する。それを補う人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)、ドローン(小型無人飛行機)などを駆使したスマート農業は課題解決の一つの手法ではあるが、農業のあらゆる課題を解決できるわけではない。ゴールは、作る側と食べる側がつながり日本農業を再生することだ。そのためにも、消費者を意識した技術の導入が不可欠である。

*7-2:https://mainichi.jp/senkyo/articles/20190605/k00/00m/010/113000c (毎日新聞 2019年6月5日) 改正国有林法が成立 大規模伐採を民間開放
 全国の国有林を最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える改正国有林野管理経営法が、5日の参院本会議で、自民、公明両党や国民民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決・成立した。立憲民主、共産両党などは反対した。安倍政権は国有林伐採を民間に大きく開放して林業の成長産業化を掲げるが、植え直し(再造林)の失敗による森林の荒廃や、中小業者が淘汰(とうた)される懸念を残したまま、改正法は来年4月に施行される。改正法は、政府が「樹木採取区」に指定した国有林で伐採業者を公募。業者に与える「樹木採取権」の期間は50年以内と明記し、対価として樹木料などを徴収する。再造林の実施は農相が業者に申し入れるが、業者への義務規定はない。改正法では明文化されず今後の運用に委ねられた部分が多い。政府は当面全国で10カ所程度、計数千ヘクタールの樹木採取区を想定。「伐採期間は10年が基本」(吉川貴盛農相)と強調し、再造林は伐採業者との契約にも盛り込んで担保すると繰り返した。ただ、林野庁は現行の小規模な伐採でも、再造林の成功率などを示す全国のデータを把握していない。5日の採決に先立つ反対討論で、共産党の紙智子氏は「数ヘクタールの再造林で苗木が育たない山があるのに、数百ヘクタールを伐採すれば荒廃しかねない」と強調した。また改正法は中小業者の育成を掲げ、政府は業者の選定で財務基盤や取引先の優劣のほか、雇用増加などの地域貢献も「総合的に評価」すると答弁している。だが具体的な基準は明示されず、立憲民主党の川田龍平氏は討論で「超長期のリスクを取るのは中小業者には不可能だ。特定企業のみに50年の権利を設定するのでは、という疑念がぬぐえない」と批判した。改正法に賛成した与野党からも慎重な運用を求める声が続出し、政府は来春までに運用のガイドラインを作ってパブリックコメント(国民の意見公募)を実施する方針だ。

*7-3:https://digital.asahi.com/articles/ASM6753MSM67ULBJ00X.html?iref=comtop_list_sci_n01 (朝日新聞 2019年6月13日) 海底3億6千万平方キロを探れ 30年までに地図作成へ
 ロボット潜水艇で海底を測量し、地形図の正確さや範囲を競う国際探査レースで、海洋研究開発機構などの「チームKUROSHIO(クロシオ)」が準優勝し、日本人が参加する国際チームが優勝した。地球の7割を占める海の底は、月や火星より未知の領域が多い最後のフロンティア。海底にはどんな尾根や谷があり、どんな生き物がいるのか。レースで得られた知見をもとに、探査が本格化する。「世界の海の8割以上に詳しい地形図がない。新しい生き物や資源の探査には欠かせないのに」。レースを主催した米Xプライズ財団のジョーティカ・ヴァルマーニ事務局長は、1日にモナコであった表彰式で海底探査の意義を強調した。私たちが目にする世界地図の海底地形には、深い海溝や海底火山が描かれているが、ほとんどは解像度が1キロほどとデータが粗い。逆に、高温の熱水が噴き出す熱水鉱床などの周囲は、珍しい海洋生物や貴重な鉱物資源が集まるため詳しく調べられているものの、調査範囲が狭い。この間を埋める、詳しくて広い範囲の地形図が、開発や研究の現場から求められていた。しかし、船から人が潜水艇を操作する従来の探査では、1日に10平方キロほどを測量するのがせいぜいで、3億6千万平方キロに及ぶ広大な海を調べ尽くすのは無理がある。そこで、自動で調査できる水中ロボットの開発を後押しする国際探査レースが企画された。決勝は昨年11~12月、ギリシャ沖であった。出場したのは日米独などの5チーム。海洋機構や九州工業大、三井E&S造船、KDDI総合研究所などでつくるKUROSHIOは、全長5・6メートルの潜水艇と通信用の無人船を投入。悪天候で急きょ調査海域が変更になるなか、山手線の内側の面積の倍にあたる長さ34キロ、幅5キロの測量を成功させ、準優勝した。中谷武志共同代表は「海底を無人調査するなんて、レース前は20~30年先の技術と思っていた。造船や通信といった専門家たちが知恵を出し合って実現できた」と喜んだ。優勝は、日本財団が財政支援し、海上保安庁の職員も参加した国際チーム「ジェブコNFアルムナイ」だった。海底地形図づくりのプロを育てる米ニューハンプシャー大の研究コースの卒業生16人が日米ロなど10カ国以上から集まり、潜水艇の遠隔制御などそれぞれの得意分野を生かした。日本財団などは今後、ほかのチームにも参加を呼びかけて2030年までに世界の海底地形図をつくる構想だ。詳しい地形がわかれば、未知の生物がいそうな場所はないか、海底ケーブルをどう設置すればより安全か、新しい油田を探すのにどこが候補になりそうかなど開発や発見に役立つ。財団の海野光行常務理事は「私たちの支援はレースのためだけではなく、その先を見据えたもの。ここからが始まりだ」と話した。

<高齢化による新市場の出現>
PS(2019年6月19日追加):佐賀県吉野ケ里町が、*8-1のように、高齢者が地域で安心して暮らせるよう、セブン-イレブン2店と高齢者見守り協定を結んだそうだが、このように新しいニーズをとらえて対応すると、新市場ができたり、従来の営業のプロモーションになったりする。しかし、*8-2のように、「高齢者=認知症≒子ども」というような単純な発想で、看護師・介護師に親しすぎる言葉で話しかけられるのは、(人によっては)尊厳を無視されたようで嫌なのである。そのため、看護師・介護師は、相手の言葉遣いや態度から、相手の要望を見分ける必要がある。私の女学校卒の大叔母は、90代の時、「『ちーちーぱっぱ』のようなくだらない歌を歌わされるので、ショートステイには行きたくない」と言っていた。そのため、介護施設も、「高齢者≒子ども」という扱いは慎み、相手のニーズに合ったことをすべきだと思う。
 なお、人口動態において先進国の日本は、「高齢者が本来もらう筈だった年金や社会保障を削減する」という最も安易で工夫のない政策をとらなければ、このような新しく必要となる財やサービスを作りだして世界に普及する先進国になった筈だ。何故なら、世界もまた、*8-3のように、次第に高齢者の割合が増えていき、日本と似た道を辿るからである。

  
主要国の人口高齢化率長期推移        日本の人口ピラミッドの変化

*8-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/519143/ (西日本新聞 2019/6/17) セブン-イレブン2店が高齢者見守り 吉野ケ里町と協定
 吉野ケ里町は13日、地域の高齢者を見守り、異変に気づいた際には連絡をしてもらえるようコンビニチェーンのセブン‐イレブン・ジャパンと協定を結んだ。高齢者がいつまでも地域で安心して暮らせることを目的に、住民と接する機会の多い企業などと協力して高齢者の見守りを図る「吉野ケ里町ふれあいネットワーク」事業の一環。セブン‐イレブン側は以前から他の自治体で来店したり商品の配達サービスを利用したりする高齢者などへの声掛けに取り組んでおり、町に打診し協定が実現した。協定をもとに、町内の2店舗は商品の配達時などに高齢者の安否を確認し、認知症の可能性など異変を感じた場合は町の地域包括支援センターに知らせる。協定の締結式で伊東健吾町長は「(見守りを通じて)町づくりに貢献していただければうれしい」とあいさつした。

*8-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190619&ng=DGKKZO46283280Z10C19A6MM8000 (日経新聞 2019年6月19日) 春秋
 「はい、あーんして」「ごっくんしようねー」。病院でいたたまれなくなる光景のひとつは、医師や看護師が高齢者に、赤ちゃん言葉で接している場面である。つい先日も、認知症が進んでいるらしい女性に幼児語を連発するスタッフがいた。見ていて、とてもつらい。▼悪意はないのだろう。むしろみんな、熱心に仕事をしているはずである。かつて東北地方などでは恍惚(こうこつ)の境地に入った人を「二度童子(わらし)」と呼んだという。人間は年老いて、また子どもに還(かえ)りゆくものなのかもしれない。しかし……。長い人生をひた走り、辛酸をなめ、それぞれに足跡を残してきた人々の尊厳はどこにある。▼政府がきのう、認知症対策の新たな大綱を閣議決定した。患者が暮らしやすい社会をめざす「共生」と、発症や進行を遅らせる「予防」とを柱にするそうだ。数値目標は批判を浴びたため参考値にとどめたが、予防に役立ちそうな努力を求める雰囲気はなお拭えていない。当初案では「予防」が「共生」よりも上にあった。▼いかに「共生」を唱えても、まだまだ社会は戸惑い、誰もがたじろいでいる――。むしろ、そんな思いを募らせる大綱であり、あちこちで聞く赤ちゃん言葉なのである。認知症はまさに誰でもかかる。そして症状が進んでも、さまざまな感情は心を離れない。蛇足ながら、かつて身内に患者を持って知らされたことである。

*8-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190619&ng=DGKKZO46250640Y9A610C1FFJ000 (日経新聞 2019年6月19日) 変わる人口地図 国連報告から(1) 50年、6人に1人高齢者
 国連の最新の予測によると、世界人口のうち65歳以上の高齢者の割合は2050年に16%と、6人に1人を占めるようになる。現在は11人に1人(9%)だが「歴史的な低さの出生率と寿命の延びで、事実上すべての国が高齢化していく」という。日本が直面する高齢者の社会保障や労働力の確保といった問題が、多くの国に共通する課題になりそうだ。地域別にみると高齢化は欧州・北米で特に進み、50年には4人に1人に当たる26%が高齢者になる。次いで日本を含む東・東南アジアで、19年の11%から24%に上昇する。ペースは緩やかだが、アフリカや中南米にも高齢化は広がる。世界全体では、65歳以上の人の数は19年から50年までに2倍以上に膨らむ。18年に史上初めて、5歳未満の子どもの数を上回り、50年には15~24歳の若者の数をも追い越すと国連は予測する。平均寿命は世界平均で72.6年から77.1年に延びるという。一方で出生率は、現在の2.5から2.2に下がると予測した。途上国で乳幼児の死亡率が下がり、先進国では女性の社会進出が広がっているのが背景とみられる。1990年には3.2だったが、低下に歯止めが掛からない。
     ◇
 変わる人口地図は世界の経済や社会にどう影響するのか。国連が17日公表した人口推計を基に解説する。

<産業のイノベーションと人材不足>
PS(2019年6月20日追加):*9-1のように、政府がやっと温暖化対策戦略で水素を柱の一つに掲げてG20サミットで話題にするそうだが、日本で水素エネが実用段階に入っても普及しなかったのは、太陽光発電と同様に経産省の愚かなエネルギー政策が邪魔したからであり、外国で実用化されて初めて慌てるのが日本の情けないところだ。なお、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して水素を作るのは、環境先進国では、理想ではなく理念に基づく現実だ。
 また、*9-2のように、林業も人材不足で、人材確保には労働環境の改善等も重要だろうが、若くして退官させられる航空自衛隊や陸上自衛隊のOBが中心になるのが、体力・技術面で適任ではないかと考える。そして、国有林は現役自衛官が訓練を兼ねて、整備や作業を行いつつ、植生・野生動物の生存数・断層などを含めた正確な地図を作ったらどうだろうか?
 さらに、*9-3のように、JR九州が事業承継ファンドを設立して自社と関連性の高い地場企業に資本や人材を投入して支援するのは、銀行の出資で設立されるファンドとは異なる視点で有意義だ。このようにして人材を入れれば、従来の事業も次第に21世紀型にできる。


2019.6.11朝日新聞     国民年金の場合      あいちのICT林業活性化構想

(図の説明:左図のように、老後、どのような生活をするかによって老後必要な貯蓄額は大きく異なる。また、中央の図のように、国民年金世帯は、不足額が大きい。しかし、右図の林業のように、現在は人手不足で、スマート化によって生産性の高い産業にできそうな分野も多い)

*9-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190620&ng=DGKKZO46303940Z10C19A6TCS000 (日経新聞 2019年6月20日) 水素で温暖化を防げるか
 政府は温暖化対策の長期戦略で水素の活用を柱の一つに掲げた。20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でも話題になる見通しだ。温暖化ガスを出さない理想のエネルギー源として期待は高いが、思うように実用化が進んでいない。普及へ向けての課題と解決への道筋を日欧の官民の代表に聞いた。
  ◇  ◇
■政策誘導で実用化を 環境相 原田義昭氏
 日本は二酸化炭素(CO2)排出量を2050年までに80%減らす長期目標を掲げている。パリ協定の目標と照らし合わせると不十分と言われており、実質ゼロにしたいが足元の対策は必ずしもそこへ向かっていない。「究極の環境型エネルギー」である水素エネルギーをどれだけ活用できるかが、決め手の一つになる。水素エネは理論研究を経て実用段階に入っているが、思うように普及しない。有力な応用分野である燃料電池車(FCV)は水素ステーションが増えず、頭打ちだ。自動車メーカーは燃料電池車よりハイブリッド車(HV)などを重視していた。そこで水素エネの利用に広がりをもたせるため、列車や船などの公共交通に使えないかと考えている。燃料電池列車を製造しているフランスの鉄道車両大手アルストムの幹部と話す機会があり、ドイツ北部の路線で試乗もした。いま大事なのは、水素エネを使う技術や製品の需要を創出することだ。いつまでに確実にどのくらい使う、というコミットメント(約束)があればメーカーも動く。それには政府の関与が必要だ。日本でも、たとえば国がJRと組んで燃料電池列車の開発にトライすれば刺激策になる。その後、民間主体のインフラ整備へと移行すればよい。フランスでは無人の水素ステーションも見た。安全管理面などの規制緩和やルールづくりの参考になる。省庁の垣根を越え、オールジャパンで水素エネの利用を推進するつもりだ。過去を振り返ると、日本は10年ほど前には太陽光技術で圧倒的に強かったのに、いまや惨憺(さんたん)たるものだ。技術は優れていても商売で中国などに負ける。人工知能(AI)やロボット技術も同様だ。水素技術で同じ轍(てつ)を踏むようなことがあってはならない。先日、九州大学の水素エネの研究室を訪れた。毎週のように中国から見学者が来るそうだ。中国の水素エネの研究開発や関連事業への投資は日本に比べ桁違いに大きく約2兆円だという。金額ではとてもかなわないが、選択と集中で強いところを伸ばし、民間による事業化を促す。水素は再生可能エネルギーを使い、水を電気分解してつくれれば理想的だ。化石燃料由来の電力を使う場合にはCO2の回収・貯蔵(CCS)技術などと組み合わせる工夫がいる。(CO2の排出が多い)石炭火力発電所の延命策になるという見方があるのも知っている。しかし、温暖化対策に逆行する新設の石炭火力は環境影響評価(アセスメント)の段階で基本的に認めないなど、厳しい姿勢で臨んでいる。安倍晋三首相が言うように、これまでの延長線上にない非連続なイノベーションも追求する。政策当事者として、こんなことができるとよいという具体的なものを示していきたい。水素社会への移行をめざす考えは、20カ国・地域(G20)エネルギー・環境相会合でも説明した。賛同を得られ、実現へ向けた機運が高まったと思う。

*9-2:https://www.agrinews.co.jp/p47966.html (日本農業新聞論説 2019年6月18日) 林業の人材不足 労働環境の改善を急げ
 わが国の森林は、人工林を中心に木材資源の本格的な利用期を迎えている。林家の高齢化や林業経営体の弱体化で伐採できず、宝の持ち腐れになる恐れが指摘されている。人材確保に向け、林業経営体の労働環境の改善を急ぐ必要がある。林野庁は3本の柱をてこに林業改革に取り組む考えだ。第一に、森林所有者に代わって民間企業等が主伐や間伐、造林ができる新しい「森林経営管理制度」の導入だ。これを“エンジン”に、本格的な山の手入れや伐採に乗り出す考えだ。林業経営に適さない森林は、所有者に代わって市町村が管理する。第二に、森林環境税の導入だ。1人当たり年1000円を個人住民税に上乗せして徴収し、年間600億円の財源を確保。森林の管理や、間伐、担い手確保、木材利用の促進などに充てる。そして、第三が人材育成・確保である。「伐(き)って、使って、植える」という循環利用を担うための人材を確保することである。2018年度の林業白書は人材の確保に焦点を置き、当面する大きな課題と位置付けた。その認識に異論は無い。事実、地域の森林整備の担い手で、植林、下刈り、間伐の受託面積の6割を占める森林組合の9割が人材不足だ。また、民間事業体も中小規模が多く、後継者の確保が課題であることを浮き彫りにした。安い外材に頼って国内林業を軽視してきた結果である。人材不足の解決の方向として白書は、機械化や情報通信技術(ICT)などの新たな技術の導入でコスト削減を進め、林業従事者の労働条件の改善に取り組む必要性を強調した。実際に成果を上げた事例も示した。労働条件の改善は、人材確保の有効な手段であり、方向性は一定に理解できる。しかし、全産業的な労働力不足の中で、人材を確保することは容易ではないはずだ。賃金や休日の確保などの労働環境の改善を国家的に支援するとともに、林業の魅力を若い人にPRする必要がある。林野庁は、その具体策を早急に示すべきだ。林野庁が取り組む改革で懸念されるのが、伐採だけが進んで“はげ山”になることだ。民有林に加え、国有林に関する法改正では長期の「樹木採取権」を企業に与えることになった。植林を怠らないよう適切に指導すべきだ。また、山村振興に取り組む小さな林業経営を排除するようなことがあってはならない。今後、森林管理で市町村の役割が高まるが、林業に詳しい職員はごく一部に限られる。市町村の林務担当職員を増やすなど市町村の体制充実も必要だ。森林をきちんと維持するための基本は、現地に住む林家の経営を安定させ、きめ細やかな森の管理が行えるように環境を整えることだろう。後継者が育つように新しい技術の指導や国産材の販売先の確保などでの支援が必要だ。急ぐべきである。

*9-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/519457/ (西日本新聞 2019/6/18) JR九州が事業承継ファンド設立へ 利益増、地域支援も
 JR九州が、後継者不足に悩む地場中小企業の受け皿となる事業承継ファンドを設立する方針を固めたことが分かった。鉄道関連や飲食など、自社の事業と関連性が高い地場企業に資本や人材を投入。利益拡大とともに地域経済の下支えにつなげる考え。事業承継ファンドは地方銀行などの出資で設立されるケースが多いが、鉄道会社が乗り出すのは全国的にも珍しい。鉄道部品関連や食品、流通分野などから投資対象となる地場企業を探し、1社当たり数千万円から数億円を投じて経営権を取得するなどする。各事業に精通した人材もJR九州側から派遣する。6月1日付で社内に担当人員を配置。本年度中にも資本提携や買収による経営参画を始めてノウハウを積み上げ、早ければ2021年度にもファンドを設立する。通常の合併・買収(M&A)と違い、ファンドは機動的な投資判断が可能になるなどの利点がある。運営には専門会社を入れることも検討する。中小企業の後継者不足は全国で深刻化。帝国データバンクの調査で「後継者がいない」と答えた九州の企業の割合は、18年は61・2%に達した。廃業する中小企業が増えれば、沿線人口の減少や地域衰退につながる。JR九州は本業の鉄道事業で実質赤字が続いており、自社の多角化の経験を活用することで、利益の底上げを図る狙いもある。

<保守系議員の女性蔑視と参院選の野党共闘>
PS(2019/6/21追加):*10-1、*10-2に、超党派の保守系議員でつくる日本会議国会議員懇談会は、「①男系男子による皇位継承を維持し、女性宮家創設に反対」「②126代にわたって例外なく維持されてきた男系による皇位継承の伝統に基づく男系男子孫による皇位継承が可能となる方策を要望」「③Yはずっと形が変わらず続いていき、Xとは違う」「④皇族の減少に伴い、女性皇族が結婚を機に皇族の身分を離れた後も活動を継続できるよう政府に申し入れる」としたそうだ。③の「Y染色体はXと異なり、形が変わらない」というデータはないので科学的根拠にはならない。ただ、次世代に誰の遺伝子が伝わるかを見ると、愛子さまが天皇となられる事例では、その次の世代には雅子さま由来のX遺伝子と美智子さま由来(天皇経由)のX遺伝子が伝わる確率が1/2ずつあり、どちらも上皇由来ではないが、男系男子のY染色体なら必ず天皇・上皇由来である。しかし、ヒトの染色体は23対あり、XY染色体はそのうちの1対にすぎない上、ミトコンドリアや細胞質からの遺伝は母方からのみだ。従って、①②も、「126代も続いた伝統だから男系男子」という気持ちは伝わるが、伝統も最新の科学や社会環境を考慮して変化しなければ、それ自体が続かなくなることを無視していると思う。さらに、④は、「(大した働きは期待しないが)人手不足だから、既婚女性は非正規かボランティアで働け」という、これまで日本女性に採ってきたのと同じ失礼な態度で、やはり女性蔑視である。
 そのような中、*10-3に「参院選野党共闘は、明確な選択肢打ち出せ」と書かれており、誰がやろうとよい政策を進めてもらえばよいため「安倍一強打破」は国民にとっての選択肢にはならないが、「市民連合」が示す①改憲反対 ②安保法制廃止 ③消費税凍結 などの政策は選択肢になる。年金に関しては、今の野党は「有権者の立場に立った社会保障の姿」を示しているとは言えず、発生主義に基づく引当方式への移行と移行期間における全世代の二重負担排除くらいは掲げるべきで、国民のストックである国有財産をうまく使えば、それは可能なのである。
 改憲については、安倍首相は、*10-4のように、「①憲法について、ただ立ち止まって議論をしない政党か」「②正々堂々と議論する政党か」を選ぶ選挙にしたいと言われたそうだ。しかし、これまでの議論で自民党の改憲案とその理由を理解した上で、「改憲を議論するのは、現在の日本国憲法の理念がもっと議員や国民に浸透してからにすべきであり、現在は時期尚早だ」という判断もあり、スタンスは①②だけではない。そして、安心して議論できるためには、強行採決して国民投票に懸けられないよう、参議院の改憲勢力は2/3未満にすべきだ。

*10-1:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190620-00000157-kyodonews-pol (Yahoo 2019/6/20) 男系男子の皇位継承維持 女性宮家創設に反対
 超党派の保守系議員でつくる「日本会議国会議員懇談会」は20日、国会内で総会を開き、男系男子による皇位継承を維持し、女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」創設に反対する内容の基本方針を決めた。今後、具体的な方策や提言案をまとめ、政府や各党に要望する。基本方針は、安定的な皇位継承を確保するための解決策について「126代にわたり、古来例外なく維持されてきた男系による皇位継承の伝統に基づき、男系男子孫による皇位継承が可能となる方策」を要望した。皇族の減少に伴い、女性皇族が結婚を機に皇族の身分を離れた後も活動を継続できるよう政府に申し入れるとした。

*10-2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019061101051&g=pol (時事 2019年06月11日) 「Y染色体」に触れ男系継承評価=自民・古屋氏
 自民党の古屋圭司元国家公安委員長は11日、皇位が男系でのみ継承されてきた歴史について、男性に特有の「Y染色体」に触れ、「何百年、何千年前は遺伝子工学の知識はなかったと思うが、先人の素晴らしい知恵だったと思う」と評価した。人間の性を決める染色体にはXとYの2種類があり、古屋氏は「Yはずっと形が変わらない、続いていく。Xとは違う。男女差別という問題ではなく、あくまでも染色体の科学的根拠がベースだ」と語った。古屋氏は、超党派の保守系議員で構成する「日本会議国会議員懇談会」会長として、同懇談会の皇室制度に関する検討チームの会合であいさつした。

*10-3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019062102000199.html (東京新聞 2019年6月21日) 参院選野党共闘 明確な選択肢打ち出せ
 予想される参院選投票日まで一カ月。野党は二〇一六年に続き、焦点となる三十二の改選一人区で候補を一本化し戦う態勢を整えた。一強多弱構造を崩す対立軸となり得るか、共闘の真価が問われる。立憲民主、国民民主、共産など五党派の候補者一本化協議は、四月の統一地方選後に急進展した。政府・与党内から衆参同日選の観測が漏れ出し、立民、国民を支援する連合からは「(安倍)一強政治を何としても打破しないといけない」(神津里季生会長)と、悲壮な声も飛び出した。野党票が分散すれば、一人区で与党候補に漁夫の利を与えるのは明らかだ。危機感が共有され、二十四区に公認を立てていた共産も相次ぎ候補取り下げに応じた。前回の野党共闘では地域事情に合わせた協議の積み重ねで候補を絞り込んだのに対し、今回は一月の野党党首会談で合意し中央レベルで協議を進めた影響も大きい。ただ、一本化は共闘の「スタートライン」にすぎず、選挙の公示が迫っても共通公約や相互支援の在り方は明確でない。政策は、民間の「市民連合」が五党派に九条改憲反対、安保法制廃止、十月の消費税増税見送りなど十三項目を要望し、各党派代表が署名した。しかし、扱いについては党派ごとに認識が異なり、共通の「旗」となっていない。にわかに広がった年金不信を踏まえ、有権者の立場に立った社会保障の将来像など選択肢を共同で示すことができれば、野党の存在感は一段と高まるのではないか。相互支援態勢では、五党派間で「最大限の協力で勝利を目指す」と合意したにすぎない。各党派の相互推薦は無所属候補にとどまる見込みだ。公認も含む全一本化候補に対し、実効性のある協力関係が築けるかが今後の課題となる。一人区の野党側の戦果は一六年参院選で十一勝二十一敗。共闘が整わなかった一三年が、当時の三十一選挙区中二勝二十九敗だったのと比べると善戦だった。さらに一七年衆院選の比例代表で見ると、立民、旧希望、共産、社民の合計票は約二千六百十万票で自民、公明両党の票を六十万票近く上回る。昨年以降、沖縄では野党系の「オール沖縄」候補の大勝が相次ぐ。参院選でも与党候補に十分対抗可能だろう。旧民進党分裂に伴う主導権争いや基本理念の違いが表面化しがちな野党共闘だが、残り一カ月。有権者の信頼を集める政権批判の受け皿づくりに努める局面だ。

*10-4:https://www.jiji.com/jc/article?k=2019062101353&g=pol (時事 2019年6月21日) 憲法改正、参院選争点に=安倍首相「議論する政党選ぶ選挙」
 安倍晋三首相は21日夜のインターネット番組で、憲法改正が夏の参院選の主要争点になるとの考えを強調した。「憲法について、ただただ立ち止まって議論をしない政党か、正々堂々と議論する政党か、それを選ぶ選挙だ。そのことを強く訴えていきたい」と表明した。首相は、衆参両院の憲法審査会の論議が進まない現状に関し「真剣にどういう国をつくっていくかを議論する大切な場で議論がなされていない」と述べ、野党の対応を批判。改憲について「最終的には国民が国民投票で決める。その国民の権利すら奪っている」と指摘した。

<社会保障の充実とその財源としてのエネルギー資源>
PS(2019年6月22、28、29日追加):*11-1のように、熊本市は環境省の委託を受けて熊本大等と運行実験を行い、実用性やCO2の排出削減効果を確認していたEVバス1台を2019年12月から熊本城の周遊バスに採用するそうだ。EVは、再生可能エネルギー由来の電力を使う限りCO2排出量が0であり、海外に支払っている燃料代を節約して国内で廻せるメリットもある。しかし、日本では、EVバスの新車が8千万円、中古でも4千万円もするそうで、必ず価格の高さが日本製普及のネックになるが、これは高コスト構造が原因だ。ちなみに、中国のEV最大手BYDは、*11-2のように、航続距離200km、充電時間3時間の新小型EVバスを日本市場に投入し、その価格は税抜き1950万円だそうだ。私は、日本の環境先進都市は、BYDの小型EVバスだけでなく主力の乗用車もタクシーとして導入すれば、日本メーカーの刺激になってよいと思う。
 日本政府は、*11-3のように、2019年度の経済財政運営と改革の基本方針を、①就職氷河期世代への支援 ②最低賃金上げ ③70歳までの就業確保策の検討 ④幼児・高等教育の無償化 ⑤終身雇用や年功序列など日本型雇用の見直しや兼業・副業解禁など企業改革を促す とする閣議決定をしたそうだ。私は、①はよいが、②は地域によって物価水準が異なるのに全国一律の最低賃金を採用したり、生産性と合わないほど最低賃金を引き上げたりすると、雇用が減少すると思う。また、③については、*11-4のように、努力義務ではザル法となり、高齢者をワーキングプアにするので不十分だ。さらに、④及び⑤のうちの年功序列見直しは重要だ。
 これに対し、日経新聞等のメディアは、⑥社会保障の持続性確保のための消費税率10%引き上げ後の国民の負担増・給付減に繋がる改革に踏み込まなかった ⑦国と地方の基礎的財政収支(PB)の黒字化目標を25年度まで先延ばしした などと旧来型の思考停止した批判を繰り返している。しかし、社会保障財源については、これまで述べてきたようなエネルギー改革、雇用改革、国の収支を管理しながら国有財産を有効に使う行財政改革等を行えば、消費税増税は不要なのである(このブログのマニフェスト参照)。
 また、*11-5のように、共産党が参院選の公約に、⑧マクロ経済スライドの廃止 ⑨低年金者への月額5000円の上乗せ給付 ⑩最低賃金は全国一律とし時給1500円をめざす ⑪消費税率10%引き上げの中止 ⑫安全保障法制の廃止 を盛り込んだそうだが、このうち⑧⑪⑫は賛成だが、⑨の月額5000円の上乗せ給付では殆ど役に立たず、⑩は行き過ぎだろう。なお、将来、納めた保険料に応じた額を所得比例部分として上乗せする年金制度(=発生主義による引当方式≒積立方式)にするのなら、月5万円の最低保障年金とマクロ経済スライド廃止の財源を高所得者の年金保険料の上限廃止に求めても文句はないが、これまで高所得者の年金保険料に上限があったり、徴収漏れのケースが多すぎたりしたのがおかしかったのである。さらに、歳出の見直しという視点から、金食い虫の原子力発電所の再稼働を中止して全ての原発で廃炉のプロセスに入るのは、将来の負債やリスクを少なくするために重要なことだ。
 なお、社民党が、*11-6のように、「⑪改憲反対」「⑫社会を底上げする経済政策」「⑬最低賃金全国一律時給1500円を目指す」「⑭消費税率10%への引き上げ中止」「⑮マクロ経済スライドによる基礎年金の給付抑制中止」「⑯保育士給与の月5万円引き上げ」「⑰財源確保策として大企業への法人課税強化や防衛費の見直し」などを参院選の公約にしたそうで、⑪⑫⑭⑮は賛成だが、⑬は物価水準が異なる地域で生産性以上の時給を課せば、事業(特に中小企業)が成り立たなくなるため賛成できない。また、⑯も、幼児教育・保育を無償化した上で、義務教育開始年齢を3歳にするなどの全体的な教育改革が必要なので、保育士さえ増やせばよいわけではないだろう。⑰の防衛費の見直しについては、単価が高いだけで役に立たないものも多そうなので重要だ。「大企業への法人課税強化」は役割を終えた租税特別措置法の見直しは有益であるものの、世界競争をしているので大企業だからゆとりがあるとも限らないため、具体的に言うべきだ。また、共産党がよく使う「富裕層への課税強化」は、“富裕層(年収380万円以上?!)”の定義を明確にしなければ、一億総中流階級意識の日本では殆どの有権者を敵に廻す。何故なら、現在は「蟹工船」「女工哀史」のような「資本家は金持ちで欲張りな搾取者」「労働者は貧しい被搾取者」という時代ではなく、出資している事業者の方が不利な点も多いからである。
 最後に、日本維新の会は参院選のマニフェストで、*11-7のように、⑱年金は「賦課方式」から「積立方式」に変更 ⑲年金支給開始年齢は段階的引き上げ ⑳税金と年金等の保険料を一括徴収する「歳入庁」を設置 ㉑消費税増税凍結 ㉒財源は「身を切る改革」をして国会議員報酬・定数は3割減、国家公務員人件費は2割減 としているようだ。私は、⑱には賛成で、必要な積立金額を長期の低利(orマイナス金利)国債で賄うのがよいと考える。⑲は、定年の廃止や定年年齢の引き上げと連動しなければ困るが、働いていた方が医療費や介護費も少なくてすむので一石二鳥だ。⑳は、税金と年金等の保険料を一括徴収しても年金や医療・介護費用の源資は、(ごっちゃにするのではなく)きちんと分けて保管・運用するのならよい。これにエネルギー改革・歳出改革と女性や外国人労働者の活躍を加えれば7~20兆円は簡単に出る筈で、消費税は消費に対するペナルティーとして働くため廃止も視野に入れるべきだ。なお、日本維新の会は、「身を切る改革」を看板として民主主義のコストである議員報酬や定数削減をよく言われるが、これによって節約される金額は桁が小さすぎ、議員報酬が減ったからといって年金を減らされるいわれはないし、報酬が低ければ優秀な人が集まらず、金持ちばかりが議員になって生活感のない政策を行うため、国民にとっては利益がないと考える。

    
現役・再雇用・年金時代の家計収支  2019.6.21東京新聞   2019.6.22東京新聞

(図の説明:左図のように、子育中の貯蓄は困難であるため、子育後に老後資金を準備をしなければならないが、再雇用での貯蓄は難しく、年金時代は貯蓄を取り崩す生活になる。従って、中央の図の「マクロ経済スライド」は本当に廃止すべきだ。また、右図の改正高齢者雇用安定法による高齢者雇用は非正規での再雇用を認めているため、再雇用後、著しく減収する人が多い)

*11-1:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/519998/ (西日本新聞 2019年6月20日) EVバスで熊本城周遊 市が導入、12月から運行
 熊本市の大西一史市長は19日、電気自動車(EV)のバス1台を、12月から市が運行する熊本城周遊バス「しろめぐりん」に導入する考えを明らかにした。EVバスは昨年2月から1年間、市や熊本大などが環境省の委託を受けて運行実験を行い、実用性や二酸化炭素(CO2)排出の削減効果を確認していた。県内で路線バスへのEV導入は初めて。市によると、導入するEVバスは乗客乗員27人乗り。1回の充電で約50キロ走行でき、熊本駅から熊本城周辺の1周約10キロを1日に4、5便運行する。CO2排出量はほぼゼロの見込みで、車体にはEVをアピールするラッピングを施す。災害時には、登載バッテリーから外部への電気の供給もできるという。運行実験に参加したイズミ車体製作所(大津町)が保有する中古バスをEVに改造する。バスはリース会社が保有し、市は5年間のリース契約を結ぶ。市は5月に国から事業計画の認可を受けており、改造費など市の負担は約4千万円を見込む。市によると、全国ではEVバスの新車導入例はあるが、中古バスを改造してEV化するのは珍しいという。市は「EVバスを新車で購入すると約8千万円かかるとされ、費用が抑えられる」としている。

*11-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42874120V20C19A3916M00/ (日経新聞 2019/3/25) BYD、日本で新EVバス 24年に1000台
 中国の電気自動車(EV)最大手である比亜迪(BYD)の日本法人、ビーワイディージャパン(横浜市)は25日、新たな小型EVバスを日本市場に投入すると発表した。国内の小型EVバスとして航続距離は最長となるという。同日から予約を受け付け、中国で製造し、2020年春から納車する予定。24年までに1000台の販売を目指す。新型車は全長7メートル、車幅2メートル、車高3メートル。地方の細道でも走れるように小回りの効く大きさにした。1回の充電は3時間で済み、航続距離は従来車より1.3倍の200キロとなった。一般的なEVバスの価格は1億円台とされ、高い価格が課題になっていた。新型車は税抜き1950万円と購入しやすい価格帯に設定した。BYDグループは、世界50カ国・地域で5万台のEVバスを納めている。日本では15年に京都市でEVバスを納車後、4つの自治体で計21台の大型・中型のEVバスを納品している。日本車メーカーでは20年の東京五輪で、トヨタ自動車が燃料電池車(FCV)のバスやEVなど3000台を走らせる計画で開発を進めている。また日野自動車が12年にEVバスを販売し、東京都羽村市が導入した。世界では二酸化炭素(CO2)や排出ガスの環境規制が厳しくなっており、自動車メーカーは環境対応が求められる。だが主要な日本車メーカーはEVバスの開発に消極的な姿勢のままだ。ビーワイディージャパンは緊急時に運転手が操作する「レベル3」の自動運転機能を後付けできる製品も、20年に販売するという。日本で導入済みのEVバスや今後販売の小型EVバスに搭載可能で、自動運転バスでも先陣を切りたい構えだ。25日に都内で記者会見した同社の花田晋作副社長は、主力の乗用車を日本市場に投入することに関し、「EVの市場規模が小さく、日本での展開はない」と強調。他の日本車メーカーとの提携も「求めがあれば、そのような出会いもある」とした。最後に「交通弱者の高齢者が増え、地方では路線バスの需要が増える。低価格でEVを普及し、電動化社会を進めたい」と話していた。

*11-3:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190622&ng=DGKKZO46415190R20C19A6EA1000 (日経新聞社説 2019年6月22日)厳しい改革を忘れた骨太の方針
 政府は21日、2019年度の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を閣議決定した。7月の参院選を意識したのか、就職氷河期世代への支援や最低賃金上げなど有権者に聞こえのよい政策が並んだ。消費税率10%引き上げ後の社会保障・財政改革など国民の負担増につながる厳しい改革には踏み込まなかった。成長戦略を含む骨太の方針では、70歳までの就業確保策の検討、幼児・高等教育の無償化のほか、就職氷河期世代への支援策などを盛り込んだ。成長戦略の実行計画では、日本が第4次産業革命を世界で主導できるかどうかは「この1、2年が勝負」としたうえで、組織に閉じこめられている個人を解放し、自由に個性を発揮できる社会の実現を提唱。終身雇用や年功序列など日本型雇用の見直しや兼業・副業解禁など企業に改革を促した。民間の変革努力は必要だが、政府の改革の取り組みは十分だろうか。巨大IT(情報技術)企業との公正競争を促す組織・法制整備、業態別の縦割り金融規制を見直す法整備などを盛り込んだが、成長を促す改革は迫力不足だ。何よりも問題なのは「経済財政運営と改革」という主題がぼやけてきていることだ。安倍晋三政権は昨年、当初は20年度としていた国と地方の基礎的財政収支(PB)の黒字化目標を25年度まで先延ばしした。骨太の方針では10月に消費税率を10%に予定通り上げることは明記したが、黒字化目標への道筋は描いていない。さらに高齢化がピークに達し、医療・介護など社会保障費が増大する40年度までについては議論すら進んでいない。社会保障・財政健全化の取り組みは消費税率の10%への引き上げで完結するわけではない。長期の政権を担う安倍首相にはその後の改革の青写真もしっかりと描く責任がある。当面の課題は、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる22年以降に増大する医療など社会保障費をどう抑制するかだ。この問題については「20年度の骨太の方針で、給付と負担のあり方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策をとりまとめる」と具体策には踏み込まなかった。社会保障の持続性確保には、歳出抑制や負担増などの議論は避けられない。政府は国民に事実を正直に説明し政策を訴えるべきだ。

*11-4:https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201906/CK2019062202000157.html (東京新聞 2019年6月22日) <働き方改革の死角>高齢ワーキングプア誘発 定年後の再雇用「ザル法」
 政府の成長戦略で柱とされる高齢者の雇用機会確保。企業に「70歳までの雇用延長」を努力義務として課すが、現状でさえ不安にさらされる高齢者雇用の断面を見た。「Aさんは明日から契約社員になり、営業の仕事からは離れます」。神奈川県内にある投資コンサルタント会社に勤めるAさん(60)。定年日当日の今月中旬、会社は突然、社員を集めて発表した。「こんな強引なやり方が許されるのか」。Aさんはショックを受けた。外資系銀行での資金運用経験など金融知識を買われ、転職してきて以来十年間、営業最前線で成果を上げてきた。会社は「定年後も営業をやってもらう。給料も従前どおり」と言っていたが、定年が間近に迫った今月初め、態度をひょう変させた。定年後再雇用に際し、会社が労働条件通知書に記した給料は、定年前の六割減。仕事内容は「簡単な事務作業」。頭の中が真っ白になったAさん。以来、定年後の条件を巡って会社と押し問答を続けてきた。大学に入学したばかりの子どもがいる。給料も仕事内容も受け入れがたいが、「(辞めるのは)悔しい」と子どもに言われ、Aさんはとりあえず働き続けることにした。
    ◇  ◇ 
 高齢者雇用の根幹となる高年齢者雇用安定法(高年法)。「六十五歳までの安定した雇用を確保する」と謳(うた)い、企業に(1)定年の引き上げ(2)継続雇用(再雇用)(3)定年制廃止-のいずれかを義務付けている。だが、実際には厚生労働省調査では企業の八割が(2)の再雇用を選んでいる。「雇用契約をいったん切ると、待遇切り下げが可能になるから」。労働問題に詳しい安元隆治弁護士が言う。

*11-5:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190622&ng=DGKKZO46413490R20C19A6EA3000 (日経新聞 2019年6月22日) 年金給付の抑制廃止 共産が参院選公約
 共産党は21日、7月の参院選の公約を発表した。高齢者が受け取る年金を抑える「マクロ経済スライド」の廃止や、低年金者への月額5000円の上乗せ給付などを掲げた。最低賃金は全国一律とし時給1500円をめざす。消費税率10%引き上げの中止や安全保障法制の廃止を盛り込んだ。志位和夫委員長は記者会見で「年金問題が大きな争点になってきた」と指摘した。マクロ経済スライド廃止の財源は、高所得者の年金保険料の見直しなどで賄う。将来は全ての高齢者に年金を月5万円保障したうえで、納めた保険料に応じた額を上乗せする年金制度に変えるとした。最低賃金は「ただちに全国どこでも1000円に引き上げ、速やかに1500円をめざす」と記した。原子力発電所に関しては「再稼働を中止し、全ての原発で廃炉のプロセスに入る」と記した。

*11-6:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190628&ng=DGKKZO46645440X20C19A6PP8000 (日経新聞 2019年6月28日) 社民公約、最低賃金一律1500円
 社民党は27日、「社会を底上げする経済政策」を柱に据えた参院選公約を発表した。最低賃金を全国一律とし、時給1500円を目指すと明記した。消費税率10%への引き上げ中止や憲法改正反対を掲げた。「マクロ経済スライド」による基礎年金の給付抑制中止や、保育士給与の月5万円引き上げも訴えている。これらの財源確保策として大企業への法人課税強化や防衛費の見直しを挙げた。

*11-7:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019062601002289.html (東京新聞 2019年6月27日) 維新公約、年金は積み立て方式に 消費増税は凍結
 日本維新の会が夏の参院選で掲げるマニフェスト(政権公約)の全容が26日、判明した。現役世代が納めている保険料を今の年金受給者への支払いに充てる現行の「賦課方式」から、自分が積み立てた保険料を老後に取り崩して受け取る「積み立て方式」への移行を提起。国会議員や公務員の給与を削減して財源を捻出し、消費税増税を凍結する。27日に発表する。看板政策とする「身を切る改革」の必要性を改めて強調。国会議員の報酬と定数をそれぞれ3割カット、国家公務員の人件費を2割削減する。年金支給年齢の段階的な引き上げ、税金と年金などの保険料を一括徴収する「歳入庁」設置も提案した。

<「マクロ経済スライド」の廃止について>
PS(2019年6月23日追加):*12-1のように、「マクロ経済スライド」は国民にわかりにくくしながら年金を7兆円減らす仕組みで、これが完全に実施されると年金給付は7兆円削減される。それに消費税増税とインフレ政策が加わるので、今でも生活費が不足している高齢者はますます困窮する。少し前、私が、暗くなってスーパーから帰ろうとしたところ、高齢の男性が道に座り込んで荒い息をしておられたので具合でも悪いのかと思って声をかけたら、たった一つモノが入ったスーパーのカートを押して走ってきた万引きだとわかった。そのため、そっとそのまま帰ったが、高齢者からぶんだくることしか考えない政策を作った人たちの一食分にも満たない金額を支払えない高齢者が、今の日本には少なからずいることを忘れてはならない。
 なお、*12-2のように、「骨太の方針」が出て消費税率10%への引き上げを明記し、増税後の景気下支えのための臨時経済対策費の計上が示されたそうだが、何かと理由をつけては経済対策を行うため、消費税導入後、国の債務は増え続けている。私は、「幼児教育・保育の無償化」はよいと思うが、未だ教育の質の向上と連動していないのが残念だと思う。また、幼児教育・保育を無償化すれば、それが景気対策になる筈であり、「社会保障財源は消費税」と(世界で唯一)決めつけるのもやめるべきだ。

 
税収・歳出・国債残高 2018.12.18東京新聞 2018.12.21西日本新聞 2018.3.19東京新聞

(図の説明:1番左と左から2番目の図のように、1989年《平成元年》の消費税導入後、景気対策と称する歳出拡大が続いた結果、国の財政状態はむしろ悪化した。また、弥縫策のような歳出が多いため、右から2番目の図のように、実質GDP成長率は0付近で推移している。さらに、人口に占める割合の多い高齢者の収入を削減する政策になっているため、1番右の図のように、エンゲル係数《貧しさの指標》は上がりつつあり、本当に必要とされる消費財の需要も増えない)

*12-1:http://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-06-23/2019062301_01_1.html (赤旗 2019年6月23日)年金7兆円減 首相認める、マクロ経済スライド廃止が最大焦点に
 年金給付を自動的に削減する「マクロ経済スライド」が完全実施されると、年金給付は7兆円も削減される―。高齢者のくらしを貧困に突き落とすマクロ経済スライドの恐るべき実態が、安倍晋三首相自身の口から明らかにされました。安倍首相は22日に出演した民放テレビ番組「ウェークアップ!ぷらす」(日本テレビ系)で、日本共産党のマクロ経済スライド廃止の提案に言及し、「やめてしまってそれを保障するには7兆円の財源が必要です」と発言しました。この問題をめぐって安倍首相は、19日の国会の党首討論で日本共産党の志位和夫委員長がマクロ経済スライドの廃止を提案した際、「ばかげた案だ」などと批判し、唐突に7兆円という数字を持ち出していました。民放番組で安倍首相自ら、マクロ経済スライドが7兆円の年金給付削減という痛みを国民に押し付ける仕組みだと明らかにしたことで、マクロ経済スライドを続けて年金給付を7兆円削るのか、それとも廃止して「減らない年金」をつくるのかが、年金問題の最大焦点に浮上しました。党首討論後、志位氏の求めに厚生労働省が提出した資料によれば、7兆円はマクロ経済スライドによる基礎年金(国民年金)給付の減額幅を示したもので、2040年時点で本来約25兆円になるはずの給付額は18兆円に抑制されることになっていました。基礎年金給付の実に3分の1がマクロ経済スライドで奪われる計算で、現在でも6万5000円にすぎない基礎年金の満額はさらに約2万円も削り込まれることになります。基礎年金しか入っていない低年金者ほど打撃が大きい、最悪の「弱者いじめ」の仕組みであることが浮き彫りになりました。日本共産党は21日に発表した参院選公約で、マクロ経済スライドを廃止するための財源として、年収1000万円を超えると保険料負担率が低くなる高所得者優遇の保険料制度の見直し、200兆円もの巨額積立金の計画的取り崩し、最低賃金引き上げや非正規雇用の正社員化による保険料収入増加を掲げています。

*12-2:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/318070 (北海道新聞 2019/6/23) 骨太の方針 問題の先送りも同然だ
 政府はおととい、経済財政運営の基本指針である「骨太の方針」を閣議決定した。予定通り10月に消費税率を10%に引き上げることを明記し、増税後の景気を下支えするため本年度に続き来年度予算でも臨時の経済対策費を計上する方針を示した。米中貿易摩擦などにより景気悪化のリスクが高まれば、新たな経済対策を講じることも示唆した。就労促進で内需を支えようと、就職氷河期世代の正社員化や最低賃金の引き上げ、在職老齢年金制度の廃止検討も盛り込んだ。景気対策が色濃くにじむ内容だが、裏付けとなる財源をどう賄うのかはほとんど触れていない。社会保障改革についても具体策には踏み込まず、来年の骨太の方針で重点政策をまとめるという。これではあからさまな懸案の先送りではないか。参院選を意識して聞こえのいい政策ばかりを列挙したようにしか見えない。財政健全化では、国と地方を合わせた基礎的財政収支を2025年度に黒字化する目標を据え置いた。だが今回盛り込んだ景気対策などの新たな財源を確保できなければ目標達成が遠のきかねない。働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす在職老齢年金制度も、年金財政に影響させずに廃止するには1兆円の財源が必要だ。年金額が減ることを理由に就労意欲がそがれるのを防ぐことで、元気に働ける高齢者を増やし、社会保障の支え手に回ってもらうことは期待できよう。とはいえ、将来世代へつけ回すことは許されない。高所得の高齢者優遇にならない仕組みを含め、丁寧な制度設計が求められる。消費税増税対策も理解に苦しむ。対策費は本年度当初予算と同規模の2兆円程度となる公算が大きい。これは増税に伴う実質的な国民負担増に匹敵する額である。膨らむ社会保障費を皆で賄うことが本来の理念のはずだが、これでは何のための増税なのか。増税する一方で景気対策を打つ。アクセルとブレーキを同時に踏む、つじつまの合わない経済運営と言わざるを得ない。増税に耐えうる経済状況にないなら増税自体を見送るのが筋だ。安倍晋三政権の看板政策で、消費税の増税分を財源とする「幼児教育・保育の無償化」を10月に始めるために税率引き上げを見送ることもできないなら本末転倒だ。「骨太」と呼ぶにはもろさが目立つ。経済安定への道しるべとは到底言えまい。

<支え手・労働力不足の解決へ>
PS(2019年6月24、25、26日追加):*13-1のように、シリア・アフガニスタンなどの中東やミャンマーのロヒンギャが上位を占める難民は、2018年末に7080万人となり、その半数が子どもだそうだ。その解決策として、「①緊急の生活支援」「②難民を受け入れている周辺の貧しい国への支援」「③日本はUNHCRへの拠出額で5番目だが、2018年の難民認定申請者数1万493人に対して認められたのは42人」「④難民を出さない取り組みが必要」「⑤難民の自立を助け、安全な帰還を促す」「⑥シリア難民を最大150人留学生として受け入れている」「⑦難民の雇用を始めたファーストリテイリングは、2019年4月末で59人が地域限定社員等として働く」などが書かれている。
 このうち①②③は、決して自国民が豊かとは言えない日本が、難民を受け入れることはせず金で解決しようとしている点で、いつもながらの貧しい発想力である。④⑤は、難民発生国、難民受入国の課題であり、第三者である日本ができることは殆どない。そのような中、支え手が不足している日本で、⑥⑦のように難民を受け入れて教育したり、労働力として活躍させたりするのがよいと、私は考える。
 そのため、*13-2の「世界に開かれた国として多くの留学生を受け入れ、高度な技術や専門性を育成し、それによって日本の国際競争力を高め、留学生には母国との懸け橋として活躍してもらうことを目的として、留学生30万人を受け入れる」という計画はよい。現在は、農林漁業・製造業・サービス業の人手不足が顕著になっており、多様な人材を育てれば文明の相乗効果でより有用な財・サービスを作りだすことができると思う。そのため、東京福祉大のような最悪のケースを持ち出して今後の留学生拡大まで否定するのではなく、例えば、九州でも、今後必要となる分野なら大学のみならず高校や高専も留学生を増やしてよいだろう。*13-3のように、高等教育の費用も生活保護世帯の自宅生や児童養護施設の入所者など収入の少ない人は、特に給付型奨学金の増額や授業料の減免などがある時代になったのは大きい。
 なお、*13-4のように、日本の「女子学生の制服100年の歩み」は、1世紀前の1919年を境に制服が和装から洋装へと切り替わり、一般の人は当時の身の回りの“普通”にこだわったものの、私立女学校の校長だった山脇房子氏のデザインによる紺色のワンピースと白エリの制服を皮切りに洋装が広がり、昭和に入ってセーラー服が優勢になったそうだ。つまり、学生の制服は、一般の人に服装から新しいよい習慣を身につけさせる働きもしてきたわけである。そのため、女性にスカーフやヒジャブ・ニカブなどを強制する地域から来た外国人・難民の子女には、まずは学校と制服で女性を宗教による女性差別の制約から解放してあげたいと思う。

    

(図の説明:『ところざわのゆり園(西武グループ運営、https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/iitokoro/enjoy/kanko/flower/syogyo_20140508131620678.html 参照)』は、約3万平方メートルの自然林に50種・約45万株のユリが咲き誇って森林浴と散策が楽しめるそうだが、森林に花を植えてもよいわけだ。そのコンセプトは、目から鱗だった)

*13-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190624&ng=DGKKZO46463940S9A620C1PE8000 (日経新聞社説 2019年6月24日) 難民問題は最大の人道危機だ
 増え続ける難民にどう対処するか。日本を含む世界に突きつけられた課題である。20日の「世界難民の日」にあわせ国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が報告書を発表した。2018年末の難民は7080万人と過去最高を更新した。1年前に比べ230万人増加し、その半数が子どもだった。上位を占めたのは、シリアやアフガニスタンといった中東からのほかミャンマーのロヒンギャ難民など。第2次世界大戦以降で最大級の人道危機に直面していることを、国際社会は認識すべきだ。まずは、緊急に必要な生活支援を的確に、かつ効果的に行わなければならない。難民を周辺の貧しい国が受け入れているという現実があり、その負担を軽減する国際的な体制作りが不可欠だ。難民の自立を助け、安全な帰還を促すとともに、そもそも難民を出さないようにする多角的で中長期的な取り組みが重要になる。難民を生む原因である紛争や対立の根っこには貧困があるからだ。日本にとってもひとごとではない。UNHCRへの拠出額では5番目で、国際協力機構(JICA)を通した開発協力などを実施している。しかし、18年の難民認定申請者数1万493人に対し、認められたのはわずか42人だった。17年より22人増えたが、先進国のなかでは極端に少ない。これとは別枠で、シリア難民を最大150人留学生として受け入れるプログラムなどを実施している。しかし、十分とはいえない。もっと受け入れを増やすのか、海外での支援を重視するのか。議論が深まらないのは国民の関心が低いからだろう。その意味で、民間企業で動きが出ているのは評価したい。難民の雇用を始めたファーストリテイリングでは今年4月末現在、59人が地域限定社員などとして働く。支援物資を海外の難民キャンプに送る企業も増えている。こうした取り組みが、問題を身近に考えるきっかけになることを期待したい。

*13-2:https://www.nishinippon.co.jp/item/n/521175/ (西日本新聞社説 2019/6/24) 留学生30万人 内実伴わぬ計画の検証を
 世界に開かれた国として多くの留学生を受け入れて高度な技術や専門性の育成を図る。それによって日本の国際競争力を高め、留学生には母国との懸け橋として活躍してもらう-。そんな理念をうたった国家戦略と現実の落差が浮き彫りになった。戦略とは、2020年までの実現を目指した政府の「留学生30万人計画」、現実とは、東京福祉大で大量の留学生が所在不明になった問題のことだ。計画策定の08年当時、全国で約12万人だった留学生は現在ほぼ30万人に達し、数字の上では目標が達成されている。ところが内実は伴っていない。文部科学省などによると、東京福祉大は定員の明確な規定がない「学部研究生」の枠を大幅に広げるなどして13年度以降、留学生を10倍以上に増やし、18年度は5千人余を受け入れていた。ただ、アパートやビルの一室を教室にするなど教育環境は貧弱だった。この3年間で研究生を中心に留学生1610人が所在不明になっていたという。「大学が真に留学を目的としない外国人を大量に受け入れることは想定外だった」と柴山昌彦文科相は言う。苦し紛れの釈明である。留学名目で大学や専門学校などに籍を置き、在留資格を得る。けれども実態は出稼ぎ目的の事例が多いと、かねて指摘されていた。日本側の人手不足も手伝い、外国人を積極雇用する企業も増えている。東京福祉大は結果として、そうした「需要」の受け皿になっていたのではないか。少子化が進む中、日本の大学は学生の確保に苦慮している。留学生の受け入れ拡大が「ビジネス色」を帯びた面も否めない。政府は東京福祉大に学部研究生の募集を当面見合わせるよう指導した。全大学に留学生の在籍管理の厳格化を求める仕組みを設ける方針も打ち出した。それも遅きに失した感がある。政府はこれまで留学生の数値目標にこだわり、問題を半ば黙認してきた印象が拭えないからだ。留学生の不法残留は近年増加の一途をたどり、今年1月の法務省調査では過去10年間で最多の4708人に上った。政府の計画が、大学のずさん経営や企業の低賃金雇用、外国人の人権侵害、さらには犯罪を助長しているとすれば本末転倒である。無論、大学の自治を尊重し、意欲ある留学生を支援することは重要だ。それを踏まえつつ、政府は「30万人計画」の検証を進めるべきだ。大学の活性化や日本の国際競争力の向上などにどれだけ寄与しているのか。そうした視点での検証作業は、今春スタートした外国人労働者受け入れ拡大策の適正、円滑な実施にも資するはずだ。

*13-3:https://www.nishinippon.co.jp/item/o/521462/ (西日本新聞2019/6/25) 生活保護世帯は奨学金を増額
 政府は25日、低所得世帯を対象にした大学や短大、高専、専門学校の無償化制度を来春から導入するのを前に、給付型奨学金の額や授業料の減免額を正式に定める政令を閣議決定した。生活保護世帯の自宅生や児童養護施設の入所者は、給付型奨学金の支給額を通常より4100~8300円高い月2万5800円~4万2500円とする。文部科学省によると、夫婦と子ども2人(うち1人が大学生)の家庭の場合、支給額が満額となる世帯年収の目安は270万円未満。年収380万円未満の場合は、支給額が満額の3分の1~3分の2となる。

*13-4:https://digital.asahi.com/articles/DA3S14069003.html?iref=comtop_tenjin_n (朝日新聞 2019年6月25日) (天声人語)制服100年の歩み
 女子学生の服装史をさかのぼると、ちょうど1世紀前、1919(大正8)年が大きな節目だった。その年を境に通学服の流れが和装から洋装へと切り替わったからだ。東京の弥生美術館で今月末まで開催中の「ニッポン制服百年史」展を見て学んだ▼内田静枝学芸員(50)によると、明治の初め、女子の通学服と言えば着物だった。官立学校は袴(はかま)を勧めたが、生徒には不評。政府が欧化を急いだ鹿鳴館の時代には一転、ドレスが推奨されるが、浸透しなかった▼1919年夏、画期的な制服を考案したのは私立の女学校長だった山脇房子氏だ。紺色のワンピースと白のエリ。斬新すぎて恥ずかしいとためらう生徒も少なくなかったが、校長自ら率先して着用した▼着物より安くて動きやすい。これを皮切りに洋装が広がる。昭和に入るとセーラー服が優勢に。戦時下には、もんぺ姿を強いられ、嘆く声が聞かれた。戦後の成長期にはセーラー服に加えてブレザーも人気を広げた▼80年代以降、制服のデザインを一新した高校で受験者が急増するなど、制服は学校の経営にも影響を及ぼした。「明治以来、いくら政府や学校、親たちが強制しても、着る本人たちに愛されないと女子の制服はすぐ廃れました」と内田さん▼「女子でもスラックス制服を選べます」――。性的少数者への配慮などから、近年は性別を超えて制服の選択を認める自治体も出てきた。新旧の展示品を見て回りながら、制服は時代の制約と変化の縮図のように感じた。

<ドアホな政策が産業の低迷を生み、国民負担を増やすのだということ>
PS(2019年6月26日追加):再生可能エネルギー由来の電力で豊富な水を電気分解すると、水素と酸素が発生する。つまり、再生可能エネルギーと水が豊富な日本は、水素燃料を自給した上、輸出までできる国であり、(副産物として自然にできるのでなければ)石炭・原油・天然ガスなどの化石燃料から作るよりもCO₂フリーで超安価なのだ。にもかかわらず、*14-1のように、経産省が「水素を軸としてこのような国際協調の輪を広げ」「将来にわたって日本のエネルギー調達を安定させる」などとしているのは、ドアホとしか言いようがない。しかし、このようなことが起こるのは、馬鹿な議員を何度も当選させたり、行政の言うことだから正しいと考えたりなど、主権者たる有権者の責任にほかならないのである。
 また、輸送手段も水素燃料を使えば水しか排出しないため、陸上交通やジェット機だけでなく、*14-2の海運も水素燃料か電力に変更すべきだ。記事には「変更に多額のコストがかかる」と書かれているが、現在は港を汚し公害(外部不経済)を垂れ流して国民に負担させているため、液化天然ガス(LNG)に代替する手間とコストを省き、エンジンだけをすぐに燃料電池に換えたり、船舶を燃料電池船に更新したりすれば、全体としてはより安価にすむだろう。

 
 FCV航空機(IHI製) FCVバス(東京) FCV電車(ドイツ)   FCVトラック


        EV航空機            EV船(石垣島)   EV軽トラック

*14-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190626&ng=DGKKZO46558320V20C19A6EE8000 (日経新聞 2019年6月26日) 水素エネ普及 資源国と連携、サウジで燃料電池車 豪と輸送実験 技術提供テコに協力主導
 政府は水素エネルギーの普及へ資源国との連携を強化する。サウジアラビアで日本の技術を提供して水素ステーションを設けたほか、オーストラリアでは石炭からつくる水素の輸送実験を手掛ける。化石燃料は温暖化対策に逆行すると批判されている。現状ではコストが高いものの環境負荷の小さい水素の開発を通じ、日本は次のエネルギーに注目する資源国との結びつきを強める。「水素など新しい分野での協力も進めたい」。17日、世耕弘成経済産業相と都内で会談したサウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相はこう呼びかけた。水を電気分解してつくる水素は燃やしても水が出るだけで、二酸化炭素(CO2)を排出しない。環境への負荷が小さく「究極のクリーンエネルギー」とされる。サウジアラビアは原油販売への依存を減らすため国内産業の多角化を進めており、原油から生産できる水素に期待をかける。そのサウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコは今月中旬から、水素を供給する「水素ステーション」の実証実験を始めた。トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)を導入し、水素活用の方策を探る。技術面で日本が協力し、原油から水素を取り出す技術の実用化なども進める考えだ。水素は石炭などからもつくることができる。このため埋蔵する化石燃料を環境に配慮した形で活用したい資源国が注目しており、水素開発の技術を持つ日本との連携を強める動きが広がる。豪州は炭化が不十分で低品位な「褐炭」をガス化して水素をつくる。2020年度にも専用設備を備えた船で日本に運ぶ計画だ。30年ごろの商用化を視野に入れている。ブルネイでも未利用の天然ガスを水素に変え、日本に運ぶ計画がある。日本は川崎重工業や千代田化工建設など水素のプラント建設や輸送に強みを持つ企業が多い。FCVを含め、世界的に高い水準の技術をテコに協力国を増やす考えだ。水素は天然ガスなど他のエネルギーと単純比較して供給コストが数倍に上り、まだ普及していない。採算性の向上が課題だが、クリーンエネルギーとしての将来性には各国が期待を寄せる。経産省によると、中国は30年にFCVを100万台導入する目標を掲げる。経産省など日米欧の当局は6月中旬、水素分野での協力を盛り込んだ共同宣言を出した。長野県で開かれた20カ国・地域(G20)エネルギー・環境相会合に合わせて開催したのは、日本が開発を主導する姿勢を国際社会でアピールするためだ。世耕経産相らが議長役を務めたG20の同会合でも、共同声明に水素に関する文言を盛り込んだ。9月には日本が主導した関係閣僚会議の2回目の会合も控える。経産省は水素を軸としたクリーンエネルギーの国際協調の輪を広げることが、将来にわたって日本のエネルギー調達を安定させる戦略を支えるとみている。

*14-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190626&ng=DGKKZO46488060U9A620C1QM8000 (日経新聞 2019年6月26日) <海運環境規制 広がる波紋(上)>燃料転換、コスト重荷、硫黄分、大幅削減迫る
 海運業界に新たな環境規制が迫っている。国連の専門機関である国際海事機関(IMO)は、2020年から船舶燃料の硫黄分を大幅に減らすよう海運会社に求める。規制を満たすには多額のコストがかかる。海上運賃や燃料油など、商品市況への影響は広範に及ぶ。「ほかの環境規制に比べあまりに規模が大きい」。海運大手の担当者はこうぼやく。新たな規制は、あらゆる船舶の燃料油に含まれる硫黄分の上限を3.5%から0.5%と大幅に引き下げるよう義務付ける。国内外を問わず全ての海域で守らなくてはならない。目的は大気汚染の原因となる硫黄酸化物(SOx)の排出削減だ。海域や稼働年数などによって対象にならなかった船もあった従来の環境規制に比べ、適用範囲は広い。海運業界の対応方法は主に2つある。1つは燃料の切り替えだ。これまで使っていたC重油に代わり、硫黄分の少ない軽油と重油を混ぜた「適合油」を使う。硫黄を含まない液化天然ガス(LNG)の代替使用も選択肢になる。もう1つは船への脱硫装置(スクラバー)の設置だ。C重油を燃やした際の排ガスから硫黄分を除去する。どの方法にしてもコスト増は避けられない。スクラバーの設置に5億円前後が必要との見方もある。LNGは主要な港ごとに必要な補給体制の整備が進んでいない。現時点で最も現実的な対策は適合油だ。製造に使う軽油はアジア市場の指標となるシンガポール市場で1トン620ドル前後。船舶用C重油(420ドル前後)に比べ5割高い。「従来の船舶用重油に比べ、最低でも1トン5千~6千円(1割程度)高くなるだろう」(市場関係者)との声すら聞かれる。海運会社は大手を中心に、適合油の確保を進める。商船三井は燃料油の補給港で最大のシンガポール港で、19年内に切り替える予定の適合油を先行調達した。20年1~3月分も「6割確保した」(エネルギー輸送営業本部の中野道彦燃料部長)。一方で適合油には硫黄分以外の明確なスペックが確立していない。「複数の企業から調達した燃料がタンクで混ざると、エンジンに問題が起きないか」との不安を訴える海運会社もある。日本船主協会(東京・千代田)の武藤光一会長(商船三井前会長)は「(対応策の)選択の是非で経営内容に大きく差がつき、業界地図が塗り替わるかもしれない」と話す。海上運賃への影響は避けられそうにない。

| 年金・社会保障::2019.7~ | 01:50 PM | comments (x) | trackback (x) |
2019.3.31 消費税と教育や社会保障をひも付きにしている国は、日本以外にないこと (2019年4月1、2、3、4、5日に追加あり)
   
 2018.5.26日経新聞                   2019.1.6毎日新聞

(図の説明:左図のように、2019年10月から3歳以上の子がいる世帯と0~2歳の子がいる住民税非課税世帯の幼児教育・保育料が無償化されることになった。また、中央の図のように、高等教育への進学率も上がっているが、現在は公立も授業料が高すぎるという問題がある。そのため、世帯年収380万円未満の学生を対象に高等教育も無償化することになったのは一歩前進だが、それだけでは足りない。そのような中、右図のように、日本の財政は世界最悪であるとして消費税増税が声高に叫ばれているが、日本の財政は消費税が導入された後に悪化したのであり、消費税は解決策ではない。根本的には、複式簿記による公会計制度を国にも導入し、国民が予算の使い方を速やかにチェックして正確な対応策を出せるようにすべきだと考える)

(1)教育は投資である
1)幼児教育・保育の無償化について
 1953年にWatsonとCrickがDNAの二重らせん構造を発見し、生物学が科学としてかなり系統的に説明できるようになり、私が東大理科2類の教養過程でノーベル賞候補と言われた教授から習ったことまでが、現在の高校生物学にはさらりと包含されるようになった。それは、生命科学の原理が多くの人の常識となり、物事の考え方の基本として定着すると言う意味で良いことなのだが、高校生は消化するのに苦労するだろう。

 しかし、生物学だけではなく、(宇宙・地球・生物・人類の)歴史で新しく解明された事実も増え、国際化で英語や他の外国語の重要性も増し、音楽・ダンス・スポーツ等の授業も充実できるようになると、生徒がこれまでと同じ授業時間数でこれらを消化するのは本当に困難になる。そのため、無理なく面白く身につけられるために、私は小学校の入学年齢を3歳にして、語学はじめ前倒しできる科目はできるだけ前倒しして教えるのがよいと考える。

 そのような中、*1-1のように、消費税率が10%になる2019年10月から、「①増収分を財源に幼児教育・保育の無償化を実施する」「②高齢者向けに偏った社会保障を見直して子育て中の現役世代に財源を回し、全世代型社会保障に転換する」として、3~5歳児を持つ全世帯の幼児教育・保育の無償化が行われることになったが、それに対して、*1-2のように、「③無償化の恩恵が比較的所得の高い世帯に偏る」「④その前に誰でも希望の保育園に入れるようにして、待機児童を無くして欲しい」「⑤無償化はそれほど急ぐべき政策か」という反対がある。

 私は、①②については、景気対策という名目で山ほど無駄遣いしながら、福祉財源は消費税でなければならないと説明している点は誤りであるものの、「教育・保育の無償化」は小学校の入学年齢を3歳にする前段階としてGoodだと思う。しかし、厚労省が作った政策らしく、厚労省所管の範囲内(現役世代と高齢者福祉)でのゼロサムゲームにしている点で発想が小さく、理念を欠いている。なお、高齢者は既に物価高・低金利・消費税増税に加え、年金・医療・介護の負担増・給付減で生きていけるか否かというぎりぎりの生活を強いられている人が多いため、次世代のためなら高齢者を犠牲にしてもよいという理屈は成立しない。

 また、③については、必ず「所得の高い世帯に恩恵があってはいけない」かのような反対論が出るが、所得税・相続税で累進課税にし、社会保険料の掛金も所得に応じて差を付けることによって、所得の再配分は終わっているため、受けるサービスの値段まで所得で変えれば、その所得を境に可処分所得に逆転が生じる。さらに、市場主義経済では、交通費や食品の価格を買う人の所得に応じて変えてはいけないのと同様、保育料・授業料・医療費・介護費などのサービスの値段も、所得に応じて変えると経済を歪めるのである。

 なお、④⑤については、安倍首相が「無償化と待機児童解消は二者択一ではない。どちらも優先的に取り組む」とされており、私もそれがよいと思うし、首相がそう言っておられるのだからできるだろう。さらに、地方には保育所の待機児童はいない自治体もあり、保育所の待機児童は都市に人口を集中させ過ぎた結果として出ている面があるため、都市計画・産業の再配置・教育システム改革などを含めた複数の改革で待機児童問題を解決した方が効果的だ。そのため、日本の将来像を正確に描いて、それに向かって進んだ方が無駄のない変革ができると考える。

2)高等教育の無償化について
 *1-1は、2020年4月から「⑥世帯年収の目安が380万円未満の低所得世帯の学生を対象として大学等の高等教育も無償化する」「⑦高等教育無償化の柱は、授業料減免と給付型奨学金の拡充」「⑧生活費を補助する給付型奨学金も用意する」「⑨学業成績が悪い場合は支援を打ち切る」とされており、⑥以外は妥当だと思う。

 ⑥については、世帯年収が380万円以上であっても、複数の子を大学にやるには学費も生活費も高すぎる上、女子学生の場合は低所得でなくても親の反対に合って希望の大学に行けないケースがあるため、親の世帯年収は参考資料の一つに留めるべきだ。

 東大の場合は、女子生徒が保護者に反対されても東大受験を躊躇しなくてすむように、女子の同窓会である「さつき会」が、会員からの寄付を元手として受験前に奨学金対象者を選抜し、合格を条件として奨学金を支給している。しかし、個人会員からの寄付だけでは支給できる金額も支給対象人数も限られるので、国・地方自治体・企業などの取り組みが望まれるわけである。

3)教育が投資である理由
 *1-3に書かれているとおり、「子どもの貧困」は世代を超えた貧困の連鎖を生むとともに、未来の労働力の質を低下させるため、まず公立学校の授業料は安くするとともに、公立学校に通っても受験に不利にならないような教師陣や教育内容の充実が不可欠だ。

 また、学童保育等の「子どもの居場所設置」や「学習支援」も不可欠で、親から子への虐待を防ぐためにも、母親が働いていなくても保育園に預けられたり、親が病気や出産などで子の世話ができない場合には介護制度を利用したりできるよう、既存の制度を改善することが必要だ。そのほか、「労働環境の改善」などの社会全体での雇用の質を底上げすることも重要である。

 一方で、政府は、*1-4のように、AIを使いこなす人材を年間25万人育てる新目標を掲げ、文系・理系を問わず全大学生にAIの初級教育を受けさせることを大学に要請し、社会人向けの専門課程も大学に設置するそうだ。私は、ビッグデータ等として個人のデータを黙って収集するのは人権侵害だと思うが、AIやITなどによるイノベーションは不可欠であるため、幅広い人材が使いこなせるよう、98.8%の人が進学する高校までに基礎を教えておくのがよいと考える。

 このように、産業を維持・発展させるためには、教育を受けた良質の労働力が必要であるため、教育は福祉ではなく投資の性格も持っており、(単なる景気対策のための支出は削って)一般会計から堂々と支出すればよいだろう。

(2)消費税増税について
1)消費税増税の是非について
 「①消費税はヨーロッパで課されている税制」「②税のバランスが大切」「③消費税は安定財源」等と説明されることが多いが、①については、ヨーロッパで課されるのは、企業に対する付加価値税であり、必ず消費者に転嫁しなければならないとする消費税を課しているのは世界中で日本だけである。また、消費税は消費に対するペナルティーとして働く。そして、ヨーロッパで付加価値税を課している理由は、法人税や所得税の徴収率が悪いからだと言われており、付加価値税の徴収には完全なインボイス方式を採用して正確な計算を行っている。

 ②については、法人税や所得税の徴収率が日本と同様によい米国は、国としては付加価値税を課しておらず、州のみが課しているため、税率は州によって異なる。私は、個人に対して所得税を課した上、所得に応じて増える社会保険料を課し、さらに消費税を課すのは同じ所得に対する三重課税であり、これに加えて保育サービス等を提供する場合にも所得によって対価が異なれば四重課税になると考える(参考:企業の場合は二重課税も排除している)。

 さらに、③については、所得税は景気が良くなれば増え、景気が悪くなれば減るため、自動的に景気を調整するビルト・イン・スタビライザーの機能を持っているが、消費税はそうでないため財源が安定しているのであり、負担力主義で税を支払うという原則に照らせば、消費税財源の安定性は短所なのである。

 しかし、*2-1・*2-2のように、メディアは消費税増税がよいことであるかのように大々的に宣伝し、消費税増税に反対する市民や政治家を「ポピュリズム」「ポピュリスト」と呼んで馬鹿にしている。「何故、そういうことが言えるのか」については、そういうことを言う人が経済・税法・家計のことをあまりわかっておらず、アンプの役割を果たしている財務省の言うことを、スピーカーのように拡散しているだけだからである。従って、多くの市民の方が、彼らを馬鹿にしている人よりも、肌で感じる真実に気が付いているわけだ。

 実は、消費税増税は財務省の政策であり、財務省は自らの政策実現のために、メンツをかけてメディア対策も行っている。ただし、財務省は財務省の権限内で物事を解決しようとしがちで、全貌を見渡してよりよい方法を考えているわけではない。本当は、全貌を見渡して省庁横断でよりよい政策を考えるのが政治の役割なのだが、政治家にも経済・税法・家計の関連がよくわかっている人が少なく、財務省より弱いわけである。

 その財務省は、「消費税率の引き上げによる安定的な財源がどうしても必要だ」と主張しており、安倍首相もそう言っておられる。しかし、辺野古の新基地造成を止めて離島の空港を使ったり、莫大な原発補助金や農業補助金を止めて自然エネルギーとEVに変えたり、海底資源や国有林等の国有資源を有効に使うよう速やかにアレンジしたりすれば、消費税増税を行って「個人消費が減るから(物価が上がるため当然なのである)」などとして、一時的なポイント還元やプレミアム商品券配布のため消費税1%分の約2兆円を使う必要はない上、次の時代に向けてのイノベーションを進めることもできるのだ。

 つまり、「日本の国の借金はGDPの2倍超と先進国最悪の水準」というのは事実だが、「増税が延期されれば財政健全化の道は遠くなり、将来世代へのツケが重くなる」というのは、消費税増税のための理屈付けにすぎない。しかし、財務省は、既に税率引き上げの準備を完了しているため、この説明を押し通して変更することはないだろう。

2)軽減税率について
 私は、消費税そのものにも消費税増税にも反対だが、消費税増税を行うとすれば、逆進性を緩和するために軽減税率は必要だと考える。これに対して、*2-3-1・*2-3-2・*2-3-3のように、軽減税率対象の線引きのみがマニアックに議論されているが、これは小売店の工夫次第で解決できる。

 例えば、*2-4のように、課税後の価格を同じに設定し、持ち帰りの場合は包装代金を取る方法もあるし、店の外に休憩スペースを作って椅子や自動販売機を置いておき、そこで食べるのは持ち帰りと判定してもよいわけだ。しかし、共働き社会・高齢化社会で、外食を贅沢として増税対象とするのは、確かに現実に合っていない。

3)ポイント還元について
 2019年10月の消費税増税と同時に始めるキャッシュレス決済のポイント還元制度は、*2-5のように、消費者がICカード等で支払えば中小の小売店・飲食店なら5%、コンビニ等のチェーン店なら2%のポイントがもらえ、割引や割引分を銀行口座等に振り込む方法も認められて、その対象金額には上限がつき、還元方法・上限は決済事業者ごとに決まるという、複雑な上に公正性の感じられない恣意的なものだ(税法の基本は「公正」「中立」「簡素」)。

 また、増税後に消費の底上げさえすればよいというのは消費者を食い物にしており、中国や韓国でキャッシュレス化が進んでいるからといって日本の全店でキャッシュレス化を推進する必要もなく、スマホですべてができるようになればスマホを落としたら万事休すであり、リスクは分散するのが基本なのである。

4)消費税に関するその他の重要な論点
 消費税は、医療費を非課税にしており、非課税収入に対する仕入れにかかる消費税はどこにも転嫁できずに病院や診療所の負担となるため、今でも苦しい病院や診療所の中には、消費税増税後に赤字となって、耐え切れずに倒産する経営体も出ると言われている。

 そもそも、「医療費は非課税にせず、0税率にすればよいだろう」というのが、消費税導入当初からの税務専門家の意見であり、私もそう考える。

・・参考資料・・
<教育は投資である>
*1-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190329&ng=DGKKZO43038560Y9A320C1M10600 (日経新聞 2019年3月29日) 幼児教育・保育を無償化 300万人が対象に
 消費税率が10%になる10月から、増税の増収分を財源に幼児教育・保育の無償化が実施される。高齢者向けに偏った社会保障を見直し、子育て中の現役世代に回すもので、「全世代型社会保障」への転換を掲げる安倍政権の目玉施策となる。2020年4月からは低所得世帯の学生を対象として、大学などの高等教育も無償化される。幼児教育・保育の無償化は、3~5歳児は原則として全世帯が対象だ。幼稚園や認定こども園、地域型保育などが全額無料になり、0~2歳児は住民税が非課税の低所得世帯が対象になる。認可外の保育施設は0~2歳児が月4万2千円、3~5歳児は月3万7千円を上限に利用料が補助される。約300万人の子供が対象になる見通しで、費用は年間7764億円を見込み国と都道府県、市町村で分担する。ただ、無償化をきっかけとして利用希望者が大幅に増えれば、保育施設や保育士の不足に拍車がかかる懸念がある。20年4月から実施する高等教育の無償化は、授業料の減免と給付型奨学金の拡充の2つが柱になる。対象は世帯年収の目安が380万円未満の層で、年収によって支援金額が異なる。20年4月の新入生だけでなく在校生も利用できる。授業料減免の上限は国公立大が年間54万円、私立大が同70万円など。学生が学業に専念できるよう生活費も補助する給付型奨学金も用意する。金額は国公立の自宅生が年間35万円、私立大に自宅外から通う学生は同91万円など。低所得世帯の進学率が8割まで上がった場合の費用は年約7600億円で、最大70万人ほどが対象になる見通し。学業成績が悪い場合は支援を打ち切るほか、経営難の大学は対象から外す。

*1-2:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13947484.html (朝日新聞社説 2019年3月24日) 幼保無償化 政策の優先度見極めを
 10月から幼児教育・保育を無償化するための子ども・子育て支援法改正案が、衆院内閣委員会で審議中だ。子どものための予算を増やすことには、野党も反対していない。だが、2年前の衆院解散・総選挙で安倍首相が唐突に打ち出した無償化には、疑問や懸念が尽きない。政策の優先度をしっかり見極めるべきだ。多くの野党が批判するのは、無償化の恩恵が比較的所得の高い世帯に偏る点だ。例えば認可保育園の無償化に必要な4650億円のうち約半分は年収640万円以上の世帯に使われ、住民税非課税世帯に使われるのは1%程度だ。認可施設の保育料は所得に応じた負担になっているためだ。政府は、これまでの負担軽減分も合わせれば「高所得者優遇」ではないと反論する。しかし問われているのは、やるべき多くの政策の中で、無償化はそれほど急ぐべきものか、ということだ。子育てにかかる費用の軽減はありがたい。でもその前に、誰でも希望の保育園に入れるようにしてほしい。そんな声は、今年も各地に広がる。待機児童が多い自治体などを対象にした朝日新聞の調査でも、4月の入園に向け認可施設に申し込んだのに1次選考から漏れた人は4人に1人。前年からほとんど改善していない。首相は「無償化と待機児童解消は二者択一ではない。どちらも優先的に取り組む」として、保育の受け皿を今後32万人分増やすとアピールしている。だが、この計画は無償化の方針が出る前のものだ。潜在的な需要も見込んで、計画を作り直すべきだ。国の指導監督基準を満たさない認可外施設やベビーシッターの扱いも揺れている。希望しても認可保育園に入れない人への配慮から、国は5年間、無償化の対象にするとしていたが、「安全面が心配」との自治体側の反発を受け、条例で独自に対象外にできるようにした。あまりに泥縄の対応だ。消費増税を決めた12年の「税と社会保障の一体改革」では、保育士の処遇改善や職員の配置を手厚くするなどの「質の向上」を約束したが、それも置き去りのままだ。子どものための政策分野では、虐待防止のための児童相談所の体制強化や子どもの貧困対策など、予算の拡充が必要なものが多い。限りある予算をどう効果的に使うのか。無償化ありきでない、建設的な議論が必要だ。

*1-3:https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-895577.html (琉球新報社説 2019年3月29日) 県民意識調査 子の貧困解消に全力を
 沖縄戦で焦土と化し、無から復興せざるを得なかった沖縄社会が抱え続ける課題を今、克服しなければならない。県民の強い決意にも思える。県が昨夏、実施した第10回県民意識調査で、県が取り組むべき施策として「子どもの貧困対策の推進」を挙げた人が42%に上り、最多となった。子育て世代の生活の厳しさと、育児環境の整備に県民が強い関心を寄せている表れだ。世代を超え連鎖した貧困を断ち切り、未来を担う子どもを育む必要がある。調査は県民の価値観やニーズを捉えて県政運営に生かそうと、3~5年ごとに実施される。今回、県が重点施策の選択肢に初めて「子どもの貧困対策の推進」を入れたところ、過去3回の調査で1位だった「米軍基地問題の解決促進」の26%を抑え、最も多かった。行政が特に力を入れるべきこととして「子どもの居場所の設置」37%、「学習支援」36%の二つが3割を超えた。貧困により孤独や学習不足に陥らないよう、子どもに寄り添う支援が求められている。次いで「ひとり親家庭への支援」29%、「労働環境の改善」28%と、経済的な支援策を求める意見が続いた。行政以外に期待する役割は「企業による雇用促進」が48%と5割に近く、「労働関係団体による労働条件改善に向けた取り組み」39%と、保護者の就労関連が上位となった。社会全体で雇用の質の底上げを図らねばならない。暮らし向きが「良くなった」が3年前の前回調査より3・5ポイント上がった23・2%で、好況の実感が見られるとはいうものの、自らの生活を「中の下」「下」とした人は34%に及び、全国の25%を上回っている。県民が望む施策の2番目に挙げられた「基地問題の解決促進」だが、全国の米軍専用施設の7割が沖縄に集中する状況に、66%が「差別的だ」と感じている。沖縄の負担軽減が進まない状況に「差別」を見る人は依然として多い。離島住民対象の調査では8割が島に誇りを感じ、7割超が「島に生まれて良かった」と答え、強い愛着がうかがえる。一方34%が、20年先に今より発展し、輝いているとは「思わない」と不安視する。施策要望の生活必需品の価格や島外へ出る際の交通費、ガソリン価格の安定への対応も求められる。県民の要望は次世代育成や生活の質の向上、基地問題の解決に向けられている。国、県、市町村は生活に根差した県民の不安に耳を傾け、子どもの貧困の解消、非正規雇用の多い雇用環境の改善、真の基地負担軽減に取り組んでほしい。意識調査では85%が「幸せ」と感じ、82%が沖縄に生まれて「良かった」と回答している。幸福感をより多くの人に広げるためにも、私たちにもゆいまーるの助け合いの心が求められる。

*1-4:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190327&ng=DGKKZO42932250W9A320C1MM0000 (日経新聞 2019年3月27日) AI人材、年25万人育成、政府戦略、全大学生に初級教育
 政府が策定する「AI戦略」の全容が分かった。人工知能(AI)を使いこなす人材を年間25万人育てる新目標を掲げる。文系や理系を問わず全大学生がAIの初級教育を受けるよう大学に要請し、社会人向けの専門課程も大学に設置する。ビッグデータやロボットなど先端技術の急速な発達で、AI人材の不足が深刻化している。日本の競争力強化に向け、政府が旗振り役を担う。政府の統合イノベーション戦略推進会議(議長・菅義偉官房長官)で29日に公表する。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の普及やビッグデータの活用に伴い、AIを必要とする事業は、IT業界にとどまらず様々な分野に広がっている。高度な専門技術者に加え、今後は幅広い人材がAIの基礎知識を持っていなければ、競争力ある製品の開発や事業展開は難しい。一方、急速な実用化の速度に、大学や企業の人材育成は追いついていない。大学のAI教育の規模はまだ小さく、政府の調べでは修士課程を修了する人材は東大や京大、早大などの11大学で年間900人弱。全国でも2800人程度にとどまる。一般学生への対応はさらに遅れており、経済産業省によると、AIなどのIT知識を持つ人材は日本の産業界で2020年末には約30万人不足していると試算する。政府は今の教育制度では十分に対応ができないとみて体制づくりに乗り出す。様々な分野で活躍する人材が「ディープラーニング(深層学習)」の仕組みやAIを使ったデータ分析のやり方といった基礎知識を持てるようにし、日本の産業競争力の底上げを図る。目玉に据えるのが高等教育へのAI教育の導入だ。年間1学年あたり約60万人いる全大学生や高等専門学校(高専)生に初級水準のAI教育を課す。最低限のプログラミングの仕組みを知り、AIの倫理を理解することを求める。受講した学生には水準に応じた修了証を発行し、就職活動などに生かしやすくする。そのうち25万人は、さらに専門的な知識を持つAI人材として育成する。初級水準の習得に加え「ディープラーニング」を体系的に学び、機械学習のアルゴリズムの理解ができることを想定する。「AIと経済学」や「データサイエンスと心理学」など文系と理系の垣根を問わずAIを活用できるよう教育を進める。現状、4年制大学では各学年文系が42万人、理工系が12万人、保健系が6万人いる。このうち理工系と保健系を合わせた18万人に加え、文系の15%程度にあたる7万人がAI人材となる想定だ。社会人の学び直しもテコ入れする。22年までに大学に専門コースを設置し、政府が費用の一部を支援する。年間2000人を教育する目標だ。AIの活用に必要な「ディープラーニング」などの習得を目指す。教員については、まずはAI分野で修士課程や博士課程を終えた人材の協力を求めながら、将来の人員増に向けて育成する。処遇などの詳細は今回の政府の戦略を示した後に具体的に検討する。政府は大学側に一連の改革案を順次、カリキュラムに反映するよう求める。企業にはインターンシップなどを通じてAIの技能を持つ学生の受け入れ環境を整えるよう促す。企業側がAI技能を持った学生を高待遇で受け入れるようになれば、大学側も積極的に教育課程に反映していくことが見込まれる。

<消費税増税>
*2-1:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190329&ng=DGKKZO43038360Y9A320C1M10600 (日経新聞 2019年3月29日) 10月の消費増税まで半年 何が変わる? 消費急変回避へ全力 首相「三度目の正直」へ
 2019年10月に予定する消費税率10%への引き上げまで残り半年となった。安倍晋三首相はこれまで2度にわたり10%への増税を見送ったが、手厚い消費下支え策で「三度目の正直」を目指す。少子高齢化が急速に進み、財政再建は待ったなし。中国など海外経済に陰りが見える中で、国内経済への悪影響を抑えられるかが焦点だ。「消費税率の引き上げによる安定的な財源がどうしても必要だ」。1月末、衆参両院での施政方針演説で、首相はこう述べ、理解を求めた。首相は14年に消費税率を8%に引き上げた後は、同年11月と16年6月に増税延期を表明してきた。だが、政権中枢では「今回は予定通り実施する」との見方が支配的だ。背景には増税が「安倍カラー」を強く帯びてきたことがある。12年6月、当時与党の民主党と、野党だった自民党、公明党の3党合意では消費税の増税分を社会保障に限っていた。首相はこれを変更し、税収の使い道を教育などに拡大。幼児教育の無償化などは10月から始まる予定で、延期すれば自身への批判にもつながりかねない。増税対策も積み増した。14年の消費増税時は個人消費が急減し、その後も景気低迷が長引いた。この反省を踏まえ、住宅・車の購入支援策に加え、キャッシュレス決済した場合のポイント還元、低所得者層へのプレミアム商品券など約2兆円の対策をまとめた。増税対策費用などを計上した2019年度予算案が27日に国会で成立したことで、住宅・保育など民間の活動は動き出しつつある。財務省幹部は「増税への条件は整った。後戻りするコストの方が大きい」と話す。消費税率10%への引き上げによる増収は政府による最新の見積もりでは年約5.7兆円。首相は約1.7兆円を教育・子育てなどに回し、半分を借金の返済に回す考え。残るリスクは海外景気だ。米中貿易戦争などの影響で中国景気は減速感が強まる。内閣府が3月に公表した景気動向指数は3カ月連続で低下した。首相は「リーマン・ショック級の事態が起きない限り予定通り増税する」と繰り返す。政権内でも「金融機能の破綻や東日本大震災並みの災害がなければ引き上げる」との意見が強い。ただ7月に予定される参院選をにらみ、景気動向を慎重に見極める動きは続きそうだ。日本の国の借金は国内総生産(GDP)の2倍超と先進国で最悪の水準。国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化は、すでに25年度に先送りされている。増税が延期されれば、さらに財政健全化の道は遠くなり、将来世代へのツケが重くなる。

*2-2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201901/CK2019010302000121.html (東京新聞 2019年1月3日) <こう動く2019日本>(2)消費税増税 3度目の延期 否定できず
 消費税は十月一日から、税率が10%に上がる。政府は経済危機や大災害が起こらない限り、予定通り増税すると説明するが、安倍晋三首相はかつて、増税による景気の冷え込みを懸念して、引き上げ時期を二度延期した。世界経済の悪化で日本の成長が大きく鈍るなら「二度あることは三度ある」というシナリオも否定はできない。今月召集の通常国会へ提出される二〇一九年度予算案には、消費税率引き上げによる増収を活用した幼児教育・保育無償化や社会保障の充実策などが盛り込まれた。さらに、キャッシュレス決済時のポイント還元や低所得者ら向けのプレミアム商品券発行など、景気の下支え対策としても二兆円超を計上。価格が高い車や住宅の購入を中心とした減税策も加えれば、一連の対策の規模は、増税による家計の実質的な負担増二兆二千億円を上回る。政府が増税に向けて手厚い支援を講じるのは、一四年四月に税率を5%から8%に上げた際のトラウマ(心的外傷)が残っているためだ。当時、大規模な経済対策を組んだものの、いったん冷え込んだ個人消費はなかなか回復しなかった。「財務省は景気が落ち込むのは一・四半期だけと言っていたが、実際には長引いた」(政府高官)と官邸の不興を買ったことも、税収増を相殺するほどの大盤振る舞いにつながった。消費税増税を織り込み、当初段階で初めて百兆円を超えた予算案と税制改正大綱が閣議決定されたことから、財務省では今のところ、「税率引き上げのプロセスが進んでいる」(岡本薫明次官)という見方が支配的だ。しかし、三たびの延期が完全にないとは言えない。昨年末にかけ日米の株価が急落。米中の貿易摩擦や英国の欧州連合(EU)離脱の行方など、日本経済に影響を及ぼす海外景気の不安材料が今年も多いからだ。 首相は景気重視を鮮明にしている上、「消費税率10%への引き上げを決めた一二年の民主、自民、公明の三党合意にかかわっておらず、(消費税への)こだわりが小さい」(財務省幹部)とされ、増税からの方針転換も抵抗なく決断できるとみられている。一方、三度目の正直で増税するとしても、景気の動向によっては追加の財政支出が浮上する可能性はある。夏の参院選を控え、首相が「バラマキ」の誘惑に打ち勝つことは容易でない。

*2-3-1:https://digital.asahi.com/articles/ASLDK51VQLDKULFA01C.html (朝日新聞 2018年12月21日) 飲料水やケータリングは何%? 難しい軽減税率を解説
 来年10月から消費税率がいまの8%から10%に上がり、同時に飲食料品などの税率を8%に据え置く軽減税率も導入される。増税の影響を和らげるため、来年度予算案には総額2兆280億円の臨時の対策が盛り込まれた。5年半ぶりとなる消費増税で、私たちの暮らしにはどのような影響があるだろうか。
●軽減税率のわかりにくい線引き
 消費増税にあわせて、初めて導入される軽減税率は、消費税率が10%に引き上げられた後も、酒類や外食を除く飲食料品と、週2回以上発行され、定期購読されている新聞の税率を8%に据え置く。生活に欠かせない飲食料品を中心に税率を抑えることで、低所得者の負担を軽くするねらいがある。お金持ちも低所得者も一律にかかる消費税は、低所得者ほど負担が重いとされているからだ。しかし、ひとくちに「飲食料品」と言っても、日々の買い物ではどちらの税率が適用されるのかがわかりにくいものもある。例えばみりん。アルコール分が1%以上の本みりんや料理酒は酒税法上の「酒類」に該当するため、軽減税率は適用されず、税率は10%となる。ところが、同じ棚に並んでいても、アルコール分が1%未満の「みりん風調味料」は軽減対象となり、税率は8%だ。このほか、飲料用のミネラルウォーターは軽減税率の対象だが、水道水は風呂や洗濯といった生活用水としても使われるため、飲食料品とみなされず、税率は10%になる。軽減税率の対象外となる外食の範囲も線引きが難しい。原則として、事業者がいすやテーブルなどの飲食設備のある場所で客に飲食させた場合は「外食」となり、税率は10%。例えば、コンビニエンスストアで弁当を買い、店内のイートインコーナーで食べる場合は、外食扱いだ。一方、買った弁当を客が持ち帰り、自宅で食べる場合は8%となる。レジで会計する際、従業員から店内で食べるのか、持ち帰って食べるのかを聞かれる場面が出てきそうだ。外食と同様、客が指定した場所で料理を温めたり、配膳したりする「ケータリング」も軽減税率の対象外だ。企業がパーティーなどでケータリングサービスを頼む場合は、税率は10%となる。ただ、同じケータリングでも、有料老人ホームで入居者に提供される食事や学校給食など、それ以外の方法で食事をとることが難しい場合には、8%が適用される。このほか、ピザやそばなどを出前で取った場合は単なる飲食料品の販売とみなされ、8%が適用される。こうした複数の税率に対応するため、事業者側はレジの改修などが必要になるが、対応は遅れている。導入後、店頭で混乱が生じる可能性がある。
●プレミアム商品券で低所得者へ支援
 軽減税率に加えて実施する低所得者対策が「プレミアム商品券」だ。市区町村が売り出す商品券を購入すると、購入額より25%高い商品と換えられる。購入額との差額の上乗せ分(プレミアム分)の費用を、国が負担する仕組みだ。低所得者への支援策のため、商品券を買えるのは、住民税の非課税世帯と0~2歳児がいる子育て世帯に限る。世帯内の人数(子育て世帯はこどもの人数)1人あたり2万円(2万5千円分)まで買える。1枚ごとの商品券の価格は自治体が決めるが、政府は400円(500円分)を想定している。この場合、最大50枚まで買える計算だ。使えるお店は原則、商品券を発行した地方自治体の中の小売店で、使用期限は増税後から2020年3月末までの半年間とする。政府は15年にも前回の消費増税の対策として同様の商品券を発行したが、消費の押し上げ効果は限定的だったとの指摘もある。
●税金の使い道は
 消費税率の10%への引き上げは2012年、旧民主党、自民党、公明党による3党合意で決まった。14年4月にいったん8%に引き上げた後、もともとは15年10月に10%にする予定だったが、2度にわたって延期に。来年10月の増税は5年6カ月ぶりとなる。2%分の増税で、消費税の税収は5・7兆円増える見込みだ。3党合意ではこの増収分の使い道を社会保障に限り、5分の4を既存の社会保障費の財源に充てて国の借金を減らすことに使い、残りを社会保障の充実に充てるとしていた。ところが、安倍晋三首相は昨年、この使い道を変更。一部を教育無償化などに使うことを決めた。この結果、借金減らしに充てられる額は増収分の半分の2・8兆円程度に。安倍首相が打ち出した教育無償化などには、1・7兆円程度が使われることになった。幼児教育の無償化は来年10月1日から実施予定で、幼稚園や認可保育所、認定こども園に通う3~5歳児の利用料が原則無料になる。0~2歳児は住民税の非課税世帯が無償化の対象になる。これにより、待機児童が増える可能性もあるため、同時に保育の受け皿づくりを加速。保育士の処遇改善も進める。20年4月からは大学や短期大学、専門学校などの高等教育について、住民税非課税世帯を対象に入学金・授業料を減免。生活費は返還の必要がない給付型奨学金で賄えるようにする。非課税世帯だけでなく、年収380万円未満の世帯も2段階に分けて支援する。増税分の使途変更前から決まっていた措置として、低所得の高齢者向けの支援も拡充する。住民税非課税世帯で、年金を含む所得が老齢基礎年金の満額以下の高齢者に対し、年金保険料の納付期間に応じて月最大5千円を支給。この措置によって、保険料の納付期間が短い人の方が優遇されることにならないよう、一定の所得以下の人にも補足的に給付金を支給する。所得が低い65歳以上の高齢者を対象に、部分的に実施されてきた介護保険料軽減策の拡充をさらに進める。1人あたりの平均で月約1千円が軽減される。また、人材不足となっているベテラン介護福祉士の賃金も大幅に引き上げる。政府はこうした施策により、増税による増収分の半分を「国民に還元する」とアピール。増税への反発を和らげるねらいもある。

*2-3-2:https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190329&ng=DGKKZO43038410Y9A320C1M10600 (日経新聞 2019年3月29日) 軽減税率で対応急ぐ 飲食料品8% 外食10%
 消費増税では新たに軽減税率制度が導入される。日々の生活に欠かせない飲食料品(お酒や医薬品は除く)と定期購読の新聞に限り消費税率を今のまま8%に据え置く。低所得者の負担増に配慮するためだが、店頭では8%と10%の商品が混在することになる。小売店の担当者や消費者が判断に迷うケースが出てくる恐れもある。お酒や雑貨も売るスーパーやコンビニエンスストアなどの小売店の現場は、対策としてレジや受発注システムなどの改修に動き出している。軽減税率は企業間の取引にも適用されるため、商社の食糧部門なども取引先との契約書の見直しなどの対応に動いている。商品が8%か10%かを見極めて分類をする必要があるが、線引きに迷うものもある。例えばアルコール度数が1度以上の「みりん」はお酒なので10%だが、それより度数が低い「みりん風調味料」は8%になる。ドリンク剤なども医薬部外品なら10%だが、清涼飲料水であれば8%になる。軽減税率は「外食」は対象外で、レストランで食事をすれば10%のままだ。スーパーのイートインコーナーなどの場合は、同じ商品でも「持ち帰り」の場合は8%になるが、店内で食べれば10%と税率が変わる。自分が指定した場所でサービスを受けるケースも外食と同じ扱いになる。例えば肉の専門店のスタッフにパーティー会場まで肉を運んで焼いてもらった場合は10%だ。価格表示の仕方はばらつきが出そうだ。日本経済新聞社が大手23社を対象に2018年12月にまとめたアンケートでは、4割が持ち帰りも店内飲食も同一の税込み価格で表示すると回答した。一方、日本KFCホールディングスのように2通りの税込み価格表示を検討しているケースもある。

*2-3-3:https://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20190329&bu=BFBD9496EABAB5・・ (日経新聞 2019年3月29日) 軽減税率 適用対象か否か周知急ぐ
 消費税率を8%から10%に引き上げるのに合わせ、飲食料品や定期購読の新聞の税率を8%に据え置く軽減税率制度が導入される。円滑な導入には、小売店や流通に携わる事業者にしっかり準備してもらうことが重要だ。政府は税率を判断するための事例集を公表するなど周知活動を急ぐ。外食や酒、医薬品は「飲食料品」に当たらず税率は10%だ。飲食スペースを持つ小売店やテークアウトができる外食店では、同じ商品でも店内飲食かどうかで異なる税率になる。こうした店や、食品とそれ以外の商品を扱う小売店などでは、2つの税率を打ち分けられるレジの導入や価格表示の見直しが必要になる。顧客とのトラブルを避けるためには従業員向けマニュアルの作成といった対応も欠かせない。政府が10月にとりまとめた飲食料品を扱う事業者への調査によると、レジの改修など準備を始めているとの回答は37%だった。政府は特に、街の青果店といった専門の小売店の対応がカギとみる。軽減税率に対応したレジへ買い替える際の補助金の活用を促すなど、早めの準備を呼びかける。生活に密接に関わる分野なだけに、軽減税率と関係する経済活動は幅広い。一見すると食品には関係のない事業者も帳簿を付ける際などの対応が必要になる。23年10月には、事業者が商品ごとの消費税率を記録するインボイス(税額票)制度が導入される。現在は消費税の納付が免除されている売上高が1千万円以下の事業者も、大企業や中堅企業と取引するためには対応が求められる。軽減税率は生活必需品の税率を抑えて低所得者の負担を軽くする目的だが、高所得者の方が食品への支出額が大きく恩恵があるとの指摘がある。現場からは制度がわかりにくいとの声や、自分は対応が必要なのかどうか分からないといった声もいまだに強い。円滑な実施に向けては、的確な情報発信が急がれる。ペットフード(10%)、自動販売機のジュース(8%)、みりん(10%)――。事業者から相次ぐ疑問に答えるべく、国税庁は軽減税率の適用対象になるかを事例ごとに解説する「Q&A」の改定を重ねてきた。具体的な例を示して判断に役立ててもらう。軽減税率の導入には約1兆円の財源が必要だ。このうち4千億円分は低所得者の医療や介護の負担を軽くする「総合合算制度」の創設を見送った分を充てる。3千億円程度はたばこ増税と給与所得控除の縮小で確保し、残りの3千億円分は免税事業者への課税による増収と社会保障改革の余剰分を充てる方針だ。

*2-4:https://www.nikkei.com/paper/related-article/tc/?b=20190329&bu=BFBD9496EABAB5E6B39・・ (日経新聞 2019年3月29日) 店内・持ち帰り「同価格」も 軽減税率対応 外食大手が検討
 2019年10月の消費増税と同時に導入される軽減税率をめぐり、外食大手の対応が割れる可能性が出てきた。日本経済新聞社が実施したアンケートで、同一商品でも税率が異なる店内飲食と持ち帰りの扱いを聞いたところ、回答企業の4割が同一価格で提供を検討していると答えた。外食チェーンによって対応が異なれば、消費者の混乱を招く恐れもありそうだ。軽減税率は消費税率が10%に引き上げられても、食料品などに限り税率を8%に据え置く制度。外食は軽減対象にはならないため、店内で飲食した場合は10%だが、同じ商品を持ち帰った場合は8%と税率が異なる。例えば本体価格が500円の食事は税込み価格は店内550円、持ち帰り540円となる。ただ、包装代などを加味して持ち帰りの本体価格を510円にすれば税込み価格は550円になり消費者が払う額は同じになる。アンケートは、持ち帰りが一定割合以上あるファストフードやカフェなど外食大手23社に実施し、20社から回答を得た。「店内飲食と持ち帰りで同一価格を導入するか」と聞いたところ、4割にあたる8社が「検討している」と答えた。「導入には消極的」と答えた企業も8社で、「導入しない」は1社だった。姿勢が分かれるものの、現時点では最終的な対応を決めかねているようだ。同一価格を検討する企業に複数回答で理由を聞くと、「消費者にわかりやすい価格体系にするため」(87.5%)が最多で、「店頭で会計作業が煩雑にならないようにするため」「告知や店員の説明を簡潔にするため」が62.5%で続いた。

*2-5:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13932271.html (朝日新聞社説 2019年3月14日) ポイント還元 見切り発車するのか
 懸念は解消されないどころか、ふくらむばかりだ。この状況のまま、政府は本当に実行に移すつもりなのか。10月の消費税増税にあわせて始めるキャッシュレス決済でのポイント還元策について、安倍首相は「事業者に混乱が生じないよう、また消費者が安心して購買できるよう、きめ細かな対応を行う」と述べてきた。ところが、制度の細部が明らかになるにつれ、不安は増す。この制度では、消費者がクレジットカードやICカードなどで支払うと、中小の小売店や飲食店では5%相当分、コンビニなどのチェーン店なら2%分のポイントがもらえる。買ったその場での割引や、割引分を銀行口座などに振り込む方法も認められる。不正利用を防ぐために、対象金額には上限がつく。還元方法や上限は、クレジットカード会社といった決済事業者ごとに決まる。消費者は「対象の店はどこか」「還元率は5%か2%か」「自分のカードは使えるか」「ポイントか即時割引か、振り込みか」「上限額はいくらか」を見極めねばならない。こんな複雑なしくみで、最大の目的のはずの増税後の消費の底上げに、つながるのか。制度づくりを担う経済産業省によると、店ごとのポイント還元に関する情報を載せたスマホ用の地図アプリをつくり、使える決済手段のロゴつきのポスターを店頭に貼る。「店の人に聞かなくてもわかる」というが、ある店主は、同時に始まる軽減税率の対応もあり、「困った客に質問されても、答えられない」と不安をみせる。中小企業者支援もポイント還元の目的の一つだが、これでは店主に負荷がかからないか。三つ目の目的であるキャッシュレス化の推進も、費用に見合う効果があるのか、疑問だ。2019年度予算の2798億円のうち、ポイントなどで消費者に還元されるのは1786億円。残りの1千億円強はコールセンターやポスターに使われるほか、加盟店の勧誘支援としてカード会社などにも渡る。これだけの税金を使って、中小の小売店での支払いに占めるキャッシュレスの割合は、約14%から17%程度に上がるという想定にすぎない。実施ありきで議論が進み、費用対効果の検討がおざなりではないか。財務省の査定責任も重い。参院の審議は、問題点を洗い出す最後の機会だ。予算審議の最中でも決済事業者の募集を始め、見切り発車しようとする政府に、再考を迫るべきだ。

<新元号と民主政治>
PS(2019年4月1、2日追加):*3-1・*3-2のように、2019年4月30日に天皇陛下が退位され、皇太子殿下が新天皇に即位される5月1日から施行される新元号は「令和」と発表された。出典は万葉集の梅花の歌「初春の令月にして気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を香らす」から引用したと説明されているが、その説明を聞く前、私は「令は命令、させること」「和は和やかなこと」を意味し、奈良時代の「大宝律令」の令と「和を持って尊しとなす」の和がイメージされて、「国民は命令に従い、和を持って尊しとなせ」という現在の国民主権国家からは程遠い元号のように思えた。そのため、そういう価値観を持っていないのに、現皇太子の時代として歴史に残るのは、現皇太子に気の毒だと思ったわけである。私自身は、次は「光」という字を用いて、「光和」「光久」「光輝」などの明るい元号がよいと思っていたが、こうなったら計算しやすいので西暦で通すことにする。
 なお、新元号「令和」の出典となった万葉集の一節は、*3-3のように、730(天平2)年に大宰府の大伴旅人の邸宅で催された「梅花の宴」で詠まれた32首の序文にある「令月」「風和」から取ったものだそうで、大宰府は博多港から20km程度の地域にあり、鳥栖や吉野ヶ里にも近く、古代史のKeyと言える場所だ。

*3-1:https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019032901001500.html (東京新聞 2019年4月1日) 新元号は「令和」、5月1日施行 出典は「万葉集」、日本の古典初
 政府は1日、「平成」に代わる新元号を「令和(れいわ)」と決定した。今の天皇陛下が改元政令に署名され、同日中に公布。4月30日の天皇陛下退位に伴い、皇太子さまが新天皇に即位する5月1日午前0時に施行される。皇位継承前の新元号公表は憲政史上初。出典は「万葉集」で、中国古典でなく、国書(日本古典)から採用したのは確認できる限り、初めて。「大化」(645年)から数えて248番目の元号で、1979年制定の元号法に基づく改元は「平成」に続いて2例目となる。改元は明治以降、天皇逝去に伴う皇位継承時に行われてきた。今回は退位特例法に基づき、逝去によらない改元となる。

*3-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43166560R00C19A4000000/?nf=1 (日経新聞 2019年4月1日) 新元号は「令和」 官房長官が公表
 政府は1日午前、平成に代わる新元号を「令和」と決定した。「れいわ」と読む。菅義偉官房長官が記者会見し、墨書を掲げて公表した。出典は「万葉集」と説明した。日本最初の元号「大化」から数えて248番目にあたる。新元号は天皇陛下の退位に伴い5月1日午前0時から施行する。安倍晋三首相は正午ごろから記者会見を開き、首相談話を読み上げて新元号に込めた意義などを説明する。元号に用いる漢字が日本の古典から採用されたのは確認される限り初めて。これまでは中国古典(漢籍)を出典としてきた。令和は万葉集巻五、梅花の歌三十二首の序文、「初春の令月にして気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭(らん)は珮(はい)後の香を香らす」から引用した。政府は今回、漢文学や東洋史学だけでなく、国文学や日本史学を専門とする学者にも考案を委嘱したことを明らかにしている。関係者によると、平成への改元時に委嘱した考案者にも国文学者が含まれていたが、日本古典を出典とする案は「平成」を含む3つの最終案に残らなかった。政府は4月1日午前9時半から首相官邸でノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥京大教授ら計9人の有識者による「元号に関する懇談会」を開き、原案について一人ひとりから意見を聞いた。その後、衆参両院の正副議長に意見を聴取。首相官邸で開いた全閣僚会議を経て閣議で新元号を定めた政令を決定した。天皇陛下が署名し、4月1日中に公布する。3月14日に複数の学者らに新元号の考案を正式に委嘱し、それぞれ2~5つの案の提出を求めた。官房長官の下で絞り込み、5つ以上の原案から新元号を選んだ。天皇陛下は4月30日に退位、翌5月1日に皇太子さまが新天皇に即位される。「退位礼正殿の儀」は4月30日午後5時からで、三権の長や地方自治体の代表ら338人が参列する。皇太子さまは5月1日午前10時半から歴代天皇に伝わる神器などを引き継ぐ「剣璽等承継の儀」に、午前11時10分から即位後初めて国民代表の前でお言葉を述べる「即位後朝見の儀」に臨まれる。天皇陛下は2016年8月、国民向けのビデオメッセージで象徴天皇としての務めに関する考え方についてお言葉を述べ、退位の意向を示唆された。政府は天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議を設置。17年6月、現天皇一代限りで退位を認める特例法が国会で成立した。

*3-3:https://www.nishinippon.co.jp/nnp/culture/article/499075/ (西日本新聞 2019年4月2日) 典拠序文は大宰府ゆかり 新元号「令和」
 新元号「令和」の出典となった万葉集の一節は、730(天平2)年に大宰府の大伴旅人の邸宅で催された「梅花(ばいか)の宴(えん)」で詠まれた32首の序文。宴では、対馬や鹿児島など九州各地から集められた官僚たち計32人が、「梅」をテーマに1人1首歌を詠んだ。歌は万葉仮名で序文は漢文。作者は旅人や山上憶良などと推測されている。宴の開かれた前年、時の左大臣が自死に追い込まれる「長屋王の変」が発生。「政変が起きたため、九州の引き締めを図り各地の官僚を集めたのだろう」と福岡女学院大の東茂美教授(日中比較文学)は解説する。緊張した政策議論が行われ、その後に催されたのが梅花の宴だった。令和は、序文にある「令月」と「風和」から取られた。東教授は「『令』は『好(よ)い』という意味。平成は大災害で多くの命が奪われた。不幸な時代を超え『好い和』という穏やかな時代になってほしいという願いが込められているのではないか」と話す。

<外国人の受け入れについて>
PS(2019年4月1、4日追加):*4-1のように、「外国人受け入れ拡大の準備が整わないまま、新制度がスタートした」という批判が多いが、制度が導入されたからやるべきことが具体的にわかったという面もあるので、制度を導入したのはよいことだ。そして、外国人を受け入れたいが未経験の自治体は、先行する自治体から準備に必要な情報を聞き、議会で話し合って予算を作り、次第に受け入れていけばよいだろう。また、多言語対応は、すべての自治体で11言語すべての翻訳を正確にできなければならない理由はなく、来日する外国人の母国語に翻訳できればよい筈だ。大切なのは、母国で既に教育投資を受けた外国人が日本で労働を提供し、日本社会の支え手になってくれることであり、日本人よりハングリー精神があるかもしれないことである。
 また、*4-2のように、熊本県では、第2次ベビーブーム時に多く採用された教職員が退職期を迎え、教職員の約4割が今後10年で定年退職する予定だそうだが、経験豊富で授業力のあるベテラン教員が学校現場を去る前に、①定年年齢を引き上げて働き方改革を実行したり ②小学校の入学年齢を3歳に引き下げたり ③クラスに副担任を置いて教員を支援したり ④学童保育の学習支援員として働いてもらったり 等々を、正当な報酬を支払って行えばよいと思う。
 なお、外国人技能実習制度は、*4-3のように、外国人から搾取する手段となっていたケースが多かったため、3年間の実習を終えると無試験で1号の新資格を取得でき、資格を変更したい人は本人の意思で変更できることをアナウンスしておけば、劣悪な労働環境にある技能実習生は変更すると思われる。なお、外国人労働者に慣れておらず言語対応に不安がある自治体は、フィリピンやインドの人から始めると英語を話せるため対応しやすい。

*4-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13959827.html (朝日新聞 2019年4月1日) 外国人受け入れ拡大、準備整わぬまま 新制度スタート
 新たな在留資格「特定技能」を創設し、外国人労働者の受け入れを拡大する新制度が1日に始まる。政府は、技能実習生からの資格変更を含めて今後5年間で最大約34万5千人を見込む。労働政策の転換点だが、4月の制度導入ありきで進められたため、現場の準備が整わないなかでの「見切り発車」となる。政府は昨年12月、新制度の目玉として、行政サービスや生活情報の相談に原則11言語で対応する「多文化共生総合相談ワンストップセンター」を全国に約100カ所整備することを打ち出した。法務省が地方自治体に対し、多言語対応などに向けた整備費の交付金申請の受け付けを始めたのは2月中旬。補助対象は、47都道府県と20の政令指定市、さらに外国人住民が1万人以上、または5千人以上で全住民に占める割合が2%以上(東京23区は1万人以上で6%以上)の44自治体とした。だが地方議会に諮る時間が足りないなどの理由もあり、申請は37自治体にとどまった。法務省は4月1日の時点で何カ所にセンターが整備されるか明らかにしていない。来日する人から多額の保証金を徴収するような悪質な仲介業者の排除についても、政府は2018年度中に、送り出し国として想定されるベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、ミャンマー、タイ、ネパール、モンゴルの9カ国と協力覚書の締結を目指していた。だが3月29日の時点で締結に至ったのはフィリピン、カンボジア、ミャンマー、ネパールの4カ国だけだ。
■窓口整備、足りぬ財源・人材 11言語「翻訳の正確さ心配」
 改正出入国管理法の施行に合わせて、朝日新聞は外国人が多く住む全国の74自治体を対象にアンケートを行った。共生に向けた対応策の目玉となるワンストップセンターについては、過半数が財源不足などを理由に開設予定がないと回答。受け入れ拡大に戸惑う現場の姿が浮き彫りになった。ワンストップセンターの補助対象となった自治体には、人口規模の小さい市町村は入らない。今回のアンケートは、外国人が多い地域の実態把握に努めるため、外国人住民が1万人以上か、全住民に占める外国人の割合が5%以上の74市区町村を対象とし、都道府県は除いた。3月中旬から下旬に調査し、70自治体から回答を得た。回答率は94・6%。今回のアンケートでは、「ワンストップセンターを開設する予定があるか」との問いに、55・7%(39自治体)が「いいえ」と回答した。理由の多くは財源不足だ。補助の対象でも「開設場所や人材の確保にめどが立たない」(東京都北区)との声が出た。大きな課題は、多言語対応だ。国はセンターで原則11言語に対応することを求めている。通訳が配置できなければタブレット端末などで対応する必要がある。岐阜県可児市は翻訳機を導入する予定だが「細かな行政用語をどこまで正確に翻訳できるのか心配。例えば日本の『住民票』という概念は外国と一致するのか」と気をもむ。

*4-2:https://kumanichi.com/column/syasetsu/922837/ (熊本日日新聞 2019年3月27日) 教員の大量退職 教育の質低下防ぐ対策を
 公立の小中学校や高校などに勤める県内の教職員の約4割が、今後10年で定年退職することが明らかになった。この事態に対応するため、県教委や熊本市教委は採用数を増やしているが、授業力のあるベテラン教員が学校現場を去る一方、現場経験の少ない若手の教員が増えることになる。両教委には教育の質の低下を招かない取り組みが求められている。大量退職の要因は、1970年代の第2次ベビーブーム時に多数採用された教職員が退職期を迎えるためだ。両教委によると、2018~27年度に定年を迎える教職員は5033人で、現在の教職員全体の37・7%に当たるという。一方、採用増に志願者の減少もあって、教員採用試験の志願倍率は、小中学校を中心に低下している。小学校の場合、両教委がそれぞれ採用試験をするようになった13年度と19年度を比べると、県教委分が5・1倍から2・3倍に、熊本市教委分が13・7倍から3・2倍に落ち込んだ。志願倍率の低下が、教育の質の低下につながるとは一概に言えないが、「高い倍率を勝ち抜き、合格した」という思いは、採用後のモチベーションになることは確かだ。また、以前と比べ臨時任用教員として数年間学校現場を経験した後、本採用されるケースも減ったため、「即戦力の若手が少なくなった」という声もある。両教委は20年度の採用試験から小学校教諭の実技試験を全廃、または一部の廃止を決めた。受験要件緩和で志願者を増やすのが狙いだが、「単に採用のハードルを低くするだけでは質の低下を招きかねない」とも指摘されている。志願者減の要因の一つとして、「教員は授業や部活動で多忙。保護者対応も重なりストレスが大きい」とのイメージが定着していることがあるのではないか。両教委はタイムカード導入などで、教職員の労働時間管理の徹底を試みているが、さらに抱え込み過ぎているとされる学校や教員の業務の明確化・適正化にも力を入れ、本来の教えるという業務に専念できるようにすることが必要だろう。既に教員の年齢構成はいびつになっている。熊本市教委のまとめでは、18年度に市内の小中学校で働く教員約3千人のうち、51~60歳が半数近くを占め、若手と中堅をつなぐ世代の31~40歳は15%ほどとなっている。経験の少ない若手が増える中、身近な手本となる世代が少ないのも問題だ。「技術の伝承」に悩む民間企業に通じる課題だろう。熊本市教委は退職後に再任用された教員が若手をマンツーマンで指導する事業を実施している。県教委も優れた指導力を持つ中堅教員をスーパーティーチャーとして選び、若手の指導力向上を支援している。こうした経験豊富なベテラン世代を活用して世代をつなぐ取り組みをさらに拡充し、若手も余裕を持って児童、生徒に対応できる環境づくりを進めてもらいたい。それが教育の質の維持、向上にもつながるはずだ。

*4-3:https://www.toonippo.co.jp/articles/-/174288 (Web東奥 2019年4月4日) 廃止含め抜本策の検討を/技能実習制度
 外国人就労を拡大する新制度で、新たな在留資格「特定技能1号」の取得を目指す外国人向けに受け入れ業種別の日本語・技能試験が国内外で始まる。今月中旬からフィリピンで介護、東京や大阪などで宿泊、外食と続く。これとは別に外国人技能実習制度で来日した実習生は3年間の実習を終えると、無試験で1号の資格を取得できる。政府は新制度により5年間で14業種に最大34万5千人の受け入れを見込む。試算では、2019年度は6割弱が実習生からの移行組。その後、試験の合格者は徐々に増えていくものの、5年たってもなお5割は移行組という。技能実習制度と新制度とは切っても切れない関係にある。その実習制度を巡り新制度スタート目前の先月末、賃金や残業代の不払い、長時間労働から実習中の事故死まで、過酷な労働実態が改めて浮き彫りになった。昨年の国会で野党から実習制度の問題点を追及され、山下貴司法相は17年に技能実習適正化法が施行され、それ以降は「適切な運用」が図られていると反論する一方、法務省に調査を指示していた。それ以前の実態調査がずさんだったことも明らかになり、法務省は10項目の改善策を示した。しかし、どれもやって当たり前のことばかりだ。技能実習は末期的な状況にあり、制度の廃止も含め、抜本策の検討に取り組まなくてはならない。法務省の調査では、実習先から失踪して17年1月~18年9月に不法残留などで摘発された5218人のうち759人が最低賃金以下の給料や食費名目などによる過大な控除、時間外労働の割増賃金不払い、違法な時間外労働などを強いられていた疑いがあった。このうち今回の調査以前に把握し対応していた事案は38人分にすぎなかった。例えば、縫製業の実習生は月給6万円で働かされて月60時間の残業をしても割増賃金をもらえず、建設機械施工の2人が実習計画にない家屋の解体などをさせられた。さらに12~17年に実習生171人が死亡、うち43人はこれまで把握できていなかった。実習中の事故死28人、病死59人、自殺17人など。病死の3人は違法な時間外労働をさせられ、自殺の1人は3カ月半で休みが4日だけだった疑いがある。だが不正行為はもっとあるとみた方がいいだろう。調査対象となった企業など実習先は4280に上るが、そのうち383は協力拒否や倒産などで調査できずじまい。賃金台帳やタイムカードの写しなど詳細な資料を集められたのは7割弱にとどまっている。17年11月、実習生に対する人権侵害に罰則を設け、受け入れ先への監督を強化する適正化法が施行された。しかし失踪者は年々増え続け、昨年は9052人に達した。調査結果を踏まえ、法務省は報酬支払いは支払額を確認できる口座振り込みなどで行うよう義務付けるのをはじめ、初動対応の強化や実習生の支援・保護の強化、厳正な審査・検査など改善策を提示した。ただ実効性がありそうなのは口座振り込みくらいだ。日本で働く外国人は昨年10月時点で146万人。それがこれまでにないペースで増えていく。政府は「共生社会の実現」に向け技能実習制度が障害とならないよう早急に手を打つべきだ。

<森林環境税と環境税>
PS(2019年4月2、3日追加):*5-1のように、2018年に森林の適切な維持管理を目的とする森林経営管理法(「①森林の持ち主は適時に木を植えて育て、伐採する経営管理の責務がある」「②適切に手入れされていない森林は、経営管理権を市町村に集める」等を規定)ができ、2019年4月1日から施行されている。そして、「③まとめて経営すれば利益が出ると見られる森林は意欲と能力のある林業経営者に伐採や造林を委託」「④採算がとれない森林は市町村が管理して複層林化」するとされ、④には、2024年度から住民税に上乗せして徴収する森林環境税を充てるとのことだ。私は、森林はCO₂吸収源であるだけでなく、水源や自然環境の源泉でもあるため、都市部の住民も森林整備の負担を担うのは当然だと思うが、②のように、所有者が手入れすらしない森林を市町村が無償で管理をするのはどうかと思われ、管理するにあたっては相応の受託料をとるべきだと考える。また、管理委託さえしたくないような所有者には、所有権を放棄もしくは売却してもらってから公的管理に入るのが公正だろう。さらに、③については、民民の取引であるため適切な受委託関係があると思うが、状況はどうなっているのだろうか。
 私は、*5-2のように、既に地方で導入されている森林環境税よりも、CO₂排出抑制効果を持ち、森林だけでなく農地・藻場・公園・緑地帯等のCO₂吸収源の保全すべてに役立てることが可能な炭素税の導入を行い、他の税収からの環境対策支出は減らせばよいと考える。
 なお、林業は、*5-3のように、長野県や信州大などがドローンやICTを活用した林業の効率化に取り組んで「スマート林業」を進めているほか、林野庁が航空レーザーなどによる計測で詳細な森林情報(立木、地形など)を把握してデジタル化し、一元管理(全都道府県で導入済)する取組を推進しているので、次第にスマート化して面白い産業になることが予想される(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/nourin/dai9/siryou4.pdf#search=%27%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%88%E6%9E%97%E6%A5%AD+%E8%A8%98%E4%BA%8B%27 参照)。ただし、林野庁の見解とは異なり、林業における生産とは、植林・育成(間伐や害虫駆除を含む)・伐採の一連の行為を含むものだ。


2018.2.1朝日新聞  
                    
(図の説明:左図のように、2024年から全国規模で森林環境税が課されることになっている。しかし、私は、森林環境税は既に地方自治体が課しているため、環境税を課してCO₂対策や他の環境関係支出に充てるのがよいと思う。また、左から2番目の図のように、都市の納税者は、現在は森林の効用を無料で享受しているが、森林の手入れにも費用がかかるため、環境税には理解を示すべきである。なお、右から2番目の図のように、日本は森林資源に恵まれており、森林は財産としての価値もあるため、森林資源を無駄にせず有効に使うように工夫すべきだ。そのような中、右図のように、林業の高齢化率は他産業より高く、若者の参入が望まれている)

*5-1:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13420454.html (朝日新聞社説 2018年3月26日) 森林経営管理 課題の検討を丁寧に
 政府が、森林の適切な維持を目指す法案を国会に提出した。スギやヒノキを植えたまま、手入れされていない森林が増えているためだ。ただ、法案が描く仕組みの実行には課題が多く、丁寧な議論と検討が必要だ。提出したのは森林経営管理法案。森林の持ち主には適時に木を植え、育てて伐採する経営管理の責務があると規定した。市町村にも大きな役割を求める。適切に手入れされていない森林は、経営管理の権利を市町村に集める。そのうち、まとめて経営すれば利益が出ると見られる森林は、意欲と能力がある林業経営者に伐採や造林を委託する。採算がとれない森林は市町村が管理し、広葉樹などを交えた「複層林」に誘導する。目的は二酸化炭素(CO2)の吸収促進や土砂災害の防止、水源の維持などとされる。林野庁は管理が不十分な人工林を約400万ヘクタールと推定。人工林全体の約4割、国土面積の1割強で、放置できないのは確かだ。新制度の方向性は支持できる。農業にも、土地を集めて貸し出す「農地バンク」の仕組みがある。だが、林業は植林から伐採までの期間が数十年に及び、それだけハードルは高い。まず、長期にわたり経営管理をきちんと担える林業経営者を十分に確保できるか、そうした業者を行政が選定できるかという問題がある。木材の需給や経済状況次第で、経営者の意欲がなえたり有能な人材が集まらなくなったりしかねない。市町村には、森林の実情を把握して計画をたて、適切な委託先を選ぶ能力も必要になる。きちんと対応できなければ、森林所有者の意欲や責任感をそぐだけに終わりかねない。所有者が不明の場合や、市町村に経営管理を委ねたがらないときは、一定の手続きで同意とみなす仕組みも設ける。適正に運用できるかも大きな課題だ。一時的に伐採が進んでも、森林管理の成否が最終的に確認できるのはかなり先になる。官民ともに責任の所在があいまいになるリスクがあり、継続的に点検することが不可欠だ。市町村による複層林化には、2024年度から住民税に上乗せして徴収する予定の森林環境税をあてる。森林の機能からみて、都市部の住民も負担するという考え方は理解できる。だが、個別施策の目的税を安易に設けると「予算ありき」の無駄遣いを助長しかねない。CO2吸収源への対策なら、排出抑制効果を持つ炭素税などの導入と一体の議論が望ましい。財源については再考を求めたい。

*5-2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24437540Y7A201C1L31000/ (日経新聞 2017/12/9) 長野県、森林税5年継続を正式決定 説明責任重く
 長野県議会は8日の本会議で、森林づくり県民税(森林税)を2018年度~22年度も続ける条例案を可決した。今年度で2期目(計10年間)の課税期間が終わり、さらに5年間継続する。森林税を巡っては税収の余剰や里山整備の目標未達成などが問題視されていた。県は景観整備などに使途を広げると活用策を打ち出したが、従来以上に説明責任を問われる5年間になりそうだ。阿部守一知事は本会議後の記者会見で「新しい形で森林づくり県民税を有効に生かしていくことができるように、体制整備・準備をしていきたい」と述べた。森林税は、森林保全などを目的として通常の税金とは別に住民から徴収する超過課税の一種。長野県では08年に導入し、個人から年500円、法人からは資本金に応じて同1000~4万円を徴収する。17年度の税収見込みは6億6000万円。森林税を活用した里山整備事業の実施面積は17年度末までの10年間で当初目標の84%(3万2210ヘクタール)にとどまる見通しだ。所有者が不明確なことなどを理由に未整備のまま残された森林がある。余った税収を積み立てた基金は同年度末に4億9000万円となり、来年度の歳入となる法人税収分を含めれば6億円にのぼる見込みだ。1年分の森林税収に匹敵する額となる。間伐面積の目標未達成に加え、大北森林組合の補助金不正受給問題を受けて予算を抑制したことも要因だ。県は3期目の新たな使途として、街路樹などの景観整備、県産材を活用した道路標識の設置、河畔林整備などの事業を追加した。市町村に自由度の高い形で森林税収から年1億3000万円拠出していた森林づくり推進支援金は県地方税制研究会の指摘を受けて年9000万円まで縮小し、市町村に事業内容や成果の詳細な説明を求めていく。税制研究会などが重視したのは県の説明責任だ。推進支援金など使途が明確でないものがあったほか、大北森林組合が不正受給した補助金に森林税が含まれていたことも県民の不信を招いた。県はみんなで支える森林づくり県民会議などで事業の評価・検証をして毎年度初めに知事が公表することを新たに条例案に盛り込んだほか、透明性向上のための庁内組織を立ち上げるとしている。国が1人当たり年1000円の徴収で導入を検討している森林環境税との関係について県林務部は「県税とは目的が違うため明らかな重複はない。もし重複する部分があれば設計を見直す」と説明している。国は24年度から導入する方向で検討を進めているため3期目とは時期が重ならない公算が大きいが、「二重取り」にならないよう慎重な検討が必要となる。県は継続の根拠の一つとして、県民・企業へのアンケートで継続賛成が7割を上回ったことを挙げる。ただ、同時に行った森林税の使途の認知度を調べるアンケートでは7割が「使い道がよくわからない」と答えた。県民の理解を深め、納得を得られる説明をしていくことが一層求められそうだ。

*5-3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31787370U8A610C1L31000/ (日経新聞 2018/6/14) 長野県や信州大など、スマート林業普及促進
 長野県はドローンや情報通信技術(ICT)を活用して林業の効率化を進める。同県や信州大学、林業事業者などが参加する協議会を始め、2018~20年度にレーザーやドローンを使った森林資源の把握や木材の需給状況がネット上で分かるシステムを開発する。県の林業に先進技術を導入する「スマート林業」で競争力を高める。協議会の名称は「スマート林業タスクフォースNAGANO」で、14日に南箕輪村の信州大で最初の会議を開いた。森林資源の把握では林業事業者にドローンを保有してもらい、信州大の技術を活用して木の本数や位置、高さを測定して伐採の計画・調査を省力化する。伐採した木材のデータはネット上で林業事業者や運送事業者、木材を求める事業者で共有する仕組みをつくる。リアルタイムで出荷情報を更新し、必要な材を適切に納入できるようにする。運送も効率化して費用を削減する。県の事業費は18年度が1583万円。19年2月まで効果を検証し、19年度以降の具体的な施策を決める。

<事業承継税制の大改正>
PS(2019年4月5日追加):働き方改革で従業員は働き易くなるが、その皺寄せは、中小企業の場合には経営者にかかるため、事業主は大変になるだろう。しかし、*6-2のように、需要の少ない時間帯や曜日はCloseしたり、週4日勤務(週休3日)の1日10時間労働にして従業員をローテーションしたりする方法もある。
 そのような中、高齢で事業承継の時期にある個人事業主が多くなっているが、後継者がおらず、良い技術を持っていたり、黒字であったりするにもかかわらず、廃業になるケースは多い。そのため、相続争いを防ぎ、個人企業が事業承継をやりやすくするために、*6-1及び下図のように、個人事業を後継者に譲るときのルールが見直されるのはよいことである。

  

(図の説明:左と中央の図のように、代替わりで事業の継続が困難にならないよう、2018年度から10年間の特例で事業承継時の相続税軽減要件が緩和され、2019年中に先代が早く事業資産を贈与すれば相続対象から外すことができる制度に改めるそうだ。しかし、右図の「働き方改革」は悪くはないが、役所や大企業をモデルにしているため、ぎりぎりで経営している不安定な中小企業を承継するよりサラリーマンになった方がよいと考える次世代は多いと思われる)

*6-1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41271940U9A210C1EE8000/ (日経新聞 2019/2/15) 個人事業主、土地など承継しやすく 相続争い防ぐ
 政府は個人事業を後継者に譲るときのルールを見直す。先代が生きている間に事業を引き継いだ場合、後継者の譲り受けた土地や建物などの事業資産が、一定の条件の下で他の法定相続人の手に渡らないようにする。経営者の高齢化に伴う個人事業の廃業が増える中、相続争いを防ぐことで代替わりを進めやすくする。今国会に提出する承継円滑化法改正案に盛り込んだ。2019年中の新ルール実施を目指す。現行では生前に事業を譲り受けても、先代が亡くなった後、他の相続人に資産を「遺留分」として取得され、事業の権利が分散する余地が残る。本人の兄弟を除く遺族には原則、全体の2分の1の遺産を受け継ぐ権利があるからだ。後継者に土地や建物などの事業資産を集中して贈与しても、他の相続人が主張すれば、資産が複数の相続人に分散してしまう可能性がある。他の法定相続人の「遺留分」について、相続開始前の10年間に限定した基礎財産から算定する仕組みに改める。先代が早い段階で事業資産を贈与すれば、相続対象から外すことができる。他の相続人に渡す「遺留分」についても、相当額の金銭で支払えるように改める。土地や建物、設備を現物で返還しなくても済むようになる。19年度から始まる個人版事業承継税制では、先代が生きている間に事業を引き継ぐと、相続税や贈与税の納付が猶予される。政府は今回の新ルールが加わることで、さらに代替わりがしやすくなるとみる。中小企業には既に同様のルールが適用される。帝国データバンクによると、18年(1~12月)に「休廃業・解散」した企業(個人事業主を含む)は、全国で2万3026件(前年比5.6%減)ある。中小企業系の団体から生前贈与分の事業資産の権利を確保できるよう求める声があがっていた。

*6-2:https://mainichi.jp/articles/20190316/dde/001/040/043000c (毎日新聞 2019年3月16日) 働き方改革、宿泊業だって休みたい 人材確保へ週休3日 従業員「プライベート充実」
 年中無休のイメージが強い旅館やホテルで週休3日制導入など、働き方改革の動きが出ている。外国人観光客の増加や2020年東京五輪・パラリンピックに向け宿泊業界は活況だが、長時間労働が敬遠され、人手不足は深刻。労働環境の見直しで、優秀な人材確保につなげる狙いがある。「月、火、水は宿泊がお休みになります」。将棋、囲碁のタイトル戦の舞台にもなっている神奈川県秦野市の旅館「元湯 陣屋」は週3日、宿泊客を取らない。(以下略)

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2017.4.24 国の予算の使い方 (2017年4月25、26、27、28、30、5月4、20、27日追加)
 書くべきことは多いが、今日は、国の予算の使い方とそれを左右する基本的意思決定について記載する。なお、私は、前のパソコン(PC)にwindows XPを入れていて、そちらの方が使い勝手がよかったため最近まで使っていたが、XPではアクセスできないHPが増えたので、仕方なくwindows8.1が入っているPCを使うよう変更した。そうすると、ブログ写真の解説文字の位置が変わってしまう上、蓄積されたデータの移管にも苦労が多かった。そのため、ソフト会社は新ソフトを開発して「売らんかな」の販売戦略をとるのではなく、PCを事務作業や研究に使って価値あるデータをPCで蓄積している人の身になって考えて欲しいと思った次第である。

  
      フクイチの現状      諫早干拓地       玄海原発
        2016.6.30毎日新聞 ランドサット撮影  2017.4.13西日本新聞

(1)“国の責任”となる膨大な原発事故費用
1)フクイチの廃炉・賠償費用とその無駄遣い部分
 経産省は、2016年12月9日、*1-1のように、フクイチの廃炉・賠償などの費用総額が21兆5000億円にのぼるという見積もりを公表し、これまでの11兆円から倍増させた。

 その理由は、①廃炉費が2兆円から8兆円 ②賠償費が5兆4000億円から7兆9000億円 ③除染費が2兆5000億円から4兆円 ④中間貯蔵施設整備費が1兆1000億円から1兆6000億円に膨らんだ などだが、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し方法などの詳細が決まっていないため、経産省は合理的な見積もりが困難としてそれを含めていない。これなら、また2倍になるのも時間の問題のように見えるが、④は最初から最終処分をすれば節約できる金額で、核燃料の取り出し費用も石棺にすれば不要だった。また、廃炉に長期間かけ、原子炉建屋のカバーを外して環境を汚し続けているのは、殺人に近い。

 さらに、経産省は、賠償総額7兆9000億円のうち2400億円程度を新電力にも負担させるようにして、巨額の事故処理費用を賄う方針だ。しかし、これでは、原発事故には責任のない会社や個人が原発事故の費用負担をすることとなり、電力市場が不公正な市場となって電力自由化の効果もそがれるため、事故を起こした会社が蓄えた資産を売却して廃炉費用を賄うのが筋である。

 なお、*1-2のように、2013年9月3日、フクイチから高濃度の放射性物質を含む汚染水が漏れているため、政府は約470億円(凍土壁建設費:320億円、浄化装置開発費:150億円)の国費を投じ、政府主導・国の全額負担で、①原子炉建屋への地下水の流入を遮断する凍土壁を設置し ②汚染水浄化装置を増設し ③汚染水漏れが見つかった急造タンクは溶接のしっかりしたタンクに入れ替え ④建屋に流れ込む地下水をくみ上げ ⑤地下坑道(トレンチ)にたまっている高濃度汚染水を除去し ⑥汚染水の海への漏洩を抑えるための地盤改良をする とした。

 しかし、それから約3年6か月後の現在も、原子力規制委員会が国際原子力事象評価尺度(INES)でレベル3(重大な異常事象)に相当するとした汚染水問題は、課題のまま解決していない。これだけの国費を投入しても片付かない理由は、「総額470億円を投入。うち2013年度予算の予備費を210億円使い、対策を前倒し」というように使う金額を先に決め、汚染水問題の解決よりも景気対策が目的であるかのような予算の使い方をしているからだ。このように、事の重大性が全く理解できずに優先順位が滅茶苦茶な人は多いが、これなら石棺にすれば、汚染水問題は生じず、この470億円やタンクの設置費用は不要だったのである。

2)国は原発事故でどういう責任をとれるのか
 フクイチの場合は、これまで政府・電力会社が「原発は絶対に壊れず、安全でクリーンだ」と強く宣伝してきたため、政府や電力会社の宣伝を信じてきた住民に罪はない。そのため、原発事故の責任は、虚偽の宣伝をしてきた政府・電力会社にあり、住民は政府・電力会社に完全に復旧してもらい、復旧までに生じた損失についての損害賠償や慰謝料を受ける権利がある。ただし、実際には、除染しても完全には復旧できない地域が多く、そこに住んでいた人は損害賠償・慰謝料に加えて移転費用も請求できるわけである。
 
 しかし、*1-3のように、原発を再稼働して起こる今後の原発事故に対しては、「原発は絶対に壊れないので、安全でクリーンだ」と住民が信じれば、それは交付金目当てのご都合主義の信頼になるだろう。

 また、「万一事故が発生した場合、国は責任を持って対処する」と繰り返しているが、(1)1)の状況で、国が責任を持って対処しているとは言えず、故郷が汚染され復旧していないのに避難指示を解除されて困っている被害者も多い。さらに、原発事故は、復旧すること自体が困難で、その費用も高くつくというのが現実で、国民は、何度も原発事故処理費用のような後ろ向きの費用は負担したくないし、できないのである。

(2)玄海原発再稼働について
 佐賀県議会は、*2-1のように、過半数を占める自民党議員が「再稼働容認」、民進党は「条件付き再稼働容認」として、最稼働容認決議案を可決した。佐賀県知事は、「県民代表としての県議会決議を重く受け止め、再稼働に同意する見通し」で住民投票には否定的だが、佐賀新聞社が昨年秋に実施した県民世論調査では、反対が賛成を上回ったそうだ。私は、県議会議員選挙は原発再稼働のみを争点にして行うわけではないため、原発再稼働のみを争点とし、その賛成及び反対理由を明らかにして住民投票するのが、これからの方針を決め、それを遂行する覚悟を決める上で重要だと考える。

 なお、佐賀県内の3首長は原発再稼働に反対の意思を表明し、事故が起きれば県境は関係ないため、長崎県、福岡県からも反対・不安・懸念の表明が相次いでいる。

 このような中、*2-2、*2-3のように、2017年4月22日、世耕経産相が九電の瓜生道明社長の案内で玄海原発を視察し、午後に佐賀県庁で山口知事と会談し、山口知事は記者団に「大臣から国として責任を持つとの強い決意の言葉を頂いたので、(地元同意の判断は)できるだけ早くと思っている」と述べ、週明けにも地元同意を表明するそうだ。山口知事(東京大学法学部卒、総務省出身)は「手続きが大事」とよく言われるが、西日本新聞が書いているとおり、再稼働するための“儀式”は一歩ずつ進んでいるが、原発再稼働による住民リスクは親身に考えられていないように見える。

 そして、*2-4のように、山口知事は24日午後、「熟慮に熟慮を重ねた結果、原子力発電に頼らない社会を作るという強い思いを持ちつつ、現状においては(再稼働は)やむを得ないと判断した」として、九電玄海原発の再稼働に同意する考えを表明し、これで地元同意手続きが完了したそうだ。しかし、「手続きさえ踏めば、真実はどうでもよい」という発想が法学部卒の人に多く、「裁判で手続きさえ踏めば、無実の人を犯人に仕立て上げてもよい」という結果も招いているため、法学部教育は手続主義から真実追及主義に変更すべきである。

 なお、住民リスクの内容を重視する大学の元教員や医師らでつくる「福岡核問題研究会」の有志は、*2-5のように、「玄海原発が新規制基準に適合すると認めた原子力規制委員会の許可は不当だ」として、規制委員会に異議を申し立てる審査請求をすることを決めたそうだ。その理由は、①フクイチ後、フランスは総勢300人の緊急対応部隊を新設したが日本の新規制基準には対応する措置がなく、世界基準に程遠いこと ②規制委が重大事故時の住民避難などの対策の有効性を審査の対象にしていないこと などが、「法律が求める責務からの責任逃れであり違法」などとして、主に8項目を挙げているそうだ。また、*2-6のように、反原発団体も、「県民を犠牲にするな」と経産相に抗議している。

 さらに、2017年4月14日、*2-7のように「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が発足し、会見で小泉元首相は「国民全体で原発を止めていこうという強いうねりが起きているのを実感している」とし、「いずれ国政選挙で脱原発が大きな争点になる時がくる」と力を込められたそうで、やはり感がよいと思う。会長その他の役員は「顧問:細川護熙元首相、会長:城南信用金庫吉原毅相談役、副会長:中川秀直元自民党幹事長、島田晴雄(前千葉商科大学長)、佐藤弥右衛門(全国ご当地エネルギー協会代表理事)、事務局長:河合弘之(脱原発弁護団全国連絡会共同代表)、事務局次長:木村結(東電株主代表訴訟事務局長)、幹事:鎌田慧(ジャーナリスト)、佐々木寛(新潟国際情報大教授)、香山リカ(立教大教授)、三上元(元静岡県湖西市長)、永戸祐三(ワーカーズコープ理事長)」だそうだ。

(3)諫早干拓について
 *3-1、*3-2のように、諫早湾(長崎県)を鋼板で閉め切ってから20年が経過し、国の干拓事業で国内最大級の干潟は農地になり、諫早湾を含む有明海は漁業不振が深刻化した。そのため、2002~2016年度に、海底に砂を入れて耕したり、干潟に潮の流れをよくする水路を築いたりする工事をして、498億円という多額の公費を投入したが海は再生しなかった。自然の流れを壊した上で、海底に砂を入れて耕したり、干潟に潮の流れをよくする水路を築いたりするのが無意味なことは、やってみなくても明らかである。

 そのほか、国と自治体を合わせると、352億円の公費が投じられ、下水道を整備したり、水質を浄化したりして、調整池の水質改善を続けているそうだ。下水道の整備は干拓しなくても必要だが、水質浄化までしても調整池は富栄養化し、毎夏のようにアオコが大量に発生して、海の再生も池の水質改善も十分な効果が上がっていないのは、水が外に流れ出ないからである。逆に、有明海の方は貧栄養化して、養殖海苔が色落ちしたり、漁業不振になったりしているわけだ。

 そのため、調整池のアオコの調査を続ける熊本保健科学大の高橋徹教授(海洋生態学)は「病気なら検査して、診断し、効果のある治療法を選ぶ。有明海の異変では検査にあたる開門調査をしていない。それ抜きでは効果的な対策も不可能なのに、あてどもなく血税が投じられている」と述べている。

 この干拓事業をめぐっては複数の訴訟があり、干拓が有明海の漁業不振の原因だと疑う漁業者らは開門を求めて国を提訴し、2010年には福岡高裁で開門を命じる判決が確定したが、その後、長崎地裁が干拓地営農者の主張を認めて、国に開門を差し止める仮処分決定を決定したため、国は確定判決を履行できなくなり、2014年6月から「罰金」として漁業者側に間接強制金を支払っている。

 諫早湾干拓工事は1952年に、約1万ヘクタールの湾全体を農地にする大干拓構想として浮上し、米余り時代になって規模を縮小したものだ。そして、畑地開発や高潮・洪水防止に目的を変え、1989年に着工して、1997年4月14日に、ギロチンを思わせる293枚の鋼板で湾の3分の1が閉め切られ、長さ7キロの堤防内側は干潟が陸地になり、672ヘクタールの農地に変わった。総事業費は、2530億円(3.7億円/ヘクタール)だ。

 造成された農地は長崎県の公社が国から51億円で買い取り、2008年から営農が始まって、個人・法人計40事業者が農地を借りて野菜などを作っている。1ヘクタールあたり約3.7億円かけて造成された農地だが、リース料は年20万円/ヘクタールで、総事業費をカバーし終わるまでには1850年かかる。そのため、1事業者の面積は平均16.7ヘクタールと大規模経営でよいが、国の事業としての費用対効果は低かったと言わざるを得ない。

 しかし、私は、公共事業は短期的に見れば費用対効果が悪くても、将来の地域振興を考えると必要なものもあり、「費用対効果が悪いから、その公共事業はやらない」と即座に言うべきではないと考えている。それでも、諫早湾の干拓工事は、戦後の米不足時代に湾全体を農地にする大干拓構想として浮上し、米余り時代になってから規模を縮小し、目的を畑作や高潮・洪水防止に変更して行っているもので、一度決めたら何があっても中止しない国の公共工事のあり方とそれによる膨大な無駄遣いが問題なのである。さらに、食料自給率向上のためには、畑作もよいが漁業も大切であるのに、農水省や国土交通省は、これまで水産業(海の環境保全が必要)は眼中にないかのような政策をとってきており、それが間違いだったのだ。

 政府の公共事業費は、景気対策のためと称して、1990年代に毎年のように当初予算で9兆円台を計上し、1998年度は当初と補正の合計が15兆円近くに達して、「大型公共事業=環境破壊、税の無駄遣い」と批判された。東日本大震災の復興事業においても、本当に必要な公共事業だけをなるべく安い価格で行うのではなく、国民の血税を使って高い価格で行う有害無益な公共事業も含まれているのが残念だ。

 これらの状況は、宮入長崎大名誉教授が言われるように、「農水省は諫早湾干拓事業の費用対効果を算出する際、失われる干潟の浄化能力や漁業被害を勘定に入れなかった。そのつけを今払っており、終わりの見えない国民の血税による後始末」になっており、調和した自然の大きな力を無視した公共事業は、国民に無限の負担を強いるのである。

 なお、*3-2に書かれている諫干開門差し止め請求訴訟判決骨子で、開門反対派は、 ①開門すれば農地に塩害など重大な被害が発生する恐れがある ②開門で漁場環境が改善する可能性は高くない ③開門調査で堤防閉め切りと漁獲量減少の関連性解明の見込みは不明 と主張し、判決も、開門で堤防内の調整池に海水が入り込み、農地に塩害や潮風害、農業用水の一部喪失が発生する恐れがあるため、生活などの基盤に直接関わり重大」と指摘している。

 しかし、①については、半島・島・有明海の他の干拓地では堤防が無くても農作物ができているので根拠がなく、②③は、本明川、田古里川、船津川、境川、深海川、二反田川、有明川、西郷川、神代川、土黒川などから流入していたミネラルが海へ拡散するのを堤防の閉め切りで不自然に止めてしまったことが原因であることは誰が見ても明らかである。そのため、それを確認するために開門調査をしようとしているわけなのだ。

 さらに、開門しても、諫早湾には多くの川が流れ込んでいるため、調整池は完全な塩水にはならないが、仮に塩水になったとしても、*3-3のように、「ウオータープラザ北九州」は海水と下水から飲用水レベルの真水を精製する技術も確立しており、諫早市は下水道を整備しているため、その下水道から農業用水を作ることは容易で、むしろ精製しすぎずに窒素やリンが少し残っている方が、肥料が節約できそうである。

(4)これだけ1000億円単位の無駄遣いが多いのに、福祉・教育だけは消費税を上げなければ財源がないとするのはおかしいこと
 そもそも、保険とは、「将来起こるかもしれないリスクに対して、予測される発生確率に見合った一定の保険料を加入者が負担して万一の事故に備える制度で、さまざまな事故や災害から生命・財産を守る為の合理的な防衛策」とされている(http://www.nihondaikyo.or.jp/insurance/08.aspx 参照)。

1)介護保険の負担増について
 2017年4月15日、*4-1のように、与党が、高所得者のサービス利用時の負担割合を2割から3割に引き上げ、大企業社員や公務員らの保険料負担を増やす内容の介護保険関連法案の採決を強行した。この間、TVは森友学園問題や殺人の容疑者(犯人と確定していない)が捕まったという話ばかりをいっせいに行い、介護保険関連法案に関する報道は極めて少なかった。
 
 しかし、痛みがあるか否か以前に、将来起こるかもしれないリスクに対して、そのリスクが発生する確率に見合って保険料を支払っているのに、保険給付が行われる段階になって給付額に所得制限を設けるのでは、保険とは言えない。その上、介護保険で言っている“現役並み所得”というのは、「単身世帯で年収383万円以上、夫婦世帯では年収520万円以上」と、夫婦で医療費や介護費を負担しなければならない高齢者夫婦にとって、高所得とは言えない金額だ。

 そして、これによって節約されるのは、健康な生産年齢人口の人のために、景気対策と称して政府が行った1000億円単位の無駄遣いのほんの数%なのだから、どこか大きく間違っている。

 つまり、厚労省管轄の保険設計は、保険料の支払い時と給付時の両方において所得で差をつけており、とても保険とは言いがたく、税だとすれば二重課税になっているのである。

2)“こども保険”構想?
 自民党の小泉進次郎衆議院議員を中心とする若手議員でつくる小委員会が、*4-2のように、2017年3月29日に、「少子化に歯止めをかけるため」として、「こども保険」構想を発表したそうだ。

 「こども保険」を子育て支援の財源にするという根拠は、子どもが必要な保育・教育などを受けられないリスクをなくすことだそうだが、子どもが必要な保育・教育を受けられなければ、その子は稼ぎ手になれず、国の発展にも寄与できないため、それは個人のリスクというよりも、政府の予算の使い方における優先順位の問題である。つまり、教育や保育は、本人のためであると同時に国の礎でもあるため、1000億円単位や1兆円単位の無駄遣いをしながら、「財源がない」などと言って疎かにすべきものではないのだ。

 私自身は、幼児教育は3歳から始め、それ以前を保育として、幼児教育以降は義務教育として無償化するのがよいと考える。そして、3歳未満(0、1、2歳)の保育は、夫婦で交互に育児休暇をとれば家庭で行うという選択肢もできるため、高くない保育費を徴収するのがよいだろう。また、義務教育は高校卒業の18歳までとし、中学・高校は一貫校として行く学校を選択でき、入試を受ける形式にするのがよいと考える。

 そのため、「子ども保険」は不要で、保育・教育の費用は、堂々と一般財源から出せばよい。

<膨大な原発事故費用>
*1-1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS09H0H_Z01C16A2000000/ (日経新聞 2016/12/9) 福島廃炉・賠償費21.5兆円に倍増 経産省が公表
 経済産業省は9日午前、東京電力福島第1原子力発電所の廃炉や賠償などの費用総額が21兆5000億円にのぼるとの見積もりを公表した。廃炉費用が8兆円に上振れしたことなどにより、これまでの想定の11兆円から倍増した。賠償費用の一部を新たに新電力にも負担させるようにして、巨額の事故処理費用を賄う。経産省が9日示した見積もりでは、廃炉は従来の2兆円から8兆円に、賠償は5兆4000億円から7兆9000億円に、除染は2兆5000億円から4兆円に、中間貯蔵施設の整備費用は1兆1000億円から1兆6000億円にそれぞれ膨らむ。このうち廃炉費用は原子力損害賠償・廃炉等支援機構が国内外の有識者へのヒアリングに基づく試算として示した。ただ、溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し方法など廃炉の詳細はまだ決まっておらず、経産省は合理的な見積もりは現段階で困難としている。東京電力ホールディングスは9日午前に開かれた「東京電力改革・1F問題委員会」で送配電や原子力事業で再編・統合を検討する方針を示した。両事業の再編で企業価値を高め、廃炉費用を捻出する。国は東電向けの無利子融資枠を今の9兆円から13兆5000億円に引き上げるほか、廃炉費用を積み立てて管理する基金をつくり、長期に及ぶ廃炉や賠償が円滑に進むようにする。賠償総額7兆9000億円のうち、新電力による負担は2400億円程度になる。新電力が40年かけて支払う場合、新電力を利用する標準家庭の電気代に月平均で18円が上乗せさせる計算となる。

*1-2:http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF03004_T00C13A9MM0000/ (日経新聞 2013/9/3)福島原発、汚染水対策に470億円 政府が基本方針、遮水壁、建設前倒し
 東京電力福島第1原子力発電所から高濃度の放射性物質を含む汚染水が漏れている問題で、政府は3日、約470億円の国費を投じ政府主導で解決する方針を固めた。国の全額負担で原子炉建屋への地下水の流入を遮断する凍土壁を設置するほか、汚染水を浄化する装置も増設する。東京電力主体の従来の対策よりも前倒しで事態を解決できるようにする。3日に開いた原子力災害対策本部で汚染水対策の基本方針を示した。安倍晋三首相は「世界中が注視している。政府一丸となって取り組みたい」と述べた。対策費は凍土壁の建設費で320億円、浄化装置の開発費で150億円と見積もった。対策費のうち約210億円は2013年度予算の予備費でまかない、年度内に対策に取りかかる。約2年の工期がかかる凍土壁の建設を前倒しする。対策費は概算で、凍土壁や浄化装置の開発が難航すれば上振れする可能性がある。凍土壁は建屋のまわりの土を冷却剤の循環により凍らせて地下水の浸透を防ぐ設備。原発内にたまった汚染水を浄化する多核種除去設備(ALPS)も、東電が設置する3系統に加え、国が高機能な浄化設備を増設する。汚染水漏れが見つかった急造タンクは溶接のしっかりしたタンクに入れ替える。汚染水対策に向けた体制も強化する。従来は経済産業省や原子力規制庁が汚染水問題に対処していたが、国土交通省や農林水産省も加えた関係閣僚会議を発足させる。地下水や土壌改良の専門家を集め、政府一丸で対策にあたる態勢を整える。東電や地元との連携を深めるため、国の現地事務所も新設。福島第1原発の周辺に常駐する担当官を増やし、情報収集や対策協議を密にする。基本方針には、▽建屋に流れ込む地下水くみ上げ▽地下坑道(トレンチ)にたまっている高濃度汚染水の除去▽汚染水の海への漏洩を抑えるための地盤改良――などを盛り込んだ。個々の対策の実施計画も明らかにし、早期解決に向けた姿勢を内外に示す。東電は7月下旬、福島第1原発から汚染水が海洋に流出している可能性を認め、流出量を1日300トンと推計した。対策は後手に回り、8月には汚染水をためるタンクからの漏洩が見つかるなど事態は悪化の一途をたどっていた。原子力規制委員会は汚染水問題が、国際原子力事象評価尺度(INES)でレベル3(重大な異常事象)に相当するとの評価を決定。国内外に懸念が広がっているため、政府は「対策を東電任せにせず、国が前面に立つ」(安倍首相)との姿勢を打ち出していた。
<政府の主な汚染水対策>
■体制・資金
・経済産業省や国土交通省などが関係閣僚会議を設置。東京電力や地元と連携する現地事務所を新設し、国の担当官が常駐
・総額470億円を投入。うち2013年度予算の予備費を210億円つかい、対策を前倒し
■対  策
・建屋を凍った土で覆う遮水壁の設置(320億円)
・汚染水から放射性物質を取り除く装置を新設(150億円)

*1-3:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/424128 (佐賀新聞 2017年4月24日) 玄海再稼働へ、事故時対応約束 今村氏発言後引き、「国が責任」に疑念
 九州電力玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の再稼働に同意するかどうか、佐賀県知事の最終判断が目前に迫った。万一事故が発生した場合、国は「責任を持って対処する」と繰り返すが、福島第1原発事故の自主避難者の帰還を巡って「本人の責任、判断だ」と発言して撤回した今村雅弘復興相の言動が後を引き、国への疑念はくすぶる。福島事故への対応は、原発事故に対する国の責任の取り方の先例になるだけに、厳しい視線が注がれている。
▽故郷が汚染 
 「今村さんって佐賀出身でしょ? ふるさとが放射能に汚染されてみないと、私たちの痛みは分からないんでしょうか」。福島市から佐賀市に自主避難している渡辺弘幸さん(55)は、ため息交じりにつぶやいた。事故直後、原発から約60キロ離れた福島市にも放射性物質が飛来した。国の避難指示は出なかったが、持病が心配で、母親を連れて避難することを決意した。だが、母親は「どうせこの先、長くないから」と残り、1人でふるさとを離れた。1年半前、事故で足を骨折して仕事を続けられなくなった。自主避難者に対する住宅の無償提供支援が3月で終了し、家賃が重くのしかかる。「自分の判断で避難したから、自己責任と言われればそうかもしれないが、原発を推進してきた国の責任はどうなる」
▽にじむ距離感 
 事故の翌年、2012年6月にできた「原発事故子ども・被災者支援法」は、被災者の生活支援を、原発を推進してきた国の責務として行うと定め、自主避難者も救済対象にしている。衆参両院の全会一致で可決され、今村氏も賛成した。避難者の支援活動に取り組み、法案作りに関わった福田健治弁護士は「今村氏は行政トップとして法を誠実に執行する立場なのに、支援法の規定を知らなかったんだろうか」と嘆く。
政府は「福島への帰還こそが早期復興につながる」として、避難指示の解除を段階的に進め、避難者への生活支援策を縮小していった。支援法も、具体的な施策を決める段階で対象者が限定され、支援の中身が形骸化していった。今村発言の半月前の3月17日、避難住民らが起こした集団訴訟で前橋地裁(群馬県)は、原発事故の国の過失責任を認める判決を出した。放射性物質への恐怖や不安にさらされずに暮らす「平穏生活権」が侵害されていると指摘した。国は引き続き争う姿勢で、避難者との距離感がにじむ。
▽切り捨て 
 福島原発事故による広域避難の実態を、鳥栖市などで調査してきた立教大学の関礼子教授(社会学)は懸念する。「社会の中で、事故の記憶とともに被災地への関心が薄れていっている。そうした中、政府が示す姿勢は、被害を受けた人たちを切り捨てようとしているようにも映る」。その上で、今村氏の発言は避難者だけに関わる問題ではないと強調する。「原発の再稼働を進めたい国が『責任を取る』と言った場合の、責任の取り方とはどういうものなのか、今の対応が先行事例になる。原発立地地域の人たちは自分の身に引き寄せて、見ておく必要がある」

<原発再稼働>
*2-1:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/421590 (佐賀新聞 2017年4月14日) 県議会の玄海再稼働容認、住民の安全最優先に判断を
 九州電力玄海3、4号機(東松浦郡玄海町)の再稼働に関し、佐賀県議会が同意した。過半数を占める自民党の「再稼働容認」とする決議案が賛成多数で可決された。既に原発のある玄海町は同意している。決議を「極めて重く受け止める」とした知事は同意する見通しだが、不安や反対の声は根強い。判断を下す際の十分な説明が必要だ。臨時県議会では3本の決議案が提出された。自民などは、電力の安定供給といった観点から「再稼働の必要性が求められる」と提案し、避難計画の充実や地域振興などを国に求めた。民進などは、条件付きながら「再稼働せざるを得ない」、共産などは「拙速な判断と同意をしないよう強く求める」と主張した。しかし十分な議論が尽くされたのか、疑問も残る。知事は再稼働に同意するかどうかの判断の前提として、県議会の意思表示を求めていた。臨時県議会の12日の質疑でも、県民の代表としての議会の意見が大切であることを繰り返し表明。住民投票に否定的な答弁をしたのは、その裏返しともいえよう。地方自治を支えているのは首長と議員を住民が直接選挙で選ぶ「二元代表制」で、間接民主主義をとっている。原発再稼働というテーマが、多数決になじむのかという論議もあろう。再稼働に前向きだった自民党の案が通るのは予想された。しかし、県民にはいろいろな意見があり、佐賀新聞社が昨年秋に実施した県民世論調査では、反対が賛成を上回った。不安に感じる県民がいる以上、知事は十分に留意する必要がある。県主催の住民説明会、知事と県内20市町長との懇談会も開催した。伊万里市長ら3首長が再稼働に反対の意思を表明し、ここにきて長崎、福岡県から反対や不安、懸念の表明が相次いでいる。事故が起きれば、県境は関係ない。地元同意の範囲をめぐる議論が起きるのも、当然といえる。地元同意に法律上の明確な規定はない。このため臨時県議会の質疑では、議員から知事に対し、現在より広い範囲の同意を必要とするよう、法的な整備も含めて国に求める意見が出た。知事も「根本の議論が必要」と応じた。今後の判断に際し、隣県も含めた住民や首長の声を真摯(しんし)に酌(く)んでほしい。与野党を問わず、避難計画を実効性のあるものにすべきという主張は根強い。20市町長との懇談会でも、多くの首長が条件付きで再稼働に賛成する立場を表明した上で、福島原発事故の被害の長期化とともに、事故時の避難者の受け入れに不安を訴えた。「道路が混雑し、地震の場合は住民の避難も困難になる」「道路も整備しないとパニックになる」などと、懸念と対策を求める声が相次いだ。県議会の質疑では、避難計画は国が審査して同意を与える法整備が必要との提案があった。「それも一考に値する」として知事は、国にどういう提言ができるか検討すると答弁した。原発は国策である以上、国がしっかり対応すべき課題ではあるが、任せるだけではいけない。県レベルでも周知や渋滞などの対策が求められる。再稼働へ向けた手続きは進んだ。ひとたび原発が動けば、後戻りはできないとの覚悟がいる。知事は住民の安全を最優先に慎重に判断してほしい。

*2-2:http://qbiz.jp/article/108174/1/ (西日本新聞 2017年4月22日) 世耕経産相が玄海原発視察
 九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に向けて、世耕弘成経済産業相は22日、九電の瓜生道明社長の案内で同原発を視察し、原子力規制委員会が新規制基準適合を認めた安全対策を確認した。午後には佐賀県庁で山口祥義知事と会談する。山口知事は世耕氏との会談で再稼働や事故時などの「国の責任」を再確認し、週明けにも地元同意を表明する方針。一方、玄海原発30キロ圏の8市町のうち半数の同県伊万里、長崎県松浦、平戸、壱岐の4市長は反対を表明している。世耕氏は玄海原発で、東京電力福島第1原発事故後に配備した移動式大容量ポンプ車や格納容器が破損した場合に放射性物質の飛散を防ぐ放水砲などを見て回った。山口知事との会談後には鹿児島県薩摩川内市で九電川内原発も視察する。

*2-3:http://qbiz.jp/article/108179/1/ (西日本新聞 2017年4月23日) 玄海原発、24日にも再稼働同意 佐賀知事、経産相と会談
 九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に向けて、佐賀県の山口祥義知事は22日、世耕弘成経済産業相と県庁で会談した。山口知事は会談後、記者団に「大臣から国として責任を持つとの強い決意の言葉を頂いた。(地元同意の判断は)できるだけ早くと思っている」と述べ、週明けの24日にも同意を表明する考えを示した。山口知事は、同意を判断する際の最終手続きとして世耕氏との会談を国に要請していた。会談で世耕氏は「原子力政策に政府として責任を持つ」と述べ、再稼働への理解を求めた。山口知事は「言葉は重く受け止める」と評価した。知事は、住民説明会では反対の声が大半で、県内の市長3人も反対していると伝え、使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物の最終処分での取り組み加速▽原子力に依存しない経済社会の確立▽避難計画の充実、原子力災害対策の継続的見直し−など6項目を求めた。国が避難計画策定を義務付ける玄海原発30キロ圏の8市町のうち、同県伊万里、長崎県松浦、平戸、壱岐の4市長は反対している。事実上、県と玄海町に限られている地元同意の範囲拡大について、世耕氏は記者会見で「同意は法律上、再稼働の要件とはなっていない」と否定的見解を示した。会談に先立ち、世耕氏は玄海原発を訪れ、福島第1原発事故後に配備した移動式大容量ポンプ車などの安全対策を確認した。山口知事との会談後には、鹿児島県薩摩川内市で九電川内原発も視察した。
●再稼働へ“儀式”着々
 佐賀県玄海町の九州電力玄海原発再稼働に向け、同県の山口祥義知事が「地元同意」を判断する際の最終手続きとして国に求めた世耕弘成経済産業相との会談が22日、終わった。国が避難計画策定を義務付ける原発30キロ圏の4市長が反対し、県庁前で住民団体の約100人が「再稼働やめろ」「県民の話を聞け」と声を響かせる中、知事は24日にも再稼働同意を表明する見通しで、世耕氏との会談にはセレモニー色がにじんだ。会談で山口知事は「県民から寄せられた意見のほとんどは再稼働に反対」と訴え、福岡、長崎両県にも不安や反対の声が多いと強調したが、世耕氏が「政府として責任を持ってエネルギー政策、原子力政策を進める」と応じると「大臣の発言は重く受け止める」とあっさり評価。「今後も地元の意見に真摯(しんし)に向き合っていただきたい」と述べ、約25分間で会談は終了した。佐賀県では1月以降、県の住民説明会や第三者委員会、県内全ての首長との懇談、担当大臣との会談など、知事が同意を判断するための意見集約が進められてきた。しかし、玄海原発の再稼働は山口知事が初当選した2015年1月の知事選の公約。知事は今月13日の県議会の容認決議を重視する考えも示していた。会談後、山口知事は記者団に判断条件は出そろったかと問われ「そうですね。あとは今日、話を頂いたことを考えて説明したい。できるだけ早く」と述べた。世耕氏は「佐賀県の皆さんに再稼働を進める政府方針を説明する良い機会になった」と満足そうに話した。府方針を説明する良い機会になった」と満足そうに話した。

*2-4:http://www.nikkei.com/article/DGXLASJC24H32_U7A420C1000000/?dg=1&nf=1 (日経新聞 2017/4/24) 玄海原発再稼働に同意、佐賀知事「重い決断」
 佐賀県の山口祥義知事は24日午後、同県庁で記者会見を開き、九州電力玄海原子力発電所3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に同意する考えを表明した。山口知事は「熟慮に熟慮を重ねた結果、原子力発電に頼らない社会をつくるという強い思いを持ちつつ、現状においては(再稼働は)やむを得ないと判断した」と述べた。知事の表明で、再稼働に向けた地元同意の手続きは完了。福島原発事故を受けて新規制基準が導入された以降では、鹿児島県(川内原発)、愛媛県(伊方原発)、福井県(高浜原発)に続き4例目となった。地元同意をめぐっては立地自治体の玄海町が3月初旬までに同意を表明し、佐賀県議会も13日に容認決議を行った。ただ、福島の事故の大きさゆえに、県民の不安の声は根強く、「非常に重い判断だった」と知事。「県民83万人全員が同じ方向を向くことはない。我が国のエネルギー事情を考えたとき、火力発電がフルパワーで稼働して環境問題もある中で、総合的に判断した」と最終判断の理由を説明した。山口知事は会見に先立ち、世耕弘成経済産業相に電話で再稼働同意を伝達。22日の会談で国側が示した原発政策の実行に加え、「自然エネルギーの普及促進を改めてお願いした」と述べた。今後の焦点は玄海原発3、4号機がいつ稼働するかに移る。原子力規制委員会が現場で設備を確認する使用前検査などが必要で、稼働は今秋メドになる見通しだ。

*2-5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/422599 (佐賀新聞 2017年4月18日) 玄海原発、基準適合は不当 福岡の研究会が規制委に異議申し立てへ
 九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県東松浦郡玄海町)が、新規制基準に適合すると認めた原子力規制委員会の許可は不当だとして、大学の元教員や医師らでつくる「福岡核問題研究会」の有志は、規制委員会に異議を申し立てる審査請求をすることを決めた。研究会の有志5人が、行政不服審査法に基づき、許可の取り消しや、執行停止(再稼働の停止)を求める。審査請求期限の18日までに手続きする。理由として、福島第1原発事故の後、フランスは総勢300人の緊急対応部隊を新設したが、日本の新規制基準には対応する措置がなく、「世界基準に程遠いこと」や、規制委がそもそも重大事故時の住民避難などの対策の有効性を審査の対象にしていないことが、「法律が求める責務からの責任逃れであり違法」などと主に8項目を挙げている。研究会メンバーが17日、佐賀県庁で会見を開き、豊島耕一佐賀大学名誉教授は「県議会は安全性が認められたとしているが、実際には程遠い状況」と批判した。

*2-6:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/423954 (佐賀新聞 2017年4月23日) 反原発団体、経産相に抗議「県民犠牲にするな」
「県民を犠牲にするな」。玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)の再稼働を巡り、山口祥義佐賀県知事と世耕弘成経済産業相が22日面会した県庁の前では、反原発の市民団体が抗議行動した。原発再稼働に前のめりの姿勢を示す国や手続きを着々と進める山口知事に対し、集まった約150人が怒りの声を上げた。午後2時18分、世耕経産相を乗せた車が急速度で正門から中に入り、参加者は「合意なき国策を押し付けるな」と声を張り上げた。県平和運動センターの原口郁哉議長は「知事は反対や疑問の声に答えずに再稼働へのステップを積み重ねている」と批判した。知事と面談して経産相が県庁を後にする午後3時10分まで約50分にわたり、「無責任な同意は許さない」などとシュプレヒコールした。参加した徳光清孝県議(社民)は「知事の同意後も再稼働まで時間がある。阻止するため粘り強く取り組む」、武藤明美県議(共産)も「福島の原発事故や自主避難者に対する復興相の失言で明らかなように、国も電力会社も原発に責任は取れない」と非難した。玄海原発の運転差し止め訴訟を続ける市民団体の石丸初美代表は「命や生活が脅かされ、核のごみも未来に押し付ける原発を続けられるわけがない。大臣は知事ではなく県民に説明するべき」と訴えた。経産相が視察した玄海原発の前でも抗議活動が行われた。

*2-7:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201704/CK2017041502000133.html (東京新聞 2017年4月15日) 原発ゼロ・自然エネ連盟 発足 小泉元首相「国民運動に」
 各地で活動する脱原発や自然エネルギー推進団体の連携を目指す全国組織「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が十四日発足し、東京都内で記者会見を開いた。顧問に就任した小泉純一郎元首相は「自民党と革新勢力双方の支持者を巻き込んだ国民運動にしていく」と訴えた。福島第一原発の事故後に全国で進められた脱原発の運動は、連携がなく広がりを欠いていたとの判断から設立を決めた。全国組織として事務所を置き、講演会や意見交換会の開催、政府への提言、優れた活動をした団体の表彰などを行う。会見で小泉氏は「国民全体で原発を止めていこうという強いうねりが起きているのを実感している」と強調。その上で「いずれは国政選挙においても脱原発が大きな争点になる時がくる」と力を込めた。会長には、経営者として脱原発を訴えてきた城南信用金庫の吉原毅相談役が就任。吉原氏は「原発が経済的にも採算が合わないのは明らかで、自然エネルギー化は世界の流れだ。日本全国の声を結集していく」とあいさつした。連盟には約百五十の団体が参加する予定。主な役員は次の通り。
 顧問=細川護熙(元首相)▽副会長=中川秀直(元自民党幹事長)島田晴雄(前千葉商科大学長)佐藤弥右衛門(全国ご当地エネルギー協会代表理事)▽事務局長=河合弘之(脱原発弁護団全国連絡会共同代表)▽事務局次長=木村結(東電株主代表訴訟事務局長)▽幹事=鎌田慧(ジャーナリスト)佐々木寛(新潟国際情報大教授)香山リカ(立教大教授)三上元(元静岡県湖西市長)永戸祐三(ワーカーズコープ理事長)

<諫早干拓>
*3-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12878773.html
(朝日新聞 2017年4月6日) 諫早、止まらぬ税金投入 国の干拓事業、湾閉め切り20年
 国の干拓事業で、諫早湾(長崎県)を鋼板で閉め切った「ギロチン」から14日で20年。国内最大級の干潟は農地になったが、湾を含む有明海は漁業不振が深刻化し、海の再生などに多額の公費投入が続く。巨費を投じた大型事業は、今も先が見えない。
■海再生498億円/判決守れず「罰金」
 2008年に完成した干拓事業。今も続く支出のうち、最も規模が大きいのが有明海再生事業だ。湾が閉め切られた3年後の00年、有明海特産のノリが大凶作に見舞われた。干拓事業との因果関係を調べるため、農林水産省の第三者委員会は、短・中・長期の開門調査を提言した。だが、農水省は中長期の開門をしない代わりに再生事業を始めた。02~16年度の事業費(予算ベース)は計498億円。海底に砂を入れて耕したり、干潟に潮の流れをよくする水路を築いたりしている。もう一つの大きな支出は堤防の内側の調整池の水質改善だ。淡水化され、干拓地の農業用水になるが、生活排水などが流れ込むと水質が悪化しやすい。そこで長崎県などが下水道整備や水質浄化を進めてきた。04~15年度に国と自治体合わせて352億円(決算ベース)の公費を投じた。それでも池では毎夏のようにアオコが大量に発生している。海の再生も池の水質改善も十分な効果が上がらないまま、毎年続いている。調整池のアオコの調査を続ける熊本保健科学大の高橋徹教授(海洋生態学)は「病気なら検査して、診断し、効果のある治療法を選ぶ。有明海の異変では検査にあたる開門調査をしていない。それ抜きでは効果的な対策も不可能なのに、あてどもなく血税が投じられている」と話す。公金投入は、こうした事業だけにとどまらない。干拓事業をめぐっては複数の訴訟が争われている。干拓が有明海の漁業不振の原因と疑う漁業者らは開門を求めて国を提訴。10年に開門を命じる福岡高裁判決が確定した。一方、長崎地裁は干拓地の営農者の主張を認め、国に開門を差し止める仮処分決定を出した。国は確定判決を履行できなくなり、14年6月から「罰金」として漁業者側に間接強制金を支払っている。現在は1日あたり90万円、3月10日時点で総額7億6500万円に上る。判決を履行するまで積み上がり、このままだと年内に10億円を超える。仮に開門すると、国は農業者側に罰金を支払う義務も負っていて、どちらに転んでも支払いは続く。漁業者らは強制金を海の再生のための基金に積み立てている。その一人、佐賀県太良町の平方宣清(のぶきよ)さん(64)は言う。「国の役人は自分の懐が痛まないから、こんな異常な状況を放置しておける。納税者としては納得できない」
■低い費用対効果
 諫早湾干拓は戦後間もない1952年、約1万ヘクタールの湾全体を農地にする大干拓構想として浮上した。その後、米が余る時代になり2度、規模を縮小。畑地開発や高潮・洪水防止に目的を変え、89年に着工した。97年4月14日、ギロチンを思わせる293枚の鋼板で湾の3分の1を閉め切った。長さ7キロの堤防の内側は干潟が陸地になり、672ヘクタールの農地に姿を変えた。総事業費は2530億円。造成された農地は長崎県の公社が国から51億円で買い取った。2008年から営農が始まり、個人・法人の計40事業者が農地を借りて野菜などを作る。1ヘクタールあたり約3億7648万円をかけて造成された農地。リース料は1ヘクタールあたり年20万円(標準額。当初は15万円)だ。1事業者の面積は平均16・7ヘクタールの大規模経営で、11年度の県の調査ではタマネギやニンジンなど主力5品目で計約2万3千トンの収穫があった。ただ、リース料の未納などでこれまでに9事業者が干拓地を去った。事業の費用対効果は農水省の試算で0・81。当初は1・03だったが難工事のため事業費が予定の倍近くに膨らみ、望ましいとされる1を割り込んで費用が事業効果を上回っている。
■大型事業、復活の動き 震災復興やアベノミクスで
 政府の公共事業費は、バブル崩壊後の90年代半ばから00年代初めがピークだった。自民党政権は景気対策のため毎年のように当初予算で9兆円台を計上。98年度には当初と補正の合計が15兆円近くに達した。一方で長良川河口堰(かこうぜき)(三重県)の反対運動が呼び水になり、大型公共事業が「環境破壊」「税の無駄遣い」と批判の的になる。01年には「構造改革」を掲げた小泉政権が発足し、公共事業費は削減に転じた。09年、「コンクリートから人へ」を掲げた民主党に政権交代すると、「事業仕分け」などにより削減が進んだ。だが、11年の東日本大震災後、野田政権は一転、復興費を含む公共事業費を増やした。高速道路や新幹線など、凍結していた大型事業の復活も認めた。安倍政権は「アベノミクス」の「第2の矢」で財政出動を掲げる。「国土強靱(きょうじん)化」をうたい、防潮堤や道路など災害に備えたインフラの整備が進む。当初予算は14年度から6兆円弱での微増が続く。関門など全国6海峡をトンネルや橋で結ぶプロジェクトなど凍結された事業の復活を、防災の名の下でめざす動きも活発だ。
■教訓学びとって
 宮入興一・長崎大名誉教授(財政学)の話 農水省は、諫早湾干拓事業の費用対効果を算出する際、失われる干潟の浄化能力や、漁業の被害を勘定に入れていなかった。そのつけを今払っているということだろう。国民の血税による終わりの見えない後始末だと言える。公共事業が無限の国民負担を強いることもあるという、最悪の事例だ。この教訓を、国も納税者も学びとらなければならない。

*3-2:http://mainichi.jp/articles/20170417/k00/00e/040/253000c (毎日新聞2017年4月17日) 諫早訴訟:開門差し止め命じる判決 長崎地裁
 国営諫早湾干拓事業(諫干、長崎県)の干拓地の営農者らが国に潮受け堤防の開門差し止めを求めた訴訟で、長崎地裁は17日、開門差し止めを命じる判決を言い渡した。松葉佐(まつばさ)隆之裁判長(武田瑞佳裁判長代読)は、もし開門すれば「農地に塩害などの重大な被害が発生する恐れがある」として、事前対策工事によって被害は防げるとする国の主張を退けた。諫干を巡る訴訟で、開門差し止めを命じる判決は初めて。2010年に国に5年間の開門調査を命じた福岡高裁判決が確定しているが、確定判決と逆の請求を認める判決は極めて異例。堤防閉め切りから今年で20年を経て“司法判断のねじれ”は一層深まった。国側補助参加人の漁業者側は控訴の意向を示したが、国が2週間以内に控訴しなければ判決が確定することから対応が注目される。判決は開門で堤防内の調整池に海水が入り込み「農地に塩害や潮風害、農業用水の一部喪失が発生する恐れがある。生活などの基盤に直接関わり重大」と指摘。これに比べ、国が主張する開門による漁場環境の改善効果は高くなく、開門調査で漁獲量減少との関連性を解明できる見込みは不明だと判断した。潮風害などを防ぐ事前対策工事も「実効性に疑問があるものがある」と結論づけた。判決を受け、山本有二農相は「判決内容を詳細に分析し関係省庁と連携しつつ適切に対応したい」とコメントした。訴訟は11年、福岡高裁確定判決への対抗措置として営農者らが起こした。長崎地裁は13年、営農者らが申し立てた開門差し止めの仮処分を認める決定を出し、国が不服を申し立てた異議審(15年)でも決定を支持した。開門差し止め訴訟を巡っては長崎地裁が16年1月に開門しない前提の和解を勧告したが今年3月に和解協議が決裂した。
●諫干開門差し止め請求訴訟判決骨子
・国に開門差し止めを命じる
・開門すれば農地に塩害など重大な被害が発生する恐れがある
・開門で漁場環境が改善する可能性は高くない
・開門調査で堤防閉め切りと漁獲量減少の関連性解明の見込みは不明
【ことば】国営諫早湾干拓事業
 大規模農地造成や低平地の水害対策を目的に1997年に湾内を全長7キロの潮受け堤防で閉め切った。2008年に完成し、総事業費約2530億円。約670ヘクタールの農地は、長崎県が全額出資する県農業振興公社が国から約51億円で購入し、営農者(個人・法人計40)に貸し付け、野菜や麦が栽培されている。農業産出額は年間計34億円。

*3-3:http://qbiz.jp/article/105683/1/ (西日本新聞 2017年3月16日) 南アで真水化事業へ 北九州市が日立と覚書
 北九州市は15日、南アフリカ東部のダーバン市で新たな水ビジネスを始める日立製作所(東京)と連携協力する覚書を結んだ。同社は、北九州市が民間企業に無償貸与している研究施設「ウオータープラザ北九州」(小倉北区西港町)で海水と下水から飲用水レベルの真水を精製する技術を確立しており、今後、ダーバン市で実証事業を手掛け、北九州市が現地スタッフを同研究施設に招き人材育成に当たる。記者会見した同社などによると、ダーバン市関係者が2013年に同研究施設を視察したことをきっかけに実証事業のオファーが来た。現地は少雨による慢性的な水不足に陥っているという。同社は飲用水の供給を依頼されており、現地施設を19年9月に完成させ、1日6250トン(2万〜3万人分)を精製。将来的に商用化して10万トン(40万〜50万人分)の供給につなげたい考えだ。11年に開業した同研究施設は、海外の89カ国を含め7700人が視察。今後、ダーバン市の海水や下水の水質に近づけた条件での実験も行っていく。北橋健治市長は「水資源が乏しい他国への普及も考えられ、官民の連携をさらに深めたい」と話した。

<財源は消費税とする福祉・教育、他の税収は何に使うのか>
*4-1:https://www.ehime-np.co.jp/article/news201704165417 (愛媛新聞社説 2017年4月16日) 介護法案強行採決 国民に視線を向けて議論尽くせ
 衆院厚生労働委員会で、与党が介護保険関連法改正案の採決を強行した。民進党議員が質疑で森友学園問題を取り上げたことに、与党が反発した結果だ。法案は、高所得者のサービス利用時の負担割合を2割から3割に引き上げ、大企業社員や公務員らの保険料負担を増やすなど、国民への影響は大きく、十分な審議が欠かせない。痛みを強いる内容でもあり、理解を得るには丁寧な説明が必要だ。にもかかわらず、その責務を放棄して、不都合なことにふたをするような身勝手な国会運営は到底容認できない。与党は「法案以外の質問をするのは、十分に質疑をしたという証拠だ」と正当化するが、実質合意していた採決予定日まで2日を残していた。議論を尽くしていないことは、与党側も認識していたはずだ。この後、衆院本会議が見送られるなど国会は混乱。貴重な審議時間も失われてしまった。「法案以外の質問」を理由に審議を打ち切り、採決することがまかり通れば、民進党議員が非難したように「言論封殺」と言わざるを得ない。ましてや、今回の強行採決の背景に、森友学園問題に関わる「安倍晋三首相擁護」があったことは想像に難くない。首相に都合が悪い質問は許さないとばかりの与党の姿勢は、「言論の府」として看過できない。首相には国民の疑問に対し、正面から向き合い答える義務がある。安倍内閣の支持率は高水準を維持し、自民党内で首相の座を脅かす有力な対抗馬は見当たらないのが現状だ。首相や政権はこの状況に甘んじ、説明責任をなおざりにしていると言われても仕方あるまい。周囲も首相の意思を忖度(そんたく)しすぎではないか。国会議員が視線を向けるべきは時の権力者ではなく、国民であるという基本をいま一度認識すべきだ。介護法案は18日に衆院通過の見通しで、審議の場を参院に移す。「良識の府」である参院は政争が目に余る衆院を反面教師に、「数の力」に頼むのではなく議論を重ねてほしい。自民党の政権復帰、第2次安倍内閣の発足から4年4カ月。政権や与党による国民軽視や、議論封じ込めの「暴走」は今回が初めてではない。今なお懸念が根強い特定秘密保護法、安全保障関連法などでも強行採決。沖縄県の米軍普天間飛行場移設では、反対する沖縄の民意をよそに、政府が名護市辺野古沖で基地建設を強行する。政権の傲慢(ごうまん)な姿勢に、危うさが募る。今国会では「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案、衆院小選挙区の新区割りに関する公選法改正案など、与野党の激しい対立が予想される法案が残っている。介護法案と同様の手法で採決をごり押しするようなことは断じて許されないと、政権や与党は肝に銘じなければならない。

*4-2:https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_0405.html(NHK 2017.4.16) ビジネス特集:子育て世帯の負担軽減?“こども保険”構想
 増える待機児童、広がる教育格差。子どものいる家庭にとって心配事は増える一方です。自民党の小委員会は、子育て世帯を支援するため、今の公的年金の仕組みのように、働く人や企業などから保険料を徴収して子育て世帯の負担の軽減に充てる新たな仕組み、「こども保険」構想を発表しました。働き盛り世代に重くのしかかる子育ての出費。その軽減につながるのでしょうか?
●社会全体で支える「こども保険」
 自民党の小泉進次郎衆議院議員を中心とする若手議員でつくる小委員会は、3月29日、少子化に歯止めをかけるため、新しい社会保障制度として「こども保険」構想を発表しました。「年金、医療、介護には社会保険があるが、喫緊の課題である子育てに社会保険がない」として、子どもが必要な保育や教育などを受けられないリスクをなくそうと、社会全体で支えるとしています。具体的には「公的年金」や「介護保険」の仕組みのように、保険料を徴収して社会全体で子育て世代を支援する新たな保険制度をつくろうというものです。今の厚生年金や国民年金の保険料に上乗せする形で、働く人と企業などから幅広く徴収します。徴収した財源は、小学校入学前の子どもがいる世帯に対し、児童手当に上乗せしたり、待機児童の解消に向けて保育所の整備に充てたりするとしています。当面の案として、企業と働く人から賃金の0.1%ずつの保険料を集める案が考えられています。国民年金の加入者の場合、月160円を徴収します。小委員会によると、子どもが2人いる30代の世帯では、年収400万円の場合、月に240円の保険料の負担増となり、子どもが2人(高校生の場合は児童手当はない)いる50代の世帯では、年収800万円の場合、月に500円の保険料負担の増加になると試算しています。「こども保険」によって、およそ3400億円の財源が確保できることから、児童手当に上乗せする場合、子ども1人当たり月5000円を加算することなどが可能だとしています。
●幼児教育や保育の無償化も視野に
 小委員会は、医療や介護の改革が同時に進めば、企業と働く人から徴収する、「こども保険」の保険料率をそれぞれ0.5%まで引き上げ(国民年金の加入者は月830円に引き上げ)、財源の規模をおよそ1兆7000億円まで増やせるとしています。この場合、例えば小学校に入学する前の子どもがいる世帯には、子ども1人当たり2万5000円が支給できるようになるため、児童手当と合わせると、幼児教育や保育を実質的に無償化できるとしています。小委員会のメンバーは「医療・介護保険料は高齢化で今後も徐々に引き上げられることが予想されるが、改革を行うことで給付の伸びを抑えることはできる。まずは、なんとか0.1%の保険料でも導入したい」と話しています。小委員会では今の社会保障制度が高齢者偏重ではないかという問題意識もあり、「こども保険」の創設を「全世代型社会保険」の第一歩としたいという思いもあるといいます。厚生労働省によりますと、「待機児童」は去年10月の時点で、全国で4万7738人。2年連続で増えており、東京は1万2232人と4分の1を占めています。国は女性の就業率の向上なども念頭に十分な保育の受け皿を確保することを目指していますが、財源などの面で険しい道のりであることは言うまでもありません。今回の「こども保険」は、子育て支援の安定財源になり得るのではないかという期待も出ているのです。
●負担だけが増える世帯も
 しかし、小さな子どもがいない世帯にとっては、「こども保険」の保険料の負担だけが増えることになるため、実現に向けて慎重論が出ることは確実。小委員会でも、子どもがいない人たちの理解をどのように得るかが実現のカギになるとみていて、「子どもがいない人も、将来、社会保障の給付を受ける側になる。社会保障制度の持続性を担保するのは、若い世代がどれだけいるかだ。若い人を支援するということは、子どもがいる、いないに関係なく、社会全体の持続可能性につながる」と説明しています。また、政府内では「保険制度は、自分にふりかかるリスクに対し、個々が保険料を納めて制度として成りたっているので、子育て支援の財源は、保険制度にはなじまず、一般財源でやるべきではないか」という意見や、「保険料の徴収の対象が勤労者と事業者となっていて、『全世代型の社会保障』といいながら、高齢者からの徴収がないのは疑問だ」などという指摘も出ています。
●保険方式浮上の背景に財源問題
「こども保険」構想の背景には、「教育格差」の問題が指摘される中、与野党で「教育無償化」を進めようという議論が出ていることもあります。これまでに財源として消費税や国が使いみちを教育に限定した新たな国債「教育国債」を発行する案などが浮上しています。しかし、消費税を10%に引き上げた場合の使いみちはすでに決まっているほか、さらなる引き上げがいつになるかわからず、財源として当てにできるものではありません。「教育国債」の発行も「名を変えた赤字国債だ」という慎重論が根強く、実現に向けてハードルの高さが指摘されているのです。こうした中で出てきたのが、保険の仕組みというわけです。とはいえ「こども保険」は、まだ構想段階。使いみちなど、制度の詳細が決まったわけではなく、今後、自民党内に新たに特命委員会を設けて検討していくことになっています。「少子化対策」が言われて久しいですが、抜本的な対策は待ったなし。今後どういう議論が展開されていくのか注目していきたいと思います。


<予算から見た辺野古埋め立て>
PS(2017年4月25日追加):誰もが望む普天間基地の返還のためなら、既に滑走路のある離島は多く、そこに基地を移転すれば埋め立てなど不要で予算も少なくてすむ。にもかかわらず、*5-1、*5-2のように、辺野古でも大量の予算を使うことが目的であるかのように誰のメリットにもならない埋め立て工事が始まり、その結果は、諫早干拓事業と同様に、大量の血税を使って自然を壊し回復不能にして、沖縄の資産を破壊する結果になると思われる。

   
  辺野古の海   2016.12.28東京新聞 2017.4.25沖縄タイムス 2016.12.27朝日新聞

*5-1:http://digital.asahi.com/articles/ASK4S7HDWK4STPOB009.html?iref=comtop_8_06 (朝日新聞 2017年4月25日) 辺野古埋め立て護岸工事始まる 政府、5年で完了めざす
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画で、政府は25日午前、名護市辺野古沿岸部を埋め立てる護岸工事を始め、海に砕石が沈められた。工事が進めば、原状回復は困難になる。日米両政府が普天間返還合意をしてから21年が経ち、大きな節目を迎えた。辺野古の大浦湾に面した米軍キャンプ・シュワブ北側の浜辺では、午前9時20分ごろ、砂浜に設置された大型クレーンが動き出し、網に入れられた数十個の砕石をつり上げて、波打ち際に沈めた。護岸造成の地盤として海底に敷く捨て石とみられ、計5袋が海に入れられた。その後、午前11時時点までに目立った動きはない。この日着工したのは、埋め立て予定地の最も北に位置する場所。沖縄防衛局は今後、予定地の外側を囲む護岸を造成し、海を囲み終えた場所から年度内にも土砂の投入を始め、5年間での埋め立て完了を目指す。政府は当初、今月中旬の護岸工事着工も想定していたが、安倍政権と翁長雄志(おながたけし)知事の両者が支援する候補の一騎打ちとなったうるま市長選(23日投開票)が終わってからの着手となった。一方、県には25日朝、沖縄防衛局から「きょう着工する」と連絡があり、情報収集に追われた。基地問題を担当する県の吉田勝広・政策調整監は現地で工事の様子を確認し、「まるで沖縄の声を聞かない強引なやり方だ」と憤った。翁長雄志知事は、埋め立て工事に必要な「岩礁破砕許可」の期限が3月末に切れていると主張しており、工事により海底の岩礁が破壊されているのが確認されれば、工事差し止め訴訟を検討している。埋め立て承認の撤回や、県民の民意を改めて示す「県民投票」の可能性も模索している。普天間移設計画は、1995年の米兵による少女暴行事件を機に浮上した。日米は96年、普天間の返還に合意。計画は曲折を経て、辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部を埋め立てて、滑走路2本をV字形に配置する現行案になった。県内で反対運動が続く中、13年12月、当時の仲井真弘多(ひろかず)知事が政府からの埋め立て申請を承認。しかし、「辺野古阻止」を掲げて当選した翁長知事が15年10月にこの承認を取り消し、政府が県を提訴。16年12月の最高裁で県の敗訴が確定し、政府は護岸工事着工に向けて準備工事を急いでいた。

*5-2:http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/80555 (沖縄タイムス 2017.4.25) 辺野古の工事再開、知事は「あらゆる手法で」阻止姿勢 違法確認訴訟・敗訴から1カ月 
名護市辺野古の新基地建設を巡る違法確認訴訟の最高裁判決で沖縄県が敗訴してから20日で1カ月となった。敗訴を受け、翁長雄志知事は自身の承認取り消し処分を取り消し、国は昨年12月27日にキャンプ・シュワブ沿岸部の埋め立てに向けた工事を再開した。県は工事開始前の事前協議を求めているが国は応じておらず、本体工事に向けフロートの設置作業を急いでいる。知事は取り消し処分を取り消す一方、新基地建設は「あらゆる手法で阻止する」との姿勢を崩していない。3月で期限を迎える岩礁破砕許可やサンゴを移植する際の特別採捕許可、埋め立て本体工事の設計変更申請の不許可など知事権限を行使する考えだ。現在、県は2013年の埋め立て承認時に付した留意事項に基づく事前協議や岩礁破砕許可の条件が守られているかを確認するため海中に設置するコンクリートブロックの大きさや個数などの報告を求めている。だが、19日までに防衛局から返事はなく、県は国の留意事項違反などを根拠に承認の撤回を検討しているほか、県民投票の実施も視野に入れている。また、31日からは訪米し米議会関係者や有識者らに直接、辺野古計画の見直しを求める。一方、防衛局は抗議する市民らが臨時制限区域に立ち入らないようロープを張る新たなフロートの設置を進めているほか、報道各社に取材船で臨時制限区域に入らないよう呼び掛ける文書を送付するなど、警備態勢を強化している。国は国内最大級の作業船を導入し、早ければ月内にもボーリング調査を開始する予定で、護岸建設などの本体工事着手に向けた態勢を早急に整える考えだ。


PS(2017年4月26日追加):*6-1のように、今村復興大臣が「社会資本の毀損も25兆円という数字があり、まだ東北のほうだったからよかったが、もっと首都圏に近かったりすると莫大な額になる」と述べたのは、首都圏だったら数千兆円の損害になったかもしれないので真実ではあるが、「東北のほうだったからよかった」という言葉は、被害者自身は1人であっても大変なので不要だった。その点、新復興大臣の吉野氏は、東日本大震災復興特別委員長及び環境副大臣等を務め、まさにフクイチの地元である衆院福島5区選出の衆議院議員であるため、より真剣に東北の復興に取り組まれると考える。なお、原発が人口密度の低い地域に建設されたのは、まさに今村氏が述べた理由によるのだが、原発事故が起これば10km圏、30km圏どころか250km圏まで汚染されることが明白になったのである。
 そのため、*6-2のように、再エネによる発電を地域主導・産直で進めると、「原発は避けて再エネの電気を使いたい」という需要を満たすことができる上、エネルギー代金が地域から外に流出せずにすむので、生協だけでなく、全農も発電・配電子会社を作って地域に電力を供給すれば、再エネ開発が進んでよいと考える。

*6-1:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170425/k10010961341000.html (NHK 2017年4月25日) 今村復興相の後任に吉野正芳氏を起用 安倍首相方針固める
 安倍総理大臣は今村復興大臣が東日本大震災に関連し、被災者を傷つける発言をした責任を取りたいとして辞任する意向を固めたことを受けて、後任に、衆議院の東日本大震災復興特別委員長で、環境副大臣などを務めた自民党の吉野正芳氏を起用する方針を固めました。今村復興大臣は25日、みずからが所属する自民党二階派のパーティーで講演し、東日本大震災に関連して「社会資本などの毀損も、いろんな勘定のしかたがあるが、25兆円という数字もある。これは、まだ、東北のほうだったからよかったが、もっと首都圏に近かったりすると、ばく大な額になる」と述べました。今村大臣はその後、発言を撤回し謝罪しましたが、このあと同じパーティーに出席した安倍総理大臣は「東北の方々を傷つける極めて不適切な発言で、総理大臣として、おわびをさせていただきたい」と述べ、陳謝しました。こうした中、今村大臣は被災者を傷つける発言をした責任を取りたいとして、復興大臣を辞任する意向を固め、26日午前、総理大臣官邸で安倍総理大臣に辞表を提出する見通しです。これを受けて安倍総理大臣は、内閣の重要課題と位置づける東日本大震災からの復興や、国会審議などへの影響を最小限に抑えるため、後任人事の調整に入り、今村大臣の後任に衆議院の東日本大震災復興特別委員長で、環境副大臣などを務めた自民党の吉野正芳氏を起用する方針を固めました。

*6-2:https://www.agrinews.co.jp/p40701.html (日本農業新聞論説 2017年4月25日) 再エネ発電 地域主導で産直もっと
 農山村にある太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス(生物由来資源)の再生可能エネルギーによる発電を地域主導でもっと進めたい。これまでは大手企業の地方進出による大規模発電が目立ち、開発トラブルも絶えない。一方で、安全でクリーンな再エネ電気を望む国民は多い。地元での収入確保と消費者との結び付きの両方がかなう、産直型の再エネ発電に挑む価値は大いにあろう。一般家庭が電気の購入契約先を自由に選べる電力自由化が、4月で2年目に入った。大手電力10社の地域独占が崩れ、電気小売り事業に新規参入する企業「新電力」も増えた。だが、この1年で契約を大手電力から新電力に切り替えた家庭は全体のわずか5.4%。しかも、その切り替えは大都市圏に集中し、新電力が少ない地方は低調だ。東京電力福島第1原子力発電所事故以来、「原発は嫌だ」「再エネ電気を使いたい」という安全・安心志向の家庭は多い。それでも契約切り替えが少ないのは、再エネ電気を供給する新電力がごく一部に限られるからだろう。実際、農山村で発電された再エネ電気をいわば産直契約で主体的に扱う新電力は、ほとんど生協系でしか見当たらない。首都圏で先行しているのは、生活クラブとパルシステムの2生協。組合員に野菜や果実、米、肉・卵、牛乳など共に、再エネ電気の共同購入を勧めている。脱原発、地球温暖化防止に向けた実践的な消費者運動との位置付けだ。だが、両生協とも子会社の新電力は採算ベースには乗っていない。供給規模が小さく、薄利多売で利益を得る電力事業では苦戦が続く。農山村側に産直契約をしてくれるところが少なく、今後も組合員への供給量は段階的にしか増やせない。他方、大手企業による地方での再エネ発電は増えているが、売電先は地域の大手電力会社が大半だ。目的が売電利益だけなら、あえて産直型にはしない。結局、地元で再エネ電気を扱う新電力が育たず、消費者が使いたくても購入先がない地域がかなりある。発電では売電先の選定が重要だ。国の再エネ電気の固定価格買取制度を使えば、どこに売っても同額で差がない。ならば、こだわりの消費者とつながる新電力に売る産直型の方が、お互いの顔が見える関係を築ける。地方での購入可能地域の拡大にも役立つ。わが国の2015年度の再エネ発電は電力全体の14%にすぎないが、ここ数年で増加。政府は地球温暖化防止の国際約束として30年度には22~24%にまで高める。農山村での発電は地域主導が望ましい。そのための農山漁村再エネ法施行から3年になるが、実施への基本計画作成は昨年末で29市町村にとどまる。環境先進国ドイツのように、安全・クリーンの価値を認め合う産直連携を広げながら、再エネ発電を増やしたい。


PS(2017年4月27日追加):鹿児島県の川内原発も、過疎地にあるため原発適地とされたよい例だろうが、原発事故時には「風下になった地域では農地が汚染され、長期にわたって農作物が汚染される」「汚染水で付近の海が汚染されて水産業ができなくなる」「汚染範囲は原発の周囲に留まらない」「大地震・津波・大規模な火山噴火が発生する可能性もある」などは考慮されておらず、*7-1のような専門委員会のご都合主義の安全宣言も信頼に値しないことは証明済である。そのため、*7-2のように、少なくとも30キロ圏内の市町村の意見は聞くべきだ。
 さらに、私は、対馬市などの日本海側の関連地域が、韓国の裁判所に提訴することによって、韓国釜山地区にある古里原発等の危険性を問えば、韓国内でも原発の危険性に関する意識が上がるのではないかと考える。

*7-1:http://qbiz.jp/article/107269/1/ (西日本新聞 2017年4月27日) 川内2号機「問題なし」 鹿児島県専門委
 鹿児島県は26日、九州電力川内原発(同県薩摩川内市)の安全性などを議論する専門委員会の本年度第1回会合を開いた。九電が2号機で実施した特別点検と定期検査の結果、特に問題なかったと報告。委員から指摘が出ていた、ゆっくり繰り返す長い揺れ「長周期地震動」についても「影響は及ばない」と回答した。会合後、座長の宮町宏樹鹿児島大大学院教授は「1、2号機の装置は同じ。5月に予定する次回会合で1号機と同様に問題ないと了承する」との見通しを示した。専門委は次回に意見を取りまとめて三反園訓(みたぞの・さとし)知事に提出し、これを基に知事が2号機の稼働の是非を判断するとみられる。2号機は既に定期検査を終え、3月24日に営業運転に復帰している。

*7-2:http://qbiz.jp/article/108270/1/ (西日本新聞 2017年4月25日) 「再稼働、長崎の声黙殺か」 30キロ圏内、住民 憤りと落胆と 玄海原発 佐賀知事同意
 佐賀県の山口祥義知事が玄海原発(同県玄海町)再稼働への同意を表明した24日、原発30キロ圏内にある長崎県内の住民からは「長崎の声は黙殺か」などと憤りや落胆の声が上がった。原発から8キロに位置する松浦市鷹島町にある新松浦漁協の志水正信組合長(69)は「鷹島では住民説明会が1度あっただけ。漁業者として再稼働同意は残念で許し難い。反対の意思を伝える海上デモの準備を進める」と怒りの声。一方、同市議会の高橋勝幸議長は「佐賀県知事は国策を重く受け止めたのだろう。それぞれの立場がある」と述べるにとどめた。30キロ圏内に含まれる平戸市田平町の森文明さん(64)は「国の政策が上意下達され、地方はないがしろにされる政治状況はいかがなものか」と苦言。同市大久保町の障害者支援施設「平戸祐生園」の佐藤慎一郎園長は「国は再稼働を急がず、万一の場合の補償や支援も含め、30キロ圏内の住民に時間をかけて説明してほしい」。同市議会の辻賢治議長は「市民の安全、安心を考えれば、実効性のある避難計画の確立が国の関与で万全なものにならない限り、議会として反対の立場は変わらない」と話した。壱岐市郷ノ浦町の特別養護老人ホーム「光の苑」の武原光志施設長(66)は「入所者が60人いる。再稼働するのであれば避難先などの環境を整えてほしい」と曇った表情。同市で反対活動をしている「玄海原発再稼働に反対する市民の会」の中山忠治会長(69)は「同意の判断は残念。署名活動は4月で終わるが、脱原発を目指し、今後も反対運動を続ける」と強調した。県内では30キロ圏内の松浦、平戸、壱岐、佐世保の4市が連携し、避難計画などへの国・九電の関与を県を通して求めている。中村法道県知事は「佐賀県知事は総合的に判断されたと認識している。関係自治体と連携し、諸課題の解決に努めたい」とするコメントを発表。松浦市の友広郁洋市長は「大型連休明けにも県と4市で協議の場を設けることになった」と話した。
●壱岐市議会も再稼働反対
 壱岐市議会は24日の本会議で、九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)の再稼働に反対する意見書案を全会一致で可決した。原発から30キロ圏内にある長崎県内の市議会では平戸、松浦両市が既に可決している。意見書では「県は住民説明会で再稼働への理解を求めているが、市民からは安全性や避難への不安をぬぐえないなどの声が相次いでる」「市は30キロ圏内地域の中では最も人口が多い離島で、事故が発生すれば壊滅的な打撃を受ける。離島からの避難は船舶が主で、全島民が避難するには5日半かかる」などと指摘。その上で「国の責任で、原発の安全性検証の手段や実効性ある避難計画などが確立されることがなければ、市民の安全を守ることができないと判断し、市民の理解が得られない限り、玄海原発再稼働に反対する」などとしている。


PS(2017年4月28、30日追加): 「教育無償化のために憲法改正が必要」とする意見があるが、日本国憲法で規定されているのは、*9-1の「第23条:学問の自由」「第26条:教育を受ける権利、義務教育の無償」であるため、3歳~18歳を義務教育と法律に定めれば、憲法を変更しなくても幼児教育から中等教育までの無償化を憲法で規定できる。これにより、16年(現在なら4年制大学まで卒業できる期間)かけて幼児教育から中等教育までを無償で行うため、親の経済力にかかわらず、子は必要な教育を受けることができるようになる。また、3歳くらいの早い時期から始めた方がよい科目も始められ、全体としては充実した内容を、しっかり教育することができる。そして、教育は、国にとっては投資であるため、一般財源からその費用を出すべきだ。
 なお、*9-2のように、教育改革よりも憲法の変更を目的として「高等教育も無償化すべき」と主張する人もいるが、高等教育を受ける必要があるか否かは職業によって異なり、初等・中等教育を充実していれば教養や見識のある市民を育てることができる。そのため、高等教育は、①公立大学の授業料を月額1万円程度まで下げる ②公立大学の入学金も10万円程度まで下げる ③高等教育で学んでもらいたい学生には、性別や国籍を問わず生活費も賄える奨学金を渡す ④安価で質の良い学生寮を整備する などの政策の方が、教育の機会均等や平等には憲法変更より有効だと考える。そして、奨学金は、国や地方自治体だけでなく、高等教育を受けた人材を活用する企業やその大学の卒業生などが作って給付対象者を選別してもよいだろう。

*9-1:http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM (日本国憲法 関連個所抜粋) 
第23条 学問の自由は、これを保障する。
第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける
     権利を有する。
   2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせ
     る義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

*9-2:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170318-00081574-playboyz-pol (Yahoo:週プレNEWS 2017/3/18) 「高等教育無償化」は警戒すべき! 安倍首相が目論む“憲法9条改正”への布石
 安倍首相が次期衆院選を2018年秋以降に先送りする検討を始めたという。その思惑はどこにあるのか?『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、これは安倍首相の“憲法9条改正へのシナリオ”だと警戒する。
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 次期衆院選について、「首相が任期満了ギリギリの2018年秋以降に先送りする検討を始めた」と、新聞各紙が伝えている。次期衆院選はこれまで、今年の秋と予測する声が大半だった。それをさらに1年も先送りにする。これが本当なら安倍首相の思惑はどこにあるのだろうか? その答えを知るカギのひとつが3月5日の自民党大会にあった。この冒頭のあいさつで、首相はこう力説したという。「憲法改正に向け、具体的な議論をリードする。それが自民党の歴史的使命だ」。昨年の党大会では、安倍首相は改憲についてひと言も触れていない。その時と比べると、大きな変化だ。現在、自民は衆参で改正発議に必要な3分の2の議席を持っている。おそらく、首相はその議席数をキープできる来年末までに、憲法改正をやり遂げてしまおうと腹を固めたのだ。ただし、首相が狙う9条改正は容易ではない。平和憲法は広く国民の間に根づいており、そのシンボルである9条の改正には極めて強い抵抗が予想される。そこで首相が新たに持ち出そうとしている改憲項目がある。「教育無償化」だ。憲法26条では、「義務教育は無償」と書かれているが、これを受けて実際に行なわれているのは小・中学校までの無償化である。本来は、今すぐにでも義務教育の範囲を拡大して高校の無償化を実施すればよい。しかし、その前に、憲法の条文を改正して、高校まで入ることを明文化しようというのだ。教育無償化を高等教育にまで拡大するため、憲法改正したいと提案されて、表立って反対できる人は少ないだろう。望めばだれでも国の負担で高等教育を受けられる制度が憲法で保障されることは、良いに決まっている。だが、注目すべきは憲法改正による教育無償化を最も熱心に主張しているのが、「日本維新の会」ということだ。安倍・自民が憲法改正の最初のメニューに教育無償化を打ち出すということは、維新の政策を受け入れたことを意味する。そこに首相の計算が透けて見える。まずは来年の秋までに26条の改憲を実現させることで、教育無償化の言いだしっぺの維新に花を持たせる。国民の憲法改正アレルギーが払拭されるとともに、当然、維新の評価・支持率も高まるだろう。その上で自民、維新で憲法改正の連合軍を作り、次期衆院選を戦う。次の選挙で自民は30前後議席を減らすとの選挙分析があるものの、そのマイナス分を維新が他の政党に競り勝って確保してくれれば、全体としては改正の発議に必要な衆参3分の2の勢力を維持できる。来年9月には首相は3期目の党総裁選に勝利して、21年9月までの長期政権運営に乗り出しているはずだ。衆院選で維新とともに3分の2を取れば、いよいよ、本丸の9条改憲への道筋がはっきり見えてくる。このシナリオに死角があるとすれば、小物感の強い松井一郎府知事の下で維新の党勢がじり貧になっていることだろう。しかし、来年秋までに橋下氏が政界復帰するという観測がここに来て急速に高まっている。維新関係者の希望的観測かもしれないが、橋下氏が登場すれば、維新フィーバー再来も夢ではない。教育費をタダにする――国民が歓迎しそうな改憲メニューを“9条改正”の布石にしようと目論む安倍・自民。警戒を怠ってはならない。
●古賀茂明(こが・しげあき)
 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年に退官。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)。インターネットサイト『Synapse』にて「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中


PS(2017.5.4追加): 100%の人が高等教育を受けるわけではないため、高等教育の無償化はむしろ不公平を招く。また、義務でない場合の無償化は対象者の意思決定に誤った影響を与えるため、サービスを利用する人に少しは負担させる形式の方がよく、これは、誰が対象であれ医療費の無料化も同じである。さらに、憲法をいじる必要のない教育無償化をだしにして、自民党憲法改正草案のような非民主国家に逆戻りさせる憲法改悪が行われるきっかけにされるのは大きな問題だ。首相は「2020年を新しい憲法が施行される年にして、日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだ」と言っておられるが、①どういう新しい国に生まれ変わるために ②現行憲法のどこが不備だから ③どのように変えたいのか を具体的に示すべきである。そうすれば、その夢の適切性や意図どおりになるか否かについて、次のディスカッションができるのだが、「憲法をよく読んだことはないが、(敗戦後に押し付けられた憲法だから)現行憲法を変更すること自体が夢」で、説明は国民を説得するための手段にすぎないというのは論外なのだ。

  
     2016.8.12東京新聞     昭和天皇の御名御璽      ポイント  

(図の説明:これまで「敗戦後に日本の国力を弱めるため米国によって押し付けられた」と説明されることが多かった日本国憲法9条は、実は幣原首相が提案したものだと米上院でマッカーサーが証言していた。その憲法には、①国民主権 ②平和主義と戦力不保持 ③基本的人権の尊重 が記載されており、昭和天皇が深く喜んで交付せしめるとしている)

*10:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170504&ng=DGKKZO16046710U7A500C1PE8000 (日経新聞 2017.5.4) 首相メッセージ要旨 高等教育無償化にも意欲
 安倍晋三首相(自民党総裁)のビデオメッセージの要旨は次の通り。憲法は国の未来、理想の姿を語るものだ。私たち国会議員はこの国の未来像について、憲法改正の発議案を国民に提示するための具体的な議論を始めなければならない時期にきている。例えば憲法9条。今日、災害救助を含め、命懸けで24時間365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く任務を果たしている自衛隊の姿に対し、国民の信頼は9割を超える。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在する。「自衛隊は違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任だ。私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、「自衛隊が違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきだ。もちろん、9条の平和主義の理念については未来に向けて、しっかりと堅持していかなければならない。「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という考え方は、国民的な議論に値するだろう。教育の問題。70年前、現行憲法の下で制度化された普通教育の無償化は、戦後の発展の大きな原動力となった。70年の時を経て、社会も経済も大きく変化した現在、子どもたちがそれぞれの夢を追いかけるためには、高等教育についても全ての国民に真に開かれたものとしなければならない。私はかねがね夏季オリンピック、パラリンピックが開催される2020年を未来を見据えながら日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだと申し上げてきた。20年を新しい憲法が施行される年にしたいと強く願っている。自民党総裁として憲法改正に向けた基本的な考え方を述べた。これを契機に国民的な議論が深まっていくことを切に願う。


PS(2017.5.20追加):政府は、子育てや教育にかかる負担を社会全体で分かち合うと称して、*11のように、教育無償化や待機児童対策の財源として年金等の保険料に上乗せして徴収する“こども保険”制度の検討に入るそうだが、教育財源の不足は教育に対する国家予算の優先順位が低すぎるのが問題なので、公的保険等で国民負担を増やして教育費用を賄おうという発想はセンスが悪すぎる。また、今後、子育て費用のかかるリスクがない人(既に自前で子育てを済んだ人やさまざまな理由で子どもを持っていない人)にまで保険料を支払わせるのは不公正である上、保険制度にも合わないため、もし“子ども保険”を作るとすれば、今後、子育てで費用がかかるリスクのある人で保険に入りたい人に限るべきだ。そのため、“子ども保険”を作るとすれば私的保険が適しており、その点は誰もがリスクを有する年金・医療・介護とは根本的に異なる。

*11:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170520&ng=DGKKZO16659010Q7A520C1MM8000 (日経新聞 2017.5.20) こども保険検討へ、教育向け新財源、税・拠出金と比較
 政府は、教育無償化や待機児童解消などをまかなう新たな財源として、年金などの保険料に上乗せして徴収する「こども保険」制度の検討に入る。税金や企業からの拠出金でまかなう案などと比較検討し、早ければ年内にも方向性を出す。少子高齢化が急速に進む中、子育てや教育にかかる負担を社会全体でどう分かち合うのか。財政論を超えて国民的な議論を呼びそうだ。政府は6月にまとめる経済財政運営の基本方針(骨太の方針)でアベノミクスの柱の一つとして教育や子育てといった人材投資の強化を盛り込む。財源として(1)税(2)拠出金(3)社会保険料――の3案を明示する。具体的な検討は今夏にも政府内に「人材投資会議」(仮称)を新設し、教育無償化の範囲などと併せて進める見通しだ。「こども保険」構想はもともとは自民党の小泉進次郎氏ら若手議員が小学校就学前の教育費の負担軽減策として打ち出したものだ。小泉氏らの提言によると、まずは社会保険料を勤労者、事業者とも0.1%ずつ上乗せして徴収。それによって得られる約3400億円で、児童手当を1人当たり月5000円増やすことができるとしている。さらに保険料の上乗せを0.5%まで増やせば、集まる財源は約1.7兆円。小学校入学前の子ども約600万人に児童手当を月2万5000円加算できるため、幼児教育・保育を実質的に無料にできる計算だ。最終的には上乗せ率を1.0%まで引き上げ、財源規模を3兆円規模に増やすことを想定する。「こども保険」の特徴は、現役世代で負担を共有し、将来世代へのツケの先送りを避けられることだ。並行して検討する税金でも消費税ならば国民全体から広く集められるが、すでに10%までの使い道は決まっている。社会保険は税金と異なり他の使途に使われることもなく、給付と負担の関係が明確で、国民の理解が得られやすいとの読みもある。政府が教育や子育て支援に必要な新しい財源の本格的な検討に入るのは、高齢化による社会保障の膨張が避けられない中で、新たな施策へ振り向ける財政的な余裕がなくなっていることがある。これまで日本の社会保障は高齢者優遇に偏っているとの声が強かった。自民党も選挙を意識して社会保障の削減には後ろ向きで、その分、子育てや教育への予算配分がおろそかにされてきた。「こども保険」の検討によって、社会保障の歳出抑制などの議論にも一石を投じる可能性がある。


PS(2017.5.27追加): *12のように、維新の党の提案を入れる形で自民党が進めようとしている高等教育無償化は、憲法9条変更のだしにすぎず、このような動機で憲法を変更すべきではない。また、日本国憲法は26条で義務教育の無償化をうたっているが、高等教育の無償化を禁じてはいないため、高等教育の無償化もやろうと思えばいつでもできる。そして、私は、国民全員を利する教育・社会保障を財源論とセットにして増税のだしに使うべきでもないと考えている。
 なお、どこまでが義務教育で、幼児教育・初等教育・中等教育・高等教育かは時代によって変わってよく、平成20年度で97%を超える生徒が進学している高校は、残る3%の進学できない生徒が人生で不利益を蒙らないためにも、義務教育にすべきだろう。
 そのため、私は、大学以降を高等教育とし、幼稚園から高校までを義務教育として無償化するのがよいと考える。また、大学の奨学金も、(子の方が未来に適合した考え方をする場合が多いのだが)親子で教育に関する考え方が一致するとは限らず、世帯収入が多いからといって100%の親が子の望む進学に金を出すとは限らないため、世帯収入とは関係なく学生全員を対象として渡すべきだと考える。そのよい例は、東大女子学生で、地方出身の女子生徒が東大に進学するのを周囲や社会に阻害されず、生活の心配なく受験できるように、東大女子同窓会が支払う女子学生への奨学金は合格前に内定し、東大が女子寮の便宜を図るようになっている。

*12:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0113953.html (北海道新聞 2017.5.27) 教育の無償化 改憲と切り離すべきだ
 安倍晋三首相が改憲の具体的項目として、9条への自衛隊明記とともに、高等教育までの無償化を挙げた。憲法は義務教育を無償と定めている。これを大学など高等教育まで拡大するよう、憲法に書き込むとの提案だ。貧富の差に関係なく、誰でも大学で学べる社会の実現に異論はない。だが、無償化は改憲しなくても可能だ。事実、民主党政権時代には高校が無償化されている。首相は誰もが賛同する教育無償化とセットにすることで、反対が根強い9条改正に踏み込もうとしているかのようにも映る。無償化が必要と考えるなら、改憲論議と切り離して、すぐにでも取り組むべきである。憲法は26条で義務教育の無償化をうたっている。その対象拡大を禁じているわけではない。だからこそ、民主党政権下で高校無償化法が成立し、公立高校の授業料は免除、私立高校にも就学支援金が支給され、事実上無償化が実現した。これを、選挙目当ての「ばらまき」と批判したのは野党だった自民党だ。事実、政権交代後は所得制限を設け、制度を後退させた。にもかかわらず、突然の「変節」である。教育無償化については、日本維新の会も憲法による規定を求めている。9条改正という目的達成に向け、維新の協力を得るために無償化を「だし」にするような手法であるなら、到底認めがたい。経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本の国内総生産に占める教育機関への公的支出割合は、比較可能な33カ国中32位だ。教育費の多くを家庭が負担している。こうした実態が少子化の一因にもなっている。教育の無償化は喫緊の課題なのだ。幼児教育から高等教育まで無償にすると、年間4兆円以上が必要とされる。財源を巡っては教育国債発行や、社会保険料引き上げによるこども保険創設などが出ているが、いずれも決め手に欠ける。さらに、世帯収入に関係なく全員を対象とするのか、無償化の範囲は幼児教育だけか、高等教育まで含むのか―など、実現に向けては難問が山積みだ。解決には、国会が党派の壁を取り払って、活発な議論を展開することが欠かせない。無償化を本当に実現したいのであれば、対立点の少なくない憲法を絡めて提唱したところで、逆効果ではないか。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 10:46 PM | comments (x) | trackback (x) |
2016.7.28 医療・介護に関する政府・行政・メディアが作りあげた誤った論理を鵜呑みにしたのが、植松容疑者が障害者を刺殺した動機だろう (2016年7月30、31日、2016年9月16、23、25日に追加あり)
(1)精神障害者差別の根源は刑法39条であること
 厚労省は、*1-3のように、相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件を受け、再発防止のために措置入院のあり方を見直す有識者会議を設置し、措置入院を解除した患者を継続的に支援(?)する体制を作るとのことだ。そして、その内容は、入院解除の判断や解除後の警察との連携などのフォローアップ体制に関する法改正やガイドラインづくりで、対応がいやに速やかである。

 しかし、忘れてならないのは、精神病院は精神障害者を治療する場所であって拘置所でも監獄でもないため、大量殺人(テロ?)に手を染めそうな人を精神障害者として精神科医が監視するのは無理があるということだ。アメリカでは、精神障害者のふりをして罪を免れて精神病院に行った人の話が、1975年に「カッコーの巣の上で」という映画になっており、深い映画であるため見ることをお勧めする。

 また、日本で悪質な殺人事件が起こるたびに、「犯人は精神障害者だった」とされる理由は、*1-4のように、刑法が39条で「心神喪失者の行為は、罰しない」「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と定めており、罰の軽減を図って犯罪時に「心神喪失だった」「心神耗弱だった」とワンパターンの弁護を行うからである。もちろん、人を殺す時の精神状態は正常ではないのかもしれないが、それをすべて責任能力がないため罰っせられないとする心神喪失や罪が軽減される心神耗弱に当たるとすれば、罰せられる人はいなくなる。

 そして、このような理由で精神障害者と認定された人を除けば、実際に精神障害者が殺人を犯す割合は、一般の人が殺人を犯す割合より低いと言われている。

 にもかかわらず、これらの対応の結果、*1-5のように、「刑法39条の精神疾患が有る人は、人を殺しても罪に問われないと言う法律、これって可笑しくない?」「つまり獣に罰を与えても無駄でしょ!? って理屈な訳?」「刑罰が人以下で人権だけ主張されてもねぇ・・・」というイメージが一般の人について、刑法39条とメディアの報道の仕方が、本当の精神障害者に対する言われなき差別を作っているのである。

 また、その答えが、「もう大丈夫です。心神喪失者等医療観察法が制定されましたから」「人の形をした人ならざる者に人権は不要です。その事を国も認めました」「これで事実上一生監視下に置かれる事と成ります」というのもふるっている。

(2)それでは、植松容疑者の障害者刺殺の動機は何か
 障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人を刺殺し、26人にけがをさせた事件で、*1-1のように、植松容疑者(26)の犯行は、「精神障害か」「違法薬物のせいか」とされている。

 しかし、植松容疑者は、2016年2月15日、衆議院議長公邸を訪ね、土下座で頼み込んだ上で大島理森議長にあてた今回の事件を示唆する内容の手紙を渡し、その手紙には「私は障害者総勢470名を抹殺することができる」と記していた。さらに、*1-2のように、「意思疎通ができない人たちをナイフで刺した」「障害者なんていなくなればいい」とも供述しており、殺人後の現在は、「遺族の方には、突然のお別れをさせるようになってしまって心から謝罪したい」と話しているが、被害者本人への謝罪は全くない。つまり、普段から障害者を自分と同じ人間と見ておらず、この世に存在してはならないもののように考えていた確信犯であることがわかる。

 「車イスに一生縛られている気の毒な利用者も多く存在する」「私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」「重度障害者の大量殺人は、日本国の指示があればいつでも実行できる」などとも述べているが、これらは、植松容疑者の信念であり、大麻による薬物中毒や精神異常が原因ではないように見える。

(3)では、植松容疑者の信念はどうして作られたのか
 行政・メディアは、*2-1のように、「社会保障を軸に『岩盤歳出』に切り込め」として、①インフレ政策をとり ②消費税率を引き上げ ③高齢者に対する社会保障を中心とする歳出の削減・抑制をすべきだと連日訴えている。

 そして、その理由を、高齢化で膨らむ一方の社会保障費を“効率化”するため、ゆとりのある高齢者の自己負担を増やし給付を真に困っている高齢者に重点化して、子ども・子育て支援は充実するとしているが、このような政策を進めた結果、実際には年金生活者は財産権を侵害されて生活に困窮している人が多く、介護殺人も起こった。

 そのため、*2-1の論調の人は、植松容疑者のように刃物で高齢者を手にかけることはなかったが、間接的に殺人や泥棒をしたことになり、「社会保障費を“効率化”することだけが重要だ」というメッセージを流し続けてきた人は、若者に誤りを擦りこみ続けたのである。

 なお、*2-1に、2018年度の診療報酬と介護報酬の同時改定を待たずに、政府は17年度予算から歳出抑制の具体策を打ち出していくべきだとも書かれている。しかし、政府が診療報酬や介護報酬をカットし続けたことは、これらのサービスに従事している人たちに過度の労働を強いるなど多くの問題を引き起こしているとともに、本物のニーズ(需要)を削ってGDPを下げているのだ。

 また、*2-2のように、経産省は企業と連携して会社員の健康情報のデータベース化に向けた取り組みを強化するそうだが、最近の過度のデータ収集ではプライバシーの侵害になりそうである。

 さらに、*2-3のように、厚労省は、2018年度の介護保険制度改正に向けた本格的論議を開始し、日常生活で部分的な介助が必要な「要介護1、2」の認定者に対する掃除や調理、買い物など生活援助サービスの給付を減らす予定とのことだが、要介護度の低い人が自宅療養できるためには支援が必要であるため、生活援助サービスのカットは介護が必要な人やそれを支える家族の負担を重くする。

 最後に、介護保険制度ができた当時、年3兆6千億円だった介護給付費は現在10兆円を超えて、今後10年間は団塊の世代の高齢化が進んで給付費はさらに増大するとのことだが、それは当たり前であり、あらかじめわかっていたことだ。そして、多くの人が介護保険料を支払っていない現在、働く人すべてが介護保険料を支払う介護保険制度にすれば、それは解決できる筈である。

<“無駄”削減が本当の動機ではないのか>
*1-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12483228.html
(朝日新聞 2016年7月28日) 手すりに複数職員縛る 議長宛て手紙通り 相模原19人刺殺
 相模原市緑区千木良(ちぎら)の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が死亡し、26人がけがをした事件で、殺人などの容疑で送検された植松聖(さとし)容疑者(26)が、5人前後の職員を結束バンドで縛りつけたうえで入所者を襲っていたことが神奈川県警への取材でわかった。2月に衆院議長に宛てた手紙に記された「作戦」通りの内容で、県警は計画的に事件を起こしたとみて調べている。
■自宅に違法薬物か
 県警は27日、園近くの植松容疑者宅を捜索。植物片とみられるものが付着した容器を押収した。危険ドラッグや大麻などの違法薬物の疑いがあるとみて調べる。捜索では、事件について記したメモもあった。県警や県関係者によると、東棟1階から侵入した植松容疑者は、寝ていた入所者らを次々に刺した後に西棟1階に移動。居合わせた職員2人の指や腕をプラスチック製の結束バンドで縛り、手すりにつないで動けない状態にした。縛られた職員の一人は「殺されると思い、怖かった」と話しているという。ほかにも3人前後が結束バンドで縛られた。植松容疑者はさらに西棟の2階へ移動。居室を回り、約50分間で計45人を襲ったとみられている。植松容疑者は2月、大島理森衆院議長に宛てた手紙の中で、障害者施設で多数を殺害する「作戦内容」として、「見守り職員は結束バンドで身動き、外部との連絡をとれなくします」「職員は傷つけず、速やかに作戦を実行します」などと記していた。また、司法解剖の結果、遺体の致命傷は首や腹、背中など上半身に集中していた。施設内では血のついた2本の包丁が押収され、凶器とみられる刃物はこれで計5本となった。植松容疑者は「突然のお別れをさせるようになってしまって遺族の方には心から謝罪したい」と話しているという。園を運営する社会福祉法人かながわ共同会は27日に記者会見し、米山勝彦理事長は「尊い生命が失われ、強い怒り、憤り、悲しみを禁じ得ません。19人の方々が亡くなり、負傷者が出たことを心よりおわび申し上げます」と述べた。

*1-2:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12481359.html (朝日新聞 2016年7月27日) 重度障害者、標的か 相模原19人刺殺、容疑者「意思疎通できぬ人刺した」
 相模原市緑区千木良(ちぎら)の障害者施設「津久井やまゆり園」で26日未明、刃物を持った男が入所者らを襲い、19人が死亡、26人がけがをした事件で、神奈川県警に殺人未遂などの容疑で逮捕された元職員の植松聖(さとし)容疑者(26)が、「意思の疎通ができない人たちをナイフで刺した」と供述していることが県警への取材でわかった。県警は植松容疑者が身勝手な動機から、重度の障害者を狙って事件を起こしたとみて調べる。県警は27日、容疑を殺人に切り替え、横浜地検に送検する。警察庁によると、平成元(1989)年以降、最も死者の数が多い殺人事件となった。消防や県などによると、亡くなったのはいずれも入所者で、41~67歳の男性9人と、19~70歳の女性10人。けが人のうち、重傷者が13人という。けが人には職員2人も含まれていた。植松容疑者の逮捕容疑は、26日午前2時ごろ、同園で入所者の女性(19)を刺して殺害しようとしたというもの。県警の調べに対して容疑を認め、「障害者なんていなくなればいい」とも話しているという。植松容疑者は東居住棟の1階東側の窓をハンマーで割って施設に侵入し、結束バンドを使って施設職員を拘束。所持していた包丁やナイフを使い、次々に入所者を刺したという。津久井署には午前3時ごろ1人で出頭。持参したかばんには、血が付いた刃物3本が入っていた。また、乗ってきた車の後部座席からは、少量の血液が付いた結束バンドも見つかった。同園は県が設置し、指定管理者である社会福祉法人かながわ共同会が運営。神奈川県北西部にあり、東京都や山梨県との境に近い。県などによると、知的障害者ら149人が長期で入所中。敷地は3万890平方メートル、建物は延べ床面積約1万1900平方メートル。2階建ての居住棟が東西に2棟あり、20人ずつが「ホーム」と呼ばれるエリアに分かれて暮らしていた。
■2月に施設退職
 捜査関係者によると、植松容疑者は今年2月15日、衆院議長公邸を訪ね、土下座で頼み込んだうえで大島理森議長にあてた手紙を渡していた。手紙は「私は障害者総勢470名を抹殺することができる」として、今回の事件を示唆するかのような内容だった。手紙は「標的」にやまゆり園を含む2施設を挙げ、「作戦」として、夜間に事件を起こすことや結束バンドで職員の動きを封じること、事件後は自首することなどを記していた。いずれも事件時の実際の行動と同様の内容だ。手紙では障害者について「車イスに一生縛られている気の毒な利用者も多く存在」するとし、「私の目標は(複数の障害がある)重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」などと自分勝手な考えを示していた。神奈川県や相模原市によると、植松容疑者は2012年12月から同園に勤務していたが、今年2月18日、園の関係者に「重度障害者の大量殺人は、日本国の指示があれば、いつでも実行できる」などと話したため、話し合ったうえで19日に退職願を提出してもらった。市は精神保健福祉法に基づいて植松容疑者を措置入院させた。入院中には植松容疑者の尿と血液の検査から大麻使用が判明。その後、症状が改善されたとして、家族と同居することを条件に、3月2日に医師の判断で退院させていたという。退院を受け、県警のアドバイスで4月、同園の防犯カメラが16台増設されたという。
■「命の重さに思いを」障害者団体
 知的障害のある当事者と家族らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」は26日夜、会のホームページで声明を公表した。「職員体制の薄い時間帯を突き、抵抗できない知的障害のある人を狙った計画的かつ凶悪残忍な犯行であり、到底許すことはできません」と激しい憤りを表明している。さらに「このような事件が二度と起きないよう、事件の背景を徹底的に究明することが必要」と指摘。被害者や遺族・家族、入所者に対する十分なケアを求め、「早期に対応することと中長期に対応することを分けて迅速に行いつつ、深く議論をして今後の教訓にしてください」と再発防止策の検討を要求した。その上で「今回の事件を機に、障害のある人一人ひとりの命の重さに思いを馳(は)せてほしい」と国民に訴えた。

*1-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12483220.html?ref=pcviewpage
(朝日新聞 2016年7月28日) 措置入院、あり方検討 厚労省、相模原19人刺殺受け
 相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件を受けて、厚生労働省は、再発防止に向けて措置入院のあり方を見直す有識者会議を8月にも設置する調整に入った。措置入院を解除した患者に対し、継続的に支援する体制づくりが課題となる。措置入院は精神保健福祉法に基づき、自分や他人を傷つける恐れがある場合に都道府県知事らが患者本人の同意なしに入院させられる仕組み。植松聖容疑者は2月に緊急で措置入院し、3月に退院した。厚労省は措置入院解除後の植松容疑者の行動や解除の判断のあり方、警察との連携などの調査に着手。現状では「退院後のフォローアップ体制」がないことから、有識者会議で検討を進め、必要に応じて法改正やガイドラインづくりを行う考えだ。塩崎恭久厚労相は27日に事件現場を視察後、記者団に「措置入院後の十分なフォローアップができていなかったという指摘がある。こういった点もよく考えていかなければならない」と述べた。

*1-4:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html 刑法 (抜粋)
(心神喪失及び心神耗弱)
第三十九条  心神喪失者の行為は、罰しない。
2  心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

*1-5:http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1354030598
刑法39条(精神疾患が有る人は、人を殺しても罪に問われないと言う法律)
Q:これって可笑しくない?
  補足つまり獣に罰を与えても無駄でしょ!?って理屈な訳?
  刑罰が人以下で人権だけ主張されてもねぇ・・・
A:もう大丈夫です。心神喪失者等医療観察法が制定されましたから。http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sinsin/index.html
  人の形をした人ならざる者に人権は不要です。その事を国も認めました。これで事実上一生監視下に置かれる事と成ります。以前は不起訴処分となり、精神保健法により慣例として措置入院されていました。しかもたった1人の精神科医の判断で退院出来てしまうのです。一般の病院ですから、うつ病になって入院したら大量殺人の異常者が隣の部屋と言う事もあり得ます。医療観察法が有る今は、裁判の替わりに検察と弁護士と裁判官と精神科医による審査、検察と弁護士と裁判官と精神科医による審査で退院可。専用の精神科病院に強制入院ですから、大量殺人の異常者が隣の部屋と言う事もありません。

<高齢者の医療・介護について>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160727&ng=DGKKZO05306920X20C16A7EA1000 (日経新聞社説 2016.7.27) 社会保障を軸に「岩盤歳出」に切り込め
 日本の財政は先進国で最悪の状態にある。この立て直しには、具体的な計画が必要だ。安倍晋三政権はその点を忘れてはならない。安倍政権は消費税率を10%に引き上げる時期について、2017年4月から19年10月へと再び延期することを決めた。これを踏まえて内閣府は中長期の経済財政に関する試算をまとめた。名目経済成長率が3%以上で推移する経済再生ケースをみると、20年度時点で国と地方をあわせた基礎的財政収支は5.5兆円の赤字になる。名目成長率が1%台半ば程度の現実的なケースだと、9.2兆円の赤字になるという。いずれの場合も今年1月時点の試算よりも赤字幅は縮小する。消費増税を再延期するのに数字が改善するのは、17年度予算での歳出抑制を織り込んだからだ。前提の置き方しだいで試算値はかわるので、幅を持ってみる必要はある。それでも20年度に基礎的財政収支を黒字にするという目標を達成するハードルが高いことが改めて浮き彫りになった。名目成長率が高くなれば税収増が期待できる。0%台にとどまっている日本の潜在成長率を高めるための構造改革は、財政健全化の面からみても不可欠だ。同時に、政権は歳出の削減・抑制から逃げてはならない。消費増税を再延期するのであればなおのこと、長年手つかずの「岩盤歳出」に切り込んでほしい。大事なのは、高齢化で膨らむ一方の社会保障費を効率化する視点だ。医療や介護では、所得や資産にゆとりのある高齢者の自己負担を増やす方向は避けられない。給付は真に困っている人に重点化し、子ども・子育て支援は充実する。そんなメリハリのある改革が急務だ。18年度の診療報酬と介護報酬の同時改定を待たずに、政府は17年度予算から歳出抑制の具体策を打ち出していくべきだ。地方財政や公共事業費も聖域を設けず、厳しく見直してほしい。政府の経済財政諮問会議の民間議員は、補正予算などに頼らず民需主導で成長できれば、20年度時点の基礎的財政赤字を1兆円未満に縮小できるとの見方を示した。しかし、楽観的な経済想定を前提に中長期の財政健全化計画をたてるのは危うい。いつまでに、何をやり、どの程度、財政収支を改善するか。堅実で具体的な計画を固めなくてはならない。

*2-2:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF28H07_Y6A620C1PP8000/
(日経新聞 2016/6/26) 経産省、会社員の健康情報収集 医療費削減狙う
 経済産業省は企業と連携し、会社員の健康情報のデータベース化に向けた取り組みを強化する。7月から1140人の糖尿病に関する情報をデータベース化し、2017年以降は高脂血症や高血圧にも対象を広げる。取り組みにはトヨタ自動車や三菱地所、NTTデータ、テルモなど大手企業や医療機関が参加する。7月から各社の糖尿病軽症患者計760人、予備軍計380人全員から同意を取り、糖尿病のデータを集める。ウエアラブル端末で日々の体重や歩数を記録し、糖尿病の指標となる「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」も職場で計測する。運動不足や体重増加が目立つ社員を、自動的に抽出して産業医が指導。健康保険組合の負担や国の医療費の削減につなげる。データベースは情報を匿名化したうえで、研究者にも活用してもらえるようにする。17年以降は、高脂血症と高血圧の患者も対象に加え、生活習慣病全般のデータを集められるようにする。経産省は関連費用を来年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。官公庁が集まる東京・霞が関でも同様の取り組みを進める。今夏以降に、経産省職員から糖尿病の軽症患者数十人を選び、ウエアラブル端末でデータを計測。その後は、厚生労働省など他省庁にも協力をあおいで対象を拡大する。

*2-3:http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0068891.html
(北海道新聞 2016/7/25) 軽度者の介護 暮らしを守れる制度に
 要介護度の低い人は、今の暮らしを守り続けられるのだろうか。そう心配する声すら出ている。厚生労働省の社会保障審議会は、2018年度の介護保険制度改正に向けた本格的論議を開始した。3年に1度の見直しで、年内の取りまとめを目指している。焦点は、日常生活で部分的な介助が必要な「要介護1、2」の認定者に対するサービスの扱いだ。政府は社会保障費抑制を狙いに、掃除や調理、買い物など生活援助サービスの給付を減らし、車いすなど福祉用具の貸与も自己負担化する方向だ。そうなれば、介護が必要な人や支える家族の生活が大きく揺らぎかねない。介護に当たる家族の負担が重くなれば、政府が掲げる「介護離職ゼロ」にも逆行する。制度改正に当たっては、老後の安心を何よりも重視すべきだ。審議会にまず求めたいのは、過去の見直しについての検証だ。前回の見直しでは、要介護より軽度の「要支援」認定者を介護保険の対象から外し、ボランティアなども活用した市町村事業に移行することを決めた。現在はその移行途中だが、当初からサービスも担う受け皿が不足するとの見方があり、実際にまだ移行できていない市町村が少なくない。要支援者の状況を含めた分析が欠かせない。一方、今回の改正で心配なのは、「要介護1、2」認定者向けのサービスを縮小したり保険対象外にした場合の影響だ。負担の重さから利用をためらい、体調が維持できなくなれば、要介護度が重くなって結果的に介護給付費を押し上げかねない。それでは本末転倒だ。超高齢社会の急速な進展によって、介護保険制度の維持が厳しくなっているのは確かだろう。制度ができた当時、年3兆6千億円だった介護給付費は現在、10兆円を超えている。その上、今後10年間は団塊の世代の高齢化が進み、給付費はさらに増大する。できるだけ無駄をなくすことは必要だ。しかし、安心してサービスを使えないようでは制度の信頼性が薄れる。利用者の経済状況に応じた負担割合の細分化など、弱者にしわ寄せがこないような工夫も視野に入れるべきだろう。小手先の手直しでは対応できなくなりつつある現実も、直視しなければならない。制度の設計を根本的に見直す時期に来ているのではないか。


PS(2016.7.30追加):上のほか、2013年12月6日に成立し、2014年12月10日から施行されている特定秘密保護法も、*3の日本精神神経学会(専門家集団)の見解のとおり、精神障害者を見当違いに差別する法律である。そのため、偏見と差別に満ちた「らい予防法」の1996年廃止後、この特定秘密保護法が衆参両院を通って成立・施行されたことに呆れるが、何でも決める政治がよいわけではない。

*3:http://aichi-hkn.jp/system/140516-162235.html (日本精神神経学会2014年3月15日発表 《一部抜粋》) 特定秘密保護法における適性評価制度に反対する見解
(一)精神疾患、精神障害に対する偏見、差別を助長し、患者、精神障害者が安心して
   医療・福祉を受ける基本的人権を侵害する。
   内閣官房による逐条解説によれば、次のように記されている。「精神疾患により
   意識の混濁・喪失等が生じたり、薬物依存・アルコール依存症が症状に見られたり
   するという事実は、自己を律して行動する能力が十分でない状態に陥るかもしれ
   ないことを示唆していることから、こうした事実が見受けられる者には、本人に
   その意図がなくても特別秘密を漏らしてしまうおそれがあると評価しうると考えられ
   る。」ここでは、神経疾患であるてんかんや意識障害に関する事柄が精神疾患の
   問題として述べられるという全く見当違いな記述がなされている。このような杜撰な
   認識で法が成立し、かつ、それによって調査されるなどということは許されること
   ではない。なによりも、精神疾患患者が「自己を律して行動する能力が十分でなく」
   「特別秘密を漏らしてしまうおそれがある」とすること自体が、精神障害者に対する
   差別にほかならない。さらに、精神障害者に対する「何をするかわからない者」と
   いう偏見を利用し、不気味さを強調して秘密保護の必要をあおり立て、秘密保全に
   係わる国民統制のためのスケープゴートにすることは法治国家として許されるもの
   ではない。
(二)医療情報の提供義務は、医学・医療の根本原則(守秘義務)を破壊する。……(略)
(三)精神科医療全体が本法の監視対象になる危険性が高い。
   特定秘密の範囲が広範かつ秘密であるため、適性調査の対象が無制限に広がる
   おそれがある。しかも行政機関の長が行う適性評価は上記のように秘密保全部署
   がその情報の確認をすることとなり、精神疾患を有する者及びその疑いのある者
   及び精神科医療機関及び精神科医、精神科医療に係る職種にある者は医療の
   倫理に反する調査に直面することになる。


PS(2016年7月31日追加):*4の元職員が「津久井やまゆり園」に侵入して入所者を襲い、19人に死亡・26人に重軽傷を負わせた事件で、同園の経営者は誠実そうな人柄であったため問題にされていないが、このような状況で退職した元職員がいる場合には、鍵を変えたり、他の職員に注意を促したり、警察と連携したり、警備会社と厳重な契約をしたりして警備を厳しくするのが、入居者を護るための正当な注意だが、何故、それをやらなかったのだろうか。
 なお、医療系の教育を受けた人は、「救える命は救う」という教育を受けているため、「生きている命を殺す」というのは安楽死の議論があったとしても慎重なのだが、他学部出身の人が福祉や医療を語ると、この基礎教育ができていないため、“効率性”のみを重視して短絡的になりがちだ。そして、日本の高齢者施設や障がい者施設で入居者のケアをしている人は、急に需要が増えて医療・福祉系の教育を受けていない人が多いため、人材というこのサービス(産業)の要の部分が心もとないのである。

*4:http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=180289
(沖縄タイムス社説 2016年7月27日) [障がい者施設殺傷]兆候は幾つも出ていた
 相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」に元職員の男(26)が刃物を持って押し入り、入所者を次々襲った事件は、19人が死亡、26人が重軽傷を負った。殺人事件の犠牲者数としては戦後最悪とみられる。未明の就寝の時間帯を狙った卑劣な犯行である。警察に出頭し逮捕された男は容疑を認め、「意思疎通できない人たちをナイフで刺した。障がい者なんていなくなってしまえ」などと供述しているという。就寝中に突然、命を奪われた犠牲者の理不尽さを思うと、残忍な蛮行に憤りを抑えることができない。神奈川県警捜査本部は、容疑を殺人未遂から殺人に切り替え、取り調べる方針だ。動機は何なのか。男は2012年12月に非常勤職員として採用され、13年4月には常勤職員となった。今年2月に施設関係者に「障がい者を殺す」と話したため、警察が事情聴取した。警察にも「重度障がい者の大量殺人は、日本国の指示があればいつでも実行する」と供述したため、市が精神保健福祉法に基づき措置入院させた。男は退職した。病院の尿検査で男から大麻の陽性反応が出ていたが、市は症状がよくなったとして約2週間で退院させていた。男はこれに先立つ2月、同施設を「標的とする」と犯行を予告するような手紙を衆院議長公邸に持参していた。手紙は「職員の少ない夜勤に決行する」などと今回の事件を想起させる内容だ。退院後の男の病状を確認するなど、行政の対応は十分だったのだろうか。厳しく検証しなければならない。
■    ■
 「津久井やまゆり園」には6月末時点で、19~75歳の149人が長期入所していた。全員が介助が必要な重度の知的障がい者だ。施設の管理体制はどうだったのだろうか。事件当時は夜勤の職員8人と警備員1人の計9人態勢で当たっていた。施設には部屋12室を1ユニットとし、計8ユニットがあり、それぞれ職員が1人ずつ付き添っていた。男は1階の窓ガラスをハンマーで割り、そこから施設内に侵入したとみられる。入所者は侵入者に自力では抵抗できない。その上、未明の就寝中に、刃物を持った男に突然襲われたことも被害者が多数に上った要因である。障がい者らの入所施設は、厚生労働省によると、全国に約2600あり、約13万人が入所している。侵入者に対する防犯対策など国の規定はなく、現場に委ねられているのが現状だ。緊急通報体制の在り方や訓練など社会的弱者が入所する施設の危機管理体制を点検する必要がある。
■    ■
 自分勝手な思い込みを絶対化し、他者への寛容をなくする。今回の事件は障がい者を標的にした犯罪「ヘイトクライム」である。障がい者に対し強い差別と偏見を持ち、存在そのものを否定するような男のゆがんだ考えはどのようにして形成されたのだろうか。知的障がい者施設に勤務したことと関係があるのだろうか。捜査当局は全容解明を急いでほしい。


<日本で公的に堂々と行われている精神障害者差別>
PS(2016年9月16日追加):*5-1のように、「津久井やまゆり園」の重度障害者刺殺事件に関し、厚労省は、殺人容疑で逮捕された元職員の植松容疑者が措置入院させられていた病院や相模原市の対応を「不十分」とする検証結果を公表し、内容は「措置入院した植松容疑者は『大麻使用による精神および行動の障害』と診断されたが、病院側に薬物による精神障害の専門性が不足していた」とした。しかし、大麻などの薬物使用は犯罪であって精神病ではないため、精神病院に措置入院させること自体おかしく、また、大麻使用による精神障害で重度障害者だけを選んで刺し殺すという計画的な犯行をすることも考えにくいため、犯行前から準備していたかのように、厚労省が津久井やまゆり園事件を機会に精神病、措置入院、その後の“支援(?)”という路線を強化するのは、ますますおかしいのである。
 しかし、我が国では、近年、精神障害者に対する差別が次第にひどくなり、2013年12月には、*5-2のように特定秘密保護法が成立し、「精神疾患の既往歴のある人は秘密保持能力がないため特定秘密を扱う適性がない」ということになったが、実際には、精神疾患の既往歴と秘密保持能力に関する相関関係はなく、特定秘密保護法制定前にそれを調査した形跡もない。そのため、この法律は差別を助長して不当に就業機会を奪うことになっており、これで精神障害者に何を支援しようというのかも疑問に思われ、まず日本国憲法に定められているとおり、「基本的人権の侵害」等をなくすべきなのである。
 ちなみに、*5-3のように、欧州諸国における精神科入院全体に占める強制入院の割合は、Portugal(3.2%)、Denmark(4.6%)、Belgium(5.8%)、Ireland(10.9%)、Italy(12.1%)、France(12.5%)、Netherland(13.2%)、UK(13.5%)、German(17.7%)、Austria(18%)、Finland(21.6%)、Sweden(30%)であるのに対し、我が国は40%以上となっており、その理由は、①強制入院要件の厳格性の欠如 ②入院を回避する代替手段の欠如 などで繰り返し批判され、医療または家族から独立した代理人(ソーシャルワーカーや弁護士等)の関与が義務付けられているEU 諸国では、そうでない国に比べて強制入院の割合が有意に低くなっているそうだ。

*5-1:http://digital.asahi.com/articles/ASJ9H22S3J9HUBQU001.html
(朝日新聞 2016年9月15日) 措置入院中の対応「不十分」/相模原事件で厚労省が検証
 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が死亡した事件で、厚生労働省は14日、殺人容疑で再逮捕された元職員の植松聖(さとし)容疑者(26)が措置入院していた病院や相模原市の対応を「不十分」とする検証結果を公表した。退院後に支援を続けなかったことを問題視し、現行制度の見直しが「必要不可欠」と指摘している。有識者9人による厚労省の検証・再発防止策検討チーム(座長=山本輝之成城大教授)がまとめた。検証結果を踏まえ、再発防止策の検討に入る。植松容疑者は職場の障害者施設で「障害者は安楽死させたほうがよい」などと発言し、2月19日に緊急で相模原市の北里大学東病院に措置入院。退院後の7月26日に事件が起きており、病院や相模原市の対応を検証していた。検証によると、措置入院をした植松容疑者は「大麻使用による精神および行動の障害」と診断されたが、病院側に薬物による精神障害の専門性が不足していることを指摘。大麻使用による精神障害のみで「『障害者を刺し殺さなければならない』という発言が生じることは考えにくい」として、入院中に生活歴の調査や心理検査を行っていれば診断や治療方針が異なった可能性にも触れて、病院側の対応に疑問を示した。一方、12日後に退院したことには「指定医としての標準的な判断だった」として問題なしとした。ただ、措置入院を判断した2人のうち1人は不正に指定医の資格を取った疑いがあり、資格を失った。これには「信頼を損ねたことは重大な問題」と明記した。措置入院を解除する際に病院が相模原市に提出した「症状消退届」には退院後の支援策が記入されず、市も詳細を確認せず解除を決めている。症状消退届への記入や退院後の継続的な支援は精神保健福祉法で義務づけられていないが、再発防止に向けて制度の見直しによる対応を求めた。検証結果について、北里大学東病院は「厚労省から直接、指摘や指導があったわけではないので詳細がわからず、病院としてコメントできない」。相模原市の熊坂誠・健康福祉局長は「指摘を重く受け止めている」と語った。
<措置入院>精神障害が原因で本人や他人を傷つける恐れがある場合、本人の同意がなくても精神科病院に入院させることができる仕組み。精神保健福祉法に基づいて指定医が診察し、この結果を踏まえて知事か政令指定市長が決める。近年は増加傾向にあり、2014年度は6861人で、10年前の1・36倍になった。一方、平均入院日数は10年間で半減している。

*5-2:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H25/H25HO108.html 特定秘密の保護に関する法律 (平成二十五年十二月十三日法律第百八号)
 第一章 総則(第一条・第二条)
 第二章 特定秘密の指定等(第三条―第五条)
 第三章 特定秘密の提供(第六条―第十条)
 第四章 特定秘密の取扱者の制限(第十一条)
 第五章 適性評価(第十二条―第十七条)
 第六章 雑則(第十八条―第二十二条)
 第七章 罰則(第二十三条―第二十七条)
 附則
   第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、国際情勢の複雑化に伴い我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で、我が国の安全保障(国の存立に関わる外部からの侵略等に対して国家及び国民の安全を保障することをいう。以下同じ。)に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。
<中略>
   第四章 特定秘密の取扱者の制限
第十一条  特定秘密の取扱いの業務は、当該業務を行わせる行政機関の長若しくは当該業務を行わせる適合事業者に当該特定秘密を保有させ、若しくは提供する行政機関の長又は当該業務を行わせる警察本部長が直近に実施した次条第一項又は第十五条第一項の適性評価(第十三条第一項(第十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定による通知があった日から五年を経過していないものに限る。)において特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者(次条第一項第三号又は第十五条第一項第三号に掲げる者として次条第三項又は第十五条第二項において読み替えて準用する次条第三項の規定による告知があった者を除く。)でなければ、行ってはならない。ただし、次に掲げる者については、次条第一項又は第十五条第一項の適性評価を受けることを要しない。
一  行政機関の長
二  国務大臣(前号に掲げる者を除く。)
三  内閣官房副長官
四  内閣総理大臣補佐官
五  副大臣
六  大臣政務官
七  前各号に掲げるもののほか、職務の特性その他の事情を勘案し、次条第一項又は第十五条第一項の適性評価を受けることなく特定秘密の取扱いの業務を行うことができるものとして政令で定める者
第五章 適性評価
(行政機関の長による適性評価の実施)
第十二条  行政機関の長は、政令で定めるところにより、次に掲げる者について、その者が特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないことについての評価(以下「適性評価」という。)を実施するものとする。
一  当該行政機関の職員(当該行政機関が警察庁である場合にあっては、警察本部長を含む。次号において同じ。)又は当該行政機関との第五条第四項若しくは第八条第一項の契約(次号において単に「契約」という。)に基づき特定秘密を保有し、若しくは特定秘密の提供を受ける適合事業者の従業者として特定秘密の取扱いの業務を新たに行うことが見込まれることとなった者(当該行政機関の長がその者について直近に実施して次条第一項の規定による通知をした日から五年を経過していない適性評価において、特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者であって、引き続き当該おそれがないと認められるものを除く。)
二  当該行政機関の職員又は当該行政機関との契約に基づき特定秘密を保有し、若しくは特定秘密の提供を受ける適合事業者の従業者として、特定秘密の取扱いの業務を現に行い、かつ、当該行政機関の長がその者について直近に実施した適性評価に係る次条第一項の規定による通知があった日から五年を経過した日以後特定秘密の取扱いの業務を引き続き行うことが見込まれる者
三  当該行政機関の長が直近に実施した適性評価において特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者であって、引き続き当該おそれがないと認めることについて疑いを生じさせる事情があるもの
2  適性評価は、適性評価の対象となる者(以下「評価対象者」という。)について、次に掲げる事項についての調査を行い、その結果に基づき実施するものとする。
一  特定有害活動(公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機又はこれらの開発、製造、使用若しくは貯蔵のために用いられるおそれが特に大きいと認められる物を輸出し、又は輸入するための活動その他の活動であって、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるものをいう。別表第三号において同じ。)及びテロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。同表第四号において同じ。)との関係に関する事項(評価対象者の家族(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この号において同じ。)、父母、子及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。以下この号において同じ。)及び同居人(家族を除く。)の氏名、生年月日、国籍(過去に有していた国籍を含む。)及び住所を含む。)
二  犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
三  情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項
四  薬物の濫用及び影響に関する事項
五  精神疾患に関する事項
六  飲酒についての節度に関する事項
七  信用状態その他の経済的な状況に関する事項
3  適性評価は、あらかじめ、政令で定めるところにより、次に掲げる事項を評価対象者に対し告知した上で、その同意を得て実施するものとする。
一  前項各号に掲げる事項について調査を行う旨
二  前項の調査を行うため必要な範囲内において、次項の規定により質問させ、若しくは資料の提出を求めさせ、又は照会して報告を求めることがある旨
三  評価対象者が第一項第三号に掲げる者であるときは、その旨
4  行政機関の長は、第二項の調査を行うため必要な範囲内において、当該行政機関の職員に評価対象者若しくは評価対象者の知人その他の関係者に質問させ、若しくは評価対象者に対し資料の提出を求めさせ、又は公務所若しくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
<以下略>

*5-3:http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/k_25/pdf/s1.pdf#search='%E4%BA%BA%E5%8F%A310%E4%B8%87%E5%AF%BE+%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%97%85%E6%82%A3%E8%80%85+%E5%9B%BD%E5%88%A5%E6%AF%94%E8%BC%83' (2015年8月31日) 障害者政策委員会 ヒアリング資料:欧州諸国との比較からみる我が国の精神科強制入院制度の課題 、(公財)東京都医学総合研究所 西田 淳志
I.医療保護入院、代弁者制度について
■ 欧州諸国における精神科入院全体に占める強制入院割合1
(低):Portugal(3.2%)、Denmark(4.6%)、Belgium(5.8%)
(中):Ireland(10.9%)、Italy(12.1%)、France(12.5%)、Netherland(13.2%)、UK(13.5%)、
(高):German(17.7%)、Austria(18%)、Finland(21.6%)、Sweden(30%)
*1『厚生労働科学研究 精神障害者への対応への国際比較に関する研究(主任研究者:中根允文)(2011)』
■ 我が国の現状(平成24 年時点)
強制入院(医療保護入院を含む)割合:40%以上
強制入院発生頻度(届出数):160 人以上(対人口10 万)
⇒ 自由権規約、および拷問等禁止条約に関する日本政府報告への総括所見:
強制入院要件の厳格性欠如、入院を回避する代替手段の欠如、強制入院の最終手段性、等々の問題について繰り返し批判されている
■ 強制入院割合と関連する制度要因2
強制入院手続きに医療から独立した代理人(アドボケイトカウンセラー、ソーシャルワーカー、弁護士等)の関与が義務付けられているEU 諸国では、そうでない国々に比べ強制入院の割合が有意に低い。
例)Portugal(3.2%)、Denmark(4.6%)、Belgium(5.8%)、Ireland(10.9%)、
Netherland(13.2%)、Austria(18%)
*2『精神障害者の強制入院ならびに非自発的医療:EU 加盟国の法制度と実践に関する最終報告書(2002)』
◇ 代弁者が実質的なアドボカシーを担える仕組みの要件◇
1. 強制入院手続きに関与が義務付けられている各国のアドボケイトカウンセラーやソーシャルワーカーは、医療から独立している(大前提)
2. 法律機関等に所属を置き、医療(または家族)からの独立性を担保したアドボケーター制度 (以下略)


PS(2016年9月23日追加):*6のように、刑事責任能力を判断するため「精神障害等の疑いがある容疑者や被告を数カ月にわたって病院などで拘束する『鑑定留置』が急増している」とのことだが、①精神障害が罪の原因となるのか ②過去に精神科への通院歴があったことを精神障害と言えるのか など、論理的におかしく、科学的調査を行うべきことが多い。にもかかわらず、精神病歴のある人は罪人予備軍であるかのような誤解を与えたり、弁護士が精神障害により免責を主張したりなど、刑法39条による精神障害者差別、冤罪、不当な免責などが進みつつあるのは問題だ。そして、鑑定医を増やす努力がされているとのことだが、鑑定経験や人生経験の浅い精神科医が、このような犯罪を犯す場合の精神の正常と異常の堺の判定を正確にできるのかも疑問に思う。
(*ちなみに、私は1975年頃、東大医学部保健学科の学生だった時、精神衛生の実習で、東京都の女性センターで、何度も売春して捕まってくる女性の心理カウンセラーの実習をしたことがあり、相手から「あんたみたいにめぐまれた人に話しても理解できるわけないでしょ」と言われ、本当に理解できなかったので参ったことがある。その人は戦争中に子供時代を過ごして学校に行けず、計算をしたり、文字を書いたりすることができないため、他の仕事を見つけにくい人だった。その時、私は、心理カウンセラーが相談にきた相手の心理を分析しても問題は解決せず、そうなった背景を変えるべきだと心から思った)

*6:http://digital.asahi.com/articles/ASJ9Q4QJ1J9QUTIL00G.html
(朝日新聞 2016年9月23日) 「鑑定留置」裁判員導入後に急増 医師不足、育成が急務
 刑事責任能力を判断するため、精神障害などの疑いがある容疑者や被告を数カ月にわたって病院などで拘束する「鑑定留置」が急増している。市民が裁判員として加わるようになり、判断しやすくする狙いが検察側にある。ただ、鑑定に携わる医師は不足しており、学会などが人材育成を急いでいる。
■責任能力、判断しやすく
 「精神鑑定のおかげで、責任能力について迷わず判断できた」。今年3月に東京地裁であった裁判員裁判。自宅マンション13階から長男(当時5)を投げ落としたとして、女(36)が殺人などの罪に問われた。裁判員を務めた男性は、被告人席の女の身ぶりや表情を注意深く見守った。女は精神科への通院歴があったことなどから、起訴前と起訴後に計2度の鑑定を受けていた。鑑定結果は鑑定医が法廷で説明。その結果をふまえ、弁護側は「障害の影響があり責任の非難は軽減される」と訴えていたが、検察側は「(被告の)障害は、過度に有利にくむべき事情ではない」と主張した。裁判員裁判では、難しい専門用語をわかりやすく言い換える配慮もされている。裁判員の男性は「身近に同じような障害のある人がいないので、自分の感覚だけで判断するのは難しかった。鑑定書類を読み、鑑定医の証言を法廷で聞いて、総合的に考えた」。判決は懲役11年。「障害の程度は軽度で犯行に影響したとは認められず、責任を軽減する事情として重視できない」との判断だった。最高裁によると、鑑定留置が認められた件数は2009年に裁判員制度が始まる前は年間250件前後だったが、その後は急増。14年は564件だった。起訴前に検察側が請求する鑑定と、起訴後に裁判所が職権で行う鑑定があるが、特に増えているのは起訴前の件数だ。今年7月に相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件でも、起訴前に容疑者が鑑定留置された。ある検察幹部は「法廷で被告の様子がおかしいと感じると、裁判員は責任能力を疑う。検察が鑑定した上で起訴すれば、犯行当時に責任能力があったとわかってもらえる」。別の検察幹部は「取り調べの録音・録画が進み、弁護人は自白が任意にされたものかを争点にしにくくなり、責任能力を争うようになった。検察として先手を打つ意味合いもある」と打ち明ける。こうした検察側の狙いを、弁護側も注視する。日本弁護士連合会で責任能力をめぐる対策チームの委員を務める田岡直博弁護士はこう分析する。「検察側は起訴するケースを絞り込み、裁判員裁判での立証の負担を減らしているのだろう。鑑定で有利な結果を得て確実に有罪に結びつける一方で、危ない橋は渡らない」。田岡弁護士は「責任能力を争うスキルで、弁護側は検察側に立ち遅れている」と認める。弁護側が独自に依頼する「私的鑑定」を増やす必要性もあるとしつつ、「どんな鑑定結果についても裁判員を説得できるよう、研修などを通して態勢を強化したい」と話す。
■医師育成追いつかず
 急増する鑑定に、医師の育成が追いついていない。日本司法精神医学会理事の五十嵐禎人(よしと)・千葉大教授は「経験の浅い医師にも依頼が増えた。質が落ちている可能性は否定できない」と語る。五十嵐教授によると、鑑定医には特別な資格は要らないが、精神障害を診断したり、犯行に与えた影響を分析したりするスキルが必要だ。学会では14年、鑑定医の認定制度を始め、これまでに約30人が認定された。過去に担当した鑑定書5件の提出を求めるなど経験を重視している。大学院で養成する動きもある。東京医科歯科大の大学院は昨秋、国内で初めてという「犯罪精神医学専門チーム」を設けた。今春から若手の精神科医2人が週1回、ベテラン鑑定医の岡田幸之(たかゆき)教授のもとで犯罪精神医学を研究したり、実例を分析したりしている。岡田教授は「犯罪を扱う精神医学者は非常にマイナーな存在。国内での教育の場はほとんどなかった」と話す。「1人の患者と長時間向き合って判断する仕事のやりがいを知ってもらい、ごく限られた医師に依頼が偏る現状を変えたい」
     ◇
〈鑑定留置〉 精神状態などを調べるため、逮捕後の容疑者や起訴後の被告の身柄を数カ月にわたって病院などで拘束すること。刑事訴訟法に基づく手続きで、検察官が請求して裁判所が認める場合と、裁判所の職権による場合がある。鑑定では、成育歴や生活状況のほか、犯行の動機が了解できるかや計画性、違法性の認識などについて調べられ、その結果は捜査や裁判で刑事責任能力を判断する材料となる。勾留期間中に半日から1日で行われる「簡易鑑定」とは区別される。


PS(2016年9月25日追加):*7のように、全て同じ4階のフロアでトラブルが発生していたとして、神奈川県警は「点滴への異物混入は殺人事件」と一本化して捜査を進めているが、点滴袋が無施錠の状態で保管され誰でも手に取れる状態であったことは病院内の管理に甘さがあるものの、点滴液の中に薬剤を混合する目的で界面活性剤が含まれている可能性も合わせて考えるべきだ。何故なら、この病院では4階に多かったようだが、高齢者や重症者などの弱っている人が、長期間その薬を使い続けると中毒死することがあるかも知れず、その方が影響が大きいからだ。警察が、メーカーの製造物責任を考えず(その結果メーカーを保護し)、被害者を犯人に仕立て上げ、自白により証拠を造って結論に合わない証拠を無視した事件に東住吉冤罪事件(http://www.jca.apc.org/~hs_enzai/jikentoha.html)があり、警察(→メディア)の古くてステレオタイプな筋書きには要注意なのである。

*7:http://www.sponichi.co.jp/society/news/2016/09/25/kiji/K20160925013418490.html (スポニチ 2016年9月25日) 点滴異物混入で患者死亡病院トラブルまみれ…全て同じ4階フロア
 横浜市神奈川区の大口病院で入院患者の点滴に異物が混入され殺害された事件で、同院の4階でトラブルが相次いでいたことが24日、分かった。飲料への異物混入などが春から続発し、事件と同時期に入院患者3人が亡くなっていた。この日会見した高橋洋一院長は、殺害事件の犯人について「院内の人物の可能性も否定できない」と話した。最初の異変は今年4月。看護師用のエプロンが切り裂かれているのが見つかった。さらに6月20日には、患者1人のカルテ数枚が抜き取られていたことが発覚した。病院はスタッフへの聞き取りを実施。横浜市は7月上旬に情報提供のメールから、エプロン切り裂きの事実を把握した。8月には、女性看護師がペットボトル飲料を飲もうとして違和感を訴えた。ボトル上部から、注射針ほどの穴が見つかっており、飲料は「漂白剤のような」味がしたという。病院側によると、これらのトラブルは全て4階で発生している。市医療安全課によると、エプロン切り裂きを市に情報提供した同じ差出人からメールがあり、「飲んでしまい、唇がただれた」と記されていた。その後、病院関係者から所轄の神奈川署にトラブルの相談があったという。同院では今月20日に殺害された横浜市港北区の無職八巻信雄さん(88)の他にも、点滴を受けていた別の80代の男性患者2人が18日に死亡。点滴は受けていなかったが、90代の女性患者も八巻さんと同じ20日に亡くなった。4人が入院していたのも4階で、院内のトラブルも合わせて全て同じ階で起きたことになる。八巻さんの遺体や点滴袋からは、ヘアリンスや殺菌剤などに使う界面活性剤の成分が検出されていたことも、捜査関係者への取材から分かった。一般に市販されているものの可能性がある。点滴袋の中に微量の気泡があるのを担当の女性看護師が見つけ、異変を察知した。袋に目立った穴や破れはなかったという。点滴袋は、4階フロアのナースステーションに無施錠の状態で保管。誰でも手に取ることが可能な時間帯もあり、近くに界面剤成分を含む製品があったことも判明。神奈川署特別捜査本部は、何者かが不特定に患者を狙って在庫の点滴袋に界面剤を混入させた疑いもあるとみて鑑定を急ぐ。高橋洋一院長によると、同院は「(病気が進行した)終末医療の患者が多い」という。犯人について「院内の人物の可能性も否定できない」と話した。川崎老人ホーム連続殺人事件など、高齢者施設での虐待事件などが相次いでいることにも触れ「我々の考えられないような感情を持つ若い方もいるのかもしれない。今回がその流れで起きているならば残念」と漏らした。
▽界面活性剤 1つの分子の中に、水になじみやすい「親水性」と、水になじみにくい「親油性」の2つの部分を持つ。性質の異なる2つの物質の境界面(界面)に働きかけ、水と油のように混じり合わないものを混ぜ合わせる働きをする。せっけんや洗剤の主成分。誤って飲んだ場合、嘔吐(おうと)や吐血などの症状が考えられ、肝機能障害や、肺水腫による呼吸困難から死亡するケースもある。
▽川崎老人ホーム連続殺人事件 川崎市幸区のホームで14年11~12月、入居者3人が転落死。初動捜査で変死と処理されたが、16年2月に元職員の男を逮捕。15年、ホームでの窃盗で逮捕されていた
▽大口病院のトラブル
 ▼4月 4階で看護師のエプロンが切り裂かれる
 ▼6月20日 患者1人のカルテ数枚が抜き取られていたことが発覚。後日一部が、院内で見つかる
 ▼7月 市にエプロン切り裂きについて情報提供のメール
 ▼8月 病院スタッフの飲み物に異物が混入。市にメール。病院が神奈川県警に相談
 ▼9月2日 市が定期立ち入り検査でトラブル再発防止を指示
 ▼14日 八巻さんが入院
 ▼18日 4階に入院し、点滴を受けていた80代の男性患者2人が死亡。病死と診断
 ▼19日午後10時ごろ 30代の女性看護師が4階の部屋にいた八巻さんの点滴を交換
 ▼20日午前4時ごろ 八巻さんの心拍が低下しアラームが作動
 ▼同4時55分ごろ 八巻さんが死亡
 ▼同10時45分ごろ 病院が神奈川県警に「点滴に異物が混入された可能性がある」と通報
 ▼同日 4階に入院し、点滴を受けていない90代の女性が死亡。病死と診断
 ▼23日 県警が八巻さんの死亡を殺人と断定し、特別捜査本部を設置


PS(2016年9月26日):確かに現在は、*8のように、高齢によるものも含む障害者の人権や社会の受入におけるバリアフリーを正面から要求すべき時だ。

*8:http://qbiz.jp/article/94657/1/ (西日本新聞 2016年9月26日) 「障害者の権利」をテーマに全国大会 水俣病、ハンセン病から学ぶ
 障害者の共同作業所などでつくる全国団体「きょうされん」の全国大会が10月22、23両日、熊本市の県立劇場などで開かれる。熊本地震のため見送りも検討されたが「災害時こそ障害者の権利を守らなければいけない」と、開催を決めた。水俣病公式確認60年、らい予防法廃止20年の節目も踏まえ、胎児性水俣病患者やハンセン病元患者も登壇。実行委員会は25日、熊本市に集まり、日程や運営面の最終確認をした。大会は全国40支部の持ち回りで開かれ、九州では2010年の福岡市以来3回目。「障害者権利条約をこの国の文化に」をテーマに、水俣病やハンセン病を巡り、命と人権を軽視された歴史を通して差別や障壁のない社会の実現を目指す。22日は午後1時から、第2次世界大戦中のドイツで障害者が虐殺されていた事実を掘り起こしたきょうされんの藤井克徳専務理事が「憲法公布70年の今年、わたしたちが進むべき道とは」と題し基調報告。「熊本から伝えるプログラム」として、胎児性水俣病患者の金子雄二さん(61)や菊池恵楓園入所者自治会の志村康会長(83)たちの半生から、国策によって踏みにじられた人権を考え、今後の展望について理解を深めるシンポジウムもある。午後4時からは、県立劇場と熊本学園大の計16会場で分科会を実施。各事業所が支援活動などの取り組みを紹介するほか、障害者との交流会、水俣病患者やハンセン病元患者との対話を通して「平和」を考える討論会もある。23日も午前9時から各分科会を開く。副実行委員長を務める山下順子きょうされん熊本支部長は「4月の地震では全国から多くの温かい支援をいただいた。感謝を伝える大会にもしたい」と話している。実行委事務局=096(342)4951。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 08:58 PM | comments (x) | trackback (x) |
2016.3.3 高齢者への冷遇と社会保障
     
 *1-1より   介護負担増   介護費用負担割合      介護認定数、給付費、保険料

 書かなければならないテーマは沢山あるが、今日は、認知症高齢者の列車事故と公的介護制度について記載する。なお、(私の提案でできた)公的介護制度は、日本で2000年4月に始まり、40歳以上の国民全員が加入して介護サービスを受けることができるもの(https://www.fp-kazuna.com/insu/social/61.html 参照)であるため、2000年から介護給付費が右肩上がりに増えるのは当然であり、いまだ成熟した制度ではない。

 また、介護制度ができる前の介護は親族の負担で行われていたため、現在の高齢者に介護保険料を支払わせると現在の高齢者にとっては親族への直接介護との二重負担になるとともに、40歳未満の世代が介護制度への加入を免除されるのは、この世代への過度な優遇となる。そして、40歳以上の従業員のみを公的介護制度に加入させることにより、40歳以上の従業員に対する企業の負担が増えたため、40歳定年制を唱え始めた企業さえある。

(1)認知症高齢者の列車死亡事故 ← 見落とされた重要な論点
 認知症高齢者が列車にはねられて死亡した事故について、*1-1のように、一審、二審は家族に監督責任があるという理由で遺族に損害賠償責任を認めたが、最高裁は、家族のかかわり方や介護の状況を総合考慮して「遺族に責任はない」という結論にした。その結論はよいが、最高裁も①本人との関係②同居の有無や日常的な接触③財産管理への関わり方などを総合的に考慮し、責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるかを基準とすべきだとしており、損害賠償責任を負う場合もあるようだ。

 この論理の進め方で驚くのは、家庭で介護している親族が列車にはねられると、ただでさえ親族の他界で悲しんでいる遺族に、監督責任不履行として当然の如く損害賠償請求がなされることである。しかし、今の時代、そのように危険な踏切を放置しておいたことは、鉄道会社に責任があるのではないか?高齢者であっても、人間を閉じ込めたり繋いだりすれば人権侵害であるため、どの時点で何をすれば監督責任を履行したことになるかの判断は困難で、そもそも人は家の中に閉じ込めるべきものではない。

 さらに、高齢者や障害者が社会で暮らしやすくするため、バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO091.html 参照)が2006年に制定されている。この法律の趣旨は、高齢者や障害者を社会で受け入れ、その生活をやりやすくするため、公共交通機関の旅客施設や建築物の構造を改善することだが、今は、駅にエレベーターをつけたり、車椅子で交通機関を利用できるようにすることくらいしか実行されていない。しかし、高齢化社会・共働き社会に向けて鉄道構築物を安全なものにすることは、この制度に含めるべきである。

 そのため、*1-2に書かれているように、今後増える認知症高齢者のためには、「地域包括ケアシステム」で見守るのも大切だが、その前に鉄道や車の多い道路は高架にして事故や自殺を予防し、一階は自転車や歩行者が安心して通れる安全な街を作る必要があると考える。そうすれば、このような事故の予防になると同時に、踏切で長時間待たされたり道路が渋滞したりして生産性が低下することも防げるため、一石二鳥だ。

(2)公的介護制度について
 *2-1のように、2015年4月に事業者に支払われる介護報酬が全体で2.27%引き下げられたことが主な要因で、57.6%の事業所が改定後に報酬が減少し、訪問介護と通所介護(デイサービス)の事業者の40%以上が赤字となり、その中でも小規模事業所ほど苦境だそうだ。しかし、このように毎年切り下げられるようでは、安心して介護事業に参入したり、介護施設に投資したりすることができず、*2-2のように、「介護離職ゼロ」を実現することなど到底できない。

 なお、介護分野は労働集約型産業であるため雇用吸収力が大きいが、待遇の厳しさから人材不足が続いている。私は、チームで介護を行えば、全員が流暢な日本語を話せなくても介護サービスはできるため、*2-3のように、人手不足の介護などの分野でせっかく日本に来てくれた外国人は、技術に応じて公平・公正に処遇し、日本から追い返すようなことはしないのがよいと考える。

<認知症高齢者の死亡事故とバリアフリー>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160302&ng=DGKKASDG01HBF_R00C16A3EA2000 (日経新聞 2016.3.2) 家族の責任、総合判断 認知症事故で最高裁判決、介護の実情に配慮 線引き不明確、不安も残す
 認知症の人による損害の賠償責任を家族がどこまで負うかについて、最高裁が1日、初判断を示した。家族のかかわり方や介護の状況を「総合考慮する」という内容で、今回の事例では「家族に責任なし」と判断した。在宅介護の実情に配慮した形だが、状況によっては責任を負う可能性もある。「同居の配偶者や成年後見人というだけで自動的に監督義務者に当たるとはいえない」。民法は責任能力の無い人が第三者に損害を与えた場合、「監督義務者」が賠償責任を負うとしている。裁判では、認知症の人の家族がこの監督義務者にあたるかどうかが争点だった。同居している配偶者を監督義務者とした二審判決は「介護の担い手がいなくなる」と批判された。最高裁判決は介護の実情を踏まえ、二審判決を明確に否定した。では、どのような場合に義務を負うことになるのか。最高裁は(1)本人との関係(2)同居の有無や日常的な接触(3)財産管理へのかかわり方――などを総合考慮し、「責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか」を基準とすべきだとした。最高裁がこうした判断を示したのは初めてだ。介護分野の専門家は「現場の実態を踏まえている」と評価。介護問題に詳しい弁護士は「個人が被害者となることもあり、事案によっては賠償責任を問えるとする判断は被害救済の道を残す」と肯定的だ。もっとも認知症の家族にとっては、不安が残る内容といえる。義務を負うかどうかの線引きについて、判断材料となる項目を示したにすぎないからだ。項目を見る限り、同居の家族が健康だったり、財産管理を含め日常的に深く関わったりしていた場合、監督責任を問われる可能性も出てくる。ただ「監督義務者がその義務を怠らなかったときは賠償責任を負わない」とする民法の規定があり、ただちに賠償責任を負わされるわけではない。判決でも裁判官5人のうち2人が、長男を「監督義務者として扱うべき」としたうえで、「十分な対策を取っていた」と賠償を認めない意見を付けた。一方、問題行動を放置していた時などは賠償責任が生じる可能性もある。国は認知症の人を医療機関でなく地域で見守る政策を進めており、在宅介護の比重は増している。「症状の軽重や介護する家族の年代にかかわらず、24時間目を離さずにいることは不可能」。「認知症の人と家族の会富山県支部」(富山市)の勝田登志子事務局長は、義理の両親と自分の母親を介護した経験を踏まえてこう訴える。あるベテラン裁判官は「今後、法律の分野では家族の監督責任は制限される方向に働くだろう」と予想しつつも、「どのような場合に家族の責任が認められるかは、判例の積み重ねを待つ必要がある」とみる。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20160302&ng=DGKKZO97916920S6A300C1EA1000 (日経新聞 2016.3.2) 認知症介護の実態を重くみた最高裁判決
 認知症の高齢者が徘徊(はいかい)中に列車にはねられ死亡した事故で、遺族に賠償責任があるかが争われた訴訟の判決が、最高裁であった。判決は「家族が高齢者を監督することが可能な状況になかった」として、賠償を命じた二審判決を破棄した。高齢者を介護する多くの家族にとって、納得しやすい結論だろう。ただ、家族に責任はないとされても、亡くなった高齢者は戻ってこない。こうした事故を防ぐため、認知症の人を支える仕組みをつくる必要がある。民法は、責任能力のない人が第三者に損害を与えた場合に、監督する義務のある人が賠償責任を負うと定めている。裁判では、妻と長男に監督義務があるかが焦点となった。最高裁はまず、配偶者であることで直ちに監督義務を負うわけではないと指摘した。監督義務があるかどうかは、その人自身の生活や心身の状況、同居の有無、介護の実態などを「総合的に考慮し判断すべきだ」とした。妻は事故当時85歳で、要介護1の認定を受けていた。また長男の妻は近所に住んで介護にあたっていたが、長男自身は同居しておらず、月3回訪ねる程度だった。これらを踏まえ、判決は、妻も長男も監督が可能ではなかったと結論づけた。高齢化が進み、老々介護や遠距離介護のケースも増えている。一律に責任を負わせず、個々の事情を丁寧に見る判断といえるだろう。ただどのような場合に責任が問われ、どのような場合は問われないかは必ずしも明確ではない。何より大事なのは、こうした悲劇を繰り返さないことだ。政府は認知症になっても住み慣れた地域で暮らせる社会を目指すという。鍵となるのが医療や介護などを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」だ。国や自治体は整備を急がなければならない。高齢者が徘徊した際に、市民にメールで連絡し、保護につなげる地域もある。住民の力も欠かせない。認知症の予防や治療のための研究の推進、見守りに役立つ機器の開発、損害を広く薄く負担し合う保険のような仕組みづくりが課題になるだろう。認知症の高齢者の数は2025年には約700万人に達するとの推計もある。誰もが当事者になる可能性がある。一つ一つ、地道に対策を積み上げていくしかない。

<介護>
*2-1:http://qbiz.jp/article/81909/1/
(西日本新聞 2016年3月3日) 訪問・通所介護、4割超が赤字経営 小規模事業所ほど苦境
 訪問介護と通所介護(デイサービス)の事業者の40%以上が赤字となっていることが2日、日本政策金融公庫総合研究所の調査で分かった。2015年4月に事業者に支払われる介護報酬が全体で2・27%引き下げられたことが主な要因で、57・6%の事業所が改定後に報酬が減少した。調査は昨年10月、訪問介護か通所介護のサービスを提供する企業や社会福祉法人などを対象に実施し、2886事業者から回答があった。サービスごとの事業者の赤字割合は訪問介護が47・6%、通所介護が42・7%。特に通所介護では、事業所の規模が小さいほど経営が苦しい傾向が鮮明で、従業者が「4人以下」の赤字の割合が52・8%だったのに対し、「50人以上」だと32・8%にとどまった。改定の前と後で、報酬が「増えた」と回答した事業者は全体の8・8%。「変わらない」は33・6%、「減った」は57・6%だった。減少した事業者のうち、16・7%が「15%以上減少した」と回答した。日本政策金融公庫総合研究所は「大規模な事業所では、介護報酬の高いサービスを始めることなどで報酬減の影響を少なくできたが、規模の小さい事業所では対応が難しかったと考えられる」としている。

*2-2:http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/262734
(佐賀新聞 2015年12月24日) 1億総活躍社会、目立つ政策のちぐはぐさ
 「1億総活躍社会」のスローガンの下、政府はこの国をいったいどこへ導こうとしているのか。政府の補正予算や来年度予算の編成が進むとともに、おぼろげながら全体像が見えてきた。1億総活躍という、戦前・戦中の全体主義を連想させるネーミングはともかく、世界にも例がない超高齢化社会に突入したわが国にとって、新たな社会構造に応じた経済の活性化策が最重要課題なのは確かだ。その具体的な政策が、アベノミクスの第2ステージと位置づけられた「新3本の矢」というわけだ。従来の3本の矢を束ねて、GDP(国内総生産)を2020年ごろまでに600兆円に拡大させるというのが、新たな第1の矢。第2の矢は子育て支援で、出生率を現在の1・42から「希望出生率1・8」まで押し上げる。さらに、社会保障を充実させる第3の矢で、家族の介護や看護を理由に離職・転職する人が年間10万人以上も生じている状況を解消して「介護離職ゼロ」を実現させるという。いずれも、理想的な未来の姿なのかもしれない。だが、果たして実現できるのだろうか。これまで、安倍政権は規制緩和により、雇用の流動性を高める政策を進めてきた。その結果、賃金が低く押さえられ、企業側に有利な雇用環境が生まれ、働く人の4割が非正規雇用という状況になった。ところが、今回の政策では賃上げで消費を刺激するという。最低賃金を年率3%程度をめどに引き上げ、全国加重平均で千円を目指す。これでは、雇用改善の責任を中小企業に押しつけるだけではないか。非正規雇用の問題は、第2の矢の出生率の問題にもつながる。若い世代では、不安定な雇用と低い所得水準を背景に、結婚に踏み切れない、あるいは子どもを生み育てる自信がないという現実が生じている。これまでの大企業重視で雇用流動性を優先してきた政策そのものを転換しなくては、若い世代の生活の安定は望むべくもない。第3の矢の「介護離職ゼロ」にしてもピントがずれていないか。今回の政策では、介護施設の整備のために国有地を活用したり、賃貸物件での運営を認める規制緩和策を打ち出している。だが、本当に解決すべきはハード面の整備ではなく、介護現場で働く人材の確保ではないか。介護分野は典型的な労働集約的産業にもかかわらず、待遇の厳しさから人材不足が続いているからだ。最も気掛かりなのは、低年金受給者へ一律3万円を支給するという政策だ。1130万人、その額は3600億円を超える。「消費の下支え」を名目にしているが、来年夏の参院選をにらんだバラマキと批判されても仕方あるまい。総じて目立つのは政策のちぐはくさだ。目指す先には、経済や社会保障分野で好循環を生み出し、50年後に人口1億人を維持するという最終的な目標がある。そうであれば、ここに挙げられた政策は、どれも小手先に過ぎず、実効性も疑わしい。旧「3本の矢」のように、十分に成果を検証しないまま、選挙が終われば次の矢を持ち出すような、目くらましでは困る。

*2-3:http://digital.asahi.com/articles/DA3S12131786.html
(朝日新聞 2015年12月24日) (人口減にっぽん)外国人79万人が働く国
 コンビニや居酒屋、そして除染も。日本で働く外国人が増えている。その数、79万人。6年間で30万人増え、過去最高だ。日本の労働人口が減る中、今や貴重な働き手になっている。ただ、職場は日本人が避けがちな仕事が多い。その働く現場を追った。
■除染の町「人が足りぬ」
 日系ボリビア人の男性(41)はこの夏、福島県飯舘村で除染作業員として働いた。幹線道路沿いの草刈りが主な仕事だ。1日8時間で、1万6千円。お金を稼ごうと23歳で来日して18年。これまでもらったことのない額だった。妻の反対を押し切って申し込んだ。作業グループは10人。そのうち、自分を含む4人が外国人だった。「人が足りないからだ」。除染作業員を募るある派遣会社の役員は、そう話す。この会社も今年初めて、外国人を6人送り込んだ。事故やトラブルを恐れる派遣先から「外国人はやめてくれ」と言われていたが、今年は「解禁」された。大手ゼネコンも「東京五輪で人手不足が進むので、除染する外国人は増えるだろう」。だが働く環境は、ボリビア人男性が感じたほど好待遇ではない。この工事で環境省が業者に示している除染の賃金目安は、実は2万5千円だ。給料がきちんと支払われる保証もない。この男性は、8~9月の1カ月間分の給料28万9千円が振り込まれなかった。雇用主の派遣会社に問い合わせたが、「別の建設業者が支払う」と言ったきり。一緒に作業した3人の外国人と連絡を取ると、みな未払いだった。労働組合に駆け込み、ようやく11月、建設業者から「未払い分は払う」と連絡がきた。それでも、男性はこう話す。「また除染で働きたい。これまで車部品工場で働いたけど、あまり人間的な扱いを受けなかった。除染現場はそうではなかった」
■労働人口、30年後は2000万人減
 厚生労働省の統計(2014年)では、働く外国人は79万人。国家公務員(64万人)をしのぐ数だ。雇用主が未報告のケースもあり、「法務省の統計データもあわせて推計すると、厚労省調査の捕捉率は7割程度。すでに100万人働いているのはほぼ確実だ」(自由人権協会の旗手明理事)という。一方、日本の推計労働人口は、今後30年間で2千万人以上減る。外国人へますます頼ることになりそうだ。政府は、どういう外国人を増やすのか。「1億総活躍」を掲げる政府は、「移民受け入れより前にやるべきことがある」(安倍晋三首相)という立場だ。日本人だけで人口1億人を維持し、経済発展に役立つ外国人を中心に歓迎する、というスタンスだ。具体的には、学歴や収入が高い「高度人材」が長く日本で暮らせるようにしているほか、人手不足の「介護」で、来年度にも受け入れを広げる。外国人が「家事代行」のために入国することを新たに認め、日本の女性が家の外で働きやすくして、労働力の落ち込みを防ぐ。安価な単純労働を担う実態がある「技能実習生」は、滞在期間を3年から5年に延ばす。こうした方針が、政府の成長戦略に盛り込まれている。
■家事「両親に頼むより楽」
 外国人の家事代行は今月、神奈川県の計画が国家戦略特区として認められた。同県では来年3月をメドに家事代行で働くことを目的に入国できるようになる。賃金は日本人以上とすることや、働けるのは3年未満と政府指針で決まっている。すでに需要はあり、現在は「日本人と結婚した外国人」など就労に制限のない人が働いている。12月中旬の平日、午後5時。東京都渋谷区の戸田万理さん(42)宅に、フィリピン人のヴィナさん(42)がやって来た。ヴィナさんは夫が日本人で、日常レベルの会話はだいたい理解できる。持ってきたエプロンを身につけると、戸田さんが「スープを作ってもらえるかな」と材料を渡す。1時間ほどでカボチャのスープを仕上げた。その間、戸田さんは長女の理花ちゃん(1)をあやす。フルタイムで働くコンサルタント。共働き家庭で、来年1月には長男を出産する予定だ。「仕事と家事、育児のすべてがのしかかり、イライラすることが増えていた」。11月、家事代行の「タスカジ」に申し込んだ。1回3時間、交通費を除いて4500円。週2回、平日に来てもらう。戸田さんに甘える理花ちゃんに「ちょっと待って」と言う回数が減った。「自分の両親に頼むより気楽。もう離せません」。タスカジの働き手は登録式だ。外国人に限っているわけではないが、多くがヴィナさんのように「配偶者ビザ」を持つフィリピン人女性だ。午前9時~午後10時に3時間区切りで頼め、1時間あたり1500円から。利用者は3千人近くいる。「国家戦略特区」での解禁を見据え、人材確保も始まっている。人材大手パソナは来年4月をメドに、フィリピン人約30人に日本に来てもらう予定だ。マニラの人材会社と提携し、「実務経験1年以上」などの日本政府の条件に合う人材の募集を始めた。選考に通れば、日本語や日本食などの研修を年明けから現地で始める。料金は、週1回の利用で1カ月1万円ほどを想定。企業に、「社員の福利厚生」としての利用を売り込む考えだ。92年に外国人の家事代行を解禁した台湾では、労働時間の管理が課題になっている。家庭に住み込む形式がほとんどのためだ。今年秋、台湾家庭に住み込むフィリピン人女性(32)は「雇用主が外に出してくれない」と目に涙をためて訴えた。働き始めて6カ月。ようやく初めての休日を1日もらえたのだ。外国人の就労を担当する労動部労動力発展署の蔡孟良副署長は「雇用主が週7日働かせても、ちゃんと残業代を払い、労働者が合意していれば政府は何もできない」という。日本の国家戦略特区では、住み込み形式は認めていない。ただ台湾では「外国語交じりで世話をされると、子どもの文化やアイデンティティーに影響が出る」(蔡副署長)とも指摘されていて、最近では受け入れの条件を厳しくしている。
■「まずは家事の分担を」
 外国人労働問題に詳しい指宿昭一弁護士の話 外国人に家事を頼る前に、まずは男性も平等に分担できるようにすべきではないか。長時間労働を見直して、不足している保育所を増やすことが先決だろう。本当に外国人が必要なのか、国民的な議論も不足している。外国人に家事をさせる理由は、低賃金でしてもらえるからだ。家事は範囲が広く、仕事は育児や介護に広がる可能性がある。そうすると、保育士や介護福祉士などの賃金がますます低く抑えられることになる。

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2015.2.24 介護保険制度の変更について (2015.2.26追加あり)
   
  人口ピラミッドの推移    高齢者人口の推移  介護費の推移  医療費の世界比較

(1)介護保険制度の不公正と不公平
 *1に書かれているとおり、現在、介護費用は、利用者の自己負担以外は、40歳以上の国民が支払う介護保険料と国と地方自治体の税金で賄っている。また、介護保険料は、65歳以上の高齢者が払う「第1号保険料」と、40~64歳の現役の会社員らが健康保険を通じて払う「第2号保険料」からなり、第2号保険料には企業負担もある。

 そして、高齢者の第1号保険料は各市町村が決め3年毎に見直すため引き上げ幅が大きくなり、現役世代の第2号保険料は、企業の健康保険や市町村の国民健康保険が毎年度決める仕組みで単年度の給付費の増加見込みを反映させるため、引き上げ幅が小さくなるそうだ。ここでおかしいのは、誰もが直接・間接にサービスを受けている介護負担において、年齢によって国民を不平等に扱い、徴収が不公正になっていることである。

 また、「第2号保険料」は40~64歳の現役会社員らが支払うことになっているため、企業の社会保険料負担を減らす目的で、*7-1、*7-2のように「40歳定年」というような驚くべき提案が出てくる。*7-1、*7-2では、「40歳定年は、労働者が知識やスキルを磨き直すため」と主張されているが、それなら40歳定年よりも会社内で研修、配置、出向を工夫したり、労働者がスキルアップするために休職や自発的転職をしやすくしたりするのがまっとうな方法だ。

 全体として、医療費は世界的に見て高い方ではなく、介護は始まったばかりであるのに、このように不公正かつ不平等な制度をいつまでも改正せず、さらに高齢者に負担増・給付減を強い、企業が社会保険料を支払わない方法を導入しようと言うのは、政策を語る資格のない人のすることである。

(2)介護保険制度の利用が増えるのは当然で、これは本物の需要だ
 *2には、「①介護費は発足時の3倍になり、団塊の世代が75歳以上になる2025年度には、現在の2倍の21兆円に膨らむ」「②介護職員が不足する」「③膨張が続けば税金の投入額も40歳以上の国民が負担する保険料も年々増える」「④国民負担の増加を和らげるため4月の介護報酬改定では平均単価を2.27%引き下げる」「⑤高齢者は今後も増え続ける見通しだ」と書かれている。

 しかし、①については、介護保険制度は2000年度から始まったのであり、最初は利用できるサービスが少なく、質も高いとは言えず、利用者も介護を他人に任せるのを敬遠していた時から、次第に介護サービスが充実してきたのであり、核家族化と高齢者人口の増加とともに介護サービスの利用が増えるのは当然であり、これは第三の矢にあたる本物の重要なのである。そして、上の2番目のグラフのように、中国はじめ他の新興国でも、少し遅れて同じになるものだ。

 そして、②も考慮すれば、*6のように外国人介護士を使い捨てにすることなく労働力として重視し、③④から国民負担の増加を和らげる必要はあるが、それはいらない人に車椅子を与えて歩けなくしたり、一律に平均単価を引き下げたりするのではなく、可能な人には自立を促しながら、必要十分なサービスを適時に行いつつ、解決すべきなのである。

 なお、③④⑤から、介護保険制度は、40歳以上の国民のみが負担し、65歳以上の引き上げ幅は大きいというような不公正・不平等な制度ではなく、所得のある人全員が負担する応能負担にすべきだ。

(3)介護保険制度の4月以降の負担増・給付減について
 *3に、「①高齢者ら利用者の自己負担は、リハビリ目的の老人保健施設など施設・居住系サービスでは安く、訪問介護など在宅・通いのサービスは高くなる」「②要介護度が重い人や認知症の人向けのサービスは手厚くなる」「③現役世代の介護保険料がわずかに安くなる」と書かれており、現役世代の介護保険料を安くするとともに、在宅介護への変換を促していることがわかる。

 しかし、①により、リハビリ目的の老人保健施設が減ると、本当に必要な高齢者も施設でリハビリをすることができなくなる。また、40歳未満の人を介護保険料免除にしたまま現役世代の介護保険料を安くするために所得の少ない高齢者の負担増・給付減を行うというのは、驚くほど不公正である。さらに、年中、介護保険報酬を変にいじくることで、*4のように、介護事業者の経営計画が立たず、質の維持もできず、投資して始められた事業が成長するどころか無駄になるのだ。

 その上、40歳未満の人を介護保険料免除にすることにより、*7-1、*7-2のように、企業は屁理屈をつけて、介護保険料の事業主負担分を節約するために、「40歳定年制」を導入したがっている。つまり、介護保険料の負担者を40歳以上としていることが、労働者が40歳で区分される理由にもなっているため、介護保険料の負担者を医療保険と同様、働く人全員とすべきなのである。

(4)外国人介護職を活かす方法について
 *6に、「①厚生労働省は、介護職に外国人技能実習生を活用する方針を固めた」「②国内の施設で働きながら介護福祉士の資格取得を目指すが、日本語の壁の高さなどで合格率は2割に満たない」と書かれているが、介護現場の労働力として外国人労働者を受け入れるのであれば、名目的な技能実習生ではなく、正式な労働者として受け入れるべきである(そもそも厚労省労働局が、このような労働基準法の脱法行為を認めているのが疑問)。

 何故なら、1)実習生は即戦力にはならず、3年や5年の実習期間では、介護事業者にとっては教えるばかりで役に立つ期間が短い 2)技能実習の現場では、低賃金や時間外労働の強制など違反行為が後を絶たない 3)日本国内の施設で働きながら介護福祉士の資格取得を目指す外国人は、日本語の壁で介護福祉士の資格合格率が2割にも満たない 4)介護福祉士のニーズは必ず増加する からだ。

 しかし、1)2)4)は、外国人介護士を技能実習生としてではなく、労働者として受け入れれば解決する。また、3)の原因となっている「介護には利用者や家族の声を聞き取る高い日本語能力と技能、経験が要求される」というのは、まず、介護は家族の“愛”や日本語能力だけでできるものではなく、プロの知識と経験が必要だというところから出発すべきだ。そうすると、母国で看護師などの資格をとってきている外国人介護士に不足するのは、日本語能力と日本における技能・経験だけであり、これは、知識のない日本人よりも改善しやすく、どちらも、チームで介護を行えば解決できるものなのである。

(5)それでは、介護に誰を予定しているのか
 *5は、佐賀労働局雇用均等室が、「①女性の能力発揮や仕事と育児・介護との両立支援に積極的に取り組む企業を表彰する」「②仕事と育児・介護との両立支援の取り組みを実施しているファミリー・フレンドリー企業を表彰する」としている。

 ここで、仕事と育児・介護を両立すべき人の前提が女性のみであれば、60年、遅れている。また、仕事と育児・介護との両立支援の取り組みを実施しているファミリー・フレンドリー企業というものが、女性にのみ短時間労働、非正規雇用、派遣労働を強いるものであれば、それは、30年、遅れている。

 しかし、率直に言って、全体として介護サービスをカットし、女性に負担を負わせようとしている厚労省を見れば、こんな逆噴射を予定しているのではないかと思わざるを得ない。

<介護制度の度重なる改変>
*1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150130&ng=DGKKASFS29H3X_Z20C15A1EA2000 (日経新聞 2015.1.30) 介護保険料 高齢者・現役世代とも伸び傾向
▽…介護保険サービスにかかる費用は、利用者本人の自己負担分を除き、半分を40歳以上の国民が支払う介護保険料、残り半分を国と地方自治体の税金で賄っている。介護保険料は65歳以上の高齢者が市町村を通じて払う「第1号保険料」と、40~64歳の現役の会社員らが健康保険を通じて払う「第2号保険料」からなる。第2号保険料には企業負担分も含む。
▽…高齢者の第1号保険料は、各市町村が決め、原則3年ごとに見直すことになっている。3年間の介護給付費の増加見込みを反映して保険料を一度に見直すため、引き上げ幅は大きくなる。直近では給付費が全国平均で年5%伸びており、3年間で15%増になる。
▽…一方、現役世代の第2号保険料は、企業の健康保険や市町村の国民健康保険が毎年度決める仕組みだ。単年度の給付費の増加見込みを反映させるため、引き上げ幅は小さくなる。制度改正や介護報酬の引き下げで抑制が大きいと、単年度では下がるケースも出てくる。給付費は高齢化で伸び続けるため、保険料が中長期で上がる傾向は第1号・2号とも同じだ。

*2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150216&ng=DGKKZO83209230V10C15A2M10600 (日経新聞 2015.2.16) 制度発足15年 高齢者急増、厳しい財政
 介護保険制度は想定を超えて増える高齢者を背景に、制度発足から15年で早くも変革を迫られている。介護費は発足時の3倍になり、「団塊の世代」が75歳以上になる2025年度には、今の2倍の21兆円に膨らむ見通しだ。介護職員の不足の解消も道半ばだ。介護保険の財源は税金と40歳以上が納める保険料、サービス利用者の自己負担でまかなっている。膨張が続けば税金の投入額も40歳以上の国民が負担する保険料も年々増える。国民負担の増加を和らげるため4月の介護報酬改定では平均単価を2.27%引き下げる。厚生労働省の試算では、40~64歳の現役世代が15年度に納める保険料は1人あたり平均で月額5177円となり、前年度に比べて96円減る。市町村ごとに決まる65歳以上の平均保険料は月額4972円から5550円に上がるが、減額改定をしなければ5800円に上がるはずだった。ただ高齢者は今後も増え続ける見通し。保険料負担を抑える効果は一時的でしかない。給付そのものを抑える工夫が避けられない。厚労省は4月からは特別養護老人ホームの新規入所を要介護度3以上の重度者に限定する方針。入居待ちは52万人に上るが、施設増ですべて対応するのではなく、介護の必要度が低い軽度者は在宅でケアを受ける方向にするためだ。今回の改定で特養ホームの基本料が軒並み減額になるのは利益率が高く、経営に余裕があるとの判断からだが、介護を巡る「施設から在宅へ」という政府方針とも無関係ではない。こうした流れを成功させるには、高齢者や家族が安心できる在宅介護の体制づくりが不可欠だ。厚労省は12年度の報酬改定で24時間対応で看護や介護を受けられる巡回サービスを導入したが、肝心の事業者の参入は限られ、訪問看護事業所がない自治体も多い。年々増える認知症患者をケアする体制もまだ不十分だ。

*3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150216&ng=DGKKZO83209170V10C15A2M10600(日経新聞2015.2.16)介護保険、重度者・認知症のケア手厚く 4月からこう変わる
 介護保険の負担が4月から変わる。介護サービスの公定価格である介護報酬が改定されるためだ。高齢者ら利用者の自己負担は、リハビリ目的の老人保健施設など施設・居住系サービスでは安くなり、訪問介護など在宅・通いのサービスが高くなる。要介護度が重い人や認知症の人向けのサービスは手厚くなる。現役世代が納める介護保険料はわずかだが安くなる。影響を詳しくまとめた。
●特別養護老人ホームなどで重度者の受け入れに力を入れる
 介護保険のサービスは介護を受ける場所や内容に応じて20種類以上に分かれ、事業者に支払われる報酬も細かく定めている。サービスを受ける高齢者らは報酬の1割を毎月負担する。残りは保険料や税金から事業者に払う。報酬は大きく分けて、基本料金にあたる「基本サービス費」と、事業者の人員体制が要件を満たした場合や付加的なサービスを受けた場合などに上乗せする「加算部分」の2つからなる。
■職員賃上げの原資反映
 今回の改定では、基本サービス費は大半のサービスで引き下げる。一方、加算部分を見ると、介護職員の給料を引き上げる原資にする「介護職員処遇改善加算」が、多くのサービスで増額になった。介護は人材難が深刻化しており、一般産業界に比べて見劣りする給与水準を引き上げることで職員確保につなげる狙いだ。賃上げ計画を策定し、賃金体系や職場環境などを整えた事業者は、職員の月給を1人につき1万2千円アップできる原資を報酬に加算できる。多くの事業者が取り組むとみられ、この分は利用者の負担増につながる。加算部分にはこのほかにも新設されたり、増額されたりした項目もある。サービスの利用者負担がどう変わるかは、サービスごとに基本サービス費と加算部分を合算して考える必要がある。例えば特別養護老人ホームをみると、最も重度の「要介護5」の人が個室を利用する場合((1)参照)、1カ月あたりの負担合計は3万720円となり、今より810円安くなる。職員を賃上げするための加算などが増える一方、本人が負担する基本料は1日につき947円から894円に減るためだ。
■特養相部屋は2段階改定
 同じ特養ホームでも相部屋の負担は4月と8月の2段階で変わる。4月に月2万9670円と630円安くなる((2))。ただ光熱費が月1500円の値上げになる上、8月からは低所得者を除く約6万人は室料が保険対象外になる。該当する人の8月以降の負担は今より1万2000円以上増える見込みだ。老人保健施設((5))や、医療が必要な人が入る介護療養病床を含め、施設・居住系サービスは利用料がおおむね安くなる。認知症の高齢者がケアを受けながら共同生活する認知症グループホーム((3))の1日あたりの負担額は要介護度3の人で1001円へと5円安くなる。民間の有料老人ホームなどに住む人が介護を受ける特定施設入居者生活介護((4))も、要介護度5の1日あたり負担額は6円安く863円。いずれも基本料が大きく下がる。一方、自宅で訪問介護を受けたり、施設に通ったりする在宅サービスは高くなるものが多い。デイサービス(通所介護)は要介護3の人が1日8時間のサービスを利用すると、1日あたりの負担は1001円。今より16円安くなる。ただ重度の人や認知症の人を受け入れた場合の加算を設けたので、該当する人の負担は1日に1110円と93円増える((7))。通いや泊まりを組み合わせて利用できる小規模多機能型居宅介護((8))は訪問サービスを拡充した事業者への報酬が加算される。こうした利用者の負担は月に559円増え、2万5503円になる。

*4:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11610837.html
(朝日新聞 2015年2月20日) 介護報酬、減額っていいこと? 事業者・利用者への影響は
 介護保険サービスを提供した事業者に支払われる「介護報酬」が、4月から引き下げられる。収入が減る事業者には「介護崩壊」への強い不安が広がる一方、介護保険料やサービスの利用料が安くなるのも事実だ。介護の現場にどんな影響があるのか。
■事業者 経営に打撃、サービス休止も
 介護報酬引き下げは事業者には打撃で、サービス休止を決めたところもでてきた。富山県内でショートステイ(短期入所生活介護)を運営する事業者は、3月末で事業所を休止する予定だ。ここ数年、競合する事業者が増えて赤字が続き、減額改定が決め手になったという。ショートステイの基本報酬は約5~6%下がる。この事業所は職員10人弱の人件費を支払うめどもたたなくなった。利用者は1日7~8人。食道や肺の機能が落ちて食事介助に2時間近くかかるなど介護度が重い人も多く、休止後の受け入れ先を探し始めた。「消費税を8%に上げたのは社会保障の充実が目的だったはずなのに」。運営法人の幹部は声を落とす。認知症グループホームも基本報酬が約6%下がった。仙台市などで複数のグループホームを運営する「リブレ」は、職員の処遇改善のための加算をのぞくと、一つのホームで年間約300万円の減収を見込む。夜勤体制の加算は新設されたが、人手不足のなか、宿直できる人を確保する見込みはたたず、加算を取るのは簡単ではないという。介護度が重い人への対応に手厚くする方針にも懸念の声がある。訪問介護事業などを手がけるNPO法人「ACT昭島たすけあいワーカーズ大きなかぶ」(東京都)の事務局長・牧野奈緒美さんは「事業者が介護度の重い人ばかりを優先し、軽い人が見捨てられるのでは」と危惧する。訪問介護につく新たな特定事業所加算は、利用者のうち要介護3以上や認知症の症状が進んでいる人が6割以上いれば、報酬が上乗せされる。ただ、大きなかぶの場合、利用者の7割は要介護2以下の人だ。「軽度の人の介護度が重くならないように支える、という視点が欠けている」。改定の目玉の一つが、介護職員の給料アップのための処遇改善加算の拡充だ。1人月額1万2千円相当を上乗せできるようにすると国は説明する。認知症デイサービスやグループホームなど7事業を運営するNPO法人「暮らしネット・えん」(埼玉県)でも、4月からこの加算で職員の賃上げをはかる計画だ。ただ代表理事の小島美里さんは「加算はいわば『おまけ』。3年後の報酬改定で維持されるかもわからない。処遇改善のためのお金は基本報酬に入れるべきだ」と言う。
■利用者 負担は減少、質の維持に懸念
 利用者目線で考えると、また違う見方もでてくる。介護報酬が下がれば、65歳以上の高齢者や、40~64歳の人が負担している介護保険料は、いずれも抑制されるからだ。税や保険料から介護事業者に支払われる費用は、制度が始まった2000年度の3・6兆円から10兆円(14年度)に増加。65歳以上が払う保険料(全国平均の月額)でみると、2911円(00~02年度)から4972円(12~14年度)にまで上昇。10年後には、8200円程度まで上がると厚労省は予想する。65歳以上が支払う介護保険料は15年度から全国平均で5800円程度になると見込まれていた。それが介護報酬引き下げで230円程度値上げが抑えられ、5千円台半ばにとどまる見通しだ。また介護サービスの値段である介護報酬が下がれば、その原則1割を負担する利用料も連動して減る。ただし負担が減ればいいということでもない。介護をしてくれている事業者が経営に行き詰まったり、サービスが悪くなったりすれば、利用者やその家族にしわ寄せは向かう。いま介護が必要ない人でも、将来必要になったときに、利用できるサービスが減ってしまうかもしれない。結果として、家族の介護の負担が重くなり、高齢者の世話のために仕事を辞める「介護離職」などが増える恐れもある。
■国の狙いは? 介護度重い人の在宅支援強化
 厚生労働省は6日に2015年度~17年度の介護報酬の額を公表した。全体では2.27%の引き下げで、個別のサービスの値段も決まった。企業のもうけにあたる「収支差率」が高い特別養護老人ホームなどの施設に限らず、在宅サービスも含めて基本報酬は軒並み減額となった。一方、介護職員の給料増額にあてる加算は拡充。さらに認知症や介護度の重い人を支える「24時間定期巡回・随時対応型サービス」などの在宅サービスでは、様々な「加算」を手厚くし、加算を含めれば増収になるようにした。安倍晋三首相は18日の参院本会議で「質の高いサービスを提供する事業者には手厚い報酬が支払われることとしている」と述べた。

<介護は誰が?>
*5:http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10103/159784
(佐賀新聞 2015年2月24日) 「均等・両立推進」の企業募集 2部門、佐賀労働局
 佐賀労働局(田窪丈明局長)は、女性の能力発揮や仕事と育児・介護との両立支援に積極的に取り組む企業を表彰する「均等・両立推進企業表彰」の対象企業を募集している。女性の能力発揮の促進へ積極的な取り組みを進める「均等推進企業」部門と、仕事と育児・介護との両立支援の取り組みを実施している「ファミリー・フレンドリー企業」部門の2部門。部門ごとに厚労大臣優良賞、佐賀労働局長優良賞、佐賀労働局長奨励賞を選び、両部門ともに優れた企業には厚労大臣最優良賞を贈る。応募書類審査の後、各都道府県労働局の雇用均等室がヒアリングを実施。表彰基準を満たす企業の中から候補企業を選び、厚労大臣に推薦。厚労大臣が推薦企業の中から、受賞企業を決定する。過去10年の県内の受賞企業は、均等推進企業部門が4社、ファミリー・フレンドリー企業部門が2社。佐賀労働局は「人材確保の面などで良いPR材料になる。積極的に応募して」と呼び掛ける。3月31日締め切り。問い合わせは同局雇用均等室、電話0952(32)7218。

<外国人介護職の処遇>
*6:http://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201502/0007762437.shtml
(神戸新聞 2015/2/23) 外国人と介護職/実習生の活用は筋違いだ
 介護の現場では、慢性的に労働力が不足している。他業種に比べて給与が低く、仕事がきついなどの理由で人材確保が困難なためだ。そうした問題を解消するため、厚生労働省は外国人の技能実習生を活用する方針を固めた。日本の介護技能を学ぶという名目で、2016年度にも受け入れを始める。高齢化が進む中、人材確保が課題であることは間違いない。しかし、このやり方は大いに問題がある。技能実習制度は本来、新興国への技術移転や人材育成の支援が目的だ。日本国内の労働力の穴埋めに使うのは筋が違う。しかも、実習期間は最長で3年。政府は延長を検討しているが、それでも5年で日本を去る。現場を支える力を海外に求めるなら、労働者としてきちんと受け入れるべきだ。日本は経済連携協定(EPA)に基づき、介護分野の労働者をインドネシア、フィリピン、ベトナムから受け入れている。国内の施設で働きながら介護福祉士の資格取得を目指す。これまで約240人が合格した。だが、日本語の壁の高さなどで合格率は2割に満たない。一方、国内の介護労働力は約177万人で、離職率が高く、毎年17%が職場を去る。厚労省は、団塊の世代が75歳以上になる25年度に約250万人を確保する目標を掲げる。だが、全産業の平均給与より月額で10万円ほど低い待遇もあって計画通りに増えないのが実情だ。特別な対策を取らなければ将来約30万人が不足するという推計もある。実習生はこれから技能を身に付ける人たちで、即戦力と期待するのには無理がある。それでなくても、技能実習の現場では、低賃金労働や時間外労働の強制などの違反行為が相次いで発覚している。介護現場でも同じような問題が繰り返されないという保証はない。支援の対象者には、寝たきりの高齢者や認知症の人もいる。必要なのは個々のニーズに応えるプロの介護力だ。実習生頼みでは、混乱やサービスの低下を招く恐れがある。介護には、利用者や家族の声を聞き取る高い日本語能力と技能、経験が要求される。実習生を活用するというのであれば、言語と専門技能を習得した段階で正規の戦力として迎える道を考えた方がよい。

<40歳定年制 !?>
*7-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150129&ng=DGKKASDZ21HOQ_S5A120C1TJ2000 (日経新聞 2015.1.29) 「40歳定年」で次の挑戦 スキル・知識を磨き直し
 年金の支給開始年齢引き上げや医療の発達などで、60歳を超えて働く人が増えている。就職から40~50年働く時代。働き手は会社とどう向き合い、どうスキルを高めるべきか。「40歳定年制」を唱える東大大学院の柳川範之教授に聞いた。
―40歳定年制を唱える理由は何でしょうか。
 「75歳まで長く働けるようにするためだ。20歳すぎから同じ会社で75歳までバリバリ働くのは厳しい。時代の変化に応じ、知識やスキルを磨き直す機会が必要だ。いわば燃料補給だ」。「勉強したいという30~40代の働き手は多い。制度上、この年代で休むのが当たり前の社会にすればいい。自分を磨いたうえで同じ会社で働き続けてもいいし、転職してもいい。働き盛りの社員を休ませるのは難しいという会社は多いが、最初からその前提で人事を回せば不可能ではない」。
●企業の研修限界
―企業内でもスキルの向上はできるのでは。
 「企業内の人事・研修制度は限界にきている。まず産業の浮き沈みが激しくなっており、余剰人員の『適所』が社内にあるとは限らない。企業がM&A(合併・買収)で成長事業を手に入れても、衰退事業から全員をシフトできない限り、『社内失業』が発生する」。「社内教育も難しい。知見のない異分野のことを社内で教えるのは無理だ。外部講師を雇おうにも企業の研修予算はバブル期に比べ減っている」
―40歳での解雇の合法化と受け止め、不安視する働き手もいます。
 「知識やスキルが陳腐化した働き手を待つのは社内失業だ。企業が彼らを65歳とか70歳まで抱えられるならいいが、実際には経営が傾くと真っ先にリストラ対象になる。スキルアップの機会がないまま、55歳、60歳で職を失うほうがはるかにリスクは大きい。企業に余裕がなくなり、200万~300万人ともされる社内失業者が本当の失業者になると大変だ。再就職できるスキルを早めに身につけてもらう必要がある」。
●実践的な教育を
―参考になる海外の事例はありますか。
 「北欧諸国は解雇規制を緩くする一方で、失業者の再教育に資金を投じている。ただ金銭を与えるだけの『セーフティーネット(安全網)』ではなく、再就職のための反転力を身に付けてもらう『トランポリン型セーフティーネット』だ」。
―社会人への再教育を担える教育機関はあるのでしょうか。
 「大学を想定しているが、もっと実践的なカリキュラムが必要だ。企業の人にも参画してもらい、スキルアップのための教育プログラムを作らないといけない。専門学校や高等専門学校を拡充するアイデアもある」。
―副業を持つことも勧めています。
 「スキルアップの機会がないなら、副業を持つことで働き手のリスクを軽減できる。情報漏洩などの恐れがあるものは禁じるべきだが『ウチの仕事に全力を傾けろ』というだけの副業禁止規定はやめるべきだ。企業は働き手のキャリア選択をもっと応援してほしい」。
*やながわ・のりゆき 慶大経済学部の通信教育課程から東大大学院に進み博士号取得。2011年から現職。専門は経済学。長い海外生活が常識にとらわれない発想の原点だ。51歳。

*7-2:http://www.buaiso.net/business/economy/19313/ (BUAISO.net 2013年3月21日) 「40歳定年制」の真意~東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授 柳川範之氏~
●終身雇用という幻想
 「終身雇用についてまず総括しておきましょう。ひとつの企業の中でみんなが長く働き続けることには大きなメリットを感じますし、それが日本企業の特徴でもあると思います。しかし、残念ながら現在、ひとつの企業が50年、100年単位で成長を続けることはかなり難しい。経済環境の変化は昔に比べて格段に早くなっており、個人が20代のころに学校や企業で身につけた能力が40~50年間通用することも難しくなって、多くの場合、厳しい現実が待ち受けています。
この現状を踏まえると、皆でずっと同じ企業で働こうと思っても、外部環境の変化によって職種自体が消滅することが起き得るわけです。現在の仕事を遂行するための高度なスキルを身につけていても、技術革新や海外へのアウトソーシングなどで仕事自体が失われた場合、自身に代替するスキルがなければ、ただ企業に在籍して社会保障的に給与を受け取るだけの存在になるかもしれません。日本経済が全般的に好調で、かつ財務状況に恵まれた企業に所属していれば『優雅なリタイア』も可能かもしれませんが、実際は企業も国際競争にさらされていて、すべての人を雇い続けていく余裕はないでしょう。終身雇用制と呼ばれるような長期雇用と年功賃金の組み合わせを実現できた企業は、ごく一時期のごく一部の企業に過ぎません。実際には多くの人々が正規・非正規ともに解雇や転職を経験しています。こうした現状を踏まえると、解雇されないことに神経を集中させるよりも、産業構造や外部環境の変化に適応してどのような能力を身につけるのか、一定のサイクルで自身をプラニングすることが大切かと思います」。柳川氏は、仕事全体をクリエイティブ職、事務処理職、単純労働職という3つに分類し、自動化やアウトソーシングの進展で事務処理職の仕事が減り、成熟国ではクリエイティブ職と単純労働職の二つに集約されていくだろうと予測する。既に事務処理職全体の仕事のパイが小さくなっているように、職そのものがなくなるというのは静かに進行している。
●人生の長期化、変化の高速化、能力の陳腐化
 産業革命により分業システムが確立した結果、ある程度の専門性を持っていれば職業人として長く活躍できるという前提があった。しかし今、大きな転換期が次々に訪れ、人生の長さと産業構造の移り変わりの尺度が合わない気がするというのが社会に生きる人の実感だろう。長い人生をお金を稼いで生きながらえるためには、何か根本的なところで人間が変化しなければならないのかもしれない。
「それがまさに40歳定年制を提言したひとつの大きなポイントなのです。幸せなことに人間の寿命は延びています。iPS細胞の開発などでさらに延びるかもしれません。しかし一方では、産業構造の変化が急速なため、技術や能力が10年から20年で陳腐化することも多々あります。昔なら若い時に身につけた能力や知識が死ぬまではある程度役に立ちました。環境が変わっても次の世代の若者に新しい技術を身につけてもらえば十分、という時代がずっと続いていました。だから企業は『終身的』雇用ができるし、個人は一度身につけた能力を磨き上げることで働き続けることができていたわけです。
 ところが、寿命が延びる、スキルは陳腐化する、となるとどうでしょう。一回の充電(学び)で終着駅に向かうというのは無理で、2回か3回か、どこかの停留所で環境の変化に合わせた能力開発か何かの学び直しの充電をしないと長く働くことができないですよね。実はこれは世界的に起きている問題です。多くの国で若年失業とある程度年をとった人の働く場所の確保が同時に問題になっているのです。環境変化に合わせた能力開発を提供できないために若年者の雇用にしわ寄せがいくという構造のため、変化に合わせた新しい能力をどのように各世代に身につけさせるかということが課題になっています。そこでどの国も『教育、教育』と言い出しているんですね。世界のあらゆる場所に共通する構造的な潮流があるのだと思います」そして、急速に少子高齢化が進む日本では、この流れがより顕著な形で現れてきているのです。
*柳川範之(やながわのりゆき)
 1963年生まれ。小学校をシンガポールで卒業、高校時代をブラジルで過ごした後、大学入学資格検定試験合格。慶応義塾大学経済学部通信課程卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。東京大学大学院経済学研究科 経済学部 教授。著書に『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞出版社)、『独学という道もある』(ちくまプリマー新書)、投資家水野弘道氏、プロ陸上選手為末大氏との共著『決断という技術』(日本経済新聞出版社)などがある終身雇用という幻想


PS(2015.2.26追加):*8は、文脈から見ると、韓国にはまだ女性にのみ姦通罪があったようで、日本より男女不平等である。 ぎょ

*8:http://www.saga-s.co.jp/news/national/10201/160710
(佐賀新聞 2015年2月26日) 韓国が姦通罪廃止、憲法裁が違憲判決
 韓国の憲法裁判所は26日、同国の刑法にある姦通罪は憲法違反だとする判決を出し、同罪は即時廃止された。憲法裁は過去4回同罪を合憲と判断していたが、異性との性的関係の自己決定権を重視すべきだとの社会の風潮が反映された。2008年の最後の合憲判決後に同罪で起訴された約5400人が再審を申請すれば全員無罪になる。憲法裁が違憲判断を出すには9人の裁判官のうち6人が同意する必要があるが、今回7人が違憲だと判断した。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 12:02 PM | comments (x) | trackback (x) |
2014.7.13 社会保障積立金の運用利回り低迷と日本企業の利益率・配当率低迷の理由など (2014.7.14、16に追加あり)
    
2014.4.2佐賀新聞  2014.6.3佐賀新聞         *6より 

(1)給付削減しか思いつかない政府の“改革”方針はおかしい
 *1-1に書かれているように、厚労省は年金給付水準を物価に関わらず毎年抑制する方針で、その理由は少子高齢化だそうだ。しかし、年金資金が不足した理由は①保険料の集金が杜撰だった ②運用や管理が杜撰だった ③サラリーマンの専業主婦のみ優遇するなど仕組みも悪かった など、厚労省の責任であることは、誰もが覚えている。また、少子化も、働く女性のインフラとなる保育所や学童保育を整備せず、未だに待ち行列が存在する貧弱な状況であり、これもまさに厚労省の責任なのである。

 この厚労省の体質は、社会保険庁が看板を掛け替えて日本年金機構になったからといって変わったわけではなく、誰も責任を取らずに(膨大な年金資産喪失の責任などとれるわけがない)、保険料を支払ってきた年金受給者に責任を押し付けているものであり、このような変更を“改革”とは呼ばない。それにもかかわらず、*1-2のように、「改革先送りこそリスク」として、非科学的な人口推計に基づき、退職給付会計も導入せずに、厚労省に協調する意見を開陳する人が多いのが、我が国の現状なのである。なお、「年金は現役所得の50%を確保すればよい」というのが定説になっているが、ここで想定している現役所得の金額と現役所得の50%でよいという合理的根拠も、私は見たことがない。

 しかし、*1-3のように、高齢者に入る年齢を70歳(もしくは75歳)と変更し、雇用と年金の両方を同時に変えるのなら、平均寿命が伸び、体力ある高齢者も多いので、筋が通る。消費者に高齢者が増えれば、車や家電の設計・説明書の記載にも高齢者の視点が必要なので、単なる労働力不足の緩和を超えた効果があると私は思う。また、働いている方が体力が衰えないため、医療・介護制度にもプラスだ。

(2)政府の医療・介護保険制度“改革”もおかしい
 *2-1では、保険料収入が伸び悩んでいるとして、財源確保の必要性が述べられている。しかし、保険料率引き上げ以前に、①集金もれの回収 ②元手を失わない運用・管理 ③不公正な給付制度の改正 などの改革を行うべきだ。そういう見直しもなく安定財源を確保しても、規模を大きくした無駄遣いが増えるだけである。

 *2-2には、負担増・給付減という介護保険利用者に厳しい医療・介護改革法が成立したと書かれており、患者や要介護者の急増で制度がもたなくなる恐れがあるためだそうだ。しかし、介護保険制度は、1995年頃の私の提案で始まり、1997年に介護保険法が成立して、2000年から施行されたため、まだサービスを充実させるべき時期であり、サービス減や保険料支払者の負担増を議論するような時期ではない。そして、その財源は、現在の「40歳以上の医療保険制度に加入している人」を「医療保険制度に加入している人全員」に広げるべきなのである。

 また、「少子高齢化で需要が減る」という論調もよく見かけるが、人口構成が変われば必要なものが変わるのであり、需要が減るわけではない。そのうちの介護サービスは増える需要であるため、これに対応すべきで、それは今後、世界で増える需要なのだ。にもかかわらず、削減ばかりの政策になるのは、政策を作っている人が介護制度の必要性を感じない人だからだろう。

(3)政府による株価操作
 *3-1のように、約130兆円の国民の年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人が“改革”して、日本株への運用比率を引き上げるそうだ。年金の運用は元手の喪失をなくすため、90%以上は国債などの安全資産で行うのが世界の常識であるにもかかわらず、*3-2のような官製相場のにおいがする日本株への運用割合の増加を提示するのは呆れるほかない。日本の病根はここまで進んでいるわけだ。

 ただ、JRやゆうちょ銀行など、これまでの国有企業が上場するにあたり、年金基金が市場価格で株式を購入するのは、それほどリスクが高くはないかもしれない。

(4)日本企業の実質利益率や株式配当率が低い理由
 *4-1に書かれているとおり、STAP細胞を発見した小保方氏の論文へは、いちゃもんが多く、ついに理研のiPS細胞研究者が、「小保方氏が検証実験に参加するなら、まだ始まっていない患者さんの治療の中止も含めて検討する」とツイッターに投稿し、(長くは書かないが)やはりiPS細胞を伸ばすためのSTAP細胞の否定だということがわかった。何故なら、STAP細胞で再生医療ができるようになれば、こちらの方が副作用がなく優れているため選択され、iPS細胞の研究は不要になるからである。しかし、iPS細胞研究グループの都合でSTAP細胞の発見や開発を妨害する行為は、結局は日本企業の競争力を奪うものであり、このようなことがあってはならない。

 また、*4-2のユーグレナは、家畜や養殖魚の餌として画期的なコスト低減をもたらすと思うが、「次世代航空機燃料」は空に公害をまき散らさない水素にすべきであり、石油類似の液体燃料に固執すべきではない。しかし、燃料は石油に近い液体でなければならないと考える人も多く、これが技術革新をやりにくくしている。

 さらに、事故時に大きな公害をもたらす原発に代替する発電方法は、このブログで何度も提示したが、それにはいちゃもんをつけ、*4-3のように、原発再稼働に固執する論調も多い。このように、過去の固定観念で古い技術にしがみつき、新しい技術の導入を阻むのも、結局は、日本や日本企業の競争力を奪っているのである。

 以上は、本来、技術革新やイノベーションは積極的に行わなければならないのに、それを阻んだり邪魔したりして大切にしない体質が、日本企業の本当の利益率や株価を低迷させている原因であることを示したものである。

<政府の改革方針>
*1-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140617&ng=DGKDASFS13054_W4A610C1MM8000 (日経新聞 2014.6.17) 年金、来年度から給付抑制、厚労省、物価下落でも減額 制度持続へ法改正検討
 厚生労働省は公的年金の給付水準を物価動向にかかわらず毎年度抑制する仕組みを2015年度に導入する方針だ。いまの制度では物価の上昇率が低い場合は給付を十分抑制できないが、少子高齢化の進展に合わせて必ず給付を抑える。すでに年金を受給している高齢者にも負担を分かち合ってもらい、年金制度の持続性を高める。少子高齢化にあわせて毎年の年金給付額を抑えるマクロ経済スライド(総合2面きょうのことば)と呼ぶ制度を見直す。15年の通常国会への関連法案提出を目指す。現在のルールではデフレ下では年金を削減できず、物価の伸びが低い場合も、前年度の支給水準を割り込む水準まで減らすことはできない。年金は物価水準に連動して毎年度の給付水準が調整されるが、物価下落以外の理由で名目ベースの年金額が前年度より目減りすることを避けているためだ。今後は物価や賃金の動向に関係なく、名目で減額になる場合でも毎年度0.9%分を削減する方針だ。この削減率は平均余命の伸びや現役世代の加入者の減少率からはじくので、将来さらに拡大する可能性もある。改革後は、例えば物価の伸びが0.5%にとどまった場合、翌年度の年金は物価上昇率から削減率0.9%を差し引き、前年度より0.4%少ない額を支給する。物価がマイナス0.2%のデフレ状況なら、翌年度の年金は1.1%減る。マクロ経済スライドは04年の年金制度改革で導入した。15年度は消費増税の影響で物価が大幅に上昇しているので、現行制度のままでも年金は抑制される。ただ、将来デフレや物価上昇率が低くなった局面では給付を抑えられないので、今のうちに改革を急ぐ方針だ。厚労省が3日に公表した公的年金の財政検証では、年金制度の危うい現状が明らかになった。女性の就労が進まないケースでは、約30年後の会社員世帯の年金水準は現役世代の手取り収入の50%を割り込み、現行制度が「100年安心」としていた前提が崩れる。これから年金を毎年度削減するようになれば、現役世代が老後にもらう年金の水準は改革をしない場合よりは改善される。厚労省の試算では経済が低迷した場合でも、現役収入と比べた給付水準を最大5ポイント引き上げる効果があるという。現役世代は04年の改革に沿って保険料率を毎年着実に引き上げられている。会社員が加入する厚生年金は17年に保険料率が18.3%(これを労使折半で負担)になるまで0.354%ずつ引き上げが続く。改革は現役世代だけでなく、年金の受給者にも着実に負担を求めるのが狙いだが、高齢者の反発で法改正に向けた調整は難航する可能性もある。

*1-2:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140617&ng=DGKDZO72807670W4A610C1KE8000 (日経新聞 2014.6.17)
改革先送りこそリスク  駒村康平 慶応義塾大学教授
 今月3日、社会保障審議会年金部会から公的年金の財政検証が公表された。5年に1度の財政検証では100年後の経済や人口に一定の想定を置きながら、保険料を2017年度に固定しつつ年金財政の将来見通しを示す。年金財政の持続可能性の要件を満たさない場合、年金制度改革を実行することになっている。その要件とは、モデル世帯の厚生年金(基礎と報酬比例の合計)の所得代替率(現役世代の平均的な手取り額に対する年金の割合)が65歳の受給開始時点で50%を確保できること、おおよそ100年後に1年分の給付に相当する積立金を保持すること、という2点である。
 14年は共済年金と厚生年金の被用者年金一元化のもとでの最初の検証であるほか、13年8月の社会保障制度改革国民会議の報告による指摘に応えるという特徴がある。国民会議は所得に応じた保険料負担が望ましいことや、少子化と長寿化に連動して年金給付水準を引き下げるマクロ経済スライドがもたらす基礎年金の過度の給付水準の低下という課題を挙げた。
 今回の財政検証では、足元の経済成長、将来の経済成長、特に全要素生産性(TFP)の伸びや既婚女性や高齢者の労働力率の上昇などの仮定を組み合わせて8通りの見通しが示された。TFPの伸び率が1983~93年の状態まで経済が回復し、同時に高い労働力率を確保できると想定した5つのケースは50%の代替率を確保したが、そうした想定をしない3つのケースは50%を下回り、改革の必要があるという結果になった。全8ケースの単純平均は47%となった。
 50%を確保したうち最低のケースEと50%を下回るなかでは最高のケースFを比較してみよう。Eでは報酬比例年金の低下幅は5%だが、基礎年金の水準は29%低下する。Fではそれぞれ11%の低下、39%の低下となる。基礎と報酬比例の合計で50%の代替率を維持できるA~Eでさえ、基礎年金の給付水準が30%程度低下する。09年推計と違って基本ケースがないなかで、8つのケースをどう評価するかは論者によって異なるだろう。経済さえ回復できれば年金制度の維持は可能であり、当面改革は必要ないという評価もある。しかし財政検証は、高いTFPの伸びや労働力率の見通しという楽観的な見通しで評価すべきではない。
 今回の検証は、年金制度は直ちに破綻するような状況ではないものの、安心して何もしなくてもよいような状態ではないことを示した。年金財政の安定には保険料の引き上げ、保険料納付期間の長期化、国庫負担の増加という収入面の強化と、マクロ経済スライドによる年金水準の引き下げ、満額年金に必要な納付期間の長期化、支給開始年齢の引き上げなどの支出抑制の対策がある。保険料や国庫負担の引き上げは難しく、事実上、支出抑制策に限られる。
 年金財政を安定させるオプション(選択肢)として厚生労働省は(1)デフレ期のマクロ経済スライド(2)非正規労働者などへの厚生年金の適用拡大(3)国民年金の45年加入制度(現行の20~59歳に加え、60~64歳も国民年金に加入する)の導入――の効果を推計し、いずれも財政安定効果があることが確認された。
 (1)のマクロ経済スライドは現在、インフレ期しか発動されず、デフレになると給付水準は相対的に高止まりし、その財政のツケは将来世代が担う。デフレ期にマクロ経済スライドが発動されると、たとえば1%のデフレ経済では、年金額は1%引き下げられ、さらにマクロ経済スライドによって追加で1%程度引き下げられることになる。厳しいが、世代間の公平性を改善するためには必要である。
 (2)は拡大規模が220万人と1200万人のケースがある。後者なら年金加入者に占める国民年金(1号)加入者の割合は23%から11%に低下する。1号の保険料は定額負担で逆進性の問題があり、未納率も高い。適用拡大は非正規労働者も所得に応じて保険料を支払うことになり、制度的に望ましく、国民会議の指摘に応えることにもなる。
 (3)の45年加入の評価は難しい点もある。現在、60~64歳の被用者の多くは厚生年金に加入しており、保険料負担の点であまり影響はない。表面的な変化は1号被保険者も60~64歳の間、加入するという点であるが、国民年金の任意加入制度の新設とみれば、それほどの効果はない。
 これが強制加入となり、基礎年金の計算対象期間になれば財政効果は複雑になる。基礎年金財政には国民年金と厚生年金から、基礎年金拠出金という、加入数に案分比例した財政負担が投入されている。60~64歳がその計算対象に加わることになる。
 ケースE(デフレ期のマクロスライドなし)を用いて現行制度での予測と比較すると、45年加入により、厚生年金の支出に占める基礎年金拠出金の割合は高まる。他方、厚生年金財政の収入は変化せず、報酬比例部分のマクロスライド期間が1年ほど長期化することになる。
 60~64歳の加入者の増加が見込まれる分だけ国民年金の財政は改善し、マクロスライドは短縮されて基礎年金の水準は回復する。他方、基礎年金の2分の1を賄う国庫負担額も、基礎年金期間が増えることで40年以降、13~15%ほど増えることになる。
 このように45年加入は国民会議が指摘したマクロスライドによる基礎年金の低下の防止策としては有効であるが、自営業者らの60~64歳の未納率が上昇するおそれがあるほか、追加的な国庫負担が必要になるという課題もある。
 基礎年金と報酬比例年金からなる現在の2階建て年金制度の原型は85年の改革で構築されたフレームである。マクロ経済スライドはその形を保ちながら財政規模や給付水準を小さくする効果をもたらした。しかし肝心な基礎年金の水準低下が大きすぎて年金としての機能を失いつつある。
 85年フレームを維持しながら、国民会議が指摘した「基礎年金の水準が低下し続ける」という懸念に応えるのならば、45年加入は有力な改革の選択肢になる。しかし、高所得の年金生活者に対する基礎年金国庫負担分の給付抑制など、ほかにも検討すべき選択肢はある。非正規労働者への適用拡大の徹底や、低所得の高齢者向けの年金生活者支援給付金も組み合わせたうえで年金制度を眺めると、85年フレームの形は次第に変化することになるであろう。
 このほかオプションとしては明示されていないが、基準になる支給開始年齢の引き上げも検討すべきであろう。Gのような厳しいケースでは65歳で代替率の50%割れが発生する。しかし、66歳まで支給開始年齢を引き上げれば、50%の確保は可能になる。開始年齢の引き上げは社会全体の支え手の増加を意味し、医療保険、介護保険の財政改善効果も期待できる。高齢者雇用の改革を伴うため、長い準備期間が必要であり、早めに議論を始めなければならない。
 年金制度は社会・経済の変化に応じて調整や手直しが必要になる生き物である。制度の連続性を維持しながら、他方で、社会経済の変化に対応した柔軟な制度見直しも必要である。国民の反発が厳しいからといって財政の健康診断を軽視し、改革を先送りすれば、改革の選択肢はどんどん減少する。必要な時に必要な改革を断行すべきである。政治の近視眼的行動こそが年金制度の最大のリスクである。
〈ポイント〉
○年金財政は直ちに破綻しないが安心できず
○慎重な想定に基づき支出抑制策の検討急げ
○国民年金の45年加入は将来の国庫負担増も
こまむら・こうへい 64年生まれ。慶大院博士課程単位取得退学。専門は社会保障

*1-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140622&ng=DGKDASDF1600C_W4A610C1NN1000 (日経新聞 2014.6.22) 
「高齢者は70歳から」になれば… 年金・雇用改革を後押し
 いつから65歳以上を高齢者と定義するようになったのだろうか。国連経済社会理事会が1956年にまとめた報告書に由来するとされるが、世界保健機関(WHO)は「国連に標準的な数値基準があるわけではない」という。あれ?だったらいっそのこと「高齢者は70歳以上」という日本独自の基準をつくってしまってはどうか。政府の「選択する未来」委員会もいまの15~64歳という生産年齢人口の定義を「70歳まで」に変えるよう提言した。日本は世界最速で高齢化が進んでいる。注目したいのは、65歳時点の平均余命だ。男性の場合、2012年の18.9年から60年にかけて22.3年、女性は23.8年から27.7年まで延びる。国連の報告書とほぼ同じ時期の55年時点の男性の平均余命は約12年。平均して余命10年あまりを高齢者として迎える期間と考えると、平均余命の延伸にあわせて高齢者入りする年齢を引きあげるのは一理ある。高齢者の体力は向上している。意識も変わった。内閣府が団塊世代に「何歳から高齢者か」と尋ねたところ、「70歳以上の年齢」とこたえた人が約8割を占めたという。高齢者の定義を70歳以上に変えれば、生産年齢人口の厚みは増す。たとえば、生産年齢人口を15~69歳とした場合、40年時点で900万人近くも潜在的な働き手が増える。もちろん60代後半がもっと働いても総人口の減少は止まらないが、工夫しだいで企業にとっては人手不足を和らげる貴重な戦力となる。ポイントは70歳まで働き続けられる環境をいかにつくるかだ。身体機能の低下にあわせて短時間勤務がしやすい働き方や、年功的な賃金体系の見直しも必要だろう。社会保障にも好影響が見込める。高齢者の就業率の高い地域ほど医療費は小さく、元気に働く60代が増えれば医療費の伸びも抑えやすくなる。60代後半が年金をもらう側から保険料をおさめる側にまわれば、年金財政の悪化を緩和できる。年金生活に入る時期を遅らせると個人にも利点はある。みずほ総合研究所の堀江奈保子氏が標準世帯を想定して試算したところ、いまの年金制度の下でも年金の支給開始時期を70歳に繰り下げた場合、65歳を選んだ場合よりも82歳時点で年金受取総額が上回る。その差は90歳まで生きると600万円超になる。「70歳まで現役」という目標を社会で共有できれば、年金や医療、雇用の抜本改革への突破口になる。岩田克彦・国立教育政策研究所フェローは「68歳から70歳程度までの年金支給開始年齢引き上げは不可避」と語る。「75歳まで働いて」とスウェーデンのラインフェルト首相が唱えたのが3年以上前。オーストラリアは最近、70歳まで年金支給開始年齢を引き上げる改革を打ち出すなど、海外の動きは急だ。「70歳まで働ける企業の実現」は、06年当時の小泉純一郎政権で官房長官だった安倍晋三首相が主導した再チャレンジ推進会議が提言した。首相がこの課題に再チャレンジする価値はある。

<政府の医療・介護保険改革>
*2-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140617&ng=DGKDZO72807950W4A610C1KE8000 (日経新聞 2014.6.17) 点検・社会保障(3) 高まる公的負担の役割
 社会保障には、年金や医療、介護のように被保険者が納める保険料を財源として給付が行われる社会保険の性格をもつものがある。他方、生活保護のように、公的負担(国及び地方公共団体)により給付されるものもある。前者については、保険料収入だけでなく、公的負担にも依存しているが、給付の増加に対応する形で、保険料率の引き上げが行われている。もっとも、保険料のベースとなる給与の低迷などを背景に保険料収入は伸び悩んでいる。こうしたなか、年金や医療、介護の財源として、公的負担が果たす役割は大きくなっている。2011年度の社会保障給付費全体でみると、公的負担は43.5兆円に達しており、財源の4割近くを占めている。09年度には、長期的な給付と負担の均衡を図り、年金制度を持続可能なものとすることを目的に、基礎年金部分の国庫負担割合は2分の1に引き上げられた。しかし、その安定的な財源を確保することができなかったことから、12年度と13年度には年金特例国債(各2.6兆円)を発行することとなった。このように公的負担の増加は政府支出の増加を通じて、財政赤字を拡大させる一因となっている。社会保障給付の財源を確保するために、今後も保険料率を引き上げ続けることも考えられる。しかし、今後、減少すると見込まれる現役世代に負担の多くを依存する形で制度を維持することには限界があろう。増加が続く社会保障給付の安定財源をいかにして確保するかが課題となっている。

*2-2:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140618-00000054-asahi-pol
(朝日新聞 2014年6月18日) 介護保険利用者に厳しい大改正 医療・介護改革法成立
 高齢化がピークを迎える「2025年問題」を見据え、医療・介護制度を一体で改革する「地域医療・介護推進法」が18日、成立した。患者や要介護者の急増で制度がもたなくなる恐れがあり、サービスや負担を大きく見直す。とりわけ介護保険は、高齢者の自己負担引き上げなど制度ができて以来の大改正で、「負担増・給付縮小」の厳しい中身が並ぶ。人口減と高齢化が同時に進む日本。医療・介護制度は、高齢者の急増、支え手世代の減少、財政難の「三重苦」に直面する。厚生労働省によると、25年には医療給付費がいまの37兆円から54兆円に、介護給付費は10兆円から21兆円に膨らむ。病院にかかれない高齢患者があふれ、介護保険料は負担の限界を超えて高騰。そんな近未来の予測が現実味を帯びている。サービスを提供する人手の不足も深刻だ。こうしたなかで保険財政立て直しを目指す介護保険分野は、利用者の痛みにつながるメニューが目立つ。負担面では、一定の所得(年金収入なら年280万円以上)がある人の自己負担割合を1割から2割に上げる。低所得者の保険料を軽減する一方、高所得者は上乗せする。高齢者にも支払い能力に応じて負担を求める方向が鮮明だ。

<政府の株価操作>
*3-1:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140616&ng=DGKDASGD1204T_S4A610C1PE8000 (日経新聞 2014.6.16) 動く巨象GPIF(1)株価こそ政権の命綱
 「成長のエンジンとするための具体策を打ち出していく」。5日、ベルギーのブリュッセルで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)。首相の安倍晋三(59)は議長役の英首相のキャメロン(47)から経済問題の最初の発言者に指名され、成長戦略を説明した。安倍が具体策の柱としてあげたのは、自身が旗を振る法人実効税率の引き下げと、約130兆円の国民の年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革だ。6月中にまとめる新しい成長戦略への自信をアピールした。
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 サミットへの出発を控えた3日、安倍は首相官邸で厚生労働相の田村憲久(49)に年内を予定していたGPIFの基本構成の見直しを9~10月に前倒しするよう指示した。同日、GPIF運用委員長に就任して以来、市場の注目を集めていた早大教授の米沢康博(63)がインタビューで、日本株の比率を引き上げる意向を示したと伝えられ、日経平均株価は1万5000円台を回復した。「GPIFの話ってこんなに関心があるんだね」。安倍は周囲にこう漏らしている。世界最大級の機関投資家であるGPIF。巨象が少し動いただけでも、周囲は大きく揺れ動く。4月、資産運用業界に衝撃が走った。GPIFが日本株の運用委託を見直し、大半の国内運用会社との契約を解除。日本株運用にもかかわらず、外資系運用会社が10社と委託先の7割を占めることが決まったためだ。「公的年金がこれほど思い切った選抜に踏み切るとは」。米ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズの日本代表、ジョン・アルカイヤ(58)は採用されたことを喜びつつ、カタカナの社名が並ぶ委託先リストを見て目を丸くした。公的年金の運用改革は実は2度目だ。最初は1995年。当時は年金福祉事業団だったGPIFが、信託銀行と生命保険会社に「お任せ」の運用を見直し、日本株や海外株に特化した投資顧問会社を初めて採用した。当時を知るアルカイヤは、GPIFの「名付け親」でもある。2001年、米モルガン・スタンレー資産運用子会社の日本法人社長だったアルカイヤに政府関係者が英語名を相談。「分かりやすい名称がいい。ガバメント・ペンション・インベストメント・ファンドでどうか」と即答した。「(国内勢中心の)ホームカントリーバイアスを断ち切り、世界で最も強い会社を選ぶようになった」。アルカイヤの目には今回の改革は真剣だと映る。GPIFは初めから外資系優位を想定していたわけではない。13年4月に運用委託を公募すると、国内外の約60社が名乗りをあげ、約1年にわたる選考過程が始まった。運用部長の陣場隆(54)は当初「日本株運用だから国内勢が多くなる」と予想していた。GPIFには譲れない一線がある。「唯一の使命は運用で国民の年金を増やすこと」。選考が進むにつれて、運用成績がぱっとしない国内勢は姿を消す。海外勢は「独自の運用スタイルを守り、日本株投資で優秀な成績をあげている」。シカゴ、テキサス、シンガポール……。世界の運用会社を訪問し、面談を繰り返した陣場は痛感した。
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 「有識者会議で改善を求められている状況ではあるが、我々がさぼってきたわけではないことを理解いただきたい」。GPIFの運用戦略を練る調査室長の清水時彦(51)は14年4月、金融関連のセミナーで聴衆にこう訴えた。政策研究大学院大教授の伊藤隆敏(63)が座長を務める公的年金改革の有識者会議は13年11月に報告書を公表。国債中心の運用の見直しを筆頭に改革案を提示した。株式運用では東証株価指数(TOPIX)のみだった運用指標(ベンチマーク)を多様化し、新しい指数の採用を求めた。「運用効率を上げるにはTOPIX偏重を脱するしかない」。有識者会議の提言を待つまでもなく、GPIF内部では清水を中心に議論を重ねていた。13年7月に外部に調査を依頼。14年4月、資本効率に着目した「JPX日経インデックス400」を含む新指数に沿った運用を開始した。内なる改革を上回る規模とスピードで、政治からの圧力が押し寄せる。株価を命綱とする安倍政権にとって、株式比率の引き上げを柱とするGPIF改革は成長戦略の目玉だ。しかし年金運用という本来の目的を外れ、目先の株価対策に使われるなら、将来に禍根を残すことになりかねない。
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 運用改革が大詰めを迎えたGPIF。市場がその一挙手一投足を固唾をのんで見守る世界最大の公的年金の動きを追う。(敬称略)

*3-2:http://www.nikkei.com/money/column/teiryu.aspx?g=DGXNMSFK1303W_13062014000000 (日経新聞 2014.6.16) 
マネー底流潮流フォローする 「官製相場」のにおい、気迷う株式市場
 前週末の日経平均株価は1万5000円台でほぼ高値引け。米国株は週半ばから軟調、円相場も底堅く、外部環境が良好とはいえない中での堅調ぶりだった。成長戦略の発表を前に、市場では「株内閣」と呼ばれる安倍政権がどんな株高カードを切ってくるのか、それとも空砲で終わるのか、見極めるまでは売れないというムードが広がっていた。一方、日経平均を1万4000円から1万5000円に押し上げたのは公的マネーとの見方が強く、足元の堅調さを素直に評価していいものか、疑心暗鬼の市場参加者もいる。政府の成長戦略やイラク情勢・原油価格の動向をにらみながら、今は静かな海外勢が次にどんな動きを見せるかが、今後の相場の方向性を決めそうだ。
■信託銀行、異例の買い上がり
 「今日も信託銀行のバスケット買い。地球防衛軍の出動ですよ」。米国株安などを受けて安寄りした後、午後に急速に切り返した前週末。ある証券会社のベテランは相場の底堅さの理由について、そんな解説をしていた。日経平均は一時1万4000円割れした5月19日からほぼ一本調子で上昇し、6月3日に1万5000円を回復した。外部環境に大きな変化が見られないなかで、この間、一貫して買い手となって上げ相場を主導したのは信託銀行だった。東証発表の投資主体別売買動向によると、信託銀行は5月第1週に買い越しに転じ、第4週(買越額1781億円)から第5週(2499億円)、6月第1週(1112億円)と3週連続で大幅に買い越した。信託銀行の買越額が3週以上続いて1000億円を上回ったのは、2011年8月(第4週から4週連続)以来ほぼ3年ぶり。それだけでも目を引くが、何より異例なのがその買い方だった。通常、公的年金や企業年金などの運用資産を預かる信託銀行は、相場が下がると買って、上がると売るという逆張り型の売買が中心。過去に大きく買い越したのも、リーマン危機時の08~09年など、例外なく相場の下落局面だった。ところが今回、信託銀行は日経平均が1万5000円を回復する過程で買い上がってきた。
■買い手は共済3兄弟か、GPIFか
 信託銀行のその先にいる投資家は誰だったのか――。市場では国家公務員共済組合(KKR)、地方公務員共済組合、私立学校教職員共済の「共済3兄弟」という見方がもっぱらだ。15年10月に予定される3共済と厚生年金との年金一元化を前に、3共済は資産構成の比率も、厚生年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と横並びの水準に変更する見通し。資産に占める日本株の比率(12年度末時点)はKKR(6.8%)、地方公務員共済(13%)、私学共済(10.5%)と、3共済ともGPIF(14.6%)を下回る。大和証券の熊沢伸悟ストラテジストは「確かなことはわからないが、3共済が株式の比率を上げるためにリバランスを実施した可能性がある」と指摘する。一方、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長が唱えるのは「GPIF説」だ。「本来なら基本ポートフォリオの見直しに伴うリバランスはまだ先の話だが、(資産規模が巨大で)急には比率を変えられないため、徐々に株式を買い増し始めているのではないか」という。そういえば、前週は債券市場でGPIFからとみられる大口の国債売りが出て、ひとしきり話題になっていた。このほか、「PKO(株価維持策)ほど露骨ではないが、安倍内閣の思いに配慮してゆうちょ銀行や企業年金連合会なども動いているのでは」(国内運用会社)との声も。真相はやぶの中だが、「安倍内閣は株価を政権維持の重要指標とみているし、演出も上手」(矢嶋康次ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト)といわれるだけに、市場には様々な臆測が飛び交いやすい。誰が買っているにせよ、市場参加者が気になるのは相場の持続性だ。何やら「官製」のにおいがする相場をどこまで信じていいのか、どこまで相場に乗っていいものやらと、市場には気迷いムードも漂っている。仮に共済3兄弟のリバランスがあったとしても、それは一時のこと。国民の資産を預かる公的年金が、相場を買い上がるような買い方を今後も続けるとは思えない。
■カギは海外勢の成長戦略評価
 需給面でここから上を買う可能性がある投資主体は限られそうだ。まず、昨年末の高値の信用期日が間もなく明けて、身動きが軽くなりそうな信用取引の個人。ただ、信用の個人に単独で相場全体を押し上げる力があるわけではない。日経平均が次の目標である1万6000円を目指すには、やはり海外投資家の力に頼るほかない。その海外勢は6月第1週に大きく買い越したが、熊沢氏によると「動いたのは先物を売買するCTA(商品投資顧問)など超短期の投資家。現物株は先物高に伴う裁定取引で買われた面が強い」。グローバル・マクロなどのヘッジファンドや、ロングオンリーと呼ばれる海外年金などに動きはほとんど見られないという。当面、中長期で投資する海外勢が日本株を見直すきっかけになりそうな国内の材料は、安倍内閣の成長戦略しか見当たらない。「成長戦略に対する海外投資家の評価が、相場の今後を占う最大の注目点」との見方が市場のコンセンサスになっている。一方、海外要因として急速に警戒感が強まってきたのがイラク情勢だ。今では石油輸出国機構(OPEC)で第2の産油国となったイラクの混乱は「世界経済に与える影響はウクライナよりはるかに大きい」(藤戸氏)。どれだけ事態が拡大するか、早期に収束するかはわからないが、ヘッジファンドはこれを収益機会にしようと虎視たんたんのはず。すでに米原油先物市場で売買が活発になるなど、イラク情勢の緊迫を機に、しばらく静かだった世界のマーケットが再び動き出す兆しもある。どうやら、公的マネーの動きやサッカーのワールドカップばかりに気を取られてはいられないようだ。ボラティリティー(変動率)の低さに安穏としていた市場が虚を突かれるとき、ショックは意外に大きくなりかねないことにも留意が必要だ。

<本物の利益率上昇と株価上昇を妨げているものは何か>
*4-1:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11222012.html?iref=comtop_pickup_03 (朝日新聞 2014年7月3日) STAP、5カ月で幕 論文撤回 小保方氏、検証に参加
 STAP細胞の論文が2日、英科学誌ネイチャーから撤回され、その発見は発表から約5カ月で根拠を完全に失った。しかし、理化学研究所は、STAP細胞の存在を確認する検証実験を続けており、7月からは、撤回された論文の筆頭著者である小保方晴子ユニットリーダーが参加する事態になっている。論文の撤回で、STAP細胞は仮説のひとつになったが、小保方氏はその存在を主張している。「ないというには本人が参加して、どうしても再現できませんでしたねというまでやることが最善」。理研発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市)の相沢慎一・実験総括責任者は2日の会見で、「論文を撤回するのに検証実験をする意味があるのか」との問いにこう答えた。撤回に抵抗していた小保方氏が一転、共著者の求めに応じて撤回への同意書に署名したのは6月3日。小保方氏の代理人を務める弁護士は「応じなければ懲戒解雇され、検証実験に参加したくてもできなくなるかもしれないという重圧があった」と説明していた。ただ、STAP細胞には別の万能細胞のES細胞ではないかとの疑義も出ており、小保方氏の参加には批判もある。大阪大学の篠原彰教授(分子生物学)は「小保方氏が疑義に対して何ら説明をしない段階で参加させるべきではない。不正があっても後から確認できればよいという誤ったメッセージを発することになる」と語る。山本正幸・基礎生物学研究所所長(分子生物学)は「論文が撤回されても、研究過程で何が起きていたのかを明らかにする必要がある」と指摘する。
■第三者立ち会い/24時間監視
 CDBが始めたSTAP細胞の存在の有無を検証する実験に参加するため、小保方晴子ユニットリーダーが2日、出勤した。CDBは同日、実験の手順を公表。第三者が立ち会い、2台のカメラで24時間、実験室を監視する。実験室の出入りは電子カードで管理し、細胞の培養機器には鍵をかける。今週中には、実験室の改修を終える見通しだという。CDBによると、小保方氏の検証実験は、丹羽仁史・プロジェクトリーダーらの検証チームが4月から進めている実験とは分けて、別の建物で実施する。CDBが提供したマウスを使って細胞を酸につけ、STAP細胞とされる細胞を作製する段階まで、小保方氏が1人で実験する。作製した細胞をマウスの胚に注入して、万能細胞かどうかを確かめる実験は、技術をもつ別の研究者が担当する。酸につけた細胞に万能性を示す遺伝子の働きがみられない場合、期限に定めた11月末よりも早く、検証を終了する可能性もあるという。万能性が部分的に確認できた場合には、期限の延長を検討する。
■iPS臨床研究、「中止も」投稿 理研・高橋リーダー、即日否定
 iPS細胞を使った世界初の臨床研究について、CDBの高橋政代プロジェクトリーダーは2日、「まだ始まっていない患者さんの治療については中止も含めて検討いたします」と簡易投稿サイト「ツイッター」に投稿した。投稿による混乱を受け、高橋氏は同日夜、「中止の方向で考えているのではない」と否定するコメントを発表した。「慎重にならざるを得ないというのが真意」だったという。高橋氏らの臨床研究は、加齢黄斑変性の患者にiPS細胞で作った網膜の細胞を移植するもの。昨年7月に厚生労働省が承認し、早ければ今夏にも1例目の移植が始まる予定になっている。
◆キーワード
<ネイチャー> 1869年に創刊され、世界的に権威のある科学雑誌の一つ。毎週木曜日に発行される。学術論文のほかに、解説記事やニュース、科学者によるコラムなどもある。掲載される論文は同誌の編集者と各分野の専門家によって審査され、年に約1万本の投稿論文のうち1割以下しか掲載されない。そのため、掲載は研究者にとって高い業績と評価される。

*4-2:http://qbiz.jp/article/41605/1/
(西日本新聞 2014年7月9日) 航空バイオ燃料、20年実現を 日航、ユーグレナなど工程表
 日本航空や全日本空輸、米ボーイング、東京大学などが参加する組織「次世代航空機燃料イニシアティブ」は9日、二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に減らすバイオ燃料の2020年の実用化を目指すと発表した。各社が共同で工程表の策定を始めた。来年4月までの取りまとめを目指す。バイオ燃料の開発や普及は世界各地で進められている。日本では33の企業・団体による「次世代航空機燃料イニシアティブ」が5月に発足。工程表はこの組織が中心となって策定する。国交省もオブザーバーとして参加している。日本はバイオ燃料のトウモロコシなどの国内での調達が難しく、家庭ごみなどを原料にする。この組織には、バイオ燃料に使うミドリムシの培養を進め、佐賀市とも共同研究の契約を交わしているユーグレナ(東京)も参加している。

*4-3:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140625&ng=DGKDASFS2403G_U4A620C1EE8000 (日経新聞 2014.6.25) 
川内原発、再稼働は秋以降、九電、申請書を再提出 電力需給、西日本で厳しく
 九州電力は24日、川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県)の再稼働の前提になる審査の申請書を原子力規制委員会に再提出した。申請書の記載ミスで時間を費やしたことが響き、再稼働は秋以降にずれ込むのが確実。1965年以来ほぼ半世紀ぶりに電力需要が最も多い8月に国内で原発が1基も動かないことになり、原発依存度が高い西日本で特に需給は厳しくなる。規制委には現在、9電力会社が12原発19基の審査を申請済み。このうち川内原発は3月に規制委から優先審査の対象に選ばれており、再稼働の第1号になるのが確実だ。ただし審査に最終合格するには、規制委からの指摘事項を踏まえ、まず電力会社が3種類の申請書を提出する必要がある。九電が24日に提出したのは、このうち安全対策の大枠を記した「設計の基本方針」の申請書。九電は4月末に一度提出したが、規制委から42件の記載ミスを指摘され、再提出を求められていた。当初、九電は5月末に再提出できるという見通しを示していたが、規制委から追加確認を求められるなどで修正が申請書全体に広がり、分量が7200ページから8600ページへと膨らんだ。手続きの日程も当初予定から2カ月ほどずれ込んだ形だ。再提出を受けて規制委は今後、合格証明書にあたる「審査書案」づくりの詰めの作業に入る。審査書案ができあがるのは現状では7月上~中旬ごろの見通し。その後、1カ月かけて意見を募るので、審査書がまとまるのは8月下旬ごろにまでずれ込みそう。9月中の再稼働もギリギリの状況で、10月にずれ込む公算が大きくなっている。電力需要は例年8月にピークを迎える。川内原発の審査が長引いたことで今夏は原発が1基も動かない見通しだ。九州電力と、川内再稼働後の九電からの電力融通をあて込んでいた関電の管内で電力需給が厳しくなる。昨夏は動いていた関電大飯原発(福井県)は昨年9月から定期検査で運転を停止。さらに九電管内では大型火力が今夏、事故でフル稼働できなくなった。電力需要に対する供給余力をあらわす「予備率」は関電が1.8%、九電が1.3%。安定供給に最低限必要とされる3%を下回る。自前で十分な電力を確保できない関電と九電は東京電力から計58万キロワットの融通を受けることになった。震災後初となる大規模な融通により、関電と九電の予備率はぎりぎり3%に達する。それでも西日本全体の予備率も3.4%と昨年の5.9%を大きく下回る。電力各社は原発のかわりに火力をフル稼働させている。ただ運転40年超の老朽火力の比率は火力全体の26%に達し、事故による火力の停止件数は震災前から16%増えている。西日本は100万キロワット級の火力が停止すれば供給不足に陥る。安定供給に不安を抱えたまま夏を迎える。


PS(2014.7.14追加):*5のように、年金受給者の立場から記載された記事は少ないが、私が衆議院議員をしている間に地元(佐賀三区)を廻った時、「船賃が払えないので病院に行けない(離島)」「もらっている年金の金額は月に3万円くらいで、家のまわりに畑を作って食べている(一人暮らし)」「孫が来たとき以外はクーラーをつけない」などの声があった。そのため、多くの年金受給者にはこちらが実態だと思うが、「老人は金持ちだから」という理由で、このような政策が押し進められた。私は、このような政策を押し進める政治家や官僚は、見ている相手や住んでいる世界が、狭くて特殊なのだと考える。

*5:http://digital.asahi.com/articles/DA3S11241558.html (朝日新聞 2014年7月14日) (報われぬ国 負担増の先に)老い、振り向かぬ国 番外編・年金の将来を考える
 「報われぬ国」では、わたしたちの老後は安心なのかを取材しています。その老後を支える一つが年金です。厚生労働省は6月、将来の年金がどうなるかという見通しを発表しましたが、年金はさらに減り、くらしは厳しさを増します。今回は「番外編」として、高齢者のくらしの現場から年金の将来を考えました。
■持病の悪化で家賃払えず
 群馬県でひとり暮らしをする男性(71)は4月、アパートの家主から「家賃をこれ以上滞納したら出ていってもらう」と通告された。それまでに家賃2カ月分の約5万4千円を払っていなかったからだ。2月に持病の糖尿病が悪化し、入院費用がかかってしまった。アパートの契約更新の支払いも重なり、合わせて7万円を特別に出費しなければならず、家賃が払えなくなった。年金は月に約8万9千円もらっている。ここから、家賃を約2万7千円、光熱費を1万円余り、かつて滞納した分を含めた国民健康保険料と介護保険料を合わせて1万円払う。残った生活費は4万円ほど。糖尿病の治療のために病院に週4回通う費用も出さなければならず、生活はぎりぎりだ。食事はできるだけパンと牛乳ですませる。ご飯を炊くときはレトルトのカレーやハヤシライスをかける。まともな食事は月に1回、群馬県内に住む姉が来てつくってくれるときだけだ。「病気がなければやっていけるかもしれないが、そろそろ生活保護を考えてもいい」。数年前に男性の借金を整理してから相談に乗っている司法書士の仲道宗弘(むねひろ)さんはこう感じる。生活保護を受ければ、生活保護で定められた支給水準と年金の差額をもらえるので、年金と合わせて月に10万円前後を受け取れる。さらに通院などの医療費、国保や介護保険の保険料支払いも免除される。男性はトラック運転手として30年近く働き、厚生年金の保険料も払ってきた。その後に独立してからも余裕のあるときは国民年金の保険料を払った。その積み重ねでもらえる年金は、年に約107万円しかない。だが、これは特別に低いわけではない。厚労省が2010~11年に調べたところ、働いていない年金生活者の年収は100万円以下が49%を占める。150万円以下になると、63%にものぼる。このため、年金だけでは暮らせず、生活保護を受ける人は多い。厚労省の11年の調べでは、65歳以上の高齢者で生活保護を受けるのは約64万世帯あり、このうち年金をもらっている高齢者は約37万世帯にのぼる。今年3月には生活保護を受ける高齢者は約74万世帯にふくらみ、生活保護を受ける世帯の半分近くを占める。この3年で高齢者世帯は19%増え、高齢者以外は3%しか増えていない。
■リストラされ狂った人生
 60~70代には、働いていたころにリストラされ、人生設計が狂った人も多い。北関東に住む60代男性は00年代半ばにリストラで会社を辞め、マイホームを手放した。いまは妻と娘と借家で暮らす。マイホームは40代後半のころ、約3千万円の一戸建て住宅を25年ローンで買った。当時は会社も順調でリストラされるとは想像もしなかったが、会社を辞めた途端に行き詰まった。追い打ちをかけたのが、市役所からの請求だ。リストラで家の固定資産税と家族3人の国民健康保険料を滞納していたため、合わせて約50万円の滞納分の支払いを求められた。滞納分には年14・6%(今年から9・2%)の延滞金が加わり、このほかに通常の国保料が月に1万数千円かかる。滞納分と国保料を合わせて月に4万円払わなければならない。男性は「延滞金がかかるので、なかなか滞納分が減っていかない。妻と相談し、無理してでも返そうと思っている」と話す。いまは仕事を二つかけ持ちして月15万円ほど稼ぐ。加えて、厚生年金の一部である「報酬比例部分」が出ているので、それを月7万円ほど受け取る。合わせて月22万円ほどの収入から、6万円の家賃と滞納分や国保料などの4万円をなんとか払う。心配なのは将来だ。65歳から「基礎年金」も受け取れるが、会社を辞めた後に国民年金の保険料を払う余裕がなかったため、月6万円に満たない。逆に65歳になれば仕事の一つは定年になり、もう一つもいつまで働けるかわからない。合わせて月13万円ほどの年金に頼るだけの生活になったとき、家賃や国保料などを払いながら暮らせるのか。この先の人生設計は立っていない。
■制度維持のための「マクロ経済スライド」
 将来の年金はもっと厳しい。厚労省は6月、将来の年金がどうなるかの試算を発表した。安倍政権の成長戦略がうまくいく場合からうまくいかない場合まで8シナリオを示している。このシナリオでわかるのは、たとえ経済成長して現役世代の賃金が上がっても、年金額はそれに追いつけず、高齢者は置き去りにされるという事実だ。厚労省のモデルでは、14年度は現役サラリーマンの手取り月収を平均約34万8千円として、サラリーマンが入る厚生年金は月に平均約21万8千円(夫婦2人分)になっている。現役の月収に対する年金額(代替率)は62・7%の水準だ。試算では、成長戦略が最もうまくいく「ケースA」の場合、30年後の44年度に現役の月収が59万円、年金が月に30万1千円になる。なぜ金額が増えているかというと、物価が年2・0%上がり、現役の賃金が物価より年2・3%上回って伸びる計算だからだ。だが、現役の月収に対する代替率は50・9%に下がる。わかりやすくするため、代替率を使って年金額を14年度の賃金水準に置き換えると、約17万7千円だ。いまの約21万8千円から約2割も下がる。成長戦略がうまくいかない場合の「ケースH」では、55年度に代替率が30%台まで下がる。14年度の賃金水準に置き換えると、13万6千円まで落ち込む。なぜ成長していても年金だけが置き去りにされるのか。これは「マクロ経済スライド」という仕組みを使うからだ。年金を受け取り始める時点で、保険料を払った時より賃金水準が高くなっていても、支給額の引き上げを抑制する。この仕組みを使うのは、年金保険料を払う現役世代が減るため、年金支給額を抑えていまの年金制度を維持しようと考えているからだ。厚労省はこれで100年後も1年間分の年金積立金は確保できるという。安倍政権と日本銀行は物価上昇率を「年2%」にする目標をたてている。だが、年金受給者はこれから物価の上昇からも取り残され、生活は厳しさを増す。さらに、今後は貯蓄が少ない低所得の人たちが増え、非正規で年金保険料を払っていない人も多い。このままでは年金で暮らせるのはゆとりがある人たちで、生活保護に頼らざるを得ない高齢者が増える。厚労省の年金財政は維持できても代わりに生活保護費がふくらむばかりで、低所得者向けを中心に年金のあり方を見直す必要がある。
◇「報われぬ国」は原則として月曜日朝刊で連載します。今回は番外編ですが、第2部の「福祉利権」を今後も続けます。ご意見をメール(keizai@asahi.com)にお寄せください。


PS(2014.7.16追加):*6のように、核家族化が進んで老老介護が増えているため、介護を配偶者だけでこなすのは困難だ。また、最後に残った人には介護する人がおらず、これらは女性であることが多い。つまり、現在の介護サービスのさらなる削減は論外なのである。

*6:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20140716&ng=DGKDASDG15H0Q_V10C14A7EA2000
(日経新聞 2014.7.16) 「老老介護」5割超す 厚労省13年調査、急速な高齢化浮き彫り
 介護が必要な65歳以上の高齢者がいる世帯のうち、介護する人も65歳以上である「老老介護」の世帯の割合が51.2%に達し、初めて5割を超えたことが15日、厚生労働省がまとめた2013年の国民生活基礎調査で分かった。急速な高齢化の進展が改めて浮き彫りになった。調査結果によると、介護保険法で要介護認定された人と、介護する同居人が共に65歳以上の高齢者である老老介護世帯は、10年の前回調査から5.3ポイント増の51.2%となり、01年の調査開始以来、最高となった。介護が必要になった原因のトップは脳卒中で、認知症、高齢による衰弱が続いた。団塊世代の約半数が65歳以上になっていることから、老老介護の世帯は今後も増加が見込まれるとともに、同世帯の高齢化も、より進むとみられる。介護を担う人については、同居する家族が61.6%で前回調査から2.5ポイント低下し、事業者が14.8%で同1.5ポイント増えた。介護する人の約7割は女性で、性別の偏りが見られた。続柄では配偶者、子が共に2割を超え、子の配偶者が約1割だった。介護している人の悩みやストレスの原因を聞いたところ、「家族の病気や介護」を上げる人が最多で、「収入・家計・借金など」や「自由にできる時間がない」を回答する人も目立った。厚労省は「少子化対策とともに高齢者世帯への対策も重要になってくる」と指摘。介護を担っている配偶者や子など家族へのサポートも含めた体制整備が課題となりそうだ。一方、全国の世帯総数は13年6月現在で5011万2千世帯だった。このうち65歳以上の高齢者だけか高齢者と18歳未満の子供だけの「高齢者世帯」は過去最多の1161万4千世帯で世帯総
数の約4分の1を占めた。65歳以上の高齢者が1人でもいる世帯は、2242万世帯で、世帯総数の半数近くに達した。調査は13年6月に全国の世帯から約30万世帯を無作為抽出して実施した。介護の状況は、原則自宅で介護されている約6300人の家族から、世帯の人員構成については約23万4300世帯からの回答から推計した。

| 年金・社会保障::2013.8~2019.6 | 03:18 PM | comments (x) | trackback (x) |

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